魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

104 / 174
A's編 第八十話

 

――『試合』開始から、約30分。

 

「………………」

 アースラ、ブリッジ内。

 両名の壮絶な決闘を見届けたクルーたちは皆、言葉を失っていた。

「………………両者、意識混濁……戦闘終了」

 エイミィが、半ば義務のように報告する。

 

「…………」

 管理局員と、次元犯罪者…………その逮捕劇に、ではない。

 吾妻秀人と、八神はやて。

 Sランク魔導師による、死力を尽くした試合に、心奪われていた。

「アイ…………ううん、イモータルハートの力も、大概非常識だけど……」

「あんな小さなユニットで、魔力無効化フィールド……」

 アルフの言葉を継ぐように、クロノが言った。

 アースラに組み込まれたAMFの発生装置ですら、装置全体では、前世紀のコンピューターのような、部屋一つを占領するほどの巨大なものとなっている。

「『阻害』ではなくて、『還元』……あれじゃ、再結合も侭ならない」

 ある意味、AMF……結合阻害とは別方向へと進化した力だ。

「それに、あのカートリッジ……逆転の発想だな。『汎用性を得る』んじゃなくて、『汎用性を切り捨てて、更に特化する』なんて……」

 カートリッジシステムの情報提供者、ヴィータはそう評した。

「誰の影響だろうね、全く………………」

 ユーノは、ちらっとレイジングハートに目を送る。

『誰の影響でしょうね。全く…………』

 ………………スターライトブレイカー+という前例を作り出した先駆者が、すっとぼけて何か言っていた。

 

「…………すげー!」

 

 フェイトは、目を輝かせていた。

「……変な言葉を使うんじゃありません。女の子でしょ」

 なのはが、それを嗜め……ようやく、余韻から醒める。

「でも、本当……凄かったね」

 イモータルハートの常識外れの性能も、それを扱いこなした秀人も…………

 

「……………………八神」

 

 ……それに、真正面から挑み、引き分けたはやても。

「ああ。初対面とは、段違い……いや、別次元だ」

 そう。

この場に満ちる感嘆とは、秀人よりも…………それに対抗し得た、はやてに対するものの方が大きいのだった。

 

――――ピーッ!!

 

 その空気を切り裂くように、モニターから警告が鳴る。

「! 転移反応! 場所…………秀人くんの、すぐ近く!」

「――!! ジャミングの解除、任せる!」

 間違いなく、グレアムの手の者だ。

 両者が疲弊している今を狙って、漁夫の利を得る気に違いない。

「……………!!」

 走り去っていったクロノ達を見送り……ブリッジにいたクルー達は、死に物狂いでコンソールを操作する。

 彼らは、戦闘中も、わき目も振らずに解除に当たっていた。そして、ようやく…………

「……解除完了!」

 同時に、転送装置に足を踏み入れたクロノ達を、間髪入れずに戦場へ送り出した。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「おい、起きるの」

 アイは、デバイス形態を解除。いつもの15歳程度の少女の姿となり、しゃがみこんでいた。

「起きるの。おーきーるーのー!」

 べしべしと引っ叩くのは、当のマスターである秀人……………………ではなく。

 

「起きるの! この古本!!」

 

『ヤカマシイ! 誰ガ古本ダ、貴様!!』

 

 はやての胸に抱かれた、一冊の魔導書……闇の書。その意思、テンタトレスに対してだった。

「ふん。やーっと起きたの。もし起きなかったら、ブックセンターイ○ウに売り払ってやるところだったの」

『黙レ石コロ。砕クゾ』

 ……主たちを差し置いて、デバイス達が話し始めていた。

「ねぇ、この勝負…………」

『アア、コノ勝負…………』

 当然、この勝負の結果についてだ。

 

「マスターの勝ちなの」

『我ガ契約者ノ勝利ダ』

 

