魔法少女リリカルなのはties 作:ハルハルharuharu
「やめろ……」
夢を見ていた。今現在、自分が夢の中に居ることをはっきりと認識している……いわゆる、明晰夢というやつだ。意識ははっきりとしているのに、身体の自由が利かない。
「やめろ……!」
目の前で展開される光景を、ただ眺めて続けていることしか出来ない。
『痛い……痛いよぉ……おとうさん、おかあさん……』
病室にいる幼い子供。その四肢にはギプスがはめられており、痛々しいことこの上ない。
彼の求める両親は、廊下で醜く言い争いをしていた。
『これで何度目だと思っている!』
『私に言わないでよ!』
『治療費だってタダじゃないんだぞ!』
『だから、私に言わないでって言ってるでしょ!? あの子に聞いてよ!』
苛立ちを隠そうともしない。
だがそれも、仕方が無いのかもしれない。この少年が入院するのは、この年だけで四回目。ここ数年の治療費だけで、新車が買えるほどだ。
最初のうちは、心配もされた。だが、二回目、三回目ともなると、徐々に態度は硬化していき……今では、この少年は両親にとって厄介者以外の何者でもなかった。
『こんなことなら、子供なんて……』
『あなたが欲しいって言ったんじゃない! そうよ、あんな子供なんて……!』
――××××××!!
「やめろおおおおおおおおおおっ!!」
――ガシャアアアアアン!!
自分の叫び声と、破砕音で目が覚めた。
「……あ?」
腕に僅かな痺れ。目を開けると、真っ白な天井が目に入ってきた。視界が、涙で滲んでいる。くそ……ガキじゃあるまいし。
ところで、今の音は……?
「キミは……僕を殺す気か?」
クロノが、ベッド脇に立っていた。そして、その向こうの壁には、医療機器の残骸が。金属製らしきその側面が、ベッコリと陥没している。
「……悪い、寝ぼけてた」
「高価な機材を……」
ぶつぶつ呟く。
「ツケておいてくれ」
腹筋に力を入れ、身体を起こす。……うん、異常無し。あの凄まじい魔法を喰らった
割には、回復が早くて助かった。
「そのままでいい。少し、話をしよう」
そして、ベッド横の椅子に腰を下ろした。
「話?」
何か話すようなこと、あったっけ?
正直、俺達の間には友情なんてこれっぽっちも無いし、クロノも性格的にそういう馴れ合いはしない。
「君の身体はどうなっているんだ?」
「――――」
……その話か。
「魔法攻撃とはいえ、落雷の直撃だ。事実、君の身体はボロボロだった。第三度の火傷に、血管の破裂と、それに伴う臓器の損傷。普通なら死んでいる」
ああ、確かに痛かった。
17年の人生で、一番痛かったかもしれない。さっさと気絶できていて、本当によかった。
「治癒魔法を使った形跡はあったが、それはあのフェレットもどきが使った痛み止め程度のものだった」
つまり、俺の身体のことを詳しく聞きたいってだけか……
「お前には関係ない」
別に、俺の身体がどうなっていようが……一時的に、仕方なく協力関係を結んでいるだけのこいつらには、関係ない。
「いや、ある」
クロノは、俺の不愉快そうな表情に躊躇うでもなく、踏み込んできた。
「協力関係にある以上、戦闘に関する情報は共有すべきだ」
「…………わかったよ」
なら、半分だけ教えるか。戦闘に関する情報なのだから、それで十分の筈だ。
「昔から、傷の治りが異常に早いんだ」
「……明らかにそのレベルを大きく逸脱していると思うんだが」
「理由はわからない。これは本当だ」
そうか、と一拍置く。
「あの筋力は?」
俺が寝ぼけて殴り壊した機材を顎で指す。
「そっちは純粋に、鍛錬の賜物」
……これは、嘘。
「…………」
今度こそ訝しげに目を眇めるクロノ。
「秀人さん、いる?」
と、医務室のドアが開き、なのはがユーノを肩に乗せて入ってきた。
「具合どう……って、クロノ?」
「ああ、邪魔している」
「そう」
素っ気無く返し、ぴょんっ、とベッドに飛び乗ってくる。そしてそのまま、べたっと身体をくっつけてきた。口調こそ大人びてはいるが、こういうところは子供っぽくて可愛い。
「秀人さん、歩けるなら帰ろう。ご飯作ってあげる」
「そうだな。味気ない病院食は勘弁だ」
そうと決まれば。
「よっし、帰るか」
なのはを抱えながら、ベッドを降りる。
「そうだ、二人とも」
と、ユーノが口を開いた。……どうでもいいが、何でまたフェレットの姿なんだ?
