魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第八十九話

 

――――ジュオオオオオオオオッ…………!!

 

《オ、ご、あああ…………!!》

 顔面を高熱で炙られながら、グレアムが呻く。

「……誰が、喋って良いっつったよ」

 ズボッ……と、グレアムの口へ、口唇を引き裂きながら、拳を捻り込む。

《グほッ…………ッ!!》

 

――ブゴオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

 

 …………体内へ直接、蒼炎を注入され、ビクビクと痙攣する。

「…………」

 恐ろしく冷静に、無表情に…………焼却し続ける。

だが、少しして異常に気がついた。

 ……グレアムの体積が……先ほどから、全く変化していないのだ。

《…………気は、済んだかね?》

 眼球が焼失し、頭蓋が露出した顔で、ニタリと笑う。

「……!!」

《ひゃァッ!!》

 

――ドボォッ!!

 

 秀人の胴体に、強烈なボディブローを叩き込んだ。

「ぐあっ!!」

「秀人!」

 すっ飛んだ秀人を、クロノがキャッチする。

「…………もう一度、」

 蒼炎を握りこむ秀人。だが、クロノとエイミィがそれを静止する。

「落ち着け! まだ、死んだわけじゃない!!」

『みんなのバイタル、まだ確認できてる! っていうか、それ以上やったら、中の皆が!!』

「――!!」

 はっと我に返り、蒼炎をキャンセルする。

 確かに……あの駆体がどういうものなのかが不明な限り、不用意な攻撃は、中に蒐集されてしまった武装隊の面々を危険に晒す可能性がある。

 

 …………ようやく、秀人も冷静さを取り戻した。

 見上げる上空…………身体の内外を散々高温で炙られたにも関わらず、平然と見下ろしている。

 

――ジュウウウッ…………

 

 デタラメな魔力による治癒魔法で、一瞬のうちに組織が再生する。

 

《さァてと………………で……今、何かしたかね?》

 

 対闇の書の切り札と思われていた蒼炎が、全く効いていない。

「……あれは、駆体…………いわば、アバターのようなものだ」

 蒼炎の効果も、ほぼ無いということは…………

 

「……向こうからは干渉し放題で、こっちからの干渉はシャットアウト……」

 

 反則。

 そうとしか言いようが無い。

「だが、わかっているんだろうな! その駆体は、時間制限が過ぎれば…………!!」

 クロノが、第三段階へ移行した際に被るデメリットを指摘する。

だが……

 

《ヒャハハハハ!! 何を言い出すかと思ったら……!!》

 

 グレアムは、不快な笑い声で、それを一蹴した。

《我が、どれだけ闇の書に関する研究を行ったと思っている! そんな弱点、既に対策済みだ!》

「対策……?」

 

『――状況の変化を確認!』

 そして、モニターが表示される。エイミィが、状況を伝えるために映し出したものだろう。

『海鳴市海上に、もう一つの闇の書の反応…………!!』

 闇の書が、もう一つ。

 海鳴市の海上では、直径100メートルに届こうかという、巨大な魔力スフィアが鳴動していた。

「おい、まさかあれ………………はやて、か?」

 その魔力光は、はやてのものと同じだった。

 

《ククククク…………》

 懐から、一冊の本を取り出し、見せびらかすように、ひらひら、と振る。

 それは…………

「……アリアたちの言っていた、闇の書の複製。それを同期させ、原書を操作している」

「…………」

 それの表すことは、つまり…………

 

「力を使うだけ使って、デメリットは全部、はやてに押し付けるってのかよ!?」

 

《ああ、その通りだ。……なに、我が完全なる魔導を手に入れるための生贄だ。たかがガキ一人の命…………惜しくはなかろう?》

 悪びれるそぶりさえ見せず、そう言い切った。下種もここに極まれり、だ。

 

 巨大な魔力スフィアの周囲に、いくつものベルカ式魔法陣が出現する。

「…………守護騎士か」

 現れたのは、雑魚騎士ではなく……『剣』『盾』『湖』の、正当な守護騎士。それが、各々十数体も、佇んでいた。

 幻影や分身ではない。

 確かな実体として、守護騎士が、多数出現したのだ。

 

《ほぉら……早くしなければ、人々が喰われてしまうぞ! ぎゃはははは!!》

 …………巨大な魔力スフィアが、徐々に、海岸へ向けて移動している。

《馬鹿め! オレがこの駆体だけで満足するものか! アレが食事をすればしたぶだけ、オレの力もますます高まって行くのだ!!》

 グレアムの言ったとおり、もしあれが接岸してしまったら……海鳴市の一般人が犠牲になるのは、避けられない。

 しゅるしゅると、触手が伸び始め…………

 

「バカはお前だよ」

 

――――ザンッ!!

