魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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第十四話

 それは、ほんの小さな不注意だった。

 

 三歳のある日、俺はいつものように公園でボール遊びをしていて、壁にバウンドしたボールが道路に飛び出し、それを追いかけ……トラックに跳ね飛ばされた。

 

 まぁ、幸いにも死ぬことは無かったんだけど。

 

救急車に運ばれ、病院に担ぎ込まれ、緊急手術を受け……何ヶ月かして、ようやく退院できた。

頭を打って背骨を折って腕や脚が変な方向に曲がって、何の後遺症も無いんだから、本当に運が良かった……と思っていた。

 

 退院して数日。

 俺は、まだ馴染まないベッドで身体を起こし、手すりを掴んだ。

 

――ゴギュッ……

 

 そんな音を立てて、それなりに頑丈な材質だったベッドの手すり、抉り取られていた。丁度……俺の手の大きさに。

 意味が分からず、ただそれを眺めること数瞬。

 

――ビギィッ……!!

 

『あ、あああああああ!!』

 

 理解が追いつくより早く、自分の腕から、味わったことが無い(あの事故の時は、痛みを感じるより早く意識が飛んでいた)レベルの痛みが襲ってきて、俺は叫んだ。

『秀人、どうしたの!?』

 すぐに母親が部屋に飛んできた。そして、俺を……正確には、俺の腕を見て悲鳴を上げた。

『どうしたの、その腕!?』

『う、で……?』

 ずきずきと激痛を発し続ける腕。視界に入る自分の腕が、ありえない方向にねじくれてしまっていた。

『痛いよ……痛いよぉ……!』

 幼かった俺は、ただ母親に助けを求めるしか出来なかった。

『あなた! 秀人が! あなた!』

 そして、すぐさま救急車の乗せられた。

 

 その、車中にて。

 

『ううっ……』

 いまだにずきずきと痛む腕。痛くて、いつまで経っても収まらなくて。段々と、腹が立ってきて……

『うあああああああっ!!』

 癇癪を起こし、無茶苦茶に身体を動かした。

『大丈夫だから、落ちつい……げっ!』

――まず、一人が飛んだ。

 狭い車内を、救急隊員の男性がゴムボールのようにバウンドする。

――次に、モニターのような機材がひしゃげた。

 散乱したガラス片金属片が、撒き散らされる。

『ひで、と……?』

 母親が、得体の知れないものを見るような目で……化け物を見るような目で、俺を見ていた。

 

 その後、何か注射を打たれ……多分、鎮静剤か何かだったのだろう。俺は意識を失った。

 

 次に目を覚ましたとき、俺は全身が妙に窮屈に感じた。それもその筈。俺の身体は、硬いゴムのようなバンドで拘束されていたのだから。

 

――びきっ

 

『ぎっ……!』

 身体をよじった途端、また身体のどこかが痛んだ。

『彼の全身の骨格に、微細な皹が入っています』

 母親がカーテンの向こうで、医者の話しに神妙に聞き入っている。

『簡単に言えば、その筋力に、骨格が耐えられていないんです』

 当時は、難しくて理解できなかった。

『人間には、先天的に身体能力のリミッターが備わっている……という話を、聞いたことはありますか?』

 漫画とかでよくあるアレだ。『火事場の馬鹿力』。どうやら、俺は常にその状態になってしまっているらしい。

『おそらく、例の交通事故で、脳のどこかを損傷してしまったのでしょう』

 結果、俺の身体は、抑えを失って暴走してしまったそうだ。

 治療は無理だった。

何せ、今の医学では、『脳のどの部分が』『どのようにして』身体能力にリミッターをかけているのかさえ解明されていないのだ。そこを更に、『もう一度リミッターを掛けなおす』なんて真似が出来るはずも無い。

 少し身体を動かすだけで、間接がギシギシと軋みを上げ、激痛が襲い掛かる。

 特に、成長期に入ってからは、地獄だった。

 動かなくてもバキバキと骨が折れ、靭帯が千切れ、自身の張力に耐え切れなくなった筋肉が断裂する。

 眠ることもできず、鎮痛剤を常時投与され、今が昼なのか夜なのかさえ分からず、ただ痛みだけが意識を繋ぎ止めていた。

 

