魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

137 / 174
StrikerS編 第十六話

 

 

――――ふぅん。キミが、あの『英雄』の息子か

 

 

 初対面での第一声が、それだった。

 

 父を亡くし、己が道を定め、歩き出した頃。同期の中では最年少。

集まる好奇の視線に事件の余韻を残す中、着なれない制服に身を包み、入隊の訓示を聞き終え、割り当てられた部屋へ向かう途中。気遣い……腫れ物に触るような態度を取るばかりの同期たちの中で、奴は絡んできた。

 

――――キミはあれかい、偉大な父親の跡目を継ぐつもりかい?

 

 周囲の者がそれとなく態度で窘める中、奴は平然と、そこを突いてきた。

 無礼。不躾。無神経。その不快を態度に出さずにいられるほど、その当時はまだ自制が効いていなかった。それがどうした、と返す。

 

――――別に。ただ……

 

 他人の神経を逆なでする声。しかし、その目にあったのは……

 

 

――――強力なコネがあって、羨ましいと思ってさ。

 

 

 ……明確な、あからさまな対抗意識。明らかに年下の、頭二つは小さかったクロノへ、それを示した。

 当然、最悪の第一印象から始まった関係は、険悪そのものであったが……ふと、思うことがあった。

 

――――奴以外、良くも悪くも、真正面から突っかかって奴が、他にどれほどいただろう。

 

 と。

 

 

 そして今、目の前には、あの日と変わらぬ対抗意識を燃やす瞳が待っていた。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

ざざざ、と、オフロードバイクの後輪が、僅かに滑りながら止まる。

 

「――こちらクロノ・ハラオウン。目的地に現着」

 

 クロノが向かっていたのは、敵の拠点の一つだった場所だ。現在は、上空を飛翔する敵『ゆりかご』が発艦した座標。単なる整備基地であると考えられていた拠点だったが、今現在も、無視できない出力のエネルギー炉が生きており、何らかの意図があると踏んだはやてが、単身でクロノを先行させていた。

『こちらアースラ了解。現地のマップを送信します』

 送信されてきたマップは、最新のスキャン結果を反映したものだった。やはり、『ゆりかご』発艦の際の衝撃で、壁が崩れている個所が多い。バイクの排気音は目立ちすぎることもあるため、ここから先は身一つで潜入する必要がある。

 

 その、敵アジトと思しき洞穴の内部は、岸壁を素掘りした内部に、鉄骨や足場、さまざまなケーブルが通されていた。

 

――――。

 

 クロノの眼前。

非常灯以外の消えた、薄暗い洞穴の向こうに、僅かに魔力の光が瞬き……

 

「これはこれは、クロノ・ハラオウン『元』執務官どの。遠路はるばる、よく来たものだと歓迎してあげようか?」

 

 道化師のバトンのようなデバイスに灯した光を松明代わりに、皮肉たっぷりな挨拶と共に、キーアが姿を現した。

「……おやぁ?」

 にやにやと、クロノの姿を眺め……。

「ははは! あっはっは! なぁんだ、あれだけ啖呵を切って出て行ったくせに、ちゃっかりと出戻ってきたってワケ!?」

 げらげらと、下品に嘲笑した。

「すっごいよねぇ、あっさりと返り咲けるなんて、さすがは『英雄』の息子の政治力ってやつぅ? 心底羨ましいわぁ!!」

 ……キーアほど、他者の神経を逆なでする技能に長けた者も、そうそう居るものではない。そう、これらは……キーアの持つ、『相手を怒らせる』という、立派な『技能』なのだ。

 で、あれば。クロノの取るべき行動は、おのずと決定する。

 

「次空管理局・特殊案件処理専門・独自権限保有『機動六課』所属、執務官クロノ・ハラオウンだ。当施設の事件関連性・違法性が、当部隊の独自権限の範疇における捜査の対象として妥当であると判断し、強制立ち入り捜査を執行する」

 

