魔法少女リリカルなのはties 作:ハルハルharuharu
――ガコンッ!!
――ドズッ!!
――バキィッ!!
荒野に、戦闘音が連続して響き渡る。
秀人と、はやて。
共に、強大な魔力を持ちながらも、それらは相殺し合うため、派手な魔法戦にはならず……『殴り合い』という、闘争の基本へと立ち戻っていた。
「ぉあああああああああああっ!!」
「うぉりゃああああああああっ!!」
――ゴギッ!!
秀人の掌打がはやての胴体を捉え、はやての拳が秀人の顔面を抉る。
「ぐふッ……!」
のけぞる秀人。
「! あああっ!!」
それを、前蹴りが追撃する。
――ガシィッ!!
秀人は、その蹴りを腋で掴み取り、ぐるんっ、と合気の要領で逸らす。だが当然、投げて終わりとはいかない。
「うおおおおおっ!!」
足首を摑み、はやての身体をまるで、団扇のように振り回す。そして、その勢いのまま地面へと叩き付ける。
フローターフィールド等で、衝撃を吸収しようにも……ここは既に、秀人の間合い。外部で魔法を使おうものなら、例のフィールドに分解されてしまう。だが、『体内を強化する魔法』は持ち得ない。
「……ふゥっ!!」
故にはやては……師より学んだ『技術』を、実践した。
呼吸を深く行い、体内で気を練り上げる……内巧。
――ドバンッ!!
「…………!!」
大地に叩きつけられて尚、はやてはまだ、余力を残せた。
秀人の手を振り払い、姿勢を持ち直す。
「……シッ!!」
短く漏れる吐息。
放たれるのは、高速のストレート。
それを凌ぐ秀人の腕を取り、関節技。
返されると、今度は防御に回る。
「はは!」
知らず知らずのうちに、はやてはまた、笑みを浮かべていた。
「っしゃ、もういっちょ来い!」
相対する秀人もまた、笑顔だった。
殴る、蹴る。ただ羅列してしまえば、いかにも殺伐とした言葉だが……
「はぁあああっ!!」
「だりゃああっ!!」
その応酬の、なんと楽しそうなことか。
その拳、その蹴りの一つ一つは、間違いなく本気の一撃。
だがそれは、良く出来た殺陣の立ち回りのようだった。
今のはやてには、全盛期のなのはですら敵わない。闇雲に力を振り回していた頃とは違い……今のはやてには、技術がある。それを抜きにしても、リーゼ仕込の剣、大家譲りの格闘など、一部の隙も無い。フェイトやクロノ、管理局が束になって、ようやく五分か、悪ければ三分……
それだけ強大になってしまったはやての力を、誰が受け入れてくれるというのだろうか。
――孤独。
それこそが、はやての根幹にある要素だった。
孤独だから、守護騎士に固執した。
孤独だから、美香を妹分にした。
孤独だから、リーゼを使い魔にした。
――孤独だから、受け入れてくれる者を欲した。
だが、折角手にした者達も、手放さざるを得なかった。
力を得たから。力を取り戻したから。この力は、自身以外の全てを害してしまう。
慕ってくれる美香も、仕えてくれるリーゼも、全て……
――だが、一つだけ…………一人だけ。この『力』を、真正面から受け止めてくれる人がいた。
彼だけは、ずっと変わらなかった。
初対面の時も、かつてこの世界で共に修行した時も、あのアパートに転がり込んだ時も。
――吾妻秀人は徹頭徹尾、はやてにとって、乗り越えるべき壁……否、ライバルだった。
「あああああっ!!」「おおおおおっ!」
――バキッ!!
