魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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StrikerS編 第二話

 

「…………はぁ」

 物憂げな雰囲気で、事務机に頬杖を突く、老齢の女性局員。

 彼女こそ、この訓練校の校長である、ファーン・コラード。

(クイント。あなたの娘は、あなた以上のジャジャ馬だわ……)

 かつての教え子に思いを馳せると共に、その扱いに、頭を悩ませていた。

 順当に行けば……最悪、放校処分で済ませることができる。

 だが、果たしてそれでいいのか?

 道を踏み外しかけているとはいえ、あの三人は、努力家で、ひたむきな若者だ。

 それを、ただ摘み取るだけで、本当にいいのだろうか?

 席を立ち、窓の外を……その先にある、宿舎を俯瞰する。

 

「…………甘いわね、わたしも」

 

 たとえ、教え子であろうと、子供であろうと……罪を償うのは当然の責務だ。

 いや、むしろ……子供だからこそ、厳正に、取り返しのつかない再犯をしないよう、徹底的に制裁を加えるべきなのだ。

 そして、それは、年長者であり、この訓練校の最高責任者である、自らの役割なのだ。

 断腸の思いで、気を引き締め…………振り返り。

 

「――――――」

 

 息を呑んだ。

 先ほど、自信が空けた席に……一人の女性が、我が物顔で腰掛けていたのだ。

 扉も、窓も、開いた気配は無かった。

「――――驚かせないで頂戴」

 少し、咎めるような口調になってしまった。

 だが、突然の闖入者は、気にしたような様子は無い。

「――はっ、そっちが勝手に驚いたんだろ」

 若い……いや、幼ささえ感じる、少女の声。

「婆ちゃん、久しぶり」

 ……ファーンを、このように呼ぶ輩は、一人しかいない。

(じゃじゃ馬が、もう一人……)

「……お茶でも、淹れようかしらね」

「あー、いい、いいよ。手短に済ませよう。年寄りの話は長いからな」

 ひらひらと、面倒くさそうに手を振る。

 

「スバル・ナカジマと、ティアナ・ランスター……それに、セリカ・クラウンの三名を、テストしたい」

 

「――」

 これには、言葉を失った。

「……テスト、とは?」

 少女は、にっと不敵に笑う。

「そのまんまの意味だよ。私の部隊の、入隊試験だ」

 私の部隊……と、この少女は言った。

 この若さで、自らの部隊を擁している、ということなのだろうか。

「あなたの、部隊……? いやまぁ、指揮官希望のあなたのことだから、わからなくもないけれど……あの子達はまだ、訓練課程さえ修了していないわ」

 むしろ、その訓練課程にさえ、残れるかどうかも怪しいところだ。

「いいんだよ。いや、むしろ…………そうでなくちゃ、いけないんだ」

「――? あなた、何をしようとしているの?」

 繰り返される不可解な返答に、ファーンはすっかり、困惑しきっていた。

「私の部隊、それは――――――――――」

 

――――

 

 真意を告げられたファーンは、最初、呆気にとられ…………程無くして、呆れたように、笑い出した。

「そう……それが、あなたの目指す部隊なのね」

 少女は、自慢げに腕を組んでいる。

「いいわ。そのように話を進めます」

「さんきゅ、婆ちゃん」

「入隊試験を受けさせるにあたってく部隊名が必要なのだけれど……」

 少女は、得意げな顔で、すらすらと……その名を、告げた。

「時空管理局・特殊案件処理専門・独立権限保有――――

 

 

 

――――――機動六課

 

 

 

 ……と。

「……そう」

 ファーンは、その呼び名に、何か感じるものでもあったのだろう。

 特に疑問を呈するわけでもなく、承諾した。

「……………………じゃ、行くわ。いろいろ、準備もあるからな」

 

――かつんっ……

 

「よいしょ、っと……」

 少女は、机に立てかけていた杖を手に、椅子から身を起こす。

 杖は随分と、使い込んである印象を受ける。

 

「じゃーね、婆ちゃん」

 

 ファーンの返答も待たずに、少女はまた、瞬きの瞬間に、部屋から消えた。

 残されたファーンは、ようやく椅子に座りなおし……また一つ、ため息をついた。

 

 

「――――――凶鳥が墜ちて、もうそんなに経つのね」

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

――ひそひそ

 

 廊下から聞こえる誰かの小声が、全て私たちを馬鹿にしているように聞こえた。

 隣にティアがいなかったら、見当違いに怒り散らしていたかもしれない。

 

 あの後。

 逮捕された後、三日間の営倉入りを命じられ、出てきたのが一昨日。

 たったの数日で、私たちへ向けられる視線には、はっきりと侮蔑が混ざるようになっていた。

これまでも、年の差で侮られることも、上位の成績を取るたび、聞こえよがしに陰口が聞こえることもあったけど、……今回のコレは、避けようの無い物だ。

 

 訓練への参加も、自主練習も禁じられ、ただ、自室での待機……言い換えれば、謹慎を言い渡されていた。

 