 決して揺さぶられず、淡々と職務を果たすのみ。

「…………」

 キーアは、馬鹿笑いを止め、クロノを見やる。やはり、挑発だったようだ。

「悪いけど、こちらも権限を以て、捜査を拒否するよ」

「ほう……どのような?」

 言い淀んでは、後ろめたさが露呈する。で、あれば、ここは。

 

「――――デイリン・グレンジャー中将の特命により、如何なる者も通すべからず、との任を頂いているのでね。上官命令ってヤツさ。僕は、それに従うのみだ」

 

 クロノと、キーアの視線が交差する。

「それは、自供と取っても問題は無いか?」

「自供? はてさて、何のことやら。僕はただ、この場での任務を上官より仰せつかっているだけのいち局員だよ?」

「では、キーア・ソナタ執務官へ問おう。貴官の裁量による判断において、当施設の事件関連性・違法性の有無を述べられよ」

「微塵も無いねぇ」

 当然だが、そう断言する。『後ろめたくないのなら見せてみろ』、という文句が通じるレベルのやり取りではない。このままでは、互いの権限が衝突し、膠着状態へ陥ってしまう。

 だが……クロノは、それを見越していない訳ではなかった。

 

「――――では、捜査ではなく……検証をさせてもらおう」

 

 かちっ、と。クロノが手元で、何らかの操作を行う。すると……、

 

――――ビー! ビー! ガシャッ!! 

 

 キーアの背後より、多脚装備型ガジェットが、施されていた迷彩を強制的に排除され、突如として駆動を始めた。

「なっ、……!?」

 ぎょっとして、クロノの手元を確認する。簡素な、スイッチのようなもの。

 キーアは知る由もないが、それは、マリエルがガジェットの操縦系統を解析した結果による成果……言うなれば、『ガジェット暴走装置』である。

「なんなんだよ、これはよォおおお!!」

 

――バガァンッ!!

 

 ランプをめちゃくちゃに明滅させ、無様なダンスを踊るガジェットを、キーアが粉砕するが……既に、遅い。

 

「――『ナンバーズ』所属機体を確認。事件関連性在りと断定。管理局執務官キーア・ソナタの関与、並びに虚偽申告による事実隠匿を現行犯で確認。これより制圧を開始する」

 

 …………キーアは、余裕綽々なようでいて、これでなかなか狡猾で用心深い人物だ。己の身の他、必ず、何かしらの保険を掛けている。更に、容易に調達可能であり、情報漏洩の心配の無いガジェットを用いてくることは、ほぼ予想できたことであった。

「これ、違法捜査じゃねぇのかよ、あァ!? あわよくば制圧して、証拠能力があるとでも……!!」

 見苦しく言い募るキーア。だがクロノは……

 

「――――証拠が有ろうが、無かろうが……どうだっていいんだよ」

 

 凄味のある笑みを、浮かべた。

「な……!?」

「俺の役目は、この施設の最奥に到達し、詳細を部隊へ報告すること。別に、違法捜査で公安が動こうが、その時には、既に事件は終わっている(・・・・・・・・・・・)

 そこから先は、はやて達の領分になるだろう。スケープゴートも、トカゲの尻尾切りもさせないと。クロノの『行動』に、違法性があろうと、無かろうと…………

 

「俺は、事件を捜査したいんじゃない。

 

 

――――――事件を解決したい(・・・・・・・・)んだよ」

 

 

 その、あまりに破綻的で…………それでいて、『己の身を勘定に入れない』という、究極の合理性。『執務官』という立場さえ、クロノにとってはカードの一枚に過ぎない。

 

「て……鉄砲玉か、お前は……!」

 

 ふ、と笑う。

「鉄砲玉か。それつはいいな。一発の弾丸は、事件の真実を撃ち抜ける」

 クロノは……目の前の、『己の立場』に拘泥する甘ったれた小僧に、言い放つ。

 

「――――砂糖菓子の弾丸は、撃ち抜けないんだよ」

 

 それが、合図だった。

「クロノォオオオオオオオオオオオオオーーーー!!」

 キーアのデバイスが、魔力弾を形成する!

 

――――ズバシャアアアアッ!!

