魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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StrikerS編 第十五話

 

 

「着いたわ」

「うん」

 

 スバルとティアナは、バイクを降り……目の前に聳える建造物を見上げる。

 大きな建物だ。およそ20階はあるだろう。高さとしては、ミッド首都の誇る高層建築物には及ばないが、その分、横に広く、まるで要塞の如き門構え。

「……もう、隠す気も無いってことかしらね」

 

――チキッ……カシャカシャカシャ

 

 多脚を備えたガジェットの軍勢が、二人の行く手を阻む。

 

「 「 うぉりゃあああああああああああああああああああああああああっ!! 」 」

 

 大群へ、二人が突っ込んだ!

 

 

 

 

「――――予想通りです」

 ドゥーエは、モニターに映し出されるスバルとティアナを観察しつつ、そう評した。

「ガジェットは全て消費して構いません。物量で疲弊を誘います」

 上空、市街地、各拠点……恐らくは手持ちのガジェット全てを損耗するだろう。だが、構わない。必要数のレリックを集め終え、起動にまで持ち込めた『ゆりかご』があれば、ガジェットなど取るに足らない損害だ。

 それらすべてを消費し、理想を阻む不確定要素を排除する。シンプルな答えだ。

「敵戦力は、想定の範囲内。およそ15分後に、ガジェットは全滅します」

 そして、背後に控える戦士二人へ。

 

「シータ。ガンマ。出撃」

 

 ……侵入せし外敵を排除せよ、と、告げる。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「おぉりゃっ!!」

 

――バゴンッ!!

 

 目に入る範囲にいるガジェットは、殲滅した。

『…………』

 索敵を続ける相棒は、状況の変化を告げない。次の部隊が来るのか、それとも。

「――……!」

 ティアナの、経験則からの直感が、警鐘を鳴らした。

 

――バチィイイイインッ!!!

 

 咄嗟に展開したバリアを、貫通する一撃。そして。

 

――バガァンッ!!

 

 天井を崩落させ、岩塊と共に打撃が降り注ぐ! 分断、奇襲の双方を兼ねた攻撃!

「スバル!」

「ティア!」

 名を呼び合う。

しかしそれは、分断されたことへの焦りではなく……互いの勝利への激励!

 

「どりゃあああああああああああ!!!」

 岩塊は震動波で粉砕。本命たるシータの蹴撃の雨に、体術で応酬する!

(防いだ……第一波!)

 敵の正体を知った今、素顔で動揺を誘う手は、もう通じない。クイント……シータは、着地からまだ完全には態勢を立て直しては……

「!」

 いない、と見せかけた、倒立姿勢からの、まさかの回し蹴り。

「くっ、」

 ガードの上から、大きく蹴り飛ばされる。

「……」

 シータは、ひょいと軽い身のこなしで体を起こし、再び構える。スバルもまた、構えを取る。

なぜ。どうして。

そういった疑問と言葉は尽くした。で、あるのならば。

「行くよ、母さん!!」

 ただ、力を尽くすのみ!

 

――ガァンッ!!

 

 剛拳のスバル。柔拳のシータ。

 同じ流派でありながら、真逆の打撃を繰り出し合う。しかし、スバルは拳闘家ではなく、管理局員として。シータは、外道のテロリストとして。

 

――スパァンッ!

 

 スバルの肘が、シータの掌打と相殺する。

「――!!」

「……」

 一瞬の硬直。的確にスバルの攻撃を対処し、捌いていくクイントは、スバルにとっては、苦手とする相手だ。打撃の威力が流され、回転運動へと転化。スバルの肘をホールドした状態。逃げようの無い蹴撃が繰り出される。

 

 

――『結局のところ、剛拳と柔拳というものは、相克関係です。熱量を上回る水は、火を打ち消しますが、……

 

 

「ふゥッ……!!」

 呼気と共に、全身に『気』を巡らせ……

 

――……火勢が強ければ、火は、水に消されることはありません』

 

「……どっせぇえええええええええええええいッッ!!」

 気合一閃。掴まれたままの肘関節で、クイントの掌を逆に拘束。肘を引き戻す!

 

――ドガァンッ!!!

 

 回転肘打ちを、シータの胴体に直撃させた!

「ごっ、……、」

 シータの蹴りも当たりはしたが、無理やりに距離を縮められたが為に、脚の根元付近が衝突したに過ぎず不発に終わった。

 

――シュパァアアアアンッ!!

 

 クイントの髪がしなり……暗器、ワイヤーが、スバルを絡め捕らんと迫る。極細の繊維。捕まれば、拘束どころか、四肢を切断されることだろう。しかし……

 

――バチィッ!!

 

「!」

 ワイヤーは、根こそぎスバルの手により掴み取られていた。

「……知ってたよ!」

暗器とは、『認識の外』より仕掛けることにより、最大限の効果を発揮する。もし、これが初対面で、初戦であれば、スバルは為すすべなく敗北していたことだろう。しかし、今回は、ギンガとの戦闘記録があった。

仕込み刃により、重傷を負わされたギンガだったが……シータという戦闘機人の『未知』を一つ、剥ぎ取るという、大きな戦果を挙げていたのだ。

 

――ギチィッ……!!

