魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第九十四話『暁、迎える頃に』

「……さて、」

 感動(?)の再会を果たしたフェイトたち一同は、拘束された魔獣の目前に戻ってきていた。

 当然そこには、秀人や、なのはもいるわけで…………

「…………マジで?」

 当事者の秀人でさえ、あんぐりと口を開けて呆けるしかない状況だった。

『マジだよー』

 フェイトの肩に腰を下ろすような位置で、暢気に笑うアリシア。そして、きりっと表情を引き締め……

『――あの子、助けるんだよね?』

 ……と、魔獣……はやてを、指差した。

 

 魔獣の外殻は、フェイトに深々と切り裂かれた一箇所を除いて、極めて硬質に変化していた。

『多分、あそこが唯一の突破口だと思う。早く行かないと、完全に閉じちゃうよ』

 と、アースラからエイミィの通信が入る。

『……グレアムの魔力反応も、あの中……』

「まだ生きていたのね。しぶといこと……」

 やれやれ、と言った様子で、プレシアがぼやく。

『………………あの内部で、駆体を再構築しているんだと思う』

 あの蹂躙劇を見せ付けられた一部の局員は、ぞっとしていた。

 

「カレンたちは?」

『今はなんとか、持ちこたえてるよ。でも、数が多いから…………』

「ちょっと、」

 やばいか? と、言いかけた矢先……

 

――――ゴゴゴンッ……!!

 

「…………」

 異常なサイズの直方体が、大地を地形ごと叩き潰した。

「…………相手が、雑魚騎士じゃなくて良かった……」

 あれが中身が一般人の雑魚騎士だったら、えらいことになっていた。

「うん……あっちはまぁ……大丈夫そうだな」

 そう判断を下した。

 

――――アァアアアアアア…………!!

 

 魔獣が、吼える。

(……はやて、)

 その頭部にある、はやての半身を見る。

(今……助けるからな)

 そうしている間に、エイミィによって作戦の説明がされていた。

『外は、あの凶鳥部隊とアースラで抑えられるから……あの魔獣の内部には、秀人くんたち全員で突入しても大丈夫…………なんだけど、あの入り口、よく見て』

 モニターがズームされ、フェイトが入れた切れ込みをアップする。

 確かに、硬質な外殻に隙間があり、十分に通れそうな幅があるのだが……外殻と内部の間に、得体の知れない膜のようなものがある。

「えい」

 なのはが、試しに金具を投げる。

手を離れた金具は、真っ直ぐにその亀裂へと滑り込み…………

 

――――バジュウッ……!!

 

 …………たかが金具一個とは思えないほど、派手な音を立てて蒸発した。

『物理・魔力……どちらに対しても発動する防御障壁。…………多分、魔力を取り戻したなのはちゃんの砲撃でも、通らないと思う』

「カートリッジ全使用の全力全開でも?」

『それ撃ったら、その後何もできなくなっちゃうよ……』

 エイミィが、若干呆れて言った。

「……全員の攻撃を、秀人が束ねて撃つ、というのはどうだ?」

 いつものメンバーの他に、今はプレシアがいる。合体攻撃をするにあたって、出力が跳ね上がること間違いなしだ。

 クロノの提案が、一番の得策かと思われた。

 全員で負担を分担し、一撃を加えれば……と。だが。

『……駄目だ。どう計算しても、あの防御障壁を叩き割った後、内部での活動時間が足りなくなる……』

 撃って終わり……ではなく、その後も控えている。

 そうこうしている間にも、突入までの猶予は刻々と迫って…………

 

「アイ。俺たちがやろう」

 

 秀人が、肩口で滞空するアイの本体、蒼い宝玉へ告げた。

『………………それしか、無いみたいなの』

 諦めと共に、受け入れるアイ。

 可能な限り魔力を使わず、高出力を…………無茶な話だ。

 だが、秀人には、その無茶を実現できる能力があった。

 

「イモータルハート……セットアップ」

『Stand by ready,Set up』

 

 蒼い宝玉が光り輝き……秀人の身体に、装着されていく。

 イモータルハート第一段階は……右手に破壊力を集中させた、近接戦闘を重視した形態。

『エラー・機能破損。第一段階・モード『ガントレット』、使用不可能』

 だがそれは、核となる魔力結晶をはやてに譲与したことで、使用は不可能となっていた。

 ならば、使用するのは…………

 

「――――――第二段階・モード『カノン』起動」

 

 第二の、武装。

『了解。モード『カノン』・武装開始』

 アイは、その意を受け、機能を解放する。

 

――ガシンッ……!!

 

それは一見、第一段階の手甲のようだった。だが、よくよく見てみれば、大分意匠が違う。直線が多く、長方形を切り出したかのような無骨な手甲とは異なる。

鋭角的な曲線が幾重にも折り重なり、まるで……そう、『鱗』のようなパターンを織り成している。拳より20センチばかり突き出した装甲は、左右での形状が異なり……左右で1セットであることを、暗に主張していた。だが、そのままではただの高威力なだけの魔力砲だ。あの障壁を突き破れるとは考えづらい。

と、なれば……

『『カーバンクル』、セット』

アイが、マリエルから受け取った魔導合金……『カーバンクル』をひとつ、浮かべる。

「……これは、」

 秀人は、最初は訝しがったが……即座に、その用途を理解した。

 手元に浮かべると同時、そのカーバンクルを、秀人の魔力が包み込み……

 

――ゴリィッ……!!

 

 ……禍々しい音とともに、圧縮されていく。一つの亀裂さえ生まれず、ただ、内へ、内へと……押しつぶされていく。

(……すげぇな、これ。取り出せるエネルギー量が、桁違いだ)

 そして……体積のほぼ全てをエネルギーに変換された。

 秀人の魔力により空間に留まったそのエネルギーは、まるで……小さな太陽のように、輝いている。

 

――ガコンッ!

 

 秀人に装着されたイモータルハート、その右肩部がスライドし……バクンッ! と、エネルギーを取り込んだ。

『エネルギー、充填完了。発射シークエンスへ移行』

 きゅいんっ……と、モーター仕掛けのように、秀人の腕が勝手に動いた。イモータルハートの動作だろう。

 前方に伸ばしきった両腕が、その腕の装甲が……がちんっ! と、組み合わされる。

「……全員、離れていろ」

 その言葉と同時に……

 

――ギュイイイイイイイイイィィンッ……!!!

 

 圧倒的を通り越し……異常としか言い表せない規模のエネルギーが、砲身へチャージされていく。あの小型太陽のようなエネルギー体……開封してしまえば、まさかこれほどのものとは、露にも思わなかったなのは達が、驚愕に目を見開く。

「あ……あれは、何だ!? 魔力砲か!?」

 クロノさえも取り乱し、エイミィに聞いていた。だが、それに答えたのはマリエルだった。

 

――縮退砲だよ、と。

 

『発射準備完了――――』

……そして。

 

「――――――――ディジェネレイト・ブラスタァアアアアアアアアアアッ!!」

 

 

――――……グゥオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーッッ!!

 

それはまるで、巨竜の咆哮――――なのはの収束砲をも遥かに凌ぐ破壊力が、防御障壁へと殺到する!

 

――――ゴガガガガッ…………バギィイイイインッ!!

 

 僅かな抵抗を残し……防御障壁は、薄ガラスのように、呆気無く突き破られた。

 だが……喜んでいる暇も、驚いている時間も無い。

「総員、突入!!」

 クロノの号令と共に、距離を置いていたなのは達が、次々に亀裂へと飛び込んでいく。

「……! モード『カノン』、オフ!」

 秀人が、焦燥した声で命じる。

『了、解………………モー、ド、オフ…………』

 …………展開していたイモータルハートの砲身が、不気味に白熱し……一部には、融解しかかっている箇所まであった。

 

――カシャンッ……!!

 

 砲身が格納され、手甲の形状に戻る。

「アイ!」

『…………あぶな、かったの…………もう少しで、回路が焼き付くところだったの……』

 ブラスターシステムに加え、ぶっつけ本番での、縮退砲の使用。それが、予想以上の負荷となり、アイの外装を軋ませていた。

 やはり、何の対価も無いわけはなかった。

「…………アイ、行くぞ。はやてが待ってる」

 詫びるでもなく、いっそ冷淡な声で、秀人が言う。

 今は、はやての救出作戦の最中。デバイスであるアイにとって、主が『道具』の状態に固執し、その任務に専念できないのであれば……それこそ、アイにとっては屈辱となる。

 だから……今は、徹底的に、アイを道具として使い倒す気であった。

『了解。…………モード『カノン』、ハーフモードで維持』

 砲身を縮め、手首が自由に動くように形状を変化させる。白兵戦を想定した武装のようだ。本来なら、それはモード『ガントレット』の役目なのだが、それが使用不可能な今、この形状を取る必要があった。

 ハーフモードというからには、性能もさぞやデチューンされていることだろう……そう思った秀人は、こう命じた。

「現時点での最高速度で突入する」

『了解。最高速度で、突入するの』

 

――ガシンッ……!!

 

 律儀に復唱し……装備の配置が、変化する。砲撃の反動を相殺するブースター類が、背部に集中。ひゅいいいいいいん……と、どこかで聞いたことのある吸気音。

「…………ん?」

 どうにも、いやな予感が絶えない秀人。

『3カウント後に、突撃するの。3,2,……』

 

――キュイイイイイインッ……!!!!