 際限無く増えていく医療費に生活を圧迫され、最初は努めて明るくいつも通りに振舞っていた父親と母親からは、徐々に笑顔が消えていった。この頃からだろうか。病院の廊下で、醜く言い争う両親の声を聞いていたのは。

 口論の末、激昂して思わず口にした言葉なのだろう。だが、多分に本音が含まれていることも、また事実。俺はただ、黙ってそれを聞いていることしかできなかった。

 

 数年が過ぎた頃、ようやく『奇跡』が起きた。俺の身体の治癒力が、細胞が自壊する速度を上回ったのだ。

そこからは、超回復に次ぐ超回復。積年の恨みとばかりに、骨格が急成長を遂げた。

その結果得たものは、奇跡のような肉体。

 

異常に頑丈な骨格。

 

異常に密度の高い筋肉。

 

異常に早い新陳代謝。

 

――『超人病』

 

 それが、当時の俺の主治医が付けた名称だ。俺の身体を、実に的確に表現している。

 だが、そんな医学的価値の無い奇病になど、誰も見向きすることは無く、自力で歩けるようになると、すぐ俺は放り出された。

 

 そして、奇跡の肉体を得た代償は……家族の愛情だった。

 

『あなたは今日からここで暮らすの』

車に乗せられ、一言も喋らないまま数時間。俺は、冷たい鉄の門の前に居た。

 事務的に俺の手を引く母親が、冷めた声で言う。その声に、かつての優しさや、愛情は感じられなかった。

『だから、これでお別れよ』

 むしろ、ようやくこれで開放されるという、安心感さえあった。

 そして、目の前の門が開き、一人の男性が俺を出迎えた。

『やぁ、初めまして。私はここの園長だ。これからは、ここを自分の家だと思ってくれ』

 善人の笑顔……そして、欲にぎらつく瞳。

 孤児を一人引き取れば、決して少なくない額の補助金が出る。それを目当てに、俺を引き取ったことが丸分かりだ。この門の向こうには、俺と同じような境遇の子供がたくさんいるのだろうと、なんとなく分かった。

 この分厚い門は……侵入者を阻むのではなく、中に居る者を逃がさないための、檻。

『さぁ、みんなに自己紹介だ』

 そして、園長を名乗る男は、俺の腕を強く引いた。

『お母さん……』

 ぐいぐいと引っ張られる。やろうと思えば、いつでも抜け出せる。でも、俺はしなかった。出来なかった。母親が、俺のせいでどれだけの迷惑を被ったのかを知っていたから。

 父親は残業を重ね、とうとう身体を壊してしまった。母親は、度重なるストレスから鬱病を患った。全て、俺の所為で。

ただ、母親が一度でも振り返ってくれれば。何か言葉をかけてくれれば。

『お母さん……!』

 しかし、その願いは叶わなかった。

 

 一度も足を止めることなく歩き去っていく背中が、俺が見た母親の最後の姿だった。

 

 そして、頑丈で背の高い門が――がしゃん、と閉まった。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「秀人、どうした?」

 先を歩くクロノが振り返り、訝しげに俺を見た。

「何でもねーよ」

 肩をすくめ、回想から現実に戻った。

「そうか」

 現在、なのはとフェイトが『試合』に使うフィールドの最終調整が行われている。

 俺とクロノが模擬戦を行い、結界の強度や、レイヤーの出来具合を確認する……という名目だ。実際には、来るべき決戦に向け、少しでも力を着けておきたいという俺の申し出に、リンディさんとクロノが答えてくれたんだけど。

 なのはは、フェイトとの試合のため体力を温存し、イメージトレーニングだけに留めている。ユーノは直接的な戦闘には不向きだ。アースラ武装隊の面々は、フェイトの拠点だったマンションを調べていたり、警戒任務に当たっていたりで暇が無い。

 消去法プラス、俺とタメを張れる実力の持ち主ということで、クロノに白羽の矢が立ったというわけだ。

「本当に、デバイスは必要無いのか? ストレージでよければ、貸し出せるぞ」

 ストレージデバイスとは、レイジングハートやバルディッシュと違い、AIが備わっていない、本当の意味での『デバイス』だ。クロノが言うには、主流はむしろストレージらしい。かく言うクロノのデバイスも、このストレージだ。

