魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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StrikerS編 第二十話

 

 

 

 

――――――――おかえりなさい

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

立ち込める火炎から、蒼炎の翼を広げた秀人が、無傷で出現する。

連射の効く副砲を、身一つで完全に大破させた圧倒的な威容に、ただ沈黙する管理局員たち。

アースラ艦橋と、映像通信が繋がった。その顔、その声……まさしく、吾妻秀人に他ならない。

「秀人くん……!!」

 エイミィら旧知のスタッフたちが、安堵の声を上げる。

今すぐに、顔を合わせて話がしたい。抱擁を交わしたい。しかし……その衝動を飲み込み、リンディは艦長代理としての職務を遂行する。

「――――嘱託魔導師・吾妻秀人。現時刻を以て、貴官の復隊を認めます」

『感謝する。戦況は?』

「現在、ゆりかごは沈黙。内部には……高町なのは特尉が取り残されています。救出を試みましたが、現状、出現したアンノウンと交戦中につき不可。また、空域のガジェットを、八神はやて部隊長が、航空戦力と共に掃討中」

『……了解。』

 二つとも、知った名どころではない。

 しかし、それを無為に優先することはせず、現状を把握する。

 

――――ビーーーー!!

 

 警報が鳴り、クルーが職務に立ち返る。

「地上アンノウンより多数のエネルギー反応! 無機物……未知のガジェットです! 百、千…………、転移反応、止まりません!!」

 モニターに映し出されるのは、蛇や、蠍、百足のような姿をした、異形の機械兵器たち。

 砲戦機能のエラーを対策するまでの間、本体防衛のために発進させられたのだろう。

 その数……数千にも届かんとする程。

「八神はやて部隊長は、敵航空戦力の掃討で手一杯です! 他の部隊の戦力を投じたとしても、これだけの数の増援までは……!!」

 

 地上部隊の一角…………補給部隊だろうか、車両が破壊され、更にはガジェットに囲まれ、立ち往生の絶体絶命という一団が見えた。

「……」

 ……それが見えたので、秀人は無造作に、手元に魔力弾を形成し…………

 

――――……キュドォンッ!!!

 

 速射砲が如き速度にて、地上へ向け射出。一拍を置き…………

 

――――ズドォオオオオンッ!!!

 

「あぁ……!?」

「な、な…………!!」

 隊員たちに迫っていた一群を、防御の暇さえ与えず、吹き飛ばした。

 しかし、まだ敵を見るや否や……

 

――――ドンドンドンドンドンッ!!

 

 同等威力の魔力弾を、五連射して放つ!

 

――――――――――――!!!

 

 爆音は更に衝撃波となり、一帯の敵を掃討した。

「んじゃまぁ、この調子で、」

 

「――――ストップだ、馬鹿者め」

 

 しかし、それを制止する声があった。

「……マリー」

 マリエル・アテンザ技官が、ヨロヨロとした足取りで、ブリッジへと這うようにやってきた。

「おまえ、本調子じゃないだろ」

「…………バレたか」

 

 ……秀人が、本気の、全力全開を出す条件。

 

――全開にした能力を受け入れるキャパシティのあるデバイスがあること。そして、その武装の残弾が十分にあること。

 

「どうせ、虎の子の『カーバンクル』を使い切ってしまったのだろう?」

 ……そう。あれは、プレシアと、マリエルの二人でしか製造できないオーパーツのようなもの。

異能の天才であるジェイルではあるが、それはあくまで、人体及びその周辺技術に特化したもの。工学へ特化したマリエルとは、パラメータが違う。

「それに……アイ。おまえ、しばらくノーメンテだろ」

 さらには、それもあった。秀人の自己申告では、500年以上……時間と空間の狂った場所で、稼働し続けていた。

『むー……やっぱりお見通しなの』

「ホントなら、あのデカブツ丸ごと吹っ飛ばすつもりだったんだが……やっぱり、調子出ないわ」

(――――アレで、本調子じゃない?)

 指先ひとつで消し飛ばされた、大量のガジェット。

(――――――アレで?)

 地上へ穿たれた……隕石が落下したかのような、6連のクレーター。

 

 

(――――――…………………………アレ、で?)

 

 

 ……彼と面識のないクルーたちが、顔面蒼白になる。

「気合と根性でどうこうなる問題でもないだろう」

 そこは秀人のことだ。それなりにやれてしまうのだろうが……不安要素は、可能な限り取り除いておきたい。

「一度帰投しろ。この場でレストアしてやる」

 最新設備へと改修されたアースラと、マリエルの腕があれば、ベストコンディションにまで復帰できる。

「いや、だが…………ガジェットはどうする? 抑えられる人員が無ければ、」

 

 

「――――――僕がやるよ」

 

 

 ……と、秀人の耳に、聞き慣れた……しかし、若干変化した声が聞こえた。

 秀人は、目の前に現れた三人組に、目をやり…………

「や。久しぶりだね」

「ゆ……ユーノか、お前…………? それに、アルフ……と、」

驚くのも無理はない。何故、アルフがフェイトではなく、ユーノと共に居るのか。

その隣に静かに佇む獣耳・尻尾の少女は、『盾の騎士』ザフィーラ。

「僕たちが、あのデカブツを抑えておくよ。だから、その間にアースラへ」

「いやいやいや……無茶言うなよ。お前は、結界魔導師じゃねぇか。アルフも、ザフィーラも、あれだけの物量が相手じゃ……」

 どう見ても、前線には不向きな技能だ。

 

