魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第七十九話

 

――ガコンッ!!

 

――ドズッ!!

 

――バキィッ!!

 

 荒野に、戦闘音が連続して響き渡る。

 秀人と、はやて。

 共に、強大な魔力を持ちながらも、それらは相殺し合うため、派手な魔法戦にはならず……『殴り合い』という、闘争の基本へと立ち戻っていた。

「ぉあああああああああああっ!!」

「うぉりゃああああああああっ!!」

 

――ゴギッ!!

 

 秀人の掌打がはやての胴体を捉え、はやての拳が秀人の顔面を抉る。

「ぐふッ……!」

 のけぞる秀人。

「! あああっ!!」

 それを、前蹴りが追撃する。

 

――ガシィッ!!

 

 秀人は、その蹴りを腋で掴み取り、ぐるんっ、と合気の要領で逸らす。だが当然、投げて終わりとはいかない。

「うおおおおおっ!!」

 足首を摑み、はやての身体をまるで、団扇のように振り回す。そして、その勢いのまま地面へと叩き付ける。

 フローターフィールド等で、衝撃を吸収しようにも……ここは既に、秀人の間合い。外部で魔法を使おうものなら、例のフィールドに分解されてしまう。だが、『体内を強化する魔法』は持ち得ない。

「……ふゥっ!!」

 故にはやては……師より学んだ『技術』を、実践した。

 呼吸を深く行い、体内で気を練り上げる……内巧。

 

――ドバンッ!!

 

「…………!!」

 大地に叩きつけられて尚、はやてはまだ、余力を残せた。

 秀人の手を振り払い、姿勢を持ち直す。

「……シッ!!」

 短く漏れる吐息。

 放たれるのは、高速のストレート。

 それを凌ぐ秀人の腕を取り、関節技。

 返されると、今度は防御に回る。

「はは!」

 知らず知らずのうちに、はやてはまた、笑みを浮かべていた。

「っしゃ、もういっちょ来い!」

 相対する秀人もまた、笑顔だった。

 殴る、蹴る。ただ羅列してしまえば、いかにも殺伐とした言葉だが……

「はぁあああっ!!」

「だりゃああっ!!」

 その応酬の、なんと楽しそうなことか。

 その拳、その蹴りの一つ一つは、間違いなく本気の一撃。

だがそれは、良く出来た殺陣の立ち回りのようだった。

 今のはやてには、全盛期のなのはですら敵わない。闇雲に力を振り回していた頃とは違い……今のはやてには、技術がある。それを抜きにしても、リーゼ仕込の剣、大家譲りの格闘など、一部の隙も無い。フェイトやクロノ、管理局が束になって、ようやく五分か、悪ければ三分……

それだけ強大になってしまったはやての力を、誰が受け入れてくれるというのだろうか。

 

――孤独。

 

 それこそが、はやての根幹にある要素だった。

 孤独だから、守護騎士に固執した。

 孤独だから、美香を妹分にした。

 孤独だから、リーゼを使い魔にした。

 

――孤独だから、受け入れてくれる者を欲した。

 

 だが、折角手にした者達も、手放さざるを得なかった。

 力を得たから。力を取り戻したから。この力は、自身以外の全てを害してしまう。

 慕ってくれる美香も、仕えてくれるリーゼも、全て……

 

――だが、一つだけ…………一人だけ。この『力』を、真正面から受け止めてくれる人がいた。

 

 彼だけは、ずっと変わらなかった。

 初対面の時も、かつてこの世界で共に修行した時も、あのアパートに転がり込んだ時も。

 

――吾妻秀人は徹頭徹尾、はやてにとって、乗り越えるべき壁……否、ライバルだった。

 

「あああああっ!!」「おおおおおっ!」

 

――バキッ!!

 

 本気の殴り合い。それは…………不器用な彼女にできる、精一杯のコミュニケーションだった。

 

 

『アイ、カートリッジの残数は?』

『インパクトが3、アクセルが2……それと、ブレイズが1なの』

 ブレイズ……恐らくは、ブレイズキャノンに相当する射出系のカートリッジだろう。

『……微妙に相性が悪いな』

 はやてには、スレイプニルと、闇の衣がある。

 ただ考えなしに発射しても、跳ね返されるか、吸収されるかで終わる。

 

「なら……コレしかないよな」

 

 すっ……と、秀人は構えを取る。

 身体は半身に、右手を腰溜めに、左手を緩く突き出す。

「……!」

 はやては、その構えを知っている。その威力も、身をもって。

 あの構えは、強い。だが、それと同時に、下手をすればリンカーコアが破裂する危険も背負っている。そのため、これまでは負荷を抑えるため、敢えて精度を落としていた。

ヴィータに初戦で通じなかったのも、それが原因だ。

 だが、今の秀人には……イモータルハートがある。

 つまりは、精度を落とす必要は無く、リンカーコアへの負担を気にする必要も無い。

「はぁっ……!!」

 

――ゴウッ!!