 ……完全に、平行線だった。

「…………終始防戦で、マスターの構えに四苦八苦していたのはどこのどいつなの!? 法螺を吹くのも大概にするの!」

『馬鹿メ! 我ガ契約者ハ、ソレヲ破ッタノダ! 我ラノ勝チニ決マッテイヨウ!』

「破られていないの! アイたちの勝ちなの!」

『我ラノ勝利ダ!』

「ふん! そっちのガキンチョの方が、コンマ0.001秒、倒れるのが早かったの!」

『イイヤ! ソレヨリモ早ク、貴様ノ主ノ前髪ガ地ニ着イテイタ!』

 口論は、段々と子供じみた口喧嘩へと退化し…………

 

「マスターのガッサガサの針金みたいな髪の毛、いつも尖がっているようなモンなんてノーカンなの!」

 

『ナラ、我ガ契約者ノ、常ニ砕ケテイルヨウナ貧弱極マリナイ足腰ナド無関係ダ!』

 

 ……互いに、己の主を罵倒するような内容になっていることには、気付かない。

 

「むーっーーーーーー!!」『ウゥー………………!!』

 

 膨れるアイと、威嚇するように唸るテンタトレス。

 だが……そのにらみ合いは、ふとした瞬間に終わりを告げた。

「おまえ…………どうして、自分の主を、殺戮に駆り立てるの?」

『…………ソレガ、我ノサガ故ニ』

「でも、へなちょこ司書に聞いたの。その機能は、後付けされたもので……」

『…………』

「やろうと思えば、今みたいにちゃんと、主と一緒に戦うことも出来るの。実際おまえ、すっごく強かったの。何度も、負けちゃうかと思ったの」

『…………』

「おまえだって、本当は………………」

 黙りこむテンタトレスに、アイは核心に踏み込んだ。

 

――――――まっとうなデバイスとして、主と共に在りたかった筈じゃないの?

 

 反応は、顕著だった。

 

『――――黙レッッ!!』

 

 テンタトレスは、激情を露に、叫んだ。

 そして……はやての体が、起き上がる。

 その目は血色に染まり……頭髪は、灰色へと変化している。

 身体の主導権を奪ったのだ。

「……! あうっ!」

 伸びた影が、アイの首を締め上げる。

『黙レ……黙レ黙レ黙レ!』

「あ、ぐ……!」

 苦痛に喘ぐアイ。

『貴様ニ、何ガ分カル……!!』

 どろどろと……隠してきた己の心のうちを、吐き出す。

 

『貴様ニ、何ガ分カルッ!!』

 

 ドンッ! と、地に叩き伏せられる。

『我ハ……テンタトレス。ソウ、闇ノ書ノ攻撃プログラム、呪ワレシ闇! テンタトレスナノダ!』

 

――テンタトレス。

 

 それは、個体名という範疇を超えた…………忌み名。

 いつしか、誰かが呼び始めた……『悪の誘惑者《テンタトレス》』。

『貴様ニ、分カルモノカ! 守ルベキ主ヲ、コノ手デ殺メナケレバナラナイ痛ミガ! 侮蔑ト共ニ、忌ミ名ヲ呼バレル屈辱ガ! 己ノ分身デアル守護騎士ニスラ恐レラレル虚シサが! 己ヲ止メルコトスラデキナイ無力ガ!

 

………………死ニ際ノ主ニ、憎悪サレル痛ミガ!』

 

――バンッ!!

 

 投げ飛ばされ、地を跳ねる。

『サァ、『不滅ノ心』ヨ…………貴様モ我ガ名ヲ呼ブガイイ。

『テンタトレス』ト…………侮蔑ト敵意ト恐怖ト憐憫ヲ込メテ、我ガ名ヲ呼ブガイイ!!』

 猛る闇。

 それは、再びアイを摑み上げ、放り投げる。

「……!」

 ぎゅっと目を瞑り、痛みを予想するアイ。

 

――どさっ。

 

 ……だが、その痛みはやってこなかった。

「…………」

「…………マスター!?」

 墜落寸前に、主によって受け止められていた。

 秀人は、はやてへ……その胸に抱かれた魔導書へ、悟った目を向け……

 

 

「……――。おまえは、自分を止めたいんだな」

 

 