「出来るよ」「可能だ」

 

 両隣のアルフ、ザフィーラが、異口同音に簡潔に述べる。

 どうやって、と聞こうとした秀人だったが……

「僕はね……ずっと、『前線には向いてない』って、言われ続けてきたんだ」

突然始まる独白に、秀人は、「お、おう……」と呑まれる。

……あまりに剣呑な目をしていた。

 

「『後ろで結界だけ張って、あとは支援だけしていろ』、なーんて、言われたこともあったっけ……ふふ……」

 

 じりじりと、負のオーラが漂っている。アルフとザフィーラも、ちょっと引いていた。

「確かに、得意分野に集中することは良いことだ。器用貧乏な何でも屋より、一極集中の専門家というのが、ある意味正解だろう」

 それこそ、フォワードチームのように。

自らの職務を活かして、無限書庫のデータベースから対策を出すブレインの役割に徹するのも、適任と言えば適任だ。

 

「でも、悔しいじゃないか」

 

 ユーノは、常に後衛だった。彼の尽力があってこそ、秀人たちが心置きなく戦えた場面は幾度もあった。その結界魔法や、治癒魔法、拘束魔法に助けられたことも、一度や二度では効かない。しかし……彼には、彼の葛藤があった。

「『苦手だから』の一言で……皆が体を張っている中、後ろから見ているしかできない、なんて…………だから。」

 

 

――――――ごうん、ごうん、ごうん………………

 

 

 圧倒的質量が、空気を押しのける異様な音と共に…………ソレは、現れた。

「…………な、なんだ、こりゃ…………!?」

 単純なサイズで言えば…………アースラの、約5倍。

 目を凝らせば、それが一枚の装甲ではなく、無数の立方体が、魚群の如く群れを成しているということが分かる。そして、その立方体とは…………

 

「――――()……?」

 

 そう、それは、一つとして同形の物の無い、表記や言語さえまちまちな、無数の『本』の集合体だった。それが、ただの本ならば、だが…………先ほどから、アラートが鳴りやまないのはどういう訳か。

『…………や……ヤバいの…………』

「……お、おう……一応聞いておくが、何がだ……?」

 戦慄するアイに聞く。

 

『アレ…………一冊一冊が…………封印レベルの魔導書なの…………!』

 

 ……B級からA級、果てはS級まで。

 それが、無数に群れた群体となって、ユーノに従っている……と、いうことは。

 

「ま、まさか……アレ、『無限書庫(・・・・)』かっ!?」

 

驚愕にひきつった顔になる。ユーノは、無限書庫『そのもの』を、魔力炉兼決戦兵器として持ち出してきたのだ。

「この数年で、ユーノが掌握できた分のみ、だけどね」

「うむ。古代ベルカ系は、我も手伝ったぞ」

 その両隣で何やらの補助術式を展開していたアルフとザフィーラが、苦も無く言ってのける。

「僕だって、ただ無為に時間を過ごしてきたわけじゃないよ。……いざとなれば、君を完膚なきまでに叩きのめせるくらいには、ね」

「………………」

 誇張では、無いようだ。ユーノもまた、秀人を力づくで連れ帰る術を、持ち合わせていたのだ。

「フェイトのことを信じていたから、使いどころが今なだけ、だよ」

 その膨大な制御術式を、難なく手元でコントロールするユーノ。彼もまた……秀人や、はやてのような……ある種、化け物レベルの異能者へと、変貌していた。

 

――――ギュヴィイイイイイイイイイイッッ…………………………………!!

 

 その内部へ、これまた常識の埒外にあるエネルギーがチャージされていき…………

 

「秀人。

 

 

――――――――邪魔だから、そこ退いてくれるかな?」

 

 

……その射線上に、自分が思いっきり晒されているという事実に、遅まきながら気が付いた。

「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいぃいいいいいいーーーーーーーッ!!」

『きゃー! きゃあー!! さっさと逃げるのーーーーーーーーーッ!!』

 弾き出されるように、アースラの方面へ全力で避難する秀人たち。

「――――――」

 瞑目していたユーノが…………カッ、と、開眼。

「魔導書合計300万冊分の純粋魔力砲…………!」

そして、長年の鬱屈を晴らすが如く叫んだ!

 

「――――知識の力舐めんなやゴラァアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

――――――――!!!

 

圧倒的な破壊力の光の奔流が、装甲を蒸発させる!

 

――――――バゴォオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!

 

自動修復システムを凌駕する熱量が、機体を内部から蹂躙する!

 

「ぐわぁああああああああああああああああーーーーーーーーー!!?」

 まるで、至近距離で炸裂したかのような光と衝撃波と熱が、秀人どころか、アースラまでをも揺さぶった!

