魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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第十二話

「やめろ……」

 夢を見ていた。今現在、自分が夢の中に居ることをはっきりと認識している……いわゆる、明晰夢というやつだ。意識ははっきりとしているのに、身体の自由が利かない。

「やめろ……!」

目の前で展開される光景を、ただ眺めて続けていることしか出来ない。

 

『痛い……痛いよぉ……おとうさん、おかあさん……』

 病室にいる幼い子供。その四肢にはギプスがはめられており、痛々しいことこの上ない。

 彼の求める両親は、廊下で醜く言い争いをしていた。

『これで何度目だと思っている!』

『私に言わないでよ!』

『治療費だってタダじゃないんだぞ!』

『だから、私に言わないでって言ってるでしょ!? あの子に聞いてよ!』

 苛立ちを隠そうともしない。

 だがそれも、仕方が無いのかもしれない。この少年が入院するのは、この年だけで四回目。ここ数年の治療費だけで、新車が買えるほどだ。

 最初のうちは、心配もされた。だが、二回目、三回目ともなると、徐々に態度は硬化していき……今では、この少年は両親にとって厄介者以外の何者でもなかった。

『こんなことなら、子供なんて……』

『あなたが欲しいって言ったんじゃない! そうよ、あんな子供なんて……!』

 

――××××××!!

 

 

「やめろおおおおおおおおおおっ!!」

――ガシャアアアアアン!!

 自分の叫び声と、破砕音で目が覚めた。

「……あ?」

 腕に僅かな痺れ。目を開けると、真っ白な天井が目に入ってきた。視界が、涙で滲んでいる。くそ……ガキじゃあるまいし。

 ところで、今の音は……?

「キミは……僕を殺す気か?」

 クロノが、ベッド脇に立っていた。そして、その向こうの壁には、医療機器の残骸が。金属製らしきその側面が、ベッコリと陥没している。

「……悪い、寝ぼけてた」

「高価な機材を……」

 ぶつぶつ呟く。

「ツケておいてくれ」

 腹筋に力を入れ、身体を起こす。……うん、異常無し。あの凄まじい魔法を喰らった

割には、回復が早くて助かった。

「そのままでいい。少し、話をしよう」

 そして、ベッド横の椅子に腰を下ろした。

「話?」

 何か話すようなこと、あったっけ? 

正直、俺達の間には友情なんてこれっぽっちも無いし、クロノも性格的にそういう馴れ合いはしない。

「君の身体はどうなっているんだ?」

「――――」

 ……その話か。

「魔法攻撃とはいえ、落雷の直撃だ。事実、君の身体はボロボロだった。第三度の火傷に、血管の破裂と、それに伴う臓器の損傷。普通なら死んでいる」

 ああ、確かに痛かった。

17年の人生で、一番痛かったかもしれない。さっさと気絶できていて、本当によかった。

「治癒魔法を使った形跡はあったが、それはあのフェレットもどきが使った痛み止め程度のものだった」

 つまり、俺の身体のことを詳しく聞きたいってだけか……

「お前には関係ない」

 別に、俺の身体がどうなっていようが……一時的に、仕方なく協力関係を結んでいるだけのこいつらには、関係ない。

「いや、ある」

 クロノは、俺の不愉快そうな表情に躊躇うでもなく、踏み込んできた。

「協力関係にある以上、戦闘に関する情報は共有すべきだ」

「…………わかったよ」 

なら、半分だけ教えるか。戦闘に関する情報なのだから、それで十分の筈だ。

「昔から、傷の治りが異常に早いんだ」

「……明らかにそのレベルを大きく逸脱していると思うんだが」

「理由はわからない。これは本当だ」 

 そうか、と一拍置く。

「あの筋力は?」

 俺が寝ぼけて殴り壊した機材を顎で指す。

「そっちは純粋に、鍛錬の賜物」

 ……これは、嘘。

「…………」

 今度こそ訝しげに目を眇めるクロノ。

 

「秀人さん、いる?」

 と、医務室のドアが開き、なのはがユーノを肩に乗せて入ってきた。

「具合どう……って、クロノ?」

「ああ、邪魔している」

「そう」

 素っ気無く返し、ぴょんっ、とベッドに飛び乗ってくる。そしてそのまま、べたっと身体をくっつけてきた。口調こそ大人びてはいるが、こういうところは子供っぽくて可愛い。

「秀人さん、歩けるなら帰ろう。ご飯作ってあげる」

「そうだな。味気ない病院食は勘弁だ」

 そうと決まれば。

「よっし、帰るか」

なのはを抱えながら、ベッドを降りる。

「そうだ、二人とも」

 と、ユーノが口を開いた。……どうでもいいが、何でまたフェレットの姿なんだ?