 

 いよいよ不吉な予感が時間となり……ようやく、秀人は不安……というか、この吸気音の正体に、思い至った。

『1,』

(あ、これ……スレイプニルの、エンジン音………………)

『ゼロ』

 

――気づいたときには、もう遅い。

 

 バゴンッ!! と、背中を巨人に蹴り飛ばされたかのような勢いで、猛烈に発進した。

「…………ぬあああああああああああああああああああああああーーーーっ!!?」

 秀人は、最後尾で亀裂へと突入したにも関わらず、なのは達を瞬時に追い越し……悲鳴をたなびかせ、すっ飛んでいった。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 突入したクロノ達。防御障壁を超えたのだから、後ははやての元まで一直線。そう考えていたのだが…………見通しが、甘かったといわざるを得ない。

 

――――オオオオオ……!!

 

 そう。ここは、闇の書の内部。

 空間すべての闇が、兵士として具現化し…………進入した外敵を排除せんと、いきりたって襲い掛かってきた。

「くそっ……ほんとに、数だけは多い……!!」

 砲撃や広範囲攻撃で蹴散らすも、兵士は際限なく発生する。

 しかも……

「ディバイン……バスター!!」

 

――ドォオオンッ!!

 

 なのはの砲撃で蹴散らされ、闇に還元された兵団が……再び、兵士の形を成して、襲い掛かってくる。

「……! 撃ち方、やめ!」

 これでは、撃つだけ無駄だと判断したクロノが、攻撃を止めさせた。

 ユーノが展開した防御結界へ退避する。

 その結界を、外部からドンドンと恨みがましく叩く、死者の怨念たち。

「…………哀れな」

 クロノが、ぽつりと呟く。

 死して尚、こうして闇の書の呪いに縛り付けられ……利用されていることにも気づかぬまま、道具か何かのように、使役されている魂たち。

 彼らにも……曲がりなりにも、人生があっただろうに。

「……エイミィ、この層の、大体の厚みと強度は?」

 それを押し殺し、アースラとの通信を試みる。

 エイミィから送られてきた情報を参照し、突破に必要な手段を講じる。

「通常攻撃では、まず無理か」

 第二層の厚みを突破するには、アリシアを加えた全員分の魔力を叩きつける必要があった。それだけならば、全員が全力で攻撃すれば可能だ。

だが……死者の怨念。数多の思念の渦は、台風もかくやというレベルで吹き荒れており、僅かに道を開けたとしても、それはすぐに塞がれてしまう。

 全力での攻撃後に、即座に全力で飛翔することなど……

 

『できるよ』

 

 マリエルが、通信越しに軽く言った。

『簡単さ。攻撃後に移動するんじゃなくて…………攻撃しながら、移動すればいいんだ』

 言われてみれば、簡単なのだが…………

『A.C.Sを使え』

「A.C.S……?」

 聞きなれない単語。なのはは、すぐにレイジングハートのプログラムに目を通す。

「――突撃形態」

 おおよそ、ミッドチルダ式とは思えない装備。だが、この状況を打破するにはうってつけの機能だった。

 早速、起動しようとするなのはを、マリエルが止めた。

『ワタシが最適な突破ポイントを見極めるまで、その場で待機だ。闇雲に突っ込んで、外に出てしまったらどうする』

 すでに、突入してきた亀裂は塞がっている。全方位を同じような光景で埋められ、確かに、方位がわからない。

 マリエルがオペレーター席に腰を下ろし、コンソールを操作する。

 美香がはやてのおおよその座標を指し示すことができるため、突破ポイントの見極めは、時間の問題だろう。

「了解……!?」

 

――ドシン!!

 

 と、一際強く、結界が揺れた。

 見ると、大量に押し寄せた兵士たちが、隙間無く結界にへばりついていた。

「くっ……!? こいつら、結界を侵食して……!!」

 そして、その触れた箇所から、漆黒の闇が滲み出し……結界を、黒く染めていく。

 

――オオオオッ!!

 

 その黒く染まった箇所は、結界としての機能を失うようで……ついに一体、内部へと侵入してきてしまった。

「だァらああああっ!!」

 

――バコンッ!!

 

 ヴィータの、気合一閃。フルスイングされたグラーフアイゼンが、兵士の胴体を痛烈に打ち据え、叩き返した。

 だが当然……一体のみで、終わるはずが無かった。

 

――オオオオオオオオオッ……!!

 

 虫食いのようになった結界に、次々に兵士たちがなだれ込んで来た!

「このっ……!!」

 なのはが、レイジングハートを構える。

『待て、キミは魔力を温存しろ!』

だが、マリエルがそれにブレーキを掛ける。

「……!!」

 砲撃をキャンセル。

「たぁあっ!!」

 

――ザンッ!!

 

 迫った一体は、フェイトが切り捨てた。

「だいじょーぶ! なのはは、じぶんがやることに集中して!」

「雑魚は、アタシたちが対処する!」

『まかせて~』

 アリシアの強化サポートを受けて、ヴィータと共に縦横無尽に飛び回るフェイト。

 

「……そこ。一体逃げたぞ」

 その討ち漏らしはクロノが拾い……

「まぁ、鈍った体には、いいストレッチかしらね」

大挙して押し寄せた一段は、プレシアが纏めて吹き飛ばす。……なんというか、

「……その『ストレッチ』とやらは、僕にとってはフルマラソンにも等しいぞ」

 クロノが、げんなりとした様子でぼやいた。

「あなたも、魔力はそれなりの物を持っているのだから、もっと使い方を考えてみなさい」

 なぜか、レクチャーが始まった。

「ふむ……その杖、中々いいわね」

「え? ……お、おい……?」

 クロノの手に収まった、制式デュランダルに興味を示すプレシア。

 さっと奪い取ると、カード状の待機モードにする。同じく待機モードだった試作デュランダルも抜き取り、あれやこれやとその場で改良を加えていく。

「基本構成はほぼ同じね。ただ、試作版のみで、制式では容量の都合で切り捨てられた機能も結構あるわ。分断機能に特化する都合上、オミットされた『氷結』……術式干渉……捨てるには、惜しいわね」

 長いローブの懐から、増設メモリ的な物体を次々に取り出し、がちゃがちゃと取り付けていく。プログラムなどのソフト面だけではなく、こうしたハード面にも強いという、今更だが、この女性は才人なのだなぁ、という感想を抱いた。

「できたわよ。……形は、少々不恰好だけれど」

 制式に試作を統合し、一つとなったデュランダル。それをクロノに投げて寄越す。

 起動して、驚く。

 洗練されたフォルムだったのと比べると……あちこちに排気管が付いているわ、増設したメモリがにょきっとはみ出しているわ、見る影も無い。

「……ええい、大事なのは中身だ、中身!!」

 半ばやけっぱちで、敵の一段を牽制するため、インパクトを発動。

 

――――ガキィイイイイイインッ…………!!

 

 百にも届こうかという兵士の一団が、剣を振り上げたまま……足を踏み出そうとしたまま……時間が停止したかのように、凍り付いた。

「吹き飛ばすより、効果的でしょう?」

 我が目を疑うクロノに、プレシアがしれっと言う。

 確かに、撃破するのではなく、こうして凍結させてしまえば、再生のしようが無い。

「さぁ、次よ」

 クロノは、デュランダルとS2Uを両手に構え、第二波を迎え撃つ。

 

 

――オオオオッ!!

 

「……!」

「行かせるかぁっ!!」

 結界を片っ端から修復し、破られ、それをまた修復し、戦線を維持するユーノ。彼に迫った兵士は、アルフによって撃墜されていく。

「ごめん、アルフ……」

 額に玉のような汗を浮かべ、苦笑するユーノ。

「あんたは安心して、裏方に徹してな。こんな奴らに、邪魔はさせないよ」

 

 そんな中、作戦の要となるなのはは、レイジングハートを手に持ち…………瞑想するように、意識を集中していた。

 心を乱さず……勝負の一瞬に、フルパフォーマンスを発揮するために。

「やるよ、レイジングハート」

『 All light 』

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 なのは達を追う形で、闇の書の内部に突入したはいいが……ここは、どこだ?

 毎度のことながら、通信は通じない。

 アイには、はやてのいる場所の、おおよその座標を入力してきたが……

『ここは……第二層と、中心の境界領域なの』

「なのは達の位置は掴めるか?」

 多分、はぐれてしまったのだろうが……

『第二層のど真ん中なの。多分、突入の勢いが足りていなかったの』

「俺らが飛びすぎたんだろうが……」

 まさか、スレイプニルのエンジンと同じ技術が積まれているとは知らなかった。

 

 座標を頼りに、しばらく飛行していると……前方に、闇色の球体が現れた。

 その薄気味悪い気配が、正体を如実に物語っていた。

 

――バリンッ……!!

 

「くぁーっハッハッハ! 再構築、完了っ!!」

 卵の殻を割るように……そいつ、グレアムが、新しい体を露にした。

 作りもんみたいな、完璧な肉体……って、ああ、作り物か。自分の理想の肉体を、好き勝手にチートして作り出したんだ。自分の手を汚さず、努力を放棄して……ただ、都合のいい『理想の自分』を、作り上げた。

……はやての、大勢の人生を、ボロボロにして。

「……いい気分か?」

 

――……ゴウッ。

 

 体を、蒼炎が覆う。

 ……今までそうだったような、燃え盛るような激しいものではない。かといって、温くは無い。憤怒すればするほど、脳裏がすうっと冴えていく様な……奇妙な感覚だった。

「『理想のカッコイイぼくちゃん』を、得意げにひけらかして…………楽しいか?」

 グレアムは、くくく、と含むように笑い…………

 

「――――ああ、最高の気分だとも!!」

 

 満面の、笑みを浮かべた!