 

 ……閃光と共に、切り捨てられた。

 異変を察知し、動く守護騎士。だが、既に触手は大半が切り落とされており……

『ア――――ア?』

 ……ずるっ、と、『剣』のうち一体、右腕が切断され、ぼちゃん、と落ちた。

 

「……性根腐り果てたテメェのことだ。どうせ、海鳴市を狙ってくると思ってた」

 

「うん。秀人さんの、言ったとおりだ」

 回天桜花を振りぬき、血払いをする、なのは。

 

――バココココンッ!!

 

 飛来した鉄球が、面制圧で守護騎士達に降り注ぐ。

「……同じ守護騎士のよしみだ。せめて、正面からブチ抜いてやるよ」

 グラーフアイゼンを構えたヴィータが、守護騎士へ向かい合い。

「……こんかいばっかりは、ふざけてるばあいじゃないよね」

 光刃を携えたフェイトが、残る触手を切り落とす。

 

――なのは、フェイト、ヴィータ、アルフ、ユーノ。

 

 五人の高ランク魔導師たちによる、絶対防衛ラインが築かれていた。

 なのはは、画面の向こうにいるであろうグレアムに、切っ先を向け…………言い渡す。

 

「何一つ、おまえの思い通りにはさせない」

 

 ビキッ……と、グレアムの額に血管が浮いた。

《この……クソガキどもがァあああああああああああああああっ!!》

 つばを撒き散らし、醜く喚く。

 

《……ウぉオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!》

 

 グレアムが咆哮し……

 

――バキィイイイイイイイイイイイインッ!!

 

 …………維持する術者の消えた強装結界を、破壊した。

 

《はァアアア…………!! テメェら全員、この力でブチッ殺してやらァああああああああああああああああっ!!》

 

 そして発動する、転送魔法。

 秀人たちは、抗うことも出来ず、その中に飲み込まれ……はやてのいる海鳴市海上へ、誘われることになった。

 

 

 

『……』

「やっ、ひさしぶり」

『剣』の前で、気さくに手を挙げ挨拶するフェイト。

『…………』

 当然、応じるような『剣』ではなく……腰の魔剣を抜き、フェイトに向ける。

 

――ガキュンッ。

 

 魔剣がカートリッジをロードし、炎を纏う。

「うん、いいよ。つきあってあげる。 …………バルディッシュ」

『Yes sir .』

「…………ろーどかーとりっじ」

 

――ガキュンッ。

 

 フェイトもまた、カートリッジを使用。全身に、稲妻を纏った。

『……!!』

『剣』が踏み込み、魔剣をフェイトへ振り下ろし……………

 

――――とんっ。

 

「…………きみたちは、ほんとうなら、すっごくつよいんだよ」

 

『……。――――』

 首を落とされた『剣』が、さらさらと消える。

『……!!』

「ちゃんと、ヤガミといっしょに、ヤガミのために戦ってたら、かつのはむずかしい。でもね」

 

――ズ……ザンッ!

 

 多大な魔力を誇り、高い技巧を持ったはずの守護騎士達が、あっけなく、腕や脚、首や得物を、瞬時に破壊されていく。

 

「いまのキミたちは…………誰のためにも、戦ってない。あやつられているだけ。りようされているだけ」

 

 ……何も、理由も無しに無双しているわけではない。

 かつて、数度に渡り戦闘し、蓄積したデータを下に対策した結果だ。

 意思あるものは日々研鑽し、進歩して行く。

 だが…………

 

「いまのキミたちは……ただの人形だ」

 

 …………操られるだけの傀儡は、進歩することは無い。

 それは、他の守護騎士たちにも言えることで…………戦闘開始から10分にも満たない時間で、ほぼ掃討されていた。

「……だから、今はバイバイ」

 

――ゾンッ。

 

 最後に残った『剣』の一体を、切り伏せる。

「…………またね」

 ……それが、フェイトと好敵手の……あっけない、幕切れだった。

 

 それと、ほぼ同時………………グレアムが現れた。

《…………》

 既に、守護騎士はおらず、出現地点は包囲網ど真ん中。

 巨大魔力スフィアとの距離は、遥か遠く。

 想定外の事態に、呆然として………………否。

 

《ははっ……予想以上に、使えない手駒どもだったな》

 

 嘘偽りの無い余裕で、苦笑した。そして…………バッ、と手を翳す。

 

――ヴゥウンッ!!