 

 基本技でもある、スティンガースナイプ。クロノが得意とする魔法であり……キーアも、それに勝るとも劣らない使い手だ。

 心理戦にばかり強いと思われがちなキーアだが……その戦技の実力は、十分に執務官足り得るものを備えている。

 

――ズガンッ!!

 

 互いの魔法を相殺し、発生した煙幕を前に、キーアは通路の陰に身を隠す。

(くそ……! クロノが、こんな手を使ってくるとはな!)

 用心深く、突破口になるであろう動線に、バインドや炸裂弾などのトラップを設置していく。これで、また互いを読みあう膠着戦になる。

(まぁいい。どちらにせよ、ボクの勝ちだ)

 キーアの役目は……そのままズバリ、時間稼ぎだ。この施設、最奥へ秘された『ソレ』が起動するまで、ただこうして、居座っていればいい。

『勝つ』ことを捨て、『長引かせる』だけに注力するならば、これほど楽な戦いも無い。ひたすら、防戦と妨害に徹すれば……、

 

――――バキバキバキィッ!!

 

 ……という、キーアの目論見は、費える。

「!?」

 キーアの設置したトラップ。有利な位置。その全てを、根底から覆される。

 

「……氷、だと!?」

 

 その全てが……凍てついていた。氷の橋を足場に、悠然と、クロノが歩を進める。

「……そうか、お前は、知らないのか」

 

 闇の書事件の顛末。決め手となったのは、デュランダルの持つ『分断』の力。デュランダルとは、それに特化したデバイスであると。

 

――しかし、キーアは、デイリンは、知らない。

 

 クロノが持つのは、『真の』デュランダルであるということを。

 グレアムによって歪められた姿は、プレシアの助力により『氷結』の力を取り戻し。『彼』の能力により完全なる姿を得た。

「くっそがァああああああああああ!!」

 

――ダンッ!

 

 氷上の助走から、一気に距離を縮める!!

「おらぁあああああっ!!」

 グシャッ! と、キーアの顔面へクロノの蹴りが突き刺さる。

「好き勝手しやがってぇえええ!!」

「ぬ、!?」

 しかし……キーアもまた、一方的な展開をさせない。クロノの足首をバインドで拘束し、移動系魔法を発動。壁面へ、クロノを投げつける!!

 

――ダァンッ!!

 

「く!」

辛くも着地を成功させたものの、やはりダメージはある。しかし、呻いている暇は無い。

 

――ドォンッ!!

 

互いの砲撃が衝突する。その衝撃波が、キーアの展開したトラップ、クロノの対策である氷を吹き飛ばし……岸壁そのものを、一部崩落させた。

「!!」

 退路が塞がれた。その事実に、キーアが一瞬、気を取られ……

「ソリッドぉおおォッ!!」

 

―――ドンッ!!

 

 強化されたクロノの拳が、キーアのどてっ腹に突き刺さった!

「ごふぅうっ……!!!」

 原始的かつ、効果的。いわゆる、典型的な『ミッド式』術者であるキーアは、ベルカ騎士や、機動六課の面々ほどには、肉体を鍛えてはいなかった。

「……ブラスタァアアアアアアアアアア!!」

 しかし、内臓系へのダメージを喰らって尚、演算を中断しなかったキーアには驚嘆する。

 

――ズバアアアアアアアアアアアアッ!!

 

 熱線の砲撃!

「くぅっ……!!」

 デュランダルによる氷結の盾。しかし、咄嗟の発動では、十分に防げない。バリアジャケットの肩口を焼き焦がされ、一時的に可動範囲が奪われる。

 

――ガキン、ガキンッ!!

 

「!」

 更に、バインド。デュランダルと、残りの片腕が拘束される!

「はぁははは!! これで……!!」

 にたりと笑い、クロノへと砲撃を敢行する!

 

――ギィイイイイイイイン……!!

 

 魔力スフィアが展開される!

 しかし、クロノは…………

「……詰めが甘いのは、変わらないな!!」

 そのバインドが、『座標固定』ではなく、より発動速度に優れる『機能制限』であることを解析した。ならば……多少は動ける。

「……!!」

 クロノは、上体を、思いっきり後方へ逸らし……!!

