魔法少女リリカルなのはties 作:ハルハルharuharu
――ガキンッ……ガキンッ…………バチィッ……
遠方から、フェイトとグレアムの戦闘音が聞こえ、黄金色の魔力光が瞬いている。
(フェイト……無事でいろよ)
できるのならば、今すぐにでも駆けつけたい。
だが、それはクロノの作戦を……ひいては、フェイトの決意を踏みにじる行為であるからして、実行に移すことはできなかった。
「あの巨大な魔力スフィアは、周囲の質量や魔力を吸収しながら、時速20km程で、岸に向かっている」
沖合いの、約10km地点にいるはやて。
その速度が維持されるのなら、到達までは、約30分。
決して、長くはないが……ゼロよりは、よっぽどマシだ。
「まず第一は、接岸を防ぐこと。これには、全員の拘束魔法を秀人の能力で強化し、あの場に押しとどめる」
こうして、はやてを止める作戦を立てられる。
そのための時間稼ぎを、フェイトは買って出た。
「第二に……プレシア。これには、あなたの協力が不可欠だ」
「何でも言いなさい」
大魔導師の心強い言葉。
「あの魔力スフィアは、一種の動力炉だ。しかも、無尽蔵に増大し続ける暴走状態といってもいい。解析、頼めるか」
――暴走状態の動力炉。
それは、プレシアにとってどのような意味を持つのか、分からないクロノではなかった。
「…………」
遠まわしに、フェイト生誕の切っ掛けにもなった、あの事故を想起させるには十分だった。だが……
「……任せなさい」
プレシアは、それを受け入れた。
「と言いたいところだけど、私一人じゃ無理ね。応援を要請するわ」
…………誰かを頼る。
それは、かつて天才と呼ばれた研究者には、考えられない行動だった。
「マリエル、聞こえていて?」
『ああ、聞こえてるよ。いま、アースラだ』
「今から、この動力炉を解析するわ。中心部の正確な座標が知りたいの」
『オーケー。……んじゃ、美香。どのへんだ?』
『ええっと…………』
美香が掴んでいる、おおよその位置をマリーに伝え、それをマリーが座標に数値化し、プレシアに渡す。
観測班から送信されてきたデータなども、手元にズラリと並べ、
「大体分かったわ」
「「「「「早っ!!」」」」」
思わず、全員で声をそろえてしまった。
ぴっぴっ……と、目の前に図解を表示する。
そこには、波紋のように、三つの円が重なっている図が出されていた。
「構造としては三重構造よ。第一層・第二層・中心核。
第一層……これが、質量を吸収する層。ここで吸収したものを、エネルギーへ変換し、中心核に送信。中心核では、ブラックホール生成のためのエネルギーを精錬し、精錬の際に出た不純物を、第二層……核を守る防護層として転用している」
「ほんと、単純だな……」
拍子抜けした様子の秀人を、プレシアがじろっと見る。
「……言ったでしょう、規模が違う、って。その不純物だけですら、大都市を複数、長期間にわたって賄えるほどのエネルギーなのよ」
その規模に言葉を失う。
「停止させるには、中心核を取り出すことだけど……そのためには、第一層・第二層を突破しなければならない」
聞くだけなら、簡単にも思える。
「第一層。これは、クロノが言ったように、全員の拘束魔法を結合させて打ち込めば、停止させることができる」
では、第二層とは。
その答えを待つ秀人たちに告げられたのは、驚くべき事実だった。
「第二層、ここは……生命を搾り取られた、犠牲者たちの思念の坩堝なのよ」
死者の怨念。それを、己の鎧としている。
「もし触れれば、その思念たちが、引きずり込みにかかってくる。それが、一体どのような現象なのか…………正直、触れてみないことには分からないわ」
全くの、未知。
そのような現象に、捨て身で挑むしかない。
「そして、それを突破した者が、第二層の内部から、外部へ道を開く。その道から、僕が中心核まで突入し、闇の書と主を分断する」
それが、クロノの立てた作戦だった。
あとは、突入メンバーの人選だ。
「恐らく、内部では魔力結合は阻害されると思われる。魔法生命体は、生存できないだろう」
アルフや、ヴィータは不可。そうなると、魔力に依らず生存できる、生身の人間。なおかつ、魔法の使用に制限が掛かる中でも、活動可能な者。
秀人は……拘束魔法に必要なため、持ち場を離れられないため…………
「私……だよね」
なのはが、名乗り出た。
クロノは、特に否定しない。
「……! おい、クロノ……」
だが……秀人にも、理解できる。
今、なのは以外に、突入できる人物はいない、と。
「なのは、でも…………」
危険に晒すことに、躊躇する。
「秀人さん、あのね…………私、望に頼まれたんだ」
「……」
「八神に、キツい一発、お見舞いしてやれ……って」
だから……これは、それを叶えるチャンスでもあった。
「………………わかった。任せる」
秀人は納得して、拘束魔法の準備を進めた。
その秀人に、プレシアが釘を刺す。
「いいこと、秀人。私たちが、第一層をきっちり抑えておかないと、突入することさえ叶わないどころか、下手をしたら、その子がバラバラに分解されて、死ぬわよ」
「わかってる。……役目は、果たすよ」
クロノ達の拘束魔法の準備が整い、あとは、発動するだけの段階まで来た。
「んじゃ……いっちょ、やりますか!」
――ヴゥウウンッ……!!
秀人の魔法陣が展開し…………クロノ達の魔法陣へとラインを伸ばす。
そして、編みあがったのは……巨大な円環型バインド。
それは、ゆっくりとはやての周囲を囲い…………そして。
――――ガギギギギギギギギギギギギギギギギギギギィッ……!!
