魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第九十話

 

「おかーさん……?」

 フェイトが、呆然とプレシアの顔を眺めていた。

 それもそのはず。プレシアの刑期は、少なくとも数百年。

 だが、前回の事件から、まだ半年。いくら技術供与での減刑が可能とはいえ、外に出てこられるような時季ではない。

 

「これは、立派な『技術供与』よ。『オーバーSランク魔導師の実戦データ収集』っていう……ね」

 

 ……いかにも、リンディあたりがでっち上げそうな名目だった。

『持てる最大の戦力で、対処に当たる。基本よ』

 リンディが、通信の向こうでそんなことを言っていた。

 理由はどうあれ……フェイトが、半年振りに母親と再会できたのは、違いない。

「おかーさんっ!!」

 フェイトが、喜色を浮かべて飛びつこうとする。プレシアが、それを抱きとめようとして…………反転。

 

「邪魔よ」

 

――――ズバァアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!

 

《ぬうううううっ……!!》

 ディバインバスターを凌ぐ威力の砲撃を、ほぼ溜め無しで、不意撃ちを狙ったグレアムに叩き込んだ。

「…………あまり効いていないみたいだけど」

 苦い顔をする。

 

「まぁ、」

 

――ゴロゴロゴロ……!!

 

 先ほど、転校操作に使用するために集められた雷雲が、再び鳴動し始める。

 しかも……威力を、遥かに増して。

「これ…………まさか、サンダーフォール……?」

 あまりのスケールの違いに慄く秀人。

 フェイトが使うものと比べて、その差は歴然だった。

「効かないというのなら………………」

「!!」

 そして…………

 

「効くまで……ブチ込むまでよ」

 

―――――――――――ガァッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!

 

 雷の嵐に飲み込まれるグレアム。

 通常であれば、これで決着。だが。

《……ウオァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!》

 グレアムも、また化け物だった。

 全身のあちこちを炭化させ……それを、片っ端から再生させながら、プレシアに突貫する。

《この、くたばり損ないがァあああああっ!!》

 

 硬化させた右腕を、刃に見立てて突き出してくる。

「……!」

 プレシアは、プロテクションを展開し、その攻撃を防ぐ。

 

――――ビキィッ……!!

 

 その攻撃は、プレシアの防壁に切っ先を突き立て、停止する。

 プレシアはそれを好機と見、更なる追撃を仕掛けようと詠唱に入り……しかし、その切っ先に、闇色の魔力を灯らせるのを見るや、即座に回避へと切り替えた。

「!!」

 だが……やはり、プレシアは最前線に出るタイプではないため、その反応は遅れてしまった。

 

――ビキュンッ!!

 

 指先から、鋭いレーザーのような射撃を撃ち、プレシアを狙う。

「……!!」

《ハハハッ!》

 

――バキィンッ!!

 

 拳を振るい、プロテクションを打ち砕く。

《どうした、大魔導師ィいいいいいいっ!!》

 

――ギュオオオオッ!!

 

 攻撃魔法が、プレシアに迫る。

 

「おかーさんに何すんだこのやろォおおおおおっ!!」

 

 飛び出したフェイトが、グレアムの腕に光刃を打ち込み、攻撃魔法の照準を逸らす。

「ぐ、ぬ、ぬ……!!」

 グリグリと、更に深く光刃をねじり込むフェイト。

《クソガキがァあああっ!! 母親もろとも、吹き飛びやがれぇえええええっ!!》

 痛みは無いのだろうが、イラついたグレアムが、更に魔法を発動。

 

――ズバァアアアアアアアアアアアアッ!!

 

 全方位に発射される、広域攻撃。

「おかーさんっ!」

 フェイトがプレシアを抱え、射程外まで離脱する。

 

「半病人が無茶すんなよ……!」

 心配のあまり、悪態のようになってしまう秀人。

「ごめんなさいね。どうしても、我慢できなくて……」

「……助かったよ」

 あそこで、プレシアの援護が無ければ、まともにテラー・フィールドを浴びていた。

 その後の戦闘は、やりすぎだが。

「……前衛は僕たちが勤める。プレシア、あなたは後方から……」

 布陣を敷きなおすクロノ。

 

――ドクンッ!!

