魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第九十五話

 

「王。戦況は把握しておいででしょうか?」

 シュテルが、はやてに奉る。

 

「敵、残存戦力4260騎」

 

 …………その途方もない数を、さらりと述べる。

「魔力ランクで換算すれば、AからAA……AAAに達するレベルの反応も、500を下りません」

「…………」

 これまでの雑魚騎士たちは、本当にただの様子見の斥候……使い捨ての兵力だったのだ。

 まだこの後には、本隊……AAからAAAの、精鋭部隊が待ち受けている。

 それを統率するグレアムこそ、もはやいないが……おそらくは、事前に戦闘行動をプログラミングされているため、機能不全を起こすことはないだろう。

「こちらは、後方支援を含めれば、多少は前後しますが……およそ300です」

 聞くだけで、絶望しそうになる物量差だ。

「そうか…………」

 ふと、瞼を開けたはやては、傅くシュテルを見やり…………

 

「問題ない数だな」

 

 …………と、言い放った。

「我らが、至天の王。御身が采配を振られるのであれば、いかなる敵をも、処断してご覧に入れます」

未だ傍にあった烈火の騎士が口を開く。

「われに、命を」

 獣の尾を風になびかせ、手甲をガチン、と鳴らす盾の騎士。

「さて……どこまで参りましょうか?」

 前髪をかき上げる、湖の騎士。

「どんな敵だろうと、ぶっ潰して、ぶっ壊す!!」

 威勢よくアイゼンを一振りする、鉄槌の騎士……ヴィータ。

「……ああ、あんただったのか」

 そして、久方ぶりの再開となる、はやてとヴィータ。

「おう。久しぶり」

 へへ、と嬉しそうに笑う。

「……心配かけんじゃねーよ。ったく……」

 はやては、ぽんぽん、とその頭を軽く撫で……表情を引き締める。

 

――バララララッ……!!

 

 浮かんでいた至天の書が、術式を記述し、頁を進める。

「まずは、雑魚騎士の数を減らす。残存を1000以下に」

 座標特定の手間さえも省いた、目視での転送術式。

「全部は潰すな。適度に残せ。……だろ? アーフィエル」

『うむ。ある程度は残しておかんと、逆に面倒だ』

 敵の……闇の書の『奥の手』を知るアーフィエル。彼女が言うのであれば、信用に足る。

「本当は、私が暴れたいところなんだけど……お前たちにとっては、500年ぶりの晴れ舞台だ。譲ってやる」

 喜色さえ見える、至天の王の勅令。

「全軍……出撃!!」

 

 

「 「 「 「 御意!! 」 」 」 」

 

 

 騎士たちは……戦場へ。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

――ザンッ!!

 

「あーもう、切っても斬っても湧いてくる……!!」

 

 雑魚騎士の首を切り落としながら、カレン。

 すでに、刀は三本目。血糊が付着し、甲冑を切り捨てることで刃こぼれをした刀は捨てながらの戦闘だった。

「いい加減、ワンパターンすぎて飽きるっつーの!!」

 

――シュカカカカカンッ!!

 

 紙束の刃を乱舞させ、雑魚騎士を切り刻む。

「やべっ、切れた!?」

 見れば、ブックホルダーに仕込んできた本も、底を着いていた。

 

――ドガガガガガガッ……!!

 

「あーっはっはっは! やっばー! そろそろ弾切れかもー!!」

 張り付いたような笑顔に、焦燥の汗を浮かべるラーファ。

 

――ダララララララッ……!!

 

「うええええええんっ! やばいよ、やばいよー!? どーしよー!?」

 いつにも増して、悲哀の漂う泣き顔を晒すクライア。

 

――――ドガガガガ……がちんっ。

 

――――ダララララ……かきんっ。

 

「 「 あ 」 」

 

 顔を見合わせ、硬直する。

「……ねぇクライア?」

「……うん、なぁにラーファ?」

「……弾、分けて?」

「……ごめん、今ので最後」

 だよねー、と、双子らしくハモる。

 

『グオオオオオオオオオオオッ!!』

 

 これ勝機と、むさくるしい巨体の雑魚騎士たちが殺到した!