 

 シータはワイヤーを引く。スバルは、刃物の刃面に等しいワイヤーを、鷲掴みにするという失策を犯した。

このまま引いてしまえば、指の何本かを奪うことが出来るだろう……と。

 

――チュイイイイイイイイイイインッ…………!!

 

『周波数、チューニング完了!!』

「IS……震動破砕!!」

 

――バシィイイイイイイインッ!!!

 

 ワイヤーの繊維が、粉々に破砕される!

「はぁあああああっ!!」 

 右のリボルバーナックルが、シータの顔面を狙う!

 

――ドシィイイイイ!!

 

 しかし、そこまで単調な攻撃が通る筈が無いと、シータは両掌で受ける。

 

――――……ズ、ドンッ!!

 

「…………!!」

 ……受け切った。主武装である右腕に勝る破壊力は無い。きっとここで、スバルは右腕を引き、次の一撃に繋げるはず。

 

――――パンッ!!

 

「…………、?」

 ぐらん、と、シータの視界が揺れた。地面が、間近に迫り…………、

「、!!」

 放心から立ち返り、平衡感覚を強制的に復帰させる。が、反応が遅れ、がら空きの隙を晒してしまう。

 

――ガシャアッ!!

 

 中段蹴りが、シータの胸部装甲を破砕する!!

「…………!!」

 ここで、シータは初めて、焦りのようなものを見せる。

 

――データと違う。

 

 スパイであったセリカ……戦闘機人ドゥーエによってもたらされた内部情報には、当然、フォワードチームのものも含まれていた。訓練記録や、実戦記録から、戦法を予測することは容易く、それに応じた戦術も十分に練っていた。そこに、暗器によるアドバンテージを加えれば、捕獲など容易な筈だった。

 

 しかし、シータは知らなかった。

 

――パンッッ!!

 

「っ……!」

 スバルが、新たな技を身に着けていることと、それが正規の教官である、なのはと……部隊長・八神はやて直伝の技であるということ。

 

 リボルバーナックルは、相当に重量のある武装だ。重量からの物理的破壊力には、目を見張るものがあるとはいえ、それでもやはり、隙もある。『振り抜いた直後』と、『引き戻す瞬間』だ。

 

 しかし、恐らく……この隙は、なのはによって、恣意的に残されたもの。敵に情報が漏れていると判明したその時から。『弱点』があれば、敵は必ず突いてくるのだから。

 

 はやてがスバルへ授けたのは、正確には『技』ではなく、『動き』だ。

 ミッドチルダなどの魔法世界では軽視されがちな、体術。その全ての根幹となる、力積の考え。

 重量のある右腕を振り抜き、そこから引き戻す際、慣性の法則により、左半身は大きく前へ出る。その戻る勢いを、身軽な左腕での高速打突に転化し、『引きながら打つ』という、本来ならば、ロスとなるエネルギーの活用。

 

『――上手くやれば、お前の右腕の重量を、左腕で打ち出すことも、蹴りに乗せることもできる』

 

 これを取得したスバルは、打撃を重くするも、逆に軽くし、速くするも自在。右腕の重量を変幻自在に移動させ、攪乱も可能だった。

 

――ギャリンッ……!!

 

 マッハキャリバーの装甲を、シータの暗器が僅かに削り、火花を散らす。

「…………」

 やはり、そうだった。非常に高度に洗練された動作。しかし……それは、ルーチンをそのままトレースしているからに過ぎない。

 敵の攻撃という『問』に対して、思考というラグをすっ飛ばし、行動という『解』を返している。確かに、対応速度は飛躍的に向上するだろう。

 

……事前に用意されている『問』へ、ならば。

 

 しかし……完全に想定外のイレギュラーな要因へは、むしろ、その機械的行動は仇となる。新たにスバルが得た力には、現在のデータでは、有効な対策は無い。精々が、『組みつかれず、遠間から攻撃する』といった程度だ。しかし、その遠間も、スバルの機動力の前にはさほど意味を為さない。

 

「どっせぇえええええええええい!!」

 

――ドパァアアンッ!!!

 

「……!!」

 シータの身体が、打撃の威力に宙を舞う。

 浮いた。つまり、力を逃す場は無い。

「せァああああああッ!!」

 乾坤一擲の、蹴り!!

 

「ガふゥッ……!!」

 ガードごと蹴り抜かれ、もんどりを打って落下する。

 

――カチッ

 

「、!」

 俯いたシータの口内より、不穏な金属音が鳴る。カシュンッ、と、マスクが展開し、銃口がスバルを狙う。

 

退避。回避。

 

否。

 

「――いい加減、拳で語れぇえええええええええええええええ!!」

 

前進!!