魔力スフィアに、接触した!
「うぉおおおおおっ!!」
腕が千切れそうになるほどの衝撃に、何とかその場に踏ん張る。
「と、ま……れぇ……!!」
円環を狭め、更に魔力スフィアを締め上げる。
――ガリガリガリガリガリガリガリガリィッ……!!
「! くそっ!!」
その内側から、徐々に分解が始まった。
『まずいな……予想以上に、分解の速度が速い。このままでは、分断されてしまうぞ』
マリエルが、状況を分析する。
「!」
分断される、ということは…………今、こうして全員で分担している負荷が、各々に降りかかるということだ。
それは、拘束魔法を解除するより早く、吸い寄せられ、分解されてしまうことを意味していた。
だが、全員が現状で精一杯。出力も全開で、これ以上は出せない。
だとすれば…………『限界以上の出力』を。
「…………」
……心当たりは、ある。秀人は、尚も分解されていく中で…………それを使用する決意を固めた。
そして、その名を呼ぶ。
「――――――来い、イモータルハート!!」
アイではなく、イモータルハート。
『!! 秀人、止せ!!』
マリエルの静止を振り切る。
それは、アイのシステムに、確かに届き…………内蔵された、転送機能を発動させた。
――――バシュッ!!
アースラから、一瞬で秀人の下に現れた。
「マスター、来たの」
自身が呼ばれた意味は、伝わっている。
「…………スタンバイ」
『了解』
秀人の一言と共に、アイが、本体の蒼い宝石に姿を変える。
セットアップは、しない。
目的は、武装ではなく…………一つのシステム。
「……ブラスターシステム、オン」
聞きなれない単語に、クロノ達は疑問に思う。だが、その意味を問いただしている暇はない。全身全霊で、拘束魔法を維持するのみだ。
『………………』
アイもまた……その対価を、負荷を、苦痛を、受け入れる覚悟を決めた。
『ブラスターシステム・リミット1』
そして、秀人は……高らかに、トリガーボイスを発声する!
「リリースッ!!」
解放された膨大な魔力ブーストの力が、秀人の全身を駆け巡る。
ほんの僅かなラグを置き…………そして。
――――――ズゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
出力が、途端に跳ね上がった!
――ガ、ガガガガガッ……!! ガリガリガリッ……!!
分解が止まるどころか…………目に見えて、その速度が鈍っていく。
『な……何、この滅茶苦茶な出力は!!?』
モニターしているエイミィが、驚愕している。
『通常全開時の……180%!? こんな……!!』
最大では240%、限界駆動ではそれ以上……ということは、伏せておく。
「……アイ、おまえ、」
そして秀人は、その違和感を感じた。
この異常出力の対価である負荷……それを、殆ど感じないのだ。
そして、その行方は……
「自分に、負荷を……」
『……このくらい、なんとも、ないの…………』
強がるが、その声は、明らかに無理をしていた。
『…………マスター……アイに黙って、こんなもん作って……まったく、世話が焼けるの』
――ゴッ、ガガガッ……!!
『吸収率、36%にダウン……! このままなら、』
『いけない! アイ!! 機体の耐久限界だ!!』
エイミィの観測結果。だが、マリエルが途中で叫んだ。
『く……うぁあああ……!!』
イモータルハートが、明らかに異常な発熱をしている。
「!! マリエル! アイの負荷、半分を俺に!!」
『ああ、わかった!!』
間髪をいれず、マリエルが遠隔操作でシステムを改変する。
『うぅ……!! や、やばかったの……!!』
それにより、アイの発熱はそれ以上続かなかった。
「バカか、お前……!! もう少しで、死ぬところだったぞ……!!」
その負荷の半分を担い…………どっと虚脱感が押し寄せる。
「こんなもん、一人で背負い込みやがって!!」
アイは、これの倍も負担していたのだ。
『…………マスターにだけは、言われたくないの』
「な、なんだとぉ……!?」
口答えするアイに、秀人が頬を引きつらせる。
『一人で何もかも背負い込んで…………周りが、どれがけ心配してるのか、少しは分かったの……?』
「…………」
言い返せず、押し黙る。
だが、この状況下でフォローする者がいるはずは無く、言われっぱなしである。
「…………ああ、よく分かったよ」
『……ふふ』
安心したように、微笑む。
そして……
「そんじゃあ……アイ。半分、力貸せ」
『了解なの、マスター』
――ヒュィイイイイイイイイイイイッ……!!
『出力、185パーセントで安定。すご……』
天秤が拮抗するように……極めて高次元で、バランスすることに成功した。
――ギリギリギリギリッ……ギギギギッ……!!
拘束魔法も、問題なく維持できている。
『吸収率、18パーセント……14 ……12……安全域まで、もう少し!』
――――ギ、ギ…………………………。
『0パーセント……!』
いよいよ、安全域。
「……!!」
体力を温存し、待機していたなのはが、魔力スフィアの目の前まで飛ぶ。
回天桜花を抜刀し、振り上げ………………
「……え?」
きょとん、と動きを止めた。
「え……?」
『ど、どういうことなの……?』
秀人たちも、アースラの面々も、理解不能だった。
吸収層を停止された魔力スフィア…………その、なのはの目の前の部分が、ぽっかりと穴を開けたのだ。
――まるで、誘うかのように。
「八神……?」
なのはは、ふと、それがはやての意思であるかのように思えた。
「……」
秀人と目を合わせ……頷きあう。
「八神…………いま、行くからね」
そしてなのはは…………第二層へ、飛び込んだ。