「ああ、そうかよッ!!」

 戦闘体勢に、移行!!

「ロード! インパクトカートリッジ!!」

『Explogion!!』

 

――ガキュンッ!!

 

『ブチッかますの!』

「わかってらぁ!!」

最初から、全力全開だ!

「ヒャハハハハッ!! そォらァあああああああああああああああっ!!」

 

――ガゴォオオンッ!!

 

 俺の拳とグレアムの拳が衝突し、暗黒の空間を揺らす。

「刃以って、血に染めよ!」

 無数に出現し、俺の全方位を取り囲む緋色の短剣の群れ。

「バレット!」

 残らず、相殺! 多分、グレアムは次に……!!

「ナイトメア!!」

 砲撃に、繋げてくる!

「せいっ!!」

 

――パァンッ!!

 

 砲撃で相殺している暇は無い。正拳突きで、砲撃を吹き散らす。

「貫け、ミストルティンッ……!!」

 

――ザシュッ!!

 

 その中から、グレアムがヌゥっと現れ……白銀に輝く槍を、俺の腕に突き刺した!

「ぐあっ……!!」

 だが、耐えられないような威力じゃ……!

『!! マスター!!』

 アイの警告。槍の刺さった箇所が、徐々に……なんだ、これは!?

『石化呪術なの!!』

「くっ!!」

 槍を引っこ抜き、握り潰す!!

「アイ、解呪を…………」「遅いわぁっ!!」

 目前に、グレアムの拳! 防御…………くそっ! 石化した腕が、反応を鈍らせる!

 

――ゴギンッ……!!

 

「……!!」

 鎧に亀裂が入る。衝撃に体勢を崩す俺に……

「はぁあああっ!!」

 グレアムの蹴りが、モロに入った!

 

――ズゴンッ!!

 

 地面……だろうか。足場として使えそうな場所に、叩きつけられた。

「エクス…………!!」

 グレアムの両腕に、闇色の巨大な魔力の剣が出現している!

『マスター! 回避するの!!』

「ああ、……っ!?」

 立ち上がろうとした俺の両腕を、戒める何かが。 ……地面から伸びた触手のようなものが、バインドのように、俺を縛り付けていた!

 

「カリバァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 放出される……巨大な斬撃!!

 なんとか、両腕だけは脱出完了。腕をクロスして……!

「ロード! ディフェンドカートリッジ!!」

 防御専用のカートリッジを使用! さらにその防御を、蒼炎で補強し、斬撃に備え……

 

――――ズパァアアアアアアアアアアンッ!!

 

 防御は切り裂かれ……イモータルハートの装甲をも割り砕き……

「ぐ、う、うう、……!!!」

 

――俺の左腕を、中途から切り落とした。

 

 壮絶な痛みに、意識が飛びかけるのを防ぎ、吹き飛ばされる勢いをそおのままに退避する。

「はぁっ、はぁっ…………!!」

 蒼炎も、度重なる使用で効果が薄く……左腕の再生が、追いつかない。

 アイが傷口を止血するが、間に合わせにしかならない。

「おいおい…………呆気無いにも程があるぞ、うん? ……でもまぁ、仕方無い」

 にたにたと、余裕の笑みを浮かべる。

「あの小娘に集めさせた、無尽の闇、無限の魔力は、全て! この我……ギル・グレアムの力なのだからなぁ!! ハッハッハ!! いやぁ、あのガキは実にいい働きをした! 労せずして、この力だ!!」

 この闇色の空間は……グレアムに、都合の良いように作用する。先ほどの拘束も、その例だ。

「………………それで、いいのかよ」

 言葉が、口をついた。

「ん?」

「両親を殺されて…………あったはずの幸せを、全部奪われて……」

「何だ……何を言っている? 痛みで気でも狂ったか?」

「たった一つの逃げ道まで、こんな薄汚い老人に利用されて……」

 ……怒りが、ふつふつと沸いてくる。

 

「はやて。お前……それで、本当にいいのかよ!!」

 

――……。

 

 ……僅かに、闇が鳴動した。

「ええい、イラつく戯言を止めんかぁっ!!」

「スッこんでろぉおおおおおおおっ!!」

 

――ガギィイインッ!!

 

 残った右手に魔力刃を作り、グレアムに叩きつける!

「なぁ、はやて! お前、何のために魔法を使いたかったんだよ! こんな老人に利用されるためか!? こんな、他人の勝手な欲望に、いいように使われるためか!?」

 

――ギンッ……!!

 

 鍔迫り合いから、至近距離で炸裂させる。

「ぬ、うう……!!」

「辛い現実が憎くて、屈したくなくて……そのために、力が欲しかったんだろ!?」

 

――ドゴォンッ!!

 

 砲撃を連射し、強引にガードの上からごり押しする。

「全てを滅ぼしたって…………復讐になんか、なりはしない!! ただ、このクソ野郎に都合が良くなるだけだ!」

 

――ゴシャアッ……!!

 

 背部のブースターを全開にして生んだ推進力全てを、拳に乗せて、グレアムの顔面に叩きつける。

「ちゃんと目ぇ開けて、目の前を見ろ! こいつが……このきったねぇ老人が、お前から全てを奪った元凶だ! 辛い現実を作り上げた張本人だ!」

 

――パァンッ!!

 

 打ち出された魔力を、魔力を集中させた掌打で弾き飛ばす。

「お前……やられっぱなしで、利用されっぱなしで…………当の張本人は、何の痛痒も無しに、高みでふんぞり返ってるんだぞ!」

 

――――

 

 闇が、また鳴動した。

「クソ野郎の身勝手のために、他人の命を奪って、力を蓄えて…………最後は全部差し出して…………そんな奴の、何が『王』だ! そんなもん、ただの傀儡だ!!」

 

――――……

 

「俺の知ってる八神はやては! 他人に利用されて、大人しく受け入れるような従順な奴じゃねぇ! しっかりしやがれ!」

 

――――。

 

「言っておくけどなぁ! 俺は、お前の殺人なんて、これっぽっちも許したつもりは無ぇぞ!! 被害者気取って、勝手に消えるなんて、絶対許さねぇ!!」

「いい加減黙らんかぁああああっ!! ……ニードルソリッドォオオオオオッ!!」

 

――キュババババババッ!!

 

 針のように細く、鋭く砥がれた魔力弾が乱射される!

「引っ込んでろっつってんだろうがぁああああっ!!」

『Stinger Snipe』

 腕の射出口から、同数の魔力弾を発射し相殺!

「ぬぅああああああっ!!」

 

――ガシャッ!!

 

 モロに打撃が入った。視界が、暗転しかける。

「ぐっ……がぁあああああっ!!」

 

――ゴギン!

 

 応酬の右ストレートをブチ込む!

 

――ベゴォッ!!

 

 回し蹴りが、左脇腹に入り、装甲にヒビを入れた!

「うおおおおっ!!」

 肉薄し……ゼロ距離で、砲撃!!

「ぐふゥっ……!! は、ははは! 無駄だ無駄だ無駄だぁ! 我には、この無限の魔力が……!!」

 くそっ……こっちだけが、一方的に治癒できないんじゃ……!!

 また、グレアムの体に、魔力がリチャージされ…………

 

 

――――――パキィイイイインッ…………!!

 

 

 …………なかった。

 どろどろと蠢いていた筈の闇が……凍ったように、

「な……何が起こった!?」

 目に見えて、うろたえるグレアム。

「……これでもう、スタミナ以上の治癒はできない」

「だが、それは貴様とて同じこと……!! 我にはまだ、内包する魔力が……!!」

 ……だろうな。その躯体の中にも、薄らみっともなく溜め込んでると思ってた。けど。

 

「――お前、まともに真正面から戦えるのか?」

 

「――――」

 グレアムは、ぱたりと無駄口を止めた。

「自慢のチートを剥ぎ取られて、どんな気分だ? ……もう、『限られた魔力をやりくりする』方法なんて、忘れちまってんじゃねえのか?」

 現役時代ならいざ知らず……権謀術数の政治ゴッコに明け暮れて、前線から退いて……一体、どれだけ経っている?

 さっきの戦闘でも、ずいぶんと簡単に攻撃が入ると思っていた。あれは、『避けなかった』んじゃない。『避けられなかった』んだ。

「は、はは…………何を、言っているのだこのゴミは。我は、オーバーSランク魔導師だぞ。若さと活力は、全盛期…………いや、それをもはるかに、上回るのだ!」

 グレアムは、余裕を取り繕うが……その端々に、焦りが見て取れた。

「片腕で、治癒力の衰えているお前に、今更何が……!!」

「……お前の切り札は、その躯体と、無制限の魔力…………だったな。まだ、何かあるか?」

「……!」

 ……これまでの暗躍は全て、その躯体と、魔力を手に入れるため。だったら……もう、奥の手なんて、あるはずが無い。

 

「――俺には、『ある』ぜ」

 

 俺の……いや、俺達の、切り札が。

「……行くぞ、イモータルハート」『発動準備、完了なの』

 

――ブラスターシステム・リミット2

 

「――リリースッ!!」

 

…………リミット1の、何倍もの衝撃が……体中を駆け抜けた。

 

――シュウウウッ……

 

『左腕・復元完了』

 左腕の感触を確かめる。

『……『カーバンクル』セット』

 手の中に現れた球体を、即座にエネルギーに変換。イモータルハートにチャージする。

『リミット2、活動可能時間……40秒。スタンバイOK』

 ハーフモードのおかげで、20秒の制限が倍付けになった。これ以上、『カーバンクル』を喰わせたら……キャパシティをオーバーして、コアが破損する。

「おのれぇっ……!! だが、この程度の抵抗……!!」

 ……あまり、時間は掛けられない。無駄に長引かせたら、再び、魔力へのリンクを取り戻してしまう。リチャージしている暇は無い。

 

「行くぞアイ。はやてのくれた、40秒でカタをつける!」『了解なの!』

 

 背部ブースターに魔力を回し……!!

