魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第九十三話

 

――――ゴゴゴォオオン……ッ!!

 

「のわぁっ!?」「きゃあっ!!」

 突如として響き渡った轟音に、アリサとすずかは飛び起き、座っていたソファから転がり落ちた。

「ななな何、今の何!?」

 慌てて、きょろきょろと窓の外を見回すが……闇夜に紛れ、全容が見えない。

 …………市街地に、超巨大な鉄塊が屹立している光景など、見たところで理解できるとも思えないが。

「!」

 ぱっとテレビを点ける。大体の局では、緊急特番を組んでいた。

「……? 薬品工場が爆発……薬物飛散の危険があるため…………市外退避ぃ!?」

「…………」

 

――飛散した薬品は人体に極めて有害なものであり、揮発性もかなり高く……即刻の退避が必要と思われる。付近の警察・消防・自衛隊が、車両や空挺を救助に向かわせることに決定した

 

……と、どこのニュースでも、同じような内容だった。

「お嬢様。お車の支度、整ってございます」

 執事の鮫島が、些か慌てた様子でやってきた。

「……わかったわ。すずか、行くわよ」

「………………うん」

 すずかは、アリサの後を着いて行く。

 その返事が上の空なのは……

(薬物飛散。多分、その除染のために、しばらくこの地域は立ち入り禁止になる)

 先ほどのニュースの、不自然な点を考察していたためだ。

(…………初動が早すぎる)

 最初の轟音が鳴り響いてから、まだ、1時間以内。

 だというのに、各所は既に救助や退避の準備を始めているという。

(第一………………町全体に降り注ぐほどの薬品を貯蔵している工場は、この市には無いはず)

 重工業の跡取り。さすがにまだ、見習いにすらなってはいないが……それでも、ある程度の情報網は持っている。

 

 車に乗り込み、市外へ避難する。

 そこでもまた、奇妙なことがあった。

「……随分とスムーズね」

 その奇妙さには、アリサも気付いていた。

 

……渋滞が、起こっていないのだ。

 

 こういう場合、大なり小なり、混乱し、統制を失い……闇雲に逃げ出す市民が、大渋滞を引き起こすのが常だというのに。

 ……まるで、最初から避難経路が確保されているかのような、異常なまでのスムーズさ。

(……………………町から、人を追い出しているみたい)

 だが、かといって何か問題があるわけでもなく……すずかは、アリサと共に、市外へと退避していった。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

――――バキィイインッ!!

 

「……!!」

《ハッハァ!! どうした、動きが鈍っているぞ!!》

 幾度目かの衝突。

 既に、フェイトは満身創痍だ。着実に、グレアムがフェイトの動きに対応しつつあることもあるが……それ以上に。

「ぜー、ぜー……!」

 ソニックフォームでの負荷が、フェイトの身体を軋ませていた。

 ずきずきと関節が熱を持ち、痛みを発している。

(まりょくは……まだあるけど…………ちょっと、やばいかも)

「……」

 ぶんっ……とバルディッシュを構え直す。

《ククククク……! ああ、そういうことか……》

 ……と、グレアムがいきなり、意味不明なことを口走った。

 

 そして……遠方。

「…………うそ」

 なのはが、一人で魔力スフィアから脱出し……

「……あれが、ヤガミ……?」

 ……巨大な魔獣が、洋上に出現した。

《ククク……ああ、そうだとも!》

「!! しまった……!!」

 僅かに注意を逸らした途端……目の前に、グレアムが迫る。

「うぅああああっ!!」

 ソニックフォームの機動力で、脱出を図る。だが……

《ハハハハハッ! 捉えたぞォおおおっ!!》

「くぅっ……!?」

 とうとう追いつかれ、防御を余儀なくされてしまった。

 

――ドゴンッ!!

 

 ……防御も何も無い。

 薄い装甲を、モロに打ち抜かれ……海面に、激突する。

 

――――ザッ……バシャッ……ザザンッ……!!

