魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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StrikerS編 第五話

 

――――エリオ・モンディアル。享年7歳。

 

 それが、公的記録における、エリオのすべてだ。

 資産家であるモンディアル家の長男エリオ・モンディアルは、難病に冒され、短い生涯を終えた。だが、両親はそれを善しとせず、息子を蘇らせんと八方手を尽くし……そして、違法な体細胞クローン技術へと、手を出した。

 

――記録転写クローン。

 

 それは、故人の細胞内にあるミトコンドリアから、情報を抽出し、生成した肉体へと植えつけるというものだった。

 これで、愛する息子は、より完全な形で手元に戻ってくる…………と、『エリオ』の両親は、安堵に涙まで流した。

 

 そして……冷たい培養カプセルの中で、エリオは、『エリオ』の記憶を引き継ぎ、覚醒した。目の前には、狂喜する両親と、満足げな科学者たち。

 だが…………彼は、エリオという名の別人であり、両親の望んだ『エリオ・モンディアル』では、無かったのだ。

 記憶はある。目の前の男女が、自身の両親であるという記憶は。

 だがそれは、他人のホームビデオかアルバムでも見ているかのような、違和感でしかなかった。

 そして……理解した。

 この肉体の両親である目の前の男女は、決して、自身を望んだわけではないのだと。

 もし、彼が『エリオ・モンディアル』ではないと知れば、都合の悪い、後ろ暗い行為の結果である自分が、どうなるのかも。

 

 その日、生れ落ちたその瞬間……エリオは、自身の力を以って、外的の排除を行った。

 記録転写クローンの、不可思議なところだ。

 生前の人物に魔力資質が乏しくとも、何故か、再生されたクローン体には、高い魔力資質が備わっている場合が多い。

 とある偏狂な科学者は、こう唱えた。

『個人の魂と、クローン体の魂。二つ分の魂が、生前の魔力資質を増大させているのではないか』……と。

 詳しい原理は、彼自身にも分からない。だが、備わった力を使うことに、躊躇は無かった。

 

 研究所の発電施設は甚大な損傷を受け、暴走し、大爆発を引き起こした。

 駆けつけた管理局により、モンディアル夫妻並びに、違法研究を行ったと思しき科学者らは、全員が逮捕された。

 

 一人きりとなったエリオ。

 だが、公的には死亡している彼に、何の証明もあるはずは無く……生きていくためには、力を行使するしかなかった。

 略奪である。

 電子錠を容易く損壊できる上、直接的な戦闘にも秀でた彼の能力は、大いに役に立った。

 子供の姿に油断した追っ手を、容易く捻じ伏せることさえ、可能だった。

 そして、それ以外の生き方が、分からなくなってきた頃……彼の周囲には、彼の能力を利用するために、同じような生き方しか出来ない少年少女が集まってきていた。

 集団は、便利で、心地よかった。抜け出すことが、出来なくなるほど。

 

だが、彼の天下も、そう長くは続かなかった。

 

 ある日。これまでとは段違いの規模による掃討作戦。

 手下たちは次々に捕縛され、いよいよ、エリオは一人きりとなってしまった。

 追っ手は一人。執務官の女だった。

 結局は逃げられず、捕縛されることになったのだが……自分を戦利品のように小脇に抱えて、うきうきした足取りで副官に自慢しまくる女。

 犯人である自分にまで、馴れ馴れしく話しかけてきて……あけっぴろげに笑って。

 あまりにも、楽しそうに笑うものだから…………つい、自分まで、柄にも無く笑ってしまった。

 

 それは、『エリオ』の記憶の外では、エリオ自身は一度も感じていなかった……暖かな感情だった。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 衝撃的な大事件から、一週間ほどが過ぎた。

 半壊した宿舎も、ブロック工法を駆使することによってなんとか原型を取り戻し、大部屋に男女雑魚寝という悪夢から、ようやく解放されつつあった。

 さて、その元凶となった二人の子供たちについてだが、当然、局員の規定に従った罰則が……

 

「あァ? ガキの理屈でガキが喧嘩しただけだろうが。ガキのやったことは、保護者が責任を取るって相場が決まってんだよ」

 

……………………という部隊長の決定により、実は、無かったりする。

「だからって、なんでボクがー!?」

 …………法的後見人であるフェイトが責任を負い、作業着姿で隊舎の修繕へと駆り出されていた。おつむの中身はともかく、手先だけは妙に器用なフェイトは、大いに活躍した。

 

 そして。

 

 当事者同士はというと。

 

「エリオくん、エリオくん」

「…………あァ?」

 ちょこちょこと寄ってきたキャロを、冷たい態度で突き放す。

 和解したはずなのだが、エリオのキャロに対する態度は、いまいち改善されていない。

「あのね、よくかんがえたら、あの日以来、あんまりおはなしできてない」

「……ああ、だから?」

「あのね、あのね……」

 キャロは、小さな握りこぶしをぎゅっと握り、決死の(無)表情で、エリオを誘った。

「……ゆうごはん、いっしょにたべよ? そのときに、おはなしがしたいな」

 

「悪ィ。疲れてんだ」

 

 スタコラサッサと、隊舎へと駆けていってしまった。

「…………あぅー」

「きゃ、キャロ! ファイトだよ!」

「そうですわ! 返事が返ってくるようになったじゃありませんか!」

 がっくりと項垂れるキャロを、スバルたち女性陣が各々に励ました。

「ご飯食べにいこ? ね?」

 キャロは、項垂れたままぷるぷると左右に頭を振った。

「………………いい。フリードとたべる」

「きゅ……」

 フリードが、慰めるようにキャロの頭を翼で撫でていた。

「うーーん…………仲直り、できたように見えたんだけどなぁ……」

「おかしいですわねぇ……?」

 首をかしげるスバルとセリカ。

「…………はぁ。アホくさ」

だがティアナだけは、あきれた顔でため息をついていた。

 

 

「………………で、ここ数日はオレの部屋で寝泊りしてるわけ?」

 …………エリオは、元ルームメイト・コリンの部屋の中、疲労困憊でベッドに倒れ付していた。

「ケケケッ。モテる男は辛いねぇ?」

「るっせー……! 何なんだよ、あいつ……チョーシ狂うっての……!」

 割と年の離れた二人だが、互いに素で悪態を付き合う仲であった。

「初めてだったんじゃねーの? 良かれ悪かれ、あそこまでストレートに感情をぶつけ合った『喧嘩』ってのは」

 椅子にだらんと身を預け、ベッドで寝そべる同輩へ声をかける。

「んで、ストレスをスッキリ発散させたあとに残ったのは…………」

 

 ……陳腐な青春ドラマな展開である。そう、言葉にするなら…………

 

『なかなかやるな』

『お前もな』

 

 ………………と。

「……にしても極端だろーがよォ」

 ごろん、と寝返りを打つエリオ。

「けけっ。オメーだって初めてか、超久々なんじゃねーの?」

「あァ?」

 顔も見せず、汚く聞き返す。

「打算すっ飛ばしてタメ張れる、『ダチ』って言えるのはよ」

「………………はっ、わけわかんねーし」

 寝返りを打ったまま、振り向きもしないが……その頬は、年相応の少年らしく、赤らんでいた。そう、エリオとて、本気でキャロを疎んでいるわけではないのだ。ただ、最初のエリオの言のとおりだ。

 

――『調子が狂う』。

 

 実は、『初めての感覚』に浮き足立っているのは、どちらも同じなのであった。

「あらやだ、この子ったら照れてる! 照―れーてーるぅー! オンナノコに懐かれて照れてるぅー!!」

 両手をメガホンに叫ぶコリン。

「誰が照れてんだよタコ! 串焼きにすんぞゴルァ!!」

「お!? やるか小僧!! かかってこいや!」

「上等じゃねぇか!!」

 二人して、獲物を取り出し室内チャンバラを繰り広げる。

 ……なんだかんだで、仲のいい二人だった。

 

 