本気の殴り合い。それは…………不器用な彼女にできる、精一杯のコミュニケーションだった。
『アイ、カートリッジの残数は?』
『インパクトが3、アクセルが2……それと、ブレイズが1なの』
ブレイズ……恐らくは、ブレイズキャノンに相当する射出系のカートリッジだろう。
『……微妙に相性が悪いな』
はやてには、スレイプニルと、闇の衣がある。
ただ考えなしに発射しても、跳ね返されるか、吸収されるかで終わる。
「なら……コレしかないよな」
すっ……と、秀人は構えを取る。
身体は半身に、右手を腰溜めに、左手を緩く突き出す。
「……!」
はやては、その構えを知っている。その威力も、身をもって。
あの構えは、強い。だが、それと同時に、下手をすればリンカーコアが破裂する危険も背負っている。そのため、これまでは負荷を抑えるため、敢えて精度を落としていた。
ヴィータに初戦で通じなかったのも、それが原因だ。
だが、今の秀人には……イモータルハートがある。
つまりは、精度を落とす必要は無く、リンカーコアへの負担を気にする必要も無い。
「はぁっ……!!」
――ゴウッ!!
秀人の魔力光が、再び蒼炎となる。
「…………」
構えたまま、はやてと見詰め合う。
『汝ヨ……分カッテイルナ? 決シテ、汝カラ手ヲ出シテハナラン』
テンタトレスが、警告した。
この構えの弱点として…………完全な『受け技』であることが挙げられる。はやてが攻撃してこない限り、戦闘としては成立しない。
かつて、凶鳥部隊でカレンが取った対策…………『自分からは攻撃を仕掛けない』というのが、最適な答えだ。
このまま、秀人が構えを解くまで、じっと待っていればいい。
そうするのが得策。だが……
「…………っ!!」
『汝……汝! 何ヲシヨウトシテイル!? ヨスノダ!』
魔剣を拾い上げ、キッと秀人を睨みつけるはやてに、テンタトレスが慌てる。そう……
――それでは面白くないと考えてしまうのが、はやての性だった。
「……」
攻撃を仕掛けようとするはやての身体を、闇の衣がギチギチと締め上げて戒める。
『クッ……愚カナ! ヌ、グ……!』
だが……はやての力は何故か凄まじく、テンタトレスの拘束を逆にブチブチと引きちぎっていく。
「う……あ、あ!」
その影響なのかどうかは不明だが、はやての瞳が、徐々に正気を取り戻していくではないか。
恐らく、はやてとテンタトレスの力関係が、逆転を始めている。
「……邪魔、するな」
『邪魔トハナンダ、邪魔トハ!? アノ構エニ、マトモニ突ッ込ンデイクツモリカ!?』
……泰然とした余裕を無くし、ぎゃーぎゃーと騒ぐ。
「そうだよ……! 私は……あいつにだけは、真正面から勝たないと、気が済まないんだ……!」
「! はやて……!?」
その変化に、秀人も気付いた。
闇色の魔力光は、変わらずだが……その内包する要素が、変化している。
殺気に満ちた禍々しい闇から…………闘志に満ちた、激しいものへと。
「従え、テンタトレス……! 今は、私が主だ!!」
とうとう、闇の衣がはやての支配下に戻る。
『…………! モウイイ! 我ハ知ラン! 汝ガドウナロウガ知ランカラナ! 勝手ニスルガイイ!!』
……テンタトレスは、そんな捨て台詞を残し、沈黙した。
「ごめん……待たせた」
「……気にすんな」
すっかり正気に戻ったはやて。確かに、テンタトレスは沈黙したが……その力には、些かの低下も見られない。
『大した意志力なの。まさか、闇の書をねじ伏せるなんて…………マスター、ちゃんと警戒するの』
「ああ……わかってる」
アイの助言に頷く。戦闘のために効率化された思考での戦いも、厄介ではあったが……
「……もう、予測は出来ないからな」
最も効率のいい戦い方……つまりは、一番の近道。最短ルートは限られている故に、予測しやすいのだ。
だが、遠回りをする分には、道筋は無限大。
はやての動向に注視し、警戒する。
「…………………………煙れ」
ぼそっ、と呟いた途端……最初は、霞のように。そして瞬時に、黒色の煙が辺りに立ち込めていく。
「煙幕!?」
――ガキュンッ!
その煙の向こうで、カートリッジをロードする音がした。
「……」
だが、動かない。はやての狙いは、十中八九、秀人の構えを突き崩すことだ。ここで、インパクトを発動して、煙幕を吹き散らす行動に出れば……間違いなく、はやてはそこを突いて来る。ここで動きを乱されれば、敗北に直結する。
(カートリッジをロードしたってことは……接近戦か?)