 

 秀人の魔力光が、再び蒼炎となる。

「…………」

 構えたまま、はやてと見詰め合う。

『汝ヨ……分カッテイルナ? 決シテ、汝カラ手ヲ出シテハナラン』

 テンタトレスが、警告した。

 この構えの弱点として…………完全な『受け技』であることが挙げられる。はやてが攻撃してこない限り、戦闘としては成立しない。

 かつて、凶鳥部隊でカレンが取った対策…………『自分からは攻撃を仕掛けない』というのが、最適な答えだ。

 このまま、秀人が構えを解くまで、じっと待っていればいい。

 そうするのが得策。だが……

「…………っ!!」

『汝……汝! 何ヲシヨウトシテイル!? ヨスノダ!』

魔剣を拾い上げ、キッと秀人を睨みつけるはやてに、テンタトレスが慌てる。そう……

 

――それでは面白くないと考えてしまうのが、はやての性だった。

 

「……」

 攻撃を仕掛けようとするはやての身体を、闇の衣がギチギチと締め上げて戒める。

『クッ……愚カナ! ヌ、グ……!』

 だが……はやての力は何故か凄まじく、テンタトレスの拘束を逆にブチブチと引きちぎっていく。

「う……あ、あ!」

 その影響なのかどうかは不明だが、はやての瞳が、徐々に正気を取り戻していくではないか。

恐らく、はやてとテンタトレスの力関係が、逆転を始めている。

「……邪魔、するな」

『邪魔トハナンダ、邪魔トハ!? アノ構エニ、マトモニ突ッ込ンデイクツモリカ!?』

 ……泰然とした余裕を無くし、ぎゃーぎゃーと騒ぐ。

「そうだよ……! 私は……あいつにだけは、真正面から勝たないと、気が済まないんだ……!」

「! はやて……!?」

 その変化に、秀人も気付いた。

 闇色の魔力光は、変わらずだが……その内包する要素が、変化している。

 殺気に満ちた禍々しい闇から…………闘志に満ちた、激しいものへと。

 

「従え、テンタトレス……! 今は、私が主だ!!」

 

 とうとう、闇の衣がはやての支配下に戻る。

『…………! モウイイ! 我ハ知ラン! 汝ガドウナロウガ知ランカラナ! 勝手ニスルガイイ!!』

 ……テンタトレスは、そんな捨て台詞を残し、沈黙した。

「ごめん……待たせた」

「……気にすんな」

 すっかり正気に戻ったはやて。確かに、テンタトレスは沈黙したが……その力には、些かの低下も見られない。

『大した意志力なの。まさか、闇の書をねじ伏せるなんて…………マスター、ちゃんと警戒するの』

「ああ……わかってる」

 アイの助言に頷く。戦闘のために効率化された思考での戦いも、厄介ではあったが……

「……もう、予測は出来ないからな」

最も効率のいい戦い方……つまりは、一番の近道。最短ルートは限られている故に、予測しやすいのだ。

 だが、遠回りをする分には、道筋は無限大。

 はやての動向に注視し、警戒する。

「…………………………煙れ」

 ぼそっ、と呟いた途端……最初は、霞のように。そして瞬時に、黒色の煙が辺りに立ち込めていく。

「煙幕!?」

 

――ガキュンッ!

 

 その煙の向こうで、カートリッジをロードする音がした。

「……」

 だが、動かない。はやての狙いは、十中八九、秀人の構えを突き崩すことだ。ここで、インパクトを発動して、煙幕を吹き散らす行動に出れば……間違いなく、はやてはそこを突いて来る。ここで動きを乱されれば、敗北に直結する。

(カートリッジをロードしたってことは……接近戦か?)

 

――バシュッ!!

 

(来た!)