 

「っ……!!」

 海面を、水切りしながら滑走していき……ふらつく身体を、魔法で無理やり空中に固定する。

《ハーッハッハッハ! 最初の大口は、どこへ行ったんだァ!?》

「うるっさいなぁ……!」

 グレアムの追撃。

 被弾し、目に見えて速度の衰えたフェイト。

 轟、と唸りを上げて迫る攻撃の前に、悔しげに歯を食いしばる。

 

――ズガァンッ!!

 

 だが、その攻撃は届かず……僅かに、照準をずらした。

《ぬ……?》

 グレアムが、不可思議そうに右腕を見る。そこには、鎖状のチェーンバインドが絡み付いていた。これを手繰り寄せることで、軌道を逸らしたのだろう。

 そして、その使用者は…………

「……おかーさん?」

「フェイト、しゃんとなさいっ!!」

 救援に駆けつけたプレシアと、アルフのものだった。

「だ、だめだよ! おかーさんは、むこうで……!」

 尚も身を案ずるフェイト。だが、アルフはその肩を摑んで、ふるふると首を振る。

「ごめん……任せようって言ったんだけど…………」

「動けないのなら……あの場所から、跳躍攻撃を仕掛けるだけ。そう言ったら、納得してくれたわ」

 跳躍攻撃など仕掛ければ、半病人のプレシアは……間違いなく重篤な症状が出る。いや、下手をすれば死ぬ。

『邪魔するなら死んでやる』という意味だ。

「おかーさん……」

強引な説得というかナチュラルな脅迫……どこかの誰かさんの(悪)影響が、確実に及んでいた。

《……仲良く揃って……あの世に送ってやるわ!!》

 バインドを難なく引きちぎり、魔力砲を放つ。

 

「黙れ、ゴミ」

 

――ズパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

 

 プレシアがその魔力砲に照準を合わせ、同威力の砲撃で相殺する。

《クァーッハハハハ!! ヌルいわァっ!!》

 だが、グレアムは即座に威力を増大。プレシアの砲撃は、途端にかき消されてしまう。

「アルフ」「よっしゃ!」

 プレシアは慌てず騒がず、アルフに声を掛け……アルフは、プレシアを抱え、射線上から退避する。

「ふむ。これなら、動かずに済むわね」

「……あたしゃドダイYSじゃねーっつーの」

 愚痴りながらも、しっかりとプレシアを抱きかかえるアルフであった。

《ヌゥッ……》

 標的を逃したグレアムが、つまらなさそうに呻く。

 

 まとまって退避した一同。

「……おかーさん。ヤガミは……」

 ちらっ、と、魔獣の頭部に同化したはやてのほうを見やる。

「……今、アースラの出力を回して、拘束しているわ。完全に動き出したら、まずいけど……まずは、闇の書に干渉しているあのゴミを倒さなければいけないの」

「いくらあの子を止めても、あのクズがまた手出ししてこない可能性は低いからね」

 秀人は、拘束魔法を維持するためにその場を離れることが出来ない。適任といえば、なのはなのだが……そこは、プレシアが我侭を通したらしい。

「うん、わかった。とにかくボクらで、あのカスを……!」

 

《なぁにゴチャゴチャ言ってやがるんだ蛆虫どもがぁっ!!》

 ぽんぽんと会話の流れの中に飛び出してきた悪口雑言に、グレアムがキレた。

 いくつもの誘導弾を引きつれ、バカの一つ覚えのように突貫してくる。

 

――ガガァアアンッ!!