――バシュッ!!
(来た!)
視界は1メートル程度。その、地上僅か数センチというスレスレを、飛来してくる物体があった。
剣先でも、魔法でもない。それは……
「矢かッ!!」
秀人を射った、あの魔弓だった。
(脚を砕くつもりか!)
左手に魔力を収束し、展開。足元までをカバーする大きさにまで広げ、矢を捕らえようとする。
――くんっ。
……と、矢が唐突に軌道を真下に変えた。矢は最初から、秀人を狙ってはいなかったのだ。
――――バゴォオオオオオオオオオオオオンッッ!!!
矢は、イモータルハートの無効化フィールドの直前で、地面を爆撃する。
「くっ!?」
それは……『足場』という、秀人自身、思いもよらなかった弱点を突かれることになった。爆撃そのものは、魔力によるものだが……それによって発生した爆風は、純粋な物理。
無効化フィールドを通過し、秀人の身体を煽る。
「……!」
後退し、次の足場を確保する。その僅かな一瞬を、はやては見逃さなかった。
――ギャララララララッ!!
……魔剣を蛇腹に変形させ、秀人の左腕を絡め取る。一気に引き寄せ……
――ドズンッ!!
「ごふっ……!」
強烈なボディブローを見舞った。
「くっ……!」
身を屈める秀人。苦し紛れの裏拳も、空振りに終わる。
――パンッ! パパンッ!!
「が、ああっ……!!」
高速のフックが、秀人の顎を的確に打つ。
そして、ぐぐっと身体をたわませ……
――ゴギンッッ!!
……強烈なアッパーが、秀人の身体を宙に舞わせた。
「ロード……!」
だが、秀人もやられてばかりではない。
「アクセルカートリッジ!! リリースッ!!」
空中で、推進力を発生させ……はやてに突撃をかました。
飛行魔法とは段違いの瞬発力に、はやては反応を遅らせる。
「うおおおおおっ!!」
拳か。蹴りか。……否。
「だァらっしゃああああああああ!!」
――ゴンッ!!
……頭突き。
「んがっ……!?」
あまりに原始的な攻撃に、逆に喰らってしまった。
「クソ! 痛ぇじゃねぇかああああああああっ!!」
「こっちの台詞だオラああああああああああっ!!」
互いに覚束ない足取りで、距離を詰め、拳を振るう。
――ゴシャッ……!!
「はぁ、はぁ……!」「ぜー、ぜー……!」
いくら治癒するとはいえ、スタミナまでは回復しない。
……二人は、勝負に出ることにした。
「……!」
再び、あの構えを取る秀人。先ほどの対策か、足場を魔力で補強し、崩されることを防いでいた。
「……」
はやてもまた、同じ手を使う気は無い様だった。
――バサッ……
スレイプニルを展開。
左手に、攻撃魔法と思しき術式を走らせる。
「秀人」
ぐっ、と、地を摑む足に、力を込め……
「……行くよッ!!」
――ドンッ!!
真正面から、突っ込んだ!
「!」
正面とは思わなかった秀人は、驚きつつも反応する。
――ドンドンドンッ!!
投擲されたのは、複製された魔剣や、魔杖。
「目くらましか……!」
はやての左手の魔法。それが打ち放たれれば、それを起爆剤に、一気に……
『! マスター!』
アイの警告。反応するより早く……
「がァっ!!」
唐突に脚に発生した痛みに吼えた。
先ほどはやてが捨てたと見せかけた、蛇腹の魔剣だった。
それはまるで、蛇のように秀人に絡みつき、足を封じている。
「シュヴァルツェ・ヴィルクングッ!!」
はやての左……渾身の拳。
「……そんなもんかよ!」
――バキィンッ!
魔剣を砕き、迎撃する。
左手に全魔力を集中し、はやての拳に叩き込む。
――バチィイイイイイインッ!!
それは、シュヴァルツェ・ヴィルクングさえも弾き返した。
――ゴバァアアアアアアアアアアンッ!!