「ん?」「何?」

「艦長からの伝言で、『少しだけ病室で待ってて』とのことだよ」

「えー……」

 なのはが不満げに口を尖らせる。

「ユーノ、コーヒーか何か、持ってきてくれ」

 そこに、クロノが割り込んできた。

「治療室内は水と、君の言う『味気ない病院食』以外の飲食は厳禁だ」

「ちぇっ……」

 そこのところは、普通の病院と同じか。

 ユーノが給水機からコップに水を汲み、ベッド脇に置く。

 そして、味気の無い水を一口飲み、数分。艦長とエイミィが、治療室に入ってきた。

「艦長。エイミィまで……何かあったのか?」

 艦長はそれに答えず、まっすぐになのはの前までやってくる。

「なのはさん」

 そのただならぬ様子に怯え、一層強く俺にしがみ付く。

「……何ですか」

 まさか、今になってジュエルシードを渡せとか、そういう物騒な話じゃないだろうな。

 

「家庭訪問を行います」

 

「かてい……」「訪問?」

 最初はきょとんとしていたなのはの身体が、ハッキリと強張った。

「……私の家族は、」

 ぎゅううっ……と、力が篭る。

「父親は高町士郎。現在入院中。母親・高町桃子、兄・高町恭也、姉・高町美由希は、家業である喫茶店を経営ちゅ――ッ」

 

――バシャッ!

 

 資料を読み上げていたエイミィの顔面に、コップから放たれた水が直撃した。

「…………調べたな」

 地の底から響くような、低い声。

 ぎろっ、とエイミィを睨みつける。その手には、ぽたぽたと雫を垂らすコップ。

「……ごめん」

 しおらしく謝るエイミィだったが、なのはの怒りは収まらない。

「よくも……ッ! 下賤の野次馬がっ!」

 今度は、そのコップそのものが投げつけられた。

 

――パリンッ!

 

 だが、それはクロノによって叩き落とされる。

「落ち着け。 ……艦長、まずは説明を」

「……ええ、そうね」

 ふぅ……とため息一つ。

「なのはさん、これは未確認の情報ですが……海鳴市の二箇所に、つい最近使われたと思しき転移魔法の形跡が、二箇所あります」

「転移魔法なんて、アースラからでもしょっちゅう使ってるだろ」

 なのはを落ち着かせるために抱き寄せ、頭を撫でる。

「ええ、そうね。でも、その魔力のパターンが……アルフと呼ばれていた、あの使い魔の物と一致しているの」

アルフが……? 今までは神経質に形跡を消していたのに、なぜ今になって。

「一箇所は、ここ」

 ぱっと表示される。以前訪れた月村邸に勝るとも劣らない豪邸。

「そして、もう一箇所が……」

 表示されたのは、先の豪邸には遥かに及ばないが、それなりに広い家。一度だけ、行った事がある。そう、確かここは……

「高町の、家……」

 なのはが、辛そうに顔を背ける。楽しい思い出なんて一つもない。ここは、なのはにとって安息の場所などではなかった。ただ無為に拘束され続ける、薄暗い牢獄だった。

「結界を張ればいいじゃないですか」

 隔離結界を細かく設定して、フェイトだけを残す事だってできるはずだ。

 わざわざなのはの血縁者と顔を合わせる意味が分からない。

「なのはさん、ご家族のこと……」

『家族』という言葉に過剰に反応し、癇癪を起こして暴れだす。

「家族じゃない! あんな奴ら……!」

 腕の中で暴れるなのはをどうにか押さえる。放したら、艦長に掴みかかっていきそうな勢いだ。

「よしよし……ほら、落ち着けって」

 ふー、ふー、と荒い息をつくなのはの頭を、しばらくの間、ゆっくりと撫でる。

 艦長やクロノを目で牽制し、なのはを刺激しないように。

 

「なのは、行ってみないか?」

 びくっとなのはが弾かれたように顔を上げる。

「あの馬鹿共も、そろそろ反省した頃だろうし……」

 というか、あの魔法も、そろそろ切れる頃合いだ。タイミングとしてはベストだろう。

 

「でも……でも!」

 自分がいなくなっても、あいつらが変わっていなかったら……いつもと変わらず、家にいなかったら。なのはの気持ちなんて、ちっとも考えていないということになってしまう。

「大丈夫。俺も、ユーノも付いて行く」

 過剰な嫌悪は、『愛されたかった』という願望の裏返し。なのはは元々、愛情深い女の子なのだから。

「安心していい。もし、のうのうと商売なんてしていやがったら……」

 