『Take off!!』

一気に、加速! スレイプニルと同等の加速は……グレアムに、反応する隙を与えなかった。

 

――グシャアッ!!

 

 グレアムの横っ面を、力いっぱいブン殴る! 推進装置を吹かして……!!

ジャブ、ストレート、フック、アッパー!

「ゴはぁあっ……!!」

 乱打、乱打。反撃の隙を与えず、拳の雨を降らせる!

「ち、治癒……治癒を……!!」

 ……馬鹿が。治癒なんてしている暇があったら、離脱して間合いを取るなり、カウンターを合わせるだけの場面だ。

 ようやく気づいたのか、反転しようと……だが、させるかっ!

「チェーンバインド!!」

 

――ガキィイイインッ!!

 

 俺とグレアムの手首を、チェーンで縛りつける。逃げられると、思ってんのか!

「てめぇはここで、俺とチェーンデスマッチだ!!」

「こ、この野蛮人がぁああああっ!!」

「文句あんのかクソインテリ野郎ォオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 振り絞るような拳。遅いそして軽い!

「おらぁっ!!」

 

――ベキンッ!!

 

 迎撃し、腕を破壊!

 やっぱりだ。グレアムはミッド式の魔導師だったはず。得意分野も、恐らくは射出系。

 只でさえ、戦いの勘を鈍らせたグレアムだ。現役のころでさえ苦手だったクロスレンジの格闘戦には、まともに対応できはしない!

『カウント、20』

……!! くそっ、もう半分か!!

「し、死ねぇええええっ!!」

 がぱっと開けた口に、魔力がチャージされている!

 

――ドンッ! ドンッ! ドンッッ!!

 

 榴弾の連射。俺もまた、至近距離という間合いのリスクを、味わう羽目になった。

 

――ドゴォオオオオオンッ!!

 

 肩、腹部……そして、胸部に、炸裂!

「ぐぁああああああっ!!」

「死ね、死ねよォおおおおおっ!!」

 霞む視界の中……グレアムが、揃えた四本指を、貫手として放ってくる!!

 

――ドスッ!!

 

「……!!」

 アバラの下に、差し込まれる。

「は、はぁははは!! このまま、ねじ切ってやるゥあああああああああああああ……、あ、あ……!?」

 狂喜が、困惑に……そして、驚愕に、染まる!

「ぬぅ、ぐっ……!! ぬ、抜けん……!!」

 筋肉で締め上げて、脱出を封じて…………

 

「ディバイン……バスター!!」

 

 腕の射出口をグレアムに押し当て、砲撃を発射!!

「ギャオあああああああああああっ!!」

 チェーンの伸縮の限界まで、砲撃の威力を体全体に受けるグレアム。

『カウント、10!! マスター!』

 ラスト十秒!! もう、術式を読む時間すら惜しい!!

 

「おらおらおらおらおらぁあああああああああああああっ!!」

 

 ひたすら、殴る。殴る。殴るッ――!!

「ご、ごぉ、の、……が、ぁ、ああああああああああ!!」

 体内に蓄積した魔力で体を治癒させ、俺を殴り返すグレアム。まだだ、まだ足りない! 治癒を上回る速度で…………拳を、叩きつける!

『5,4,3,……!』

 最後……残った魔力を全て、拳へ! グレアムも、同じく魔力を拳へ集める!

 

「インパクトォオオオオオオオオッッ! 」

「シュヴァルツェ・ヴィルクングッッ!」

 

 拳と拳が、打ち合わされる、寸前…………

 

『カウント0。タイムオーバー』

 

 ……無情の宣告が、下された。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「……これは……?」

 先ほどまで、私たちを攻め立てていた闇。

 それがまるで、ビデオの一時停止ボタンを押したかのように、ぴたりと動きを止めていた。剣を振り上げていた兵士も、そのまま……

「!! マリー! 今のうちに、計算を!!」

 荒れ狂う魔力が収まった今が……最大の、好機!

「レイジングハート…………ACS! ストライクフレーム展開!」

『All light !』

 

――ガキュンッ!!

 

 カートリッジをロード。

 レイジングハートの穂先が、スライドし……

 

――キンッ!!

 

 突撃槍の先端が、展開した。

「カートリッジ、フルロード!!」

 

――――ガキュンガキュンガキュンガキュンガキュンッ!!!

 

 いま挿入されているマガジンの中身を、一気にロード!!

 膨大な魔力が、スターライトの応用で、穂先に収束していく!

『座標特定、完了!』

「まずい、また動き出した!」

 ACSの展開。座標の特定。闇の活動再開。それらは全て、同時のタイミングだった。

「なのは! いっけぇええええええええええええええっ!!」

 フェイトが、進行方向へ極大の斬撃を放つ!

 

――ゴバァアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!

 

 これでACSの突進力を、できるだけ衰えさせずに済む!

 

――バサァアアアッ……!!

 

 レイジングハートが、六枚の光翼を展開する。

「いっけぇえええええええええええええええっ!!」

『Take off !』

 

 レイジングハートが、目の前の闇を切り開きながら、突き進んでいく!

「なのは、頼んだよ!!」

「はやてを、助けるんだ!!」

 ユーノくんやクロノたちは、活動を再開した闇に阻まれて、あの場所に取り残されていた。

「……!! レイジングハート! 全速前進で、一直線で!!」

『All light .』

でも今は……振り返っている時じゃない。

 

 私は、光の帯をたなびかせ……流星の如き勢いで、八神のもとへと飛んでいった。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 俺の拳は、打ち砕かれ……

「この俺様に、屈辱を味わわせやがってぇ……!! 土人の分際で、よくも……!!」

 グレアムが、俺の首をつかみ上げ哄笑する。

「だが……勝ったのは俺様だぁああああああああっ!!」

 

――ドボッ!!

 

 苛立ち紛れの一撃が、臓腑を抉る。

「…………」

『武装、解除……』

 覆っていた装甲が、解けるように消える。青い宝石に戻ったアイが、俺の手に力なくぶらさがる。

「……」

「おいおいおい……あんだけ大口叩いておいて、もう終いか、ああ? ……ひゃはははっ!!」

 ぎりっ……と、首を締め上げる力が、一段と強くなる。

「だぁが、貴様は殺す!」

 にやぁっ……と、卑しく笑うグレアム。

 いたぶるように、じわじわと力を込めていく。そして、このまま俺の首をねじ切ってしまうつもりなのだろう。

「…………ってたぜ」

「あ? 何だ、何か言ったか?」

 ……グレアムが、いぶかしげな顔をする。それも、そうだろう。

 今、俺は…………隠すことも無く、会心の笑みを、浮かべているのだから!!

 

「待ってたぜ……! この瞬間をッ!!」

 

 イモータルハートを、グレアムに押し付け……そして!

 

「イモータルハート! セットアップ!」

 

――バシィイイイイインッ!!

 

 グレアムの体を、イモータルハートの装甲が覆いつくす!

「こ、これはッ……!? 貴様何をッ――!?」

「イモータルハート! ドレインモードッ!!」

『フルドライブッ!!』

 イモータルハートが、強く輝き……!!

「――これが……俺たちの、最後の切り札だぁああああああああああああっ!!」

「ぬ、ぬォあぁああああああああああああああああああああっ!?」

 

――ズギュウウウウウウウウウウウウウウウッッ……!!

 

 …………グレアムの体から、猛烈な勢いで、魔力が放出されていく。穴の開いた水風船のように、際限なく、漏れ出していく!

 

――イモータルハート・ドレインモード。

 

『エネルギー消費が激しい』という、イモータルハートの欠点を逆に利用した、逆転の一手。イモータルハートを、『相手に装着させる』ことによって、急激な魔力欠乏を引き起こす。『カーバンクル』の圧縮エネルギーですら、たったの20秒しか維持できないイモータルハートの、フルドライブ。その魔力消費に対応できる魔導師など…………ありはしない。

 

「うおおオオオオオオオオオオオオオオっ!? ば、馬鹿な……! 力が……我の力が、抜けていくぅううううっ!!?」

 

 自慢の美貌も、肉体も…………加速度的に、老いていく。

 張りを失った肌には、醜く汚く皺を刻み、白銀の頭髪からは色素が抜け落ち、ただの白髪となる。

 目は落ち窪み、歯が抜け落ち…………

「あ、アアアアア……!!」

 

――ミイラのように干からび、崩れ落ちた。

 

 後に残ったのは……目をデタラメに配置し、手羽先のような異形の四肢を生やした、吐き気を催すような造詣の、醜悪な肉塊。

「……それが、お前の正体か」

 

『ギ、ギギィ……!!』

 

 その肉塊は、もはや浮遊することさえできず、べちゃりと地面に落ちる。このまま、止めをッ……!