 

――ボグシャアアアアッ!!

 

 ギミックごと、仮面ごと、顔面を殴り抜く!!

 

「、あ、ァ……あ」

 今度こそ、ブラフではなく呻く。

――このまま倒す。

 

 そう、判断するスバルの耳に……スピーカーのハウリングが届く。

 

 

『――――充分です(・・・・)、シータ』

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「……」

 スバル、シータの戦いが『動』だとすれば、ティアナ、ガンマの戦いは、ひたすらに『静』だった。

 四方を壁に囲まれた特殊施設。当時の物品が無数の影を作る中を、ティアナとガンマは、互いの位置を探り合いながら、読みを重ねていた。中途半端な攻撃は、逆に、こちらの所在を教えかねない。念話の盗聴の可能性も考え、クロスミラージュとの交信すら、今は止めていた。

「……」

 懐から取り出した手鏡で、曲がり角の先を最小限、映し出す。

(……クリア)

 だが、見たから安心……とはいかないのが、戦闘機人ガンマ……ティーダ・ランスターという男だ。足元に転がった、転がってもさほど音の鳴らない程度の小石を拾い上げ、手首のスナップで、いくつか壁に放る。

 あの日……ヘッドショットを喰らった日は、視覚にのみ頼ったことで失態を犯した。

 もう、二度と同じ過ちは繰り返さない。そう決意し、聴覚、触覚を最大限に研ぎ澄ます。

 やがて、幾つかの小石のうち……

 

――ジッ。

 

 一つが、壁をすり抜けた。

(……!)

 間違いない。ガンマの張った幻術だ。この幻術を解除し、通過するか……しかしティアナは、頭を振った。きっと、解除されることも想定済みのはず。ならば、『気付かなかった』フリをして、そのまま示された道を通ろう。

 事前に入手した施設の構造図を脳裏に浮かべる。このまま行けば……物資搬入用のシャッターと、開けた空間がある。

 きっと、そこへ足を踏み入れた瞬間に、狙撃なりの攻撃を受けるはず。

(クロスミラージュ)

 ここで、初めて通信を行う。多弁な相棒は、今日に限り、寡黙に命令を実行する。

 

――フェイクシルエット。オプティックハイド。

 

 二つの幻術を、同時に発動する。虚像を作り出す魔法、フェイクシルエットを発動するバックグラウンドで、こちらは姿をカモフラージュする魔法、オプティックハイドを発動する。これで、相手に検知できるのは、表で動かしたフェイクシルエットのみ。

四体の虚像を並べ……

(Go!)

一斉に、ダッシュさせる。

 

――ビシィッ!!

 

 早速、一体目が撃ち抜かれ、消える。

(狙撃ポイント割り出し!)

(合点!)

 馬鹿正直に撃ってくる相手とは思っていない。跳弾狙撃や、バナナシュート、射撃スフィアの可能性も考慮し、位置を割り出さなければならない。それまでは、まだ、全ての虚像を消される訳にはいかない。

 幻術と重なる位置へ、射撃スフィアを形成する。

「ファイア!」

 

――ドガガガガガガガガッ!!

 

 散弾をバラ撒き、クロスミラージュが割り出した候補を片っ端から潰していく。

 

――ビシィッ!!

 

二体目の虚像が、先ほどとは正反対の方角からの狙撃を受け、消える。

(まだまだ!)

 ティーダは恐らく、吹き抜けになっているこの空間の上階をぐるりと周りながら撃ってきている。360°、闇雲に撃つだけでは思う壺。だが……ティーダのステルスが如何に完璧であろうとも、攻撃の瞬間だけは、エネルギーに変動がある。その瞬間を、事前に予測できれば……、

 

(!)

 

――見つけた。

 

 ティーダが攻撃の瞬間に発する、変化。その予兆を、とうとう掴んだ。

 クロスミラージュの銃身が延長。フォアグリップとストックが装着された、カービン銃へと変形する。

(まだよ。まだ……)

 虚像には、全く見当違いの方向を攻撃させることで、気を逸らす。

 

――ビシィッ!

 

 ……虚像、残るは一体。ティアナは、息を殺し……片膝を立てた姿勢で、上階へ照準を合わせる。攻撃後にできる隙は、一瞬だ。その一瞬を逃せば、また、振出しに戻ってしまう。手の内も悟られてしまうだろう。

 

……撃つのは一発。隙は一瞬。

 

 知らず、引き金に掛かる指が緊張する。

(落ち着け、私…………落ち着け……!)