 

 プレシアが迎撃し、フェイトが回避する。¥

《うぉおおおおおおおおっ!!》

「てぇええええええええいっ!」

 バルディッシュの光刃が、グレアムの胴体を深く切り裂いた。

 すれ違いざまの相対速度を乗せた一撃だ。一般的な魔導師であれば、ただそれだけで戦闘不能となるほどの一撃。

《ふンッ!!》

 だが、グレアムとて負けてはいない。

 瞬時に傷口を塞ぎ、脱出のタイミングに合わせ、攻撃する。

「させない……!」

 プレシアがデバイスを鞭に変形させ、その腕を絡め取った。

《はあっはははは!》

「!?」

 プレシアが、驚愕する。

 絡め取った……と思っていた、グレアムの腕。だが、グレアムはそれを逆に巻き取ることで、プレシアを己の間合いに引きこんでしまった。

 

――パキィイインッ!!

 

 アルフが防御するが、グレアムの攻撃は、呆気なくそれを突き破る。

「アルフっ! おかーさんっ!」

 

――ドガガガガッ!!

 

 誘導弾を発射し、グレアムに命中させた。

《ハハハッ! 効かぬわァッ!!》

 グレアムは余裕で受け、返礼の魔力砲を発射する。

 

――ジュッ!!

 

 僅かに、背を掠めた。

「う、ううっ……!!」

 焼け付くような痛み。その隙を見逃すようなグレアムではなく…………

 

――ガキッ!

 

 ついに、掴まった。

「! しまった……!!」

《ハハハハハァッ!! 虫ケラが手こずらせおって…………!!》

「離せ、このやろうっ!!」

 

――ズガンッ!!

 

 至近距離から顔面に、射撃魔法を炸裂させる。

《あァ……? 今、何かしたか?》

 にたにたと、余裕を崩さずそれの直撃を受けきった。

《ヒャハハハハ……!! 頑張った褒美だ! オレ自身の魔法を見せてやる!!》

 そして…………その手に、あからさまに邪悪な魔力の気配。

 その魔力は、粘りのある漆黒の球体となった。

「……!!」

 フェイトは……その危険な気配に、ぞわりと背筋を震わせ、なんとしても脱出を図る。

「離しなさいっ……!!」

 プレシア、アルフの連続攻撃にも、微動だにしない。

 つい先刻まで効いていたほどの攻撃が、たったこれだけの短時間で、克服されていた。

《悪夢を……味わえっ!!》

 

――ゴポンッ……!!

 

「! フェイ、」

 フェイトは……その球体に、体ごと飲み込まれた。

「ト…………」

 プレシアは……中途半端に腕を伸ばしたまま、球体に飲まれる瞬間を、まざまざと見せ付けられ……

《ナイトメア・プリズン……!》

 哄笑し……球体を、いずこかへ収納してしまう。

「てっめえええええっ!! フェイトに……フェイトに、何をしやがった!!」

 アルフが、激情も露に、グレアムに殴りかかって行く。

《何もしていないさ! 我は、なァ!》

「ぐうっ……!!」

 拳を両腕で受け後退し、直撃を防ぐ。

《アレの内部がどうなっているのか……教えてやろうか!》

「何を……!!」

 グレアムは……にたりと、邪悪でサディスティックな笑みを浮かべ……言った。

 

《夢を見ているのだよ!! それも…………とびっきりの、悪夢を! 己のうちに巣食う闇! その顕現だ!! さぞかし、暗かろうなァっ!!》

 

――バキンッ!!

 

「がァっ!!」

 ガードごと、吹き飛ばされる。

《そして、己の闇に飲まれながら………………リンカーコアを、蒐集される!》

「!!」

《極上の絶望に染まったリンカーコアが、我のものとなるのだ! 感謝するがいい! 虫ケラが、この我の供物となれることを!》

 

――とんっ

 

 …………吹き飛ばされたアルフは、プレシアの張ったフローティングフィールドに拾われた。

「くそっ……くそォっ……!!」

「………………」

 プレシアの表情は……垂れ下がった髪に隠れ、伺うことは出来ない。

《そうか、悔しいか!! 己の無力が、そんなにも悔しいか! ハハハハハ!!》

「プレシアぁ……どうすれば、……………………」

 次の瞬間。アルフは、激情を一瞬にして凍て付かせることになる。

 

 

――――――――――――――――――ズバァンッ!!!