 

「 「 いーーーーーやーーーーーーーーーーーー!!!! 」 」

 

 用済みとなった重火器を放り投げ、スタコラサッサと退却する。

「あーっはっはっは! アーデ! 次の武器! 次の弾ー!」「うええええええんっ! 早く、早く出してェえええええええっ!!」

 補給係も兼ねているらしきアーデルハイドの元まで、急いで駆け寄る。だが、アーデルハイドは……

「ひぃ~ん……もう無理、もう無理ぃ……! 第二弾薬庫が空っぽになるまで転送魔法を使ったのよぉ……お願い休ませてェ……!!」

 ぐでーっと地面にへばりつき、グロッキー。どうやら、双子の相当な無茶な要求にこたえ続けていた弊害らしい。

「ぬゥううううううううううんっ!!」

 

――バッゴォオオオオオオオオンッ!!

 

 鉄塊をフルスイングし、雑魚騎士を薙ぎ払うオウル。

 錬鉄召喚で、広範囲を殲滅することも十分に可能なはずだが……それができない理由があった。

「うっぷ…………!」

 視界が、揺れるのだ。

 以前、戦闘に奥の手…………『鬼人化』を行った際、副作用として、右目の視力を喪失している。日常生活ならば、まだそれほどの不便はないが……いざ戦闘ともなると、激しく駆けずり回り、隈なく視線を配るため、急激に視界が揺れ…………要は、『酔って』しまうのだ。

 この状態で錬鉄召喚を行えば、下手をすれば味方を巻き込んで盛大に自爆する危険があった。

……さすがに、そんなギャグのような末路はゴメンだ。

「くそっ。生体義眼でも仕込むべきだったな……」

 毒づきながらも、鉄塊を振り回し、雑魚騎士たちを殴殺していく。

「!! オウル姉さん!」

 カレンが、鋭くオウルを呼んだ。

 振り返るまでも無く、敵が迫っているのだろう。それも、よりにもよって、視界の死角となっている、右側から……!

「……!!」

 鉄塊を振る。だが、相手は隠密性に長けた一騎らしく……その攻撃を、するりとやり過ごした。視界が万全なら、ここで返しの一撃を叩き込むところだが……それは、適わなかった。

 ヒュン……と、音も軽く振るわれる、何か。

(死んだかもしれん)

 あっけなく、そう悟るオウル。

 

――キュドォオオオオンッ!!!

 

……だが、その予想は覆る。

『ギ、ガ、ガガ……!!』

 突如として降り注いだ、一条の閃光。そして、着地の衝撃で立ち込める土煙の中、細身の雑魚騎士の姿と……

 

「――――久しいな、凶鳥ども」

 

 二振りの魔剣でそれを刺し貫く、長身の美丈夫。

「ん……? 誰だ?」

 ひょい、と彼を指差したまま、手近なところに居たカレンを振り返る。

 カレンも、最初はオウルと同じようにいぶかしんでいたが……はっと気が付き、ずざざざっ、と、距離をとった。

「……あー!! 姉さん、こいつ、アイツだよ、アイツ!! ほらアレ!」

 カレンは、身振り手振り、何とも形容しがたい表現をする。

「んっ! んっ!!」

「……? ? ………………おお、わかったわかった」

 しげしげとそれを眺めていたオウルは……ぽん、と、得心いったように、手を打った。

 

「『シグナム』……だったな、確か」

 

 そう。かつて、凶鳥部隊に差し向けられた刺客……守護騎士『烈火』。その、彼だった。

「無茶をする女だ。右目の視界が死んで、まだ間もないだろうに。……だから、こんな芥粒に不意を突かれる」

 

――ゴォウッ!!