 視界は1メートル程度。その、地上僅か数センチというスレスレを、飛来してくる物体があった。

 剣先でも、魔法でもない。それは……

 

「矢かッ!!」

 

 秀人を射った、あの魔弓だった。

(脚を砕くつもりか!)

 左手に魔力を収束し、展開。足元までをカバーする大きさにまで広げ、矢を捕らえようとする。

 

――くんっ。

 

 ……と、矢が唐突に軌道を真下に変えた。矢は最初から、秀人を狙ってはいなかったのだ。

 

――――バゴォオオオオオオオオオオオオンッッ!!!

 

矢は、イモータルハートの無効化フィールドの直前で、地面を爆撃する。

「くっ!?」

 それは……『足場』という、秀人自身、思いもよらなかった弱点を突かれることになった。爆撃そのものは、魔力によるものだが……それによって発生した爆風は、純粋な物理。

 無効化フィールドを通過し、秀人の身体を煽る。

「……!」

 後退し、次の足場を確保する。その僅かな一瞬を、はやては見逃さなかった。

 

――ギャララララララッ!!

 

 ……魔剣を蛇腹に変形させ、秀人の左腕を絡め取る。一気に引き寄せ……

 

――ドズンッ!!

 

「ごふっ……!」

 強烈なボディブローを見舞った。

「くっ……!」

 身を屈める秀人。苦し紛れの裏拳も、空振りに終わる。

 

――パンッ! パパンッ!!

 

「が、ああっ……!!」

 高速のフックが、秀人の顎を的確に打つ。

 そして、ぐぐっと身体をたわませ……

 

――ゴギンッッ!!

 

 ……強烈なアッパーが、秀人の身体を宙に舞わせた。

「ロード……!」

 だが、秀人もやられてばかりではない。

「アクセルカートリッジ!! リリースッ!!」

 空中で、推進力を発生させ……はやてに突撃をかました。

 飛行魔法とは段違いの瞬発力に、はやては反応を遅らせる。

「うおおおおおっ!!」

 拳か。蹴りか。……否。

「だァらっしゃああああああああ!!」

 

――ゴンッ!!

 

 ……頭突き。

「んがっ……!?」

 あまりに原始的な攻撃に、逆に喰らってしまった。

「クソ! 痛ぇじゃねぇかああああああああっ!!」

「こっちの台詞だオラああああああああああっ!!」

 互いに覚束ない足取りで、距離を詰め、拳を振るう。

 

――ゴシャッ……!!

 

「はぁ、はぁ……!」「ぜー、ぜー……!」

 いくら治癒するとはいえ、スタミナまでは回復しない。

 

 ……二人は、勝負に出ることにした。

「……!」

 再び、あの構えを取る秀人。先ほどの対策か、足場を魔力で補強し、崩されることを防いでいた。

「……」

 はやてもまた、同じ手を使う気は無い様だった。

 

――バサッ……

 

 スレイプニルを展開。

 左手に、攻撃魔法と思しき術式を走らせる。

「秀人」

 ぐっ、と、地を摑む足に、力を込め……

「……行くよッ!!」

 

――ドンッ!!

 

 真正面から、突っ込んだ!

「!」

 正面とは思わなかった秀人は、驚きつつも反応する。

 

――ドンドンドンッ!!

 

 投擲されたのは、複製された魔剣や、魔杖。

「目くらましか……!」

 はやての左手の魔法。それが打ち放たれれば、それを起爆剤に、一気に……

『! マスター!』

 アイの警告。反応するより早く……

「がァっ!!」

 唐突に脚に発生した痛みに吼えた。

 先ほどはやてが捨てたと見せかけた、蛇腹の魔剣だった。

 それはまるで、蛇のように秀人に絡みつき、足を封じている。

「シュヴァルツェ・ヴィルクングッ!!」

 はやての左……渾身の拳。

「……そんなもんかよ!」

 

――バキィンッ!

 

魔剣を砕き、迎撃する。

 左手に全魔力を集中し、はやての拳に叩き込む。

 

――バチィイイイイイインッ!!

 

 それは、シュヴァルツェ・ヴィルクングさえも弾き返した。

 

――ゴバァアアアアアアアアアアンッ!!

 

 更に、無詠唱でインパクトカートリッジをロードし、衝撃波を発射。

ダメ押しとばかりに……

「クリメイション……! フェニィイイイイイイイイイイイイックス!!」

 

――――……ギュエェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!!

