魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

138 / 174
StrikerS編 第十七話

 

 

 

 

 

――――――――――『死にたい』と、思っていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「せいやー!!」

 

――ゴギャッ!!

 

 抜けた掛け声とともに射出された魔力刃が、ガジェットを両断する。

「数ばっか多いなぁ……」

 ガジェットは、確かに困難と言えば困難な相手だが、所詮は機械。対処法さえ分かっていれば、そうそう苦戦する相手でも無い。

「まぁ、ある意味アタリだったと考えればいいのではないか?」

 

――ザンッ

 

 魔剣で多脚型ガジェットを切断しながら、シグナムが応じる。

「ま、そーだよね。……ジェイル・スカリエッティは、『ゆりかご』の内部にいたんだろうけど……もっと、他に隠しているモノがある、って、ヤガミの意見には同意見だし」

 ジェイル・スカリエッティは、ああいう形で活動を開始し、いかにも自己顕示欲の強い、劇場型犯罪者のように見えるが……そこは、かつての同期、マリエル・アテンザである。

『アイツは、計算の結果が『正解』じゃなければ、決して動かない奴だよ。動いた、ってことは、きっと、アイツの中に『正解』が見えたんだろう』

 ジェイルの『正解』。それが何なのかは、いまだ不明のままだが……

『アイツは、大事なものは手元に置いておくんじゃなくて、宝箱に入れておく奴だ。だから、きっと、アイツにとっての『正解』は……』

 

「マリーたちの生まれた場所でもある、『プロジェクトE』実験区画にある、と」

 

 上層部も、痛い腹を探られたくはないのか、この一帯は封鎖されていたが……そこは、機動六課の独自権限である。施設の見取り図も、マリーがささっと書き起こしてくれたものがあるため、特に道中に困難があるわけでもない。問題は……、

 

――――ズパァアアアアアッ!!

 

「おっと」「うむ」

 唐突に迫った幾筋もの砲撃を、危なげなく回避。目を凝らすと、壁面に、波紋のような力場が発生しており……

「あれ?」

 しかし、砲撃の技能は、ディエチの物だったはず。

「はっはぁー! よく避けたなぁー!」

 すぽん、と姿を現したセイン。その手には、新型と思しき武装を装着しており……

 

――――ヒュヒュヒュヒュヒュンッ!!

 

「む」

 シグナムの方へと飛来したブーメランのような武装を、迎撃ではなく回避する。

「惜しかったッスねぇ! 聞いて驚け、このブーメランの刃はなぁー!!」「おい馬鹿やめろ言うなって!」

 

「……大方、『魔力で構成された物体の分子構成を無効化する』……といったものか?」

 

「ホラ見ろ見抜かれてんじゃーん!」

「うわーん! たまには驚いて欲しいッスよー!!」

 …………グレードアップだかパワーアップだかを果たしているだろうに、全く脅威に思えない二人だった。

「うむ……」

 シグナムは、魔剣を構えつつ、どうせ聞かれているのだと、肉声でフェイトに告げる。

「よし、フェイト。ここは、」「『オレに任せて先に行け』、でしょ! わーかってるってー!」

 

 ばひゅーん……と、以心伝心というか、『伝統』『お約束』『様式美』に従い、勝手に飛んで行ってしまった。

 

「 「 あーーーーー!!? 」 」

 

 責任のなすりつけ合いをしている間に、サクっと一人を通してしまった。

「まぁ……どの道、突破していただろう。そう気を落とすな木端ども」

 気遣うようでいて、サラっとディスることを忘れないシグナム。流石である。

「んなっ……!!」「んだとぉ!?」

 その瞳に、根拠のない自身と、目に見える慢心が漲っていることを看破したシグナムは、呆れるように助言する。

「初期スペックがなまじ高い分、修練が足りんのは同じか……」

 じゃきっ、と、構えた瞬間……

 

――――業ッ!!