 

 

 …………大気が、爆ぜた。

 轟音の正体は……プレシアが、その身の魔力を、開放した余波だった。

「プレ、シア……?」

 アルフが、慄く。

 ……アルフはこの光景に、デジャビュを感じていた。

 

「…………愚かだったわ。まだどこかで、お前を『人間』だと認識していた」

 

 それは……かつて、プレシアが引き起こした、ジュエルシード事件の際。管理局の虜囚の身となったフェイトに対し、手ひどい絶縁を口にしようとして………………秀人を、本気で激怒させた時と、同じ光景だった。

 

――――ゴォオオオオオオオッ………………!!

 

「遠慮していた。手加減していた。……………………気付くのが、遅かった」

 

 全身に、夥しい魔力の稲妻を纏い、衰える様子は無い。

面を上げたプレシア…………その表情は、全ての血の気が失せた、能面のような無表情だった。

《……!!》

 グレアムは、一歩後ずさった。

傲慢な簒奪者は、その瞬間、明確な恐怖を感じていたと同時に…………理解する。

 

「――――お前は、『処分対象』だ」

 

――――己が、暴竜の逆鱗に、触れてしまったのだと。

 

 グレアムは、余裕の表情を取り繕う。

《は、はははっ! こうでなくては、面白く、》

ない、と言い掛けたその顔面、鼻先に………………白熱する光球が出現する。

 その正体にグレアムが気付くより早く……

 

「――――――――――――――プラズマアーク」

 

 

――――――バヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂィイイイイインッ!!

 

《ぅヴぇあああァアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああアアあああアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーっ!!!》

 

光球…………超高電圧のプラズマが、炸裂した。

 凄まじい絶叫を発するグレアム。その表皮は蒸発し、眼球の水分は瞬時に気化。頭骨まで瞬時に露出し、苦しみ悶える。

《オオオゴォオオ……!!》

 グレアムは、必死に修復を試みる。

 だが……間髪いれず、第二の発声。

 

「――――――――――――――ボルテックボム」

 

――――ヴォゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴンッ……!!

 

《ビッ、ぎ、ギェ、オヴぁ…………!!》

 

 大小無数の魔力スフィアが、グレアムの胴体・四肢・頭部へ纏わりつき、体内へ進入…………そして、炸裂する。

 くぐもった爆音と共に……体が火柱を吹き上げ、『中身』をあたりに撒き散らし、黒く炭化していく。

 結果、四肢を欠損し、胴体のみとなり転がるグレアム。

 アルフも、アースラの管制室も…………本来ならばそれを諌めるべきリンディまでも、戦慄し、立ちすくむしかなかった。

 手加減を止める…………というような次元ではない。

 考えうる最悪な手段を以って、対象を殲滅する………………そこに、『戦闘』という意義は無い。それは……ただの、『虐殺』だ。

 

 だが…………対人殺傷どころか、表現すら憚られるほどに残虐な攻撃魔法を乱発するプレシアは、留まるところを知らなかった。

 

「――――――サンダーブレイドエクスキューションシフト。フォトンランサージェノサイドシフト。サンダースマッシャーファランクスシフト。トライデントスマッシャーデストロイシフト。ボルテックボムトゥーチャーシフト。プラズマアークスローターシフト。

 

全ファイアリングロック解除。――ファイア」

 

――――……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 

 グレアムは、剣山になった。

 

 もはや、どこに肉体があるのかも分からない。ありとあらゆる手段で肉体を損なわれ、攻撃魔法で出来たオブジェと化していた。

 自慢の美丈夫も。黄金比の肉体も。芸術のプラチナブロンドも。

 全てが等しく、ゴミと果てていた。

 

「早くなさい。………………『次』が控えているのよ」

 

――――――――プレシアの背後に…………対人殺傷魔法の魔力スフィアが、群れを成していた。

 

