魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第八十七話

 

「……プレシア」

 鼻をすすり、マリエルがモニターを見上げる。

『……あなたは、よくやったわ。足りない時間で、闇の書への対策と、秀人の依頼……その両方に、応えて見せたじゃないの』

「でもォ…………」

 ぐしぐしと目元を擦る。

「散々、天才だとか自称しておいて……結局、出来上がったのはあんな自爆装置で……」

 完全に自信を喪失してしまったのか、汚い床にペタンと座り込んでしまった。

「……まるで、『死んで来い』って言ってるようなものじゃないか…………」

「…………」

 アイは、泣かせてしまった気まずさから沈黙する。

『ほら、まだアイに見せてない成果物があるでしょう? あれも出して御覧なさい』

プレシアが、見かねたように話の続きを促した。

「あ――ああ、そうだな。そうだったな……」

 そして、ゴミの山をワサワサと掻き分け…………長細い容器を、ずるずると引きずりながら戻ってきた。

「……」

 今度は不用意に使用せず……恐る恐る、その箱に触れる。合金製の、頑丈な容器だ。

 留め金を解き、開封する。

 

――ゴロンッ。

 

 そして、転がりだしてきたのは、直径15センチほどの球体だった。

「………………鉄球?」

 随分と重量があるらしく、片手では持つのも一苦労。

「秀人から聞いたんだけどさ……あいつ、圧縮してエネルギーを取り出すのに、そこらへんの石ころとかでやってたらしいんだ」

 依頼するにあたって、マリエルには秘蔵の切り札のことを話したらしい。

「でも、もちろんそれらは均一な形状をしていないし、エネルギーを取り出すにもロスが生じる」

 時間が掛かる。それが、秀人が軽々しく戦闘で使用しなかった理由だった。

 圧縮を使うのは、魔力が本当にエンプティに近づいた時のみ。そうでなければ、その時間で魔力を放出した方が早いからだ。

 だが、この金属球は…………

『私が開発した、艦船の動力炉にも転用可能な魔導合金よ。質量は、黄金を軽く上回るわ』

「それを、ワタシが限りなく真球に近い形に仕上げた」

これならば、ほぼロス無く圧縮することができる。

「アイ。先の戦闘では、どこまで使った?」

「……第一形態までなの」

 右半身を重点的に武装した、第一形態。

 だがあれは、右手の魔力結晶を失ったことで、使用不可能になってしまった。

『アイ。確認するけれど……秀人はこの戦いで、どこまで使うと予想している?』

「……多分、次は第二……いや、第三までは間違いなく解放するの」

 段階ごとに力を増していく、イモータルハート。

「……運用は、理論的には可能だろうな。一番の問題だったエネルギーは、解決の目処がついた」

 だが、力を増すのに比例して、求められるエネルギーもまた、莫大になっていく。

 有り得ない仮定だが、もし、秀人以外がイモータルハートを使用したら、起動の段階で魔力・生命力を枯渇させ、死亡してしまうだろう。

「第二なら、その球ひとつにつき、カウントは20秒。第三なら、その半分だ」

「……合計、100秒以下」

 アイが、難しい顔をする。

 いくら使えるようになったとはいえ、心許ない数字だ。

『とはいっても、それは全開駆動での話。秀人自身の魔力での運用であれば、第一と同じ要領で使える筈よ』

 プレシアが、それに補足する。

「……そのための、ブラスター?」

 あれだけ無茶苦茶な出力を可能にするシステム。

 マリエルは嘆いたが、やはりそれは、イモータルハートを運用する上で、有用なものだった。

「……マリエル、ごめんなさいなの」

 そうとは知らず当たり散らした自分を恥じ、マリエルに謝罪する。

「……いや、それでも駄目なものは駄目だ。わかるだろ? いくらアイツが死にづらい身体だとはいえ、その負荷は並大抵のものじゃない。使い手に必要以上の負担を強いるものなんて、失敗作なんだよ」

 技術者として、譲れないらしい。

「負荷……」

 だが、アイが気付いた。

 それが、『使い手』に負担を強いるのが、失敗作だというのなら……

 

「――その負荷、アイが受け止めるの」

 