「――――ぜァああああああっ!!」

 

――――ガゴンッ!!

 

 直伝の、石頭ヘッドバット!

「うゴぉッ……!?」

 

――――バシュウウウウッ!!

 

 見当違いの方向へ飛んでいく砲撃。

「……がぁああああああ!!」

 

――――ドンドンドンッ!!

 

 しかし、至近距離が裏目に出た。キーアは、デバイスの先端をクロノに密着させた状態で、単純な魔力弾を連発した。

「ごほぉっ……!!」「ぐ、が……!」

 内臓が口から飛び出しそうな衝撃。しかし、キーアも、クロノも、互いの襟首を掴む手は緩めず。

「「がぁああああああっ!!」」

 

――バゴォッ!!

 

 互いの顔面を、殴り抜く!

「ぐ、ううう……!! くそ、くそ、くそ……!!」

 キーアは、苦渋を浮かべながら……懐から、黒炎の容器を取り出す。幾度も躊躇し、しかし……クロノ相手に、躊躇っている時間が命とりになる。

「くっそおおおおおおおおお!!」

 

――ゴォオオオウッッ!!

 

 叩きつけられた容器が破裂し、キーアのデバイスを中心に、身体が黒炎に包まれる。

 この黒炎の作用こそ、多少は解析されてはいるものの……その副作用には、まだ未知の領域がある。

 戦闘機人のような頑健かつ、いくらでも部位交換可能なボディを持つ者にとっては、単純な強化装置を兼ねた予備エネルギーとして使用できているが……生身の人間が使用した例は無い。保身を第一にするキーアだが、既に後が無いからこその使用だった。

 既に、退路は断たれ退くことは出来ず、用意していたガジェットたちは役に立たず、増援は見込めない。

 

――ギュルルルルルルルルルッ!!

 

 キーアの頭上に、魔力の炎が、球状へ収束していく!

 

「だが、この攻撃は防げまい!! ボクの魔力に、黒炎のエネルギー……! 密閉環境で放てば、内部を埋め尽くし逃げ場も無くなる!!」

 

 高らかに、勝利を宣言する。しかし、それを受けたクロノは、冷静を保ちデュランダルを、S2Uを構える。

「良く言えたものだな。

 

 

――――生まれて初めて、『真剣勝負』をするような男が」

 

 

「だ、」

 キーアは、最後の余裕さえも失い。

 

「――――だァまれェええええええええええええええっ!!!」

 

――グオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!

 

 黒炎は、キーアの激情に反応するかのように、激しく燃え盛る!!

「…………!!!」

 クロノは、その火球に対して……真正面から、突っ込んだ!

「ぁーーーーっはっはっはっはっは!! み、見ろ! 僕の勝ちだ!! こうなるのが、当然の……、っ!?」

 しかし。

 

「――うぉおおおおおおおおおっ!!」

 

 クロノが、火球の内部を突っ切る!!

『All Divided !』

 限界駆動で輝く、デュランダル!

 

「ぶ、『分断』で、……黒炎と、僕の魔力を、切り離して……!! 熱を、『氷結』で中和したのかっ……!」

 

 そして……当然のことだが、キーアの周囲、最低限の範囲に限り、自滅を防ぐため、多少の安全圏が確保されている。つまり……この状況においては、『飛び込んだ方が安全』なのだ。しかし、これだけの威力を前に、その選択肢を実行できるだけの精神力とは。

「はは……あ、ありえない…………!」

 キーアは……拳を振り上げ迫るクロノを、茫然と見ているしか出来なかった。

 

 

「――インパクトぉおおおおおおッッ!!!」

 

 

――――ドパァンッ…………!!

