魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第九十六話

 

 

「…………アリアと、ロッテは?」

 

 合流したクロノは、秀人に切り出した。重い、重い口調。

「…………!!」

 秀人は、どきりと鼓動が大きくなるのを感じた。

『いきなり、アースラから飛び出していっちゃって……多分、グレアムのところに、行ったんだと思う』

 アースラの、エイミィからの声も重く…………おそらくは二人とも、既に理解しているのだろう。だが、秀人にあえてそれを聞くのは……『もしかしたら』を、求めているから。

「あいつらは…………あの、二人は…………」

 秀人は、口を開きかけては閉じてを、何度も繰り返す。そして……

「…………………………逝ったよ。グレアムを、道連れにして」

 ……無力感をにじませながら、静かに伝えた。

「止めようと……したんだ。でも、あいつ…………」

 それ以上を、いうのを止める。きっとそれ以上は、言い訳じみた言葉になってしまう。それは、あの二人の覚悟を、汚す言葉だ。

「………………そうか」

『………………』

 二人は、秀人を責めなかった。それが、秀人には、むしろ辛かった。いっそ罵倒でもしてくれたほうが、どれだけ楽か……

「………………聞いても、いいか?」

「ああ」

「………………あの二人、最後に何か、言っていなかったか?」

 あの二人が、最後に告げた言葉。それは……

「……もう少し早く、俺みたいなのに出会えていたら……って、……笑ってた」

「……そうか」

 瞑目し、数秒間。

「良かった。……最後の最後に、救われたんだな」

 そして、はやてを見る。

「二人の遺した物は、今も生きている。それで、十分だ」

 アーフィエルと、リーゼと、はやて。三人を繋ぐコードが、今こうして在ることが、クロノにとっても、救いだった。

 

「…………始まる。気を引き締めろ」

 

 はやてがそう言うのと同時。

 

――――ゴゴンッ……!!

 

 はやてという核を失った魔獣の抜け殻が、激しく鼓動した。

「う……!!」

 ……いや、違う。『抜け殻』ではない。ただの『抜け殻』が、これほどの圧力を発するわけが無い。

「! 雑魚騎士たちが……!!」

 見れば、ぽつぽつと残るのみとなっていた(それでも600体を上回るが)雑魚騎士たちが、魔獣の体内……はやてが抜け出した洞へ、吸い込まれていく。

「雑魚騎士を全滅させてしまった場合。もしくは、核を失った魔獣へ一定の干渉を行った場合。魔獣は、魔力を求めて、再び第一段階……周辺質量の無差別吸収を行う」

「!!」

 もし、勢いのまま雑魚騎士を殲滅していたら……魔獣に手出しをしていたとしたら。アースラの全出力を喰らって、尚止まらなかったあの現象が、再び起こっていたということか。

「魔獣を倒し、なおかつ『ベツレヘムの星』の発動を止めるには…………」

 …………一体残らず、魔獣へ吸収された雑魚騎士たち。

 

「雑魚騎士を残らず吸収し、完全体となった魔獣の核を破壊することだ」

 

そして…………

 

――――――――グゥオァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッーーーーーーーーー!!!!

 

 体中に滅茶苦茶に開いた、乱杭歯を生やした口。イソギンチャクにようにじゅるじゅると軟体質に蠢く口。人間のような歯が並ぶ口…………無数の口が、同時に絶叫を上げる。

 象のように太い足。蜘蛛のように細く鋭い足。昆虫のような節足。ツタが絡み合った植物状の足が、海底を踏みしめ、その巨体を屹立させる。

 赤い目。青い目。血走った目。三つの瞳が蠢く目。腐り落ちそうな目、全てが、秀人たちをギョロリと睨み付ける。

 ……もはやそれは、魔獣という姿かたちさえ保つことを放棄した、邪悪で醜悪な、怪物だった。

 アーフィエルが、ぺっと吐き捨てる。

『ふん。あの目、見覚えがあるわ。闇の書を最初に改悪した、ちっぽけな魔導師崩れだった男の目だ』

「歴代の主たちの、成れの果てか」

『単なる外殻だがな。あの内部に、『ベツレヘムの星』発動に必要な術式が隠されている。あの外殻は、発動まで術式を守るためのものだ』

 

 エイミィの手元に、何らかの情報が図示される。

『二重構造の魔獣の、予想される強度だ』

 その強度を破れるだけの攻撃、その出力が算出される。

『外殻だけでも、なのはちゃんと、秀人くん……その場に居る全員の、全魔力を攻撃に変換した数値と、ほぼ同等……』

 その声は、どこまでも重く、暗い。

 希望が見出せたと思った矢先の壁に、くじけそうになる。

『だろうな』

 そこに、別の通信が入ってきた。

「オッサン!?」

 レジアスだった。

 

『つい今しがた、アルカンシェルの使用許可を取り付けてきた』

 