 詳しい処分は決定されていないけど……多分、良くても放校処分だろう。残る猶予期間を終えれば、身柄は司法局か、もしくは親族に引き渡される。

 親族…………姉さん。

 前回の騒動のときは、シャッハさんがあれこれ手を焼いてくれた。でも、今回は……

 その先のことを考えると、配給された食事も、のどを通らない。

「…………くそっ」

 パンをもしゃもしゃと齧りながら、ティアが悪態をつく。

「ボルボ……じゃなくって、ヴァイスの野郎……」

 ティアの恨みの矛先は、潜入捜査官のボルボ……じゃなくて、ヴァイスに向かっているようだった。公安の捜査官だなんて、考えもしなかった。

……セリカ、どうしてるかな。

 私は、ティアと一緒だから、こうして互いに愚痴を言い合うくらいなら出来るけど……

 変な具合に吹っ切れちゃったとはいえ、流石に、今回の件は、応えているはずだ。

 セリカだけじゃない。

 あの日、一緒に逮捕された、シエラ、シズル、ヴォクシィ……馴染みの皆も。

「…………」

 ただ、ぎゅっと身体を丸めて、不安から逃げるように、眠ることにした。

 

 

――答えの出ないまま、一週間が過ぎた頃。突然、私達は学長に呼び出され、謹慎が解除された。

 

私たち三人は、学長室の前で、待機していた。

しばらくぶりに見るセリカは、変に落ち込んでいるようなことも無く、意外とケロッとしていた。

「セリカ、大丈夫なの……?」

「何がですの?」

「いやその……セリカの、実家から、何か……」

 もしかして、本当の本当に、なんでもなかったり……?

「まぁ、軽―く……」

 ほっ。軽くで済んだんだ…………

 

「相続権やら家名やら、その他もろもろは剥奪されましたが」

 

 軽くないよ、それ!?

「どうすんの!?」

「…………」

 セリカ……?

「…………わ、」

……わ?

 

「――わたくしが聞きたいですわよぉおおおおおおおおおおおおおお………………!!」

 

 全ッ然ダメだったーーーーー!!?

「お父様もお母様もなんか冷たいですし、ルームメイトには腫れ物というか、珍獣でも見ているかのように扱われますし……まぁそれは今更ですが」

「今更なんだ!?」

 ぐずぐずと半ベソで、愚痴り始めた。

「スバルさんとティアナさんだけ、一緒のお部屋でズルいですし!」

 うっ…………

「仕方ないでしょ……そういう部屋割りなんだから」

 ティアが、呆れ顔で冷たく言い放った。

「一人で寂しかったんですのよー!」

 …………私も、ティアが一緒じゃなければ、嫌になってただろうし……セリカには、何だか、申し訳なく…………

 

「それに何より、もう二週間も単車に乗ってないんですのよぉおおおおおお!?」

 

「 「 全然懲りてないだろぉおおおおおお!!? 」 」

 

 ……と、廊下で暴れていたのが、扉越しに聞こえてしまったのか、扉があき、ダッジ教官が、顔をのぞかせた。

「 「 「 !! 」 」 」

 反射的に、ビシッと姿勢を正す。

「何を騒いでいるか。……入れ」

 恐る恐る、……初めて入る学長室に、足を踏み入れる。

 その部屋の主……ファーン学長が、私たちに視線を向けた。

「学長の、ファーン・コラードです。前置きは不要ですね。あなたがたの処分についてです」

 式典の際に見せる柔和な笑みは無く、鋭く冷たい声が、私たちを叩く。

「仮にも管理局員を志す者が、あのような違法・無法の蔓延る場に、遊び目的で足を運ぶなど言語道断。これを重いものとして受け止め……

 

――あなた方三名には、放校処分を言い渡します」

 

「「「……」」」

 ……妥当な、いや、むしろ、温情ともいえる処分だ。でも……それでも、わかっていたとはいえ、堪える。

「…………」

 真っ先に、ティアが踵を返した。もう用はない、と言わんばかりに。

「話は最後まで聞きなさい」

 学長が、それを呼び止めた。

「……放校処分に当たり、あなた方の受け入れ先を用意しました」

「「「受け入れ先……?」」」

 変な話になってきた。そもそも、訓練課程すら修了していない半人前を、どこが受け入れるのだろう。

「受け入れ先からは、あなた方をテストすると言われています。日時は一週間後。詳しい内容は、データで送信しておきますので見るように。それまで、訓練場は自由に使いなさい」

 えっ、えっ……? 

なんか、すごい勢いで話が進んでる。まだ、何も言ってないのに……ティアも同じようで、目に敵意がちらついてきた。

 それが爆発するより先に、学長が、ぴしゃりと反論を遮った。

 

「――これは処分です。拒否権はありません」

 

 そうして私たちは、否応無く……

うさんくさい新設部隊――――機動六課への入隊試験を、受けることになった。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

一週間という期限付きで、セリカも含めた三人部屋と化した私たちの部屋。

 夜。その自室で、渡された資料を読みふける。

「廃棄都市区画での、実戦形式による総合技能判断――だって」

「要は、この間の魔導師ランクの認定試験でしょ」

「ですが、それ以外の内容は明記されていませんわね」

 うーん…………

「どう見ても、私たち三人を対象にした条件の試験じゃない。どうせ、難易度もカリカリに厳しく設定してるわ。……学長のやつら、受け入れ先とか言っておきながら、ここで落とす気なのよ」

 そう、なのかも。『救済措置は取りました』っていう、言い訳のつもりなのかもしれない。

 でも…………いや。むしろ。それなら。

「――で、どうしますの?」

 セリカが、解答の分かりきった質問をする。

 ティアは、すっくと立ち上がり、宣誓した。

 

「――正面突破よ。ぐうの音も出ない、完璧な結果をたたき出してやる!」

 

 セリカも、満足げに頷き、同じく立ち上がった。

「それでこそ、ティアナさんですわ」

 私も、立ち上がる。

「学長に、一泡吹かせてやろう!」

 おー! 