 

「………………!!」

 キーアは、吹き飛ばされ……岩壁に、強かに身を打ち据えられる。同時……黒炎の効果が終了する。

 

「……キーア・ソナタ。事件への関与、殺人未遂、並びに……公務執行妨害の現行犯で、逮捕する」

 

 手枷を嵌められ……キーアは、完全に捕縛された。

「…………」

 拘束されたキーアはしかし、対抗意識に満ちた瞳だけは、クロノへ向け続けていた。

「……そうだよなぁ。ああ、そうだよなぁ!! クロノ、お前は、僕のことなんて、視界に入ってすらいねぇんだよなぁ!!」

 拘束されながらも、意地で立ち上がり、クロノへ激情をぶつける。

「その、自分の目標以外、何にも映ってねぇ目が、僕は嫌いで、嫌いで、……!」

「キーア」

 ……クロノは、その目を、…………思えば初めて、真正面から見据えた。

 

 

「――――俺は、お前が怖かったよ」

 

 

 …………キーアは、動きを止めた。

「お前の言うように……俺は、『父の跡を継ぐ』という目標のため、その第一歩のため、執務官になることに必死だった。脇目も振らずに走らなければ、辿り着けないと思っていたからな。訓練校を主席で修了し、特待で実務経験制限を免除されることが、あの頃の俺にはどうしても必要だった。だが…………実技でも、座学でも、すぐ下に僅差で、お前が付けてくる。だから…………俺にとって、『キーア・ソナタ』は、いつだって……

 

――俺を脅かす、強敵だった」

 

 ……その、真実の告白に、キーアは。

「……はは、なんだよ、それ…………完全に、僕の、独り相撲だったってコト……?」

 毒気が抜けたように、俯いてしまった。しばし、沈黙し……

 

――ピッ。

 

 …………デュランダルへ、あるデータが転送されてきた。

「、これは」

 キーアのデバイスからの、無害な情報通信。そこには、事前の調査では明かされていなかった、隠し通路の存在が示されていた。

 

「――情報提供だ。クロノ・ハラオウン執務官。……クライスラー事件の真実を、伝える」

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 事件の名の由来にもなった、クライスラー実験施設。そこでは日夜、拉致された市民を材料にした人体実験や、違法性薬物の密造、兵器の開発などが行われている……

 

――と、いうのは、全くの出鱈目。

 

『クライスラー』などという組織は存在せず、拉致された市民も存在せず、そもそも、実験設備などありはしない。設備は、AMFを中心に、『対魔導師』を徹底的に対策した要塞である。主犯とされた男は、死刑囚を洗脳し、仕立て上げられた傀儡であり、真の黒幕は、表に出てすらいない。

 

 その通報、事前に得られた情報すら、偽造あるいは捏造されたものであり……「管理局が、適度に高ランク魔導師を投入しても違和感の無い」レベルの事件性を持たされているものであった。

 

――――その目的は、『高ランク魔導師の集団拉致』にある。

 

 拉致後には、全てが死亡、全てが行方不明では、逆に不自然な点が残るため、死体を捏造し、死者・不明者が、適度にバラけるよう工作された。

 

――陸士108部隊、通称『ゼスト隊』のメンバーが、今回のメインターゲットだった。

 

 Sランク魔導師や、特殊技能を持つ結界魔導師、近代ベルカ式の実力者。彼らを、徹底的に解析することで、『戦闘機人』に次ぐ別系統の戦力……『F』を用いた、『人造魔導師』の製造技術を確立するために。それによって、『高ランク魔導師のみによる大部隊』を組織するために。

 

 目論見は、ほぼ思惑通りに運び……『ティーダ・ランスター』という思わぬ副産物も得て……クライスラー事件は、表向きには解決されたが、実際には、『成功』していた。

 

 その、黒幕の直属技術者こそが、ジェイル・スカリエッティである。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「…………」

 その、あまりにも外道なやり口に、クロノは絶句し……キーアは、自嘲した。

「……その、情報を操作していたのは、僕。そして、それを受けて、ゼスト隊を無理やり借り出したのが…………デイリン・グレンジャー中将、ってわけだ」

「つまり……今回の黒幕も、デイリン中将であると?」

 キーアは、ふと、笑った。

「親父殿も、俺も、ただの走狗。使い捨ての駒さ。

 

――更に言えば、前々回、ギル・グレアムの『闇の書事件』も、『黒幕』主導の拉致計画の一環で、キミの父、クライド・ハラオウンも、ターゲットに入っていた」

 

「!!」

 衝撃の真実。しかし、クロノは冷静な思考で、『黒幕』の正体を探る。

 

――――誰が最も得をする?