 

「あ、あんたねぇ! 誰のせいで、そうなったと……!!」

「うむ。オレのせいだな」

 怒るカレンに、シグナムは淡々と述べる。

『グギャアアアアッ…………!!』

「だから」

 刺し貫かれた雑魚騎士。その剣から、魔力の業火が噴出し、雑魚騎士の肉体を焼き尽くす。

 

「――オレが、お前の右目になろう」

 

 そう宣言し、灰となった敵を吹き散らした。

「烈火の騎士・シグナムと」

 

――ガキュンッ!!

 

 ……聞き慣れた音を立て、魔剣がカートリッジを排出する。

「王より賜りし、我が魂――焔の魔剣レヴァンティンが!」

 

――ギュララララッ……!!

 

 蛇腹に変形した、二振りの魔剣が、炎を纏い……一つの形を成していく。

「悪しき影どもを、灰燼へと帰さんッ!!」

 その形は……!

 

「飛竜一閃!!」

 

――――炎の、龍!

 

『ガ、ガガガ……ッ!! ……!! ……』

 敵の部隊長格……おそらくは、AAA級の個体を、周辺ごと焼き払った。

「カレン」

 ……と、シグナムが、無造作にカレンに何かを投げ渡した。

「うわっ、とと…………え、これって」

 空中でキャッチしたそれを、まじまじと見る。

「あんたの剣!?」

 それは、二振りのうちの片方……焔の魔剣だった。

「もう得物が無いのだろう?」

 カレンは、魔剣をぶんぶんと振り、手に馴染ませ……

「……せやっ!!」

 

――バシュンッ!!

 

 斬撃の射線上に魔力を噴出させ、数体の首を刈り取った。

「うんっ! 気に入ったよコレ! さんきゅー!」

 喜色を浮かべ、敵陣へ再び突撃していく。

「……貸してやるだけだ」

「あっはっは! 聞こえないもーん!!」

 ……今更だった。

「戦えるか、オウル」

「へーきへーき……と、言いたいところだが、どうにも調子が悪い。手を貸せ」

「よかろう」

 

――ガキンッ!

 

 オウルが掲げた鉄塊に、シグナムがレヴァンティンを打ち合わせた。

 

 

 

 

「あ、あはは……どーしよ…………まだ、しにたくないなぁ……」

 完全に包囲され、追い詰められたラーファ達。

「ぐすっ……しぬのはやだよぉ……」

 アーデルハイドを背中にかばいながら、何とか活路を見出そうとするクライア。

 幼く見えても、数多の修羅場を潜り抜けてきた二人だ。それこそ、時間さえあれば、案も浮かんだだろうが……今は、その時間さえ足りなかった。

 

『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 包囲が、攻撃に転じた。ぎりっ、と身を固める二人。

 だが……

「「……あれ?」」

『ア、ア、ア……!!』

 攻撃しようとした格好のまま、雑魚騎士たちが立ち止まっていた。

 動こうとしているのだが……戒められたままだ。

 目を凝らすと、その正体が見えてきた。

「……糸?」

 それは、バインドともまた違う、極細の魔力の糸だった。

『ギ、ギ、……!!』

「無駄ですよ。わたくし、湖の騎士シャマルと…………我が伴侶クラールヴィントの戒めは、あなた方では逃れられません」

 しかも、ただ縛っているだけではない。雑魚騎士の甲冑を貫通し、複雑に絡み合い、力任せの膂力を分散し、実際の強度以上の結束力を発揮しているのだ。

「さて。……逃げられないことは、理解できましたね?」

 くいっ、と、指を軽く、糸の上に這わせる。

「では、さようなら」

 

――ブシュッ。

 

