魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第八十二話

 

――夢を見ている。

 

 この感覚も、随分と慣れた。

 けど、今日は少し違う。子供時代から追ってきた、秀人の姿は見えない。

 見えるのは、古臭い建物と……炎に包まれれる、その瓦礫。

「……? なんだ、ここ」

 あれ……?

 声を出してみて、ようやく気付いた。

 手も、足も……ちゃんとある。感覚だけじゃない。

 ジャラジャラとした荒れた路面も、頬に感じる炎の熱気も、鼻に刺さる煤けた匂いも、あまりにもリアルだ。

「……? まぁいいか。歩いてみっか」

 ざくざくと瓦礫を踏み分け、歩いて行く。

 こういう、炎に包まれる風景というのは……あまり、気持ちのいいものじゃない。

「というか、ぶっちゃけ胸糞悪いぞ。なんだここ」

 なんというか……妙な違和感というか、欠落した感じがする。

 少しだけ歩いて……分かった。

 

「……人が、いないんだ」

 

 火事に焼き出された、というよりも、唐突にその場から消えてしまったような感がある。

 どこを歩いても、瓦礫と炎だけが、延々と続いている。

「……あーもう! めんどくさい!」

 こうなったら、魔法で一気にサーチしてやる!

 

 ……だというのに。

 

「あれ……?」

 魔法が、全く使えない。

 あー……もしかして、戻ったのは肉体の感覚だけ、とか?

「マジかよ……」

 がっくりと肩を落とす。

 ま、しゃーない。とにかく今は、この夢から醒める方法を探すだけ。

 

――ザッ。

 

「……!」

 と、曲がり角の辺りから……唐突に、人が現れた。

 罅割れた鎧兜。

 造詣に程度の差こそあるものの……間違いなく、守護騎士が一体、『剣』だった。

 

――ザッ、ザッ、ザッ……

 

 一体を認識した瞬間、他の守護騎士達も集まってくる。

『剣』、『鉄槌』、『盾』、『湖』…………間違いなく、私が使役していたものと同じ、守護騎士プログラムだ。

「おい、おーい!」

 目の前で手を振っても、石を投げて兜にぶつけても、反応は返ってこない。

 ということは、あいつらに私は見えていない……?

 

 守護騎士達は、ある一箇所を目指しているらしい。

「もしかして…………!」

 これが、過去の映像記録なのだとすれば。

 この先にはきっと…………かつての、闇の書の主がいる!

 

――予想は、ある意味正解で……ある意味、大ハズレだった。

 

 歩きついた先……そこに着いた守護騎士達は、『彼女』に傅いた。

『彼女』は、私に背を向けるように、瓦礫の玉座に座していた。

『彼女』の姿は………………私には、見覚えがあるものだった。

 

――『彼女』は…………リーゼと、同じ顔をしていた。

 

『また……こうなってしまった』

 

 けど……その口調や、言葉の響きは、私が知るものとは、大きく違っていた。

 むしろ、その口調は………………

「……テンタトレス?」

 そう。私に巣食う、闇…………テンタトレスの内なる声と、同じものだった。

 気だるげで……どこかで、何かを諦めている、あの声と。

 

 リーゼが、紅い瞳をしているのに対して……テンタトレスは、蒼い瞳をしていた。

 装束も、赤と黒を基調としたリーゼを反転させたような、青と白。

 

『此度の主もまた…………同じ道を辿った』

 

 答える守護騎士は、いない。

 当然だ。だって……その意思と記憶を奪ったのは、他ならぬテンタトレスなんだから。

『………………あと幾度、繰り返せば良いのだろう』

 瓦礫の玉座につき、そう誰とも無しに呟くその姿は…………哀しげで、寂しそうで……疲れ果てている。そう見えた。

『……天に至る書が、闇に堕したのは……いつごろだったか……』

 幾度も……と、そう言った。

 私が知る限りだけでも、闇の書は500年以上、存在し続けている。

 500年。

 10歳になるかならないかの私には、正直、想像もできないほど途方も無い年月だ。

『……なに、守護騎士達よ。案ずることはない。汝らの記憶は消して…………また、最初からだ。存在が磨耗することは無い。 ――我がさせぬ』

 もしかして……守護騎士の記憶を、消していたのって…………

 

 年月による磨耗から、守るため……?