 

 戦闘機人、人造魔導師の製造技術を確立し……高ランク魔導師の大部隊を編成することに成功して…………

 

「ッ……」

「……気づいたかい? そう、一連の事件……そして、『黒幕』は、」

 

 

 

 

――――――バシュン。

 

 

 

 

「………………、あ」

 …………キーアが、己の身を………………胸部へ空いた穴(・・・・・・・)へと、茫然と視線を落とし……倒れる。

「!!! キーア!!」

 駆け寄り、傷口を確認する。

「が。……っ、…………」

 ……まだ息はあるが……瀕死だ。

 

 そして、気付く。先ほどまで、暴走していたガジェットたちが、整然と隊列を組んでいることに。それは、絶対的な命令系統を持つ個体の出現を意味していた。

 

――――機械の蛇。

 

 …………かつて。『凶鳥部隊』壊滅の折、カレン・フッケバインを、奈落の底へ沈め……ヴィヴィオを追跡してきたものと、同型の機体。

 

やはり(・・・)そういうことか(・・・・・・・)……!」

 

 しかも、その周囲には……迷彩と、覆面で個性を消した、質量兵器で武装した謎の部隊が、控えていた。

(……最悪、ガジェットは何とかなる。しかし……あれだけの自動小銃。シールドで防ぐにも、ゴリ押しで……キーアは、間違いなく、守れん)

 どうにか、切り抜ける手段を講じている隙にも、謎の部隊は、じりじりと接近してきており…………天井を攻撃し、崩落を誘う手段を実行せんとした、その時。

 

――――――ガロロロロロロロロロロロロッ!!

 

 ……不釣り合いな、ディーゼルエンジンの駆動音が、トンネル内を迫ってくる。そして、覆面部隊の数名が、そちらへの警戒を向けたその瞬間。

 

 

――――ズゴォオオオオンッ!!!!

 

 

 戦闘の余波で崩落した区画を力任せにブチ抜き、鋼の巨体が現れた!!

「ほ、……ホイールローダー……!?」

 雄々しいエンジン音を響かせる、『機動六課』のデカデカしい漢字。その、黄色い巨体から……

 

「――クロノさん! お待たせしましたッ!!」

 

 アースラを操縦するゼルビスを除いた、コリン小隊が降り立った。

 色めきたった覆面部隊だったが、操縦席へ、小銃を向け、

「おりゃあああああああああああああっ!!!!」

 

――ドゴォオオオンッ!!

 

 如何にガジェットといえど、機動性を活かせない狭い坑道。更に、単純な質量の差と、圧倒的なホイールローダーのトルクには勝てず、蹂躙されていく。

「ハッ、調べが足りなかったな! 俺ら、一通りの重機は操縦できんだよ!!」

 ゼルビスだけが突出しているように見えるが……車両の操縦もまた、機動六課の必修項目である。常日頃から、ぶっ壊した隊舎の修繕や増改築を行っている機動六課の面々にとって、この程度の坑道など、散歩道も同然だった。

「あの蛇みたいなのは!?」

「有人操作! 近距離! 見た目は威圧効果しか無いから余裕!」

 ……。

 クロノは、事前に得ていた情報でのみ、あの蛇を、敵の最大戦力と見積もっていたのだが……考えてみれば、その通りだ。

 

金属のボディに、光線兵器。

 

 どうと言うことの無い、ただのガジェットではないか。

「ヤオ、リン! 要救助者1だ!」

 指示を受けた二人が、キーアの応急処置を行う。

 

――――ガガガガガガッ!

 

 しかし、ガジェットはどうにかなるとしても……あの、自動小銃が厄介だ。覆面部隊をどうにかしない限り、ガジェットが増える可能性がある。

「――――。」

 そして…………コリンは、躊躇なく、それを行う。

「カトル、ジン! 引っ込め!」

「「!」」

 瞬時に指示に従い、退いた二人。そして、コリンは矢面に立ち………………

「てめぇら、人間に生まれたことを後悔させてやるぜッ!!」

ダンッ! と、掌を、大地に触れさせる。すると、……

 

――――ズォオオオオオオオオオッ…………!!!