と、勢いづいたところで、再び座って早速作戦会議だ。

「各々の装備などの確認をしたいと思いますわ。ではまず、わたくしから」

 セリカが床に広げたのは、支給品の汎用デバイスと、オペレート用のインカム類。

「私は、これ」

 ティアは、例の集会でゲットした多機能銃。ワイヤーアンカーや、カートリッジシステム搭載の銃型ストレージデバイス。……ここだけの話、実包を装填することも出来る、『デバイス』とは名ばかりオマケの、違法ギリギリの実銃である。これには更に、ティア自身の魔法……幻術が加わる。ヴァイスさんにも、そのことだけは自供しなかったと言うから、向こうの意表を突けるはずだ。

 

 それで、私は……リボルバーナックルと、ローラーシューズ。まぁ、他も使えなくは無いんだけど……この一年で、あれこれ試してみたところ、やっぱり私は、コレのみで運用した方が向いているらしかった。

「……今更だけど、変な構造よね、それ」

 ティアが、ぼそっと言った。

「明らかに近接戦闘用……ベルカ式デバイスなのに、中身はミッド式とのハイブリッドって」

「んー……まぁ、もう5年近く前の物だからね」

 このナックルは、かつて母さんが使っていたデバイスだ。

 丁度、『近代ベルカ式』という概念が、爆発的に普及し始めてきた頃。

 ミッド式で運用していたこのナックルにも、試験的にそのシステムの一部が組み込まれていた。

 

――不思議なことに、最初期の近代ベルカ式デバイスには、腕部武装が多い。

 

流石に、現行の最新鋭機と比べると、ソフトウェアは多少遅れてるけど……とにかく頑健で、鉄塊を殴り壊してもびくともしないハードウェア、武装としての性能を重視している私にとっては、さほど気にならない。

「スバル。『アレ』は、どうなの?」

 思考に被せるように、ティアが聞いてきた。

『アレ』とは、私の、生まれつきの技能……………………ではなく。

「うん。あとは、実際に運用してみるだけ」

 その一部を流用した、私の新魔法だ。

 私なりに、知恵を絞って、構想を練って、ティアやセリカに意見を求めてみたところ…………私の思いつきにしては珍しいことに、好感触だった。

「――決まりね」

 ぱんっ、と、膝を叩く。

「この一週間、スバルの新魔法を軸にしたコンビネーションを、徹底的に訓練するわよ」

 よし、そうと決まったら、早速訓練だ! 今日から、訓練場は遣い放題なんだから!

 

――一週間は、あっという間に過ぎて。

 

――そして、試験当日の早朝。

 

「ティーアー!!」「ティアナさぁんっ!!」

 

――だと、いうのに!

 

「起―き―ろー!!」

「起きてくださいませー!!」

 ティアが、よりにもよって朝寝坊した!

「うるさいぃ…………すぴー……」

 しかもまだ寝ようとしてるし!

「本番だよ、本番! 早く起きてってば!」

「あなたが寝ていてどうするんですの!」

 ああもうだめだこりゃ。揺すっても叩いても起きる気が無い。

 こうなったら…………必殺奥義を使わざるを得ない!

「セリカ、そっち持って!」「ええ、了解ですわ!」

 二人で、ティアの手足を持って持ち上げる。えっほ、えっほと運んだ先は、シャワー室。

「ぐー……ぐー……」

 タイルの上に寝かされても、まだ起きる気の見えないティア。よーし……覚悟しろ。

「……」

 シャワーヘッドをティアの背中に入れ……きゅっ、きゅっ、と、冷水の蛇口を…………

 …………

 ……

 

――――――……ひぁぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

 

 

 …………朝の寮に、怪鳥の如き悲鳴が鳴り渡った。

 

 

 セリカと二人で、ずんずん先行するティアを追いかける。

「ううう、頭痛い……」

「試験の前にヒットポイントを消費させないで下さいませ……」

 二人して、ティアの拳骨を喰らっていた。

 制服姿で、正門の前に着くと、そこには既に、学長と、教官……それに、見知らぬ女の人が待っていた。待機している車両から降り立ってきたのは、陸士部隊の制服。階級は……曹長。私たちが並び終わるのを待って、曹長は敬礼をした。

「――リーゼ・アインス陸曹長です。あなた方の試験を監督する任を受けております」

 この人が、監督官か。私たちも敬礼をして、車両に乗り込む。

「うっ……」

今気付いたけど、この車、私たちが逮捕されたときに乗せられたやつだ……

 わざとか? わざとなのか? ティアもセリカも、嫌っそーな顔をしている。

 

 一時間ほど走り、窓から覗ける風景は、朽ちかけたビルが並ぶものに変わっていた。

 車が止まり、出ることを促される。

「…………」

 試験場である、廃棄都市区画に到着した。各々、準備を整える。

 私はナックルとシューズを装着し、ティアはホルスターを巻き、セリカはインカム類を私たちに配る。

「『あー、あー。スバルさん、ティアナさん、聞こえますか?』」

 インカムからは、セリカの声がバッチリ届いた。うん……異常なしだ。

 