「……フェイトを吐き出すまで、何度でも何度でも…………その身を砕いてあげるわ」

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「………………ここは、」

 きょろきょろと、周囲の状況を確認する。

「! バルディッシュ!?」

 手に、相棒の姿は無い。

 バリアジャケットも纏っておらず……何故か、普段着のままだ。

「……閉じ込められた?」

 遠くを見ても、見えるのは、黒い海のような暗黒。移動することも出来ず、ただ、その場に漂う。

 ぐにゃ……と、空間が、僅かに歪んだ。その歪みは、波紋のように広がり…………

 

――――大嫌い

 

 ………………一つの、声になった。

「……!?」

 びくっと、身体を強張らせる。

「なに…………いまの、なに……!?」

 直接、身体に突き刺さってきた悪意…………あれは。

「……ボクの声!?」

 そう。その声は……紛れも無い、フェイト自身の声だった。

 

――嫌いだ

 

「ひっ……!!」

 他人の声なら……まだ、耐えられた。だが、この空間は……

「なんだ……なんだよ、これ……!」

 まるで、物理的なダメージを伴っているかのように、衝突してくる。

 耳を塞ぎ、うずくまり……少しでも、その声から遠ざかろうとする。

 

―――――大嫌いだ。ボクなんて、大嫌いだ

 

 その行為をあざ笑うかのように、声は、更に攻勢を増す。

 

――――――コピーのくせに

 

「あっ……」

 それは……どんな言葉よりも深く、フェイトの胸に突き刺さった。

 

――――望まれなかった命のくせに

 

「あっ、あああ……!!ちがう……ちがう、ちがう、ちがう!!」

 違う、そうじゃないと……否定することは、いくらでも出来た。

「ボクは、いらない子なんかじゃない! おかーさんだって、」

だが……自身の声は、尚もフェイトを苛む。

 

――おかーさんは、ボクを通してアリシアを見ているだけだ。大事なのは、ボクじゃない

 

「っ! ア、アルフが……!!」

 

――アルフは、生命の存続に不可欠なボクに付き従っているだけだ。本当は、顔も見たくないに決まってる。

 

「あ、あ……」

 フェイトの声で……フェイト自身を、全否定していく。

 

――ボクなんて、誰にも愛されてなんかいない。必要とされていない。

 

「う、ううう……!! やめろ……やめろぉ…………!!」

 ボロボロと涙を零し、耳を押さえつける。

 

――だって、ボクは……

 

 だが……その『声』は、とうとう…………フェイトにとっての禁句を、口走ってしまった。

 

 

――――アリシアの、代用品なんだから

 

 

「……………………………………」

 涙も、もう出なかった。

 耳を塞ぐ手もダラリと垂れ、膝を突いて蹲る。

《クカカカカ……! 容易い、容易いなぁ……!! 所詮はガキということだ……!》

 その目の前の空間に、グレアムが現れた。

 自失状態のフェイトに、ずかずかと近づいていき…………

《貴様の魔力を取り込めば、我の力も更に高まろう……あの目障りな半死人とて、容易に蹴散してくれる》

 翳された手に、フェイトのリンカーコアが吸い出されようとする。

《さぁ……我に、捧げよ……!》

「…………」

 フェイトは、されるがまま……

 

――――そんなこと、ないよ

 

「…………?」

ぼう……と、フェイトは、胸の内に、染み入るような温もりを感じた。

「…………」

 この、冷たく閉ざされた空間で……その温もりは、フェイトの精神を、僅かながら、持ち直した。

《ぬ……!? な……何だ、これは……!? 何が、蒐集を阻んでいる……!?》

 グレアムが狼狽する。

 

――あの人は、ちゃんとフェイトのことを見てるよ。

 

「…………でも、」

 打ちひしがれるフェイトは、その言葉に懐疑的だった

 

――……それじゃあ、見てごらん。

 

