魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第八十五話

 秀人がなのはを連れ、最初に訪れたのは、アリサの邸宅だった。

 夜間ということもあり、窓から明かりが漏れている。

「……相変わらず、でっけー家だな。間借りしたいくらいだ」

「あはは……でも、お掃除が大変だよ。光熱費だって……」

 所帯じみたことを言い合う二人の前に、執事服を着た男性……鮫島がやってきた。

「吾妻様、高町様。ようこそおいでくださいました」

 慇懃に礼をする鮫島。

「あ、鮫島さん。寄って行くのは、なのはだけで……俺はちょっと、別の用事が」

 秀人は、他に行くところがあるようだ。

「左様で御座いますか」

「じゃ、なのは。後で迎えに来るから」

「うん、行ってらっしゃい。また後でね」

 そして、なのはを残し……秀人はまた、夜の街にバイクを走らせる。

 

「……ん?」

 信号待ちをしている対向車線のバイクが、パッシングをしている。

 ミラーを覗くが、秀人に後続車両はついていない。

「……?」

 ハイビームにはなっていない。不思議に思い、路肩に寄せて停車する。

 

――パララララ……

 

 信号が青になり……特徴的な2ストロークの音を立て、対向車がUターンし、秀人に並んで停車した。

 ミラーシールドを開けたのは、秀人もよく知る人物だった。

「秀さん、チーッス!」

「あれ、ヨシオじゃん」

 職場の後輩、ヨシオだった。

「今日はオフだろ? どこ行ってたんだ?」

「ちょっと早いクリスマス祝いを兼ねた妹の見舞いと………………あと、コイツの慣らしッス!」

 びっ、と己の愛車を指差す。

「何だよお前、NSR買ったの!?」

 バイク好きの血か……目ざとく、その車両の話に移る。

「はいッス! 苦節一年、チャリで通勤し昼飯を抜き小遣いを貯め深夜コンビニのバイトを増やし、とうとう買ったッス!」

 誇らしげに愛車を見せびらかす。実に、年頃の少年らしかった。

「しかもバーハン仕様…………スーフォアの流用?」

「セパハンだと肩こるし、周りが見えないッスから」

 メーターの時計を見やる。

 まだ、時間に余裕があるということで、路肩で世間話を始める秀人たちだった。

「ぶっちゃけ最初は、あと二年貯めて、中古のランエボでも買おうかな~って思ったんスけど、四つ輪はカネかかるじゃないッスか」

「あー……確かにな。でも俺も来年、クルマの免許も取らなきゃ」

「ウチのッスか?」

「ああ。俺もさすがに、いつまでも助手席ってのもアレだし……4tだったら、運転できるようになるからな」

「自分のクルマなら何に乗るッスか? RX-8とか?」

「キャラバンのスーパーロングGX」

「…………秀さん、夢が無いッスよ」

思いっきり、商用車だった。

「だってバイク乗せられるし、人も乗れるし、荷物も載るし……寝転がって車内泊もできるんだぞ?」

「うっ……それは、いいかもッス」

「そういえば、桃子んトコはそれに乗ってたな……………………アレを奪うか」

 翠屋の商用車をターゲットにする、何気に遠慮のない秀人だった。

「バイト先のコンビニにも、結構停まってるッスけど………………あ、そうだ」

 と、そこで何かを思い出したように、話を変えた。

「足繁く通ってたウチの客が、最近パタっと来なくなって心配してるんスよ」

 客が来ないなど、別に気にするようなことではないのだが……

「なんか、口の悪い女のガキンチョで…………深夜にジャンクフードとか弁当とか、たまにアイスとか山盛り買っていくんスよ」

「親は何をやってるんだ…………」

 呆れる秀人。

「さぁ……でも、車椅子で来たり、たまに身体にアザとか作って来るんでマジ心配で…………」

 すわ虐待か……と、渋い顔を作る秀人。

「あ、でも。たまに、そいつのねーちゃんっぽい人が現場を押さえて連れ戻すッスね」

「ねーちゃん…………『っぽい』ってなんだ?」

「なんか、あんま顔似てないし、そのガキンチョに対して敬語使ってんスよ。変ッスよね?