「ではここで、試験内容を明示します」

 展開されたディスプレイには、たった一枚の地図と座標だけが、ぽつんと表示されていた。

「どのようなルートを通っても構いません。指定のチェックポイントを通過し、三人が指定の座標に、時間内に到達するように。ただし、このマップの範囲より外には出れば、即失格となります」

 …………それだけ? 何か、えらくあっさりした条件だなぁ……

 隣を見ると、ティアもセリカも、どこか拍子抜けしたような顔で……

 

「――――甘く見ていると、大怪我をしますよ」

 

「――!!」

 それを見透かしたように、リーゼ曹長が釘を刺してきた。

 いけない、いけない……つい、気を抜くところだった。

「――では」

 そして、リーゼ曹長はその場をあとにした。残された私たち三人は、開始時刻まで、機材のチェックと、準備運動。20分ほどが、過ぎて…………

 

『では、試験を開始します』

 

 スタート位置に、着いた。

 開始時刻まで、10秒を切る。一秒一秒、カウントが刻まれるたびに、心臓の鼓動が早くなる。そして、異様に長く感じた10秒は、ようやく終わり――――

 

「――GO!!」

 

 ティアの合図とともに、駆け出した!!

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

『…………』

 試験場の上空。一機のヘリコプターが滞空し、地上を睥睨していた。

 プロペラという前時代的な装置でありながら、恐ろしいまでに静穏だ。

 その、内部。観光用ではないためか、荷室の窓は、必要最低限どころか、申し訳程度の覗き窓すら無い。時刻は日中だというのに、内部はほぼ、暗闇だった。

『…………始まりましたね』

 その薄暗い荷室の、僅かな光源……薄青色のディスプレイを覗き込む、一つの瞳。

 浮かぶ面貌は、女性……いや、少女のものだった。

『…………ふぅ』

 吐息と共に吐き出される紫煙が、荷室に独特の臭気を充満させていた。

 行儀悪く、ミリタリーパンツの足を組み、背もたれにどっかりと身体を預ける。

『……まったくあの子は、どういうつもりでしょうね』

 奇妙な声質ではあるものの、静かで、平坦な口調。しかし、そこにははっきりと、不満が込められていた。どうにも、この場にいるのは本意ではないようだ。時折、右腕が慣れない動きでホログラフキーを叩き、場面を替える以外は、ただぷかぷかと、紫煙を燻らせている。

 そして、一本目を消費し終え、二本目に右腕が伸びたその時、操縦席と荷室との間に、小窓が開く。

「――おい、火気厳禁だっつっただろ」

 低い、男性の声だ。恐らく、彼がこのヘリの操縦者だろう。

「つーか、臭ぇ。何だソレ、タバコじゃねぇだろ」

 文句が多いが、要は、煙草を吸うな、と言いたいらしい。だが少女は、何食わぬ態度で二本目を咥え、銀色のライターで着火した。

「あのなぁ……」

 男性の声に、苛立ちが見える。

『嫌なら換気をすればいいでしょう。こう、後ろの搬入口をがばーっと開けてですね……』

 行儀悪く、口のはすに煙草を咥えたまま、右の親指で、後ろをチョイチョイと示す。

「できるわきゃねーだろ!」

 とぼけた提案をする少女に、操縦者の怒りが軽く爆発した。

『なんですかもう…………』

 少女は、ぶちぶち言いながらも、煙草の先端を靴底で潰し、ケースに仕舞った。

「ケチくさ……」

『ほっといてください』

 いよいよやることが無くなったのか、少女はつまらなさそうに、ディスプレイに目をやった。途中で、操縦席との連絡口が、まだ開いたままだと気付く。

『……もう吸いませんよ』

 若干、ふて腐れた口調でそう言う少女に、操縦者は言った。

「そうじゃなくてよ…………あいつらのこと、キッチリ見てやっててくれよ」

 どうやら、三人に思い入れのようなものがあるようだ。

『見ていますよ。まだ、見るべき点が何も無い、ということが、分かる程度には』

 退屈そうに見えて、姿をしっかりとカメラで追っているのがその証拠か。

「まだ教育課程も修了してないド新人だぞ? もっと寛大にだなぁ」

『あ、接触しそうですね』

「何ッ!?」

 

――かくんっ

 

『ぬわー』

「うぉ、やっべ!」

 ……振り向き様に操縦桿に引っかかり、ヘリが傾いた。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 ――おかしい。

 

 開始から十分ほどで、私は、この不可解な状況に気がついた。

 念のため、二人の様子も伺ってみたけど、同じように感じているようだった。

 以前の陸戦C+ランクの試験では、もっとたくさんの敵性ガジェットがいて、しかもティアの魔法が通らないわ、私の打撃が弾かれるわ、大苦戦したものだった。しかも土壇場でティアが足を捻挫するわ諦めかけるわ、今思えば何で合格したのかさっぱり分からん代物だったけど……

 

――今回は、そう。

 

(……さっきから、全く敵と遭遇してない)

 敵性ガジェットも、マーカーも何も無い。もう、三分の一の地点にまで来てしまった。

『間もなくチェックポイントです』

 セリカが、インカム越しに静止を伝えてきた。

『スバルさん、先行してください』

『了解!』

 どうせ、この区画は今回の試験のために借り切っているんだろうし、一般人がいるわけないよね。よーっし……

 

――ぎゅうんっ

 

 シューズにエネルギーを充填し、身をぐぐっと撓ませる。そして、一気に!