「俺、マルチタスクが苦手でさ。魔法を同時発動するのは二つか三つが限界なんだよ。だから、デバイスがあっても無くてもそんなに変わらない」

 というより、魔法という数式を頭の中でごちゃごちゃこねくり回すより、『魔力そのもの』を操作する『魔力操作』の方が……『魔導師らしくない』戦い方の方が性に合っている。

「それに……」

「それに?」

むしろ、こっちが問題だ。

「レイジングハートが怒るんだよ」

 以前、同じようにリンディさんからストレージを貸そうか、という話になったことがあった。俺は結構乗り気だったのだが……

 

『秀人はマスターではないとはいえ、私のアカウントを持っているのですよ? 私には秀人の資質を見極め、伸ばしていく義務があり、それが私たちの契約の筈です。契約を破棄する気ですか?それとも、私では力不足であると……そう言うつもりですか? 怒りますよ? 手始めに頭痛地獄でも味わってください』

 

あそこまで饒舌に喋るレイジングハートは初めてだった。ついでにこっちに負荷を掛けまくって頭痛にするのはマジでやめてほしかった。

「お、怒る……? インテリジェントデバイスが?」

 クロノは、どこか愕然とした面持ちだ。

「え? 結構怒るぞ、あいつ」

 射撃訓練で的を外せば

『眼窩に収まっている二つの球体はガラス玉ですか?』

 とか。

 マルチタスクの維持に失敗すれば

『脳みそまで筋肉で出来ているのですか?』

 とか。

 ディバインバスターを暴発させれば

『自殺したいのでしたら余所でやってください』

等々。スパルタ教官だ。

「どこまでも非常識だな、君たちは」

 はぁ、とため息ひとつ。

「いいか。いくら人格AIを搭載されているとはいえ、それはあくまで思考能力に『似せて』作られたプログラムだ。感情の揺らぎなんて、発生するわけがない」

 プラナリア呼ばわりした時、カチンと来ていた気がするけど……

「ああ……そういえば、レイジングハートは出自不明なんだった」

 ユーノがジュエルシードを発掘するより前、別の遺跡で偶然発見したらしい。

 本来ならばジュエルシードと同じく、ロストロギア扱いになるのだが、危険性は皆無だったため、そのままユーノがデバイスとして使っていたらしい。

「……マリエルが聞いたら大喜びするだろうな」

 マリエル? 聞いたことが無い名前だ。

「誰だそれ?」

「技術者だ。のめり込むと暴走しがちになる」

 げんなりとした様子。嫌いではないが、苦手らしい。

「ただ、腕は確かだ。もし君たちのデバイスが破損した時には、頼りにするといい」

「覚えておく」

 

 話しているうちに、転送ポートに到着した。ここから、仮想空間に直接飛ぶらしい。

「準備はいいか?」

 クロノは、バリアジャケットを纏い、手にはデバイス。臨戦態勢だ。

「いつでも」

 対して俺は、ヘルメットを被ればツーリングに行けるような装備。破れてもいいように、以前着ていたジャケットとパンツ、グローブにブーツ。動きやすさと、魔力で補強した時の強度のバランスを考えたらこうなった。

『それじゃ、飛ばすよ~!』

 スピーカーから、エイミィの能天気な声がして……

 

――バシュッ!

 

 俺たちは、仮想空間に移動した。

 

(さて、と……)

 周囲をぐるっと確認。

(大部分は海、着地できそうな足場は、水没した廃ビルだけか)

 基本は、空戦がメインになりそうだ。やはり、なのはとフェイトに合わせた調整がされている。

「ルールの再確認だ。魔法は全て非殺傷設定。先に気絶するか、ギブアップを宣言した時点で敗北。以上だ」

 シンプルな実力勝負。いいね。

「了解だ」

 強化魔法……ソリッドを発動し、装備の強度を上げる。いつでも始められる。

『じゃあ、行くよ。レディ……』

 クロノのデバイスが、青白い輝きを放つ。

 俺は、右拳を腰だめに構え……

 

『ゴー!』

 

――キュボッ!!

 

 足元をインパクトで弾き、突っ込む!

「うおりゃあああっ!!」

 

 拳を、打ち下ろす!

――バゴオオンッ!!