「ん?」「何?」
「艦長からの伝言で、『少しだけ病室で待ってて』とのことだよ」
「えー……」
なのはが不満げに口を尖らせる。
「ユーノ、コーヒーか何か、持ってきてくれ」
そこに、クロノが割り込んできた。
「治療室内は水と、君の言う『味気ない病院食』以外の飲食は厳禁だ」
「ちぇっ……」
そこのところは、普通の病院と同じか。
ユーノが給水機からコップに水を汲み、ベッド脇に置く。
そして、味気の無い水を一口飲み、数分。艦長とエイミィが、治療室に入ってきた。
「艦長。エイミィまで……何かあったのか?」
艦長はそれに答えず、まっすぐになのはの前までやってくる。
「なのはさん」
そのただならぬ様子に怯え、一層強く俺にしがみ付く。
「……何ですか」
まさか、今になってジュエルシードを渡せとか、そういう物騒な話じゃないだろうな。
「家庭訪問を行います」
「かてい……」「訪問?」
最初はきょとんとしていたなのはの身体が、ハッキリと強張った。
「……私の家族は、」
ぎゅううっ……と、力が篭る。
「父親は高町士郎。現在入院中。母親・高町桃子、兄・高町恭也、姉・高町美由希は、家業である喫茶店を経営ちゅ――ッ」
――バシャッ!
資料を読み上げていたエイミィの顔面に、コップから放たれた水が直撃した。
「…………調べたな」
地の底から響くような、低い声。
ぎろっ、とエイミィを睨みつける。その手には、ぽたぽたと雫を垂らすコップ。
「……ごめん」
しおらしく謝るエイミィだったが、なのはの怒りは収まらない。
「よくも……ッ! 下賤の野次馬がっ!」
今度は、そのコップそのものが投げつけられた。
――パリンッ!
だが、それはクロノによって叩き落とされる。
「落ち着け。 ……艦長、まずは説明を」
「……ええ、そうね」
ふぅ……とため息一つ。
「なのはさん、これは未確認の情報ですが……海鳴市の二箇所に、つい最近使われたと思しき転移魔法の形跡が、二箇所あります」
「転移魔法なんて、アースラからでもしょっちゅう使ってるだろ」
なのはを落ち着かせるために抱き寄せ、頭を撫でる。
「ええ、そうね。でも、その魔力のパターンが……アルフと呼ばれていた、あの使い魔の物と一致しているの」
アルフが……? 今までは神経質に形跡を消していたのに、なぜ今になって。
「一箇所は、ここ」
ぱっと表示される。以前訪れた月村邸に勝るとも劣らない豪邸。
「そして、もう一箇所が……」
表示されたのは、先の豪邸には遥かに及ばないが、それなりに広い家。一度だけ、行った事がある。そう、確かここは……
「高町の、家……」
なのはが、辛そうに顔を背ける。楽しい思い出なんて一つもない。ここは、なのはにとって安息の場所などではなかった。ただ無為に拘束され続ける、薄暗い牢獄だった。
「結界を張ればいいじゃないですか」
隔離結界を細かく設定して、フェイトだけを残す事だってできるはずだ。
わざわざなのはの血縁者と顔を合わせる意味が分からない。
「なのはさん、ご家族のこと……」
『家族』という言葉に過剰に反応し、癇癪を起こして暴れだす。
「家族じゃない! あんな奴ら……!」
腕の中で暴れるなのはをどうにか押さえる。放したら、艦長に掴みかかっていきそうな勢いだ。
「よしよし……ほら、落ち着けって」
ふー、ふー、と荒い息をつくなのはの頭を、しばらくの間、ゆっくりと撫でる。
艦長やクロノを目で牽制し、なのはを刺激しないように。
「なのは、行ってみないか?」
びくっとなのはが弾かれたように顔を上げる。
「あの馬鹿共も、そろそろ反省した頃だろうし……」
というか、あの魔法も、そろそろ切れる頃合いだ。タイミングとしてはベストだろう。
「でも……でも!」