 

『…………汝らを縛る呪いも、いつかは消えよう。いつかは……やがていつかは、救われる日も来よう』

 それはまるで……自分に言い聞かせるような言葉だった。

『故に、今は……ひと時の闇の安寧に、沈むのだ』

 手を翳すと、守護騎士達が、影の中にずぶずぶと飲まれていく。

『彼女』はただ一人、瓦礫の玉座に残される。

 誰もいない。何も無い。

 敵も、味方も…………誰も。

 そして、残された『彼女』は…………

『……また、一人きり、か……………………、ッ……!』

 

 

――たった一人で、肩を震わせていた。

 

 

「……! テンタトレス!」

 何故、そんな行動に出たのか、自分でもよく分からない。

 でも、見ているだけでは、いられなかった。

 テンタトレスに駆け寄り、真正面から抱き締める。

『……?』

 テンタトレスには、私は見えていないけど……少しは、気付いてくれたみたいだ。

 だから、今は……この夢の間だけでも、傍にいよう。

 

 私は…………闇の書の主なんだから。

 

――――ぎゅっ。

 

「、……え?」

 背中に、腕が回された。

『…………』

 その瞳が、私に焦点を結ぶ。

 

『汝…………なぜ、ここに……?』

 

 テンタトレスが、はっきりと私を認識する。そして…………

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「……」

ぱちっ、と、はやては目を覚ました。

「…………?」

だがその目は、今ひとつ目覚めきってはいない。

 

「おい……大丈夫なんだろうな」

傍らで待っていた秀人が、不安げに言う。

『問題無イ。我カラノ干渉ヲ防グタメ、少シバカリ意識ヲ閉ザシテイルダケダ』

自身の意思とは別に、言葉が口をつく。

「いや、駄目だろそれじゃ!?」

『貴様カラノ魔力供給ニヨリ、幾許カノ猶予ハ得タガ……根本的ナ解決ハ、無理ダ』

「……そうかよ」

秀人は、悔しげに唇を噛む。

『フン……試シニ、我ヲ滅スルカ?』

ふて腐れたようにそう吐いた。

(めっする……?)

薄らぼんやりした頭で、その言葉の意味を噛み締める。

(滅する……)

滅ぼす。もっと直接的には……

 

(…………『殺す』!?)

 

その意味を理解した瞬間……はやての意識、その自己防衛本能が、急速に覚醒した。

 

――ブォンッ!!

 

展開する、ミッド式魔法陣。転移魔法だ。

「なっ……!?」

『馬鹿カ、汝!? 何ヲシテイル!?』

ここでそんな魔法を行使してしまっては……一体何のため、魔力を補充したのか。

 

「殺させない……」

 

ぎゅっ、と、自身の身を掻き抱く。

秀人たちは、その言葉に違和感を感じた。

 

「……テンタトレスは、殺させないッ!」

 

……そう、言った。

『!?』

テンタトレスは、その言葉を聞き、硬直した。

「はやて、お前……」

秀人は、泣きそうな顔をする。

……はやてが手っ取り早く生命の危機を脱するには、闇の書、テンタトレスを切り離すしかない。言わば、テンタトレスは時限爆弾だ。

はやてが言ったことは、その逆。

 

――時限爆弾を守るため、その身を犠牲にする、と言っているのだ。

 

恐れられ、忌み嫌われ、憎まれるだけだった自分を……『守る』、と。

「この、大馬鹿野郎……!」

それが、『彼女』の内面に、どう響いたかは定かではない。

だが……

『……!』

 

――パシュンッ!

 

テンタトレスから、アイへ、データが送信される。

掠れていくはやての姿。

その目は、はやての目か、テンタトレスの目か。

だが、その目は確かに、こう訴えていた。

 

――『追って来い』、と。

 

その姿が、魔法陣の向こうへ消えた。

「く……っそぉ!」

だが、追おうにも魔力が空ではどうしようもない。

アースラとは、通信こそ回復したものの……転送が可能になるまで、あと少しは掛かるだろう。

「アイ……さっきのデータ、何だったんだ?」

先ほど、テンタトレスがアイに送り付けたデータ。

目を閉じ、それを読み込むアイ。

そしてすぐ……ぱっと顔を上げる。

「……! これ、転送先の座標なの!」

「でも……!」

「心配いらないの!今……!」

その言葉が終わらぬ間に、そのすぐ近くに転送反応。

「秀人!」「おまたせー!!」

ユーノとフェイトが、一番乗りだった。

「フェイト、よろしくっ!」

「りょーかいっ!バルディッシュ!」

『Yes、Sir!』

そのまま、再転送に入った。

ここに来たのは、アースラの転送で……その間中、フェイトは既に、詠唱に入っていたらしい。

「バルくん、これなの!」

アイが、珍妙な呼び名でバルディッシュを呼び……先程の座標を送る。

『OK』

 

「時間が無い!転送しながら、回復させるよ!」

「なのはは!?」

『今、貰った座標の場所に向かってもらってる!』

アースラから、エイミィが答える。

 

――ヴゥン……!