 翌日。ようやく訓練場も再建され、訓練が再開された。

「ひー、ひーっ……!!」

「ぜぇー、ぜぇーっ……!」

 ……今日も今日とて、地獄の基礎訓練である。

 だが、一週間前とは、だいぶ様子が異なっていた。

 以前はへたり込み、電撃制裁を喰らっている者が一人か二人、いたのだが……今日に限っていえば、ゼロだった。

「……ふむ」

 シグナムも、感心したように呟く。

「…………夜間に自主練習をしていたか」

 日中は、それこそ降って湧いた連休に惰眠を貪っているように見えた訓練兵たちだが、どうやら、教官たちの目の外で、密かに鍛錬を積んでいたらしい。

「素直に日中にやればいい物を……」

 捻くれ者には、捻くれ者なりの矜持というものがあったようだ。

「…………これで、第一段階はクリア、だな」

 はやてが密かに設定していた、訓練生たちの第一段階…………『各々が自主的な訓練を始める』という段階。

 自分の足で歩くことを覚えた新人たちには、次の段階の訓練が必要だ。第二段階……『体を壊さないギリギリのラインを覚える』こと。

 持久走を終了させ、訓練兵たちを集合させる。

「――これより、基礎的なフォーメーション及び、対違法魔導師を想定した実戦訓練を開始する!!」

 着々と……訓練兵たちに悟られぬよう、ステップアップを促していく。

(そうだ。その調子で、登って来い。我が王の見込んだお前たちならば、きっとできる)

シグナムは、内心でそう呟き……新たな訓練を開始した。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 一方、フォワードチームにも一つ、変化があった。

「だぁありゃあああっ!!」

 

――ガゴンッ!!!

 

 スバルの裂帛の気合と共に、ガジェットドローンが粉砕される。

 これまで、ただの間合いを詰める道具としてしか活用できていなかったローラーシューズを、戦術の中へと組み込み、攻撃バリエーションを格段に増していた。

 

――ガギャギャッ……!! ギシッ……!!

 

 だが、かつて無い負荷に、シューズが軋みを上げていた。

 

 ティアナも、また……

「くっ……!!」

 銃の先端に出現させた魔力弾を、すぐには発射せず、更に二段階目のチャージ。

 一発目を包み込むように、魔力の外殻が追加される。

 

――ジ、ジッ……!!

 

 だが……そもそもこの銃には、魔力弾を二段チャージできる機能は備わっていない。

「……! ああっ!!」

 

――バシュンッ!!

 

 …………結局、全周囲を覆うことは出来ず、中途半端に外殻を纏った魔力弾を発射することになった。

 とはいえ、高速回転する魔力弾は、擬似的に全周囲を外殻で覆ったものとなり、遠距離のガジェットドローンのAMFを、どうにか貫いた。

 

――シュウウウッ…………

 

 バレルが焼けたのか、銃身が、不吉な煙を上げている。

 

「おらよっと!!」

 最近では、スバルたちとも訓練をすることも増えたエリオ。

 馴染んだ獲物である長槍を電撃の魔力で強化し、ガジェット群を薙ぎ払う。

 

――――シュバッ!!

 

「!」

 素早く伸張した触手が、エリオを貫かんと迫る。

 エリオは、冷静にそれを槍の穂先で受け流し、

 

――――ビギッ……!!

 

 ……長槍に走った一条の亀裂に、頬を引きつらせた。

「!? うおおおやべぇっ!?」

 これ以上受けたら、折れる。だが、回避は間に合わず。

 

「フープバインド」

 

――シュバッ!!

 

 魔力のリングが、触手を纏めて縛り上げた。

「フリード、ブラストフレア」

「ギュアァッ!!」

 

――ボウンッ!!

 

 火炎攻撃で、ガジェットを掃討。

「うー……おそい……」

 だが、ほぼ独力での魔法の行使は、格段に速度で劣る。

 

『やめ』

 

 そして、なのはの号令で、訓練は一時中断された。

 紫煙を燻らせながら、集合してくる四人をぐるりと隻眼で見渡す。

『まずは、基礎の基礎程度までは、身についたようですね』

 息切れをしない程度の体力がつき、また、己が得物を、一定のラインまで扱えるようになった。

『おめでとうございます。ひとまず、第一段階は合格です』

 煙草を吹かしながらの、やる気の無い賞賛。

『では、現時点での問題点を……ティアナ。述べてみなさい』

「はい」

 指名を受けたティアナは、ちらりと、手元の銃に目を落とす。

「……全体的に、武装のスペックが不足してきています」

 車軸にガタが出ているローラーシューズに、バレルの焼けた銃、罅の入った長槍。

『そうですね』

 煙草の半分を一気に灰にし、盛大に煙を吐き出した。

『……着いて来なさい』

 そして、返事も待たずに歩き出すなのはの後を、四人が追う。

 

 そしてやってきたのは、何故か隊舎の中。

「? あのう……隊舎に、何の用が?」

『用があるのは隊舎ではありません』

 そして……当たり前のように、『そこ』に足を踏み入れる。

 

――中庭。

 

「ひィっ!?」

 恐れおののき、後退するスバル。

 

――機動六課隊舎の、中庭。

 

 それには、言葉以上の畏怖が込められている。

 赴任してきた訓練兵たちの間で、実しやかに囁かれている噂。

 

――曰く、四方を隊舎で囲うことで、中庭を封印している。

 

――曰く、超A級危険人物を隔離している。

 

――曰く、入ったら戻ってこれない。

 

 ……根も葉もない噂ではあるが、見るからに異常な人物が数多く在籍するこの部隊では、真実味があった。

『……はぁ。何に怯える必要があるのですか。馬鹿馬鹿しい』

「そ……そうですよね……はは……失礼しました」

『ああ、でも……』

「……でも?」

 

『私を見失わないよう、気をつけなさい。はぐれたらアウトですよ』

 

――ザザッ!

 

 新人四人は、一塊になって移動を開始した。

 

 身構えていたわりには、何も変化は無かった。

 中庭には、簡素な建物が一つ鎮座しているのみで、その外観にも、おかしな点は見当たらない。

 なのはが、パスカードをタッチし、開錠させる。

 そして、中庭に足を踏み入れた。

(…………なんだろう、なんというか……)

 見た感じは、本当に何も無い。あからさまな物品があるわけでも、壁が血糊で塗りたくられている訳でもない。だが……身体の芯まで浸み込むような、異様な冷気のような気配が、充満していた。

(う…………!)

 その、異界のような空間を、なのはから決して離れぬように歩き……たったひとつの建物に、足を踏み入れる。瞬間。

 

――――かくんっ。

 

「…………あ、」

 初めに膝を折ったのは、意外なことにティアナだった。

「ティアっ……!」

 それを支えるスバルも、今にも崩れ落ちそうだ。

 エリオと、キャロは…………こちらもまた意外なことに、なんとか自力で行動できていた。

『…………中てられましたか。あと少しですから、歩きなさい』

 なのはは、待ってはくれない。置き去りにされる恐怖から、ほうほうの体で、目的の部屋へと到達できた。

「え……あれ……?」

 そして、ドアが閉まった途端、圧し掛かってきていた重苦しい気配は、ウソのように消え去っていた。

 

「遅かったね」

 

 そして、スバルらを出迎えたのは、エリオと同程度の背丈しかない、小柄な白衣の女性だった。

『一週間ぶりだね、マリー』

「うん」

 

――マリエル・アテンザ。

 

 弩級の変態研究者にして、異能の天才技術者。

 整っているであろう素顔は、簾のような伸ばしっぱなしの前髪と、墨汁を塗りこんだかのような隈と、曇った眼鏡で台無し。薬品でもこぼしたのか、白衣は変色し、焦げて穴が開いていて……その下に着ているのは、まさかのジャージ。しかも小豆色。