「アル…………? なんだ、それ」

 首をかしげる秀人たちに反して、クロノや、プレシア……マリエルやエイミィまでもが、引きつった顔をしていた。

「おい、クロノ。何だよ、そのアルなんとかって」

「分かり易く、かつ誇張なしで言うとだな………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………半径数百キロを、文字通りに『消し飛ばす』魔導砲だ」

 

「阿呆か!」

 

 秀人は天を仰いだ。

「おいオッサン! 加齢が脳に及んだのか!? んなもん使ったら、魔獣どころか町ごと綺麗サッパリ消えちまうだろうが!!」

 確かに、高確率で魔獣を撃破できるだろうが……それでは、非難した民間人にまで、被害が及んでしまう。

『小僧…………』

 ぴくぴくと、怒りを堪えている声で、レジアスは言った。

『…………話は最後まで聞け。アルカンシェルは、原則、空対地での運用は想定されていない。空対空。もしくは、地対空だ』

「空ったって…………魔獣は、陸に居るんだぜ。んなもん、あの魔獣を空に打ち上げでもしない限り…………………………あ!」

 秀人たちは、ようやくレジアスの意図を察した。

 

『そう……あの魔獣を、アルカンシェルの射程にまで、引っ張り上げれば良い。地上に被害が及ばない、宇宙空間にでも、な』

 

「私達は、外殻の破壊にのみ、集中すれば良いってことだね」

 外殻を秀人たちが。内部をアルカンシェルが。それぞれ個別に破壊すれば……

「……いける、な」

 秀人は、成功を確信した。

「……となると、あとは魔獣を飛ばす長距離転送だな。ちょっと待ってろ」

 はやてが、至天の書をぱらぱらと捲り、記述していく。

「出来たぞ。魔力を足せば足すほど、座標関係無しにより遠くへ対象の物体を送れるようにしておいた」

 一瞬である。

『ふむ、上出来だ。では、はやて。人選はどうする?』

 レジアスの試すような口ぶりに、はやては淀み無く答えた。

「プレシア、アーデルハイドの両名は、魔力ブースター。ユーノ、アルフ、ザフィーラ、シャマルが、術式担当だ」

 至天の書と、ダブルユニゾンによるスペックを備えたはやてならば、一人で扱える術式だが、攻撃に回る以上、6人で分担しなければならないようだ。

 

「秀人さん!」「ひでと!」

 なのはとフェイトが、それぞれの愛機を秀人に差し出す。

「行くぞ、レイジングハート。バルディッシュ。」

『All right』『O.K.』

 秀人は、イモータルハートの回路へ魔力を流し……

 

『Connect On』

 

 あの日以来となる、レイジングハートとバルディッシュの合体デバイス・ユナイテッドハートを発動させた。

「二本!?」

 ……二本を一本に結合させるはずのユナイテッドハートが、なぜか二振り、存在していた。

『姉貴の空き容量に、カーバンクルのエネルギーを使って構築したの。AIは変わらず複合型で、処理能力はちょっと上がったの。カートリッジも付いてるの』

 アイも、一仕事を終えて満足げだ。

 

『 『 Standby ready 』 』

 

 レイジングハート・エクセリオンモードと、バルディッシュ・ザンバーフォーム。その両者を、純粋進化させた形状で、それぞれ、なのはとフェイトの手に握られる。

 

 そして、作戦が決定する。

 

「魔獣の外殻を破壊! 『ベツレヘムの星』の術式を含む核を、軌道上に転送&アースラの主砲で完全消滅!!」

 

――戦力は、万全。

 

――武装は、整った。

 

『! 魔獣、内陸部へ侵攻を開始!! 内包魔力、自己消滅と、術式発動の間のラインを保ってる!』

 

――――今こそ。

 

「身の丈に合わぬ欲望に囚われ、呑まれ…………闇に成り果てた者達」

 

 一歩、前へ。

 最前線へ歩を進め、おぞましい魔獣へ、凛然とした言葉を投げかける。

 

「その姿は、私が歩んだかもしれない、可能性の一つ。故に……」

 

 憤怒も、憎悪も、悲哀も、慈悲も……全てを内包する、静かな言葉。

 微風のような魔力は、即座に魔力の乱気流へと変わる。

 

「最後の、闇の書の主。最後の、夜天の王。そして……」

 

 聖盾の輝きが、曇天を切り裂き……魔剣の闇が、暗雲を呑み込む。

 

「今代限りの至天の王が……――――汝らに、引導を渡す!!」

 

――オオオオオッ……!!

 

 反逆するかのように、咆哮を上げる!

 

 ズシンッ、と、湾岸を踏み砕く、圧倒的重量。だが……その足が、二歩目を踏み出すことは無かった。

「ウチは正直、お前がどこの誰かは興味は無い。誰を殺そうが、何人を殺そうが、どーだっていい。だがな……」

 

――――ゴ、ゴ、ゴ……!!