 

――ド、ク、……

 

 心臓の早鐘を、意識の外へ追いやろうとして。

 

――――『緊張や恐怖といった感情は、一般的には、敬遠されますが……

 

 敬愛する教官の言葉が、脳裏をよぎる。

 

――――……乗りこなせれば、これ以上に心強いセンサー(・・・・)は、他に在りません』

 

 ……そうだ。緊張を捨てるな。緊張に呑まれるな。

 

――――『戦場で、最もまずいのは……頭に血が上って、冷静な判断が出来なくなってしまうことです。もしも、それを一瞬でも自覚できたのなら……』

 

「すぅ……はぁ……」

 大きく、深呼吸。銃弾の飛び交うまっただ中で、それを行うことは努力を要したが……脳に、酸素を取り込むことが出来た。

 

――ビシッ、

 

「……!」

 跳弾が、ティアナの側腕を抉った。少なくない痛みに、思わず、得物を取り落としそうになる。

「……!」

 思わず、発射地点へと銃口を向ける。

 

 

――『おう、ティアナ』

 

 ヴァイスも、言っていた。

 

――『ライディングと同じだ。目の前だけ見てたんじゃ、脇道からのアクシデントに対応できねぇ』

 

 ……銃を、再び元の位置で構え直す。

 

――『状況を俯瞰して、計算して、二手先の動きをする。……予測だ』

 

 すっ、と、半歩、左に体を動かす。

 

――チュインッ……!!

 

 その位置へ、今度はティアナを狙ったと思しき銃弾が着弾するが、当たらない。二度目の着弾が無かったところを見る限り、ティーダに見破られたのではなく、先ほどの掠った一発から、確認の意味も込めた狙撃だったのだろう。

 

――――『いいですか、ティアナ』

 

――『いいか、ティアナ』

 

 ……その先は、奇しくも異口同音の言葉だった。

 

 

――――『頭はクールに、(ハート)はホットに』

 

 

 くっ、と、場違いな笑みが浮かんだ。

「……ええ、分かってるわよ」

 

――バシィッ!!

 

 最後の、虚像が散る。そして、同時に…………

 

――ばさぁああああっ!!

 

 虚像が、無数のコマ切れへと変じる。きらきらと、差し込む明かりを反射するそれは、チャフ。最後の虚像に、仕込んでおいたものだ。表面のアルミ箔はセンサーを攪乱し……スコープやセンサーによる観測を、一時的に不能とする。

 

(――いたぜ)

 

(――ええ)

 

 ティアナは……初めから、スコープは用いていなかった。己の視力でのみ、世界を観測していた。

 

――かしゃこっ……

 

 悪手。ティーダは、センサーを兼ねたバイザーを取り払った。

(……わざわざ、ありがとっ!)

 引き金を、引く!

 

――パシュンッッッ!!

 

 亜音速で発射された、漆黒にカモフラージュされた弾丸は……

 

――パシィイイイイインッ!!!

 

「! ……、……、!」

 ……ティーダの額、眉間を、正確に撃ち抜いていた。

 

 

 

 

 チャフがすべて落下し、センサーが復活したことで、ティーダの状態を伺うことが出来た。

『……意識だけを、綺麗に刈り取ったぜ』

「……じゃあ、確保ね」

 ティアナは、ワイヤーアンカーを使い、一足で上階へ駆け上る。

「………………兄さん」

 そして、そこには……カモフラージュ用の外套の中に埋もれた、倒れ伏すティーダの姿があった。

「……確保、かんりょ、」

 

 

『ガンマ。もういいでしょう(・・・・・・・・)

 

 

――――――――――瞬間、ティアナの背後から、濃密な死の気配が迫って、

 

――――――――

 

――――――

 

――――

 

――……。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

――人中。水月。丹田。

 

 

知覚できたのは、その三つのみだった。

「…………? 、……が、」

ずしゃっ……と、意識とは別に、膝を突く。目の前には、シータの蹴りが迫っていて。

 

――バガッ!!

 

「、っが……!!」

 ガードも間に合わず、蹴り飛ばされる。

 威力はある。しかし、これは、先ほどまで自分が捌いていたものと同じな筈。だというのに、なぜ……今になって。

 

 シータが、急激にパワーアップをしたのか?

 

 真の実力を隠していたのか?

 

 ……否。これは、シータが強くなったのではなく……

 

――――スバルが、弱くなったのだ。

 

『……ウイルス……だとぉ……!?』

 マッハキャリバーもまた、信じられない、といった口ぶりだ。

 

――――これぞ、真の暗器。

 

これまでの武装や、クイントとしての実力も……全て、ブラフ。全ては、この『毒』を、スバルに打ち込むための。ざざ、と、ノイズ交じりのスピーカーが、セリカが、語り出す。

 

『スバル・ナカジマ。戦闘機人0号(・・・・・・)。現行ナンバーズと比較して……機械的ハードウェアの割合が、高い。より、機械寄り(・・・・)の、戦闘機人』

「……!」

 だから、だろうか。人体に無意味な電気信号の塊であろうとも、戦闘機人の……機械を宿す体には、劇薬足り得るのだ、と。

『まさか……貴様……我のデータを……!』

 ……もちろん、そういった対策をしないほど、機動六課の開発室は無能ではない。幾重にも、ファイアウォールや、プロテクトを仕掛けていた。

 しかし……セリカ、だ。フォワードチームの指揮官として、そういった重要なデータに触れることは可能であり……また、無意識の盗み見により、情報の蓄積もまた、行われていた。

 それを……いわば、対スバル用ウイルスを、クイントに媒介させ……恐らくは、接触回線で、打撃を通じて、感染させたのだろう。

『―――当然。バックドア(・・・・・)も付属します』

 

――ガリガリガリガリッ……!!