「……えー」

 その、あんまりな格好にドン引きのスバル。

『紹介します。彼女は、マリエル・アテンザ。あなた方の、専用デバイスの設計者です』

「専用……」「デバイス!?」

 目を剥く二人。

 精々、既存の武器の強化程度に考えていた四人には、少々ぶっ飛んだ内容だった。

「ああ。……とはいえ、ただ高性能な武装を支給する訳では無い。……高町隊長から、説明してもらおう」

『……ん、わかった』

 なのはは、取り出していた二本目の煙草をケースに戻す。

『では、まず……あなた方フォワードチームは、新人たちの中でも、飛びぬけて『育てにくい』人材です』

「 「 「 「 ……………… 」 」 」 」

 ただ淡々と事実を告げているのだろうが、やや反応に困る。

『ああ、誤解しないで頂きたいのは、決して能力が劣っているわけではない、ということです』

 ……わざわざ、あんな苛烈な試験を、部隊長自らが課すのだ。評価されているに決まっている。

『ですが、ただ……『育てにくい』。今までのケースには無かったスタイル、スキル。それを的確にコーチできる教導官は、教導隊にもいませんでした』

 変則的な格闘技を主体とするスバル。

今では廃れた系統である幻術使いのティアナ。

 規格外の火力・真竜の加護を持つ召喚師、キャロ。

「……あれ、オレは?」

 電気資質こそ珍しいものの、槍術ならば、さして珍しくない筈だが……

『現時点で、あなたの詳細を開示するわけにはいきません』

「?」

 なぜか、なのはは詳細をぼかした。

『ただ、言えるのは…………フェイトは、無作為にあなた方二人を、機動六課に招いたわけではない、ということです』

 エリオと、キャロ。その二人が共にいるということには、何か重大な意味がある、ということらしい。

 話を戻します、と前置きし、続ける。

『あなた方の資質を伸ばすためのデータは、あなた方自身から収集するしかないのです。ですが、それをいちいち時間をかけて検証していては、技術が成熟する前に、成長期が終わってしまいます。

 

――そこで、そのデバイスです』

 

 マリーがデスクに並べた四機を、指し示す。

『そのデバイスたちには、画期的な機能が搭載されています。…………まぁ、ざっくり分かりやすく言うと……『ユーザー育成システム』、といったところでしょうか』

「ユーザー……」「いくせい……?」

『デバイスを装着した状態で訓練を行い、毎回の詳細データを記録領域に蓄積。蓄積したデータから、今後の訓練の方針を導き出すというものです』

 似たようなシステムなら、既存のデバイスにも組み込まれてはいる。だがそれは、あくまで、映像データや音声データ、浅いバイタルデータといったごく限られた範囲のものでしかない。

 このシステムは、使用者一人の、文字通りの専用機として、細やかなデータを蓄積していくのだ。

「ちなみに、このシステムを提唱したのは、そこにいる高町教官だ」

「えっ……教官が!?」

 注目されたなのはが、遠い目をして呟いた。

『自主練しか出来ないような環境にいまして』

「ま、ほぼ自主練だけで、若干9才にしてAAAランクまでいっちまうオマエも大概だけどな」

 なにげない会話の中で飛び出た驚愕の事実に、文字通り飛び上がる。

「きゅっ……9才でAAA!?」

『正確には、AAAランク『相当』です。ランクなんて取ったことありませんよ、私は』

「いやっ……いやいやいや!? それでも!?」

 15にしてようやくBに届くかどうかというスバルは、度肝を抜かれた。

「まぁ……確かに、年齢の割に高ランクの魔導師ってのはいるにはいるけど……」

「あ、でもでも! ってことは、私たちも、そのシステムを使えばあっという間に高ランク魔導師の仲間入り……!!」

「ばーか。ンな深夜の通販番組のダイエット器具みたいな話があるわけないでしょ」

 はしゃぐスバルの頭を軽くぺしん、とはたくティアナ。

「勘が良いじゃないか。ちなみに高町教官の初陣は、暴走ロストロギアの鎮圧だ」

「……………………………それ、精鋭部隊が万全を喫して向かう任務じゃ……」

『マリー。昔の話はやめて』

 苛立たしげに、煙草を咥えて着火する。

「……そうだったな」

 かちっ、と卓上の機械のスイッチが入る。空気清浄機のようなものらしく、なのはが吐き出した紫煙が吸い込まれていく。

「もちろん、ただ訓練をしていればいい、なんて都合のいい話は無いぞ? 高価な武装を供与する対価は、一般部隊が敬遠する案件の解決だ。訓練・実戦・訓練・実戦・死刑・実戦の波状攻撃で、強制的に戦闘力を上昇させてもらう」「し、しけ……」

「上昇……しなかったら?」

「…………」

 半ば冗談、半ば本気で聞くスバルに……マリエルはニタリと笑うのみ。

「って、いうか」

 ティアナが、当然のような疑問を口にした。

「そんなに才能に恵まれてるなら、教導隊に行けたんじゃないですか?」

 管理局のトップガン、教導隊。

 ティアナが言うように、将来有望な若手局員は、実地研修などの正規の手順をすっ飛ばして、教導隊へ預けられる。そこで、超一流の魔導師たちから手ほどきを受け、そのまま教導隊に正式所属する…………というのが、エリートの鉄板コースなのだが……

 

――だが、いるのだ。悲しいことに。

 

集団行動が苦手というかその概念すらあまり分かっておらず。

誰かに合わせることが致命的に下手で、というか必要性を感じておらず。

集団で努力するより一人か限られた相手とマイペースにやっていた方が上達し。

『なんとなく』のインスピレーションで、とんでもない結果を生んでしまい。

しかもその結果というのが、努力の壁を蹴散らすほどの勢いで。

その結果発生する、他者からのやっかみや嫉妬というものへの対処法を知らず。

気づけば、浮き島のようにポツンと孤立している、そんな人物。

 

 

『教導隊がナンボのもんですか。けっ』

 

 

………………どこぞの教官のことであった。

「ヴィータのやつは、そこで天職を得たようだけどな」

『……ふん。あんな子、知りません』

 完全に拗ねた様子でそっぽを向いてしまった。

 

『とにかく。あなた方には、こちらのデバイスを支給します。今後の訓練では、常にその機体と共に臨みなさい。マリー、各機の説明を』

「それじゃ、まずは…………。エリオ」

「うッス」

「キミのデバイス『ストラーダ』は、近代ベルカ式の武装として強化してある。強度は保障するよ」

 起動すると、長槍の姿となってエリオの手に収まった。

「へぇ……こいつはいい。しっくりくる」

 ひゅんひゅん、と狭い室内で槍を器用に回転させる。

『我が使い手よ。汝が、『所有者』で終わらぬことを願おう』

「ヘシ折れるまでこき使ってやる。覚悟しとけよ」

『了解である』

 腕時計のような待機形態へと戻ったストラーダは、小さなディスプレイを明滅させ、新たな主の手へ渡った。

 

「キャロ」

「はい」

 キャロに渡ったのは、小さな羽根のついた飾り紐。

「銘は『ケリュケイオン』。キミの希望通り、補助魔法の特化と、魔力の整流化を念頭に組んである」

「おきて」

 起動すると、オープンフィンガーグローブとなった。

 手の甲には、瞳のような大型のコンバーターが装着され、五指へはライン状のジェネレーターが伸びる。

『あら、可愛らしい主ですこと。それに……ふふ。既に器たる騎士も、付いているのですね』

「……それはまだきまってないけど、でも、そうなってほしいから……みとめてもらうためにも、あなたのちからをかして」

『お安い御用です』

 ……少々、理解の及ばない会話があったが、無事に渡ったようだ。

 

「ティアナ」

「……はい」

 ティアナの手に託されたのは、紋様の入ったカード。

「『クロスミラージュ』。ミッド式の特殊兵装だ。汎用性はあるが、かなり特殊な仕上がりになっている。気をつけろ」

 起動すると、カードから、リボルバー型の拳銃へと変形した。弾倉を開くが……そこには、空の薬莢が納まるのみ。これが、マリエルの言う『特殊兵装』なのだろう。

『オレを使いこなせるかな? お嬢ちゃん』

「やってやるわよ。ランスターの弾丸は、一撃必中なんだから」

『フッ……期待している』

 ……気障なAIである。

 

 そして……

「スバル」

「はいっ! はいはい、はーいっ!!」

 プレゼントを目の前にした少年のように目を輝かせ、両手を差し出す。

「最初に謝っておく。すまん」

 ……目をそらしてぼそっと聞き捨てならないことを言う。

「で、で!? 私のデバイスは!?」

 聞いちゃいない。

「これだ。これだが……」

「うわぁ、綺麗な色!!」

 差し出された、抜けるようなスカイブルーのクリスタルを照明にかざして見るスバル。

 

「――『マッハキャリバー』。オマエの戦闘に特化した機体だ。使いこなせれば、」「セットアップ!」「最後まで聞けよぉ……」

 起動して……スバルの両足に、ローラーシューズとはまた違う、格段に上の武装として装着される。

「お、おおおっ……結構、重い……?」

 何度か足踏みをする。

「単純な重量増に加え、平時には一定の魔力的な負荷が掛かるようになっている」

 パワーリストのようなものだ。

『…………』

 なのはも幼少期、同じような真似をしていた。

 りゅいいいいんんっ! と、力強い動力の駆動音が鳴る。

「えへへ……よろしくね、マッハキャリ、」

 