 ……雑魚騎士たちの首が、滑らかな切断面をさらし、滑り落ちた。

 その体は魔力へ還元され、クラールヴィントの糸を通じ、先端の小さな振り子のような宝石に吸収される。

「さて、お嬢さん方。お怪我はございませんか?」

 なんでもなかったかのように、双子と、アーデルハイドを見やる。

「お二方は、弾薬切れ。そちらの麗しい淑女は、魔力切れによる意識混濁ですね」

 きゅいんっ……と、振り子の宝石が蛇のように動き、アーデルハイドの体に吸い込まれる。肉体に、まるで液体のように沈みこむ様は、湖の騎士の愛機に相応しい様相だった。

「癒しの雫よ。彼の者に、今再びの活力を」

 そして、先端に蓄積された、先ほどの魔力が開放され、空になったアーデルハイドのリンカーコアを、回復させた。

「……んぁ、もう朝かしらぁ……?」

 そんな、暢気なことを言いながら、アーデルハイドが目を覚ました。

「アーデ! 武器! でっかいやつ!」「つよいやつ!」

 左右の袖をぐいぐい引っ張りながら、双子がせがむ。

「「それと弾薬たっくさん!!」」

「ああもう、わかったわかったわかりましたからちょっと待って頂戴……ええと、第三弾から第十くらいまでなら、引っ張ってこられそうね……一分くらい待てるかしら?」

「そんな時間無いーーーーー!!」

「ほら、ほら! 台所にいるアレみたいな黒光りしてる人がわっさわさ……!!」

 …………だが、双子があわてるほど、周囲の雑魚騎士たちは襲い掛かっては来ない。これほどの隙を前にして。それは…………

「心配はご無用ですよ」

 

――キリ、キリキリキリ…………!!

 

『…………!!』

 硬く張った弦が擦れる音。

 雑魚騎士たちは、クラールヴィントから伸ばされた魔力の糸に貫かれ、空中に縫いとめられていた。

「動きたければ、どうぞ? …………体内の臓器がどうなろうと、わたくしの知ったことではありませんので」

 飄々とした口調で……雑魚騎士たちを、嬲る。

 いくら、ベースとなった生命の無い雑魚騎士たちとはいえ…………行動を停止してしまうのも、仕方の無い状況だ。

 

――キリキリキリッ……!!

 

『…………!! グ、ググ!!』

 動いてはいない。だが、確実に増した苦痛に、どこか抗議めいた声を発する雑魚騎士。

「ああ、失礼。言い忘れていましたが…………動かなくても、あなた方はサイコロステーキになって頂きますので、あしからず」

『……! フゥー……!!』

 呼吸が困難になってきたのか、か細い呼気を吐くのみとなった。

「ふむ。外道と罵りますか? それは少々、心外ですね。わたくしは、至天の王・八神はやてに忠誠を誓った、誉ある守護騎士」

 ちっちっ、と指を振りながら、講釈する。

「わたくしたちは、我が主より、ヒトと同じく、『正』『邪』一体の自我を賜りました。シグナム、ヴィータなどは、『正』の典型ですね。ですがわたくしは…………その反対でして」

優男然とした面貌が…………にたりと、邪悪に歪んだ。

 

「――わたくしは少々、残酷なのですよ」

 

そして、雑魚騎士たちが、冷酷に切り刻まれようとしたその時。

 

――――……バゴォンッ!!

 

 ……横合いから発射された火器が、拘束ごと、雑魚騎士を一瞬のうちに灰へと帰した。

「…………おや?」

 ぷらん、と、対象を失い垂れた糸を、きょとんと見やる。

「……あはは! ごめんね! 気に入らないから、消し飛ばしちゃった!」

 榴弾砲に次弾を装填しながら、ラーファ。

「ぐすっ、ぐすっ………………ばいばぁい……」

 ガランッ……と、使い捨てのミサイル発射装置を打ち捨てるクライア。

「…………美しくないわねぇ、あなた」

 アーデルハイドにしては珍しく、嫌悪した表情を見せていた。

 理解が及ばないシャマルに、三人が言う。

「殺すのは良いよ。楽しいもん」

「殺すのは大丈夫。食事と同じ」

 何も、殺したことを諌めているわけではなさそうだ。では、なぜ…………

 その答えは、アーデルハイドが示した。

 

「|殺すために苦しめるのと、|苦しめるために殺すのは、違うのよ」

 