 

――どぎゅんっ!

 

 テイクオフ!!

 

「ぅおおおおおおおおおお――」

 勢いのまま、ナックルを振り上げ……目の前の壁を!

「――ッりゃあああああああああああああああッ!!! 」

 

 

――――ドゴォンッ!!

 

 

 一気に、ブチ抜いた!!

「!! っしゃ!」

 どこに…………「っ!?」

 目の前に広がる光景に、勢い付いていた身体が、思いっきり固まった。

 

 こちらを、ぽかんと口を開いて凝視する……なんというか、どっかで見たことのある、反社会的な空気の中、(たぶん)反社会的なモノを取引する、反社会的なオーラを纏った方々が……

 

「……………………………………お取り込み中でしたでしょうか」

 

 …………私は何を言っているんだろう。

「……! 管理局か!」「殺れ!」

 手にした物騒なものをこちらに向ける! よくわかんないけど、正当防衛成立!

「うりゃあぁぁっ!」

 

――――――…………

 

 

 ……中にいた三人は、鎮圧した。

ティアとセリカも、遅れて到着して、この事態に唖然としていた。

「…………駄目ですわ。外部への連絡が通じません」

 監督官のリーゼ曹長へ報告しようとしたけど、繋がらない。

「どうする……?」

 明らかに異常事態だ。一旦もとの場所に戻った方が……

「……今更、試験を放り投げるわけにもいかないでしょうが」

 ティアは、そう言いながらも迷っているみたいだ。

 

――――ピッ

 

「!」

 不穏な電子音に振り向く。さっき捕縛しておいた連中の一人が、リモコンのようなものを、後ろ手に隠して操作していた!

「っ……てめ!」

 ティアが、男の顎を蹴り上げ、昏倒させる。

「――! 反応多数! こちらに向かってきていますわ!」

 まずい……!

「外に出るわよ! 建物の中にいたんじゃ、袋のネズミよ!」

「うんっ!!」

 取引されていたケースをセリカに任せ、一斉に走り出る。

「! スバルさんの前方30メートル! 接敵します!」

 

――――ピピッ

 

 曲がり角から現れたのは、楕円形の筐体にカメラアイ、細いマニピュレーターを備えた、自動機械のような物体だった。前回の試験の時のものとは、形も……感じる物々しさも、段違いだ!

 カメラアイが私をフォーカスし、きゅうっ、と窄まって……

 

――ビシュッ!!

 

 光弾を発射した!

「くっ……!」

 回避して、筐体をブッ叩く……つもりが、

(速い!)

 空振った!

「スバルッ!」

 

――バコンッ!

 

 ティアの援護射撃が、自動機械の側面を叩いた。

 

――ジジ…………キュイインッ

 

 凹みはしたけど、動作に影響は出ていない!

「こっの……!」

 でも、動きは一瞬だけ止まった! マニピュレーターを掴んで、振り回す!

「だりゃああっ!!」

 

――ガシャンッ!!

 

 他の一機と衝突させたことで、ようやく動きが……

「右方50メートルから5、左方40メートルから4! まだ来ますわ!」

「……!! 走れ!」

 聞くまでも無い!!

 

「ねぇ、セリカ! ティア!」

「あ!? 何よ!? 今喋ってる余裕なんて……」

「これ、本当に偶然かな!?」

 ちゅいいいい、と、機械音が重なり、迫ってくる!

「試験のチェックポイントに、たまたま都合よく、そういう現場があるのって、本当に、ただの偶然かな!?」

 

――ガンッ!!

 

 放置自動車を突き破って、一体出現! ブン殴る!!

「――ぶつけて、現場を押さえられればよし。もし失敗しても、――――体のいい、厄介払いになるということですの……!?」

 セリカが、握りつぶさんばかりに、機器を握り締める。

 

「~~ッ!! あンの……クソババァあああああああああああああ!!」

 

 怒りと共に発射された射撃が、一体を蹴散らした。

 とにかく今は、ゴール地点まで行くしかない!

 ここまでコケにされて、黙ってられるか!

「でぁあああああっ!!」

 

――バガンッ!!

 

 蹴り壊す!

「装甲の強度は、スバルさんの打撃なら抜けて、ティアナさんの射撃ではギリギリ通りませんのね。…………ティアナさん、スバルさんの援護に徹してください! 必要最小限、敵の体勢を崩すだけの威力で!」

「う、…………ぐ、が…………うがーーーー!! 分かったわよチクショー!!」

 セリカの指示に従うという決定がある。それをその場の感情で無視するほど、ティアは馬鹿じゃない。

「次の路地、路面状況が最悪です! 迂回!」

「了解!」

 次の路地へ、頭を出し、

「屈めバカ!」「――!」

 ヘッドスライディングをするように変更!!

 

――ジッ……!!

 

 私の頭の通過していたであろう位置を、光弾が突き抜けていった。

 第二射がチャージされると同時、ティアの射撃が敵の砲口へ命中!

 

――バヂィッ……!!

 

 動きが止まる! 今だ! 立ち上がり様に、アッパー!!

 

――ゴシャッ!