『何だ貴様その締まりの無い表情はッッ!!』

 

 ………………空気が凍りついたようだった。

「…………えっ?」

『貴様程度の力量の持ち主が、我が主だとッ!? 認めん! 断じて認めんぞッ!!』

 ビッカビッカとクリスタルを発光させ、動力がギュンギュン唸りを上げる。

「ちょっ……マリーさん!? なにこれ!?」

「………………いや、とあるデバイスのAIから、一部を転用したところ、こうなってしまってな。だが、案じるな。このAIは、機体のパフォーマンスを100%発揮できるというシミュレート結果が出ている」

 スバルは慌てて、待機状態へと戻そうとしたのだが……

「……っ!? と、取れない!!?」

 ……呪われていた。

『甘えるな貴様ァ! 行住坐臥! 常在戦場! 甘ったれたその性根、24時間の鍛錬で叩きなおしてくれるわ!! 我が主と認められたくば、耐えてみせよっ!!』

「にっ……!?」

 顔を強張らせるスバル。

「たっ……助けて、高町教官!! みんなー!」

 

「へー、かっこいいじゃないその槍」

「そっちの銃も渋いじゃん。回転式拳銃とか」

「ケリュケイオン、きれい」

 ……ティアナたちは他人事のようにスルーし。

『ああ…………なんでしょう、このデジャビュは』

なのはは、ボーっと遠くを見ている。

『さァ往くぞ、未熟者!! 駆け足――――!!!』

 

――ギュバァアアアアアアアアアッ!!!

 

 床に散乱していたガラクタやらを蹴散らしながら、マッハキャリバーはスバルを引き連れ、猛然と疾走を開始した。

「うわぁああああああん!! たーすーけーてーーーーーぇぇぇ………………!!」

 ………………そして、ドップラー効果を残しながら、スバルはマッハキャリバーに引きずられ、出て行った。

 

『………………さ、訓練再開です』

 

 ぱんぱん、と手を叩き、何事も無かったようにマリエルの研究室を後にした。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「えーっ……いーなー! お前らだけ新型デバイス支給かよー!?」

 その日の晩。またしてもコリンの部屋に入り浸るエリオ。

「つっても、クソ面倒な任務もセットだけどな……」

 嬉しさ半分、面倒くささ半分といったところか。

「……んで、キャロちゃんとはどーなったよ?」

「ん? あー……デバイスとの相性は良さそうだったな。器だとか、なんか電波なこと言ってたけど」

「そーじゃねぇっての。おめー、いつになったら戻るんだよ?」

「……さァな」

「かわいそーじゃん」

 コリンの言うことも、最もだ。

 これで一週間以上、キャロは一人と一匹で、あの部屋で過ごしていることになる。

 だが、いくら最もだとしても……それを素直に聞き入れる素直さがあったら、そもそもこんな場所にはいない。

「……るっせーな! おめーにゃカンケーねーだろ!!」

「大有りじゃボケェ! いつまで俺の部屋占拠されなきゃなんねーんだよ! モジモジしてねーで、さっさと戻ってキャロちゃんとキャッキャウフフなことして来い!」

「だっ……誰がモジモジしてるってェ!? あと、キャッキャウフフもしねェよ!!」

「おめーだよ! ガキかっつぅの…………って、ガキじゃねーか! ぎゃはははは」

「挽肉にしてやんよォ……!!」

「来いやァ!」

 ……そしてまた、室内乱闘が始まろうとしていた矢先……

 

――とんとん

 

 ……部屋の扉が、遠慮がちにノックされた。

「…………」

 コリンは 荒ぶる鷹のポーズで停止し。

「…………」

 エリオは、椅子を振りかぶったまま硬直する。

 

――――とんとん

 

「――エリオくん、いる?」

「……キャロ?」

 どうやら、居場所を知って来たようだ。

「おー、キャロちゃんいらっしゃい」

「ばっ……!?」

 出るかどうか、悩んでいる隙に、コリンがさっさとドアを開けてしまった。

「んじゃオレ、しばらくメシ食ってくるわ」

 気を利かせたつもりなのか、室内には、エリオとキャロの二人だけとなった。

「…………」

「…………」

 会話の糸口を見つけられず、しばらく沈黙が続く。

「あの、」「あのさ、」

 ……同時だった。

 目でキャロを促す。

「あの……エリオくん、わたし、めいわく?」

 非難する口調ではなく……むしろ、気遣いのような口調だった。

「わたし、いままで、フェイトさん以外のひとと、なかよくなったことがなくて…………それに、フェイトさんはおとなで……エリオくんはおとこのこで、おないどしで……ほんとうに、はじめてで……………………うーん……」

 かつて無い長文に、徐々に混乱をきたすキャロ。

「だから、はしゃいじゃって……めいわくだったら、いってほしいな」

 拙いながらも必死の言葉に、エリオもさすがに、罪悪感が首をもたげる。

「――、」

 片手を上げ、キャロに何かを伝えようとした、その時――――

 

 

――――ビーーーーー! ビーーーーー!

 

 

 大音量の警報が、全体に鳴り響いた。

「!!」

 いくつかの警報のパターンがあるが、今回の種別は……緊急出動。

 いよいよ、初陣の時がやってきたのだ。

「――! 行くぞ!」

「わかった」

 二人は駆け出し、ブリーフィングルームへと向かった。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「任務内容を説明します」

 フォワードチームを含む、いくつかの小隊がブリーフィングルームに召集されていた。

 その説明を行うのは、フィアットだ。

「先刻、陸上運輸局よりSOSが発信されました。任務は一度、陸士74部隊に上げられましたが、その部隊は、必要人員が揃わないとの理由で拒否。結果、機動六課へ委任されました」

 ぱっ、と表示されたのは、ミッド北部の山岳地帯。そして、そこを山間を縫うように走る貨物列車。その列車の外部に、かなり多数のガジェットが組み付いており、破損した装甲から覗く車内にも、ガジェットの影が見え隠れしている。

「こちらの貨物列車の制御系は、既に敵性ガジェットに占拠され、高速のまま制御不能状態となっています。放置すれば、首都のターミナル駅を突破、脱線し、市民にも多くの犠牲が出るものと予測されます」

 更に画面が切り替わる。車内の構造図だ。

「任務の達成条件は、車両を占拠する全ガジェットの破壊、そして、制御系の奪還です」

 続いて、詳細の説明が始まる。

「貨物列車の速度は、現在、時速240kmを維持しています。当然、この速度のままでは、多数の人員が突入することはできません」

 風圧で吹き飛ばされるか、それでなくとも、満足な戦闘は行えないだろう。

「まず、フォワードチームが先行し、制御系を目指します。先頭車両を目指しながら、各車両の連結部分の通路を封鎖。制御系を奪還し減速させた後、後続部隊が残ったガジェットを掃討します」

 フォワードチームは、まさに一番槍。ミスをすれば、それはそのまま、この任務の失敗を意味する。責任に、背筋がぶるっと震える。

「20分後、20:00に作戦を開始します。各自、装備を整えておくように。では、解散」

 

 

 デバイスを携えた隊員たちは、小隊ごとにヘリに搭乗していた。

「ヘリで空輸して、列車に投下するとか…………」「前世紀の爆弾かっつうの」「いくら落下傘が使えないからって……」「……50メートルの櫓から降下する訓練って、こういう時のためだったんだな」「うち、それ未修了なんだけど……」「良かったな今日で修了だ」「うっ、急におなかが……」「部隊長に腹パンされっぞ」

 各々、緊張しているようだ。

 

 やいのやいの騒いでいるうちに、現場上空だ。

「さぁ皆さん、初陣ですわよ。準備はよろしくて?」

 コンソールを開き、準備万端のセリカが、フォワードチームに聞く。

「だい、大丈夫……!」

「あんたってば、いつまでたっても本番に弱いわね」

「だ、だって……これ……!」

 これ、と指差したのは……足を枷のように戒める、頼もしい相棒であるべきデバイス、マッハキャリバー。

『何をシケた面をしているか未熟者! 待ちに待った初陣の時ぞ!』

 …………スバルを置いてけぼりにしそうな勢いで、やる気に満ち溢れていた。

『我が力、存分に発揮してくれよう!!』

 自信満々である。

「確かに、あの走力は今回みたいな作戦にはもってこいよね。スバルをトップに、私が中央、両翼をエリオ、後方にキャロを置いて、支援と回復に専念させれば、かなり安定して動けるんじゃないかしら」