自分がいなくなっても、あいつらが変わっていなかったら……いつもと変わらず、家にいなかったら。なのはの気持ちなんて、ちっとも考えていないということになってしまう。
「大丈夫。俺も、ユーノも付いて行く」
過剰な嫌悪は、『愛されたかった』という願望の裏返し。なのはは元々、愛情深い女の子なのだから。
「安心していい。もし、のうのうと商売なんてしていやがったら……」
――ヒュンッ
空中に正拳突きを放つ。
「俺が、あの店を粉々にブッ壊してやるよ」
クロノが、ぎょっとした顔で俺を見た。
「………………………………秀人さんが、そう言うなら」
ポケットから、ピンク色の携帯電話を取り出す。
「もう一人、呼んでいい?」
「ああ、もちろん」
そして、携帯電話のアドレス帳を開き……呼び出した。
そして、翌日の土曜日。
「高町さん、吾妻さん、お久しぶりね」
なのはの担任が、パリッとしたスーツ姿で待ち合わせ場所にやってきた。
「あの、俺のことは……」
今、はっきりと『吾妻』と呼んだ。ってことは、もうバレているのか。
「ええ、高町さんから聞いています」
微笑……というより、苦笑する先生。大人なのに、少し子供っぽくて、アンバランスな魅力が…………なのは痛い痛い足を踏むな脇腹をつねるな。
「先生、来てくれてありがとう」
にこっと笑い、素直に礼を言うなのはが少し新鮮だ。この先生には、かなり気を許しているみたいだ。何があったかは知らないが……なのはに親しい人が増えるなら、素直に嬉しい。
「そちらの方達は?」
そして、俺の後ろに控えていた二人……リンディとクロノに話題を移す。
「初めまして。なのはさんと親しくして頂いております、リンディ・ハラオウンです」
「息子の、クロノ・ハラオウンです」
設定的には、偶然知り合った留学生のクロノと、その母親ということになっている。無茶苦茶だ。
「息子がお世話になっているなのはさんのご家族に、是非ご挨拶をと思いまして」
よくもまぁスラスラと嘘が言えるものだ。
「ええと、その……」
先生が、ちらちらとなのはを見やる。この反応を見るに、なのはの事情を知っているのだろう。なのはは、先生に強張った笑みを返した。
「……だから、彼らの経営する喫茶店に行こうという話になりました」
なのはが、努めて他人行儀に言う。
そして、大通りに差し掛かり、例の店の前まで来たのだが……
「「「臨時休業……」」」
俺、なのは、先生の声がハモった。
「高町さん」
先生が、なのはの肩を抱く。
「……」
なのはは無表情で、店を眺めていた。
「思ったよりは、マトモな神経してたんだな」
――バシュッ……
手元に集中させていた魔力を霧散させた。
「本気だったのか……」
クロノが呆れたように言う。当然だろ。
「ここ、です」
そして、牛歩のように歩き、高町の家までやってきた。電気は点いていない。
昼間だからか……もしくは、またどこかへ行っているのか。呼び鈴を鳴らせば、分かる。
「……………………」
なのはは、かたかたと震える人差し指を呼び鈴に伸ばし……
「……!」
反射的に、手を引っ込めた。
やっぱり、怖いか。
「なのは……」
ユーノが声を掛けるものの、なのはは俯き、首を横に振っている。
「高町さん」
「先生……?」
先生が、なのはの手をぎゅっと握る。
「もう一度だけ……信じてみましょう」
俺を見て、ユーノを見て……
「………………うん」
弱弱しく、だが確かに、頷いた。
先生が、なのはの手を握ったまま呼び鈴まで持っていき……
――――ピン……ポ~ン
一緒に、押した。
――一秒。二秒。三秒。四秒。五秒……
反応、無しか……
「ふえぇ…………」
なのはの目尻に、じわりと涙が浮かび……
(ブッ壊すか)
俺が、ディバインバスターのチャージを始め……