 その声と同時……干渉不可能のはずの空間に、スクリーンのようなものが現れる。

 そこには……ありとあらゆる手段を以って、現実世界のグレアムをグチャグチャに踏みにじる、憤怒の化身と化したような、プレシアの姿。

 

――怖いよね。でも、それだけ怒ってる。本当の本気で、怒ってる。

 

「おかーさん…………」

 もし仮に、本当にフェイトのことを、アリシアの代用品としてしか見ていないのなら……取り返そうなどとはしない。また同じようなものを用意すればいいと考える。

 

――代用品なんかじゃない。フェイトが、フェイトとして大事だから、あんなに怒るんだよ。

 

 もう一つのスクリーンには、プレシアと連携し、グレアムへ挑みかかるアルフの姿があった。

 

――――顔も見たくないんだったら……あんな必死に、取り返そうなんて思わない

 

「…………そうだ。そうだった」

 膝に力を入れ、立ち上がる。

 グレアムの薄汚い手を払い落とす。

「おかーさんは……ボクのこと、娘って、言ってくれた。アルフはいつだって、ボクの傍にいてくれた」

こびりついた悪夢を振り払うように、ぶんっと頭を振る。

 

「ボクは……だれかのかわりなんかじゃ、ないっ!」

 

――――ほら、忘れ物だよ

 

 手に、確かな感触。

「…………リニス」

師であり乳母であり、かけがえの無い家族だった、もう一人。その彼女が……他の誰でも無い、フェイトのために鍛えた剣。

「いくよ、バルディッシュ」

『 Yes sir 』

 

――そう……あなたには、その子がいる。リニスが託した、閃光の剣が

 

 ……聞き覚えが、あった。

 いつかの、あの日…………母親が、初めてフェイトを見たその日に。

 

「……ザンバーフォーム」

 

 カートリッジをロード。

 そして……戦斧、光刃に続く、第三の形態を発現させる。

 それは……フェイトの身の丈をも超える、巨大な光の大剣。

 

《ぬゥっ……! こうなれば、心臓ごと抉り出して――!!》

 グレアムの手刀が、フェイトの命を抉らんと迫る。

だがそれも……フェイト達『二人』にとっては、些事に過ぎない。

「ボクは、ボクだ。おかーさんの娘で……アルフのごしゅじんさまで……リニスの弟子で………………キミの、いもうとだ!」

 胸に宿った温もりは、灯火へ。そして…………

「そうだよね!

 

 ――――――アリシア!!」

 

『――――うん。お姉ちゃんがついてるよ』

 

炎へと、変わる!

 

――――ブゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォッ!!

 

《グァアアアアッ!!》

 グレアムは、その炎に蹴散らされる。

 その激しい炎は、グレアムを炙り……だが、至近距離にいたフェイトには、なんら危害を与えはしなかった。

「……きれい」

 蒼炎……いや、それよりも彩度の高い、水色の炎。

 それは、アリシア自身の魔力光だった。

『でしょ? わたしの自慢なんだから』

 魔力は、ほぼゼロに等しかったアリシア。

 ではなぜ、こうして魔力を振るえるのか。いや、それ以前に…………なぜ、死んだはずのアリシアが、こうして現れたのか。

 考えられるのは、ただ一つ。

 

――秀人だ。

 

 あの、ジュエルシード事件の終盤、虚数空間へと落下して行くフェイトを助けるため、プレシアは、アリシアの遺体の収められたポッドを手放した。

 その際……二人は確かに、聞いたのだ。

『ちゃんと、仲良くするんだよ』という、アリシアの願いを。

 あれは恐らく……秀人の魔力と……奈々に持たされた銀細工によって、引き起こされた現象だ。

『結合』により、銀細工に宿る形で、アリシアの残留思念は、現世に留まり……………………フェイトたちを、ずっと見守っていたのだろう。

 

《ウオォオオオオオオッ!? 馬鹿な! ありえん! この空間で、屈さぬ者など…………!!》

「キミには、永久にわからないよ」

 認めようとしないグレアムに、フェイトは哀れむような視線を向ける。

 巨大光刃と化したバルディッシュに、黄金色の雷と……水色の炎が、螺旋を描いて絡みつく。

「疾れ、迅雷!」

『唸れ、業炎!』

 フェイトとアリシアは、しっかりと頷きあい……声を重ね、詠唱する。

 その術式は……フェイトが、最も信頼する人物から、譲り受けたもの。

 二つの魔法の、二重複合。

 

「 『 其は、災厄の環を断ち切る刃なり! 』 」

 

――バキッ……バキッ……!!