「そうですわね。いきなり実戦投入とは、少し不安も残りますが……」

「どうせ、いつかは実戦よ。早ければその分、対策や課題も見えてくるわ」

「……ですわね」

 

「そろそろ投下地点だ。ガジェットどもに無効化されないよう、フローターフィールドはギリギリまで発動を待て」

 配置が決まった頃、操縦室のヴァイスから声が掛かる。

 

――バグンッ……

 

 リアハッチが開き、闇に包まれる山間部と、その合間を疾走する貨物列車の灯火が明るく見えた。

「皆さん、ご武運を!」

「「「「了解!」」」」

 一番手は、やはりスバルだ。

「――……行くよ、マッハキャリバー!」

『……ほう?』

 スイッチの切り替わったスバルに、感嘆ともつかない声で反応するマッハキャリバー。

『よかろう。……地に伏せよ。初撃、仕損じるなよ』

「了解、だよ!」

 ぐっと体を撓ませ、クラウチングスタートの姿勢を取る。

 

――キュイイイイイイイイイッ……!!

 

 ギアはニュートラル。回転数を、半ばまで上げ……

「スバル・ナカジマ! 行きます!!」

 

――……キュドンッ!!!

 

 一気にギアを繋ぎ、ヘリから躊躇無く飛び出していった。

 

「クロスミラージュ。行くわよ」

『ああ、任せておきな』

 回転式拳銃を手に、ハッチへ進む。

 目の前に口を広げる暗闇。だがティアナは、臆することなく、歩を進める。

『驚いたな。怖くはないのか?』

「そりゃ怖いわよ。でも、恐怖と緊張を……五体と感情すべてをコントロールしてこそ、真の銃撃手よ」

『フッ……頼もしいことだ』

 気障に笑い、沈黙する。戦場での己が役割は、銃弾を放つことのみ……ということだろう。

「ティアナ・ランスター、行きます」

 

 

「んじゃ、オレも行くとするか。……ストラーダ」

『御意』

 長槍を携え、いつもの気楽な調子で降下しようとする……のだが。

「…………」

「…………キャロ?」

 キャロが、エリオのジャケットの裾を摘んでいた。

「…………あ、ごめん」

 はっと気づいたように、手を離す。無意識の行動だったらしい。

 見れば、いつもの無表情に、僅かながら緊張が覗いている。よく考えれば、キャロは機動六課最年少メンバーで、なおかつ年端も行かぬ少女なのだ。育ちや資質に特異な点こそあれど、その芯は、一般的な少女のそれと変わるはずも無く…………戦場が怖いという、ごく当たり前の感情があって、当然だ。

「…………」

 たった一人で、暗闇に命綱なしのダイビングを決行させるには忍びない。

なので。

「エリオ・モンディアル! キャロ・ル・ルシエ&フリードリヒ! 行きまーす!!」

「えっ……えっ、えっ!?」

 小柄なキャロの体を小脇に抱えて、諸共に飛び出すことにした。

 

「イヤッホォおおおおオオオオオオオオオオオオオウ!!!」

「きゃああああああああああああああああああああああああ」

 

 歓声と悲鳴は、仲良く落ちていった。

「…………甘酸っぱいねぇ」

 ヴァイスの独り言は、ヘリのローター音にかき消された。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

――ズダンッ!!

 

 着地と同時、スバルが駆ける。

「うぉりゃああああああああああああああっ!!」

 ガジェットが反応し、光弾を発射するよりも速く、そのボディを打ち砕く。

『ティアナさん、エリオさん、キャロさんも着地成功ですわ! そのまま直進してくださいませ!』

「了解!!」

 側面から飛び出してきたガジェット。だがスバルは、目も向けずに通過する。

 

――ピピッ……

 

 スバルに照準が合う。そして、レンズが絞られ、光弾が発射される……ことは、無かった。

 

――――ドッ!!

 

 飛来した高速の魔力弾に、ボディを撃ち抜かれたからだ。

 

――――ゴグン……!

 

 数体が、壁のようになり立ち塞がる。スバルを後続と分断する動きだ。

「ははっ、なんだそりゃ壁のつもりかァ!? おらァあああっ!!」

『Speerschneiden!!』

 

――ズシャアアアアアアアアッ!!!

 

 回転からの、横一線の斬撃が、纏めて切り捨てる。

「チッ……こう狭いと、オレの速度が出せねぇな。あの能天気女の独壇場になっちまう」

『同意する。だが、よい槍捌きである』

「やっぱ、ゼストみたいには出来ないなっ、っと!」

 これも今後の課題だな、と呟き、槍を振るう。

「キャロ! 遅れんなよ!」

 エリオの役割は、両サイドを固めつつの、後衛の護衛である。

「うん、がんばる」

「きゅああっ!!」

 フリードも呼応し、火焔でキャロを援護する。

『ふふ、彼は善き騎士ですね』

 ケリュケイオンが、場違いに暢気なことを言っている。

「うん。エリオくん、かっこいい」

『やはり、彼しかいませんか?』

「うん。でも、まだだめ」

 相変わらず、意味深な会話だ。

「いまは、このよにんで、ちゃんとうごく。それから」

 ……あのキャロが、チームプレイを意識するようになるとは。

 

 スバルたちフォワードチームは、当初の予想より、遥かに速いペースで各車両を突破していく。そこにはもちろん、鬼教官らの指導による技術の向上もあるのだが……

(すごい……!)

 滑走するスバルも。

(これは……!)

 魔力弾を連射するティアナも。

(なんて武器だよ、こいつは!!)

 霞のごとくなぎ払うエリオも。

(ついていくのが、せいいっぱい)

 バインドと補助を並列で発動させるキャロも。

 

――――マリエル謹製デバイスの性能に、驚愕していた。

 

 猛スピードで滑走するスバル。だが、その動きには微塵のブレも不安定感も無い。

 マッハキャリバーの車輪が足場を確実にグリップし、いかなる場面においても、動力を確実に機動力として出力している。

「おりゃああっ!!」

 

――ゴギャッ!!

 

 滑走しながらの回し蹴りというアクロバティックな動きで、ガジェットを蹴散らす。

「すごい! すごいよ、マッハキャリバー!!」

『我を見縊るでないッ! こんなもの、肩慣らしにもなってはおらんッ!!』

「あははっ! それじゃ……もっとギア上げてくよぉおおおおおおおっ!!」

『望むところよっ!!』

 

――ギュオオオオオオオオオオッ!!

 

 更に速度を増し、車両を駆け抜ける!

 

 

「あのバカ……突っ走るのはいいけど、もうちょっと倒してから行きなさいよ……っと!」

 クロスミラージュを構える。魔力スフィアが発生し、更に、その周囲に外殻が形成される。

 訓練であれだけ手間取っていたヴァリアブルバレット(多重弾殻)の形成が、こうも容易に。そして、高速かつ正確に。

 

――ドンッ!! ド、ドンッ!!

 

 連射が命中するのと同時、複数のガジェットが機能を停止する。

 照準こそ、ティアナ自身の技術だが……集弾性能が、これまで所有してきた銃器とは比べ物にならない。誤差を修正する必要すら無い。

「でも、いける……! コイツとなら、もっと……!!」

 セリカからの情報に一瞬で目を通す。

 物陰。通常の射撃では届かない位置に潜んだガジェットが、先行するスバルを狙っている。

「丸見えよっこの鉄クズ!」

 クロスミラージュが、意思に反応して術式をロードする。誘導弾の術式だ。

 

――バシュウッ!!