 

だが、はやての取り込まれた巨大な魔力スフィアが、一際大きく鳴動するのと同時……

 

《う……ム……ォオオオオオオオオオオオッ!! は、はははっ! 凄まじいな……!! この短時間で、更に……!!》

 

 ……グレアムから感じる魔力が、膨れ上がった。

 しかも、海中、海底から、何らかの質量をも取り込み始めたのだろう。

 駆体にあった不完全な部分……『穴』まで、ふさがり始めている。

 

《ククク…………さて……駆体が不完全とか、何とか……淡い希望は、どこへ行ったのかね?》

 

「くっ……!!」

 ……前にはグレアム。背後には、その動力源……はやてがいる。

 動力源を叩こうとすれば、グレアムが邪魔をし、グレアムをいくら叩こうと、動力源さえあれば、それこそ無限に再生してしまう。

 ならば…………

「……一方がグレアムを足止めし、もう一方が、はやてを止める」

 チームを二つに分けるしかない。

 だが……そう簡単にことが運ぶとは思えない。

 

 いくら完全ではないとはいえ、グレアムが強敵であることは間違いは無く……しかも、はやてが周辺魔力を吸収すればするほど、強力になって行く。

 はやてを止めようにも、その方法さえ不明なのだ。

 時間……そう、時間が、足りない。

 

 動力源であるはやての方は、あまり能動的に移動していないとはいえ、放置も出来ない。むしろ、こちらに大多数の人数が割かれることは間違いない。

 だとすれば……誰かが、ごく少人数で、グレアムを足止めするしかない。

 

「…………ボクがやる」

 

 真っ先に、フェイトが名乗り出た。

「アイツをあしどめしておけば、クロノが、なにかアイデアを出してくれるんだよね?」

「ああ……時間さえあれば、対策を練ることが…………だが、それは、」

 渋るクロノ。さすがに、保護対象でもあるフェイトを矢面に立たせることに抵抗を感じているようだ。

「だいじょーぶ。リニスがくれたバルディッシュと……マリーが付けてくれたかーとりっじ……かくしだまも、ちゃんともってる」

『お任せを』

 バルディッシュも、声を上げた。

「そういうのは、俺が……!」

「ひでとの結合のちからは、ヤガミをとめるのにひつようだよね」

 大人数の出力を、一つに束ねることができる秀人の能力は、あきらかにはやての対策に必須だ。

「なら、私……」

 なのはも、続けて挙手する。

「なのはは、くうちゅうでの機動力がひくいから駄目」

「あう……」

 ズバッと遮断された。

「クロノはアイデアだすひとだから駄目」

「…………そう、だな」

 現場指揮官は、指揮に専念すべき。

「タイマン勝負なら、アタシの専門だ! アタシが……!」

「ヴィータは、闇の書があいてだと、どんな影響がでるのかわからないから駄目」

 守護騎士出身のヴィータも、却下。

「ぼくは……」

「ユーノはそもそも、よわっちいから駄目」

「…………………………」

 ユーノは灰になった。

「じょーだんだよ。ユーノは、クロノといっしょにかんがえて」

 無限書庫の知識を活かせるのはユーノしかいない。よって、却下。

「……なら、私に任せなさい。娘を矢面に立たせる親が、どこにいるというの」

「おかーさんはしんぱいだから駄目。アルフに、守ってもらってて」

 

 普段はアホな言動や行動を繰り返すフェイトだが、決して頭の回転が鈍いわけではない。

 適任なのは、自分だと……早くに、確信していたのだ。

「……アルフ、いい?」

 ……アルフに、遠慮がちに声を掛けた。

 少なからず、プレシアと確執があるアルフだ。だが、

「ああ、当然。こいつのことは、あたしに任せな」

 ごつっ、と拳を打ち鳴らし、意気込みを見せる。

 

「でも、フェイト……」

 尚もフェイトを心配するなのはに、フェイトは得意げに言った。

 

「あたらなければ、どうということはないっ!! …………って、だれかが言ってた」

 

「……何よ、それ」

 ふっと、顔がほころぶ。

「うん……じゃ、任せたよ。フェイト!」

『武運を、バルディッシュ』

 レイジングハートもまた、バルディッシュを激励する。

 そして、目線を交わし……

 

「……意外。なにもしてこないんだ」

 フェイトは、グレアムの前に。

 確かに、長々と話していた割には、何の手も打ってこなかったのは、意外といえば意外だ。

《くくく……待つ時間というのも、悪くはない。こうして、更に力を増すことができるのだからなぁ……!!》

 

――ズオッ……!!