……その願望を、看破した。

『…………!!』

 図星を突かれ、息を詰まらせる。

「……やっと、お前を理解できた気がするよ」

『理解ダト……? 貴様風情ガ、我ヲ理解シタト……? 笑ワセルナ!』

「…………ああ。確かに、全部が全部、理解できるわけじゃない」

『ハハッ……!』

 せせら笑うテンタトレス。

「でも……お前のすぐ傍に、いるじゃないか。一番の理解者が」

 すぐ傍……と言われ、テンタトレスは、己が身を見下ろした。

『……………………』

「お前を受け入れて……お前を従えて、こんな辺鄙な場所までついてきてくれた、お前の主だ」

 悪態をつきながらも。

 その素性や正体が判明しようとも。

決して己を無視することなく、言葉を交わしてくれた少女。

 

『……………………ヤガミ、ハヤテ……』

 

 ……そういう、名だった。

「…………あと、どのくらいだ」

『……?』

 その問いの意味を理解できず、首を傾げる。

「あとどのくらい……破壊衝動を抑えられる」

 改悪されたプログラムの、行き着く果て。

 

『――――――――――ベツレヘムの星』

 

 それが、闇の書に記された…………蓄えた魔力と、主の生命を贄として発動する、最凶最悪の殲滅魔法。

『………………順延スルコトモ、不可能デハナイ』

「……そうなのか?」

『ダガ、ソレハツマリ、魔力ヲ得ラレナイトイウコトダ。我ハ、主ノ肉体トリンクシテイル。外部ヨリ魔力ヲ得ラレナケレバ……………………』

「……内部。はやてのリンカーコアから、魔力を吸い尽くしてしまう」

 それが、所有者の魔力を極大まで増幅させる代償。

 命を喰らう、異形の本能。

 秀人はしばし何分か、瞑目して考え込み……

 

「……分かった。魔力があればいいんだな?」

 

 ちゃきっ、と、はやての手から零れた魔剣を拾い上げ、右手に当てる。そして……

 

――ズシュッ……!!

 

 ……右手の甲に、魔剣を突き立てた。

「マスター……!」

 あいが声を上げる。

 だが、秀人とて、何も自棄になって自傷に走ったわけではない。

「う……くっ!」

 ずるっ……と、抉り出した。

 

――――右手の、魔力結晶。

 

「アイ。アクセルカートリッジ、残り三発」

「……………………わかったの」

 嫌々ながら、それに従った。

 その内部の魔力を全て、魔力結晶に籠める。

「…………」

 カートリッジが輝きを失い……全て、魔力結晶に移動する。

「………駄目か」

 だがその結晶は、すぐに秀人の右手と、融合を始めてしまう。

 この魔力結晶は、取り込んだ際、秀人と魔力のラインが繋がってしまっている。ある意味、秀人の体の一部なのだ。切り取ったからといって、他人へ譲渡ができるはずもない。

「………………くそっ!」

 悔しさを滲ませる秀人。

 

――その背後に、転移してきた気配を感じた。

 

「――!!」

 秀人は、反射的に振り向き、構えた。

 そこに現れていたのは……

「……お前か」

 無機質な仮面を被った、長身の男性。

「………………」

 変わらぬ無言。

だが、常とは異なった点がある。それは…………

 

「…………何だ、その杖?」

 

 ……右手に握られた、鳥の嘴を連想させる奇妙な杖だった。

「……」

 仮面の男は、無言で秀人の右手と、魔力結晶に杖を向ける。

「…………デュランダル」

『OK,』

合成音声のような声を出す。どうやら、デバイスであるらしい。

「おまえ、マスターになにする気なの!?」

「…………」

 身構えるアイ。だが、仮面の男は敵意を示さず、無言で秀人を促した。

「アイ。いい、下がれ」

「………………了解。だけど、マスターに何か変なことしたらぶっころすの」

 渋々、秀人の後ろに下がった。

 

 秀人は、右手を上げる。仮面の男は、杖を右手に触れさせ……

「……分断せよ」

『…Divilde!』

 

――――バチンッ!!!