 …………正直、何がどう違うのかは常人の感性では理解できないが。

 どうやら、シャマルのやり方は、狂人の信条に反するものだったらしい。

 さて、助けてやったというのに、やり方を否定されたシャマルはというと………………

「…………………………素晴らしい」

 ……と、ぼそっと呟いた。

「……は?」

「確固たる信念を持った女性は、それだけで輝きを増すのです……実に、わたくし好みの女性だ」

 ぽかん、と呆けるアーデルハイド。その手を、シャマルがぬるっと両手で包んだ。

「わたくしとしたことが、心奪われてしまったようです。ぜひ、このまま連れ去り、今宵の褥を共にしたく…………」

 

 ………………正直こいつにだけは、自我を与えない方が良かったかもしれない。

 

 ぞわぁ、と鳥肌を立てたアーデルハイドが、シャマルの手を振り払う。

「おや、つれないお方だ。 ………………だが、それがいい!」

「や、やめて……来ないで……いやぁ……!!」

 彼女にしては珍しく、恐れおののき、へっぴり腰で双子の影に隠れた。

『オ、オオオオォ!!』

 シャマルの背後から、雑魚騎士が隙を突いた(つもりで)襲い掛かってきた。

「ああもう、野暮な輩は馬に蹴られてしまいなさい。わたくしは今、彼女との逢瀬を ぐぇええええ!?」

 と、シャマルが素っ頓狂な声を上げた。

 見れば、その指に填められた指輪から赤い糸が伸び、シャマルの首をギチギチと締め上げていた。

『…………浮気者』

「あが、あがががが……! く、クラールヴィント!? 冗談、冗談です! わたくしには貴女だけです んがががが…………!」

 ばたばたと一人漫才を繰り広げるシャマル。

 冗談抜きに、雑魚騎士が迫ってきているのだが……

 正直、見捨てたかったが……一応、恩人ということもあるため、無碍にすることもできない。そこで、双子は……

「「……」」

 無言で、新たに取り出した兵器を装着する。

 円筒状のボンベを背負い……ノズルのような先端が付いたホースを、握る。

 放水銃…………であれば、どれだけよかったことか。

「!」

 アーデルハイドは、ビシッ! と無言で指し示す。双子は、方やにやりと、方やくしゃっと、頷き合い…………

 

「 「 汚物は消毒だー!! 」 」

 

――――ボゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!

 

 ……火炎放射器から、猛烈な火炎を吐き出した。

「のわぁーーーーーっ!?」『ギャアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 炎に呑まれ、ばたばたと逃げ回るシャマル。

「逃がしたら駄目よ! ちゃんと止めを刺しなさい!!」

「おっけー!」「らじゃー!」

「こ、こら! 悪ふざけにしても度が過ぎています! お尻をペンペンしますよ!?」

「 「 ヒャッハーーー! 」 」

 ラーファ、クライア……二人は重火器を手に、雑魚騎士を盾に逃げ回るシャマルを追走し……行く先々で、雑魚騎士たちを蹂躙し続けた。

 

 

 

「……………………」

 各地で雑魚騎士に応戦していた、アースラの武装局員たち。彼らは、数に押し切られないよう、いくつかのチームに別れていた。

 だが、徐々に疲弊し始めたことと、思った以上に数を増していた雑魚騎士に進軍を阻まれ、立ち往生しかけていたところだった。

 そんな中、彼女は無言で戦陣の中に現れ、ぼーっと佇んでいた。

「……なんだアンタ。新手か?」

 警戒する局員にすっと目を向け、見やる。

「…………」

 ぴんと立った耳。フサフサと揺れる尻尾。細身の体に反して、妙にゴツい手甲。……アルフの装いに似通っている。

「…………」

 何かを思案しているのか、いまだ一言も話さない。

「おい、いつまで黙ってるつもりだ!?」

 痺れを切らした局員が、少々強い口調で問い詰める。

 ついっとその局員へ視線を戻した彼女は、ぽつりと一言。

 

「ミッドの兵はよく吠える」

 

 …………綺麗なソプラノで、毒を吐いた。

「あ、が……なっ……」

 予想外の反応に、言葉を失う局員。

「おい前を見ろ、前を!! 来てるぞ!」

 そしてこちらも、少し遅れて到着したヴィータが彼女に告げる。

 仲間の呼びかけに、局員が反応するより早く。

 

「――鋼の頸木」

 

――――ズガゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!!