 

 発射された魔力弾は、鋭い弧を描き、物影のガジェットを見事に撃ち抜いた。

多重弾殻の誘導弾。ティアナが、構想こそ持っていたものの、実現を先送りにしていた戦術だ。ティアナの卓越した技術を、クロスミラージュが見事に支えていた。

 

 まさに、人機一体の働きだった。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

――敵性戦力ノ上昇ヲ確認

 

――子機23ヨリ母機4ヘ。敵性戦力・一定らいんヲ突破。対象ヲ『特筆人財』トシテ登録スル。登録なんばー、1~4ト仮称スル

 

――母機4了解。引キ続キ、特筆人財ノすぺっくヲ計測サレタシ

 

――子機28ヨリ子機64、了解。

 

――子機28ヨリ子機36、44、48、56、62ヘ。敵性戦力ノ分断ヲ実行スル。後続ノ特筆戦力3、4ヲ、車外ヘ排出スル。当機ヲ含ム6機ニテ、連結合体ヲ実行。

 

――了解

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

――ザザザザザッ……! と、ガジェットたちの動きが、明らかに変わった。

 

――ズドドドドドッ!!

 

 突如、車両の天井が崩落し、そこから複数のガジェットが進入してきた。

「!? おっと!」

 背後へステップし、キャロの傍へ。

 

――ガギンッ、ガギギギギギンッ!!

 

 ……ガジェット群が、互いの触手をアタッチメントのように接続する。

 子機たちが頭部に、胴体に、右腕に、左腕に、股関節に、右脚に、左脚に…………擬似的な人型ロボットへと、合体を果たした。

 

――ゴウンッ……!!

 

 束ねられた触手の巨腕が、エリオへと迫る。

「ハッ……だったら、何だよッ!!」

 そんな大振りの攻撃など、当たるはずも無い。

 回避を……と、行動を開始したところで、不意にミスに気付いた。

 自分なら、余裕で回避できる。回避して、一撃を叩き込むことが出来るだろう。

 だが、自身の背後には……

「……!! しまっ……!?」

 動き始めていた身体を急制動。だがそれは、あってはならない、身体の硬直となり……

 

――バゴォンッ!!

 

 ストラーダを眼前に構えての防御諸共、エリオの小柄な体躯は、吹き飛ばされてしまった。

「ぐああああああっ……!!」

 がりがりと、車内の内装を身体で削りながら滑走する。

 そして、その抵抗が不意に消え…………

「う……おぁあああああああああああああっ!?」

 装甲の穴から、車外へ放り出された。

「!? エリオくんっ!! ……きゃあっ!!」

 気をとられたキャロも、フリード諸共、弾き飛ばされる。

 

 一瞬の油断が、命取りだった。

 

 順調だった作戦は、ここにきて一気に、チームの分断という結果を招いてしまった。

「!? ティアッ!!」

「! くそ! セリカ、チビたちは!?」

『二人とも、車外へ投げ出されたようですが、無事です! ダメージ軽微! 屋根上に張り付いています!! 作戦続行は十分に可能! お二人は、制御系へ向かってください!』

「……!! 行こう、ティア!」

「わかってるわよ!」

 セリカの判断を信じる。折角、ここまで勢いを殺さずに突破してきたのだ。足を止めてしまっては、前方に敵が密集してしまい、突破が困難になってしまう。

「エリオと、キャロなら……大丈夫!」

 小さくても、立派なチームメイトなのだ。必ず追いついてくることを信じ……前へ進むしかない。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「ぐっ……畜生……!!」

 エリオは、ストラーダを足元へ突き刺し、吹き付ける突風への支えとしていた。

 目の前には、連結合体したガジェットロボ。そして、背後には……

「……フリード! キャロをしっかり守れよ!!」

「きゅっ!!」

 ……衝撃で一時的に失神したキャロ。ケリュケイオンが復帰のため、電気刺激を送ってはいるものの、覚醒はまだ掛かりそうだ。

「…………」

 今回の戦場は、不利な点がいくつかあった。

 まずは、エリオの機動力を活かしづらい閉所であったこと。

 そしてもう一つは…………

「電撃は……使えねぇな」

 ……精密機器の塊である列車で、不用意に電撃を使用すれば、回路がショートし、下手をすればこのまま脱線してしまう危険があるということだ。

 本来、エリオの魔力変換資質『電気』は、機械であるガジェットには非常に有効な攻撃手段だった。それこそ、範囲攻撃を行えば、一帯のガジェットを纏めて機能不全に追いやることが出来るほどの。スバルたちが複数名で挑むような試験を単身で突破できたのも、この資質によるものが大きい。それが、封じられた。

「……ストラーダ、腕の見せ所だぜ!」

『了解である』

 この不安定な足場で、突風に晒されながら……なおかつ背後のキャロを守りながら、白兵戦で敵の巨大戦力を打倒しなければならない。

 ちらっ、と背後に、目だけを配る。

「…………まだ、何も言ってないもんな」

 たとえ、不利だと分かっていても。

 

――男には、やらねばならない時があるのだ。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

――キャロ・ル・ルシエ。

 

 竜召喚の力を伝える、少数部族出身の少女。

魔力量こそ十人並みながら、竜種と、深く心を通わすことの出来る資質を持ち、その資質を見込まれ、早くに親元から離され、族長を含む達人に、徹底的な英才教育を施されてきた。

指導は実を結び、若干6歳にして、白銀の飛竜を己が魔力で孵す快挙を挙げる。

 部族は手放しに彼女を賞賛し…………その、致命的な間違いに、気付けてはいなかった。

 竜召喚の力こそが誇り。竜種の加護こそ誉れ。

 そんな、閉鎖的で、歪んだ価値観に囚われた部族の中…………親の愛を満足に受けずに育ったキャロは、感情をうまく発達させられず、また、それを表現する能力を、培えずにいた。

 唯一の家族と呼べるのは、フリードリヒと名づけた竜のみ。

 だがキャロはまだ、心のどこかで、信じていた。両親は、今も変わらず、自分を案じてくれているのだと。思われているのだと。力が認められれば、いつかは、家族で仲良く暮らせるのだと。それはいつしか、孤独と、苛烈な鍛錬を受け入れる上での、拠り所となっていた。

 

 そしてキャロは、苛烈な鍛錬を乗り越え、部族の象徴的存在・黒き火竜に選ばれし巫女となった。

 

 長い部族の歴史の中、開祖以来となる、巫女の誕生。

 部族は、盛大に宴を催した。

キャロは上座で、遥かに年長の術士たちから次々に酌を受けながら、目だけで両親の姿を追っていた。

 そわそわと待つこと、数十分。

 ようやく、両親が眼前にやってきた。自分の両親だ。きっと、褒めてくれるに違いない。そして、もう鍛錬から離れ、親元に帰る日がやっと来たのだと。

 

――そう、思っていたのに。

 

「偉大なる巫女様。あなた様が、我が卑賤なる身を母胎と選ばれましたこと、大変な栄誉と賜ります」

 

――母は言った。『私はおまえの母親ではない』と。

 

「キャロ様。選ばれしあなた様は、我が凡俗の家名を抜け、開祖の名『ル・ルシエ』を名乗られますよう」

 

――父は言った。『私はおまえの家族ではない』と。

 

「…………………………………………」

 その瞬間…………ちっぽけな心の支えは、意味を失った。

 ぱりん、と、豪奢な杯が滑り落ち、割れる。

 

――ズズンッ!!

 

 激しい地鳴りが、空間を揺さぶった。

「なっ…………なんだ!?」

 狼狽する族長。若い衆が、外へ飛び出し……慌てて、駆け戻ってきた。

「ぞ、族長! お山が! 真っ赤に燃えております!!」

「何っ!?」

 …………集落の傍に聳え立つ霊山。死火山であるはずのその山が、激しい脈動と共に、赤々と燃えていた。

「馬鹿な……!? ……はっ!?」

 族長が、その原因に思い至り…………顔を向ける。

 …………キャロは、泣いていた。瞬き一つせず、ただ虚空を見据え、泣いていた。

 彼らは、最後の最後まで……キャロのことを、少しも理解してはいなかった。

 

 

「………………………………………………きえちゃえ」

 

 

 ……裁きの時。

 

 

――――この日。少数部族は集落を火砕流に飲み込まれ、壊滅した。

 

 

 各々の飛竜で避難した術士たちは、散り散りとなり、足取りさえ掴めない。

 管理局の捜査部隊が、現地入りした際、廃墟に佇む一人の少女を保護した。

 

「――キャロ・ル・ルシエ」

 