 

 上空に…………鉄塊の乱杭歯が、出現する。

 一本一本が、恐ろしく巨大で…………一切の虚飾の無い、超重量を秘めている。

「お前は、秀人の敵だ。そして、秀人の敵は、凶鳥部隊の敵だ。

 

だから殺す。死ね」

 

 

――――――ガゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ…………ゴゴゴゴゴゥンッ!!

 

 

 連射された鉄塊が魔獣を打ち抜き、外殻の甲殻を叩き割る!

 

『グェアァアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 魔獣は、一気に沖合いに叩き返された。

 

――グジュルッ……!

 

 甲殻のヒビから、眼球のようなものがせり出し、ギョロリとオウルを睨むその先端に、暗黒の魔力が収束する。

 今、まさに発射されようとしたその時……

 

「ロード、カートリッジ」

 

――――ガキュンッ!

 

 紫紺の魔剣が、火を噴いた。

 開放された魔力は、発散されること無く、魔剣の内部に蓄積される。

「ロード、カートリッジ」

 

――――ガキュンッ!

 

 二度目の、発声。

 魔剣に、更なる負荷がかかる。

 

「……ロード、カートリッジ!!」

 

――――……ガキュンッ!

 

 そして、三度目。

 魔剣の刀身が、過負荷の魔力に晒され、赤熱し……ビキビキと罅割れていく。

「ヒデくんと私が生きる世界に、お前の存在は必要ない。消えろ」

 今まさに、暴発寸前。その、膨大な魔力を……!

 

「――――ダーインスレイブ・ディバイドッ!!」

 

――――ガシャアァアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!

 

 砕け散る刀身と共に、撃ち放つ!!

 

――――ザギュンッ!!

 

『ゴァアアアアアッ……!』

 全ての眼球を切断された魔獣が、鳴く。だが、その声にはまだ、余裕があった。なぜなら、魔獣の治癒力を持ってすれば、この程度の損傷など…………

 

「無駄。ダーインスレイブの傷は……決して癒せない」

 

 …………治癒は、しなかった。

 切断面は、塞がる気配すら見せず、数倍もの激痛を、魔獣へ送り続ける。

『グ、エアアアアアアアッ!!!』

 中途半端に露出していたおかげで、甲殻の再構成さえも阻まれる。

「ラーファ、クライア! 次!!」

「撃つよー!」「ぶっ放す……!」

 そして、双子。

 

「 「 とっておきを出しちゃおう! 」 」

 

 ぱんっ、と互いの両手を打ち鳴らし、事前に転送しておいた、その装置を二人で持つ。

「あーよかった! やっぱり、兵器は使ってナンボだよね!」

「大きな的…………粉々に……」

その巨体は、三機の巨大な装置と、長大なレールから成っていた。

「120メガワットジェネレーター、稼動。最大出力」

 

――――バチッ、バチチチチ……!!

 

 その、空母さえも賄える電力が供給され、激しくスパークする。

「500mm劣化ウラン拡散弾頭弾、装填!!」

 ごしゅんっ……と、そのキチガイじみた弾丸がチャンバー内に装填される。

 そして、電力が臨界に達し……

 

「 「 ドレッドノート・キャノン!!  ファイアーーーーーーーー!!!!」 」

 

――――――!! ズドォオオオオンッ!!

 

 発射音は、遥か後方に。

 秒速10kmという超スピードで炸裂した重金属の暴風雨が、魔獣の甲殻を、跡形も無く消し飛ばすっ!!

 

 強固な甲殻が剥がれ落ち……下から現れたのは、蠢く肉の壁だった。

『!!……』

 

――ヴォオオオンッ!!

 

 物理装甲は意味を成さぬと悟ったのか、魔力障壁を数十層、積層で織り成す。

 あの肉は、おそらくはゴムのように、物理衝撃を受け流す。それを、同じく弾力性に富んだフィールド系の魔力障壁で幾重にも覆えば…………

 

 その魔獣の目論見は、打破されることとなる。

 

「アイゼン、行っくぞォおおおおお!!」

『Ja!』

 

――鉄槌の騎士・ヴィータ。闇の書の攻撃プログラム、ヴォルケンリッターとしての、千年の闇を抜けた少女によって。

 

『Gigantform!!』

 

 子供が画用紙に書きなぐったような、どう見てもバランスが狂っているとしか思えない巨大なハンマーへと変形を果たす。

 左右非対称であり、片方は、角錐。もう片方は…………

 

「轟・天……!!」

 

――――ごぅんっ……

 

 ……と、大質量が、ゆっくりと動き出す。反対側に備わった、三基のブースターの推力が、ゆっくりと……しかし、確実なトルクを掛けながら、グラーフアイゼンを旋回させる。

 

――ガォン……ガォン……ガォンガォンガォンッッッ!!!!

 

「爆・砕!!」

 

 その破壊力は……誰の想像をも、寄せ付けさせない。

 

「――ギガント・シュラァアアアアアアアアアアアクッッ!!」

 

――――ッゴォアオオオオオオオオンッ!!!