 

 不吉な音と共に、マッハキャリバーにノイズが走る。

『あ、gあアアアアアアアアアアアアあaaa,.. . . . 』

「マッハキャリバー……!!」

『か、勝て…………かなrあz、かつ、のだ…………相棒……!!』

 プログラムを、無理やり書き換えられたか。この戦闘中での機能回復は、不可能だろう。

 

『IS『震動破砕』、機能停止。メインアクチュエーター、出力35%にダウン』

 

 ……残されたのは、まるで、水袋のような重い肉体。頼もしい筈の相棒が、今は、ただの重い手枷だった。

 

「……」

 クイントは、ダメージこそ残っているのだろうが、健在。彼我の戦力差は…………

(駄目、だ…………)

 計算するまでも無い。

 

(部隊長……教官…………ギン姉ぇ…………、ティア…………)

 

 振り上げられる、凶手。

 

(……………………ごめん……)

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

へったくれもなく飛ばなければ、背中を蜂の巣にされていた。

「ぅああああああっ!!」

 だが、無傷ではない。一発は、運悪く大腿部を貫通していた。

 ドサッ、と倒れ込む。

「……ど、どうして……!?」

 振り返ったそこには……

 

「…………」

 

 全く無傷のガンマが、銃を構え、佇んでいたのだ。

 思わず、足元に転がった、『ガンマ』を見やる。外套が捲れたそこにあったのは……

「人、形…………」

 ……それは、カカシのようなもので擬態された、一機のガジェットだった。

「まさか、最初から…………!!」

 

『――はい、最初から、あなたが戦っていたのは、その擬態です』

 

 セリカの声で、セリカが絶対に出さないような冷たい声色で、告げられる。

「…………それを、あんなに精密に、動かしてみせたっていうの……!?」

 遠隔操作やプログラムだけで……あそこまで、真に迫った『擬態』が出来ようものか。

 

『――いいえ。ガンマは、あなたのすぐ近くで、擬態を操作していました』

 

 返ってきたのは、否定。そんな近くに居れば、いくら隠蔽しようとも、気付く筈だと、ティアナは疑問を抱いた。

 

『――居ましたよ。搬入エレベーターシャフトの中に(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「あ、……!!」

 ……なぜ、見逃していたのか。閉鎖された空間。しかし、エレベーターシャフト内部は、中空。人一人が隠れることなど、造作も無い。

 

 上階に気を惹きつけつつ、その実、同じフロアで悠々とティアナを観察し……頃合を見計らって、擬態を、計算のポイントで倒させる。そして、エレベーターシャフトを伝って上階へ先回りをして……気を緩めたところを、背後から襲撃したのだ。

「……うぁああああっ!!」

 

――パパパパパッ!

 

 苦し紛れの連射。しかし、痛みにより照準は定まらず……ガンマは、悠々と歩を進める。そして。

 

――グリィッ……!!

 

 ……大腿部の銃創を、ブーツで踏み躙った。

「~~~~~ッッッ!!!」

 声にならない悲鳴を上げる。

「はっ、はっ、……がはっ……ああっ……!!」

 痛みのあまり、呼吸も儘ならない。

ガンマは、バイザーの向こうに、何ら感情を浮かべず……銃を、ティアナの頭部へ、照準する。

 

「う、…………」

 

 前回は、魔力で形成された非実体弾。しかし、今回は……紛うこと無き、実弾。

 明白な死のビジョンに、ティアナは、身体を強張らせる。

 

「…………、」

 

 結局、自分は……一生、兄には追いつけず終いなのだろうか。あのころから……兄の背中を追いかけていた頃から、何も…………

 

「………………、なのはさん…………スバル…………」

 

 恐怖も緊張も、浮かばなくなった。ただ、無念だった。

 

兄を蔑まれ。自身を蔑まれ。いつか、いつかの日か……と。その誓いが、果たされぬまま、終わってしまう。それが、ただ、無念だった。

 

 死に際の走馬灯だろうか。

 デルタが引き金に掛けた指が、徐々に、それを引き絞ろとしていることが理解できた。

「……悔しい」

 涙に震える声が、口を突く。

「……悔しいッ…………!!」

 ぼうっ、と、残り火だと思っていた意志に、再び、火が灯った。

『――無念でしょうね。あなたは、何も成せぬまま、ここで終わるのです』

 

――震える手が、まだ、相棒を手放そうとしない。

 

「言ったんだ……!! なのはさんに、『行ってきます』って!

 

約束したんだ……! ちゃんと、『ただいま』を、言うって!!