 ……彼女は、望まれたとおり、そう名乗った。

 保護された先の部隊でも、扱い自体はそう変わるものではなかった。

 力への畏怖。恐怖。

 キャロと、全長5メートルを超えるほどに成長したフリードへ向けられるのは、大体そんな感情ばかりだった。

 鬱屈した感情は、またしても溜まりだし……頂点に達するのに、さして時間は必要としなかった。

 

――炎上する隊舎。逃げ惑う局員。武装局員たちも、荒れ狂うフリードに蹴散らされ、止める者は既にない。

 

 あの日の再現……だが、それも途中まで。

 本局から派遣されてきた執務官。

 彼女は、フリードの竜魂を封印し、ヴォルテールを止め…………キャロを救ってくれた。

『居場所をあげる』という、約束と共に。

 約束は果たされ……キャロは、初めて、居場所を得ることが出来た。

だから、今度は自分が、守ろうと思った。

 

 

――――自分の居場所を、最後まで守ろうと思った。

 

 

「………………あ、」

 キャロは、回想から引き戻される。頬に感じるのは、冷たい金属の感触。

「――エリオくん、」

『おはようございます』

 両手のケリュケイオンが、応答した。

 ぶんぶんと頭を振り、眠気を振り払う。目の前では……

「エリオくんっ」

「おー……やっと起きやがったな……」

 既に、見える範囲だけでも複数の裂傷を負い、少なくない出血をしている。

「フリードにも礼いっとけよー……」

 ふらふらと、足元がふらつき……ひざを突く。

「………………わり、限界……」

 

――ブォンッ!!

 

 機械の敵は、その隙を見逃さない。

 その金属の装甲にもまた、激しい戦闘痕が刻まれている。だが、痛みを感じないガジェットは、止まらない。

 

――ドシンッ!!

 

 伸張した居腕は、エリオをガードごと吹き飛ばした。

「………………!!」

 顔をゆがめ、ストラーダを支える。だが、足元の支えを失ったエリオの身体は、容易く突風にさらわれ…………

 

――車外へと、放り出されてしまった。

 

「エリオくん、」

 キャロは躊躇する。目の前には、大口を開ける暗闇。

 だが……躊躇は、一瞬だった。

「エリオくんっ!!」

 身を投じることに、恐怖は無かった。

 危機に瀕しているのは、初めての友達で。彼を失うことのほうが、何よりも恐怖で。

 そして……自分には。

 

「フリード――――やるよ!」

「きゅあああああッ!!」

 

――――彼を救える力が、その手にあるのだから。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

――キィイイイイインッ……!

 

 現場へと向かう空路を往く物体があった。

 航空機にしては、極めて小型で、無人機であるらしかった。

 飛行型ガジェット。新型である。

 マンタのようにフォーメーションを組み、列車の『積荷』を回収しようと向かっている最中だった。最新のステルス技術を盛り込まれたボディは、既存のエリアサーチを容易に潜り抜け……

 

「でも、みつかっちゃうんだなぁ、これが」

 

 行く手を、フェイトに阻まれる。

 巡航速度とほぼ同等の速度で、ガジェット群に併走する。

 

――ギュンッ!!

 

 飛行型ガジェットは、速度を上げた。交戦ではなく、迅速に『積荷』を回収すべく、振り切ることにしたらしい。

 

――ザンッ!! ガゴンッ!!

 

 ……二機が、瞬時に撃墜される。

「みんなに経験つませるためにも、手出しはさいていげん……って、ヤガミがいってたから、あんまり助けてあげられないけど……」

 目線を、列車の方へ……そこから落ちるエリオに、肝を冷やしたが……キャロが後を追ったことで、安心した。

「うんっ、だいじょうぶだ! あのふたりなら、もんだいナーシ! 空の敵だけは、ボクがキッチリ片付けておこうっと!」

 

――ガズンッ!! ガキョッ!!

 

 飛行型ガジェットなど、追いつくことも、反撃することも出来ない速度で、六課最速は空を駆る。

 

「がんばれキャロ! いまのキミなら……フリードの、本当の力を使いこなせる!」

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「『蒼穹を走る白き閃光・我が翼となり天を駆けよ』」

 

――シュイイインッ!!

 

 ケリュケイオンが光り輝き……薄桃色の魔力光が、闇を照らし出す。

 キャロは、エリオを優しく抱きとめる。同時、魔力光がエリオを包み込む。

「う……キャロ……?」

「エリオくん、だいじょうぶだよ」

 目を覚ましたエリオに、キャロは……無表情のうちに決意を固め、さらにケリュケイオンの回転数を上げる。

(いつも、だれかにまもってもらってた)

 フリード、ヴォルテール、フェイト……エリオ。

 彼らは、何の見返りを求めることもせず、ただ自分を守ってくれていた。

 未熟な操術に、何度フリードを暴走させたか。やりたくもない破壊に、ヴォルテールを駆り出したか。子供じみた癇癪に、何度フェイトを困らせたか。……何度、エリオに迷惑を掛けたか。

(でも……もう、ちがうんだ)

 もう、守られるだけの子供ではない。

(じぶんの居場所は、もう、じぶんでまもれるんだ!)

 力の使い方は、厳しくも面倒見のいい教官が教えてくれた。

 力の使い所は、少し不良だけど当てになる先輩が教えてくれた。

 魔方陣が、より一層、力強く輝き……中央に座するフリードが、光の繭に包まれる。

「勘違いすんなよ、キャロ」

 エリオが、キャロの額をつついた。

「迷惑だなんて、全然思ってねーぞ」

 ぶっきらぼうに……ずっと言いそびれていたことを、伝えた。

 キャロは…………

 

「――しってた」

 

 朗らかな笑みで、そう応えるのだった。

 

 

――竜魂召喚。

 

 

 巨大な双翼が、繭を突き破る。

『グォアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 翼長10メートルの、白銀色の飛竜。

 それが……フリードの、真の姿だった。

「いくよっ、フリード!」

『グオオッ!!』

 その背に、二人を乗せ、列車を追う。

 ケリュケイオンによる、魔力の整流化の効果もあるだろう。だが、キャロは、ほぼ自力での完全制御を成し遂げていた。

 力強い羽ばたきが、巨体を物ともせず加速させる。

 そして、暗闇を抜けた先――

 

「追いついたっ!!」

 

 車両の灯火が、見えてきた。

 上部には、先ほどの合体ガジェットと、多数の雑魚ガジェット。

「キャロ。あの雑魚どもは先に片付けろ。多分、ロボ公の予備パーツになる」

「わかった。……フリード」

『グルルルル……!』

 口内へ、莫大な……幼体とは比べるべくも無い、莫大な熱量が蓄積されていく。

 背に乗ったエリオにさえ、じりじりとした熱波が届くほどに。

 

「――ブラストレイ!」

 

――――……ッズドンッ!!

 

炎ではなく、もはや、熱線。ヴォルテールの極大火焔には及ばないが……その一端程度には、匹敵するだろう。

 

――バジュウウウッ!!!

 

 器用に屋根の上だけを薙ぎ払い……直撃を受けた雑魚ガジェットたちは、爆散する間も無く、蒸発した。

 

――ギシッ……ギシシッ……!!

 

 ……同じく直撃を受けたはずの合体ガジェットは、外装こそ焼け焦げてはいるものの、動作している。

「我が騎士に、鋼の加護を」

『Boost Up Acceleration & Strike Power !!』

 左右それぞれの手から、個別の強化魔法を発動。

 滾る力を、ストラーダにこめる。

「おぉっしゃ! ストラーダ! 片付けるぞっ!」

『了解である』

 ストラーダの噴射口から、魔力の余波が吐き出される。そして……

『Sonic move !』

 

――ゴヒュッ!!

 

弾丸のような速度で、目標へと突き進む!

「ぅおォりゃあああああああああああああああああっ!!」

 

――――ガゴォオオオンッ!!

 

 ストラーダの切っ先は、合体ガジェットの正中線を貫いた!

「ォおおおおおおおっ!!」

 

――グギギギギギッ……ギギッ!!

 

 巨腕が、最後の足掻きと蠢く。だが、エリオは不敵に笑い……突き刺したストラーダに、更なる力を込める!

 

「紫電ッ――一閃ッッ!!」

 

――――ズバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!

 

 合体ガジェットは、真っ二つに切り裂かれ……更に、内部を電撃でズダボロに破壊され、爆散した!