 

 蒼炎の不死鳥が、襲撃する!

 その連撃に晒されたはやては…………

「………………ははっ!!」

 不敵に、笑った。その口元から覗いているのは…………カートリッジ。

 ガリッ……と、複数のカートリッジを噛み砕く。

「あああああああああああっ!!」

 咆哮とともに、吐き出される魔力の暴風。

 それは、数の力で秀人の衝撃波を相殺し、

 

――……ギィイッ!!

 

 フェニックスを、乱気流で誘導する。その先は……

 

――バガァアアアアアアアアアンッ!!

 

 ……自身の、真後ろ。

「ぐゥっ……!」

 その爆風と衝撃波を、推進力を得る。

 後方へと弾き飛ばされていたのを、一気に前進する力へと変える。

「……まだだっ!」

 

――ギュエェエエエエエエエエエエエエエエッ!!

 

 地面から、不死鳥が舞い戻る。

 背後からは不死鳥。追いつかれぬよう、倒れこむような前傾で疾走するはやて。

「ロード……インパクトカートリッジ!」

 真正面から、不可避の一撃を叩き込む!

 

――バシュウッ!!

 

「………………、な」

 だが秀人は、驚愕に目を剥くことになる。

 ……はやての右手が、その衝撃波を魔力に還元し、吸収したのだ。

「……!」

 その右手の内部に宿る、もう一つの術式が発露する。

……スレイプニル。そして、闇の衣。

 本来ならば、体表に展開されるはずのそれを、はやては体内に隠し持っていた。

 闇の衣の力を、瞬間的に発動し……分解した魔力を、瞬時にスレイプニルに流し込んだのだ。

 

――ギュエェッ!!!

 

 迫る不死鳥。だが、度重なる爆裂に、その体積は明らかに減っていた。

 

――ギュルルルルルッ!!

 

 闇の触手が、不死鳥を絡め取り……

「ぐ…………! うああああああああああああっ!」

 

――バシュンッ!!

 

『馬鹿な! 吸収した!?』

 スレイプニルの中に、封じ込めた!

 

「喰らえぇえええええええええっ!!」

 狙うのは……ダメージを蓄積させた、胴体!

「……」

 秀人は、その攻撃を前に……

「はぁっ……!!」

 内巧で、身体を固める。そして……

 

――――ドゴォンッ…………!!

 

 はやての一撃が、炸裂した!

「ぐァあああああああっ……!!!」

 カートリッジ十数発にも匹敵する衝撃波。不死鳥の爆炎。……そして、はやての拳。

 それらを一撃として喰らった秀人は、数十メートルも滑走した。

「…………!!!!」

 喀血し、白目を剥く。

 だが……

 

――ガシッ!

 

「!!」

 秀人は、はやての腕をつかみ取り捕獲した!

「俺の……!」

『ロード……インパクト&ブレイズカートリッジ!』

 最後の攻撃用カートリッジを、二つ同時にリリース!

「勝ちだァあああああああああああああああああああっ!!」

 

――ズゴンッ!!

 

 はやての延髄に、肘を叩き下ろした!!

「あァあ……!!」

 意識を飛ばしそうになるはやて。だが……口元は未だに笑みを浮かべ、声なき声で、こう言っていた。

 

 

 

 

――――…………私の勝ちだよ、秀人

 

 

 

 

 

――――――――ズドォオオオオオオオオンッ!!

 

「………………あ、」

 ………………横合いから、強力な砲撃を喰らう。

『…………マスター!!』

 アイもまさか、そんなところから砲撃が飛んでくるとは、全く予知していなかったのだろう。

 倒れ付す秀人が、最後に見たのは………………

 

――――レイジングハートと瓜二つの、紫紺の魔杖。

 

(……そうか、)

 最初に、はやてが目くらましとして投擲してきた、数多くの得物。その中の一振りに、予め、タイマーをセットしていたのだ。

「…………最後の、決め手になったよ…………あり、がと…………――『殲滅者』」

 激しい戦闘で、更に荒れ果てた荒野の世界。

 

 その世界に、どうっ…………と、倒れる音が響いた。

 音は……一つ。

 

「……………………」「……………………」

 

 ………………秀人とはやては、同時に倒れていた。

 

――勝者は無く。ただ、全てを出し尽くした二人が、どこか満足げな顔で、大地に倒れていた。

 

 

 

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