 

 魔力の炎が、魔剣を包み込んだ。

「うっ……、」「……」

たじろぐセイン、ウェンディの両名。総出力で言えば勝っているはずの相手だ。長期戦に持ち込めば、二人にエネルギー切れのリスクは無く……

 

「――『長期戦に持ち込んで、魔力・体力切れを狙おう』……か?」

 

「!!」

 それを看破する。

「……何故、そこで『勝つ』『倒す』と考えない? なぜ、前に出て、勝利を掴むことを考えないのだ、お前たちは」

 ……口調に、明らかに苛立ちが混ざっている。

「一応は女・子供だ。優しく意識を刈り取ってやろうかとも思ったが……、」

 

――――ガキィンッ!!

 

 背後から不意打ちの狙撃を、鞘であっさりと弾かれ…………それが、トドメだった。

「――やめだ」

 ビキビキ……と、シグナムの形相が、不動明王のソレに変わっていく……!

「「ひぃいいっ……!!」」

 ガタガタと震えだす二人に、シグナムが吠える!!

 

 

「―――――――その腐った性根、オレが直々に叩き直してくれるわッ!!」

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

――――ぎゃああああああああああああああああああ

 

――――ごめんなさいいいいいいいいいいいいいいい

 

 

 ……背後から聞こえてくる二人の悲鳴を無視し、フェイトは奥へ進む。

 既に、無駄と知ってかガジェットは引っ込められているようだ。

 

『チ……やっぱり来たのか』

 

 と、施設のスピーカーを通した音声が響いた。声色からして、間違いない。

「……ジェイル・スカリエッティ?」

 遠隔監視か何かでフェイトの姿を見て、話しているのだろう。一方的に、話を始めた。

『ここにいるってことは、大方、マリエルの差し金か? ……アイツも、我が妹ながら、つくづく酔狂なやつだよ。 聞いたんだろ? 俺や、マリエル達の出自の話をよ。

――んじゃあ、俺からは、その『続き』を話してやるぜ』

 フェイトは……決して感情を揺さぶられないようにしながら、その中の情報を取り出す。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

プロジェクトEが失敗に終わって……それでも無様に生き残った俺は、無駄な人生の残り時間を使い尽くすために、次元世界を渡り続けた。

 

 なーんもやることも、生きがいも綺麗サッパリ失って……かといって、そこに居続けるのも嫌になってな。

 

いやー、実際ヒマだったぜ? カネだけは唸るほどあったし、使い尽くしても、稼ぐだけなら為替相場をテキトーに操作すりゃ、いくらでも湧いて出たからな。

 

 

これでいっそ、マリエルとか、アーデルハイドみてぇに社会適応性がゼロとかなら、まだ、『生きること』に必死になれたんだろうけどよ……俺は、要領も良かったらしい。

 カネはどーでもいいから、あれやこれやの分野に手を出して、頂上まで行ったらゲームクリア。

そんな空しいゲームを、ダラダラダラダラ続けてたってワケだ。研究者をやったり、医者をやったり……まぁ、これはいいか。

 そしてある日、久々にオモシロそうな話を聞いてな。

 

 

――――新型動力炉の開発(・・・・・・・・)

 

 

ソイツはどうやら、ある一人の科学者が提唱した理論で建造する、って話だった。

 その論文を読んで……その科学者が、俺ほどじゃないが、マジモンの天才ってやつだったってことを知って、潜り込んでみたわけよ。チョロいもんだぜ。

 

 そんで、会ってみてビックリ。なんと女だぜ。

 

 兄弟連中以外で、俺とタメ張れるアタマの持ち主の女に会うのは初めてでな。ガラにも無く、久々に本気の議論だの趣味の共同研究だのをしている間に……まぁ、その、なんだ。

 

――――好きあっちまってな。

 

 

 

何年か一緒にいる間に、ガキも一人生まれて……それが、小憎たらしいくらい、俺の面影があって……こんな人生も、悪かねぇかな、って思ってた矢先だ。運悪く、俺が外出していて、防げなかったんだわ。

 

――――動力炉の暴走(・・・・・・)

 

 

 …………

 

 …………

 

……その後さ。俺の、たった一つのミスが発覚したのは。

 

 その女を、好いて、甘えて……俺の出自の一部を、漏らしてしまったことがあった。

 