 

「あ、ゴメン」

「ゴメンじゃねぇーーーーーーーー!!」

「ちょっとカンベンして下さいよ!!?」

 高度維持に手いっぱいだったゼルビスらが、割と必死になっていた。

「うん、でもまぁ……まだまだ続けるから、頑張ってね」

「はァ!?」

「へーきへーき」

 

 そして。

 

 

――――――――――ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオォンッ!!!!

 

 

 連鎖する爆発。そして悲鳴。着弾の余波だけで、戦闘を行っていた魔導師たちが木端のように蹂躙される。まさに阿鼻叫喚。殺傷設定だの非殺傷だのという次元を超えている。

「ぎゃぁああああああーーーー!!」

「墜ちる、墜ちるーーーー!!!!」

 そうは言いながらもしっかり飛べているあたり、ユーノの見立て通り、彼らの腕前もまた確かなようだ。

 

「あ、あんな大魔力と……精密性を両立……!?」

 唖然と呟くクルーたち。

「……そうか、あの術式…………」

 

 滞空する魔導書の群体。それらは、動力炉としてだけではなく……一冊一冊がオリジナルであり、互いのバックアップであり、スペアでもある。それらは、まるで人間の脳のように、複雑極まりない無数の経路を構築し、無限にも等しい術式の行使を可能とする。そして、それらに必要とされるエネルギーもまた、術者には求められることは無い。

これまで、特定のデバイスを持たなかったユーノが、初めて手にしたデバイスの正体が、この無限書庫転用システムだった。

 ただ、その運用ためには、封印指定の危険魔導書を山のように利用するという、リスクヘッジを彼方へブン投げる必要があるのだが……

 

「そりゃあ、目の前に全知が転がっているんだもの。使わなきゃ損だよ」

 

 そのキレっぷりはある意味、ジェイルをも超えていた。

 

「もうアイツをからかうのは止めよう……」

『そうしたほうがいいの……』

 ……眼下のアンノウンが、反撃の暇も与えられずに蹂躙される様を見て、秀人とアイはボソリと言った。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 アースラの格納庫へ着地した秀人を、新参の機動六課の若手と、古参クルーが、各々の表情で出迎える。機動六課からすれば、恐怖の対象、最強の戦闘機人デルタ。しかし、古参からすれば……旧知の友人の帰還だ。

「おせぇぞ、大将!!」

「道草しすぎだっての!!」

 駆け寄ってきた彼らに肩を叩かれ、頭を小突かれ、抱き着かれ……

 

『マリエル、頼むの』

「おうよ」

 その中から歩み出てきたひときわ小柄なマリエルに、アイの本体、空色のクリスタルを手渡す。マリーのことだ。ほんの数分で、レストアも完了するだろう。

 その間、秀人がするべきこととは……

「吾妻秀人さんですね。お待ちしていました」

「状況の説明を頼む」

 そして、ヴァイスから渡された、ゆりかご艦内への侵入経路を確認する。

「AMFは依然として健在。飛行魔法から取りつくことは困難です」

 そして。

「八神はやて部隊長より、これを貴方に、と」

 手渡されたのは……安っぽいアルミのカラビナと、そこに提げられた、一本のアナログキー。

「……これは」

クルーたちが、カバーの掛けられた『ソレ』を、秀人の目の前に持って来る。

 

――ばさっ。

 

「……はは。お見通しか」

 カバーの下にあったのは、秀人の愛車、ZZR改。一点の錆、一滴のオイル滲みすらない、完全な動体保存がされている。

「終わったぞ」

 マリエルが、アイの本体を持って来る。

「調子は?」

『完璧なの』

 そのまま、再び首に提げる。

 

「んじゃ……行くぞ、アイ!」

『いつでもおっけーなの!』

 

――ヴァオォンッ!!!

 

『スレイプニル』起動。凶悪な出力が、再び鼓動を刻む。

 

『ハッチを開放します。甲板へどうぞ』

エイミィのナビに従い、甲板へ。そこには、以前は無かった筈の装置が取り付けられていた。溝のように埋め込まれた一本のレールと……射出機。カタパルトだ。

 

――ガチンッ。

 

『接続完了。続いて、発進シークエンスに入ります』

 アイの内部に、術式の発動要請が入る。術式は……ウイングロード。

 

――――承認。

 

『カウント5、4、3、2、1…………、――――射出!!』

 

――――バシュウウウウウウッ!!!!

 

「うぉおおおおおおおおおおっ!!!!」

 雄叫びを上げ、強烈な加速Gとともに、バイクごと射出される!

『ウイングロード、展開!』

 

――――ギュアァアアアアアアアアアアアアアッ!!

 

 射出の勢いそのままに、スレイプニルが、翼の道を突き進む!!

 

――がしゃんっ……!!

 

 空戦型ガジェットの群れが、砲塔を秀人へと向ける。その数、大隊ほどもあるであろう数から向けられる無言の殺意。

「行くぜオラァアアアアアアアアア!!」

 しかし、回避も、迎撃も、排除も必要ない。今、秀人が最優先するべきは――ゆりかご内部への突入なのだから!

『重力衝角、展開!!』

 

――――バキィイイイイイインンッ!!

 

 前部装甲が分離変形し……鋭き穂先を形成!

 

――――ガキャアアアアアアンッ!!

 

 鎧袖一触に、進路上を一直線に貫き通す!!