『ギ……ギイイイイイイイイイイイッ!』

 だが、肉塊は……べたべたと四肢をばたつかせ、逃走しようとした。

「に、逃がす、かっ……!」

 くそっ……俺も、もう殆ど限界だ。

 ……魔力の残りかすを何とかかき集め、魔力弾を一個、生成。そして……射出!

 

――ドシュッ!!

 

『ピギィイッ!?』

 発射された魔力弾は……肉塊の半身を消し飛ばした。

 だが肉塊は、残った二肢で、わしゃわしゃと逃走してしまった。

「く、そ……!!」

 俺も……もう、動けない。

 逃げられる……!!

 

 そう思った矢先。

「逃がさないよ」「もう、終わりにしよう」

 ……二つの人影が、その肉塊を捕獲した。その二人は……

「アリア、ロッテ!?」

 ……グレアムの使い魔だった。

「――! まずい、離れろ!!」

 直接している箇所へ、肉塊が薄汚く侵食していく! こいつ、二人を養分にするつもりか!

「……大丈夫」

 だが、俺の焦りをよそに、二人は平常心のままだった。

 いよいよ、二人の肉体は、完全に肉塊と癒着してしまった。

 肉塊……かつての主の成れの果てを、二人は悲しげに、哀れんだ目で見つめる。

「そろそろ、ケジメをつけるときだね」

「ええ。……私たちの罪を、償うとき」

 そして……取り出したのは、一枚のストレージデバイス。

 開放され、魔法陣が展開する。その術式を、アイが読み取る。それは……

「魔力……炸薬!?」

 自爆装置、だった。

「どっちにしろ、コイツとあたしらは、一蓮托生なんだよね」

「…………だから、こうして」

 くっ……! なに、馬鹿なことを……!!

 止めようとした俺の体を、二つのバインドが、戒める。

「! くそっ、おい、解け! 馬鹿な真似するな!」

 万全の状態なら、解けるのに……!!

「悪いのはグレアムだろ! お前らが死ぬなんて、そんなの、間違ってる!!」

「それに加担したのは、私たちの意志」

「我が身の可愛さに、目を背けたのは、私たちの罪」

 でも……でも!

「……お前たちまで、クロノを悲しませる気か!」

 二人は、びくっと身をすくませた。

「クロノは……お前たちのことを、家族同然に思ってるんだぞ! それが死んだら、クロノは、クロノは……!!」

 あいつは、任務中に父親を亡くしている。まだ小さい頃だったらしいが……それでも、あいつが何も、悲しまなかったはずが無い。それを、繰り返させるわけには、いかなかった。

「うん。でも、ごめんね」

「……こうして融合してしまえば……逃げることはできなくなる」

 やめろ、と、馬鹿のように繰り返す俺に、二人は微笑んで…………

 

「――もっと早く、キミみたいな子と会えてたらなぁ」

「――そうね。それはとても、素敵なことだったわね」

 

 二人は、グレアムを抱えたまま……浮上していった。

 

「…………カウント、スタート。5,……ねぇ、アリア」

「4,……なに、ロッテ」

「3,……あの世というものが、本当にあるのなら……やり直せるかな」

「2,……うん、そうだね。でも、いいんだ。もし、行き先が地獄でも…………ロッテが、一緒だから」

「1,……ふふ、そうだね。わたしも、そう思う。だから………………」

 

――0。

 

「「 共に参りましょう……お父様 」」

 

 かつて、主と共に。

 

――――――……………………!!!

 

 二人の使い魔は…………はじけて消えた。

 

「――!!」

 ガンッ!!

 地面を殴りつけた手が、ひどく痺れた。

「くそっ……! くそぉっ…………!!」

 無力感に、体が震えた。

俺は……あの二人を、取りこぼしてしまった――

『マスター。見るの』

 アイに促され、それを見る。二人が消えた、その地点に…………残り火のように、きらきらと輝く魔法のコードが、残されていた。

 重力に従い落下してくるそれを、手に取る。

 

『――――ユニゾンデバイスの、根幹システムなの』

 

 ……二人が残した、形見だった。

 

 

 

 

――キィイイイイイイイイインッ……!!

 

 彼方から……見覚えのある魔力光が、飛来してきた。

 ……持ち主を、伴って。

「秀人さんっ!」

 目の前に着地したなのはが、俺に駆け寄る。

「秀人さん、大丈夫!?」

 よかった……どうやら、なのはも無事のようだ。

「グレアムは…………躯体は、今度こそ完全に破壊した」

「うん。おかげで……八神のところまで、一直線で行ける!」

「なのは、悪いけど……」

 なのはは、言い終わる前に意を汲み、実行した。

「よっこいしょっ……!」

 なのはは、小さな体で、俺を担ぎ上げる。

「一緒に行こう。……八神の、ところに」

「……ああ」

 そして俺たちは……はやての元へ、飛んだ。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 第二層を超えて、少し。

 呆気無いほどスムーズに……秀人たちは、中心部へと到達した。

「…………」

 そこは、第二層が昼間に思えるほどに暗い……全ての光を飲み込んでしまいそうなほど、深く、暗い、闇の中。

 

――その真ん中に、はやてがぽつん、と、うつむいて座り込んでいた。

 

「はやてっ、」

 秀人が、駆け寄ろうとする。だが……

 

――バシッ!!

 

 無色透明の壁が、その行く手を阻んだ。

「はやてっ!」

 ドンッ、とその壁を叩く。はやては、ゆっくりと顔を上げる。

「………………お前たちか」

 憔悴し……絶望に染まった顔。

「これを、どけろ。一緒に帰るんだ」

「…………」

 秀人の説得。だがはやては、それに頷く気配を見せない。

「はやて!」

「うるさいっ!!」

「……っ!」

 叩きつけるような、否定。

「私はもう、ここを出ない!!」

「何を、馬鹿なことを……!!」

 だが、目の前の壁が、秀人たちを通さない。

 

「…………もうね、わかっちゃったんだ」

 ぽつぽつと、はやてが語り始めた。

「どんなに頑張ったって…………この世界は、何も変わりはしないって……私の居場所なんて、どこにもありはしないんだって!!」

「そんなこと……!」

「じゃあ、見ろよッ!!」

 否定しようとする。だが、それに被せるようにして、はやてが叫ぶ。

 腕を振ると……周囲に、明かりが点る。周囲が、俄かに明るくなり…………

「…………!!」

 秀人は、言葉を失った。

 

 そこにあったのは……押しつぶされた森林と…………滅茶苦茶に破壊された、何らかの残骸であろう大量の金属片と………………

 

――無残に焼かれる、数多の死体。

 

――はやての足は……その残骸に、押しつぶされていた。

 

「ここは、……まさか、」

 秀人は、その場所に心当たりがあった。

「航空機、墜落事故の……」

「…………知ってたんだ?」

 そう。ここは……はやてが、全てを失った場所。

「……必死こいて、人殺しに堕ちてまで……闇雲に、がむしゃらに、前に前に、進んできたつもりだった」

 ごうっ……と、飛び火した炎が、また別の死体に燃え移る。焼け焦げ炭化した遺体は、時間が巻き戻るように元に戻り、また焼かれる。この空間全てが、そんなことを繰り返していた。

 

「でも……私は結局、こんなトコに居たまんまだ」

 

 全てが、否定されていた。

「だから……もう、いいんだ。頑張らなくて、前に進まなくて…………」

 心が、折れてしまったのだから。

 秀人は、かける言葉が口に出ず………………

 

「――本当に、それでいいの?」

 

すっと、なのはが前に出た。

「……八神は……こんなところが、終点でいいの?」

「…………」

「こんなところで、膝を抱えてうずくまってて…………」

 だんまりを決め込むはやて。

 なのはは、腰の回天桜花を抜き…………

 

――――ガリィッ……!!

 

 目の前の壁を、切りつけた。

「この……大馬鹿!!」

 爆発したように、何度も、何度も、壁を切りつける。

「居場所が無い!? 頑張らなくていい!? 前に進まなくていい!? …………甘えるのも、大概にしろッ!!」

「うるさい……!! うるさいうるさいうるさい!! お前なんかに……お前なんかに、わかってたまるか!! 人に囲まれて、幸せなお前に、何がわかるっ!!」

 

――その言葉が……なのはの、逆鱗に触れる。

 

「――お前こそ、何もかも分かったつもりかぁっ!!」

 渾身の力で、目の前の壁を切り刻む。秀人も、そのひび割れに、拳を叩きつける。そして……

 

――バリィイインッ!!