 

 積層魔力障壁は、2枚か3枚を残し、破砕され、蒸発した。その残りでさえも、限界以上に歪み、たわみ……決壊寸前だ。

『……』

 だが……堪えた。組織が再生するまで、障壁を何度でも、何度でも張り直して……

 

「くぁ~!! アタシの全力だぞ!? 持ち堪えやがった!」

 

崩れ落ち……露出したのは、これまた頑強そうなプレート状の骨格だった。

とはいえ、無事でもない。……体全体を覆う筈だった骨格は、面積が足りず、全てを覆い尽くせないでいる。

 プレートをジャカジャカと絶え間なく動かし、防衛線を築く。

 

「――――それで、隠しきれているつもりか?」

 

 ジャキンッ……! と、武装を構える男。

 

――烈火の騎士・シグナム。思考を奪われ、生来の武技を封印されていた、武芸百般に通じる屈指の猛者。その、最も得意とする得物は…………

 

「往くぞ……レヴァンティン!!」

『Bogenform !!』

 

――――弓!!

 

 ギリィッ……!!

 矢を番えられた弓が、張力に撓み……先端の鏃には、複数発分のカートリッジの魔力が、今か今かと、開放のときを待っていた。

「……我が朋友、秀人。そして、凶鳥ども。我が奥義、しかと見届けよ!!」

 シグナムの目が……動き回るプレートの動作を、見切った!!

 

 

――――ギャオォオオンッ!!!

 

 発射された矢は……摩擦熱と、シグナムの魔力で燃え上がり……その姿を、変える。

 

「翔けよ、隼!!」

 

 それは、魔力の猛禽。鋭い嘴を、爆発的な加速の勢いに乗せ……

 

――――ドゴォオオオオオオンッ!!

 

 魔獣に、炸裂!!

『ウウ、ウウウ……!!』

 いよいよもって、その醜悪な形すら維持することが出来なくなり……

 

『グギャアォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!』

 

――――ズロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロォオオオオッ!!!

 

 ……脳髄のような姿へと、変わった。

三つの巨大な目玉が、開かれる。その脳髄かと思われていたのは……無数の蛇が、絡まりあって成された形だった。

『グゥウウウウウッ……!!』

 三つの目玉に、魔獣の肉体を構築していたエネルギーが、破壊の魔力として収束する。

 

 その照準は…………海鳴市!

 

 

 

「参りましょう……ルシフェリオン」

 

「行こう、バルニフィカス」

 

「ほな、やったろか……エルシニアクロイツ」

 

 

――――三騎が、並び立つ。

 

 

「疾れ明星……すべてを焼き消す、炎と変われ!!」

 

――――星光の騎士・シュテル。 至天の王に仕える、絶対の忠臣。彼女の使命は、唯一つ。

 

「轟、熱…………滅砕!!」

 

――その炎を以って、王の敵を焼き尽くす!

 

「ルシフェリオン・ブレイカーーーーーーーーーーーー!!」

 

――――――ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオウウッ!!!!

 

 それはまさに、裁きの炎。

 砲撃として打ち出されたそれは、着弾した瞬間、魔獣の目玉の一つを業火で包み込む!

 障壁を、突撃の勢いのままに破壊! 砲撃が着弾した瞬間、残ったカートリッジを鬼のようにフルロード! 

 

「ヒート、エンドッ!!」

 

更なる炎熱を精製し、眼球を、内部から炸裂させる!

 

 

「切り裂け雷光! 万物滅ぼす、雷と変われ!」

 

――刃の騎士・レヴィ。その鋭い眼光は、魔獣の脳髄の眼球を、真正面から睨み返す!

 

「雷刃……封殺!!」

 

 巨大な魔力刃を、大きく一凪ぎ。肩に担ぎ上げる。

 

――バチンッ!!

 

 眼球の周囲に設置された、剣状の魔力スフィアが、その行動を阻む。

決して、逃がさず……屠り去る。その、意思のままに。

 切っ先は全て……眼球の、中心点!

 

「爆・滅・剣!!」

 

――――バカァアアアアアアアアアアアンッ!!!

 

 二つ目の眼球が切り裂かれ……断面から内部に至るまでが、爆破される!

 

 

「来たれ暗黒……万象呑み込む、虚空と変われ!!」

 

――――闇の騎士・ディアーチェ。はやての因子を、最も濃く…………そして、異なる形で顕現させた、別格の存在。

 

「紫天に吼えよ、我が鼓動!!」

 

 十字槍を掲げ……中心部に、小さな、しかし、とこしえの闇を呼び起こす。

 

――――ドスッ!!

 

眼球に呑み込まれる、闇の球体。ぎょろりと、眼球が動く。それはまるで、拍子抜けしているかのようだった。だが…………それで終わる筈が無い!

 

「出でよ巨重……ジャガーノート!!」

 

――――ズボァアアアアアアアアアアアアアッ!!!!