「!!」

 しかし、ゆりかごも抵抗する。高度を上げられぬのならばと、旋回により侵入口を秀人の進路より外す。

『ならば!』

 

「押し通るまでだッ!! ……アクセルカートリッジ!!」

『ロード!!』

 

――ガキュンッ!!

 

 発動するは、秀人の専用武装……アクセルカートリッジ!!

 

――――ギュイィイイイイイイイイインッ…………!!!!

 

 穂先へ、魔力・重力を集中! 魔力、物理の双方を、最大にまで高める!

 

「 『 ブチ貫けぇええええええええええええええええええええっ!!! 』 」

 

 

――――――吶喊!!

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

――――ズゴゥンッ……!!

 

 ひときわ大きな衝撃音に、ヴィヴィオ、四葉が、びくっと身を竦ませた。

「も、もう……限界だわ……!!」

「ママ……お母さん……!!」

 なのはへと身を寄せる二人。来たるべき最後を、受け入れようとしているようで……

 

――ずびし。

 

「あいたっ」「あうっ」

 ……その頭に、軽くチョップを入れるなのは。

『こら、勝手に諦めないの二人とも』

「で、でも……!」

 言い募る四葉に……なのはは、傷の痛みを押し殺し、笑いかける。

『もう駄目、もう限界、無理、無茶、無謀、不可能。……私たちは、何度も何度も、そういう場面に直面してきたわ』

「…………」

 資料としては知っていても、到底信じられはしないといった様子の四葉。

『――――絶対に諦めないで、最後まで足掻き続けること』

 

――――………………………………ォォォォォォォ……!

 

 ……音が、近づく。

『何度も、何度も…………私たちは、そうやって勝利を掴みとってきた。挫けそうになっても……少しだけ躓いても……』

 

―――……………………ォォォォォォォォォ……!!!

 

『――――あの人が、いつだって立ち上がらせてくれた。立ち上がるための、勇気をくれた。

 

だから……私は、最後には屈さずにいられた』

 

―――オォオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!

 

懐かしい気配が迫る。隔たるのは、厚さ1200mmの防御隔壁。繊維状の魔導合金を、いかなる力をも分散するよう編み上げた、突破困難な、最後の隔壁。

 

 

――始まりのあの日。

 

――どこへ向けばいいのか。どこへ歩けばいいのか。

 

――道を決められずに佇んでいた自分を、助け出してくれた。

 

――いつでも近くに居て、優しさと、勇気をくれた。

 

――あの日、胸に灯った消えない燈火が……深い闇を、照らし出してくれた。

 

 

『ねぇ、ヴィヴィオ、四葉。あの人はね、…………私が大好きな、秀人さんはね。

 

 

――――私の、スーパーヒーローなんだから』

 

 

 

 

――――――――――ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!

 

 

 

 

『――――――――――――――おかえりなさい、秀人さん』

 

 

「――――――――――――――ただいま、なのは」

 

 

――――再会の願いは、ここに果たされた。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「! 反応確認! モニター出します!」

 通信が回復する。天空に鎮座するゆりかごは……外部こそ変化しないものの、内部は既に、崩壊が始まっている。祈るような気持ちで、固唾を呑んで見守るクルーたち。

 

――――バカァァアアアアンッ!!!!

 

 ゆりかごの装甲板が、内部より破壊される。

「!!! 秀人くん! なのはちゃん!! ……確保対象、保護対象と共に、脱出を確認しました!! 無事です!! …………みんな、無事、です……ぅうっ……!!」

 感極まり、涙を流してしまうエイミィを、今は誰が責めることができようか。

「…………最後には、本当にどうにかしてしまうんだから……あなたという人は」

 

 アースラへ帰還した秀人たちを、隊員たちが取り囲む。歓迎……では、なく。

「……………………う、」

 確保されてきた、四葉に対する警戒だった。デバイスを向けられた四葉は、これも仕方のないことだ、と、自ら歩み出ようとしたのだが……

 

『――――やめ。全員、武器を下しなさい』

 

 なのはが、それを背中に庇った。

『この子の身柄は、私が預かります。危害を加えることは、私が許しません』

「で、ですが、教官……」「そいつは……」

 未だ、クアットロとしての非道が印象強い隊員たちは、警戒を解かない。

 なのはは……四葉の手を、握って見せた。

 

『――妹の、四葉です』

 

 断固たる決意を込めた言葉に、隊員たちは、なのはを信じ、引き下がった。

 

 

「デ……いえ、吾妻、秀人さん……」

 四葉は……複雑そうな顔で、秀人を見やった。『クアットロ』が、あれだけ執着し、あれだけ独占したかった筈の秀人は……憑きものが落ちたような、サッパリした顔で、笑みを浮かべた。

「四葉、か。……良い名だな。『クアットロ』よりも、ずっと」

「! ……は、はい」

「大事にしろよ。……なのはが、付けてくれた名だ」

「………………はいっ! ……って、あ、あ……? あの、あの……?」

 ぐしゃぐしゃ、と、髪を乱暴に撫でまわされ、目を回す四葉に……ようやく、隊員たちの緊張が、和らいだ。

 