 

 雑魚騎士の一団を、魔力のスパイクが纏めて串刺しにする。その数だけで言えば、クロノを少々下回る。だが……

 

――メリッ、メリメリメリッ……!!

 

 魔力のスパイクが枝分かれし、変形し…敵の砲撃を、片っ端から弾く。さらに変形…………と、絶え間なく、攻防に渡って展開していき……スパイクが消えたそこには、雑魚騎士たちが退いたことで、確かな活路が見出せていた。

 

「……盾の騎士・ザフィーラが、道を開く。続け」

 

 そして、返事を待たずに、先陣を切っていってしまった。

「ああ、悪い悪い。あいつ、必要以上には喋んねーんだわ」

 局員に、片手を上げて詫びる仕草をするヴィータ。

「よっし、んじゃ……いったん退却! 安心しろ、いざとなったらアタシが守ってやる!」

 

「 「 「 「 「 「 「 「 「 「 やなこった!! 」 」 」 」 」 」 」 」 」 」

 

 ……ドレスを着た幼女に守られる自分。その情けなくて涙が出そうな光景を思い浮かべ、局員たちは、プライドを支えに奮起するのだった。

 

 

 

「はじめまして。本当なら、もっとじっくりと挨拶がしたいんですが……今は、そうも言っていられない状況ですので」

 フェイトそっくりの容貌に、プレシア譲りの、深い藍色に近い頭髪。

「まず、我が王……八神はやての下へ、全員を導くように……と、仰せ付かっています。よろしいでしょうか?」

 礼儀正しく、丁寧に、実直に。

「あ、あのさー……ちょっと、いいかな?」

 フェイトが、おずおずとレヴィに話しかけた。

「何でしょう?」

「あの……キミは、その……なんか、ボクにそっくりなんだけど……」

 レヴィが、フェイトの言わんとしていることを理解した。

「わたしは守護騎士ですが、姉さん……フェイト・テスタロッサのデータを元に、構成されています。広義で言えば……その、あつかましく無ければ、ですが……」

 もじもじと、躊躇いがちに……

 

「わたしは、あなたの妹です」

 

 その言葉を聴いたフェイトは、アリシアを、プレシアを、アルフを見て……三人が頷くのを見て。

「……………………い」

 ぐっと俯き。

 

「いやったぁーーー!! ボクもお姉ちゃんだぁああああああああ!!」

 

 がばっ、と、レヴィに力いっぱい抱きついた。

「え、ええと、あの、あの………………」

 レヴィは、照れていいやら、戸惑っていいやら……だが、決して嫌そうでない表情で、フェイトを抱き返した。

「フェイト、そろそろ動かないとまずいって……えーっと、レヴィ? で、いいんだよね?」

 それとなくフェイトを引き離しながら、アルフが聞いた。

「はい。そう呼んでください、アルフ」

「あたしたちは、八神の元に集合すればいい、って言ってたけど……残りの雑魚騎士たちは、どうするんだい? まさか、ほったらかしには出来ないだろう?」

 雑魚騎士たちがそのまま進軍してしまったら、結界に覆われていない戦場が、肥大してしまうのではないか。

「ああ、そのことでしたら、問題ありません」

 ちらっ……と、レヴィが見やった先を、アルフたちも見る。

 雲霞の如く、市街地へ群れ集まる雑魚騎士たち。

 彼らの一角が、唐突に………………

 

――――ベゴッ……!!

 

 …………潰れて、消えた。

 

――ベゴッ、ベゴッ、ベゴッ!!