 

 眼球内部に突如として現れた、虚空…………それは、まさに小型のブラックホール!

闇より暗き虚空が、眼球を内部へと縮退させていく!

 

 

 三騎によって、最後の防衛線は突破された。

 魔獣の核は……蠢く蛇が凝縮した、闇の衣に覆われているのみとなった。

 

 だが……それこそが、魔獣の最後の策だった。この衣が、魔力・物理攻撃で強引に破られた瞬間…………闇の書は自壊し、無限転生機構を発動させ、核を次世代へと飛ばしてしまう。敗北を悟り、次代へと逃げ延びようとしているのだ。

 

――これまでと、同じように。

 

 だが、これでいい。

なぜなら、闇の書には、無限の猶予 「干渉術式、構築完了」 が…………?

 

「ふん……お前の考えなんて、全部お見通しだ」

 

――――ジャキィインッ……!!

 

 魔剣と聖盾が合一し、光と闇、二つの宝玉を据えた杖へと変わる。

 

「――終わりを、始めよう」

 

 古代ベルカ式の魔法陣が、展開する。

三角形の三頂点の、三つの円。その三つそれぞれに、はやて、なのは、フェイトの三人が、座していた。

 

「 我、旧き時代を閉じる者なり 」

 

「 悪しき絶望に、終焉を 」

 

「 新たな時代に、灯火を 」

 

 輪唱するように、詠唱が、詠唱へと繋がり…………込められた術式が、紐解かれていく!

最後の詠唱。それは……!!

 

 

「 「 「 不屈の心は、この胸に!! 」 」 」

 

 

 始まりの夜の…………不滅の誓い!!

 

 

 闇の衣が、まばゆい光に剥ぎ取られていく。そして…………!

 

「行くぜ、クロノ」「ああ、秀人」

 

 …………真デュランダルを持つクロノと、秀人。

 秀人によって、リンカーコアを結合し…………デュランダルの持つ、ただ一つの機能を、極限にまで高まらせていた。

 

「父さん…………今こそ!!」

 

 デュランダルの力。それは、分断の力。

 無限転生……世界の因果律に癒着した闇の書を、永遠の揺籃から、引きずり出す力!!

「捕まえたぜぇ……!!」

 秀人が、核と、因果律への接点を捕獲する!

 

「クロノ! ぶった切れぇえええええええええええええええええっ!!!!」

 

「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

――――バチィイイイイイイインッ!!

 

 デュランダルが砕け散り…………因果との接点が、完全に分断された!!

 

 

「!! 長距離転送、開始!!」

 ユーノが、はやてより託された術式を起動。アルフ、ザフィーラ、シャマルが、瞬時にその補助に入る。

「全魔力を……!!」「……くれてやるわ」

 

 注がれた魔力が……常識はずれの長距離転送を、実現する!!

「リンディさん……行きますッ!! 」

 

――目標・軌道上!!

 

「いっけぇええええええええええええ!!!」

 

――――バシュゥウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!!!!

 

 

 

「! 闇の書の核、射程まで残り、20.19.18…!!」

「全ロック、解除。発射シークエンスに移行します!!」

 アースラ艦首部に厳重に封印されていた、アルカンシェルの砲身が、姿を現す。

 一つに集合していた砲身が、三つのバレルに展開する。その根元は……アースラの機関部と直結。内部を、反応消滅砲のプログラムが走る。

 

 艦長章を、胸元から外すリンディ。

「……アルカンシェル、トリガーオン」

 艦長章が、高度に精密化されたアナログキーへと変形する。

 そして……コンソールをコマンドし、封印を解く。

 

――ヴィンッ……

 

 手元に、四角い魔力スフィアが出現する。それに開いていた鍵穴に、アナログキーを挿入。

 

「3.2.1…来ます!!」

 エイミィのカウントと同じくして…………アースラの目の前に、闇の書の核が、ワープアウトした。

 ……それは、既に質量さえも操れなくなった、脆弱な精神体だった。

『オ、ワル…………! ワレノ、エイエンガ………………オワッテ、シマウ……!!』

 

――永遠への妄執。

 

 それこそが、闇の書を呪っていたものの正体だった。

『イヤダ、イヤダイヤダイヤダ……シニタクナイ、シニタクナイィイイイイイイ!!』

 無様に、未練をわめき散らすソレに、リンディは哀れみさえ覚えた。

『ヤメロ! キサマニ エイエンヲ アタエテヤロウ!! キサマノノゾムエイエンヲ……!!』

「そう……誰だって、そうよ。変わりたくない。それが、美しく、輝いているものなら、なおさらね」

 ……それを耳にしていたエイミィらは、口を引き結んだ。

 そう。変わりたくないというのなら……リンディにも、それを口にする動機があった。

「でも、私はね」

 だが……リンディは、同じ過ちは、犯さない。

 

「他人の幸福を犠牲にしてまで、それが欲しいとは思わないのよ」

 

――――カキンッ

 

 …………発射トリガーを、引き絞った。

 

――――ギュウウウウウウウウウウウウウウウウウウンッ……!!