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「――!! ティア!」

 スバルが、喜色を浮かべ、相棒の名を呼ぶ。

「うん、分かってる! ……やるじゃない、あのチビ達!!」

「負けてられないねっ!!」

 

 目の前には、球体型の、大型ガジェットが鎮座していた。

 

――ガシャンッ!!

 

 そのボディには、長方形の板のようなものが、マニピュレーターを介して接続されていた。防御が装甲任せだったガジェットへの、敵なりの対策だろう。

 しかも……

 

――キュドドドドドドッ!!

 

 ガトリング砲のような連射に、堪らず物陰へ引っ込んだ。

「砲門が増えてる!」

「……」

 ティアナが、様子見で魔力弾を連射してみる。

 

――ガキン、ガキンッ……バチンッ!!

 

「クロスミラージュ。敵の反応速度を計算して」

『お安い御用さ』

 敵の盾は、どうやらオートで反応するらしい。

 厄介といえば、厄介だが……

「――どこに撃っても、勝手に盾がぶつかってきてくれるなんて最ッ高ね!」

『全くだぜ』

「スバル、いくわよ! フォーメーションB!」

「了解!!」

 射撃援護からの、近接攻撃!

「クロスファイヤー……!!」

 同時操作可能な上限いっぱいの魔力スフィアを展開し、チャージする。その、すべてが、多重弾殻弾。高性能機の補助を受けているとはいえ、さすがに技量のキャパシティを超えそうな数だ。だが……

(――――高町教官のシゴキに比べりゃ、なんぼのもんじゃー!!)

 鬼のシゴキは、確実に、ティアナを上達させていた。

 

「シューーーート!!」

 

――――ズドドドドドドドドドドドンッッ!!!

 

 盾が生き物のように動作し、弾を片っ端から防御して行く。

「はぁあああああああああっ!!」

 連射に次ぐ連射。ティアナとガジェットとの、削りあいに結果は……

「――…………ッッく!!」

 

――ガシュウウンッ……

 

 膝を突くティアナ。そして…………全ての盾を除去された、大型ガジェット!

「マッハキャリバーー!!!!」

『Go!!』

 機を逃さず、スバルが突貫!!

「うォおおおおおおおっ!!」

 

――ドガガガガガガッ!!

 

 大型ガジェットによる、光弾の連射を、複雑な軌道で回避しきり……間合いの中へ!

「一撃、必倒ォオオオオオオオオオオオオオ!!」

 リボルバーナックルが、カートリッジ4発全てをロードし、唸りを上げる!

 

――ズゴォンッッッ!!!!

 

 

 盛大に火花を上げながら、装甲を大きく陥没させる大型ガジェット。

 内部へは、届いていなかったか…………――――否。

 

――勝負は既に、決していた。

 

『…………』

 

――――ズズゥンッ……!!

 

 機能を停止し、崩れ落ちる大型ガジェット。

 対象に触れるか、内部に拳を突き入れるかでしか有効に働かなかった振動波。

 それを、マッハキャリバーがベクトルを微調整し、『対象の内部』で炸裂させたのだ。

 内部を滅茶苦茶にかき回されれば、いかに堅牢な装甲があったところで、無意味。

『成った……! 奥義・振動破砕拳!』

「……ってぇ、それ、私の攻撃だからね!?」

 ノリノリでキメるマッハキャリバーに、スバルが突っ込んだ。

「はーぁ……バカやってんじゃないわよ。――セリカ、ガジェット撃破! あとは雑魚がちょろちょろしてるだけよ!」

『了解ですわ!』

 

――セリカの指示通りに、列車の操縦席を奪還し、レバーを操作し、安全に減速させる。

 

 

後続車両では、残存ガジェットの掃討が行われている。

「ふーぅ……………………ん?」

 ふと、スバルが大型ガジェットの残骸に目を向けると…………割れた装甲の亀裂から、部品とは違う、何らかのケースが、顔を覗かせていた。八角形をしていて……ずいぶんと、厳重だ。

「よいしょっ、と」

 

――バキバキ……

 

 亀裂を広げ、そのケースを取り出す。

「ロックが掛かってるみたい」

「ふーん……? クロスミラージュ、開けられる?」

『まぁ、開けられるだろうが――』

 どこか、渋るような様子を見せる。が、結局はケースを開封した。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「――レリック見つけた」

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「? ……何よ、それ」

「さぁ……?」

 開封したケースの中身は……たった一つの、紅い結晶体だった。

 サイズは、掌に収まるほど。

『おいおい……何が飛び出すかと思ったら』

『ふむ……超高密度の、魔力結晶のようだ』

 デバイスたちは、各々の見解を述べる。

「げっ……」

 それは、爆弾と同義だ。

 慌てて取り落としそうになるスバルから、危なげなくキャッチするティアナ。

「大丈夫でしょ。こんだけ、魔力の気配も感じないくらい厳重に封印されてるんだから、そう簡単には……」

 

 

―――――――ドガンッ!!

 

『この馬鹿どもッ!! 今すぐ離れなさいッ!!』

 

 突然飛び込んできたなのはの怒声に、ケースを取り落とした。

「「 !? 」」

 なのはは既に、腰の刀を抜刀しており……

 

――ザンッ!!

 

『……!!』

 スバルたちの背後。闇に紛れるようにして忍び寄っていた存在に、痛烈な一太刀を浴びせた。

「なっ……!?」

『フっ!!』

 二の太刀。だが、敵はケースを拾い上げながら、その間合いから大きく飛びのいた。

 卓越した体術を見せた敵が、なのはが飛び込んできた亀裂より差し込んだ月明かりに照らされる。

 

――全身を漆黒の外殻で覆い……紫色のマフラーをたなびかせる、長身の男性だ。

 

 なのはに斬りつけられたと思しき左腕からは……ヒトではありえない、紫色の体液が滴っていた。

『ヒトではありません。別種の生物です。構造的には、昆虫に近いです』

『……どこの虫かは知りませんが。そちらのレリックを、どうするつもりですか』

 だが……怪人は、何も答えず……何らかのアクションを起こそうとした。

 

――ヒュカカンッ!!

 

 …………その足元に、黒く塗られた、長い釘のような短剣が突き刺さる。

『……、!』

 その四肢を絡め取る、何らかの繊維が、月の光を浴びてきらきらと輝く。

 逃亡は不可か……と思いきや。

 

――シュイイインッ……!

 

 その足元に、紫紺の魔方陣が浮かび上がる。

『転送魔法です!』

『させませんっ!』

 なのはが、繊維を引き絞る。

『…………!!』

 怪人は……痛覚が存在しないのか、繊維に拘束された左腕を、躊躇無く肘の刃で切断した。

 

――ブゥウウンッ!!

 

 それどころか……切断した左腕が、独立してなのはへ飛んできた!

『チッ……本当、昆虫ですね!』

 

――ズカンッ!!

 

 ベルトから抜き放ったナイフで、腕を壁に縫いとめる。そのまま、怪人を追撃しようとするものの……なのはが放った短剣が突き刺さるより、ほんのコンマ一秒の差で、怪人はいずこかへ転送されていった。

『……恐るべき転送速度です』

 レリックと呼ばれた魔力結晶の『ケース』を持ち去った相手に、驚嘆するレイジングハート。

『でも……得るものもあった』

 なのはは、いまだピクピクと蠢く怪人の左腕を、ナイフごと、ひょいと持ち上げる。

『これと同系統の生物のいる世界と……それを使役する術者がいないかを調べさせて。魔力光と術式は、さっきのを記録できたよね』

『了解』

 血払いをして、納刀し……スバルとティアナに、向き合った。

『さて…………』

 びくっ、と後ずさるスバルとティアナ。

 

『作戦は成功です。お疲れ様でした』

 

 だが、肩透かしだった。

『じきに、回収されるでしょう。それまで、フォワードチームは現場で待機。以上です』

「え……あの、」

『尚、只今の件については、一切の口外を禁じます。これは命令です』

 取り付く島も無く、ぴしゃりと言い切る。

「スバル・ナカジマ、了解です」

「ティアナ・ランスター、了解です」

『……よろしい』

 そしてティアナは、つかつかと歩き去っていく教官を見送り…………

 

「……………………魔力、結晶。これが、あれば……」

 

 

 

 

 

――――後ろ手に隠し持っていたレリック本体を、そっと、ポケットに入れた。

 

 

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