 

 

誓ったんだ!! もう、なのはさんを、悲しませないって!!」

 

 

 二度も、大切な人を亡くした彼女に……三度目は、あってはならないのだと。

 恩師に、友に、己に誓った。

 

 

――――不屈の意志を。

 

 

 引き金が、引かれていく。ティアナはクロスミラージュの照準を、合わせる。

「誓ったんだ……! だから……! だから!!

 

 

――――こんなところで、終わってたまるかぁあああああああああああ!!」

 

 

 

――――……!

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

――――ガキイィイイイイインッ!

 

 ……シータの放った凶手が、弾かれる。

 

『――――なに?』

 

 ドゥーエの、動揺する様。

 凶手を弾いたのは……スバルの、左腕。

 

……お守りとして持たされていた、ギンガの……もう片方の、ナックル。

 

 それを使ったのは……ほかでもない、スバル自身だった。

「……ごめん、皆」

 重苦しそうに……しかし、スバルは立ち上がる。

「……ふんっ!」

 

――バキッ!!

 

 己の頬を、拳で殴りつける。

『……気でも、狂いましたか』

「ううん。 ――――一瞬でも諦めた……私自身への、罰」

 

 その目に宿るのは、不屈の意志。

「手も足も、まだ動く。 

 

――まだ全然なんにも、終わってなんかいない!!」

 

『……愚かですね。武装を増そうと、それを支える出力が、大きく減衰しているのです』

 

「……」

 スバルは、マッハキャリバーの装甲板を開き、内部の非常用コンソールにアクセス。

 

――バシュンッ!

 

 カートリッジシステムを排除。装甲板の85%を分離することで、更に軽量化。

 ブーツを脱ぎ捨て、ほぼ生身となる。

 

『――正気ですか? 今、その生身にも等しい状態でシータの拳を喰らえば、死にますよ』

 

「――」

 ……スバルの構えが、変わった。

 左腕を、腰だめに。右腕を、緩く上げる。片足を突き出し、半身。

 

『――何かと思えば、猿真似ですか』

 当然、この技のオリジナルのデータも、シータは把握している。そして、その攻略法も。

 

――ダンッ!

 

 シータが踏込み……体術での攻撃を仕掛ける。この技は、徹底した後の先……カウンターだ。それも、敵の力を利用するタイプの。なるほど、確かに、弱体化したスバルが使うには、理に叶っている。しかし……それは、オリジナルほどの技量があって、初めて成立する技だ。そして、純粋な体術で、構えを崩してしまえば……今度は逆に、無防備を晒してしまうのだ。

「……」

手刀打ちで、真っ先に動作する右腕を払ってしまえば良い。シータの、油断など無い攻撃が、右腕を払い…………

『――終わりですね』

 

――――パシィインッ!!

 

 ……払われた。シータの手刀(・・・・・・)が。

『なっ……』

 スバルは……自ら、その構えを崩し……回し受けで、シータの手刀を逆に払ったのだ。

 右で払い……残るは、左のナックル!

 

――ガシャアッ!!

 

 まさか、土壇場で…………スバルは、新たな型を、編み出したのだ。

『――で、ですが、同じ手は……』

「うん。もう使わない(・・・・・・)。単に、間合いを取りたかっただけだから」

 そして、スバルは……

 

――足を肩幅に開いただけ。両腕を完全に脱力させた。

 

「もう、身体が重くて、重くて、大変だから………………一番、ラクな動き(・・・・・)で、やることにした」

 

 緊急時にこその、脱力。

……言うは易し。行うは難し。それは、武の道における、『極意』だ。

 

「――行くよ。母さん。――――――セリカ」

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

――ガチィイイイインッ………………!!

 

 …………それは、銃弾が、ティアナの身体を貫く音ではなかった。

 壁に衝突した、一塊の金属塊が、転がり落ちる。

「……………………!」

 ガンマが、驚愕の気配を発する。

その金属塊は……二つの銃弾が、正面部から、互いにめり込んだ形。つまり…………

 

――ティアナは、銃弾を銃弾で狙撃したのだ(・・・・・・・・・・・・)

 

『――まぐれです。油断せず容赦せず、続けなさい』

 

 ドゥーエの声に応じ、ガンマは再び撃つ。今度は、頭、心臓を狙う二発だ。

 

――ガ、ガァン!!

 

 …………しかし、結果は。

「…………」

『そんな、馬鹿げた芸当が……!!』

 

 ティアナは……よろよろと。しかし、確固たる意志を目に宿し、立ち上がる。

 その目に映るのは…………

 

――――モノクロで(・・・・・)時間の流れが止まったような(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

――――神速(・・)の、世界。

 

 

 土壇場の……死に際の、極限の集中力が、ティアナをこの世界へ……否、覚悟と決意を以て、自ら、この世界へ足を踏み入れたのだ。

 

(……ああ、見える)

 

 ガンマが、引き金を引く動きも。炸薬が破裂し、マズルフラッシュが焚かれる瞬間も。 ガンマの筋肉の動きから、次の動作に移るまでも。飛来する弾丸が、空気の壁を螺旋を描いて突き進む姿も。

 

(あなたの居る世界が、見える!!)