「………………」

 その、足元。なのはのズボンの裾を握っていたヴィヴィオの視線に、秀人が気が付く。

「………………あ、あの…………ひでと、さん……?」

 緊張と、期待が入り混じった声色で、恐る恐る、声を発した。よく見れば、確かに似ている二人。親子と言われれば、そのまま納得できてしまう。

「どうした、ヴィヴィオ?」

 秀人は、ヴィヴィオの目の前に膝を突き、目線の高さを合わせる。

 

「あぁ……」「そっか。」「なるほどな」

 隊員たちが、その仕草の意味に、気が付いた。

こうして、話すとき、膝を突く仕草は……なのはが、ヴィヴィオ相手に、常にそうしていたことだった。基本的には、他人と接する時は腕を組み、遠ざけようとする癖のあるなのはが……『子供が苦手』と漏らしたことのあるなのはが、ヴィヴィオ相手にだけ、そうしていたのは……かつて、秀人がしていたことが根底にあったのだ。

 

「ひでとさん……あなたは、ヴィヴィオの、ヴィヴィオの、」

 ……その次が出て来ず、黙り込んでしまう。

 

――――お父さんですか?

 

 その、たったの一言が、言えなくて。

 

「――――――どう呼びたいんだ?」

 

 ……しかし、なのはがそうだったように。

 口下手な子供から本音を引き出すのは、秀人の役割だ。

「ヴィヴィオは、俺を、何て呼びたい?」

こちらから押し付けるのでも、出て来るまで待つのでも無い。

 ヴィヴィオが答えを出しやすい問いかけで……手を差し伸べるように、聞く。

「………………お、」

 絞り出すような、第一声。そして。

 

「お父さんって、よんで、いいですか!!」

 

 最後は思いっきり、声を張り上げた。

 土壇場で度胸が出るのは……恐らく、母親からの遺伝だろうか。

 それに対する秀人の答えは、当然。

「ああ、もちろんだ」

 

 そして、最後は。

『秀人さん』

「なのは」

 ようやく出会えた、二人。

「……大きくなったな」

 感慨を込めて言う秀人に、なのはが、綺麗に笑う。

『追いつきたかったから、頑張ったんだよ』

「…………」

『…………』

 話したいことが、多すぎて……結局、黙り込んでしまう。

 

 

『秀人くん』

 と、ブリッジより入電。

『……ゆりかご甲板に、』

 モニターが現れ、映像が映し出される。

 

「――――ジェイル」

 

 ――ジェイル・スカリエッティが。

 白衣のポケットに手を突っ込み、傲然と、挑むような表情で、モニター越しに秀人を見ていた。

「………………」

 ジェイルと秀人の間にあった契約。これは。

「……俺が、ケジメを付けないとな」

 視線を感じ、振り向くと…………なのは、四葉、ヴィヴィオを始め、機動六課や、古参のアースラクルーたちが、秀人を見守っていた。

「アイ、悪いけど」

『……承知したの』

 

――ぱしゅん。

 

 秀人は、全ての武装を解除し、人型となったアイをも置いて。

 

「――行ってくる」

 

 ゆりかごへと、降り立った。

 

 

 

ジェイルの思惑なのか……既に、ガジェットたちは停止していた。

 誰も邪魔する者は居ない中、二人は向かい合う。

「ジェイル」

「おう、待ってたぞ」

 バツが悪そうに黙り込む秀人に、ジェイルは、かか、と笑ってみせた。

「……あの馬鹿娘がやりやがった時点で、こうなる想像はついていた」

 

「――――今、思い出したよ。『翠先生』」

 

 聞き慣れぬ呼び名を口にする秀人。それに対し、ジェイルは、また笑う。

「バァーカ。鈍すぎるっつぅの」

 アースラへ中継されている光景の中に、ぱっと、映像データが表示される。

 

ぱっと表示された写真には、髪を黒く染めたジェイルの姿と……

「!?」

ぎょっとする一同。そこには、自分のよく知った顔……はやての主治医でもある、石田の姿があった。

「オレが、世界を渡り歩いて好き勝手してた……って話は、前にしたよな」

 それを前置きに……とうとう、明かされる。

 

「オレは、ある世界で医者をやっていた。

 

そこにある日、一人の患者が運び込まれてきた。

 

まだ5才のガキだった。

 

トラックに跳ね飛ばされて……もう、虫の息なんてものじゃない。

 

四肢はくっついているだけで、骨も靭帯も神経もバラバラ。脊髄にもダメージ。頭蓋は割れて、脳挫傷を起こして……

 

まぁ、そのまま死んじまってもおかしくない、生きてるのが心底不思議な状態だった」

 

……誰の話か。だが、皆は察してしまった。

 

「俺は……唯一、手元にあった酵素を、このガキに使ってみることにした。どうせ死ぬガキだ。未練たらしく持っていたクソッタレなブツの処理には丁度良い、ってな」

 

プロジェクトD、そして、プロジェクトE……その失敗作を。

 

古代の文献で得た、神代の魔法の再現。

 

だが、失敗作だ。

 

――ある被験者は、使用と同時に臓器が無数に増殖して『破裂』した。テロメアの補填が発現しなかった。

 

――またある被験者は、過剰な細胞分裂とともに、液状に溶け崩れた。

 