――ヒュンッ

 

 空中に正拳突きを放つ。

「俺が、あの店を粉々にブッ壊してやるよ」

 クロノが、ぎょっとした顔で俺を見た。

「………………………………秀人さんが、そう言うなら」

 ポケットから、ピンク色の携帯電話を取り出す。

「もう一人、呼んでいい?」

「ああ、もちろん」

 そして、携帯電話のアドレス帳を開き……呼び出した。

 

 

 そして、翌日の土曜日。

「高町さん、吾妻さん、お久しぶりね」

 なのはの担任が、パリッとしたスーツ姿で待ち合わせ場所にやってきた。

「あの、俺のことは……」

 今、はっきりと『吾妻』と呼んだ。ってことは、もうバレているのか。

「ええ、高町さんから聞いています」

 微笑……というより、苦笑する先生。大人なのに、少し子供っぽくて、アンバランスな魅力が…………なのは痛い痛い足を踏むな脇腹をつねるな。

「先生、来てくれてありがとう」

 にこっと笑い、素直に礼を言うなのはが少し新鮮だ。この先生には、かなり気を許しているみたいだ。何があったかは知らないが……なのはに親しい人が増えるなら、素直に嬉しい。

「そちらの方達は?」

 そして、俺の後ろに控えていた二人……リンディとクロノに話題を移す。

「初めまして。なのはさんと親しくして頂いております、リンディ・ハラオウンです」

「息子の、クロノ・ハラオウンです」

 設定的には、偶然知り合った留学生のクロノと、その母親ということになっている。無茶苦茶だ。

「息子がお世話になっているなのはさんのご家族に、是非ご挨拶をと思いまして」

 よくもまぁスラスラと嘘が言えるものだ。

「ええと、その……」

 先生が、ちらちらとなのはを見やる。この反応を見るに、なのはの事情を知っているのだろう。なのはは、先生に強張った笑みを返した。

「……だから、彼らの経営する喫茶店に行こうという話になりました」

 なのはが、努めて他人行儀に言う。

 

 そして、大通りに差し掛かり、例の店の前まで来たのだが……

「「「臨時休業……」」」

 俺、なのは、先生の声がハモった。

「高町さん」

 先生が、なのはの肩を抱く。

「……」

 なのはは無表情で、店を眺めていた。

「思ったよりは、マトモな神経してたんだな」

 

――バシュッ……

 

 手元に集中させていた魔力を霧散させた。

「本気だったのか……」

 クロノが呆れたように言う。当然だろ。

 

「ここ、です」

 そして、牛歩のように歩き、高町の家までやってきた。電気は点いていない。

 昼間だからか……もしくは、またどこかへ行っているのか。呼び鈴を鳴らせば、分かる。

「……………………」

 なのはは、かたかたと震える人差し指を呼び鈴に伸ばし……

「……!」

 反射的に、手を引っ込めた。

 やっぱり、怖いか。

「なのは……」

 ユーノが声を掛けるものの、なのはは俯き、首を横に振っている。

「高町さん」

「先生……?」

 先生が、なのはの手をぎゅっと握る。

「もう一度だけ……信じてみましょう」

 俺を見て、ユーノを見て……

「………………うん」

 弱弱しく、だが確かに、頷いた。

 先生が、なのはの手を握ったまま呼び鈴まで持っていき……

 

――――ピン……ポ~ン

 

 一緒に、押した。

 

――一秒。二秒。三秒。四秒。五秒……

 反応、無しか……

「ふえぇ…………」

 なのはの目尻に、じわりと涙が浮かび……

(ブッ壊すか)

 俺が、ディバインバスターのチャージを始め……

「させないぞ」

 クロノが俺を拘束しようとデバイスに手を伸ばした、その時。

 

「はい、どちらさま……?」

 

 ドアから、なのはソックリの女が顔を出した。

 

「あ……う……」

 なのはが何かを言おうとしてパクパクと口を開き、結局何も言えずに黙り込んでしまう。

 そして、なのはソックリの女は、俺を見て顔を強張らせ……その腰にしっかりとしがみつく、なのはを見て。

 

「なのは!」

 