――ヒトクローン研究。

 

 …………更に言えば、また誤算があった。

 俺も、あの女自身も気づいてはいなかったが……あの女の真の適正は、有機生命体の研究にあった。それこそ、アーデルハイドに匹敵、あるいは凌駕するほどの、な。

 

 ……あいつは、俺の前から消えたよ……一言も告げずに。

 

 廃棄を逃れて、どうにか残った資料の一部から……俺は、あいつのやろうとしている事を、知った。だが……止めなかった。止められなかった。だって、そうだろう? やめろ、なんて……言えるわけ、ねぇだろ。

 

そして……それから、数年が経って。アイツが表に出てきた事件を知った。

エセ願望期を用いた大規模事件。そう、――

 

――――プレシア(・・・・)テスタロッサ事件(・・・・・・・・)だ。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 最奥へ到達したフェイトを、ジェイル・スカリエッティの立体映像が、出迎える。

 

――黄金色の頭髪と。

 

――紅い瞳が。

 

「お前は、俺の娘だ。――――フェイト・テスタロッサ」

 これだけの真実を、突きつけられた、フェイトは…………

 

「――――だったらどうした(・・・・・・・・)

 

 何ら動揺を伺わせない、毅然とした態度で、ジェイルへ向かった。

「………………」

 半ば、予想通りだったのか……ジェイルは、ただ見るのみ。

「――産んだからって、親になれるわけじゃないんだぞ」

「…………違い無ぇ」

 肩をすくめるジェイル。その、隣には…………

 

「――――秀人。ひさしぶりだね」

 

 戦闘機人デルタ。そして……変わり果てた、吾妻秀人の姿が、あった。

「あはは……アリシアが、言ってた通りだ。生きてて、くれたんだね。うれしいなぁ……ボク、ずっと、キミをさがしてたんだよ」

 郷愁に満ちた、フェイトの温かな言葉を聞き、秀人は。

 

「――――プリズン(・・・・)。」

 

 ……既に、隠しもしない肉声で。かつてと変わらない声で。聞いたことも無いような、平坦な、声色で。

 

「――――セットアップ」

 

 …………フェイトの排除を、宣言した。

 

――――ゴォウッ……

 

 あの日、闇に汚されたままの……闇色の魔力が、秀人の身体を取り巻いていく。

『彼の額を』

 バルディッシュの助言。秀人の額には……他の、ゼスト隊のメンバーと同様の斑紋が、刻まれていた。その露出していた頭部も……展開された兜に、覆い隠されてしまう。

 

――――バキィンッ。

 

 ……武装を完了した秀人。もう、表情すら伺えない。

『……対処を』

「うん。――――だいじょうぶ。ボクならやれるよ」

 

――――バリィッ……!!

 

 そして……フェイトもまた、新たに武装する。

『Riot』

 長柄を得意としてきたフェイトには珍しい、片手剣。

 しかし、ただ小さくした訳ではない。本来ならば、ザンバーを形成する魔力を、片手剣の形状・密度へ圧縮している。リーチこそ縮まるものの……フェイトの、純粋な『速度』を活かすことのできる形状だ。

「ねぇ、秀人。ボクとキミが戦うのって、すっごい久しぶりだよね」

「……」

「ええっと……ジュエルシードの、最初の方だから……あは、もうそんなになるんだ、」

 秀人は、無言で……籠手に包まれた両腕を、

 

――――ガァンッ!!

 

「……!!」

 ……無拍子の突きが、一瞬前までフェイトのいた空間を、背後の壁ごと叩き伏せた。

 

――ビキッ……!!

 

「はなしくらい、聞いてくれてもいいじゃんか」

 ……しかし。破損したのは、秀人の籠手の方だった。

「……」

 その不可解な現象に、籠手を修復するでもなく、油断なく構え直す。

 

――――ガリイィッ!!

 

 ……装甲を大きく削られるに至り、ようやく秀人は、答えに思い至る。

「……単純な、速度」

「せい――、」

 背後に気配。秀人は、膝を折り大きく屈む。

 

「――……かいッ!!」

 

――――ガチィイイインッ!!