 

 膨大な魔力が、瞬時にチャージされる。

 そして…………

《……ディアボリック・エミッション!!》

 

――ズバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

 

「うぁあああああああっ……!!」

 全方位に射出された衝撃波は、いとも簡単に、包囲網を分断してしまった。

 指揮官のクロノは、指示を飛ばす。

「くっ……まずい! 近くのものと固まれ! 決して単騎になるなっ!」

《だァが遅いんだなァあああああああああああっ!!》

 目の前に、グレアムが迫る。

 ガキッ、と腕を捕獲される。そして……

《フランメ・シュラークッ!!》

 

――ドゴンッ!!

 

「……!! ぐあァ……!!」

 左手を爆破され、その痛みに意識を揺さぶられる。

《ぬゥウウウウウウンッ!!》

 グオッ!! と、魔力を込めた拳が振るわれる。

 直撃すれば、致死は免れない。

「させるかァっ!!」

 

――バキンッ!!

 

 その腕にキックし、軌道を逸らす。

 だが、その余裕は崩れない。

 それどころか、もう片方の手には、既にチャージが完了している。

《ははっ、コイツは貴様の得意技だったなァ! ……インパクトォッ!!》

「!! インパクトッ!」

 同じく、インパクトでの相殺を狙う。

 

――ドパァンッ!!

 

「……?」

 以外にも、相殺は叶った。

 あの、むちゃくちゃな威力を乱射しまくっていた初対面のはやてと比べるべくも無い。

(……そういえば、体表の流動魔法も使ってない。広域殲滅も、それほど)

 ディアボリックエミッションも、言ってしまえば、多少強い広域インパクト程度。

 弱くはない。それは確実にいえる。

 攻撃が通らないのも、圧倒的な魔力量を誇るのも事実。

 だが……何かが、おかしい。

 

「駆体が完全じゃないからだよ」

 

 その疑問には、ユーノが答えた。

「本来なら、膨大な質量を人間サイズに圧縮して、魔力噴射で機動させる…………だけど、」

グレアムが駆体を乗っ取ったことだけが残ってしまっていたが……

 

「…………始めの質量が、全然得られなかった」

 

 仮想空間と強装結界を、守り通した。

「だから、今のあの駆体には、膨大な魔力量を受け止めるだけの強度が無いんだ。それこそ…………強度だけで言えば、人間並みに」

 

 そう。グレアムがあざ笑った武装隊の奮闘は……決して、無駄ではなかったのだ。

 

「三輪車のフレームに、F1のエンジンを積むようなものか」

 ならば……まだ、勝機はある。

 じりじりと、距離を詰めていく。

《ははは……いやぁ、困った困った……》

 だが……この、グレアムの余裕の正体とは、一体……?

《ふむ…………では、こういう趣向はどうかね》

 

――ズオッ……!!

 

 グレアムの足元から、空間全体に滲むように…………黒い波動が、滲み出し…………!!

 

《――テラー・フィールド》

 

「「――――避けろォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!! 」」

 

 秀人が、クロノが……かつて、この魔法の恐ろしさを身をもって体験した二人が、喉が裂けんばかりの絶叫を上げる!!

「!!」

 回避を選んだ者は、まだ良かった。

 だが……この波動攻撃の性質を知らず、迂闊にもその場に脚を止めてしまった者は…………

 

「なのはぁあああああああっ!!」

 フェイトが弾き飛ばされるように反転し、なのはを救助。

 だが……やはり、その変則的なムーブメントには無理があったのか、脱出速度は鈍ってしまう。

 やがて、その波動が脚に触れてしまいそうになったその時……

「うりゃあああああああああああっ!!」

「フェイトっ!?」

 フェイトが、なのはを安全域までブン投げた!

 

 そして、自身も脱出しようとしたが……がくん、と、膝が砕けてしまう。

 

「うォおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

――ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

 

 唯一の対抗手段、蒼炎を放出し、波動を食い止める秀人。

 そして、フェイトの元へ駆けつけ、蒼炎のバリアを発生させる。

 

――ヂリヂリヂリヂリ……ッ!!