 

 その身から……凄まじい、圧力までも感じるほどの魔力が迸った。

「う、っく……!!」

《さて……我がこうして、力を蓄えている間……しっかりと、希望を腕に抱いたかね?》

 気圧されるフェイトとアルフに……グレアムは、まるで教鞭を執るかのように言う。

 

《希望というものはね…………積み重ね積み重ね、大事に大事に育て上げ………………………………砕かれたとき、最も美しく輝くのだよ》

 

「……うん、よくわかった」

 フェイトは、バルディッシュを構え…………

「…………ロード・カートリッジ」

 

――――ガキュンッ。

 

 カートリッジをロード。そして…………

「……ソニックフォーム」

 …………マリーに託された『隠し玉』を、早々に開放した。

 

 タダでさえ軽装のバリアジャケットを、マントをパージし、さらに軽量化。

 フィン状の推進装置をそのスペースに増設し、瞬発力にのみ、極端に偏った形状へと変化している。

《ハハハッ! なんだ、その紙のような装甲は! 当たれば終わりではないか!》

 哄笑するグレアムに、フェイトは……

 

「問題ないよ。………………一発だって、あたらないんだから」

 

 誇張や虚勢抜きに、そう言い放った。

《…………ほほう、》

 ぴきっ……と、グレアムが苛立った。

《では…………やってみせろォおおおおおおおおおおおおおっ!!》

 

――――ズシュウウウウウウッ!!

 

 凄まじい初速の砲撃が、ノーモーションで発射された。

 その砲撃は、フェイトの身体の中心線を的確に捉え…………

 

――――ひゅんっ。

 

 …………目標を、外れた。

《……? 仕損じたか》

 照準を間違えただけ…………そう信じて疑わないグレアムは…………

 

――ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!

 

 その砲撃を、無作法に22発、連射する。

 正面だけではない。

 前後左右、死角無く、全方位からフェイトを畳み潰す攻撃だ。

 だが……

「無駄、だよ……!」

 

 フェイトの姿が、一瞬だけブレたように見え…………

 

――ヒュカンッ!!

 

 一閃。

《…………!!》

 バシュッ……! と、グレアムの腹部から、血液代わりの黒い魔力が噴出する。

《ふん…………言うだけあって、素晴らしい速度だ》

 反応速度を遥かに超える斬撃に、グレアムは感心するように言った。だが……

 

《……それだけの機動、その脆弱な肉体では受け止めきれまい?》

 

 …………言い当てられたことも、また事実だった。

「…………そうでも、ないよ……?」

 強がって平静を保ってはいるものの、たった一度の回避運動で、身体が悲鳴を上げていた。いくら、防御に使うためのリソースを、高Gからの身体防護に割いているとは言っても、やはり未成熟な子供の骨格なのだ。

 

《ハハハハハ! よろしい。では……どこまで避けられるか、試してやろうじゃないか!!》

 

――ズバババババババババババババババッ!!

 

 途端、打ち放たれる無数の光線。

 一直線だけではなく、曲線、屈曲など、無数のパターンを以って、フェイト一人を追尾する。

「う……ァあああああああああああああああああっ!!」

 

――――ビュゴッ……!!

 

 空気の壁にぶつかりながら、致命打になりそうな光線を回避する。

《そら、次は上下左右からの挟撃だ!》

 挑発的に、わざわざ宣言したとおりのルートで攻撃してくる。

「……、っく、はァあああああああっ!!」

 

――――ガギンッ、ギャリィイイイイインッ!!

 

 バルディッシュを振るい、打ち落とし、打ち払い、身体を捻って回避する。

《ハーッハハハハハ!! 何だ、思ったより頑張るじゃないか! そォら!!》

 

 興が乗のったのか、光線の他に、誘導弾を混ぜてフェイトを弄ぶ。

 

(……! かかった!)

 

 フェイトは、苦悶の表情を浮かべるのとは別に、内心で会心の笑みを浮かべた。

(これで……しばらく、アイツはボクに目を向ける!)

