魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第九十一話

 

――ガキンッ……ガキンッ…………バチィッ……

 

 遠方から、フェイトとグレアムの戦闘音が聞こえ、黄金色の魔力光が瞬いている。

(フェイト……無事でいろよ)

 できるのならば、今すぐにでも駆けつけたい。

 だが、それはクロノの作戦を……ひいては、フェイトの決意を踏みにじる行為であるからして、実行に移すことはできなかった。

 

「あの巨大な魔力スフィアは、周囲の質量や魔力を吸収しながら、時速20km程で、岸に向かっている」

 沖合いの、約10km地点にいるはやて。

 その速度が維持されるのなら、到達までは、約30分。

 決して、長くはないが……ゼロよりは、よっぽどマシだ。

「まず第一は、接岸を防ぐこと。これには、全員の拘束魔法を秀人の能力で強化し、あの場に押しとどめる」

 こうして、はやてを止める作戦を立てられる。

 そのための時間稼ぎを、フェイトは買って出た。

「第二に……プレシア。これには、あなたの協力が不可欠だ」

「何でも言いなさい」

 大魔導師の心強い言葉。

「あの魔力スフィアは、一種の動力炉だ。しかも、無尽蔵に増大し続ける暴走状態といってもいい。解析、頼めるか」

 

――暴走状態の動力炉。

 

 それは、プレシアにとってどのような意味を持つのか、分からないクロノではなかった。

「…………」

 遠まわしに、フェイト生誕の切っ掛けにもなった、あの事故を想起させるには十分だった。だが……

「……任せなさい」

 プレシアは、それを受け入れた。

「と言いたいところだけど、私一人じゃ無理ね。応援を要請するわ」

 …………誰かを頼る。

 それは、かつて天才と呼ばれた研究者には、考えられない行動だった。

「マリエル、聞こえていて?」

『ああ、聞こえてるよ。いま、アースラだ』

「今から、この動力炉を解析するわ。中心部の正確な座標が知りたいの」

『オーケー。……んじゃ、美香。どのへんだ?』

『ええっと…………』

 美香が掴んでいる、おおよその位置をマリーに伝え、それをマリーが座標に数値化し、プレシアに渡す。

 観測班から送信されてきたデータなども、手元にズラリと並べ、

 

「大体分かったわ」

 

「「「「「早っ!!」」」」」

 思わず、全員で声をそろえてしまった。

 ぴっぴっ……と、目の前に図解を表示する。

 そこには、波紋のように、三つの円が重なっている図が出されていた。

「構造としては三重構造よ。第一層・第二層・中心核。

第一層……これが、質量を吸収する層。ここで吸収したものを、エネルギーへ変換し、中心核に送信。中心核では、ブラックホール生成のためのエネルギーを精錬し、精錬の際に出た不純物を、第二層……核を守る防護層として転用している」

「ほんと、単純だな……」

 拍子抜けした様子の秀人を、プレシアがじろっと見る。

「……言ったでしょう、規模が違う、って。その不純物だけですら、大都市を複数、長期間にわたって賄えるほどのエネルギーなのよ」

 その規模に言葉を失う。

「停止させるには、中心核を取り出すことだけど……そのためには、第一層・第二層を突破しなければならない」

 聞くだけなら、簡単にも思える。

「第一層。これは、クロノが言ったように、全員の拘束魔法を結合させて打ち込めば、停止させることができる」

 では、第二層とは。

 その答えを待つ秀人たちに告げられたのは、驚くべき事実だった。

 

「第二層、ここは……生命を搾り取られた、犠牲者たちの思念の坩堝なのよ」

 

死者の怨念。それを、己の鎧としている。

「もし触れれば、その思念たちが、引きずり込みにかかってくる。それが、一体どのような現象なのか…………正直、触れてみないことには分からないわ」

 全くの、未知。

 そのような現象に、捨て身で挑むしかない。

 