 

 クロノが立っていた足場を吹き飛ばす。クロノは空中に逃げ、

「スナイプ!」

 誘導弾を発射した。

『Snipe shoot』

 

 アクセルシューターに比べたら、威力はそこそこ……だが、操作性能は段違い!

――キュキュキュキュキュンッ!!

 

複雑な軌道を描き迫りくるそれを、飛びながら回避し、迎撃し……って、

 

――バチンッ!

 

「あっぶね!」

 追い込まれた先に、設置型のバインドが仕掛けてあった。

 やっぱり、クロノの方が一枚も二枚も上手か……でも。

「いい実戦訓練になるっ!」

 猪突猛進な暴走体に比べて、何て手強いことか!

『Break Inpulse』

 クロノのデバイス……S2Uが発声する。

 クロノが一変、S2Uを構え、突っ込んできた。中距離戦闘が得意そうなクロノにしては、随分と……

 

――チュィィィイイイイィイイン……!!

 

 S2Uが、妙な振動音を発している。

と、俺の踏み込みで舞い上がった瓦礫の欠片が、S2Uに触れ……

 

――バシッ……!

 

 粉々に、粉砕された! そういう魔法か!

 受け止めるつもりだった予定を変更。直前まで引き付けて……!

「くっ!」

 ギリギリのところで、回避!

 

――ズバァァァァ……!

 

 俺が足場にしていた廃ビルの屋根部分が、さらさらと砂のように崩れていった。

「おまっ……そんなもん人に向けて使うな!」

 下手すりゃミンチになるぞ!

 

――ガキンッ!

 

「げっ!」

 逃げた先に、またしても設置型バインド。今回は、しっかりと捕まった! やべっ!

「くそっ! このっ!」

 バインドをどうにか解除しようと悪戦苦闘している間に、クロノはしっかりとチャージを終えていた。

「まずは一発だ」

『Blaze Cannon』

 

――ドンッ!

 

 打ち出されるのは、巨大な青白い魔力弾!

「おおおおおっ!」

 プロテクションを展開し、砲撃を防御する。

 

――ドゴオオオオンッ!

 

 受け止めた魔力弾が、大爆発を起こした。威力もさることながら、副次効果でここまでのダメージを受けるとは思わなかった。

『Stinger Snipe』

 更に、追撃の誘導弾!

「インパクトォ!」

 

――バシュンッ!

 

 広域版インパクトで、纏めて吹き散らす。

 

『Break Inpulse』

 

 背後から、S2Uの音声が……くそっ、バック取られた!

 

――……ッチュイイイイイイイィィィン!

 

「ぐあぁっ……!」

 必死に身体を反らし回避するが、僅かに掠った部分から、ダメージが全身に伝播する。

「こンのォッ!」

 振り向きざまに、貫き手を一閃!

 その一発は、僅かにクロノのバリアジャケットを切り裂いた。

 

『Blaze Cannon』

――ガゴオォン!

 

 が、接近戦を不利と悟ったクロノが砲撃を発射し、俺を射程外に吹き飛ばす。

 

「ジリ貧だなぁ……クソッ」

 認めたくは無いが、クロノは強い。正直、甘く見ていた。

なのはのような圧倒的な攻撃力も、フェイトのような見失いそうなスピードも無いが、とことん理詰めの数式のような戦法には隙が無い。戦っているうちに、知らず知らず罠に追い込まれている。

 何か、決定的な一打というか……クロノの『理詰め』を崩せるような一手があれば……

 と、ごちゃごちゃ考えていたら、再び……

『Blaze Cannon』

 砲撃!

 一々避けたり、シールドを張っている暇は……無さそうだ。そんなことをしている隙を見逃すような奴じゃない。

 利き腕じゃない方の左手、その掌に、魔力を集中して……

 

――パァンッッ!!

 

 ビンタするように、砲撃を弾き飛ばした。

「む……」

 クロノがぴくりと眉を動かす。

見当違いの方向に飛んで行った魔力弾は、どこかの水面に派手な水柱を立てた。

「お?」

 思いつきでやってみたが……結構使えるんじゃないか? コレ。

『使用』する魔力は大きいけど、『消費』する魔力はほんの少し……バレット3発分程度だ。

 それでいて、防御性能は格段に高い。

もしかしたら、跳ね返すことも、出来るんじゃ……

 

お。

おお。

おおお。

 

 閃いた!

