魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第八十三話

 

 突如として溢れ出た闇。

「くっ……!?」

 退避しようとしたのだが……一瞬、躊躇したなのはは、反応が遅れてしまった。

 迫る闇。だが……

 

――バゴォンッ!!

 

「なのは! ボケッとしてんじゃねぇ!」

 ヴィータが壁を突き破り、救助に来た。

『Raketen form!』

 健太を担ぎ上げ、ラケーテンフォルムに変形させたグラーフアイゼンを、一気に吹かす。

 

――ドゴンッ!!

 

 再び壁を破り、闇の侵食から、ようやく逃れることが出来た。

「……エイミィ、他は!?」

『たった今、全て転送完了! 残ってるのは……その……』

 職員室にいた長谷川や咲は、既に救出済み。

「……民間人が一人、八神の被害に遭ってリンカーコアを抉られてる。アースラに運んで!」

『了解! いま、そっちにユーノくんが向かってる! 応急処置は彼に!』

 なのはが見ている中……広がり続けた闇は、学校の敷地一つを埋め尽くしたところで、一応の収束を見た。

「……!」

 

――ヒュッ!!

 

 試しに、マーカーを着けた金具を闇に投げ込んでみる。

 特に抵抗を残すことなく、闇の向こうへ消えたのだが……

『マーカー反応消失。どうやら、完全に敵のテリトリーのようですね』

「…………うん」

 下手に足を踏み入れることは、出来ないようだ。

 

「…………」

 健太は、浅い呼吸を繰り返している。即座に絶命することは無いだろうが、危険であることに変わりは無い。

「…………もう、駄目なのかな」

 刀を握る手を、力なく垂れ提げる。

「もう……敵にしか、なれないのかな」

 去来する、これまでの思い出。

 だがそれも……健太を手に掛けたことで、上塗りされてしまうのだろうか。

八神はやてを、『敵』として対処しなければならないのだろうか。

『…………マスター、』「なのは……」

 主の弱気な呟きに、ヴィータもレイジングハートも、明確な回答を出せなかった。

 

「…………八神、」

 その健太が、僅かに意識を取り戻した。

「! 葉山君!?」

「…………まだ中に、八神が、」

 ……はやてが逃げ遅れたもの、と誤解している。

「うん……まだ、中にいるよ」

 それを聞く余裕があったのかどうかは、わからない。

「助けないと……!」

 健太はただ、うわ言のように言葉を続ける。

「でも……あいつは、」

「……あいつ、ばかだから…………誰かの助けなんて、借りないと思う…………うぅっ……!!」

 苦しげに、身体を丸める。

「葉山君!」

「だ、だから……あいつは、だれか……だれかが……!!」

 必死に、その言葉を口に出そうとする健太。

 その身体が、ひょいっと持ち上げられる。そして……

 

「…………誰かが無理やり、助けてやらないとな」

 

 その言葉を継いだのは、秀人だった。

「悪いな、遅くなった」

 その脇には、ユーノと、フェイト。そして、アイがいる。すぐ、ユーノが健太の治療に入った。

「…………うん、なのはと同じような状況だ」

 同じような……というと、半年前、蒐集された時。

「……ほぼ休眠状態だったのが幸いだった。これなら、ちゃんと治してあげられる」

 魔法陣を展開し、その光に包まれる。呼吸が穏やかになり、血色も良くなっていく。

「よかった……!」

 安堵するなのは。

「なのは、ハヤマは? だいじょーぶだよね?」

 その周りをちょろちょろするフェイト。

「……うん。ユーノくんの治療、間に合ったみたいだから」

「そう言うお前は、ギリギリだったぞ」

 ヴィータが、やや咎めるような口調で言う。

「……たしかに、あの子が闇の書の主であることは間違いない。そりゃ、信じたくはないだろうけどさ……ああいう場面で、迷うな」

 じろっ、と指をさされる。

「……ごめんなさい」

 しゅんとなる。

 

「なかなか、根性のあるガキンチョなの」

 アイが、健太の頭をポンポン、と軽く叩く。そして、まるで見ていたような口ぶり。

『アイ。あなた、もしや…………』

「転送中、ある程度まではモニターしていたの」

 

『……なら、説明は不要だな』

 通信の向こうで、クロノが言った。

『医療スタッフおよび機材の準備完了。現地の医療機関に、その少年を搬送する手はずは整えた』

「現地……? アースラじゃないの?」

 なのはが疑問を抱く。治療には、アースラの設備を利用するのが第一ではないのか、と。

 だが……

『……ここは、管理外世界。そしてその少年は、そこの住人だ』

 忘れがちだが……管理局は、管理外世界に過度な干渉はしない。それこそ、なのはや秀人のように、不可抗力からその知識を得たものに関しては例外だが。

 とはいえ、放置できる問題ではなく……人材と機材を現地で運用するという手段で、健太の治療に最善を尽くす、ということらしい。

『……………………すまない』

 クロノにも、どうすることもできないのだろう。クロノも、その法を遵守すべき、管理局員なのだから。

「…………わかった」

 なのはは、渋々了承した。

 