でも、けっこー仲いいっぽいッスよ。そのガキンチョも、なんだかんだ言って買わないで帰って行くッスから」

「……そうか、ならいいんだ」

 ちゃんと味方がいるならいい、と納得する秀人。

「あー、そうそう。そのガキンチョに、礼言っておきたいんスよ」

「礼?」

「ウチの妹、前にとんでもないヤブ医者に捕まってて…………でも、そいつが教えてくれた医者に掛かってから、どうにか改善し始めてきたんスよ」

「ほー……そいつは良かった。悪いのは、脚だったっけ?」

「はいッス。なんか、神経が変な動きをする奇病みたいで、二年くらい前から急に始まっちゃったんスよ…………って、やめやめ。暗い話はやめるッス!」

 ぶんぶん、と手を振る。

「はは…………んじゃ、またな」

 話しているうちに、割と時間が経ってしまった。

「はいッス! 今度、どっかツーリング付き合ってもらっていいッスか?」

「ああ、付き合うよ」

「約束ッスよ? んじゃ、またッス!」

 

――カションッ! …………パラララララララッ!

 

 ヨシオは、愛車のエンジンを始動し、走り去っていった。

 

 

――カランカランッ……

 

「おーっす。儲かってるかー?」

 ドアベルを鳴らし、店内に入る。

 23日ということもあり、イブほどでないにせよ、店内は盛況だった。

「いらっしゃいませー……って、あれ。秀人君じゃない」

 出迎えた美由希が、驚く。

「最近、あんまり来なかったよね」

「…………まぁ、いろいろと」

 家出して凶鳥部隊で暴れてました……などと言える筈は無かった。

「ちょっと土産が必要でさ………………ミルクレープとガトーショコラとサバラン、残り全部」

「げっ……食べ過ぎじゃないの?」

「渡す相手が二人なんだよ」

「ああ、そういうことか…………って、それにしても11個は多くない?」

「一人がすんげぇ甘党でさ」

 離している間に、ケーキが出来上がった。

「それじゃあ、お代は……」

「ゴチになります!」

「奢らないよ!?」

「じゃあ恭也にツケとく」

「あ、それならいいや」

 

「いいわけあるかっ!」

「いたぁっ!?」

 パカンッ、とお盆で美由紀の頭を叩き、恭也が現れた。

「ちぇっ……」

 渋々、代金を支払う秀人。

「こらこら、お客さんの前で騒がないの……って、あら、秀人くん。いらっしゃい」

「よっ、桃子」

「お買い上げ、ありがとうございます」

 ぺこっ、と秀人に頭を下げる。

「ああ、そうそう。今度の食事なんだけどさ、」

 食事……というと、毎週のアレだ。

 

「もしかしたら、次回は流れるかもしれない」

 

 ………………その言葉に、どれほどの意味合いがあるのか、桃子達に理解できたかどうかは分からない。だが…………

「じゃ、また。ケーキありがとな」

 と、踵を返し、歩き始めたとき……

「……っ!!」

「うぉわっ!?」

 ぎゅっ、と、いきなり背後から桃子に抱きすくめられ、秀人が驚いた。

「お、おい…………何だよ、桃子」

 戸惑う秀人。恭也と美由紀も、呆然としている。

「秀人くん……ちゃんと、帰ってくる?」

「……? はぁ、まぁ……」

 生返事を返す秀人を見て、桃子が言った。

「今の、秀人くん…………あの日の士郎さんと、同じに見えて…………」

 ……高町士郎。未だに目を覚まさない、なのはの父親。

「………………気のせいだろ」

 振りほどこうとするが、桃子も離さない。

「ちゃんと約束して。ちゃんと……用事が終わったら、帰ってくるって。ちゃんと無事に、戻ってくるって」

「…………はぁ。約束するよ」

 さすがに、これ以上客の目線に耐えるのは難しい。

 ようやく桃子は、秀人を離してくれた。

「…………約束よ?」

「わかったわかった…………戻ってきたら、クリスマスケーキでもご馳走してもらうよ。…………はやても一緒に」

 静かな決意を胸に、秀人は店を出た。

 