 

 モグラ叩きのように……潰れて、潰れて……無残な残骸となった雑魚騎士たちが、維持できなくなり消滅する。

「……ちょっとだけ、やりすぎてしまうこともありますが……

 

――――彼女に、数の暴力は意味を成しませんので」

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「あーーーっはっはっはっはっは! トールハンマー! トールハンマー! もういっちょオマケにトールハンマー!!」

 

 童女のようにころころと笑いながら、広域殲滅魔法『トールハンマー』……重力の槌を地表へ連打し、文字通り雑魚騎士たちを叩き潰していくのは、闇の騎士……ディアーチェ。

「やめ……か! 強装結界が張られて…… いい加……にしろ!」

 爆砕音にかき消され、クロノの制止の声も届かない。いや、届いたところで、止めるかどうか……

「な!? 広域殲滅って、めっちゃオモロいやろ!?」

 攻撃を止め……手柄を誇るように、クロノとユーノを振り返る。

 クロノは、頭痛をこらえるように、頭を抑え……

「……狙いも滅茶苦茶。魔力の配分もデタラメ。周囲への影響も、巻き添えへの配慮も無し……! なぜきみは、こんな馬鹿みたいな戦い方を……!」

 

「楽しいからや!」

 

 何のためらいも無く言い切った。

 クロノも、流石に口を噤むしかない。

「みみっちい力で得意げになってる有象無象を、圧倒的な力でねじ伏せ、蹴散らし、踏み躙る! こんなオモロいこと、他に無いわー! そーれ!」

 

――ドゴォンッ!!

 

 ……消滅寸前だった雑魚騎士たちに、ダメ押しの一撃。

「そのわりには、随分と怒っているようだけど……」

「は……?」

 ユーノの指摘に、クロノはきょとん、と意味がわからないという風に呆けた。

「怒っている……?」

 だが、確かに……ただ楽しみのため、というには、やり方が徹底しすぎている。それこそ……憎しみを、ぶつけているように。

「……っは!」

 図星だったようで……ディアーチェは、その碧眼に、ありありと激怒の情を浮かべた。

 

「お姉ぇを、うちら守護騎士を、散々いいように使ってくれやがったド腐れの目論見も、これで全部パァや! ざまぁ見さらせ!」

 

――――ズガァンッ!!

 

 巨大な魔力刃が地表を切り裂き、爆裂の余波が、地区に残っていた雑魚騎士たちを残らず殲滅した。

「残せって言われとるけど……我慢できへんわ! 殲滅や、殲滅! 残らず消えてしまえばええんや!」

 ……魔力をバカ喰いする魔法を連発し、それでもなお、激情のままに魔法を振るおうとするディアーチェ。

「――! いい加減にしろ、この、」

 ディアーチェに真デュランダルを向けるクロノ。だが、それを制するものが居た。

 

「――――いい加減にしたらどうですか、ディアーチェ」

 

 ふわっ、と浮揚してきた彼女を見て、またクロノとユーノが息を呑む。

「……なのは? じゃ、ないよね……?」

「ああ。恐らく、このディアーチェとかいう阿呆と同じ原理だろう」

 さらっと阿呆呼ばわりである。

「ひぇえ、しゅ、シュテルん!? ちゃう、ちゃうんよ、これは!?」

 なのはと、瓜二つの彼女……星光の騎士・シュテル。

「何が違うというのですか。王はご立腹です」

「でもな、でもな……あいつら、お姉ぇにひどいことした奴の下っ端やの……」

 彼女を目にしたディアーチェは、悪戯がバレた子供のように、あわあわと言い訳をした。

 だが、それに騙されるようなシュテルでは無く、お説教が始まってしまった。

「必要ならば、敵の広域殲滅も有用でしょうが……明らかにやりすぎ、無駄遣いしすぎです。王の勅命をどう心得ているのですか」

「あの」「でも」「それは」…………ぼそぼそと反論していたディアーチェ。だが、理詰めで退路を一つ、また一つと断たれ……ディアーチェは。

 

「うち、あんたと違うて『理』のステータス低いんやもん……その分『力』にステ全振りしとるんやもん……しゃーないやん……そんなキツく言わんでもえぇやん…………」

 