――またある被験者は、完全な己の分身を作ったが、自我が崩壊し、恐慌の末に揃って溶鉱炉に身を投げた。

 

このガキは、どんなふうに死ぬのか。

 

単純な興味から、それを服用させた。

 

 

――――――だが、耐えた。

 

 

――――――耐えられて、しまったのだ。その少年は。

 

――――――この少年こそが、プロジェクトEの完全適合者だった。

 

が、せっかくの完全適合者も、現地人の身勝手な欲望により、行方が分からなくなり……そのまま、長い月日が流れた。

 

そして、異次元で再会した。

「……だから、なんだろ? 俺を、人間に戻してくれる、っていうのは」

「……ああ。オレがしたことのツケだからな」

「戦闘機人や、人造魔導師は、お前の意思か?」

「……半分だ。最高評議会の要望に、俺が応えた形になる」

 

――秀人は、何気なく自供を引き出していた。

 

「断れなかったのか?」

「……断らなかった、が正解だ。俺には、やらなきゃならないことがあった。そのためには、必要なことだったからな」

「他に、やり方は……」

 

 

「――――ンなもんがあったら、とっくにやってんだよッッッ!!」

 

 

突然、ジェイルが激昂する。

 

「おめぇに分かんのか!? 『別のやり方』とかいうのが、分かんのかよ!? 

 

 これしか無かった!!

 

――――こうするしか、無かったんだよ!!」

 

 ジェイルもまた……苦悩の中を、歩んできたのだ。

「………………ごめん。俺には、わかんねぇや」

「………………!!!!」

 秀人は……安い同情などはしない。

「俺、お前よりバカだからさ。だから……なんでも知った風には、言えない」

 ジェイルが、怒りの感情を……己の内に押し込めてきたその感情を、噴き出さんとしている。

「……だから、さ」

 

 秀人は…………………………拳を、固める!

 

「来いよ、ジェイル。

 

――――――理屈なんざ捨ててかかって来い!!」

 

「――ざっけんなぁああああああああああああああああ!!」

 

――――バキィッ!!

 

ジェイルが、秀人に殴りかかる。

秀人は、傷こそ治癒するが、体力は消耗する。つまり、十分に殴り合いが可能なのだ。

「戦闘機人たちは、お前の……マリエルや、アーデルハイドの、兄弟たちのクローンなんだろ!?」

「そうだ! 10にも成れずに死んじまった……俺の兄弟たちだ!!」

「そのために、プロジェクトFを……評議会の提供した技術を!」

「そうだ! オレは……あいつらに、誓ったんだ!!」

ジェイルは今も、覚えていた。

 

 

……忘れることなど、できようものか。

 

 

あの日……ついには間に合わなかった研究。小さく……皺だらけになった妹たちの手。

 

――――間に合わなかった。許してくれ。許してくれ。

 

そう慟哭した、あの日のことを。

「研究は……必ず、完成させる! あいつらの人生が無駄ではなかったと……!! 

 

――――アイツらがこの世に存在したと、兄貴のオレが、証明するんだよ!! 

 

止まるわけには、いかねぇんだよォおおおおおおおっ!!」

 

そのために、彼らの細胞をクローニングした。

 

「だったら……なんで、人格を移植しなかった!?」

 

秀人の指摘。フェイトや、エリオがそうだったように……記憶や人格は、ある程度の複写が可能だ。だが戦闘機人たちには、それが無い。

 

「お前だって、本当は気づいてたんじゃなかったのか!?

 

――――どれだけ精巧な複製でも、彼らにはならない! もう、彼らは……!」

 

「――――黙れぇッ!!」

帰ってこない、と言いかけた秀人の顔面をジェイルが殴る。

 

「黙れ、黙れ、黙れぇッ!! お前が言うな! お前だけは、それを言うんじゃねぇッ!! いつまでもくたばった親のことを引きずってるような奴が! 偉そうにのたまってんじゃねぇええええええええええ!!」

 

「!! テメェこそ、ふざけんなぁあああああああああ!!」

 

 

――――!!!

 

 

「俺が! 引きずってちゃ悪いのかよ!! 毎日毎日、後悔してちゃ悪いのかよ!!

 

――――あの日に戻れたら!!

 

――――あの瞬間からやり直せたら!!

 

 お前に言われなくったって、そんなもん、ずっとずっと引きずってるに決まってるじゃねぇかぁあああああああああああああああああッッッ!!」

 

「――テメェには、出来るだろうがっ!!

 神に選ばれた能力の持ち主のテメェになら!! 因果律でもなんでも操作して、都合のいい現実を作り出しゃあ良いだろうがぁっ!!」

「ンなもん………………ンなもん、何度も何度も考えたッ……!!」

「……! なら、何で……!! 何でやらねぇっ……!!」

 

 

気づけば、二人は泣いていた。

 

 

泣きながら、殴りあっていた。

 

 

「それは…………やっちゃいけない事だっ……!! 俺の幸せのために、…………狂った因果は、必ずどこかを不幸にして、つり合いを取ろうとする……!!」

「……!! こんな時まで、他人のためかぁ!?」

「違うッ!! 