 

 漆黒の水たまりのような影が、広範囲へ広がった!!

「!! これは!!」

 クロノが目を剥く。この現象……否、この魔法は!

 

「――――テラーフィールド(・・・・・・・)ぉおおおおおおおおお!!」

 

 グレアムの用いたのと同じ、暗黒魔法!

 

「う、うわああああああああああああああああ!!」「ぎゃああああああああああああ!!」

 呑まれた覆面部隊が、初めて人間味のある悲鳴と共に錯乱し、昏倒していく。

 閉所だ。逃げ場など有る筈も無い。

 

「お、おおおおおお……」「うぐ……ひィ……」「ああ、あああああ…………」

 

 覆面部隊は、死にはしなかったものの……完全に、戦闘不能に陥っていた。

「お、コレだな」

 その中の一人の懐から、操作盤のようなものを探り出し……バキン、と踏み壊した。

「制圧完了ッスよ、クロノさん」

「……コリン、おまえは、」

 コリンは、クロノに振り向き……寂しそうな笑みと共に、告げる。

「あー……オレの、コリン・バネット……っていうのは、偽名なんスよ。本名は、

 

 

――――コリン・グレアム(・・・・)って、言います」

 

 

 ………………絶句するクロノ。

「……グレアム家っていうのは、違法魔導師対策の名目で、連綿と暗黒魔法を継承する一族で……オレも、暗黒魔法を一通り」

「……」

「なもんで……胸糞悪いグレアムの家が嫌で……部隊長を頼って、逃げ出してきたんスよ」

「……」

「……フツーの部隊じゃ、結局、オレの情報が、上層部かどっかから漏れて……避けられるか、利用されるかのどっちかで、居場所なんて無かったッスから」

 そういった意味で、コリンは、どちらかといえば、エリオやキャロに近い立場にいたのだ。エリオを何かと気にかけていたのも、放っておけない境遇だったのだろう。

 

ガジェットたちが指揮系統を失い、動作を停止して……

「ひゃっほー! おいコリン、すげえじゃねーか!!」

 飛びつくように肩に手を回す、カトル。

「ンだよオメー、こんな隠し玉もってやがったのか!!」

 ガシャガシャと髪の毛をかき回すジン。

 ヤオとリンも、気にすることも無く、キーアの治療に集中している。

「…………、」

 ……確かに、その人間の出自は、切って切れるものでは無いのかもしれない。しかし、それが全てではないのも、また事実。コリンは、秘していた技を用いて、状況を解決してみせた。仲間を救って見せた。故に……コリンは、『グレアム』の業を、乗り越えた。

 

「――手柄だ、コリン。お前のおかげで、助かったぞ」

 

 彼は……機動六課の一員なのだから。

「へ、へへ。オレは、『グレアム』を終わらせる男ッスから!」

 ……と、キーアを治療していたヤオが、おもむろに顔を上げ、

 

「ふーん。じゃ、あたしん家に婿に来れば解決じゃん?」

 

 ……そのようなことを、のたまった。

「ぶふぅ……!! な、な……!?」

 コリンは……年相応の少年のように赤面するのだった。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 ホイールローダーに乗り込み、最奥を目指す一行。日本製建設重機の面目躍如か、車幅さえあれば一定速度で走行できる。

「……そろそろ、だ」

 キーアに受け取ったマップによると、もう間もなく最奥へ到着する。確かに、素掘りの坑道が、徐々に舗装されたものへと変わってきており、目の前には、何かしらの大空間が口を開けていた。

 

――そして、最奥で一行が目にしたものとは。

 

 

「………………なんだ、これは」

 それは、巨大な…………次元航行艦と比較しても、優に五倍はあろうかという、凄まじい鋼の巨体だった。たとえようの無い形状だが、あえて言い表すなら……規格外に巨大な戦車、だ。前方には三門の砲があり、数多の副兵装が高密度に配置され、有人機なのか無人機なのかは不明だが、それが、決して平和的手段を体現したものではない、ということだけは、伝わってくる。