 

そして、転送が始まった。

 

(くそっ……間に合ってくれよ……!)

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「……ここ、」

目茶苦茶に座標を指定し、はやてが流れ着いた先は。

「……」

何の因果か……否や、必然か。

はやてが日常を過ごし……また、日常と決別した、因縁の地。

 

 

――海鳴小学校。

 

 

「……はは、」

虚無的に笑いながら、足を進める。

……その行動には、何の意味も無かった。

姿をくらますなら、また別世界へ逃げれば良いのだし、逃げ込むにしても、わざわざ袋の鼠になることも無い。

だからきっと……その行動には、『意味』は無くとも、『理由』があったのだ。

 

教室までの道のりは、意識に無くとも、身体が記憶していた。

 

――校庭を、歩く。

 

「麻宮の馬鹿が、蹴ったボールで職員室の窓をぶっ壊したなぁ……」

はやては、その麻宮と同じチームにいて……担任の咲に、怒られた。

 

――正面玄関を、潜る。

 

「ここで……佐々木と本郷が、靴を間違えたとか言って、喧嘩してたっけ」

同じメーカー、同じモデル、同じサイズの靴だったから……

『見分けがつかないならどーでもいいだろアホ』と、その場を納めた。

 

――階段を、上がる。

 

「加藤と宮本が、階段を何段飛ばしで飛び降りられるか遊んでて、先公に怒られてたな」

踊場から踊場へ……伝説の『全段飛ばし』を成功させたのは、はやてだった。

 

――家庭科室を、通り過ぎる。

 

「佐山と野村……あの阿呆ども、クッキーに砂糖と塩、間違えて入れやがって……」

自信満々に奨めてきたそれを一口かじり、あまりの塩辛さに往生し……爆笑しながら、班の全員で食べきった。

 

――長い廊下を、歩く。

 

「葛西と小川が、ミニ四駆なんて持ち寄ってたなぁ……」

はやては、えげつない井桁積み仕様のアバンテを持ち出し、ぶっちぎりの勝利を納めた。

 

「ただの、情報収集の腰掛けだったのに……色々、やったもんだなぁ」

歩けば、歩くほど……驚くほど多くの記憶が、浮かんで来る。

 

――そして、三年二組。

 

自分の教室に、到着した。

カラカラと、引き戸を開ける。

見慣れた教室。

席は、窓際、一番後ろ。

 

――カタン。

 

椅子を引き、座る。

「?」

机の中から、何か紙切れがはみ出している。

休んでいた間の、プリント類だった。

冬休み間近ということもあり、宿題ばかりだった。その中に、一枚……気になるものを、見つけた。

「……『将来の夢』」

自然と、手は机の中……置きっぱなしの筆箱に伸びていた。

 

 

――ころんっ。

 

 

数分後、鉛筆が原稿用紙の上に転がる。

「……宿題なんかやったの、久しぶりだな……」

ちらっ、と窓の外を見遣る。

空は、夕暮れに移り変わろうとしていた。

 

席を立ち、教室を出ようとするはやての目に、、黒板の真上、あるものが、映った。

 

――『運動会学年優勝 3年2組』

 

夕日を浴びて輝く、安っぽいトロフィーと、粗末な賞状。

 

「…………なんだ、ちゃんと貰えたんだ」

 

……不明な感情を抱きながら……教室を、後にした。

「……」

かつん、かつん……と、階段を下る。

 

――ばたばたばた……!

 

……と、自身のものとは別の足音が、階下から近付いてきた。

「うわ、やっべー!もう4時過ぎてんじゃんかよー!?」

……まだ、残っている生徒がいたらしい。

しかも、はやてはその元気な声に、聞き覚えがあった。

「あーくそ、早く帰んねーと…………って、アレ!? 八神じゃん!!」

サッカーボールを抱える、その少年は……

 

「……葉山」

 

クラスメイトの、葉山健太だった。

「お前、ずっとどうしてたんだよ!?」

その脇を、通り過ぎようとする。

だが、その腕を無遠慮に掴み、止める。

「……離せ」

「いーや、離さないぞ。職員室にまださーちゃん先生がいるから、一緒に行こうぜ」

「……何をしに」

「え? そりゃ、ずる休みのこと謝りに……」

「……いらねぇよ」

若干イラッとした様子で、その手を振り払う。

「な、なんだよ! おれも、望も、皆も、本当に心配してたんだぞ!」

……単純で、真っ直ぐな言葉。

その一つ一つが、はやてを揺さぶる。

「うるさい……!」

いよいよ、余裕が無くなったはやては、その常套区を、口にした。

 

