魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第八十一話

 

 秀人、はやてに手を貸した後、追跡者は帰還した。

「…………やぁ、待っていたよ」

 その執務室へ繋がる廊下に……ギル・グレアムが待ち構えていた。

「……!!」

 思わず、体を強張らせる。

「お帰り。さて…………

 

――――何か言い残すことはあるかね?」

 

 その手には、追跡者を圧殺して余りある、殺意の塊のような魔力スフィアがセットされていた。

 試作品段階のデュランダルを勝手に持ち出し、あまつさえはやてに延命を施した……明確な裏切りを受け、処分を決定した。

「わかっているね? ……君たちの生命力は、既に尽きかけている」

 リーゼアリア・リーゼロッテの合体……それは、強力な戦闘力を発揮する代償として、確実に生命を削るものだった。

「ユニゾンデバイス研究の副産物とはいえ、些か無茶があったようだね?」

 元より、それを覚悟した上での行動だ。

 

――シュウウッ……

 

 一つの影は、二つに分かれる。

「「………………では、一つだけ」」

 仮面の男……改め、リーゼアリア・リーゼロッテの姉妹は、想起する。

 ただの小動物だった自分たちに、知性と魔力を与えてくれたあの日を。

 幸せだった。今でこそ外道に堕ちたこの男も……かつては、理想に燃える男だった。時空管理局と、そこに所属する自分は、正義の代行者なのだと信じて疑わず、突き進んだ。

 二人は、そんな理想に燃える『父親』が好きだった。

 時に手を貸し、時に支え……その理想を、支え続けた。

 その甲斐もあってか、男はいつしか、管理局の要職に就いていた。人望も厚く、歳を重ねたとしても、十分な実力。それは、男にとって誇りであった。

 

 だが、ある時…………その理想は、歪んで行く。

 

 切っ掛けは、一つの敗北だった。

 部下として配属されてきた、若手の中の一人……クライド・ハラオウン。彼との、天覧試合での一戦。

 老齢に差し掛かったグレアムと、今まさに全盛期のクライド。

下馬評を覆したのは、クライドだった。

 それだけであれば、ただ、新鋭の若手が、大金星を挙げた……という話だ。

 ただ、それだけの話。

 

――だが、グレアムの『誇り』はいつしか、理想を覆い隠す程に、肥大化してしまっていた。

 

 グレアムは、変わった。

 いや……もしかしたら、以前からその兆候はあったのかもしれない。

 年老い、目に見えて衰える己の実力。次々に現れる次代のエリートたち。

『誇り』によって押しとどめられていたその負の感情は……皮肉にも、『誇り』が傷つけられた瞬間、一気に噴出してしまったのだ。

 広げた人脈を手当たり次第に……それこそ、取り憑かれたように、かつての全盛期の力を取り戻す研究を始めた。

 アリアとロッテは、そんな主を、何度も諌めた。だが、グレアムは……使い魔としての契約を悪用し、抵抗を禁じた。

 唯一の歯止めを失った男は、とうとう…………クライドをも謀殺した。

 

――かつて理想に燃えていた男は、ここまで堕ち果てた。

 

そして今、幼い少女の家族を、平穏を奪い……生命までをも、奪おうとしている。

 全ては……我欲のために。

 アリアとロッテは、声を合わせ……かつての主に言い放った。

 

「「……………………この下衆野郎!」」

 

「そうか。では、死にたまえ」

 グレアムは、眉一つ動かさず、魔力を放出した。

 

――――……ッドゴォオオオオオオオンッ!!