更に、無詠唱でインパクトカートリッジをロードし、衝撃波を発射。
ダメ押しとばかりに……
「クリメイション……! フェニィイイイイイイイイイイイイックス!!」
――――……ギュエェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!!
蒼炎の不死鳥が、襲撃する!
その連撃に晒されたはやては…………
「………………ははっ!!」
不敵に、笑った。その口元から覗いているのは…………カートリッジ。
ガリッ……と、複数のカートリッジを噛み砕く。
「あああああああああああっ!!」
咆哮とともに、吐き出される魔力の暴風。
それは、数の力で秀人の衝撃波を相殺し、
――……ギィイッ!!
フェニックスを、乱気流で誘導する。その先は……
――バガァアアアアアアアアアンッ!!
……自身の、真後ろ。
「ぐゥっ……!」
その爆風と衝撃波を、推進力を得る。
後方へと弾き飛ばされていたのを、一気に前進する力へと変える。
「……まだだっ!」
――ギュエェエエエエエエエエエエエエエエッ!!
地面から、不死鳥が舞い戻る。
背後からは不死鳥。追いつかれぬよう、倒れこむような前傾で疾走するはやて。
「ロード……インパクトカートリッジ!」
真正面から、不可避の一撃を叩き込む!
――バシュウッ!!
「………………、な」
だが秀人は、驚愕に目を剥くことになる。
……はやての右手が、その衝撃波を魔力に還元し、吸収したのだ。
「……!」
その右手の内部に宿る、もう一つの術式が発露する。
……スレイプニル。そして、闇の衣。
本来ならば、体表に展開されるはずのそれを、はやては体内に隠し持っていた。
闇の衣の力を、瞬間的に発動し……分解した魔力を、瞬時にスレイプニルに流し込んだのだ。
――ギュエェッ!!!
迫る不死鳥。だが、度重なる爆裂に、その体積は明らかに減っていた。
――ギュルルルルルッ!!
闇の触手が、不死鳥を絡め取り……
「ぐ…………! うああああああああああああっ!」
――バシュンッ!!
『馬鹿な! 吸収した!?』
スレイプニルの中に、封じ込めた!
「喰らえぇえええええええええっ!!」
狙うのは……ダメージを蓄積させた、胴体!
「……」
秀人は、その攻撃を前に……
「はぁっ……!!」
内巧で、身体を固める。そして……
――――ドゴォンッ…………!!
はやての一撃が、炸裂した!
「ぐァあああああああっ……!!!」
カートリッジ十数発にも匹敵する衝撃波。不死鳥の爆炎。……そして、はやての拳。
それらを一撃として喰らった秀人は、数十メートルも滑走した。
「…………!!!!」
喀血し、白目を剥く。
だが……
――ガシッ!
「!!」
秀人は、はやての腕をつかみ取り捕獲した!
「俺の……!」
『ロード……インパクト&ブレイズカートリッジ!』
最後の攻撃用カートリッジを、二つ同時にリリース!
「勝ちだァあああああああああああああああああああっ!!」
――ズゴンッ!!
はやての延髄に、肘を叩き下ろした!!
「あァあ……!!」
意識を飛ばしそうになるはやて。だが……口元は未だに笑みを浮かべ、声なき声で、こう言っていた。
――――…………私の勝ちだよ、秀人
――――――――ズドォオオオオオオオオンッ!!
「………………あ、」
………………横合いから、強力な砲撃を喰らう。
『…………マスター!!』
アイもまさか、そんなところから砲撃が飛んでくるとは、全く予知していなかったのだろう。
倒れ付す秀人が、最後に見たのは………………
――――レイジングハートと瓜二つの、紫紺の魔杖。
(……そうか、)
最初に、はやてが目くらましとして投擲してきた、数多くの得物。その中の一振りに、予め、タイマーをセットしていたのだ。
「…………最後の、決め手になったよ…………あり、がと…………――『殲滅者』」
激しい戦闘で、更に荒れ果てた荒野の世界。
その世界に、どうっ…………と、倒れる音が響いた。
音は……一つ。
「……………………」「……………………」
………………秀人とはやては、同時に倒れていた。
――勝者は無く。ただ、全てを出し尽くした二人が、どこか満足げな顔で、大地に倒れていた。