 

――――想いを、繋げてきた奴らがいたからだっ!!!!」

 

 

 血と、涙で濡れた拳を振るい続ける。

 

 

「――望まれない命が、存在理由を見出した!

 

――呪われた者が、自らの道を歩み始めた!

 

――――兄弟たちのため、運命と戦い続けてきた奴らがいたッ!!」

 

「…………!!」

「…………そいつらと…………そいつらの祈りと、自分の願いを………………天秤に掛けるなんて…………できるわけ、無いだろうがっ…………」

 秀人は……あの時間を、やり直したいと願うと同時に。今、ここにある奇跡が、いつまでも続くようにとも、願っていたのだ。

「……俺も、お前も、やり方を間違えた。お前は、賢いけど……一人だったから」

 だから。

 

 

「――――今度は、俺も一緒に、考えるから……!!

 

 

答えが出るまで、付き合ってやるから……!! 

 

だから、もう、一人で何でも、抱え込むなっ……!!」

 

互いの顔面を殴り合い…………同時に、倒れ伏した。

 

「はは……なんだよ、お前……何で、そこまで……」

「……友達……じゃねぇか」

 

甲板に二人して寝そべる。

「……お前、クライスラー事件に関与してただろ」

「……ああ。評議会の連中から、魔導師の素体の保存を命令された」

 

「ゼスト隊の連中を、生かしたのは……」

「……俺の意志だ」

クイントや、ティーダ、ゼスト……死んだと思われていた彼らを助命したのも、彼らを自身の管理下に置き、悪用を防いだのも……彼の意志。

 

 

『…………本当に、馬鹿な人』

 

 

と、ここに有るはずの無い声が届いた。

「――――うォッ……!? ぷ、プレシア……!?」

「げっ……!!」

顕れたのは、立体映像だが……ジェイルも、苦い顔をする。

 

『……なぜ、秀人がいた次元を探索していたの?』

そうだ。

そもそも、なぜ、異次元で秀人をサルベージできたのか。

「…………」

応えないジェイル。

 

 

『――アリシアの遺体を、探していたのね?』

 

 

ジェイルは、観念して白状した。

「……当たり前だろ……俺の、娘なんだ……」

 ジェイルが……一度は、安息を感じた居場所。

その痕跡だけでも、求めるのはサガだ。

「……あいつな、『パパ、パパ』って……カルガモみてぇに……後ろを付いて歩くんだ」

「…………」

「行きたくも無ぇ筈のピクニックなんてもんに、オレとプレシアを、我儘に、強引に連れ出してさぁ……けど……、それが……、最後には、笑えちまうくらい、た、楽しくってよぉ……!」

 宝物のような思い出と……痛みと、絶望。

 

「…………俺らは、そんなんばっかりだ」

「…………ああ」

「……それでも……俺たちは『今』を生きていくしか、無いんだ。ジェイル」

「…………ああ、そうだな。秀人」

 秀人は……ジェイルを引き起こす。このまま、アースラへ連れて行く。

 

 ……しかし。

 

 

 

――――――ズズズズズズッ……!!

 

 

 

「……!! 何だ、この震動……」

 空中の秀人に伝わるということは…………

『秀人!!』

「ユーノ、これは…………あの日の。……プレシアの時と、同じ…………」

『……ああ。次元震だ。そして、発生源は…………!』

 

 

――――――バリィイイイイイイイイイインッ!!!

 

 

 いとも呆気なく…………次元の壁が、硝子のように砕け散った!!

 

「…………!! ジェイル、跳べっ!!」

「チィッ……!!」

 

――――ダンッ!!

 

 アースラへと飛び移った二人の目の前で…………次元の壁の向こうより現れたモノ。

 

 

――――アインヘリアル。

 

 

「!? おい、何だアレ!? 同じのが、二機……!?」

 それは、先ほどまでユーノが対処していた機体と、ほぼ同一の外観と構造をしていた。相違点は…………色。最初に現れたものを、仮に一号機とすると、次元の壁を破り現れた二号機は、血のような真紅に、全体を染め抜かれていた。

「バ、バカかッッ! オリジナル機を……あんなモン、誰が持ち出しやがったってんだ!?」

 

 

――――オリジナル。

 

 

 ……それこそが、真のアインヘリアル(・・・・・・・・・)

 ユーノが対処し、足止めをしていた機体。主砲のたった一射で、部隊壊滅を可能とし、無数の副砲が敵を寄せ付けず、艦載ガジェットが穴を埋めるという、あの強大無比な化け物戦車は…………出力などにデチューンを施された、言わば、エラッタ機。

 

――劣化品に過ぎなかった。

 

 そのオリジナルこそ、地を裂き空を割り、世界の理さえも破壊する――超兵器アインヘリアル。

 

 

――――――ぶうぉおおおおおんんっ…………

 

 