 

 破壊力は、狭い通路を荒れ狂う。

 逃げ場のない破壊に、反逆者は影もなく焼き尽くされる……筈だった。

「……む?」

 だが……グレアムと同じく、シールドを展開した反応がある。

 それはアリアでも、ロッテでも無く…………

 

「……そこまでだ」

 

 漆黒の法衣。手にした杖は、S2U。

「「クロノ!?」」

 クロノ・ハラオウンが……アルフを伴って、そこにいた。

「無事か? 二人とも」

 二人を背に庇いながら、油断無くデバイスをグレアムに向ける。

「全く……とんだ変則コンビだよ」

 愚痴りながらも、姉妹への防御を張り巡らせる。

「とんだ主もいたもんだね……使い魔との契約を、こんな目的に利用するなんて」

 ぎろっ……と、グレアムを睨むアルフ。

 同じ動物素体の使い魔として、感じるものがあるのだろう。

 

「ギル・グレアム提督。時空法・管理局法違反並びに…………殺人未遂の現行犯で、あなたを拘束する。武装を解除し、投降を」

 そして提示される……数々の証拠。

「ふ…………はァははははははっ!」

 それらを突きつけられ、グレアムは……嗤った。

「いや、実に惜しいねェ………………」

 明確な余裕。

「何がだっ……!!」

 クロノは、声を荒げる。

「いや、ね? もう少し早ければ…………コレが完成する前に、捕らえられただろう」

 ポケットから、カード状のデバイスを取り出す。そして……

「セットアップ」

 

――――ガシュンッ……!

 

 ……その杖は、試作品とは大きく違っていた。

「…………嘘だ」

 クロノが、呆然と呟く。

 その杖には、見覚えがあった。

それは、自分の手に握られたものと、非常に良く似ていた。

それは、映像記録で、写真で、何度も目にした形だった。

それは……

 

 

「懐かしいだろう? ……………………父親との、再会だ」

 

 

――それは、クライド・ハラオウンのデバイスだった。

 

「――貴様ァああああああああああああああああああああっ!!」

 かつて無いほどの激情を露にし…………複数の誘導弾を、一気に射出した!

 

――――ドガガガガガガガガガガガガガガンッ!!

 

 連続する破裂音。

 だが、その向こうで……グレアムが、余裕で笑みを浮かべている。

 着弾したかに見える誘導弾は、その実……片っ端から、魔力結合を分断され、無効化されている。

「ははは……さすがは、クライドの武装だね。デュランダルが、よく馴染む」

 分断の杖、デュランダル。その本質は、外殻に非ず……むしろ、その内に秘められたプログラムと、それを奔らせるシステムだ。

「ほら、もっと撃ってきなさい。ははははは…………!」

 それを、わざわざクライドの武装の外殻を流用するなど……悪趣味ここに極まれり、だ。

「貴様が……貴様が、父さんをっ!!」

「ああ、そうだとも! 生意気なガキだったなァ!! ガキの分際で、私に土を付けてくれたわァっ!!」

 

――キュドンッ!!

 

 デュランダルから発射された魔力弾が、散弾のように撒き散らされる。

「!」

 防壁を展開する。だが……

「ハハハ! 無駄だァっ!!」

 

――ズ……ボッ!!

 

 発射された魔力弾は、防壁をすり抜け、クロノの身体を強かに打ち据えた。

「ぐぁあっ……!!」

 バリアジャケットで受けたとはいえ、その衝撃に喘ぐ。

「ははは…………そうだ、やはり間違いだったのだ! クライドごときに、私が負けるわけが無かったのだ!」

 

――ガキィイインッ!!

 

「ほうら、見ろ! ヤツのガキも、この力の前では無力だっ!!」

 振り下ろされた魔力刃を、S2Uの柄で受ける。

 だが……

 

――パキィンッ……!!

 

 実用品として、一線級の強度を持つはずのS2Uの外装が、まるでガラス細工のように砕け散る。

 

――ザンッ!!