 

――ザッ……

 廃ビルに着地する。

「はああああっ……!」

 深呼吸。半身に構え、右手を緩く突き出し、左手を腰溜めに。この構えが、一番やりやすい。

『Break Inpulse』

 例の振動波!

 槍のようにデバイスを繰り出してくる。避けるのは容易い。だが恐らく、どこに避けてもバインドか誘導弾が待ち構えている。それなら!

 

――バキイィインッ!

 

 真正面から、受け止める!

「なっ……!?」

 驚愕するクロノ。まぁ、普通ならそうだろう。触れただけで石材を粉々に粉砕する振動波に、真正面から来るなんて考えもしなかったはずだ。

 とはいえ、俺も素手のままぶつかったわけではない。拳の前面に、局所的にインパクトを発動し、振動波と相殺させている。

「おおおっ!」

 押し……切れッ!

「くっ!」

 とうとう、拮抗が崩れた。

 クロノの顔が、焦りに歪む。

『Blaze Cannon』

 回避は無理と悟ったクロノが、ほぼゼロ距離から容赦の無い砲撃を発射する。

 

――今だ!

 

「フッ!!」

 振りぬいた右腕に代わり、左手の掌に強化魔法を集中し……!

 

――バチイイィンッ!

 

 掌打で、砲撃を跳ね返す!

「う、うああああっ!?」

 インパクトと、自らの砲撃をまともに喰らい、吹き飛ぶ。直前にプロテクションを張ったのは正解だが、二発分のダメージを受け、呆気無く砕け散った。

 そして、完全に体制を崩し、隙だらけになったそのボディに……!

「ディバイン……! バスターーーーーー!」

 

――ズゴオオオオンッ!

 

 砲撃がクリーンヒット!

 

 遠くのほうで、ざぶん、と何かが水面に落ちる音を聞いた。

『クロノくん、戦闘不能……』

 魔導師の戦い方は、対処法のルーチンの積み重ねだ。

 射撃魔法はこうして防御する。誘導弾はこうして回避する。砲撃魔法はこうして耐える。

 相手の一動作につき、一つの対処。

 マルチタスクがあるとはいえ、それはあくまで連続する一つ一つの動作に過ぎない。

 

 なら、一つの動作に複数回の行動を込めることができたら?

 

 まず、初見の相手は必ず倒せる。けど、

「っぐ……!」

 弱点もある。

 まず、全魔力を集中させた掌打。相手に気取られることが無いように、一瞬で魔力を集中させなければならない。そのために、リンカーコアをレッドゾーンまで回転させる必要がある。

 そして、集中させた魔力一瞬で全身に戻し、再びリンカーコアを回転させ、必殺級の攻撃魔法を発動させる。

 

 結果、リンカーコアが急激に収縮し……つまりは、不整脈を起こす。

 

「う……がはっ!」

 リンカーコアを無理やり機能停止させる。

反動、結構キツいなぁ……

 と、その瞬間。

 

――ズパアアァァンッ!

 

「ぎゃっ!?」

 後頭部に、何かが命中した。

――あ、ヤバ。

 意識にモヤが掛かってきた。脳震盪か、何か……とにかく、戦闘不能になりそう……

 視界の隅に、クロノが事前に発射していた誘導弾が、役目を終えて散るのを見た。

(引き分け、か……)

 

 