「そして、それを突破した者が、第二層の内部から、外部へ道を開く。その道から、僕が中心核まで突入し、闇の書と主を分断する」

 

 それが、クロノの立てた作戦だった。

 あとは、突入メンバーの人選だ。

「恐らく、内部では魔力結合は阻害されると思われる。魔法生命体は、生存できないだろう」

 アルフや、ヴィータは不可。そうなると、魔力に依らず生存できる、生身の人間。なおかつ、魔法の使用に制限が掛かる中でも、活動可能な者。

 秀人は……拘束魔法に必要なため、持ち場を離れられないため…………

 

「私……だよね」

 

 なのはが、名乗り出た。

 クロノは、特に否定しない。

「……! おい、クロノ……」

 だが……秀人にも、理解できる。

 今、なのは以外に、突入できる人物はいない、と。

「なのは、でも…………」

 危険に晒すことに、躊躇する。

「秀人さん、あのね…………私、望に頼まれたんだ」

「……」

「八神に、キツい一発、お見舞いしてやれ……って」

 だから……これは、それを叶えるチャンスでもあった。

「………………わかった。任せる」

 秀人は納得して、拘束魔法の準備を進めた。

 その秀人に、プレシアが釘を刺す。

「いいこと、秀人。私たちが、第一層をきっちり抑えておかないと、突入することさえ叶わないどころか、下手をしたら、その子がバラバラに分解されて、死ぬわよ」

「わかってる。……役目は、果たすよ」

 

 

 クロノ達の拘束魔法の準備が整い、あとは、発動するだけの段階まで来た。

「んじゃ……いっちょ、やりますか!」

 

――ヴゥウウンッ……!!

 

 秀人の魔法陣が展開し…………クロノ達の魔法陣へとラインを伸ばす。

 そして、編みあがったのは……巨大な円環型バインド。

 それは、ゆっくりとはやての周囲を囲い…………そして。

 

――――ガギギギギギギギギギギギギギギギギギギギィッ……!!

 

 魔力スフィアに、接触した!

「うぉおおおおおっ!!」

 腕が千切れそうになるほどの衝撃に、何とかその場に踏ん張る。

「と、ま……れぇ……!!」

 円環を狭め、更に魔力スフィアを締め上げる。

 

――ガリガリガリガリガリガリガリガリィッ……!!

 

「! くそっ!!」

 その内側から、徐々に分解が始まった。

『まずいな……予想以上に、分解の速度が速い。このままでは、分断されてしまうぞ』

 マリエルが、状況を分析する。

「!」

 分断される、ということは…………今、こうして全員で分担している負荷が、各々に降りかかるということだ。

 それは、拘束魔法を解除するより早く、吸い寄せられ、分解されてしまうことを意味していた。

 だが、全員が現状で精一杯。出力も全開で、これ以上は出せない。

 だとすれば…………『限界以上の出力』を。

「…………」

 ……心当たりは、ある。秀人は、尚も分解されていく中で…………それを使用する決意を固めた。

 そして、その名を呼ぶ。

 

「――――――来い、イモータルハート!!」

 

アイではなく、イモータルハート。

『!! 秀人、止せ!!』

 マリエルの静止を振り切る。

 それは、アイのシステムに、確かに届き…………内蔵された、転送機能を発動させた。

 

――――バシュッ!!

 

 アースラから、一瞬で秀人の下に現れた。

「マスター、来たの」

 自身が呼ばれた意味は、伝わっている。

「…………スタンバイ」

『了解』

 秀人の一言と共に、アイが、本体の蒼い宝石に姿を変える。

 セットアップは、しない。

目的は、武装ではなく…………一つのシステム。

「……ブラスターシステム、オン」

 聞きなれない単語に、クロノ達は疑問に思う。だが、その意味を問いただしている暇はない。全身全霊で、拘束魔法を維持するのみだ。

『………………』

 アイもまた……その対価を、負荷を、苦痛を、受け入れる覚悟を決めた。

 

『ブラスターシステム・リミット1』

 

 そして、秀人は……高らかに、トリガーボイスを発声する!