 そして、五分も待たない内に、救急車のサイレンが聞こえてきた。

 アースラの手配の影響か、滞りなく進む。というか、救急車のスタッフ全員が、見覚えのある…………アースラ医務室の局員たちだった。

「ご友人の治療は、お任せ下さい」

「…………任せます」

 なのは達に敬礼し、救急車は走り去って行った。

 

 学校の敷地は、認識阻害の結界で覆い尽くした。

 幸いにも、終業式までには土日を挟むため、一般人が足を踏み入れることはほぼ無いだろう。当直の教職員には、記憶の改竄が施されるという。

「………………」

 なのはは、闇に覆われた校舎を見上げる。

 恐らくは、はやてのことを考えているのだろうが……固く引き結ばれた唇から、その内情を推し量ることは出来ない。

「……なのは。一旦、引こう」

 ユーノが、その背に声を掛ける。

「彼の容態も気になるし……こんな連戦続きのコンディションで、作戦も無しに、突っ込むのは自殺行為だ」

 戦闘に次ぐ戦闘。

 体力・魔力が満タンに近いのは、なのはとフェイト、それにヴィータくらいのものだ。

「……………………ユーノくんが、そう言うなら」

 一旦、退却することに決めた。

 立ち去り際。それでもなのはの視線は、いまだ闇の向こうへ、向けられていた。

「……………………八神、」

 だが、その先は言葉になることは無かった。

 

 そして、なのは達は、健太の搬送された病院へやってきた。

 中規模の医院で…………表の看板には、『八代医院』とあった。

「これって……あのパターンだね」

「ああ…………あのパターンだ」

「うんうん……あのぱたーんだよね」

 ……フェイトは、正直良く分かっていなさそうだった。

 そして、バタン! とエントランスの扉を開け、入ってきたのは…………

 

「……なのは!?」

 

 汗だくになって飛び込んできたのは、セミロングの少女。

「…………望、久しぶり」

「やっほー」

 健太の幼馴染にして、なのはの友達……八代望だった。

「吾妻さんに……ユーノくん、ヴィータちゃんにアイさんまで……」

「んー……アルフがいれば、ふるこんぷりーとだったのにねー」

 フェイトがのんきに、そんなことを言った。

「……って、そうだ、健太!」

 慌てて駆けて行く望の後を、秀人たちも追った。

 

「望ちゃん! 病院は走らない!」

「あ、はい! すみません婦長さん!」

 通り過ぎざまに、中年の女性看護師に注意される。

「望ちゃん、って……」

「ここ、わたしのお父さんの病院だから。……健太が担ぎこまれたって聞いて、本当にびっくりしたわよ」

 そして、健太が運び込まれた病室に入る。

 ベッドに眠る健太と、せわしなく動き回る医師……に偽装した、アースラの医療スタッフたち。その傍でカルテのようなものを記入する、白衣姿の男性。

「お父さん、健太は!?」

「ああ、望かい」

 その男性は、どうやら望の父親らしい。

「外傷も無く、脈拍も正常だ。今すぐにでも、目を覚ましても不思議じゃないんだが……」

 ぽりぽりと、困った風に頭を掻いた。

「……なんか、見知らぬ顔がまぎれているような気がするんだけど……気のせいだよね?」

 ……ぎくっ、と、医療スタッフが動きを止める。

「……………………もう、やだなぁお父さんってば。そんなわけないじゃない」

 何かを察したらしい望が、笑い飛ばす。

「ははは……そうだよね。まさかこのぼくが、同僚の顔を見間違えるなんてコト、あるわけないもんね」

 弱弱しく笑い……真剣な表情になる。

「……………………健太くんになにかあったら、愛華さんに申し訳が立たない」

「……お父さん」

 

「あの……葉山君のご家族に、ご連絡は……?」

 なのはが、恐る恐る、聞く。

 一瞬、望の父親がバツの悪そうな顔をするのを見て……なのはは、その話題を振ったことを後悔した。

「健太君の父親は、航空会社でパイロットをしている。今頃、地球の裏側だよ」

 連絡が届いたところで、戻ってくるのは不可能。

 では、母親は…………

「母親は……一昨年の冬、交通事故で…………」

「…………え」

「……………………」

 望も、言葉無く頷いて見せた。

 じゃあぼく、他の患者さんのところ行ってくるね……と、望の父親が退室して行った。

 