 

 ……壁が、破られた。

 なのはは、回天桜花を仕舞い……はやてのもとへ、ずんずんと歩いていく。

「……!」

 そして、右手を振り上げ…………

 

「……これ!」

 ……何かを、はやてに示した。

「……?」

 それは、一個の携帯電話。黒地に赤いラインの、少々厳ついデザインの……

「……これ、私の」

 はやての携帯電話だった。

 手に取り、開く。すると……

「…………これでも、まだ…………帰る場所がない、なんて言うの?」

 

――――何件もの、何件もの…………着信履歴。

 

 不在着信があった。メールがあった。留守番電話のメッセージがあった。

「…………」

 ぴっ、ぴっ……と操作する。

 

――一件目。

 

『あ、姉御ッスか!? こちらコージ、定時連絡ッス! バイト、ちゃんとやってるッスよ! ……っつか、どーんっていったッス! なにこれ!? ヤバくね!?』

 

――二件目。

 

『あー……八神ちゃん? あたしあたし。ルミだけど。なんかねー、工場で爆発があったっぽいんだわー。なんか町中危ないっぽいから逃げるけど、八神ちゃんも早く逃げたほうが良さげかもー。じゃねー』

 

――三件目。

 

『おっす、八神! オレオレ、オレだよオレ! サカキ! やっべ、なんかチョー揺れた! 地震!? 八神のほうダイジョブ!? ヤバかったら呼べよ! オレのマジェでとんでくぜ!』

 

 …………町中に配置した、八神の手下たち。

 電話帳に記された名前の全てが、電話なり、メールなり、はやてへ連絡していた。

「うそ……あいつらは、ただ、恐怖で私に従ってただけのはず…………」

「そいつらは、そうじゃなかったってことだろ」

 

『はやてちゃん!? 石田です! 無事なら、連絡ちょうだいね! ……あと、帰ってきたらちゃんと足の精密検査するからね!』

 

『八神さん! 担任の富山です! 連絡網が通じなくて、ええっと…………あ、はい今行きます長谷川先生! うん! 無事なら、隣町の公民館で、待ってるからね!』

 

 そして。

 

『八神? わたし。八代』

「……!!」

 びくっと震える。はやては、八代の想い人……葉山を傷つけた負い目があった。だから、この後には罵声が飛んでくると思っていたのだが……

『いま、健太も一緒に隣町に向かってる。

…………言いたいことが山ほどあるんだから、ちゃんと、帰ってきなさいよ。待ってるから。…………それじゃ』

 

「待ってる……?」

 信じられない、といった様子だ。

 

『ああ、はやて!? アリサよ! あーもう、やっと繋がったら留守電とか、心配するじゃないの! すぐ連絡してくること! いいわね!?』

 

『はやてちゃん。すずかです。そっちは大丈夫? もし市外に出るんだったら、月村の家で待ってます。いつでも頼ってくれていいからね』

 

 

 全てを見て、聞いて…………はやては、呆然とした。

 帰る場所はある。戻って来い、と。それが、物語っていた。

 

「でも、私は…………何も、できなかった。パパとママを、見殺しにしちゃった…………許してもらえるわけ、無い」

 

 …………燃え盛る事故現場。

 これが、はやての深層心理に刻まれた、深い傷。両親を見殺しにして、自分だけが助かってしまったという…………罪悪感。

 

「んなわけねーだろ」

 

 秀人は、それをあっさりと否定した。

「……これ、お前のだろ」

 そして懐から、『それ』を取り出した。

「あ…………!」

 一目で、わかった。

 精緻な装飾を施された、美しい銀の剣十字。

「私のだ……パパと、ママがくれた…………私の、大事な……たからもの……」

 泣きそうな顔で、それに手を伸ばす。

「……だ、だめ。私には、それを持っている権利なんて…………」

 だが、手を引っ込めてしまう。

「……パパとママの、最後の言葉を聞いてあげられなかった………………だから、私には、それを受け取る資格なんて……」

「……資格とか、そんなんじゃない」

 それを、はやてに握らせ…………その手を、上から包み込む。

「………………」

 意識を集中する。

 

――ポウッ……

 

 蒼い光が、灯る。

 

――かつて、泥騎士に殺害された死者の残留思念を呪い、使役した蒼炎。死者の思念を、呼び起こす…………反魂の、蒼炎。

 

……もう、使い方を違えたりはしない。

 

「お父さんと、お母さんの言葉……今度こそ、聞いてやれ」

 剣十字、それ自体が、輝く。

 

――梅雨雲のような灰色と……初雪のような純白に。

 

「魔力光……?」

 ……はやてが、高い魔力資質を備えているのなら。決して低くない可能性で…………はやての両親もまた、魔力を備えていたのだろう。

 二つの魔力光は、やがて……二つの、人影を形作った。

「あ、あああ…………!」

 はやてが、声にならない声を上げる。

 その人影は……

 

「パパ……ママ……!!」

 

――優しげな笑みを浮かべる、はやての両親の姿だった。

 

 ……笑っていた。その最後が、炎に焼かれての、焼死だったというのに。

「ごめんなさい……ごめんなさい……!!」

 必死に謝るはやてを、どこか困った風に見つめ……

 

――はやて。なにもかも、自分のせいにして思いつめるのは、きみの悪い癖だよ

 

――いっつも、もちっと気楽になってみぃ、言うとるやろ?

 

「…………怒って、ないの……?」

 両親は、顔を見合わせ……また、笑った。

 

――そんなわけ、ないだろう。きみを死なせるなんて、まっぴらごめんだ

 

――うちは母親やで? 娘の命より大事なものなんて、あるわけないやろ?

 

 そして……二人は、悲しげに、目を伏せた。

 

――すまない。きみを、ひとりぼっちにしてしまった

 

――すまんなぁ。あんた、人一倍さびしんぼやのに

 

と、母親が、後ろを指差す。

 はやてが振り返り……その目が、秀人を、なのはを見る。

 

――ああ、でも……もう、大丈夫だね

 

――そうみたいやね。もう、さびしくないやろ?

 

「でも!」

 はやてが、声を上げる。

「さびしいよ……! パパとママが、いないんだもん……!! 一緒にいてよ……!!」

 

――すまない。そのわがままは、聞いてあげることができない

 

――すまんなぁ。ほんまは、何でもしてやりたいんやけど

 

「いやだ……いやだよ……!」

 駄々っ子のように、何度も首を振る。

 

――大丈夫。離れても……そばにいる

 

――大丈夫や。一緒にはいられんでも……いつもそばにおるよ

 

 その輪郭が、薄らいでいく。

「……………………」

 はやては、気づいていた。この奇跡のような時間は、もうすぐ終わると。

 ならば……どうする。いつまでも、駄々をこねているか? ……そんなことで、両親に胸を張れるのか?

 はやては……涙をこらえて、真っ直ぐに、両親の目を見た。

「…………わ、かった…………我慢、する……!」

 両親は、娘の成長を見て、誇らしげだった。

 

――いい友達が、できたんだね

 

――ほんま、安心したわ。あんた、人付き合いヘッタクソやもんなぁ

 

「え、ええっと……」

 少し、困ってしまう。

 友達と、言ってしまっていいものか、と。だが。

 

「――いいよ」

 

 なのはが、それをするりと肯定した。はやては驚き…………少しはにかむように、笑った。

 

 ……二人の輪郭が、更に薄らいでいく。もう、終わるのだ。

「…………!!」

 顔をゆがめ、手を伸ばす。

 両親は……はやての足に、重たく圧し掛かる残骸を……彼女の罪悪感を……軽々と、持ち上げた。

 

――ああ、そうだ。これだけは、言わないと

 

――そうそう、これだけは、伝えんと

 

 父親は、はやての頭に手を置き。母親は、その頬を伝う涙を拭う。

 その、伝えるべき言葉は………………

 

 

――――――はやて。誕生日、おめでとう

 

 

「――――――――!!!」

 はやては、両親のぬくもりを…………最後の最後まで、抱きしめ続けた。

 

…………剣十字が、輝きを失う、その瞬間まで。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「……立てる?」

 なのはが、気遣うように、はやてに手を伸ばす。はやては…………いつもなら跳ね除けるはずのその手を、躊躇いながらも掴む。

「……出るよ」

 再三の、呼びかけに…………

「………………うん、わかった」

 ようやく、頷いた。

 だが、その表情は、暗く、重い。

「……どうかした?」

 

「出るよ。出て…………ちゃんと、償わないと」

 

 償う。それはつまり、殺人の罪を、受け入れるということだった。

「それは……」

 だが、事実として、はやては大勢の人間を殺している。それは、否定しようの無い、事実だった。

 日本の……というか、この地球上の法では、魔法による殺傷行為を罰する記述は無い。

 おそらくは、管理局によって、裁かれることになるのだろう。

 …………少なく見積もって、数百の殺人。

 極刑は、免れない。

 

「おい、いるんだろ……テンタトレス」

 

 秀人が、急に声を出した。

『……ここにいるが』

 当然のように、現れる。

「ひとつ聞かせろ。はやてが人を殺して、魔力に変えたとき…………肉体と魂は、どうなる」

『魂は、動力炉心として、魔力を生み出す機構に組み込まれる。肉体は、守護騎士の素体として、別ストレージで保管する』

「……魂そのものが、魔力になるわけじゃないんだな」

『ああ。それでは、使い捨てになってしまうからな……………………おい、まさかとは思うが、』

 いぶかしがるテンタトレスに、秀人は、言った。

「ああ、そのまさかだ」

 

『マスター。あれをやるの?』

「……今が、その時だ」

 今……そう。闇の書の内部にいて、闇の書に干渉する者が無く、本来の主が、自我を保っていて、そして…………魂と肉体が、揃っている時。

 これだけの条件をクリアするのは、難易度どころの話ではなかったが……ようやく、実現できる。

 

――――――はやての罪を、禊ぐことが。

 

「イモータルハート・モード3『セイヴァー』」

『Standby Ready』

 モード1は、巨大な手甲。モード2は、長大な砲身。では、モード3は。

 

「セットアップ」

 

 秀人が、モード3を展開する。

 それは、モード1、モード2、それらとは、ベクトルの違う装備だった。

 破壊力を持った武装は皆無に等しく……装飾的・記号的な形状の具品が、大半を占める。各部にはジェネレーターが配置され、唯一にして最大の特徴…………蒼く輝く、半実体の翼が、背部に展開されていた。