 

 もうそろそろ、減ってきてもいいと思うんだけど!?

 次の一体へ、攻撃……!

 

――すかっ

 

「ぅわっ!?」

 直撃コースだったのに……!

「減ってきてはいますが……こちらの動きを、徐々に学習しているようです!」

 

――その、セリカの分析どおり……少なくなるに連れて、撃破数も頭打ちになってきた。

 

「はぁっ……はぁっ……!!」

 しばらくは、この一年の訓練の成果を組み合わせて、相手のパターンに無い動きで、突破することが出来た。でも……全行程の三分の二にまで来たとき。

「…………セリカ! 次、どうするっ!?」

「……陣形4も、5も、使ってしまいましたわ……!」

 私たちの隊列を替えるのも、通じたのは始めの数回。

そもそも、セリカとティアの攻撃じゃ、敵の防御を抜けないのだから……結局、私がマークされてしまえば、それまでだった。

「くぁっ……!」

「ティアっ!?」

 ティアの撃った弾丸が、敵を外れ、見当違いの方へ飛んでいった!

「でやぁっ!」

 飛び掛り、殴りつける!

(駄目だっ! 浅い!)

 表面を抉っただけだ!

 

――バジュッ!!

 

「きゃあっ!!」

「……っだぁああああっ!!」

 一機、撃破!

「セリカ!!」

「へ、平気です……くっ!!」

 セリカが、足を押さえて蹲る。隙間から、どろっと、血が流れ出た。

 

――ちゅいいいいん。

 

――かしゃっ。かしゃんっ。

 

 応急手当をしなきゃいけないけど……敵だ。これは、訓練じゃない。負傷したセリカだけを狙わない理由は無いし、ギブアップも出来ない。

「……スバル、セリカをこっちに」

 ティアに促されるまま、近くの廃ビルに逃げ込んだ。

 

「い、いたた、いたたたた……!!」

「我慢しなさい」

 セリカの足に当て木をして、包帯を巻く。

「……すみません」

「……何で謝ってんのよ。外した私のミスでしょうが」

 それと、仕留めそこなった私の責任でもある。

「……スバル。セリカを背負いなさい。走るくらいはできるでしょ」

「あ、うん……」

 どこか、諦めを孕んだ声。

 それに、セリカが鼻をすする声が被さった。

「無理ですわよ…………だって、もう……このビル全体、敵に囲まれていますのよ……?」

 …………逃げ込んだ時点で、分かりきっていたことだった。

「…………くそっ!!」

 ティアが、壁を殴りつけた。

 

頼みの綱の新魔法は、使えなくもないけど…………機動力がこんな状態で使用すれば、むしろ、相手の狙いが付けやすくなるだけだ。相手にまだ見せていない行動パターンだとしても、この包囲網を突破するだけの力はもう…………

 

――積み、だろうか。

 

 このまま、ここで……ただ、敵に押しつぶされるのを、待つだけ。

「…………」

 

――――あの時のように。

 

「……………………………………………………――――嫌だ」

 

 ………………二人が、顔を上げる。

「…………諦めたくない。諦めるのは、もう嫌だ!」

 何かあるはずだ。何か、何か……!!

 

――――ずるっ

 

 ティアがもたれかかっていた壁。その壁に付着していた砂埃が、擦り取られる。

「――……あ」

「だったら、どうしろってのよ……!」

 半分、耳に入っていなかった。

 その、ティアの背後……砂埃の中から現れたのは…………

「――ティアッ!! それっ、後ろ!!」

「あァ……? これが、何よ…………………………ッ!! これ!?」

 私たちにも馴染み深い、企業のロゴマーク!

 

――カレドヴルフ・テクニクス

 

 ミッドチルダを代表する、魔導端末の製造会社。その商品は、武装、通信システム……そして、車両!

「……!」

 セリカが、手元の機器を操作する。

 この座標にあった、当時のビルを検索すれば……!!

「カレドヴルフ・テクニクス 動力研究部 第6分室。当時のデータが、僅かですがヒットしました!」

 三人で、映像を覗き込む。

 だいぶ古い映像データの中には…………確かに、四輪車や二輪車、三輪車の映像があった。

「でも、もうとっくに運び出されてるんじゃ……」

 研究成果なんて、真っ先に運び出されているに決まっている。

「いえ、当時のマニア筋の掲示板に。一台だけ、廃棄されたテスト車両がある、放置されているのを発見した、という書き込みが」

「…………探すわよ!」

 

 程なくして、そのテスト車両とやらは、あっけなく発見された。

「………………やはり」

「………………そういうことか」

 ひどく、落胆した二人。それもそのはず。その発見された車両は……フレームとタイヤ、それに、エンジンの一部分しか、残されていなかったのだ。誰かがパーツをもぎ取って行ったのか、それとも、機密部品はとっくに廃棄されてしまったのか。

 どちらにせよ、この車両は、このままでは決して動かない。

「……………………このままなら、ね」

 二人が、顔を上げる。

「…………諦めるのは、まだ早い!」

 ぽいぽい、とローラーシューズを脱ぎ捨てる。

 

「その辺の廃材、何でもいいから片っ端から持ってきて!」

 

 

 

 

 

――――ちきちき

 

――――ちゅいいん

 

――――きゅいいっ

 

 

 ……外では、大量の浮遊機械が突入の機会を伺っていた。さっとブラインドを下ろし、視線をかいくぐる。

「――準備は良い?」

 私の問いかけに、二人は頷く。

「…………映像だけじゃなくて、音声も再現するなんて初めてよ」

「いきなりでごめん。でも、ティアにしか出来ないことだから」

「…………うっさい」

 照れ隠しをして、術式の発動に入る。そして、…………

 

 

――――りゅいいいいいいいいいいいいいいいんっ!!