「させないぞ」
クロノが俺を拘束しようとデバイスに手を伸ばした、その時。
「はい、どちらさま……?」
ドアから、なのはソックリの女が顔を出した。
「あ……う……」
なのはが何かを言おうとしてパクパクと口を開き、結局何も言えずに黙り込んでしまう。
そして、なのはソックリの女は、俺を見て顔を強張らせ……その腰にしっかりとしがみつく、なのはを見て。
「なのは!」
素足のまま、駆け寄って来た。
「……」
なのはが片手を伸ばし、すぐに引っ込めてしまう。
「ほら、行って来い」
俺は、なのはの背中を、軽く押し出した。
「……あ」
たたらを踏み、不安げに俺を見上げる。
「……」
そして、立ち尽くすなのはを……なのはの母親が、しっかりと抱きしめた。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
泣きじゃくり、なのはに縋りつく。なのはは、そんな彼女を振り払うでも無く、ただ困惑した表情を浮かべ……両腕を、回した。
「なのは!?」「……!」
そして、聞きつけたのか、残る二人も顔を覗かせた。
「…………」
こち、こち、と。時計の秒針の音。
「ぐすっ……ぐすっ」
なのはの母親……桃子の鼻をすする音。
その二つだけが、リビングに聞こえる。
今現在、俺、先生、クロノ、艦長の四人は、ソファに横並びに座っていた。
目の前には、なのはの兄、恭也と、姉の美由希。ユーノは、美由希の腕の中だ。
なのははといえば……
『秀人さぁん……何とかしてよー……』
ちょこん、と、桃子の膝の上に収まっていた。顔が真っ赤だ。もぞもぞと、それとなく下りようとすると、桃子はぎゅっと腕に力を入れ、抱き寄せる。そんなことを続けていた。
なのはも、口では嫌がっているが、本心はまんざらでもない……というか多分、超喜んでいる。というわけで、しばらく放っておこう。
『秀人、やっぱり、いるみたいだ』
敷地内をサーチしていたユーノが、そう報告する。
『フェイトか? それとも、アルフか?』
『多分、フェイトで間違いない』
「……で、お前ら」
今は、桃子とは話が出来る状況ではないし、恭也と美由希に目をやる。
「はい……」
美由希が、おずおずと返事をした。
「もう一人、この家にいるはずだ。俺達は、そいつに会いに来た」
ソファから立ち上がり、ユーノを床に下ろす。
「こっち、です」
なのは……は、後でいいや。今は、思う存分母親とくっつかせてやろう。
艦長とクロノは、リビングにいてもらうことにした。ぞろぞろと人数が来たら、怯えて逃げ出すかもしれないし。
そして、フェイトがいる部屋まで来た。ドアプレートには、『なのは』と書かれている。
「入るぞ」
ドアを開ける。オレンジ色の壁紙と、白を基調とした家具。それ以外は何も無い、殺風景な部屋だった。そして、ベッドの上には……
「……やっぱり、キミ達か」
薄桃色のパジャマを着た、フェイトが横たわっていた。
手に、足に……捲れたパジャマの裾から覗く腹部に、真っ白な包帯が巻かれている。
「おい……その怪我、何だ」
あの時、雷撃のダメージは受けていないはずだ。なのに何故、フェイトはこんなにボロボロになっているんだ。
「くふふ……おかーさんに、怒られちゃった」
自嘲し、空虚に笑う。
「いっ……た」
傷に障ったのか、顔をしかめる。
「ユーノ」
……とにかく、治療だ。
『この二人、追い出すから治療を』
『多分もう、魔法についてはある程度知ってると思う』
そして、レイジングハートの映像記録を再生する。そこには、あの日の晩……なのはが、攻撃魔法でこいつらをぶっ飛ばす姿が映っていた。
「なんということを……!」
一般人相手に魔法を使うなんて!