 あれだけ明るくて活発な少年が、母親を亡くしている。その違和感に、なのはは首を傾げた。

「この馬鹿、これでも大分塞ぎこんでたのよ? …………なのはが転校してくる前後の話だから、知らないのも無理もないけど……」

「………………」

 転校が云々以前に、他人と接触しなかったなのはが、覚えているとは言いがたい。

「……喧嘩したまま、それっきりだもん…………塞ぎこみもするよ」

 親子喧嘩などというものは、普通の親子が、普通に経験することだ。もちろん、たいていの場合、すぐに和解もできよう。

 だが……突発的なアクシデントで、それが叶わなかったとしたら……

 

「――『死ね』って、言っちゃったんだって」

 

「……!!」

 もちろん、ただの子供の悪口。だが、永遠にそれが撤回できなくなってしまったのだ。

「『あんなこと、言わなきゃよかった』って……毎晩毎晩、うなされて……」

 はやてに語ったあの言葉は、実体験によるものだった。

「家族ぐるみで仲のよかったウチで、しばらく面倒見て……やっと笑えるようになるまで、一年も掛かった」

 だから、あそこまで必死に、はやてに食って掛かったのだ。

「……健太は、これ以上傷ついたらいけないの」

 きっ、と、なのはを見る。

 

「――教えて。健太に、何があったの」

 

 …………望は、管理外世界の住人。

だが……クロノが例外として語った、『不可抗力としてその知識を得ている』人物だ。

 知る権利は……ある。

「クロノ、いいね」

『……………………止むを得まい』

 許可。

 そして、なのはは全てを話し始めた。

 

――半年前、襲撃を受けたこと。

 

――ヴィータは、その時の襲撃者であること。

 

――八神はやてが、一連の連続失踪事件の犯人であること。

 

――目的は、人間の持つ魔力であること。

 

 一から十まで、全てを話した。

「………………そう、八神が」

 健太をこんな風にしたのが、クラスメイトだと知り……

 

「…………うんっ、よし!」

 

 ……決意の表情で、くるっと踵を返した。

「ちょ……望!? どこ行くの!?」

 

「八神のやつ、ぶん殴ってくる!!」

 

「待って待って待って! 私の話、聞いてなかったの!? 八神は、その…………」

 凶悪犯だ、と一言で断言できず、ごにょごにょと濁してしまう。

「関係ないわよ、そんなもん!」

「そんなもん、て…………」

 愕然とするなのはに、望は、ずいっと顔を寄せ…………

「なのははどうなのよ!?」

「お、怒ってるよ……? だって八神は、本当に悪い奴で……」

「ちがーう!」

 

 そんなしどろもどろな回答を、望はぶった切った。

「……わたし、八神と一緒に遊ぶの好きだった」

「…………」

「でも、あいつはどこかで遠慮してて……壁作って、閉じこもってて………それどころか、こんなに簡単に捨てられるとか、意味わかんないもん!」

 肩を怒らせ……どうやら、本気で腹に据えかねているらしい。

 

「納得できないから、ぶん殴って問い詰める!」

 

 …………子供というのは、時として過程をすっ飛ばし、結論を出してしまう。

 望の言ったことこそ…………なのはが、感じていたモヤモヤの正体だった。

「うん……そうだね」

 ぎゅっ、と拳を固める。

「……ちゃんと、納得させてもらわないとね!」

 ……それらは全て、置いておく。

敵だろうと、そうでなかろうと。

 

――ただ、納得の行く答えを。

 

「望……その役目、私が任されてもいい?」

「おう! いったれいったれ! あんのアホタレに、キツいの一発くれてやれい!」

 どうやら、奮起したようだ。

 

 望と健太を残し、秀人たちは病院を後にした。

「んじゃ、作戦会議か」

 秀人が、そんな風に切り出した。

『ああ、その件だが…………出来れば、いつもの場所で願いたい』

「いつもの……って、また俺の部屋……?」

 あの八畳の部屋に、スシ詰めになるというのだろうか。

『……どうにも、そこを希望しているお方がいてな』

「……? まぁ、いいけどさ」

 引っかかるものを感じたが……秀人は特に考えることなく、了承した。

 

 そして、秀人のアパートに戻り、大家も招き、秀人の部屋に入り込む。

 

「…………すまない、遅くなった」

 

 そして、クロノがやってきた。

「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」

 何故か、固まる一同。

「なっ……なっ……なっ……!?」

 唯一、秀人だけが、ワナワナと震えていた。

 そう。部屋にやってきたクロノは…………とある人物(・・)を、伴っていた。

 

「……邪魔するぞ、小僧」

 

 がっちりした体格を、これまたがっちりした軍服に身を包む、いかつい男性。

 

「……レジアスのオッサン!?」

 

――レジアス・ゲイズ少将だった。

 

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