 

 巨大な円環が旋回し……内部に、反応消滅弾を精製する。そして……

 

 

――――――――――――――パンッ

 

 

 …………あっけない音と共に、核へ命中。

 命中した地点を中心に…………次元が、歪む。

 その歪みは、波紋のように広がり……今度は逆に、歪んだ次元が、元に戻ろうとする力を働かせ、弦を弾くように、反応を極大化させていく。

 ……やがて、アルカンシェルが放出した『歪ませる力』が尽き……『元に戻ろうとする力』が、極限まで働き……中心部分を、その衝撃波が吹き荒れた。

 

『イヤダイヤダイヤダイヤダイ ヤ    グァギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア ―――――――――――――――――――――――――――― ―――――――――――――――――――――――――――― ―――――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――― ―――――――――――――――――――――――――――― ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ―――――――――――――――――――――――――――― ―――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――……アアアアアアアアアアアアッ!!

 

 

「!!!!」

 リンディの顔が、驚愕に引きつる。

 消滅しかけていたはずの核が……最後の悪あがきに放った攻撃が、アルカンシェルを打ち抜いたのだ。

 

「!! く、!!」

 爆発の余波に、体を投げ出された。

 あわてて体を起こし、モニターで状況を確認したリンディたちが見たものは…………

 

 

 

『ワレノ、永遠ハ崩レタ………………………………ダガ、貴様タチモ、道連レダ……ハハ、ハハハハハ…………ハハハハハハハハハハハハ!!!』

 

 

 

 ………………ゆっくりと、周辺のデブリを吸収する、闇の書の核だった。

 

 ……転生の道を捨て……不完全ながらも、『ベツレヘムの星』を、発動させたのだ。

 

「!!! アルカンシェル、第二射!!」

「む、無理です……!! 砲身大破! 機関部も、その影響で停止しています!! このままでは、生命維持も……!!」

「なら、わたしが直接……!!」

「艦長!!」

 飛び出していこうとするリンディを、エイミィが飛びついて止める。

 

アルカンシェルは、もう撃てない。

 いかに高ランク魔導師といえども、宇宙空間では行動できない。

 応援は、期待できず。

 

 

――――――――――――――――積み、だった。

 

 

 

 

 

「そんな……!!」

 なのはの呟きは、地上の秀人たち、全員の代弁となった。

 

「………………」

 秀人は、不気味なほど無言だった。

「全員で、アースラに! 全ての魔力を、秀人の力で結合して、あの術式を破壊するんだ!!」

 次善の策を講じるクロノ。

 だが……その本人が、諦観に支配されることに、抗うことしかできなかった。

 

 

 茫然自失。

 希望を掴み、手繰り寄せたと思ったら…………それ以上の絶望が、降り注いだ。

 誰もが、何も言わず、言えず、動けず………………

 

 

 

 

「あはははははははは」

 

 

 

 

 そんな中で聞こえた笑い声は、不気味なほど、よく響いた。

 

「|何だよみんなして。そんな簡単なことが、分からないのかよ」

 

 …………発生源は、秀人だった。

「秀人、さん……?」

 なのはが、秀人を愕然と呼ぶ。

 だが、秀人は…………そんなもの耳に入っていないという風に、ケタケタと、不気味に笑い続けていた。

 気がふれたか。誰もがその危惧を抱いた。

 秀人は、愉快で愉快でたまらないといった風情で、顔を覆って笑い続け…………

 

――――ドプンッ…………

 

 秀人の、背中の光翼。

 空色だったはずのその魔力光に一点、染みのように、暗黒が浮かんだ。

 

――ドプッ……ボボボボッ…………

 

 墨汁をたらしたかのように、空色が、闇色に汚染されていく!!

「秀人さん!?」

 ……その、闇は。

「うそだろ……!? それは、闇の書の……!!」

 

 ……暗黒の精神世界を脱出する際……秀人に食い込み、同化した闇だった。

 闇色に染まった翼。

『アイ! 応答しなさい!! ……アイ!!』

『………………』

 レイジングハートの通信に、イモータルハートは答えない。

 機能にも、障害が出ている。

 

「簡単な話じゃないか………………そんなもん、宇宙空間でも活動できる奴が、一人で行けば良いんだ」

 

 

「っ……!? 秀人、まさかお前……うぐっ!!」

 その意図を察したクロノが、呻く。

「きゃあっ!!」「ひでと、なにを……ああっ!!」

 

――――ジュルルルルルルルッ……!!