 素足のまま、駆け寄って来た。

「……」

 なのはが片手を伸ばし、すぐに引っ込めてしまう。

「ほら、行って来い」

俺は、なのはの背中を、軽く押し出した。

「……あ」

 たたらを踏み、不安げに俺を見上げる。

「……」

 そして、立ち尽くすなのはを……なのはの母親が、しっかりと抱きしめた。

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 泣きじゃくり、なのはに縋りつく。なのはは、そんな彼女を振り払うでも無く、ただ困惑した表情を浮かべ……両腕を、回した。

「なのは!?」「……!」

 そして、聞きつけたのか、残る二人も顔を覗かせた。

 

 

「…………」

 こち、こち、と。時計の秒針の音。

「ぐすっ……ぐすっ」

 なのはの母親……桃子の鼻をすする音。

 その二つだけが、リビングに聞こえる。

 

 今現在、俺、先生、クロノ、艦長の四人は、ソファに横並びに座っていた。

 目の前には、なのはの兄、恭也と、姉の美由希。ユーノは、美由希の腕の中だ。

なのははといえば……

『秀人さぁん……何とかしてよー……』

 ちょこん、と、桃子の膝の上に収まっていた。顔が真っ赤だ。もぞもぞと、それとなく下りようとすると、桃子はぎゅっと腕に力を入れ、抱き寄せる。そんなことを続けていた。

 なのはも、口では嫌がっているが、本心はまんざらでもない……というか多分、超喜んでいる。というわけで、しばらく放っておこう。

 

『秀人、やっぱり、いるみたいだ』

 敷地内をサーチしていたユーノが、そう報告する。

『フェイトか? それとも、アルフか?』

『多分、フェイトで間違いない』

 

「……で、お前ら」

 今は、桃子とは話が出来る状況ではないし、恭也と美由希に目をやる。

「はい……」

 美由希が、おずおずと返事をした。

「もう一人、この家にいるはずだ。俺達は、そいつに会いに来た」

 ソファから立ち上がり、ユーノを床に下ろす。

「こっち、です」

なのは……は、後でいいや。今は、思う存分母親とくっつかせてやろう。

 

 艦長とクロノは、リビングにいてもらうことにした。ぞろぞろと人数が来たら、怯えて逃げ出すかもしれないし。

 そして、フェイトがいる部屋まで来た。ドアプレートには、『なのは』と書かれている。

「入るぞ」

 ドアを開ける。オレンジ色の壁紙と、白を基調とした家具。それ以外は何も無い、殺風景な部屋だった。そして、ベッドの上には……

「……やっぱり、キミ達か」

 薄桃色のパジャマを着た、フェイトが横たわっていた。

 

 手に、足に……捲れたパジャマの裾から覗く腹部に、真っ白な包帯が巻かれている。

「おい……その怪我、何だ」

 あの時、雷撃のダメージは受けていないはずだ。なのに何故、フェイトはこんなにボロボロになっているんだ。

「くふふ……おかーさんに、怒られちゃった」

 自嘲し、空虚に笑う。

「いっ……た」

 傷に障ったのか、顔をしかめる。

「ユーノ」

 ……とにかく、治療だ。

『この二人、追い出すから治療を』

『多分もう、魔法についてはある程度知ってると思う』

 そして、レイジングハートの映像記録を再生する。そこには、あの日の晩……なのはが、攻撃魔法でこいつらをぶっ飛ばす姿が映っていた。

 

「なんということを……!」

 

一般人相手に魔法を使うなんて!

 

『お前が言うなバカマスター』

 

 レイジングハートさん、ちょっと俺に厳しすぎないですかね。

 

 

「今から見ることは、他言無用だ。いいな」

 二人は、静かに頷いた。

「それじゃ、はじめるね」

 そして、ユーノが人間の姿に戻る。

「「…………」」

 二人は、あんぐりと口を開けて呆けている。

 それを無視し、ユーノが魔法陣を展開。そして、発動。

 緑色の光のドームが、フェイトの横たわるベッドを覆った。

「この中にいれば、外傷は一日くらいで治るから」

「…………」

 何を言うでも無く、もそもそと身体を起こした。

 とんとん、と階段を軽い足音が上ってくる。

「…………お邪魔します」

 なのはだった。妙に緊張した面持ちで、部屋に入ってくる。

 別に、フェイト相手に緊張するようなことも無いだろうに……と、そこまで考え、鈍い俺にも思い至った。部屋には、恭也と美由希がいる。まだまだ溝は深い。

「美由希、戻るぞ」「そうだね」

 二人は、ふっと苦笑し、頷きあった。

 なのはの両肩を、それぞれぽんっと軽く叩き、部屋から出て行く。

 