『お前が言うなバカマスター』
レイジングハートさん、ちょっと俺に厳しすぎないですかね。
「今から見ることは、他言無用だ。いいな」
二人は、静かに頷いた。
「それじゃ、はじめるね」
そして、ユーノが人間の姿に戻る。
「「…………」」
二人は、あんぐりと口を開けて呆けている。
それを無視し、ユーノが魔法陣を展開。そして、発動。
緑色の光のドームが、フェイトの横たわるベッドを覆った。
「この中にいれば、外傷は一日くらいで治るから」
「…………」
何を言うでも無く、もそもそと身体を起こした。
とんとん、と階段を軽い足音が上ってくる。
「…………お邪魔します」
なのはだった。妙に緊張した面持ちで、部屋に入ってくる。
別に、フェイト相手に緊張するようなことも無いだろうに……と、そこまで考え、鈍い俺にも思い至った。部屋には、恭也と美由希がいる。まだまだ溝は深い。
「美由希、戻るぞ」「そうだね」
二人は、ふっと苦笑し、頷きあった。
なのはの両肩を、それぞれぽんっと軽く叩き、部屋から出て行く。
残されたのは、アルフを除くいつものメンツ。
「フェイト」
「……なに?」
フェイトとなのはが、見詰め合う。
「私は、ジュエルシードを譲れない」
「これは、ユーノくんのものだし……何より、」
なのはは、フェイトの手を取る。
「フェイトをこんな目に遭わせるような奴には、渡せない」
「…………でも、ボクは」
フェイトは、まだ納得できないようだ。
「ボクは……おかーさんの願いを、叶えてあげたい」
どんなに酷い仕打ちを受けたとしても、フェイトにとってはただ一人の母親。
「うん、わかってる」
だが、なのはとてそんなこと百も承知している。
だから。
「だから、勝負しよう」
「え?」
フェイトが、なのはの顔を見返す。
「傷が治って、魔力と体力も満タンにして……そうしたら、ジュエルシードを全部賭けて、勝負しよう」
「でも、ボクのは……全部おかーさんに渡しちゃった」
「それじゃあ、私が勝ったら、私のお願いを一つ聞いて」
「……でも」
「ふぅん、負けるのが怖いんだ?」
なのはが、あからさまな挑発をする。
途端、しおらしかったフェイトの瞳に、炎が灯った。
「誰が! ボクがキミに負けるなんて、万に一つもあるもんか!」
「じゃあ、いいよね? 私が勝ったら、何でもお願い聞いてもらうよ」
「いいよ! ボクが負けたら、何でも聞いてやるよ!」
がばっとベッドから起き上がり、なのはと額をぶつけ合うような距離でにらみ合う。
――きゅぅ~……
と、フェイトの腹が、可愛らしい音を鳴らした。
「あう」
真っ赤になり、腹を押さえる。
「「「ぷっ……」」」
思わず吹き出してしまった俺達を、フェイトが睨む。
「……おなか空いたんだもん」
ふて腐れるように言い、そっぽを向く。
と、ドアがコンコン、とノックされた。そして、美由希が顔を覗かせる。
「みんな、ご飯出来たよ」
「丁度よかったな。んじゃ、行くぞ」
そして、フェイトを抱え上げる。
「あああああっ!?」
なのはが、愕然とフェイトを見上げる。
「ど……どうした?」
いきなりの大声に驚き、落としそうになってしまった。
「……ううう」
何故か涙目だ。
「ふ~ん……」
フェイトが意地悪く笑い、俺の首に両腕を回し、より一層密着する。
「くっ……! こいつ!」
「くふふふふっ。どうかしたのー?」
……何か知らんが、水面下では何かの応酬が続いているらしかった。何だろうな、一体。
「ユーノ、魔法陣から離れても効果は続くか?」
「んー、ちょっと待って」
再び詠唱し、魔法陣から一筋のラインがフェイトに繋がった。
「とりあえず、この家の敷地はカバーしたから大丈夫」
さっすが。こういう器用な真似は、俺もなのはも出来ない。俺達が習得しているのは、全て戦闘絡みの魔法だけだ。こういったサポート系の魔法も、習っておいて損は無いかもな……適性の無い射出系を無理して覚えるより、満遍なく覚えた方がいいかもしれない。
『秀人、それはお勧めしません』
と、レイジングハートが割り込んできた。
「え、何で? 満遍なく色々と使えたほうが便利そうだけど」
『まずは、あなたの最も得意な分野を見つけ、徹底的に鍛えなければなりません』
「……俺、近接型じゃなかったっけ?」
殴って蹴って、しか能が無いぞ。操作の利かない砲撃はゼロ距離でしか使えないし、射撃もばら撒くことしかできない。
『いいえ、違います。確かに、そういう一面もあるでしょう。ですが、あなたの魔力運用は、あまりにも繊細に行われている』
「いや、それは前に聞いたけどさ。殆ど無意識にやってるんだよ」
『それが『資質』というものです』
俺の魔力制御とやらが、もう少し雑であれば、レイジングハートも迷うことなく俺を近接型として鍛えていたらしい。
『資質を無視しての成長は、いずれ致命的な歪みを生じさせます』
なのはには、砲撃を主軸に据えた今の戦い方があるように、俺にもあるのだろう。今はまだ分からないが、それを見つけるためには……
「とにかく、場数をこなす必要がある」
『そのとおりです』
そうか。それじゃあ、今度アースラ武装隊の連中かクロノあたりと模擬戦でもしてみるかな。
俺はそんなことを考えながら、フェイトを抱え、なのはの手を引きながら、食欲をそそる匂いが漂うリビングへと下りていった。