 ……機材が受け止めればいい、と。

「『え……?』」

 始めキョトンとしていた二人だったが、アイの提案を受け、可能性を見出だした。

「確かに、それなら、秀人への負担は最小限にできる」

『……肝心なことを見落としていたわね。デバイスの本分は、むしろそちらだもの』

 使い手への負担を軽減する。

 それは、デバイスの本領だ。

 あまりにもアイが人間くさいものだから、すっかり忘れていた。

 しかし……

 

「……でも、いいのか?」

 

 マリエルが、不安げに聞いた。

『……並大抵じゃないわよ。下手をしたら、あなたの本体が破損する恐れが……』

 アイの身を案ずる二人。

 だが、アイは真球を、ためらい無く自らの内に収めた。

「マスターを支えるのが、アイの存在理由なの」

 そして、胸を張り……

 

「アイを……自分達の子供を、信じるの」

 

 ……二人の産みの親に、そう言った。

「……わかった。すぐに取り掛かろう」

『期限は、明日まで……ギリギリね』

 マリエルとプレシアは、機材を立ち上げる。

 完全にスイッチが入った二人を見て、アイは静かに部屋を出ていった。

 

『……驚きね。まさか、アイがあんなことを』

「……」

 マリエルは沈黙したまま、答えない。

『マリエル?』

 ふと、我に返った。

「……あぁ、いや。ワタシに、明確な親はいないからなぁ」

 ポロッ、と、自らの出自を口にした。

「いつぞやの、いずこかの、優秀な遺伝子同士を掛け合わせて『製造』されたのが、ワタシたち」

『プロジェクトF……!?』

 その、他人事とは思えない話に、プレシアは一瞬、手を止めた。

「いや、違うよ。そもそも、年代が噛み合わないだろう」

『あ』

 プロジェクトFが発足したのは、十年以内の出来事だ。

「もっと高度で、もっと確実で……もっと、外道なものさ」

 歪な……異形の、ヒトクローン製造技術。

 

「デザイア・|チルドレン」

 

 それが、名だった。

「とはいえ、製造された15体のうち、10年以上の生存が確認されたのは、僅か三体。

 その三体にも、深刻な人格破綻が認められ、『規格を満たしていない』として、払い下げられた」

『……』

「あぁ、別に、辛気臭くなる必要は無いぞ。二人とも、とりあえず生きてる」

『そう……』

「ワタシは、機械工学。一人は生物工学。もう一人は……まぁ、それはさておき。

一応、全員きょうだいに当たるのかな。母系か父系か、どっちかの遺伝子は共通だし」

『……名前は、何と言うの?』

 複雑な、親愛の情を覗かせ……

 

「――アーデルハイド・アーバイン。

 

 ――ジェイル・スカリエッティ」

 

『ジェ、ジェイル……ッ!?』

 名を聞いたプレシアは、椅子からずり落ちた。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「……お邪魔して、悪かったかな?」

 アリサの邸宅は、明日からのクリスマスパーティを控え、準備が進められていた。

「別にいいわよ。丁度いい息抜きだわ」

 ソファに座り、紅茶を一服する。

「秀人さんは、いないんだ?」

 その隣には、すずかもいた。

「うん。でも、後で迎えに来てくれるって」

 すずかの家の方は、家族と親しい友人のみで慎ましく行うらしく、準備も早く済んだようだ。

「……それで、用事って?」

 折を見て、アリサが切り出した。

「……うぅんと、特に、用事っていうほどの用事じゃ、ないかもだけど」

 言っていて、変なことを話している、という自覚はあった。

 いきなり電話して、自宅に押しかけて、特に用は無いなどと……

「……いや、ううん。大事な用事だ。アリサとすずかに、会いに来たんだ」

「何よ、それ」

 アリサは、ふっと笑う。

 だが、すずかは……じっと、なのはの目を覗き込んだ。

「……なのはちゃん」

「な……なに?」

 若干、腰が引ける。

 

「……どこにも、行かないよね?」

 

 そんなことを、聞いた。

「……?」

 意味が分からず、首を傾げる。

「……うぅん、ごめん。何でもない」

 首を振り、その疑念を払う。

「ねぇ、なのはちゃん……はやてちゃん、今どうしてるか知らない?」

「――っ、げほっ!」

 紅茶を喉にひっかけ、咳込んだ。

「げほっ、げほっ……!ご、ごめ……!」

「あーもう、何やってんのよあんたは……」

 アリサが呆れ、口元を拭ってやった。

 