 

 ……結合の力。魔力のラインが、その場にいた全員へと突き刺さり………………

「ドレインッ……!!」

 …………全員の魔力を、限界以上に絞り上げ、吸収した。

「うああああっ……!!」

 ……まず、はやてのユニゾンが解けた。リーゼとアーフィエルが、唐突に宙に放り出される。

続いて、ユナイテッドハートが解除され、レイジングハートと、バルディッシュに分離した。

 

 ほかの面々も、飛行すら危うくなり、次々に地上へ降下していく。

 

――ドクンッ……!!

 

 膨大な魔力に、暗黒へと染まった翼が打ち震える。

 その足で、核を軌道上へ転送した魔法陣を、再び起動させた。

「やめろ……!! 秀人、どうしてしまったんだ!!」「秀人さん!!」「ひでと!」「秀人!」

 クロノたちが、すずめの涙ほどの魔力で、秀人に追いすがる。

 だが、秀人は、それらを一顧だにせず、魔法陣へと足を踏み入れていく。

 

「あはははははははははは」

 

 ……空虚で、無感情な笑いを、へらへらと浮かべながら。

「……目標、軌道上……!!」

「やめろっ……!!」

 次の瞬間、クロノは、頬に生じた衝撃で、弾き飛ばされた。

 

「うるせぇええええ! 俺の邪魔をするんじゃねぇえええっ!!」

 

……………………秀人がクロノを、鬱陶しげに殴り、振り払ったのだ。

 その行動を見たなのはは、確信した。

 

――――正気じゃない、と。

 

「やめてぇえええええええええええええええっ!!」

 

 なのはたちは、必死にしがみつき……

 

――――バシュウウウウウウウウウウウウンッ!!!

 

 

 秀人もろとも、転送されようとした。

 あまりの速度に、風景が意味を失う。

 転送中の衝撃波が、秀人にしがみついたなのはたちをゆさぶる。

「秀人……馬鹿な真似はやめろ!! 私が、なんとか術式を止めるから……!」

 はやてのその言葉に、秀人は、首を横に振った。

「駄目だ。これ以上のユニゾンの負荷に、お前は耐えられない」

 ……事実、既に体力も限界に近い。

「んなもん、どうでにでもしてやる!!」

 強がるはやて。だが秀人は…………

 

「俺一人でやる」

 

 ……はやての手を振り払い、地上へ押し戻した。

 

「ひでと、やめようよ!! アースラだって、まだぜんぶの手が尽きたわけじゃない!! ボク、がんばるからさぁ……!!」

 既に半泣きになっているフェイト。

 いつもなら、それを率先して慰めてくれるはずの秀人。

 しかし、今は……

 

「必要無い」

 

 端的に否定し、その手を引き剥がした。

 

……これで、残っているのは、なのは一人となった。

 

「秀人さん!!」

 秀人はしばらく、その顔をじいっと見つめ……

「………………………………ああ、なのはか」

 ……今しがた思い出したかのように、その名を呼んだ。

「邪魔をしないでくれ」

「っ、するよ! 秀人さんが変なことしたら、止めるに決まってる!!」

「…………俺一人でやる。助力は必要無い。離せ」

「いやだ! ぜったい離さない!!」

「……………………聞き分けてくれ」

 …………何故か、なのはのことは、強引に引き剥がそうとしない。正気を失って尚……その存在が、大きな割合を占めているのか。

『秀人、戻りなさい! 極め付けにバカな真似をして……!! こんなこと、誰も望んでいません!!』

 だが、さすがに転送が高高度に達するにつれて、レイジングハートにも焦りが見え隠れしてきた。

『この馬鹿!! いいから、戻れと言っています! それとも、このまま強引についていって、心中してやりましょうか!?』

 脅迫じみたレイジングハートの要請に、秀人が振り返る。

「…………それは嫌だ。でも、これは、俺一人がやらないと…………」

「! なんでそう、何でもかんでも一人でやろうとするかな! とにかく、ぜったい離さないんだから!!」

「なのは、…………………………止むを得ないか」

 いよいよ、高度は生身では危険域。

 秀人はここにきて、なのはを引き剥がしに掛かった。

 魔力補助無しでの腕力では、どうあがいても、秀人には抵抗できない。

「あぅっ……!」

「さぁ、戻るんだ。地上に着地できるだけの魔力は、残しておいた」

 再び天を見る。だが、右手に違和感を感じ、再び振り向く。

「…………」

 そこには……レイジングハートを下げるチェーンを、秀人の右手に括り付け、必死に抵抗するなのはの姿が。

「…………」

「嫌だ……嫌だよ……!! どうして……!? どうして、私を置いていこうとするの……? 秀人さんは、…………秀人さんだけは、私の傍にいてくれるって、一人にはしないって、言ってたのに!」

 

 途端……秀人の瞳に、僅かな正気が戻る。だが、そこは既に、成層圏の間近で……

「…………っ!!」

 

 

――――――…………ぶちんっ。

 

 

 …………銀の鎖が、千切られた。呆気なく……分かたれた。

 

 ほかの誰でもない……秀人の手で。

「………………………………………………………………、なんで、」

 

 落ちてゆく中……なのはは、音さえ届かなくなった距離で、一人呟いた。

 そのさなか……僅かに覗けた秀人の口元が、こう動いているように見えた。

 

――――さよなら

 

 ……………………………………と。

「………………」

 ……………………高度を上げる秀人と、落ち行くなのは。

 絶望的なまでの距離が、二人を隔て………………………………

 

――――!!!