 

 

 ビルの外。

 セリカとティアを背負い、ローラーシューズの限界出力で飛び出していく、『私たち三人』の姿があった。

 

――きゅいいんっ!!

 

 当然、猛烈な勢いで追従する、浮遊機械たち。

まだだ。まだ、足りない。もっともっと、ひきつけてから……!!

 

――ばしゅっ!!

 

 光弾が『私たち三人』の姿を、次々に貫いた。

 

そして。

 

『私たち三人』の姿が、霞むように消える――!!

「――行っけぇ!!」

 ……アクセルを、開ける!!

 

――――がおおおおおおおおんっ!!!

 

 洗練されていないがさつなエンジン音と共に、私たちの秘密兵器が発進した!

 薄汚れたフレームに、腐りかけたタイヤ。錆びたシャフト。そして…………分解した、ローラーシューズの動力部!!

「んがっ……!」

 覚悟はしてたけど、すごい振動……!! 舌、噛みそう!

「60,70,,,100!!」

 

――――ぼごァあああああああああああっ!!

 

 浮遊機械たちが、振り向く! でも、もう遅い!

「スバルッ!」「スバルさんっ!」

 今が、その時だっ!!

 

「――ロード、カートリッジッ!!」

 

――ガキュンッ!! ガキュンッ!!

 

 開放した魔力を、術式に注ぎ込む。

 そうだ、決めた。この、術式の名前!!

 地を駆け、天へと駆け上る…………翼の道!!

 

「――――ウイング…ローーーーード!!」

 

 

――――ズバアアアアアアアアアアッ!!!

 

 

 空色の道が、まっすぐ、一直線に、空へと伸びる!!

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

――がちゃがしゃばたんっ!!

 

 …………ヘリコプターの荷室が、騒がしくなった。

『うそ、うそ、うそ……!』

 ……先ほどまで、面倒くさそうにモニターを傍観していた少女が、今や画面に顔を突っ込みかねない勢いで、映像を凝視していた。

「おいおいおい、何の騒ぎだ……?」

 操縦席から顔を出した操縦者のことなど視界に入らず、ただ狼狽した声を上げる。

『――あれは、あの魔法は、――!?』

 

――ビーッ

 

 と、操縦席で、ブザーが鳴った。

「……部隊長? はい、こちら試験現場…………あ、はいはい、了解ッス」

 そして、荷室の少女へ伝令する。

「敵戦力が、予想外に増大したそうです。三人の対処能力を超えるようだったら、あなたが始末するように、と」

 少女は、立ち上がり…………押さえ込むように、再び座りなおした。

『…………まだ、です。まだ、彼女らでも対処できます』

「そうッスね。それにしても、部隊長もひでぇ。訓練と称して、ド新人の半人前に、いきなり案件押し付けるとか……これ、どんくらいの案件ですか?」

『そうですね。通常でしたら…………Aランク魔導師二人、BランクからCランクを10人。小隊規模で制圧するレベルです』

「うっわ……」

 操縦者が引いた。

 

『……ですが、最後の課題を、彼女達はクリアできるでしょうかね……?』

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「ぅおっしゃー! 抜けたー!」

 秘密兵器は、私たち三人を乗せ、敵の頭上を越えた!

 シャフトは今にも折れそうで、ローラーブーツの動力は、異常な高温を発し続けているけど……とにかく、これでゴールまで一直線だ!

「残り、2km足らずですわ。この勢いなら、あと何分も掛からな、…………あら?」

 セリカが、怪訝な顔で遠くを見た。

「どうしたの?」

「今、あの影で何かが動いたような……?」

 ……望遠で、セリカが示した場所を見る。

「――――!!」

 いた!

 小さい子供が、敵の浮遊機械に囲まれてる!!

「ティア、ごめん!」「スバル、あっち!」「向こうですわ!」

 私たち三人は……全く同じタイミングでハンドルに手を添え、全く同じ方向…………試験範囲外へと、ハンドルを向けていた。

試験とか、なんとか…………そんなの全部、後回しだ! アクセルベタ踏み、いっそう激しく加速する!

 

――バギンッ!!

 

 シャフトが折れた! でも、勢いは止まらない!

「だりゃあああああっ!!」

 

――――ガッゴォオオオオンッ!!

 

 衝撃。そして一瞬、目の前が白くなり…………なんとか、セリカを腕の中に庇えたことを確認する。

(そうだ……さっきの子は!?)

 周囲を見回すが、それらしき姿は見えない。どうにか、逃げ出せたのだと思う。

「…………」

 のろのろと、身体を起こす。

 

――きゅいいっ

 

――きゅいいいっ

 

 …………囲まれちゃった。

「……万策尽きたわ。今度こそ、本当に」

 ティアが、妙にサッパリした声を上げる。

 

――――グキ、グキグキグキ……!!