「――死ねッ!」

 

こう言えば……大抵の人間は、呆然と動きを止める。

今までも、そうだった。

だが……

 

――がしっ。

 

……と、再び、はやての腕を健太が掴む。

さては、逆上したか……そう思い、振り向く。

「……って、言うな……」

「……え?」

はやては、戸惑う。

健太が浮かべていたのは、やはり怒りだったが……それは、はやてが思っていたものとは、少し違っていた。

そこには、隠しきれないほどの…………哀しみがあった。

目に一杯に涙を溜め、唇を硬く結び……まっすぐに、はやてを見る。そして今度は、ハッキリと……言った。

 

「――『死ね』って、言うな!!」

 

「――っ!」

はやては……怯んだ。

恐れ知らずの魔導師が……何の力も無い、少年の気迫に、一歩退いたのだ。

 

「人に、『死ね』って言ったら、いけないんだぞ!!

お父さんかお母さんに、言われなかったのか!?」

 

……驚くほど真っ当で……だからこそ、逆に新鮮に思えてしまう。

「……いいのか!?」

「な、何を……!」

「おれが、お前が言ったとおりに死んで、本当にいいのか!?」

はやては、ぐっと言葉に詰まり……売り言葉に買い言葉で、言い返した。

「……ふんっ! ああ、別にいいよ!」

はやての、必死の虚勢。だが……

 

「嘘つけ!」

 

健太は、それを突っぱねる。

「なっ……!?」

「おれが死んだら、お前、絶対に後悔するぞ!

『あんなこと言わなきゃ良かった』って、毎日毎晩、嫌ってほど泣くぞ!!」

確信を持って、そう言い切る。

「何を、根拠に……!」

「おれも、そうだったし! それに! ……それ、に」

健太は……一転、静かになり……言った。

 

「だって八神は……優しくて、いい奴じゃん」

 

……はやては、押し黙る。

「う……うぅ……!」

完全に、言い負かされ……ぽろぽろと、涙を流した。

ただの子供に、『闇統べる王』が……敗北した。

 

「……うわぁああああ~~~~~!!!」

 

後は、泣くだけだった。

「な、泣くなー!!」

「うるさいうるさいうるさぁああああい! り、リーゼに言いつけてやるからなこのやろー!!! ばーかばーかう〇こやろー!!」

「だ、誰がう〇こだー!」

……年齢相応に、低レベルな罵り合いを繰り広げる。

ぎゃーぎゃーと……だが、どこか楽しそうに、感情を爆発させる。

その姿は、恐るべき犯罪者でも、『闇統べる王』でもなく……そのへんにいくらでもいる、普通の子供のようだった。

 

 

「ぜー、ぜー……!」

「はー、はー……!」

息が切れるまで、その罵り合いは続き……

 

「『死ね』って……ぜー、はー……い、言うな……!」

 

「…………あああああ、もう!わかったわよ!」

はやてが根負けすることで、決着した。

「……はは、」

「……ふふ、」

踊場に、座り込む二人。

やがて、どちらからとも無く、笑い出した。

「あはははは……はぁ、はぁ、八神」

「はは……何よ」

 

「おれ……おまえのこと、本当に友達だと思ってる」

 

「……」

何もかも、捨てたと思っていた。

何もかも、要らないと断じてきた。

だけど……それでも……捨てきれないものが、あった。

「……ほら、職員室、行くぞ!」

差し出される手。

「…………」

はやては、それを、掴もうと手を伸ばし……

 

――パリィイイン!!

 

……ガラスを破り現れたソレに、阻まれた。

 

『……GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』

 

出鱈目に眼球を配置した、一抱えほどの、肉塊。

 

……グレアムの、成れの果て。

 

『YOコせェええeeeeeeeエeeeえeエee!!』

 

それが、明らかに、はやてを狙っている!

『汝ッ!!』

状況を静観していたテンタトレスが、はやてを鋭く呼ぶ。

肉塊は、目の前を遮る健太に、気付いた様子も無く……

「うわぁあああっ!?」

健太には、眠っているものの、Aランク相当のリンカーコアがある。

もし、肉塊に触れてしまったら……

 

「葉山ぁっ!!!」

 

――身体が、動いていた。

 

 

――ドスッ!!