 

「リリースッ!!」

 

 解放された膨大な魔力ブーストの力が、秀人の全身を駆け巡る。

 ほんの僅かなラグを置き…………そして。

 

――――――ズゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 出力が、途端に跳ね上がった!

 

――ガ、ガガガガガッ……!! ガリガリガリッ……!!

 

 分解が止まるどころか…………目に見えて、その速度が鈍っていく。

『な……何、この滅茶苦茶な出力は!!?』

 モニターしているエイミィが、驚愕している。

『通常全開時の……180%!? こんな……!!』

 最大では240%、限界駆動ではそれ以上……ということは、伏せておく。

「……アイ、おまえ、」

 そして秀人は、その違和感を感じた。

 この異常出力の対価である負荷……それを、殆ど感じないのだ。

 そして、その行方は……

「自分に、負荷を……」

『……このくらい、なんとも、ないの…………』

 強がるが、その声は、明らかに無理をしていた。

『…………マスター……アイに黙って、こんなもん作って……まったく、世話が焼けるの』

 

――ゴッ、ガガガッ……!!

 

『吸収率、36%にダウン……! このままなら、』

『いけない! アイ!! 機体の耐久限界だ!!』

 エイミィの観測結果。だが、マリエルが途中で叫んだ。

『く……うぁあああ……!!』

 イモータルハートが、明らかに異常な発熱をしている。

「!! マリエル! アイの負荷、半分を俺に!!」

『ああ、わかった!!』

 間髪をいれず、マリエルが遠隔操作でシステムを改変する。

『うぅ……!! や、やばかったの……!!』

 それにより、アイの発熱はそれ以上続かなかった。

「バカか、お前……!! もう少しで、死ぬところだったぞ……!!」

 その負荷の半分を担い…………どっと虚脱感が押し寄せる。

「こんなもん、一人で背負い込みやがって!!」

 アイは、これの倍も負担していたのだ。

『…………マスターにだけは、言われたくないの』

「な、なんだとぉ……!?」

 口答えするアイに、秀人が頬を引きつらせる。

 

『一人で何もかも背負い込んで…………周りが、どれがけ心配してるのか、少しは分かったの……?』

 

「…………」

 言い返せず、押し黙る。

 だが、この状況下でフォローする者がいるはずは無く、言われっぱなしである。

「…………ああ、よく分かったよ」

『……ふふ』

 安心したように、微笑む。

 そして……

「そんじゃあ……アイ。半分、力貸せ」

『了解なの、マスター』

 

――ヒュィイイイイイイイイイイイッ……!!

 

『出力、185パーセントで安定。すご……』

 天秤が拮抗するように……極めて高次元で、バランスすることに成功した。

 

――ギリギリギリギリッ……ギギギギッ……!!

 

 拘束魔法も、問題なく維持できている。

『吸収率、18パーセント……14 ……12……安全域まで、もう少し!』

 

――――ギ、ギ…………………………。

 

『0パーセント……!』

 いよいよ、安全域。

「……!!」

 体力を温存し、待機していたなのはが、魔力スフィアの目の前まで飛ぶ。

回天桜花を抜刀し、振り上げ………………

 

「……え?」

 

 きょとん、と動きを止めた。

「え……?」

『ど、どういうことなの……?』

 秀人たちも、アースラの面々も、理解不能だった。

 吸収層を停止された魔力スフィア…………その、なのはの目の前の部分が、ぽっかりと穴を開けたのだ。

 

――まるで、誘うかのように。

 

「八神……?」

 なのはは、ふと、それがはやての意思であるかのように思えた。

「……」

 秀人と目を合わせ……頷きあう。

 

「八神…………いま、行くからね」

 

 そしてなのはは…………第二層へ、飛び込んだ。

 

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