 

 浮遊機械たちが、まるで有機物のように寄り集まっていく。

 円柱みたいだった浮遊機械たちは……一体の、巨人のような姿へと合体した。

「……でも、あの子は無事だったようですわね」

「……そうね。おかげで、試験がおじゃんだわ」

 セリカが手元に、残った魔力を集め、魔力スフィアを生成する。

「……もう、幻術使う魔力も無いか」

 ティアは魔力切れ。セリカは負傷している。…………

 

――――。じゃあ、仕方ないよね

 

「スバル、何を……!?」

 ティア……ごめんね。ちょっとだけ、下がってて。

 

「――――システムグリーン。……起動」

 

 機人モード、起動。

 …………どうにもならないかもしれない。どう見ても、こちらの不利は覆らない。

 もう、一発逆転のチャンスも使ってしまった。

……でも。

それでも。

 

「それでも…………!」

 

――ギャリッ、ギャリギャリギャリッ……!!

 

 決めたんだ。

誓ったんだ。

 もう、守られているだけの弱い私と、決別するんだって。

 自分の弱さを、誰かに押し付けたりはしないって。

 

――――強くなるんだ、って……!!

 

 

「――――…………決めたんだからぁああああああああああああーーーーッッ!!」

 

 

――――光弾が、雨のように降り注いだ。ナックルを盾にした。駆動部分が砕けた。

 

 諦めない。

 

――――巨腕が、唸りを上げた。全身で受け止め、振動波で弾き飛ばした。どこか折れた。

 

 屈しない。

 

――――マニピュレータで掴んだ廃車が、飛んできた。振動波で砕く。機能にエラー。

 

 絶対に、諦めない。

 

――――再び光弾。再びナックルを盾に。ナックルが大破した。

 

 何が何でも、屈しない!!

 

 

――――――――間合いに、入った!

 

 

「ぅおォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーッッ!!!」

 

 渾身の拳を、敵の胴体に突き入れた! 最後の振動波を、直接内部に叩き込む!!

「ぐぁあっ……あぐ、ぅうううううううううっ!!」

 反動が、身体を突き抜ける。システムはほぼオールレッド。無事な箇所なんて、殆ど残っていない。

 

――ギシ、ギシ……!

 

 敵の巨体が、抵抗し、巨腕を振り上げる。

「っ~~ッッ!!!」

 私が、その巨体を砕くのが先か。

 敵が、私を叩き潰すのが先か。

 

――――ガガガガガギガガガガッッ……!!

 

「―――――諦めるもんかぁあああああああああああああああああっ!!」

 

――ガ、ギッ……! …………………………。…………。……。

 

 振動波が……とうとう、途切れる。敵も、その動きを止める。

 永遠にも思える静寂。

 だがそれは…………敵の巨体から漏れ出る閃光によって、途切れた。

 

――――――ゴバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ――!!!!

 

 ……敵の合体は解除され……楕円の浮遊機械の破片へと、還元される。もう、動く気配は無い。

 やった……

(あ、れ……?)

 力が、抜ける……?

「スバル、……スバルッ! この馬鹿! ひとりで、なに無茶なことして……!!」

「スバルさんッ! スバルさぁあんっ!!」

 二人に、抱きとめられたのだと分かった。

(…………どうだ、見たか)

 わぁわぁと、泣き出した二人を、慰め…………

 

――――――――――――――ギ。

 

「――――!!!」

 今の、音は……!!

「よけてぇっ……!!」

 駄目だ……間に合わないっ……!!

 

――――ギ、…………………………………………バシュッ!!

 

 

 異様なスローモーションだった。発射された光弾に切り裂かれる空気の壁までもが、くっきりと認識できるほどの。動かない。もう、私の身体は反応できない。駄目だ。直撃する。駄目だ。駄目だ。駄目だ――――!!

 

 

 

 

『――――――――――――合格です』

 

 

 

 

 ――――――ガィインッ!!

 

 

 

 …………直後。煌いた銀光が、光弾を、その後ろの浮遊機械の残骸を、真っ二つに切り裂いた。

「あ、」

 激しい 既視感。

その、銀色の煌きは。その、軌跡しか追えないほどの、鋭い斬撃は……数年前に、見たのと同じ。

 

『……――。』

 

――かしん。

 

 彼女は、振り抜いた右手に握られた刃を、鞘に収める。

 ミリタリーパンツとコンバットブーツ。

 腰まである、栗色の髪の毛。

こちらへ振り向く、彼女。

 

3年分の年月を僅かに感じるが、当時の面影を残す、整った面貌。

 

――――その左目の一帯を覆い隠す、アイマスクのような眼帯。

 

 一つきりの瞳はしかし、私たちのことなど、これっぽっちも見ていなかった。

『おめでとうございます』

 どこか虚ろな、祝福の言葉。それは、不自然な電子音声…………

 

――首に巻かれた、人口声帯から、発せられていた。

 

「…………あなた、は……?」

『……ああ。名乗っていませんでしたね。では……』

 

 眼帯も、声帯も、…………ある一点に比べれば、些細な変化でしかなかった。その、極めつけの一点が、私の目を吸い寄せる。

 

『……時空管理局・特殊案件処理専門・独立権限保有『機動六課』所属嘱託魔導師――

 

 

――――――――高町なのは、です』

 

 

 

 

――――――――――空っぽの左袖が、ビル風を孕んで、ばたばたと揺れていた。

 

 

 

 

 

 

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