 両手に、『カーバンクル』を握る秀人。それらを同時に圧縮し、胸部装甲のシリンダーに取り込む。

「お前に、伝えておくように、頼まれた言葉がある」

 胸部シリンダーへ蓄積されたエネルギーは、そのまま、背部の光翼へ。

 輝きを増す光翼からは、蒼い粒子が、舞い踊る。

「――『銀は、手入れをしなければ、くすんで輝きを失っていく。そこは、永遠に輝き続ける金やプラチナとは違うところだ』」

 奈々の……その祖父の、言葉だった。

「――『銀の手入れは、研磨すること。当然、手入れをすればするほど、銀の表面は、細かな傷がつく』」

 その言葉を、なのはが継ぐ。

「『だが、人の手で大事に磨かれ続けた銀は、金にも出せない輝きを得ることが出来る』」

 傷は、完全には消すことはできない。

 だが……それで、いいのだ。

 傷ひとつ無い……何も刻まれていない人生など、無いのと同じではないか。

傷も、罪も。…………決して、全てが恥では無いのだから。

 

「「――傷だらけでもいい。傷だらけだからこそ、輝いていられる……そんな生き方を、してみなさい」」

 

――傷も、罪も…………刻んで、抱えて、生きればいいのだ。

 

「だから、俺が…………お前の罪を、許してやる」

 

 臨界に達した光翼から…………光が、漏れ出した。

 光…………超高純度の蒼炎は、静かに、暖かく…………凄惨な空間を、焼き尽くす。

 無数の死者も。残骸も。全て等しく、蒼く、蒼く、焼け落ちる。

 闇に差し込む、救済の光。

 

『ああ、光だ…………』『帰れる……帰れるんだ……!!』

 

 それは……牢獄にとらわれていた人々の魂を、解き放つ。

 そして……

 

「生命結合――」

『Connect on』

 一人、また一人と…………分離されていた肉体に、魂が、生命が、吹き込まれていく。

 そして、その度に、沈殿していた呪いが、祓われていった。

 幾人も、幾人も。それを、見送るはやては……一人ひとりに、懺悔した。

 

 やがて、ストレージの中から、出て行く魂と肉体が無くなった。

 

 

「…………………………」

 ……これはあくまで、結果論でしかない。

 はやての殺人という罪は、過程として、確かに存在する。だがそれは、はやてにとって、確かな救済だった。

 無限の呪いは、確かに、浄化されたのだ。

 残ったのは…………有限の罪。償えるだけの、罪。

 

『…………』

 その傍らには、むすっとした顔で佇む、テンタトレス………………と、いうか。

「……なんか縮んでね?」

 成熟した身体だったはずが、いまや、はやてよりも頭二つほど小さい、愛らしいテンタトレスの姿が。

 

『……ふん。蓄えていた力を失い、幼体化してしまったわ』

 

 憎まれ口を叩く。だが、そこにはどこか、晴れ晴れしささえ漂っていた。

『秀人君、なのはちゃん! 聞こえる!?』

 エイミィからの通信が入ったということは…………

『闇の書の反応が極度に弱まって…………クロノ君たちも、脱出完了! それで、今そっちに、リーゼが……』

「……主!」

 言い終わらないうちに、リーゼが現れた。そして、そのまま…………

 

――ぱんっ!!

 

 はやての頬を、思いっきり張った。

「…………」

 無言のはやて。リーゼは、厳しい顔を、次第に崩していき…………

「う、っく、うう……!! あ、主……! ほ、本当に、本当に心配したんですよ……!!」

 すがりつくように、泣き出した。

「……悪かった」

 はやては、仕方なさそうに、リーゼを撫でる。

 これで、万事が解決………………いや。

 

『まだだ。まだ、遣り残したことがある。…………そうだろう、汝』

 

 テンタトレスが、前に出た。

「……何を、」

 

『我を滅ぼせ』

 

 …………そう、言った。

「な、っ……!? おい、どういうつもり……!!」

「……。」

 秀人が問いただそうとするのを、はやてが手で制した。

 

『もう、汝を縛る呪いは…………ただ一つを残し、消えた』

 その、たった一つとは……考えるまでも無い。

『汝を苛んだ、原初の闇……テンタトレス』

 そう。闇の書の、攻撃プログラムだ。

『もう、汝が闇に拘泥する理由は無かろう』

 テンタトレスは、リーゼを見やる。

『リィンフォース、』

 と、言いかけて、訂正する。

『……いや。今は、『リーゼ』か』

「ああ、そうだ。…………主との、盟約の名だ」

 そうか、と短く返答する。

『汝はすでに、闇の書から完全に独立している。我が滅ぼうとも、汝は残る』

「……テンタトレス、私は、」

『止めよ。我は、我が名を好まぬ』

 テンタトレス。それは、忌み名だ。

『千年の縁も、これで終いだ。……思えば、汝にも苦労を掛けた』

「――!! 私はお前に、全ての責を押し付けた!! 闇の書の呪いを、攻撃プログラムのお前だけに……!!」

 吐き出すように懺悔するリーゼ。テンタトレスは、悟ったように言う。

『良い。……我が、望んだことだ』

 ……彼女は、彼女なりに。闇の書の呪いから、同胞を守り続けていたのだ。

 

 そして、再びはやてに向き直り……

『闇を捨てよ。そして、今度こそ、光の中を歩くのだ。

 

…………汝の罪は、我が持ち去ろうぞ』

 

 ロストロギア……闇の書を自らの手で破棄すれば、はやての罪は、軽減されるだろう。

 罪は捨てろと。もう、背負う必要は無いのだと。

『…………』

 背を向け、介錯を待つテンタトレス。

 

「そんなの、許さない」

 

 はやてがそれを…………聞き入れよう筈がない。

『……、何が』

「私、あんたに言わなきゃならないことがある」

 はやては、すうっと息を吸い込み………………

 

「――――ありがとう」

 

 ――頭を下げ、礼を述べた。

『!?』

 これには、さすがに驚きを隠せない。

「死にそうになったとき、何度も助けてくれて、ありがとう。…………戦う力をくれて、ありがとう」

『……!! ば、馬鹿が! 我はただ、闇の書の使命を……!!』「それでも」

 弁明を、押さえ込む。

「お前が、私にたくさんの贈り物をくれたことは、本当のことだよ」

 そして、口調を変えて……

「おまえ、言ったよね? 私とおまえは、『対等だ』って」

 覚醒した際、歯向かうはやてを組み敷き、そう言っていた。

『ああ、言った。だが、それが…………』

「おまえは、私の願いを叶えてくれた。だから……今度は私が、お前の願いを叶える番だ。勝手に死ぬなんて、絶対に許さない」

それが……はやての望む、対等な関係だった。

『我の……我の望みは、ここで果てること…………』

 ……まだ、そう主張するテンタトレスに、はやては……『仕方ないなぁ』とでも言えそうな表情で、やさしく告げる。

 

「私は……罪を捨てたり、誰かに押し付けたりはしない。

 

闇も捨てない。…………どっちも抱えて、一緒に生きていく」

 

 闇を…………彼女を、受け入れると。そう、宣言した。

 そして。

 

「あなたの本当の願いは、なに?」

 

 …………迷い、戸惑い…………

『我は……』

 俯き、肩を震わせる。……だが、それもすぐ、嗚咽へと変わった。

『我はもう、呪いの魔導書などと……テンタトレスなどという忌み名で、呼ばれたくない……! 誰も殺したくない……! 何者をも、呪いたくは無い……!』

 それが……500年にも渡る、彼女の願い。

 ばっと振り向いた、名も無き彼女は…………

『なぁ、汝……汝よ、』

涙にぬれた目で、ついに、口にした。

 

 

『我を、助けてくれ――!!』

 

 

「――うん、わかったよ」

 はやては、小さな彼女を、抱きしめる。

「……名前を、あげる」

 誓約の名を、贈る。

「もう、誰にも忌み名で呼ばせない。闇の書は……『テンタトレス』は、ここで滅ぶんだ」

『テンタトレス』を滅ぼすという願いを、聞き入れる。そして……

「私の運命……星を守護する、御遣いの名。『罪なき者』の、聖なる名――」

 その名は――――

 

 

「――――アーフィエル」

 

 

 それが……彼女の、新たな名。

「アーフィエル……アーフィエル……そうか……我の名は、アーフィエルか……」

 確かめるように、何度も、その名を呟く。

 心なしか、その声さえも、確かなものとして変化していた。

「――我が名は、アーフィエル。確かに、承認した。……わが主よ」

 ……晴れやかに、笑った。

 

――――キュイインッ……!!