 異様な術式と魔力と共に……アインヘリアル上部に、奇怪な装置がワープアウトする。

「なんだ、アレ…………」

 一言で言い表すなら…………三連に連なった、漆黒の立方体。

「……最高評議会、直々のお出ましかよ」

 ジェイルは、その正体を知っていた。

「最高評議会……? あれが……?」

「ああ。管理局創設の黎明期から、現代に至るまで……その頂点として君臨し続けてきた」

「…………何年くらい前だ、それ」

「聖王統一戦争の頃に、管理局の前身となる組織が生まれてから……500年」

「………………」

「オレみたいな技術者を作って、自分をメンテさせながら……本来の肉体を失い、器を乗り換えながら……今の今まで、生き延びてきた」

「でも……何で、今になって」

 影の支配者が、表に姿を現すなど、よほどの事では無いか。痺れを切らしたか……もしくは。

 

――――準備が整った(・・・・・・)か。

 

 

『 『 『 次なる器。誠に、大義であった 』 』 』

 

 念話を極大化させたような、異様な『声』が、脳を直接揺さぶった。

「ぐっ……!!」

 頭痛を噛み殺し、その姿を見据える。

「そいつは、どうも……! で、最高評議会サマは、どういうおつもりですかねぇ……!? 

 アインヘリアルは、器じゃなくて……世界を纏めるためのヒール(悪役)にして、汚職官僚を載せて、悪にでっち上げてぶっ殺して、この先100年の安定と平和を得る……って筋書きじゃ、無かったのかよ……! オリジナルは……それには性能が過ぎたから、解体して、設計図を献上するって話も……!!」

 

『 『 『 計画は、臨機応変に変化するものだ。そして、今回は、それが一歩早まったというだけの話だ 』 』 』

 

 ややボリュームを下げたのか、まともな会話が出来るようになった。

「早まった……? おい、アンタら、何を……!!」

 

『 『 『 お前は優秀な科学者だった。これまでの誰よりも 』 』 』

 

「だから……! 分かるように話やがれってんだ!!」

 500年を生きた知性は……最早、人間の領域を逸脱していた。

 

『 『 『 アインヘリアルの性能は、技術を300年以上、先取りしている。つまり、計画の300年を、短縮することが、可能になった 』 』 』

 

「おい……!! テメェら、まさか……!!」

 内情を知らぬ者達には、微塵も理解できない内容だった。しかし……決して、明るいだけの話ではない事だけは、伝わった。

 

 

――――最高評議会を構成する立方体・モノリスが、アインヘリアル一号機へと、沈み込んでいく。

 

 

 そして……

『ゆりかご、降下を開始! 地上アンノウン……二号機も、移動を開始しました!!』

 

――――ゴゴゴゴゴッ……

 

「……溶けて、やがる…………」

 ……マシンであるはずの、アインヘリアルが……ゆりかごが…………ドロドロに融解し、交じり合い……異形のマーブル模様を描き…………

 

「――――始まった」

 

 ジェイルの、戦慄と共に…………形を、作っていく。

 三基の動力炉が、一基へと統合され……構造体が、装甲板が…………『立ち上がって』いく。

 

――――ズシンッ……

 

 巨重と共に、踏み出されるのは……巨大な、脚部。

 

――――ばさぁあああっ…………!!

 

 展開される、天空を覆いつくすかのような、広大な翼。

 

――――グ、ググググッ…………、ボコンッ!!

 

 最後に形成されたのは……禍々しき角を備える、異形の多頭。

 

 

――――――――黙示録の赤い竜。

 

 

『 『 『 これより……『聖戦(・・)』を開始する 』 』 』

 

 

 その偉容より発せられた声は、全世界、全チャンネル、全領域へ、発信されていた。

「聖戦……?」

 

――――ジジジッ……!!

 

「がっ……!!」「何だ……これ……!」「直接、頭に…………!!」

 流し込まれる、イメージ図。それは…………

 

 

「――――全次元世界の一括管理……!?」

「え、え、……なに、これ…………資質を、決定づけてからの、定数を満たす出産……!?」

「……望まれた資質が発現しなかった者は…………隷属……もしくは、」

「戦力への、自動組み込み……足りない者へは、機械化の施術を、強制だって!?」

 それらは、すなわち……個人の尊厳を、無駄を、徹底的に排除した、完璧なまでに合理的な……悪夢の新世界。

 

 

――――時空管理(・・)局。

 

 

 まさに、それを体現しようとしているのだ。この……目の前の怪物は。

『 『 『 ――――反感も有ろう。しかし、この世界こそが、最も繁栄を約束された形態の社会なのだ 』 』 』

 ……理解、できてしまう。感情論を、徹底的に排除し……人の感情と言うものを、コントロールできてしまえば……この世界は、実現できてしまうのだ。

 

『 『 『 此度の『聖戦』を以て、世界より『闘争』の概念は消え去るだろう 』 』 』

 

 それ故の、『聖戦』だというのか。反逆者を、徹底的に排除し……取り返しの付きようのない、新世界を敷いてしまうことが。

『 『 『 賛同者……我が信徒は、我が、全てを賭けて保護しよう 』 』 』

 敵にさえまわさなければ……これほど、頼りがいのある存在も……他には無い。

 

 

『 『 『 貧困も、飢餓も、闘争も存在しない理想の新世界を。人類の夢と理想を。

 

 

――『恒久平和』を、我らが創生する 』 』 』

 

 

 そして。高らかに宣言する。

 

 

 

『 『 『 我らこそが、新しき世界を統べる『神』である。 』 』 』

 

 

 

 

――――――――聖戦が、始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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