「……負けたよ」

 医務室で目を覚ました俺に、クロノは開口一番そう言った。

 魔力ダメージしか与えていないので、外傷は皆無だ。

ただ、ダメージはそれなりに残っているらしく、エイミィに支えてもらってようやく立っている。

「引き分けじゃないのか? 結局、俺もKOされたわけだし」

「ルールにあっただろう。『先に気絶するか、ギブアップを宣言するか』……僕の方が、先に気絶していた」

 う~ん……あんまし、勝った気にならない。

「ところで……」

 んで、俺はというと……

「何で、勝ったはずの君が寝込んでるんだ?」

うるせー……

『リンカーコア出力、23パーセントに低下しています。

無理な稼働と、強制停止の影響です』

「秀人さぁん……」

 なのはが涙目になっている。

『全く……無茶をするのはあなたの悪い癖です』

「いや……ああしないと勝てなかったし」

 負けるのは嫌だから。引き分けだったけど。

「訓練なんだよ、訓練! 訓練で大怪我してどうするの!?」

 ぼすぼすとベッドを叩き、なのはが怒る。

「悪かった、俺が悪かったから……」

 なんとか宥めようと言ってみるものの、ぷんすか怒るなのはの機嫌は直らない。

「もう知らない! 今晩はすき焼きにしようと思ってたけど……ユーノくんと二人で食べちゃうから!」

「えええええ!? 勘弁してくれよ! 牛肉なんてたまにしか食べられないのに!」

「知らないっ!」

 うわあああああ……楽しみにしてたのに……! なのはのやつ、やると言ったら絶対に実行するんだよ!

 

『というより、詰めが甘いです。背後の誘導弾に気付かないなど……まして、それで負けるなど』

 静かな言葉に、滾るマグマのような怒りを感じる。

「れ、レイジングハート……? 秀人は勝ったんだから」

 ユーノがフォローする。が。

『最後まで立っていなければ、勝ちではありません。引き分け? そんなもの負けと同じです甘ったれるな』

鬼だ。鬼がいる……!

『どうやら、訓練すべきはマスターでなく、秀人のようですね……?

では、意識が戻ったところでマルチタスクの維持訓練を……とりあえず10個、6時間コースでフル稼働、始めましょうか?』

「死ぬ! 脳の神経が焼き切れる!」

『安心してください。焼き切れたら半田付けして差し上げます』

「俺の脳みそは古いラジオじゃねぇ!」

 

「ほ、ほんとにデバイスと漫才やってる……」

「……やはり、マリエルを呼ぶか」

 蚊帳の外で、エイミィとクロノがそんなやりとりをしていたり、カオスな空間と化していた。

 

『秀人』

 と、レイジングハートが口調を改めた。

『あなたが使ったという、カウンター技ですが……あれは、封印して下さい』

「……やっぱり?」

 さすがにあんな自爆技、いくら俺の身体でも使い続けるには限界があるしなぁ……

『下手をすれば、リンカーコアが破裂します』

 さらっと恐ろしいことを言われた。

「使っちゃだめ! 絶対だめ!」

 なのはが、いよいよ涙を流して俺に詰め寄った。

 う……これは反則だろ……

 でも、あの技があれば、戦力を飛躍的に高めることができるのもまた事実。

 さて、どうしたもんか……

『失礼。言葉が足りませんでした』

「「「え?」」」

 俺、なのは、ユーノの声が重なる。

 

『私が、完全な制御プログラムを構築するまでは、封印して下さい』

 

「なるほど。レイジングハートの処理能力を割けば、魔力運用のサポートになる」

『うまくいけば、リンカーコアへの負担を最小限にまで抑えることが出来るはずです』

えっと、つまり……レイジングハートがいれば、連発できるようになる?

「連発って……」

 ユーノはあきれ返っている。

「反動は軽減できるとはいっても、ゼロになるわけじゃないんだよ?」

「わかってるけどさぁ……俺には接近戦以外、取り柄無いし、アレは確実に決め手になるんだよ」

『決め手』が一回しか使えないのは困るし。

『まぁ、秀人も私のマスターです。デバイスとしての本分を、忘れたつもりはありませんよ』

 デバイスの本分……魔法の発動補助、か。

「……まぁいいや。んじゃ、頼んでいいか?」

『勿論です。では……』

 ん? まだ何かあるの?

 

『マルチタスク維持訓練、始めましょうか』

 

「えええええええマジでやるの!?」

 冗談だと思ってたのに!

『ヒデト……無様な敗北を喫しておいて、罰が無いとでも……?』

 逃げようにも、身体が動かない!

「ちょ……誰か止めて!」

 

「頑張って、秀人さん」

「ごめん、僕には……」

「それじゃ、行くかエイミィ」

「そうだね、クロノくん」

 

 四人はぞろぞろと部屋を出て行った。部屋に残ったのは……

『さぁ、始めますよ』

 鬼教官と、俺。

「…………ええい、やってやるよコンチクショウ!」 

そして。

 

 

「――ぎゃああああああああああ…………!?」

 

 

 翌日、翌々日共に、俺は割れるような頭痛に苦しむことになったとさ……めでたく無しめでたく無し。

 

 

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