「その反応……さては、はやてに何かあったのね?」

「それで、それを解決しようとしていて……」

「覚悟のために、わたしたちに会いに来た、と」

 

 ……全部、言い当てられた。

「……はい」

 がっくりとうなだれる。

「わたしたちに、出来ることは?」

 協力を申し出る。

 だが、民間人の彼女達に、直接協力できることは無い。

 あるとすれば……

 

「……八神を、受け入れてあげて。何があっても」

 

 はやてを、待っていることだ。

「……」

 その言葉に込められた重みに、気付いたかどうかはわからない。

 だが二人は、しっかりと頷いてくれた。

「……うん、ありがと」

 笑顔で礼を言い、立ち上がる。

「夕飯、食べて行かない?」

「ごめん、みんな待ってるから……」

 アリサの誘いに、申し訳無さそうに断りを入れた。

「あんたって、ほんと……家族大好きよね」

「うん。みんな大好きだから……」

 そこに、珍しく、すずかが意地悪く聞いた。

 

「じゃ、秀人さんは?」

 

――大好き。家族なのだから。

 

「……」

 だが、答えるべき声は無い。

『好き』という言葉が、なんというか……しっくりこない。

「……?」

 嫌いな訳が無い。

 それは、天地に誓って言える。

 だが、そう。しっくりこない。もやもやする。

「…………あぅ?」

 やや短気ではあるものの、聡明ななのはにしては珍しく、混乱していた。

「秀人さんは……秀人さんは…………好き……だよ? ううん、好きじゃない、いや、好き……好きだけど、好きじゃ…………あああああ?」

ぷしゅー、と、今にも頭から煙を吹きそうだった。

 すずかも、まさかこれ程とは思わず、慌てて話題を切り替えた。

「あぁ、ごめんごめん……じゃ、最後に一つだけ」

 最後の問いは……

 

「なのはちゃんにとって、はやてちゃんは、どんな人?」

 

 それに答えようとした時……なのはの携帯電話が、けたたましく鳴った。

「わっ!……あぁ、秀人さんだ。じゃ、ごめんね二人とも」

 携帯電話片手に、その場を後にする。

 

「……あぁ、そのこと?

 だって、秀人さんがクビになっちゃったら大変じゃ……」

 

 

「……ねぇ、すずか」

 なのはが見えなくなった頃……アリサが、隣のすずかを呼んだ。

「……うん」

「……アレ、さぁ……どう考えても……」

「……ガチだね」

 

 二人は、何かに納得していた。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

アースラの艦長室の前に、クロノの姿があった。

「艦長、クロノです」

『入りなさい』

 促され、入室する。

 部屋の中には、リンディの他、エイミィの姿もあった。

「…………艦長、」

「今だけは、『母さん』でいいわ」

 言いかけるクロノに、リンディはそう言った。

「……母さん、これを」

 懐から取り出したのは、S2Uとは別の、二機のデバイス。

 

――キンッ

 

 試作デュランダルと………………制式デュランダル。

 クライドの、形見だった。

「…………」

 それを目の前にしたリンディは、何を思っているのだろうか。

「……クロノくん」「ああ」

 エイミィがクロノの手を引く。

 クロノは、それに逆らうことなく、エイミィと共にドアを目指した。

「…………時間が来たら、呼んでください」

「では、艦長。また後で」

 

――プシュッ。

 