 

 回避したかに見えた。だが……

「……ぐっ!!」

 腕を切り裂かれ、派手に出血してしまった。

 

「どんなものかね!? 父親の形見に刻まれる……という気分は!? ハハハ、愉快痛快!」

 これは揺さぶりだ。自分を動揺させるための策略だ。そう頭で理解してはいても……感情は、割り切れない。

 

「ぐ、ぎ……!! あの野郎ォ……!!」

 それを見ていたアルフは……獰猛な怒りを、何とか押さえ込みながら、リーゼの警護を続ける。目は獣の状態となり、牙が大きく突き出した。

「「…………」」

 アリアとロッテは、顔を見合わせる。そして……

 

「エンチャントパワー・フルブースト!」

 

 アリアが、アルフの身に強化魔法を施した。

「え……え?」

 戸惑うアルフに、目を向ける。

「わたしたちは直接、グレアムに逆らうことはできない。でも……自分の身くらいは守れるわ」

 ロッテは懐から、試作品のデュランダルを取り出し、アルフに握らせる。

「……これを。あの制式仕様には、出力で若干劣るけど……あの分断効果を、かなりのレベルで相殺できるはずだよ」

 デバイスモードに変形させるアルフ。

 それを目にしたグレアムは、ハッと余裕を忘れた。

 

「貴様らぁあああああああああああっ!!」

 

 グレアムが、魔力刃を振りかぶり…………

「うらァああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

――――ベキィイイイッ!!

 

 怒りの鉄拳が、グレアムの頬を殴り飛ばした!!

「がっ……! い、犬畜生がァッ……!!」

「クロノォオオオオオオオオッ!!」

 アルフは、試作デュランダルを、クロノに向かって投擲する!

 

「おおおおっ……!」

「させるかァああああっ!!」

 

 クロノが、グレアムが、同時に手を伸ばす!

(貰った!)

 このままでは、リーチの差で、グレアムの勝ちだ。いくら魔法を放とうとも、分断効果で無意味に終わる。

 そう、グレアムは油断した。そう…………油断した、のである。

 クロノは、背筋を限界まで引き絞り……

「だらぁああああああああああああっ!!」

 

――ゴォッキィイインッ!!

 

 渾身のヘッドバットをかました!

「ぶべェッ!?」

 まさかの肉体攻撃に、グレアムは反応が遅れ、鼻っ柱を潰された。

「ご、ごのがぎがァ……!!」

 曲がった鼻で、無様な濁声を呟く。

「あいつ曰く、僕の頭は岩をも砕く石頭らしいからな!!」

 その目の前で、クロノは試作デュランダルを摑み取る。

「お前の罪を、」

 

――ジャコンッ!!

 

 S2U、試作デュランダルの二刀流!

『Stinger Snipe!』『Blaze Cannon !』『Ballet ! 』

 複数の術式を、一気に読み込み……!!

 

「数えろォおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 一斉に、発射!!

 

――――ズゴガガガガガガガガガガァンッッ!!

 

 分断効果を中和し、一気に魔法で畳み掛ける!

「オオオオオオオオオオオッ!!」

 だが、グレアムのしぶとさも大概だ。

 伸張した魔力刃を構え、突撃してくる。狙いは、試作デュランダル!

「……モードリリース!」

 クロノは、二機のデバイスを解除。

「……っ!?」

 破壊対象を失った制式デュランダルは、空振りに終わる。

クロノは間合いを一気に縮め……!

「だァあああああっ!!」

 

――ぶォんっ!!

 

 グレアムの胸倉を摑み上げ、背負い投げた!

「ナイスパス!」

 アルフは、その着地地点に先回りし、そして……

 

――ガゴンッッ!!

 

 上段蹴りを、脳天に叩き込む!

「ぐぁあああっ!?」

 

――――ゴキャアアアアッ!!

 

 クロノのドロップキック……そして、アルフのアッパーが、グレアムへ連続ヒット!

「お、ごォおおお……!! ば、ばがな……! この力を以ってして、圧される筈がぁあっ……!?」

 分断の力を過信し、冷静な判断を失ったグレアムは、大いに取り乱す。

「何だ、その戦い方はァっ!! こんなもの、教えた覚えは……」

 

――ギャリリリリリリリリッッ!!

 

 チェーンバインド、リングバインド、レストリクトロックが、グレアムを雁字搦めに縛り上げて行く!