 …………半べそをかいて、いじけてしまった。背なの翼も、デレーンと萎れている。

 その肩を、シュテルが優しくたたいた。

「ですが、大丈夫です。ディアーチェ。貴女は、やればできる子です」

「え……ほんまに? うち、やればできる子なん?」

 ぱぁっ、と、機嫌が上を向く。

「ええ。なにせ、守護騎士で唯一、『王』のマテリアルを持った、私の上官ですから」

「じょう、かん……!?」

 ……上官。その響きが、ディアーチェ的にはストライクだったらしい。

 

「JO☆KAN !!」

 

 萎れていた翼が雄雄しく羽ばたき、紫色の魔力光が激しくスパークした。

「…………魔力が回復したぞ」

「……感情がそのままパラメーターに反映されるんだよ、きっと」

……ここまでくれば、単細胞も一つの長所である。

「ディアーチェ。王より新たな伝令です」

「えっ、お姉ぇが!?」

 はい、と答え、その内容を伝える。

 

「『雑魚騎士がまだ多い。もう1000体くらい、削っておけ。……ただし、町を壊さずに』……とのことです」

 

「「1000……!?」」

 どう考えても、片手間に下すような采配ではない。

「……お二人は、私と共に王の下へ」

「いやいや待て! 1000体だぞ、1000体!」「彼女一人じゃ無茶だ! ぼくたちも……!」

 そんな二人に、シュテルは言った。

 

「大丈夫です。彼女は……やればできるんです」

 

 冗談でもなんでもなく……

「やればできる、やればできる…………うちは、やればできる子!」

 いくらかの自己暗示の後、ディアーチェは、十字槍を掲げる。

「町を壊さずに、敵だけを…………そや、アレや!!」

 何か、思い至る術式があるらしい。

 ずもももっ……と、不吉な気配が漂い始め……

 

「……! お二人とも、急いで下さい!」

 シュテルが、血相を変えてクロノとユーノを急かした。

 その道中、説明する。

「彼女は文字通り、『やればできる子』です。ひときわ大きな魔導の力。内包する魔力炉……それを存分に活用すれば、戦闘において、不可能な戦術はほぼ無いでしょう。ですが、彼女はそれと同時に………………」

 炎熱の砲撃で道を作りながら、全力でその場を退避するシュテル。

 まるで。

 

「『やりすぎてしまう子』でもあるのです」

 

 着火した爆薬から、全力で遠ざかるように――!

 

 

「来たれ、奈落の王。汝が化身、億千万の悪魔を、死の晩餐へと招かん。喰らい尽くせ……!!」

 

 十字槍を中心に展開された、無数の粒が寄り集まった、禍々しい、雲。

 

――ヴゥワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ………………!!

 

 ……身震いがするような、不快な…………羽音。

 その雲を構成する粒を拡大してみれば、よく分かったことだろう。

その、雲の正体は…………!

 

 

「アバドーン・ローカスト!!」

 

 

 ドス黒い、バッタの大群!!

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーー!!』

 バッタの大群に飲み込まれた雑魚騎士たちが、硬質な鎧の隙間に潜り込んだバッタに、肉体をバリバリと齧られ、恐ろしい悲鳴を上げる。

『ゴオォッ……! ゴ、ガ、ガァアア……!!』

 ばたばたと暴れるが、既に体内へ喰い進んだバッタたちを追い出すことは叶わない。

『…………』

 

――ガランッ……

 

 ……主を失った鎧が、形を失って崩れ落ちる。その鎧にすら、バッタたちは群がり、ガリゴリと齧り尽くしてしまった。

「350ってとこかな…………もう一息や。お姉ぇのためにも、頑張らんと」

 そしてまた十字槍を掲げ………………

 

 

 

 

――――――およそ十五分後。各地へ散っていた魔導師たちが八神はやての元へ集合するのと同時刻。雑魚騎士の残存兵力は、当初の一割にまで減少した。

 

 

 

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