 ドアのエアロックが掛かり……室内の様子を、うかがい知ることは出来なくなった。

「…………クロノくんのお父さんって、さ」

「…………」

「あの、クライド・ハラオウンなんだよね」

「……何を今更。訓練校時代に、何度も聞いたことだろう」

 かつて、訓練校時代…………孤独に訓練を重ねるクロノの元に、何かとチョコマカやってきては、『クライド・ハラオウン伝記』を聞かせろ、とねだっていた。

「うん。本当は、全部知ってたんだけどね」

 これには、クロノも足を止めざるを得なかった。

「……なに?」

「だって、クロノくんってば……あの頃、『近づくな』オーラをバリッバリに出していたじゃん?」

「…………あれは、」

 最年少であり、座学・実技、共に主席。父はかの伝説の局員であり、母は現役にして数少ない、女性の現役提督。

 やっかまれない訳が無かった。

 だが、クロノにはそういった人間関係全てが煩わしく、そんな些事に対応するヒマがあったら、力を磨くことを選択していた。

 気付けば、相部屋が基本であるはずの訓練校で個室を与えられ、教官ですらクロノを腫れ物に触るかのように接し、ますます孤立を深めるばかり。

 そんな頃だった。

「第一声は……『きみ、クライド・ハラオウンの息子なんでしょ?』……だったか」

「うん。生意気ながきんちょを、更正させてやろうかと思って」

 誰もが知っていながら、半ばタブーであるかのように触れなかった話題に、無遠慮かつ強引に突っ込んだのだ。

「……僕の部屋が、雑誌やら雑貨やら生活用品やら、とにかく雑然となっていったっけな……」

「あはは……ごめんね、あれは素だから」

 学長に強引に頼み込み、クロノの部屋に転がり込み、ずかずかと押し入ってきた。

「おかげで、教官や級友たちからは冷やかされるわ、いつの間にかコンビ扱いされるわ、何故か見習い先が一緒だわ、気付けば執務官と補佐だわ…………やっと一人前になれたと思ったら、やっぱり配属先が一緒だわ…………」

「でも、さ」

 エイミィが、その愚痴を切り……

 

「私が一緒で、楽しかったでしょ?」

 

 ……傲慢でもなく、自然な確認として、そう聞いた。

 

「…………ヴェロッサのヤツが、一番悪乗りしていたな」

 教官や級友たちとは、冷やかされながらも会話をするようになった。『クライドの息子』ではなく、『クロノ・ハラオウン』として、見てくれるようになった。

 

「……あんな軽薄な服装、今だったら恥ずかしくて出来ないな」

 休日には、街まで遊びに連れ出してくれた。

 

「君が測位を間違えて、僕は僕で敵に嵌められて……初めての任務が、あんなにハードだとは思わなかったよ」

 見習い先では、初めて一つの案件を解決した。

 

「ちょっとでも無理をしようとすると、ベッドに引きずり込んでくれたな」

 試験勉強の傍らでは、食事やスケジュール調整のおかげで、身体を壊さずいられた。

 

「しかも、ちゃっかりと資格を取っていて……」

 その傍ら、オペレーターとして、一人前のスキルを身に付けていた。

 

「腐れ縁も、ここまで来れば大したものだ」

そして、同じ艦に配属され…………今もこうして、隣にいる。

 

「ああ。君と一緒にいられて、僕は幸せだった」

 

 紛れも無い感謝を、エイミィに伝えた。

「…………照れちゃうな」

 顔を赤らめ、ぽりぽりと頬をかく。

「クロノくん。君のそーいうところ、要注意だからね」

「…………何のことだ?」

 きょとん、と。素で不思議がるクロノに、エイミィは苦笑する。

「………………昔から、どれだけ私が苦労してきたことやら」

「さっきから君は、何を言っているんだ?」

「ふーんだ。教えてあげない」

「……?」

 一周している間に、艦長室の前まで、戻ってきていた。

 もう、大分時間も過ぎた。

 

――プシュッ。

 

 ドアが開く。

 入室したクロノ達に、赤くなった目を向けるリンディ。

「……デュランダル、確かに確認しました。これは、あなたが現場で運用した方が有用です」

 そして、クロノに二機が渡される。

「確かに、拝領しました」

 これで、この二機は正式に、クロノのデバイスだ。

 

「…………作戦開始まで、あと少しね」

 ちらっ、と時計を見て…………

「……そろそろ、約束の時間でしょう?」

 なのは達との食事まで、あと三十分を切っていた。

「行ってらっしゃい、クロノ、エイミィ」

「はい、母さん」「行ってきます、艦長!」

 

 作戦開始までの、穏やかな時間はこれで最後だ。

 だから、リンディは願うのだ。

 

(どうか、これからも………………あの子たちが、共に歩んでいけますように)

 

 ……作戦開始まで、あと、20時間のことだった。

 

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