 

 大顎のような、秀人のホールディングシールドが空振りする。

「……、」

 がくん、と体勢を崩す。膝に一撃を喰らった。

「……」

 治癒までの、一瞬のタイムラグ。しかしそれは、超速で行動するフェイトにとって、どうしようもない程の隙であり……、

 

――キィイイイイン!!

 

 兜のフェイスガードを、切り飛ばされてしまう。

「――もっと、速くするからね」

 

 その、宣言通り……

 

――――ガギャギャギャギャギャギャッ!!

 

 ミキサーに放り込まれたかのごとく、装甲が削られていく!

 

「…………!!」

 ピーカブースタイルを取り、洗脳紋様を中心の防衛を取る。不用意に捕獲を試みれば、腕を切り落とされる。それほどの速度だった。

「――――インパクト」

 

――ドパァアアアアンンッ!!

 

 距離を。そう、衝撃波を射出する。この攻撃ならば、全方位へダメージが浸透する。しかし……

「ぜぇえええええええいっ!!」

 

――ズパァン!!

 

「……!」

 フェイトは……『衝撃波を切り裂いて』、間合いを離すことなく、攻撃を続ける。

 秀人は、面くらったように、フェイトへの有効打を繰り出せずにいた。

 秀人は知る由も無いことだが……フェイトは、秀人の戦闘データを、徹底的に検証し、対策を立ててきていた。幾通りかの戦闘データを基に、シミュレートを繰り返し……秀人の攻撃パターンを体系化し、実戦訓練を重ねることで、それを盤石なものとしてきた。

 

「――――『こんなこともあろうかと』、ってね! 秀人が教えてくれたんだよ!」

 

――――ガキンッ!!

 

 秀人は……腕を捨てる戦法で、フェイトの刃を、受け止めようとする。強度から考えて、完全切断までは至らない。適度に、刃を腕に食い込ませて、捕まえる。しかし、

 

「ソードオフ!!」

 

――ヒュンッ!

 

 衝突の瞬間のみ、刀身を解除し回避。そして、完全に不意を突く一撃を加える!

 

――ヂッ……!!

 

「……」

 洗脳紋様を、掠めた。

「……………………、」

 秀人は……僅かに、よろめいた。

 

 秀人は恐らく、洗脳により、本来の力を発揮できずにいる……というのが、フェイトの見立てだ。黒炎こそ使えるのだろうが……常態強化ではなく、単純に、高速移動魔法と、高密度魔力刃のみで戦うフェイトに、解呪はほぼ無意味。脅威となるような……それこそ、不死鳥召喚や、『構え』は全く使ってこない。秀人ほど、精神力の強い人間を洗脳しているのだ。その自我を抑え込むため、本来ならば、ゼストやクイント、ティーダのように活用できる技能が、全く活かされていない。

「秀人、ごめんっ!!」

 フェイトは……秀人の両腕の腱を切断し、膝同士をバインドで拘束。そして、

 

 

――――スカァアアアアアアアンッ!!

 

 

 洗脳紋様を、一刀両断した!!

 

 ぐらりとよろめき……仰向けに倒れ伏す、秀人。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ………………! っ、どう、だ……!」

 高速移動魔法の連続使用により、フェイトの体力もまた、大きく削られている。慣性をある程度相殺できるとはいえ、掛かるGの全てを、無効にすることはできない。

 だが、フェイトはやり遂げた。

「秀人は、返してもらうんだからねっ!!」

 びしっ、と、立体映像のジェイルを指さし、勝利を宣言する。

 それを受けた、ジェイルは……………………顔を覆って。

 

 

『あーあ……やっちまったな、お前さん……』

 

 ………………と、意味の分からないことを、告げた。何が、と、問おうとしたフェイト。

 

 

「――――――まったく、茶番に付き合わせやがって……ジェイルの野郎め」

 

 

 ………………フェイトが、振り向いた先で。……秀人が、何事も無かったかのように、立ち上がった。それも、まるで、ジェイル側の人間のような言葉と共に。いつかの日のような、気安い口調で。