「…………」

 しかし、動力反応こそあるものの、未だ始動へは至っていない。

 ホイールローダーを下り、念のため、キーアを担架で連れながら、内部へ……搭乗口のようなハッチへ乗り込む。

 

「――――な、」

 その光景に、絶句するクロノ。

「これは……」

 ……壁の一面に敷き詰められた、半透明の容器。ガラスとアクリルの中間のような質感のソレの中には、…………明らかに、人間が密封されていた。

「――――」

 その、プレート……否、『ラベル』を検めたクロノは、その名が、過去の事件において犠牲となった者たちであると思い至った。

 

 

「……! ごほっ……、」

「! キーア!」

 キーアが、息を吹き返した。

「…………、く、黒幕は、……、」

 それだけを伝えるために意識を繋いでいる。それを聞き届けるのは、クロノの役目だ。

 

 

「――――次空管理局……最高評議会、だ…………!!」

 

 

――こつん。

 

「――!!」

 身構える一行の前に、革靴の底を鳴らしながら、人が現れる。

「………………、」

 将官服に、数多のゴテゴテした悪趣味な勲章たち。

「デイリン・グレンジャー中将……」

 不用意に姿を見せた彼に、しかし、クロノは疑問を抱いた。

 

「…………、あ、……え………………あ、う、ええ…………」

 血の気の引いた肌。だらだらと流れる脂汗。焦点の合わない瞳。口唇より垂れる涎。まるで、薬物中毒者の様相だ。

「――止まって下さい、あなたを、事件の重要参考人として、」

「あ、う、……ええ…………あう、ええ………………」

 …………クロノたちは、その口から洩れるうわ言を……理解した。

 

「――た、す……け、て…………!」

 

 ぼこん、と。デイリンの頭部が……不自然に、隆起する。

「――ひィッ!」

 リンが、悲鳴を上げる。

 コリンらは、その現実離れをした光景に、ただ茫然と、立ちつくすことしか、出来なかった。その目の前で……デイリンは、ヒトとしての形を失っていく。

 

――――隆起した頭部が弾け、中身がドロドロと流れ出す。

 

――――不自然に湾曲した手足は、ぱきぱきと折れながら、縮んでいく。

 

――――弾けた頭部に、第三、第四の眼球が形成され、それが再び肉に埋没する。

 

――――そのフォルムが、徐々に、小さく、内部へと『折り畳まれて』いく。

 

「…………!!」

 しかし……クロノは、その現象を、知っていた。

 そう、これは……かつて、グレアムが陥ったのと同じ……!!

 

「――――アああああああああああああああぎゃあああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」

 

 エクリプスの、強制発動だ。

 ぼどっ……と、転がる、デイリン、だったモノ。

「a,,,a,,,,aaaa,,,,,,」

 知性を失い、生命としての機能を失い……ただ、死に往くだけの、肉塊。

 

――――ゴゴゴゴゴゴゴ……!!

 

 ……と、微振動が足元を伝う。

「……!! 総員、脱出!!」

 クロノはキーアを抱え、ヤオはリンを支えながら、弾かれるように走り出す。

 

――――グゴゴゴゴゴゴゴゴォン!!

 

 クロノたちは、どうにか丘へとたどり着き……そして、見る。先ほどまで進んでいた岩窟が完全に崩落し…………それこそ、山のような巨体が……『立ち上がる』のを。

 

『アインヘリアルが起動しました』『アインヘリアルが起動しました』『モード《ギャラルホルン》正常』『モード《ギャラルホルン》正常』『システムオールグリーン』『システムオールグリーン』『英雄に目覚めを』『英雄に目覚めを』『世界に平和を』『世界に平和を』『絶対なる統治を』『絶対なる統治を』『闘争の根絶を』『闘争の根絶を』

 

 

――――……

 

――――……

 

 

――――『 『 世界に平和な終末を 』 』

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。