 

 

「ぁ、ぐゥッ……!?」

健太を庇った身体に、肉塊が食らい付いた。

「や……八神……?」

「く、あぁあ……!」

呻くはやて。そして……

『汝!! ……オ、オノレ、貴様ァアアアア!!』

主を害されたテンタトレスが、激昂した。

 

――バチバチバチィンッッッ……!!

 

「ギYaAAAアアアあアッ!!」

肉塊が、体外に弾き出され、ボロボロと崩れ落ちていく。

だが……その断片は、はやてのリンカーコアへ、深く食い込んでしまった。

魔力がその傷口から漏れ出してしまい…………

 

――……ドクンッ!!

 

……猛烈な飢餓衝動として、表出した。

「ゥうううウウ……!」

ギラッ、と、理性を失った目で、健太を睨みつける。

『汝、気ヲ急クナ! マダ、魔力ハ足リテイル! ソノ者ヲ喰ラウ必要ハ無イ!!』

テンタトレスの、必死の呼びかけも虚しく……

 

――……とんっ。

 

……そんな、軽いような音を立て。

 

――はやての右手が、健太の胸板を貫いた。

 

「ぁ……あ……?」

ずるっ、と引き抜かれた手。

「ぁ……ぁああ……!」

……我に返ったはやて。だが、その手には……罪業の証のように、リンカーコアが握られていた。

 

――ドサッ。

 

力を失った健太が、はやての身体に倒れ込む。

「い、や……!嫌、嫌だ、こんなの、私は……!!」

健太の身体を抱きながら、いやいやと首を振る。

どうか、この少年だけは助けてほしいと。

だが、それを叶えてくれる者など、居ないのだと。

かつての、自らの行為を根拠に、遠巻きに理解した。

 

――『奪う』という行為と……その重さを、はやては、今の今になってようやく……その身で、理解した。

 

「……だ、ろ?」

健太が、はやての耳元で何かを呟く。

 

――――――な? 言った通りだろ?

 

……と。

だが……その理解は、遅すぎた。

 

―――――――――ッッ!!

 

声も無く、慟哭する。

 

――バキィイインッ!!

 

「八神、見つけ、た…………?」

飛び込んできた、なのは。

彼女が目にしたものは……

ぐったりとした、見るからに危険な状態の健太と。

……はやてが手にした、リンカーコア。

「……」

 

――シャキンッ。

 

静かに、回天桜花を抜き、構える。

「……もう、駄目なの……? 戻れないの……?」

悔恨と、慚愧。

「……八神ッ!」

その頬には、いくつもの涙が流れていた。

「ぁあ、あああああ……!」

対するはやてもまた……涙で、ぐしゃぐしゃになった顔のまま、なのはを見上げる。

 

『アァ……マタダ、マタ、我ハ……』

 

悔恨に満ちた、テンタトレスの声。

そして……

 

『……『ベツレヘムの星』、発動段階ヘ移行』

 

 

――――ズロロロロロロロロ……!

 

 

校舎全体を……影より昏き闇が、覆った。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

……闇に沈む校舎。

 

――からんっ。

 

机の上に放置された鉛筆が、衝撃で落ちる。

そして、それを重しとしていた一枚の原稿用紙が、はらりと舞った。

 

 

 

『将来の夢 三年二組 八神はやて

 

 

私には、『敵』がいます。

 

倒すべき敵。憎むべき敵。それは、間違いありません。

 

奴を倒すことが、私にとっての一番の目標……でした。

 

それは、今でも変わりません。

 

私の『敵』は、おせっかいなやつです。

 

毎朝毎朝、かったるくてサボろうとしても、必ず私を学校に連れて行こうとします。

 

教室で読書に集中していても、何かと話しかけてきて、読ませてもらえません。

 

ソーセージとかを生で齧っていると、火を通さないと危ない、と取り上げてきます。

 

夜食にカップ麺を食べていると、野菜も食え、とサラダを作ったりします。

 

運動していると、一緒にやろう、と言ってきます。

 

なんでも一人でしている方が好きなのに、邪魔をされます。

 

でも……最近はなんだか、それも悪くないように思えてきました。

 

一緒にいると、何故か安心できます。

 

一緒にいると、わくわくします。

 

一緒にいると、楽しいです。

 

だから、もっと、一緒にいたいと、ずっと、傍にいて欲しい。

 

いつでも、笑い合える、そんな    そんな   ――――

 

 

 

 

                           ああ、やっと分かった。

 

 

 

 

私は、あいつと、   

 

 

 

 

 

 

                友達に、なりたいんだ

 

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