かりかり、と額を掻く。そこには、洗脳紋様は、薄らとも残ってはいない。確かに、破壊、もしくは、無力化したはず……と、混乱するフェイトに……秀人が、言う。

 

 

 

「――ホントはさ……さっきのまま、俺が操り人形(・・・・・・)って設定(・・・・)のまま倒されてくれるのが、一番良かったんだぜ?」

 

 

 

――――――秀人は。初めから、正気だった。

 

――――洗脳など、そもそも、されてはいなかったのだ。

 

 

「――な、…………なんでぇっ…………!!」

 再度、高速機動。魔力刃を、秀人の額めがけ、振り下ろし――――、!?

 

――――ぱしんっ。

 

 ……魔力刃は、到達すること無く。フェイトの手首を、平然と掴み止めていた。

「何で…………なんでだよォッ!?」

 本気どころか…………演技のため、『手加減』をしていたのだ、秀人は。

「俺の……俺自身の、目的のためだ」

 

 明確な意思を示す瞳。秀人は、フェイトを無造作に投げ飛ばす。

「……!!」

 距離は置いたが……また、仕掛ける気にもならず、茫然と秀人を見やる。

 秀人は、ジェイルと目配せをして……フェイトへ、話し始める。

 

「――あの日。次元の坩堝へ落ちた俺は、消滅することなく、肉体を保ち続けることができた。……何故だかわかるか?」

 

「それは、…………、アイの、」

「それもある。コイツが、全能力で、俺の存在を繋ぎ止めることに身を捧げてくれた」

 ちゃり、と、漆黒のクリスタルに触れる。

「けど、それだけだ」

 

「あの、次元の坩堝の内部はな、時間の流れが、外界と違うんだ。…………そうだな、体感で、ざっと…………

 

――――500年くらいは(・・・・・・・・)、あの中にいたんじゃないか?」

 

「!!!」

 その、あまりにも平然と告げられた事実に、フェイトは戦慄した。500年。あの、暗闇の中に、500年。

「ああ、いや、精神は別に……さっきも言ったけど、こいつが、俺の意識も休眠させていたからな。寝ていたようなもんだ」

 フェイトは……もう、問い詰めることが、出来なかった。

「そんで、ジェイルが俺をサルベージしてくれるまで………………500年間。激しい時間の流れに晒され続けて。

 

――――それでも尚、俺は今、ここにいる。

 

 

 ……これが、どういうことか、分かるか?」

 

 アイの能力で、いくら肉体を保全したとはいえ……時間の流れまでは、隔離することは出来ない。では、秀人が老化しなかった理由は、……単純に。

「――――絶望、だよ。フェイト、俺は…………俺は、

 

――人間でさえ無くなってしまったんだ(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 …………それは、どれほどの絶望だったのだろう。切り刻もうと、磨り潰そうと、焼き焦がそうと、凍て付かせようと……決して、死なない自分。

「――ジェイルは、約束してくれたんだ。……俺の不死の呪いを、解いてくれる、って。俺を、『人間』に、戻してくれるって。

 

――――だから、俺は、ジェイルに協力していたんだ。俺自身の意志で」

 

 びく、と、フェイトが、気付きたくもなかった真実に、思い至る。

 秀人の、増していくばかりの不死性。当時からの、誰彼を構わずに救おうとする献身の姿勢。自身すら顧みない行動力。わが身を盾にすることさえ厭わない自己犠牲。

 

 当時……フェイトは、いや、彼の周囲にいた誰もが……それが、彼の『勇気』や、『正義』が、そうさせるものだと信じていた。

 

 だが、違った。全くの見当違い。完全な、思い違いだった。

「フェイト。俺は……俺はね、」

――――彼は。

「あの日から……家族を失ってしまった、あの日から」

――――――秀人は。

「ずっと、ずっと、ずっと、ずっと………………………………」

――――――――『吾妻秀人』という、男は。

 

 

 

 

「――――――――死にたいと(・・・・・)思っていたんだ(・・・・・・・)

 

 

 

 

――――ただの、自殺志願者だったのだ。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。