 

 なのはは、声にならない叫びをあげることしか、できなかった。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 ベツレヘムの星を発動させた、闇の書。

 敵の切り札……巨大な主砲は、既に潰した。

『我ガ永遠ハ、崩レタ…………オノレ……クチオシヤ……!!』

 今となっては、この術式で、この世界一つを道連れにすることが、闇の書の思惑だった。

 

『滅ビヨ……全テヲ、トコシエノ闇ニ……!!』

 

 アースラの破片までをも、吸収し始めたその時……

 

「………………」

 

 ……何食わぬ顔で、秀人が、宇宙空間に現れた。

『オオ、オオオオオ……!!! マダ、邪魔ヲスルカ……!!』

 

「…………コンプレッション」

 

 すっと手をかざすと、闇の書と、秀人を中心に……巨大な魔力リングが、展開した。

 その輪は、二人を……いや、二人の間の空間を、内側へ収縮させていく!

『グ……ゴガァアアアアア!!』

 不完全な術式が、どう作用したのか……精神体は、己自身をも、内部へと崩壊させていく。

リングの中……完全に外界と遮断された中で、とうとう……

 

――――ドグンッ……!!

 

 …………ベツレヘムの星が、産まれる。

 ゆっくりと、時空を歪めながら回転するのは、闇よりもなお昏き孔。

 ……ソレは確かに、発生したのだが……

『……ダガ、貴様ハ助カラヌ! アワレダナァ、ハハハハハ、ハーッハッハッハ!!!』

 ……そう。それは、短時間で蒸発する程度の規模のものだったが…………至近距離にいる秀人に、逃れる術は無い。

 

『先ニ地獄デ、待ッテイルゾォオオオオオオ………………………………………………………………………………………………

 

 …………それが、千年もの間、呪いと憎悪を振りまいてきた、闇の書の最後だった。

 そして、残されたのは、秀人と…………ベツレヘムの星。

 重力により、ずるずると、孔へ引っ張り込まれていく。

 ……脱出も、抵抗も、叶わない。それなのに、秀人は…………

 

「ああ、一緒に滅びようぜ…………!」

 

 あの、空虚な笑いを零しながら、すすんで自ら、孔へと身を投じていく。

「ははははは……はっはっはっはっは……!!」

 ずぶずぶと、腕が、足が、胴体が…………内部に、吸い込まれていく。

 

「やっと……………………これで、やっと……!! あはははは……あーっはっはっはっは!!!」

 

 

 ………………秀人は、狂気の笑みのまま、『ベツレヘムの星』へと、吸い込まれ……この世から、消失した。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

ぶううん……と、計器の動く音だけが、アースラの内部に、空しくこだましていた。

 

「吾妻秀人……………………バイタル反応……消失……」

 

 観測班が、振り絞るように告げて……ぽつりぽつりと、報告が上がってきた。

「……敵魔力反応も、宙域から消滅しました…………」

「地上、敵性因子なし………………艦長、」

 

 リンディは…………生ける屍のように、シートに身を投げ出し、放心していた。

「……秀人、くん……………………」

 認めたくないのに。自らの賢しらな部分が、その事実を、肯定してしまう。

 

――動かなくては。自分は、艦長で、提督なのだから。

 

 その思いだけで……どうにか、呼吸をし、声帯を震わせた。

「………………状況、イエローへ移行…………引き続き、警戒態勢を維持……………………現地の執務官および、魔導師の、収容、を……!!」

 じわりと滲んだ視界。

 もう、堪えるだけの気力は、残っていなかった。

 

『……小僧……!! く、……!! オレは、また…………!!』

 モニターの向こうで、レジアスも、同じように俯き……肩を震わせていた。

 …………ブリッジのあちこちから、すすり泣く声が、連鎖した。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

――――――闇の書事件。

 

第何次かも記録に定かではない、特定封印指定・S級危険遺失物『闇の書』による、大規模災害事件。

 最も新しく…………そして、最後の闇の書事件となった本件についての詳細なレポートは、一部の高官にのみ閲覧が許され……現地へ赴いた局員らによって、堅く秘められることとなった。

 

 ――――管理外世界・民間被害者(死者・負傷者・行方不明者)20人

 

これまでの闇の書事件の中では、最も少ない被害状況。事件を担当した局員たちは、誇ってもいいくらいだ。

 だが…………その後の、たった一言が……それを、させようとはしなかった。

 

 

――――――嘱託魔導師1名・・・MIA《任務中失踪》

 

 

 …………その一文が、この事件の締めくくりとなっていた。

 

 

 

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