 次いで向かったのは、これまた馴染みの場所。

「……カントク、お邪魔します」

 秀人の職場だった。

 もう日も暮れたというのに、事務所には煌々と明かりがともっていた。

「…………おう、ヒデか」

 疲れた声で、椅子ごと振り向く。

 その手元にある書類……備品・消耗品の発注書、取引先への敬具、お得意様へのメール……の多くは、本来、秀人が担当する雑務だった。

「あの……」「座れ」

 有無を言わさず、椅子を一脚、秀人に差し出す。

「……失礼します」

 それに腰掛ける。

「さて…………言わなくても、わかってるよな」

「…………はい」

 およそ二週間にも渡る、無断欠勤。それが、社会人にとってどういうことなのか、分からない秀人ではなかった。

 

「お前はクビだ」

 

 ……覚悟していたとはいえ、改めて言葉にされると、やはり衝撃が大きい。

「…………!」

 俯く。

 やはり、数年間、苦楽を共にしてきた人間から突きつけられる絶縁は、耐え難く……

 

「…………なーんてな!」

 

 …………耐え、難く…………?

「…………はい?」

「だーッハッハッは! いやー、すっかり騙されてやんの! リンディさんから連絡あったっつーの! 傑作傑作!」

涙を浮かべたまま、きょとんとする秀人を見て……カントクは、ゲタゲタと爆笑したではないか。

「な、な、な…………!! だ、だ、騙しやがったな……!!」

「ひー、ひー……っ! あー、おもろかった……ま、これでチャラにしてやるよ」

「カ、カントクてめぇ……!!」

「お、やるか青二才!」

 ぷるぷると屈辱に震える秀人。だが、その拳を振り上げるわけにもいかず、ふくれっ面で、椅子に座りなおした。

「…………すんませんでした」

「ま、男には、独りになりたい時も有るわな」

 秀人は、持っていたケーキの箱を渡す。

「これ、土産です」

「なんだこれ…………お、ケーキじゃねぇか! 気が利くな!」

 サバラン三個。ガトーショコラ二個。

 手づかみ……などにすることはなく、付属の小さなフォークで、チマチマと食べ始めた。

 浅黒い肌をした筋骨隆々の大男がそうしているのはやはり、どこか違和感がある。

 禁酒を守り続けた結果、大酒呑みが大甘党へとジョブチェンジを果たした経緯があることは、誰ぞ知ることや。

「おー……美味いなこれ。どこのだ?」

「翠屋っていう、大通りの店です」

 

「ああ、なのはちゃんとこの」

 

「はい、そうで…………はいッ!? 今なんと!?」

 いきなりなのはの名を出され、飛び上がる。伝えたことは無いはずだが……

「だーかーら、なのはちゃんだろ? お前が一緒に住んでる、小学生の女の子」

「……あの、話したことありましたっけ?」

「いや、無ぇけど」

 もぐもぐ、とケーキを頬張りながら、あっけらかん、と言う。

「お前がいなくなってから……そうだな、三日くらいか? ちんまい子が尋ねてきてな」

「え……」

「『秀人さんは、少しトラブルがあって帰るのが遅れているだけなんです』って…………」

 ……秀人の失職を防ぐため、駆けずり回っていたらしい。

「いやぁ…………女がいるのは薄々気付いてたけど……まさか小学生たぁ驚いたぜ」

「………………」

「俺は、ついにダチを通報する日が来たのかと……! うぅっ……!」

 わざとらしく泣き真似をするカントク。

「…………」

 ぴっぴっぴっ。

 秀人は、無言で携帯電話を取り出し…………

 

「…………なぁのはぁああああああああああああ!! どぉいうことだぁああああああああああああああ!!?」

 

 …………羞恥の咆哮を、上げたのだった。

 