 

「ぐぅうっ……!!」

 それでもやはり、闇の波動は浸食してくる。

「……!!」

 蒼炎の向こうで、なのはが何かを叫んでいたが…………

 

――ド……プンッ……

 

 波動がバリアを覆い尽くしてしまい、届かなかった。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 ……アイが、駆ける。

 

「待ってるの、マスター…………今、アイが行くの!」

 

 波動に飲まれてしまった秀人。

 バリアが破られてしまうのも、時間の問題だろう。

 あの波動を超えられるのは…………波動そのものを消し飛ばせる高レベルの攻撃魔法か、もしくは…………アイのような、意図的に意識を閉ざし、干渉を防げるデバイスのみ。

 適任といえば適任なのだが…………アイは、作戦の第三段階までは、温存されなければならない。

 だが、それを差し引いても……アイは、秀人を放置することなど出来はしなかった。

 

「!! ……誰! 邪魔なの!」

 ポートに飛び乗ろうとしたアイの肩を、何者かが摑んで止める。

「邪魔、す、る…………………………え…………?」

 だが、その人物の顔を見た途端……アイの中にあった焦りは、吹き飛んでしまった。

 

 

 ブリッジにいたリンディは、戦闘の指揮を執る傍ら、何らかの手続きを進めていた。

 そして、最後の確認通知を行う。

 

「準備、整いました。あとは、あなたの同意が得られれば、許可が降ります」

 

 …………その人物は、杖を手に、確かに頷く。

「……対象を、転送ポートへ誘導」

「了解」

 

――ヒュウウウンッ……

 

 彼女は、転送ポートに送られ……アイと、鉢合わせる。

 そして、二人……頷きあって、転送の光へ、足を踏み出した。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「くっそ…………! 不注意だった……!」

 フェイトを抱きしめたまま、バリアの維持に全力を注ぐ。

 だが、既にバリア出力は限界に達しており、いつ破られてもおかしくは無い。

「フェイト……いいか、俺が、波動を身体で食い止める。だから、その隙間を……!!」

 

――ごんっ。

 

「……おこるよ」

 幼い鉄拳が、秀人の額にぶつかる。

「ひでとは、このどろどろにさわったらまずいんでしょ!? 何言ってるの!!」

 

――もう一度、あの波動に触れたら、お前は…………

 

 ……かつて、凶鳥部隊でオウルに言われた言葉が脳裏を掠める。

「ああ、そうだ。でも、お前の身には替えられない…………!」

 

――ヂヂッ……ヂリリリッ……!! バリバリバリッ!!

 

 いよいよ、そのバリアの内側へ浸食してきた。

「!! くっ、」

 秀人は、フェイトを抱える。

 もしも、あのテラー・フィールドに触れてしまったら……フェイトの精神が、焼き切られてしまう。

 ならば……せめて、一度体験し、耐性のある自分が。

 

 そう、己の身を差し出そうとした。だが、その行動は、阻まれることになる。

 フェイトも、脱出が遅れ…………いや、その必要さえ必要無くなった。

 

――――――ゴロッ……ゴロロロロロッ……!!

 

 上空の雲が、不自然な動きで、一箇所に集中して行く。

 最初、グレアムの魔法かと思った秀人だったが……フェイトも、意味がわからず、きょろきょろしている。

 

 ………………そして。

 

 

「薄汚い手で……………………ひとの娘に、触るんじゃないわっ!!」

 

 

――――――――……ズガガガガガガガガガガガガガガゴッゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!

 

《うがァあああああああああああああああああああああああああっ!!!!》

 …………降り注いだ|雷光が…………今まさに、フェイトに襲いかかろうとしていた闇の波動を、残らず焼き尽くし、吹き飛ばし、捻り切った!!

「え…………ど、どうして…………なんでェ!?」

 フェイトも、あたふたと暴れ、他の面子も、呆然と見入っていた。

「あの…………何を、しに…………?」

 思わず敬語で聞いてしまったクロノに、『彼女』は、肩に掛かった髪の毛を払い……答えた。

 

「助けに来たに、決まっているでしょう」

 

 …………不敵に笑う、その女性は。

 

「「「「「「………………プレシアぁ!?」」」」」」

 

 

 

――――フェイトの母親にして、Sランクにして、大魔導師。プレシア・テスタロッサ。

 

 まさかの、参戦であった。

 

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