 

「グレアムゥウウウウウウウウウウッ!!」

 

「ヒィッ!! く、来るなァあああああああああああああっ!!」

 バインドを端から解除して行くが……どうやっても、間に合わない。

 ありったけの防壁を築く。

 クロノは、術式を拳に絡め……!

 

「インパクトォオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 

――――ドパァアアアアアアアアアアアアアアンッ…………!!

 

「お……、ォおおおおお……!!」

 胴体に、マトモに直撃し……臓腑を撒き散らされるような衝撃に、グレアムが倒れ付す。

 

「はァ、はァっ…………!!」

 額にびっしょりと汗を浮かべ、クロノが息を荒げる。

 終盤こそ圧倒したものの……薄氷の勝利だ。

 もしあそこで、アルフが試作デュランダルをクロノに渡せていなかったら……結果は、逆になっていたに違いない。

「おおおお…………! おのれ、おのれ、おのれおのれおのれェええええええ……!!」

 吐瀉物を吐き散らし……白目を剥いて怨嗟を叫ぶその姿に、かつての執務官長の面影は無い。そこにいるのは、ただ我欲に取り付かれた、醜い老人だった。

「…………」

 クロノは、グレアムを拘束するため、再びS2Uを向ける。

 だが……その直前、グレアムの身体が、ビクッと痙攣した。

 

『……ギル・グレアム』

 

 その空間に、直接響くような声が聞こえた。

 念話……とも、また違った。

 

「か……カスパール議員!」

 

 グレアムの顔が、喜悦に歪む。

「わ、わたしに、今一度のチャンスを!」

「! この……まだ!」

 クロノが、いよいよその身を捕縛しようとする。だが……

 

『貴様への融資は、現時刻を以って停止とする』

 

 ……援軍、では無かった。

「……………………は? な、何故!?」

『用済み、と言ったのだ。所詮貴様は、完全なる魔導に到達できる器では、なかったのだ』

「お、お待ち下さい! 私には、まだ秘策が……! 闇の書さえ、我が物にできれば、必ずや……!! あと一歩、あと一歩なのです! どうか、今一度のチャンスをォおおおおおおおおおおおおお!!」

『………………』

 カスパールと呼ばれた声の主は、僅かに思考するような間を持たせ……

『……いいだろう。利息分くらいは、援助してやる』

「おお……!」

 

――ドクンッ……!!

 

 ……制式デュランダルが、邪悪に鳴動する。

「!? こ、これは……!?」

 グレアムの肉体が、徐々に、徐々に…………異常なまでに、容積を増していく。

「や、やめろ、やめろ………………!」

 べこ、べこん……と、その形が、人間から遠ざかって行く。

「うっ……!」

 クロノ達ですら、思わず目を逸らす。

 ただ耳には、ぐちゅぐちゅと血肉のうごめく音と、グレアムの悲鳴が届けられる。

 

『エクリプス………………強制発動』

 

「お、お、おおおおああああああ、GI….GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

――ブチュンッ!

 

 ………………まるで、己の圧力に耐え切れなくなったかのように……その姿が、収束した。

 歪な……一抱えほどの、肉塊へと。

「う、うげェっ……!!」

 クロノは、嘔吐した。

「何だ……貴様は、何をした!?」

 だが、答える声は、既に無く……

 

――ぎゅろんっ!

 

 肉塊に現れた、デタラメな配置の眼球が、クロノ達を睨む。

 

「……pigyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

 ガラスを引っかくような、不快な悲鳴とも、怒声とも付かない声を上げる。

 そして……

 

――ギュウウウウウウウウウウンッ……!!

 

 転送魔法……のような術式に覆われ、この場から消えていった。

「くそっ……取り逃がしたか…………!!」

 歯噛みする。

「大至急、アースラへ帰還する。アリア、ロッテ。……きみたちにも、話を聞かせてもらうぞ」

「…………ああ」

「…………今更、隠し立てなんかしないよ」

 二人はそれぞれ、アルフとクロノに支えられ、その場を後にした。

 

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