 その、『興を乗せる』ことこそ、フェイトの狙いだった。

 あれだけ強大な力を得た小物が、どういった行動に出るのか、フェイトは知っていた。

 

(いきなり、あんな『何でも出来る』ような力を手に入れたら…………まず、『試して』みたくなる!!)

 

 その相手が、回避に特化した、『当て辛い』標的だとしたら…………必ず乗ってくる。そう、読んでいた。

《ハハハハハッ! 踊れ踊れぇっ!!》

「ぐ、う……うあああああっ!!」

 悲鳴を上げながら、全力の回避を続ける。

『…………バイタル、低下。これ以上は、生命の危険が…………』

 バルディッシュの進言。

だが……

「血流、ちゃんと、ととのえておいて……! ブラックアウトしたら、おわりだ!」

 それでも尚、飛び続ける。

「うりゃああああっ!!」

《ぬゥんっ!!》

 

――バキンッ!!

 

 大振りなグレアムの拳をかいくぐり、カウンターにバルディッシュを首筋に叩き込む。

 そして、また射程圏外まで一気に離脱。迫る光線や誘導弾を、かわし続ける。

「ひー、ひー…………! き、きっつー……!!」

 心臓は、今にも破けそうなほどビートを刻み、汗が滝のように流れてきて不快極まりない。

 だが、息を整えているヒマも、汗を拭っている時間も惜しい。

「だいじょーぶ……まだ、まだ飛べる!」

 

――ギィンッ!!

 

 鋭い鋭角でカーブを抜け、光線の雨をかいくぐる。

「クロノたちが、いっしょうけんめい、考えてくれてる!」

 

《そォらそらそらっ!! まだまだ避けてみろォっ!!》

 ……今度は、衝撃波がやたら滅多に連打され、海面に無数の水柱がしぶきを上げる。

 

「……!! だ、だから……だから……まだ、飛ぶんだァああああああああああああああああっ!!」

 

――ズパァアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!

 

 進行方向にあがった水柱を避けるため、その場で急上昇。

『駄目です。これ以上は、お身体が……!!』

 

――ガリッ!!

 

《ハッハァ!!》

 硬化させた皮膚で、バルディッシュを防ぐグレアム。

 恐ろしいことに、フェイトの速度に、目が慣れ始めてきている。

『!!』

 主の身に起こりうる、最悪の『もしも』を予想し、強張るバルディッシュ。

だが……

 

「ためらうなっ!!」

 

 フェイトの一喝に、それを忘れる。

「ボクは、こんなところじゃ墜ちないし、やられない!!」

『ですが、』

 

――ガキィッ……!!

 

《どうだ、捕らえられてしまったぞ、んン!?》

 

 いよいよ、刃先を摑みとめられた。

 ギチギチと、構造材が軋む。

《ほらほらほら、傾いてるぞおおおおお!?》

 次第に力負けし、拮抗が傾く。

「おまえは、強くなったんだろ……!?」

 だが、フェイトは決して、諦めない。退かない。

 

「このクソ野郎をぶっとばすために、強くなったんだろおおおおっ!!」

 

 目の前の敵を、討ち果たすため!

『!! Smasher!!』

 フェイトは、グレアムの顔面に手を翳し…………

 

――ズバァアアアアアアアアアッ!!

 

 拡散砲撃が、グレアムの目を焼いた!

《ぐあっ……! おのれ、やってくれる……!!》

 いくら強い身体でも……身に付いた、『人間としての癖』までは、そう易々と捨て去れるものではない。

 極度に強い光を直視すれば、一瞬、身体は硬直する。

「もういっちょー!!」

『Thunder Smasher!!』

 

――ドゴォオオオオオンッ!!

 

 今度は、より強い魔法を、無防備になったグレアムに打ち込んだ!

《オオオオオッ……!!》

 退くグレアム。

 フェイトは、油断無く次の動作を構え……

「いけるね、バルディッシュ!?」

 相棒へ、呼びかけた。

『Yes,,,』

 バルディッシュも、もう迷うことはない。

 主が、限界まで飛び続けるというのなら…………自分は、その限界を、引き上げるまで!!

 

『Yes,sir!!』

 

――ガキュンッ!!

 

 残るカートリッジをロード。

 更なる機動へと向けて、身の内に魔力を溜め込んだ。

 

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