 

 ……と、はやての手の中に、一冊の魔導書が出現する。

「それは……」

 その本を見て、首をかしげるリーゼ。見た目は、闇の書と酷似しているが……紫がかった色彩と……何より、感じる魔力が、桁違いだ。

「我に施された改悪はリセットされ……この魔導書もまた、真の姿を取り戻した。」

「真の姿……?」

 どうやらリーゼは、知らないようだ。より深くシステムに食い込んでいたアーフィエルだからこそ、知りえた情報。

「これはな……闇の書と呼ばれる前は、夜天の書と呼ばれていた。

…………だが、さらにその前。……夜天の書を生み出す雛形……原書として用いられたのが、これだ」

 そのままでは強力……というより、特異すぎ、汎用性が極めて劣悪なため、徹底的にデチューンを施されたのが、夜天の書。

 

「名を……至天の書という」

 

 夜天を越え、天へと至るための秘宝である。

「……さぁ汝よ。……その手に、魔法を」

 促され、その表紙を開く。秀人たちには……何も書いていないように見える頁。だが。

 

「 『我、天へと至る王なり――』 」

 

 ざああっ……と、白紙の頁が一気に記述される。

「……至天の書は、『蒐集』する夜天の書とは、大きく違う点がある。それは…………自らの意思で、頁を記述することができる」

 それは、つまり…………

 

「望む効果の魔法を、任意に創造することができるのだ」

 

 …………なのは、フェイト。突出した実力を持ち、感覚で魔法を組むことができる天才型。だが、その魔法は、結局のところ、既存の公式またはその応用でしかない。

この至天の書は、その公式をも、自在に生み出し、操ることができるのだという。

 それはもはや、『奇跡』の領域だ。

 

「――『魔導創造』。いまだかつて成し得たものの居ない、神代の業だ」

 

 アーフィエルは、目を細め……誇るべき主の勇姿を、刻み込んだ。

 

「 『誓いの元、旧き呪縛を解き放ち、新たな道を切り開け――』!!」

 

 至天の書は、まばゆい光を放ち……そして。

 

「 『 今再び、我が元へ馳せ参じよ! 来たれ――七星騎士《ドゥーベルリッター》』!!」

 

 

――――――キュドンッ!!

 

 ……立ち上った七本の光の柱は、闇の空を突き抜け……天まで高く、立ち上った。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

――キュドンッ!!

 

 轟音とともに、魔獣の体を突き破り、七本の光の柱が、立ち上った。

 

――紫。青。緑。赤。紅。水。白。

 

ひとつとして同じ色の無い、七色の柱だ。その根元……光の帳の奥に、傅く人影が、見えた。

うち、一つ。赤い柱の根元にだけは、人影は無い。

 

「え!? こ、これは……!!?」

 撤退のさなか……ヴィータの身に、異変。

 体が明滅し、行動に支障が出始める。クロノがマリエルに解析を求めるも、それはヴィータの耳には届かず…………

 

 

――ヴィータは瞬時に、柱の根元に転送された。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 光の柱が、闇の空を突き破り……本来の空が、見えた。

 あそこを抜ければ、魔獣の体内から脱出ができる。

 

ふと、考えてしまった。

 

 この内部は、過去の映像を、克明に映し出す。そして、あまりに精巧な幻想は、現実世界を侵食し、影響を及ぼすこともある。

 

だから、考えてしまった。

 

――――この中のどこかに、両親が、生きているんじゃないのか……と。

 

 はやてと共に、浮上する最中…………背後を、……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

―――― 振  り  返  っ  た  な  

 

 

 

「!?」

 気づいた時には、遅かった。

「…………!! 、ぐ!!」

 不可視の……だが、確かにそこにある闇が、秀人の体内へ、音も無く、抵抗も無く、ずるりと……潜り込んだ。

「…………!!!」

 それは、何故か蒼炎の効果を受けず…………いや、むしろ。それと一体化するかのように、定着した。

 取り返しの付かない事態に、だが、秀人は。

「…………」

 何故か…………無言で、放置した。

 

 秀人の身に起こった異変は、不幸なことに、アイですら気付くことができなかった。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

――魔獣の体内から、ついに脱出を成功させたはやて。

 

 七柱を従え、中央に佇むその傍らには…………本来の姿を顕現させたリーゼ……リインフォースと、アーフィエル。

「……あ、」

 秀人の手の中から、……コードが、するりと抜けていった。それは……あのリーゼ姉妹の遺した、ユニゾンデバイスのシステム。

「使わせて、もらうね」

 コードは、至天の書の中へ、吸い込まれていった。

「……行こう、リーゼ。アーフィエル」

 その声を受け、リーゼとアーフィエルが、輝く光と、漆黒の闇に、姿を変える。

「これは……融合騎の……?」

「……そうか。これが、汝の答えか」

 そして……三人同時に、トリガーボイスを、謳い上げた。

 

 

「 「 「 ――――ユニゾン・イン 」 」 」

 

 

 光のリインフォースと、闇のアーフィエル。本来ならば、反発しあうだけの二つは……至天の王のもと、合一する。

 騎士甲冑が、着装される。

 右手に、アーフィエルが変じた魔剣を。左手に、リーゼの変じた聖盾を。頭髪は、眩き白銀。背には、七色に変遷する、六枚の翼。

 はやて。アーフィエル。リインフォース。まさに、三位一体。

 

『光も闇も、どちらも抱いて、一緒に歩いていく』………………その、具現の姿だった。

 

――バシュンッ!!

 

 同時……七色の柱もまた、掻き消え……7人の騎士たちが、その姿を現した。

 その中には、ヴィータの姿もあり…………秀人に、不敵な笑みを見せる。

 

「――我ら、至天の盟約のもと、集いし騎士なり」

 

 口上の始めを切るのは、魔剣を二振り、腰に佩いた美丈夫。……烈火の騎士シグナム。

 

「――主ある限り、我らの円環、途切れること無し」

 

 指輪を填め、杖を携えた優男。……湖の騎士シャマル。

 

「――この身に命ある限り、我が身は御身と共にあり」

 

 細身の手甲を着けた、ポニーテイルと尻尾が目立つ少女。……盾の騎士ザフィーラ。

 

「我らが主……至天の王、八神はやての名の下に」

 

 そして、……鉄槌の騎士ヴィータ。

 

「 「 「 「 呪怨の因果を、断ち切らん! 」 」 」 」 

 

 

 

 そして、残る三柱は。

 

 

 

「ぜー、はー、……くそっ! そーいえば、まだ外にこいつらがいたんだった!!」

 グレアムの作り出した、命無き騎士団に囲まれるフェイト達。

『フェイト、ママ、後ろ!』

「くっ――!」

 疲労も、ほぼピークに達し、動きを鈍らせる。あわや、その一撃がフェイトとプレシアを捕らえようとした、その時――!

 

「――光、翼、斬!」

 

――――ズババババババババッ!!

 

 …………飛来した魔力刃が、雑魚騎士を薙ぎ払った。

 その発射地点から、瞬時に高速で移動してくる者が居た。

「さんきゅー! だれか知らないけどたすかっ……………………ぅええええええええええええええええええええっ!?」

『……ど、どういうこと……? ……はっ!? ママ、隠し子!?』

「ちっ、違うわよ!?」

 三人が、慌てふためく。

 

「……初めまして、母さん、姉さん達。わたしは『襲撃者』、刃の騎士…………レヴィと、呼んでください」

 

 礼儀正しくお辞儀をするその少女は…………フェイトやアリシアと……瓜二つの容貌を、持っていたのだ。

 

 

 

 雑魚騎士の一団を縛り上げ、纏めてねじ切るユーノ。

 クロノも必死で凍結させ、打ち抜き、縛り上げるが……何せ、数が多い。

 敵もまた、それをも上回る数で、押し切ろうとして…………

 

「――――あかんなぁ、二人とも。『広域殲滅』っちゅーもんを、まったくわかってへん」

 

――――漆黒の翼が、舞い降りる。

 

 頭髪は白金。装束は紫紺と黒。翡翠色の瞳が、爛々と輝く彼女は……

「うちが、お姉ぇに代わって、教えたるわ」

 キューブ状の魔力スフィアを四つ、出現させる。そして……

 

「吹き荒べ、氷結の息吹――アーテム・デス・アイセス!!」

 

 瞬時に、解放!!

 

――――ゴキィイイイイイイイイイインッ…………!!!!

 

 …………全方位。放射状に解放された凍結の魔力は、押し寄せた一個大隊ほどもいた雑魚騎士たちを、絶対零度の凍土の中に、封じ込めた。

「――な? 氷結属性の魔法は、こう使うんやで…………っと!」

 パチンッ! と指を鳴らす。氷漬けにされていた雑魚騎士たちは、さらさらと……雪のように、細かく粉砕された。

「兄さん、ブキッチョやなぁ。せっかく、そないなエエもん持っとるんやから、活用せんと。それに、そっちの結界魔導師の兄さん……兄さんは少し、思い切りが足りんよ。相手は、ただのお人形や。もっと遠慮せんと、情け容赦も捨ててブチかまさんと」

 ひょい、と自分の十字槍を担ぐ。

 眼下……市街地へ進攻する、雲霞のような、雑魚騎士たちを見下ろし…………

 

「この『闇統べる者』、闇の騎士・ディアーチェさんが、お手本見せたるやさかい……よう見ときぃや!!」

 

――ズゴゴゴゴゴゴッ……!!

 

 天が……揺れるように、鳴動する!

 

「万象一切、打ち貫き……降り注げ、白銀の風!! ――――フレースヴェルグッ!!」

 

 

――――…………ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!

 

 

 雨のように無数に降り注ぎ、かつ、一撃一撃が、とんでもない威力の。

 ……クロノのスティンガースナイプを、全てなのはのディバインバスターに置き換えたような、デタラメ威力の魔法。

 それは、群れていた雑魚騎士たちを押しつぶし、射抜き、砕き………………周囲の建造物を、根こそぎ消し飛ばした。

 

 

 

 

 そして…………残るは、一柱。

「さぁ、我が王――参りましょう」

 平坦な…………しかし、万感の思いが込められた、声。

 

「『殲滅者』、星光の騎士・シュテル――――誓約を、果たしに参りました」

 

「ああ。………………お前を、ずっと待っていた」

 

 

――――――七つの星。至天の王。時空管理局。

 

 

――――――今ここに…………全ての因果を清算すべく、集結する。

 

 

 

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