 

 雷と炎が、暗闇に亀裂を入れる。

《う、ウオオオオオ……!!》

 亀裂の向こうへ脱出を図るグレアム。

 二人は、巨大光刃を、その亀裂へ……グレアムに、振り下ろす!

 

 

「 『 カラミティ・エンド!! 』 」

 

 

――――ズバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァッ!!!!

 

《ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!》

 絶大に伸張した巨大光刃は……グレアムもろとも、暗闇を切り裂いた。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

《ギ……グ、グゲェ……!!》

 今尚、プレシアの攻撃に晒されていた肉塊が、苦しげに呻く。

《オゲェッ!!》

 そして……どぶんっ、と、闇色の球体を吐き出した。

 その球体は、亀裂だらけだった。

 

――ヒュイイイイィイイイイイイイイイイイイイイイッ…………!!

 

 そして、その亀裂から……強烈な閃光が、迸る!

 

――――ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!

 

 凄まじい衝撃と共に、闇色の球体が内部から引きちぎられる。

『! フェイトちゃんの、魔力攻撃です!』

「フェイト……!」

 飛び出した巨大光刃は、暗闇だけでは収まらず、遥か遠洋にまで達し。

「え……? ひ、ひゃああああああっ!!」「のわぁああああああああ!!」

 なのはが、ユーノが、蜘蛛の子を散らすように、その射線上から退避する。そして、

 

――――ズパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!

 

 クロノたちが包囲する、魔獣の身体を深々と切り裂いた。

「………………」

 クロノたちがいくら攻撃しても割れなかった装甲を、一撃の下に叩き切った威力に、目を見張る。

「! フェイト!」

 プレシアとアルフが、その発射地点へ目を向ける。

 遠洋にいた秀人たちも、フェイトの無事を確かめ………………

 

「やったー! われたー!!」

 巨大光刃をぶんぶんと振り回して喜ぶフェイト。これはいい。別にいつも通りだ。

 問題は…………その、隣だった。

 ぱっと見たところ、それは、小柄な人型の炎。その割には、妙に輪郭がクッキリしていて、顔の細かな造詣まで見て取れた。

「えっ……!?」

「なっ……!」

「……どういうことだ」

 口々に、疑問を口にする。

 そして……その容姿を一目見たプレシアは、完全に硬直していた。あまりの衝撃に、事実を受け入れるのに時間が掛かっているようだ。

「おかーさん? おーい。おかーさーん?」

 ぶんぶんと目の前で手を振るが、プレシアは動かない。

 その炎の人影…………アリシアは、苦笑した。

 

『――――ママ、』

 

 驚愕から立ち返ったプレシアは……その現象が、アリシアであることを、ようやく認識しする。

 

「――――アリシアッ……!」

 炎となったアリシアを、そして、帰還したフェイトを、纏めて抱きしめようとして……

『ちょ、待って待って! まだ調節がうまく……!』

 慌てふためくアリシア。

 だが感極まったプレシアは、構わず二人を抱き締め…………

 

「あぢっ、あぢぢぢ、あっぢィーっ!? おかーさん熱い熱いタンマタンマーー!!?」

 

 バリアジャケット越しに高温に晒され、フェイトが網の上のスルメのようにばたばたともがいた。

「……はっ。フェイトーー!?」

『きゃー! だから言ったのにー!!』

 

 ……………………感動の再会、とは、とても程遠い様子だった。

 

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