 

 緩慢な時間の中。自らの動作だけは、鈍ることは無い。銃弾に照準を合わせ、引き金を引く。

 

――ガガガガガッ!!

 

『――! そのまま、撃ち続けなさい!』

 ドゥーエの声が、勝利を確信する。ティアナの残弾数が、先に尽きる計算なのだ。そして、それはティアナも把握していた。

『リロードの隙なんて、与えない……!』

 そして、弾切れ……の、筈だ。しかし。

 

――ガガガガガッ、ガキィンッ!!

 

『何で、何でまだ、撃ち続けてるのよ!?』

 ……ドゥーエが、この現象を解明できていたとしても、結果は同じだろう。

 

――――ガキンッ…………

 

 ティアナが撃った銃弾は、ガンマの銃弾を弾き飛ばし。その弾かれた銃弾が、更に他の銃弾を弾き…………

 

――ビリヤードのように、銃弾を迎撃し続けているのだと、判ったなら。

 

 もし、これが魔力弾だったとしても……結果は、同じことだろう。とはいえ、隠密性を向上させるため、ほぼ実体弾の装備しか与えられていなかったガンマには、詮無き話だろうが。

『身体スペックの差で、ねじ伏せなさい!!』

 最早、銃撃は無意味と悟ったのか、そう指示を出す。

 

 ティアナは、高速化された思考の中で…………切り札を、切る。

 

握りこんだ、一発の薬莢。それは……

『チャージングカートリッジ……? 今更、そんなもので何が……!』

 真の、切り札。最後の、…………最強の、切り札。

 

「…………集え(・・)星よ(・・)

 

『――――Starlight !』

 

 矢尽き、刀折れ……。そんな、最悪の状況に陥った時。必ず、生きて帰ってくるようにと。厳しいくせに、妙に心配性な教官が、ティアナに託したもの。

 

 

――キュイイイイイイイイイイイイン…………!!

 

 

 集めるのは、一発分で良い。

 

ただの一撃を、貫くだけの力で良い。

 

たった一つの術式を、発動できるだけで良い!

 

「今……目を覚まさせてあげるわ、兄さん。……セリカ!」

 

『あ、あ…………!』

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

『あ、あ…………!』

 

 シータが、攻撃を仕掛ける。

最後の最後……暗器だらけのシータが頼りにしたのは、己の肉体だった。

「今……目を覚まさせてあげる」

 シータの突撃を……まるで、速度が無かったかのように。柔らかく、掌で受け止める。

 

 

 歩法。力積。寸勁。剛体。脱力。

 

 

 学んだ全てを……この一撃に込める!

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

ティアナのカートリッジに込められた術式と、スバルのナックルに込められた、一つの術式が……トリガーボイスと共に、発動する。

 

 

 ティアナの……ランスターの銃弾が。星の光と共に撃ち放たれ――

 

 

 スバルの辿り着いた境地、『不動の打撃』が、威力の全てを、炸裂させる!!

 

 

 

「 「 『 不屈の心は、この胸に!! 』  」 」

 

 

――――解呪の、生命の光が、ガンマを、シータを……

 

 

――――呪いの牢獄から、解き放った――!!

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「てぃ、ティア……だい、だいじょーぶ……?」

「これが、大丈夫に見えるっての……? あ、いたたたた……!」

 シータを担いで、大回りをして、どうにかティアナと合流を果たしたスバルだったが……ティアナは、更に重症だ。何せ、銃弾が足を貫通したのだ。大動脈や神経、骨は奇跡的に無事だったが……少なくない出血がある上に、死ぬほど痛い。

「……とりあえず、ここに寝かせましょう。もう、安全な筈よ」

「……うん」

 クイントとティーダを、横にする。二人とも血色は良く、呼吸も穏やかだ。

 

 スバルは、ティアナに肩を貸して……指令室へと、歩く。

 

――パシュウッ……

 

 ロックは、されていなかった。かといって、中がもぬけの殻……ということはない。

 

「――――……来ましたね」

 

…………ドゥーエが、満身創痍の二人と、相対する。

「――――さ、わたしの負けを認めましょう。何なりと」

 無感情に、背を向ける。

「…………」「…………」

 つかつかと、歩み寄っていく。

 

「――先に言っておきます。わたしは、戦闘機人No.2ドゥーエ。あなた方へのスパイとして、潜入任務に中っていました」

 

 ……

 

「――クラウン家息女。セリカ・クラウンというのは、存在しない戸籍であり、偽名です」

 

…………

 

「あの人格・振る舞い・言動その他すべては、あなたがたの……あなたがた、の、信頼を得るために計算され、用意されたものです……ので……わたし……本来のもの……では……、ありません」

 

 ………………

 