 残されたのは、アルフを除くいつものメンツ。

「フェイト」

「……なに?」

 フェイトとなのはが、見詰め合う。

「私は、ジュエルシードを譲れない」

「これは、ユーノくんのものだし……何より、」

 なのはは、フェイトの手を取る。

「フェイトをこんな目に遭わせるような奴には、渡せない」

「…………でも、ボクは」

 フェイトは、まだ納得できないようだ。

「ボクは……おかーさんの願いを、叶えてあげたい」

 どんなに酷い仕打ちを受けたとしても、フェイトにとってはただ一人の母親。

「うん、わかってる」

 だが、なのはとてそんなこと百も承知している。

だから。

 

「だから、勝負しよう」

 

「え?」

 フェイトが、なのはの顔を見返す。

「傷が治って、魔力と体力も満タンにして……そうしたら、ジュエルシードを全部賭けて、勝負しよう」

「でも、ボクのは……全部おかーさんに渡しちゃった」

「それじゃあ、私が勝ったら、私のお願いを一つ聞いて」

「……でも」

「ふぅん、負けるのが怖いんだ?」

 なのはが、あからさまな挑発をする。

途端、しおらしかったフェイトの瞳に、炎が灯った。

「誰が! ボクがキミに負けるなんて、万に一つもあるもんか!」

「じゃあ、いいよね? 私が勝ったら、何でもお願い聞いてもらうよ」

「いいよ! ボクが負けたら、何でも聞いてやるよ!」

 がばっとベッドから起き上がり、なのはと額をぶつけ合うような距離でにらみ合う。 

 

――きゅぅ~……

 

 と、フェイトの腹が、可愛らしい音を鳴らした。

「あう」

 真っ赤になり、腹を押さえる。

「「「ぷっ……」」」

 思わず吹き出してしまった俺達を、フェイトが睨む。

「……おなか空いたんだもん」

 ふて腐れるように言い、そっぽを向く。

 と、ドアがコンコン、とノックされた。そして、美由希が顔を覗かせる。

「みんな、ご飯出来たよ」

 

「丁度よかったな。んじゃ、行くぞ」

 そして、フェイトを抱え上げる。

「あああああっ!?」

 なのはが、愕然とフェイトを見上げる。

「ど……どうした?」

 いきなりの大声に驚き、落としそうになってしまった。

「……ううう」

 何故か涙目だ。

「ふ~ん……」

 フェイトが意地悪く笑い、俺の首に両腕を回し、より一層密着する。

「くっ……! こいつ!」

「くふふふふっ。どうかしたのー?」

 ……何か知らんが、水面下では何かの応酬が続いているらしかった。何だろうな、一体。

「ユーノ、魔法陣から離れても効果は続くか?」

「んー、ちょっと待って」

 再び詠唱し、魔法陣から一筋のラインがフェイトに繋がった。

「とりあえず、この家の敷地はカバーしたから大丈夫」

 さっすが。こういう器用な真似は、俺もなのはも出来ない。俺達が習得しているのは、全て戦闘絡みの魔法だけだ。こういったサポート系の魔法も、習っておいて損は無いかもな……適性の無い射出系を無理して覚えるより、満遍なく覚えた方がいいかもしれない。

『秀人、それはお勧めしません』

 と、レイジングハートが割り込んできた。

「え、何で? 満遍なく色々と使えたほうが便利そうだけど」

『まずは、あなたの最も得意な分野を見つけ、徹底的に鍛えなければなりません』

「……俺、近接型じゃなかったっけ?」

 殴って蹴って、しか能が無いぞ。操作の利かない砲撃はゼロ距離でしか使えないし、射撃もばら撒くことしかできない。

『いいえ、違います。確かに、そういう一面もあるでしょう。ですが、あなたの魔力運用は、あまりにも繊細に行われている』

「いや、それは前に聞いたけどさ。殆ど無意識にやってるんだよ」

『それが『資質』というものです』

 俺の魔力制御とやらが、もう少し雑であれば、レイジングハートも迷うことなく俺を近接型として鍛えていたらしい。

『資質を無視しての成長は、いずれ致命的な歪みを生じさせます』

 なのはには、砲撃を主軸に据えた今の戦い方があるように、俺にもあるのだろう。今はまだ分からないが、それを見つけるためには……

「とにかく、場数をこなす必要がある」

『そのとおりです』

 そうか。それじゃあ、今度アースラ武装隊の連中かクロノあたりと模擬戦でもしてみるかな。

 

 俺はそんなことを考えながら、フェイトを抱え、なのはの手を引きながら、食欲をそそる匂いが漂うリビングへと下りていった。

 

 

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