『だって、秀人さんがクビになっちゃったら大変じゃない』

 

 電話を受けたなのはは、しれっとそう言った。

『管理局からの報酬で暮らすのもいいけど、そんなあぶく銭で暮らすなんて、不健全でしょ?』

「いや、それはそうだけど……」

『だけど?』

「…………いや、別に。でもさぁ、でもさぁ…………俺にも、プライド的なものが…………」

『だったら、家出なんてしなければよかったじゃない』

「………………でもさぁ、でもさぁ」

 ウ○コ座りをしたまま、ぶちぶちと愚痴る。

 その携帯電話を、カントクがひょいっと持ち上げた。

「おう、なのはちゃんかい? オレだよオレ」

『あ、カントクさんですね。いつも秀人さんがお世話になっています』

「キャーーーーーーーーーー!」

 ばっと携帯電話を奪い返す。

「ああああ後で掛けなおすから! 掛けなおすから!」

 電源を切り、ポケットに突っ込んだ。

 

「お前、尻に敷かれてんなー……」

 ……散々好き勝手やった挙句、この台詞である。

「…………」

 ……秀人は、無我の境地を体現していた。

 カントクは、ケーキを食べ終え、フォークを置き……

 

「…………んで、本題は何だよ」

 

 そう切り出した。

「…………はい」

 秀人も、姿勢を正す。

 

「明日、俺は人助けに行きます。もしかしたら、大怪我をするかもしれません」

 

「…………」

 カントクは腕を組み、じっと聞き入っている。

 

「もしも明日、俺が戻ってこなかったら…………会社の籍から、俺の名前を抜いておいてください」

 

「………………」

 嘘は無いかと、秀人と目を合わせる。

「…………本気か」

 低い……付き合いの長い秀人だから分かる、本気の怒りの声だった。

「はい。…………これ以上、迷惑は掛けられ、」

「馬鹿野郎ッ!」

 

――……ガシャンッ!!

 

 殴られた拍子に、椅子から転げ落ちる。

 その際、どこかで傷をつけたのか、どろっと血が流れた。

「……!!」

 咄嗟に、傷口を隠す。

 治癒の瞬間を見られてしまうことは、大いに困る。

「ッ!」

 だが、その手をカントクが掴み、傷口を間近に見られてしまった。

「………………」

 見られて……しまった。

 表情を失い、力無く顔を逸らす。

 だがカントクは、驚くでも、嫌悪するでもなく……

 

「……コレ関係か」

 

 ……と、言った。

「……気付いてたんですか?」

 そう聞く秀人に、カントクが頷く。

「あたぼうよ。何年付き合ってると思ってやがる」

「……四年」

「四年六ヶ月だ」

 細かく訂正する。

「まぁ、オレも最初はたまげたよ。お前の馬鹿力も含めて」

「…………」

「その人助けってのは、この力が必要なんだよな」

 ここで魔法を見せたとしても、カントクは理解するだろう。

「…………はい」

「だったら、遠慮するこたぁ無ぇだろうが!」

 バシン! と、秀人の背中を叩く。

 

「逃げ道なんて用意してるヒマがあったら、さっさと済ませて、とっとと戻って来い!」

 

「……!」

「へっ。お前の仕事は山ほどあるんだ。そう簡単に、辞めさせるかってんだ!」

 不遜なその物言いに、秀人は…………

 

「……わかりました! さっさと済ませて、とっとと戻ってきます!」

 

 笑顔で、そう答えた。

 そして、秀人が事務所から出て行ったのを確認し……

「…………戻って来いよ、ヒデ」

 小さく、そう呟いた。

 

 さて……これで秀人のあいさつ回りは終わり……ではなく。

「…………」

あと一件。これだけは、どうしても外せない人がいた。

「…………」

 着いたのは、住宅の少ない高台の上に立つ……総合病院。

 

「…………………………秀人くん?」

 

 退勤したところなのだろう。私服でバッグを持った石田が、車の鍵を手に、呆然と立ち止まり、秀人と目を合わせた。

 

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