「つまり、あなたがたの知る、『セリカ・クラウン』という人物は、そもそも……虚像、…………存在しない、……もの、で…………裏切ることが前提の………………、過ごした……時間も、思い出も…………全部、全部が、仕組まれた…………嘘で……………………」

 

 

「違うよ、セリカ(・・・)

 スバルが、慈悲のこもった声で、ドゥーエの背中に語りかける。

「あなたがどんなに否定したって……私に……私たちにとっては、もうあなたは『セリカ』なんだよ」

「――違います」

「真面目で、責任感が強くて……でも、どこか抜けていて。変なところでアグレッシブで、たまにトンチンカンな、妙ちくりんな、…………皆に優しくて、しっかり者の、セリカ」

「――違います」

「訓練校から、ずっと一緒だったよね。私、デスクワーク苦手でさ……よく、お説教されながらだけど、手伝ってくれた。一緒に買い物に行ったり、食事したり……、海鳴市で、すずかさんと、すっごく楽しそうに、」

 

「――――違うって言っているでしょう!!」

 

 振り向いたドゥーエは、決して認めまいと、言葉を叩きつける。

「わたしは! 戦闘機人のドゥーエ! その都度その都度、都合のいい記憶と人格をインストールされて、裏切るために信頼を結んで、最後には何もかも、素知らぬ顔で忘れてしまう……友達ゴッコ遊びをするためだけの、ただの、お人形なのよ! どうせ……どうせ、あなた方のことも、スイッチ一つで忘れてしまうのよ!!」

 

――バチンッ!!

 

 ……ティアナが、ドゥーエの頬を張った。

「――――……どうして、」

 茫然とするドゥーエ。ティアナは、怒りと、悲しみをごちゃまぜにしたような顔で、ドゥーエを睨みつける。

 

「――――だったら、どうしてアンタはそんな顔してんのよ、セリカ!!」

 

 人形。そう自嘲したドゥーエ。だが……いま、二人に向けたその感情は。偽りでも、仮初でも無く……

 

「――セリカ、泣いてるじゃない!!」

 

「う……嘘! 嘘よ! こんなもの、こんなもの…………どうせこれも、嘘っぱちで……」

 ごしごしと、乱暴に目元を拭う。その手を、ティアナが掴み、無理やり目を合わせる。

 

「どうして、諦めるの!! どうして、どうして…………どうして、『嘘じゃない』って……『忘れたくない』って、言わないの!! 言ってよ! そうしたら、そんなふざけたスイッチ押す奴なんて、みんなブッ飛ばしてやるわよ!! お人形扱いする奴なんて、みんなシバキ倒してやるわよ!」

「! 嘘! 嘘ですわ(・・・)! たかがお人形のわたくしに、そんなこと、言ってくれる人なんて、いるわけありませんもの!」

 

――バチンッ!!

 

「シバキ倒すって言ったわよね!?」

「わたくしもですの!?」

「当たり前じゃない! 今度はもっと強く殴るわ!」

「ど、どうして…………どうして…………そんな…………」

 ティアナ、スバルに、手を握られたまま……どうして、と繰り返す。

「…………セリカ。本当は、わかってるんだよね。ちゃんと、わかってる」

 その手を、振りほどくことはしない。

 

「私たち、私たち…………、」

 

 

――――――…………友達じゃない。

 

 

 …………その言葉を、彼女は……一体、どれほど、待ち望んでいたのだろう。

そんな、他愛も無い言葉を…………一体、どれほど。

「う、」

 そして……決壊。

 

「うわぁあああああ~~……!! 嫌ですわ、嫌ですわーーーー!!! スバルさぁああああああん、ティアナさぁああああああああああん……!! どうして、わたくしばかりが、こんな目に遭わなければならないのですかぁああああ……!! 忘れたくない……忘れたくないいいい……!! みんなのこと、忘れたくないぃいいいいいいい……!! まだまだ、やりたいこと、行きたい場所……まだまだ、いっぱいあるんだぁああああああああ…………!!」

 

 ……彼女は、そんな当たり前のことを言うことさえ、許されなかったのだろう。

ひんひんと泣きわめく……セリカ、を見て、スバル、ティアナも、涙を流す。

「嘘とか言うなよ、この薄情者ぉおおおおお……!! 私だって、傷つくことぐらいあるんだぞぉおおおおお……!!」

「このバカ! ウルトラバカ! スペシャリティバカ!! そんな簡単なこと、もっと早く気付けバカぁああああああああああ……………………、

 

あふぅ……」

 

 …………ティアナは、忘れていた。自分の足に、でっかい穴ぼこが開いていることを。

「ひゃあああああああああああああ!! ティアーーーーーー!!」

「ティアナさぁああああああああん!! しっかりしてくださいましーーー!!!」

 救護キットから取り出した包帯と止血剤で、どうにかこうにか、死なずに済んだティアナだったが……

 

 

――――その三人を見て、『友達』という以外の言葉は、決して当てはまらないだろう。

 

 

 

 

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