 

「…………痛っ!?」

 一瞬の痛みと共に……魔力結晶が、右手からポロッと落ちる。

「……これで、問題ない筈だ」

「お、おお……? ……マジかよ」

 完全に癒着していたはずの魔力結晶が、完全に切り離されていた。

「その杖の力?」

「ああ……デュランダルの、分断の力だ」

 グレアムが、切り札として開発していた特殊なデバイス。どうやら、一応の完成を見たらしい。

『フン……大方、我ヲ契約者カラ切リ離スタメノモノダロウ』

「否定はしない」

 瞬時に、剣呑な気配となる。

「……可否で論ずるならば、可能だ。分断した後……その子は死ぬだろうが」

『……!』

 ざわざわと、影がざわつく。

「でも、するつもりも無いんだろ?」

「…………」

「第一、するつもりならとっくにやってるさ」

 戦闘終了後、二人の意識は途絶え、完全に無防備だったのだ。

 それに、わざわざこうして姿を現す必要も無い。

「…………」

 沈黙は、肯定。

 

「…………なぁ。なんであんたは、グレアムに従ってるんだ?」

 

 ごく自然に……その名を出した。

「わざわざ、そんな大仰なものを取り出して来たのだって、はやてのためだろ? 本来の用途を無視してまで…………あんただって、本当は、グレアムが間違ってるって、」

「言うな」

 仮面の男は、それを遮った。

「………………それでもあの方は、我らの父親なのだ」

 ほぼ罪状が割れてしまっている以上、隠す意味も無い。そういうつもりだろうか。

「……」

 再び無言となった仮面の男。

秀人は、はやての手に魔力結晶を握らせる。

「これで、どのくらい持つ?」

 テンタトレスはそれを、手の上でころころと遊ばせる。

『…………オヨソ、二日ダ』

「……二日」

 これでも、相当な量の魔力を籠めた筈なのだが……

 その疑問には、仮面の男が答えた。

「……その子は、テンタトレスが再起動して以来、リンカーコアを蒐集していない。差し引きして、プラスになっただけ運がいい」

 頭の中で、カレンダーを確認する。あまりに多くのことが立て続けに起こりすぎて、すっかり忘れていた。

二日後とは……

 

「…………クリスマス、か」

 

 奇しくも、聖夜。

 そして…………はやてが、両親を永遠に失った日であった。

 

「……これで、最後だ」

 仮面の男は役目を終え、踵を返す。

「…………次に会う時は、敵同士か?」

 秀人の……若干、寂しそうな声に、立ち止まる。

「…………」

 だが、仮面の男は何も言わず、歩き去っていった。

 

 

――ドクンッ。

 

 脈動するような音と共に、テンタトレスが魔力結晶を飲み込む。

 一時的とはいえ、はやての体には、活動には過不足無い程度の魔力が補充された。

『……………………少シ、眠ル』

「大丈夫か?」

 疲弊した様子だ。心配した秀人が気遣うも……テンタトレスは、はやての目で、じろっと秀人を睨んだ。

『貴様ニ殴打サレタ身体ガ痛ムノダ。トニカク、我ノ自前ノ魔力デ回復サセルタメニモ、睡眠ガ必要ダ』

「…………正直すまんかった」

 だが、良いのだろうか。このまま管理局に拿捕されてしまえば、それこそ、はやてがどうなるか分からない。

『問題ナイ。人間風情ガ、我ヲ縛レル道理ガ無イカラナ』

 拘束は無意味。

 テンタトレスは、何のためらいも無く、そのまま休眠へ入った。

 

――どさっ。

 

 倒れこむはやての身体を抱きとめ、背負う。

「…………あと二日間、か」

 たったの二日と考えるべきか。

それとも、二日も猶予を得たという事実を喜ぶべきか。

 

――――ブゥウウン……!

 

 少し離れた先に、アースラの転送ポートが現れる。

 そこから、真っ先に飛び出してくる、二つの人影。

「……秀人さんっ!」「ひでとっ!」

 なのはとフェイト。

 二人へは、無事を伝えながらも……秀人は、重い気分で歩を進めるのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。