魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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StrikerS編 第二十一話 『ひとすじの光が闇を照らす。人、それを愛という』

 

 

 

 

――――――――私、秀人さんが好き。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

同刻…………全世界。

 

 

――――ォオオオオオオオオオオオッ!!

 

 

 ある時点で出現した機械獣たちは、瞬く間にその総数を増していき……世界を、恐慌に陥れた。初動に遅れた軍などの治安維持組織は、その物量に押しつぶされ……民衆は、恐怖に震えるしか無かった。

 

――――『 『 『 従え。さすれば救われん 』 』 』

 

 ……そして、脳裏に響く、荘厳なる『声』。抗うことさえ無くば、危害は加えられないという保証が、更に人々を萎縮させる。

 

――――『 『 『 従え。 』 』 』

 

 

――――『 『 『 さすれば、安寧が与えられん 』 』 』

 

 

「あ、ああ……わかった……わかったから……」

 ある会社員の男性は、早々に抵抗の意志を失った。

「この子が、助かるなら…………」

 ある乳飲み子を抱えた母親は、受け入れた。

「………………どうなるんだ、いったい」

 ある公務員の中年は、己が立場を危うんだ。

「ぐ、あ…………」

 抵抗を試みた男子学生は、手足を圧し折られ、呻いた。

「え、これ…………テレビ、じゃないの……?」

 ある女性は、現実から逃避した。

「……………………、」

 ある軍人は、部下へも武器を捨てるように指示し、両手を上げた。

 

 

 テロなどという生易しいものではなかった。そこにあったのは、ただの事実。

『支配される日がやってきた』という、ただの事実だ。

 

 

――――同時刻。ミッドチルダ。

 

「む、無理だ…………!」

 ある陸士部隊の隊員が、デバイスを下した。

「だって、あれは……管理局の、トップで…………」

 相手は、犯罪者ではない。次元世界を統べる管理局そのもの。組織の一員として、組織のトップが決定した事項へは、従う義務がある。

「でも、こんなやり方は……!」

 ……人道的見地。倫理感情。それらから、反発の声も上がった。

「じゃあ、逆らえるのか……?」

 

――――ギギギギギッ。

 

 …………まるで、品定めをするかのような、無数の機械獣たちの眼。教義に背きし背信者が、どのような末路を辿るのか。

「…………」

 …………予感できてしまった。己の、友人の、家族の、恋人の顔がよぎり……反発は、萎んでいった。

「…………受け入れるしか、無いのか」

 物量に圧倒された……というだけではない。

己が、少なくとも所属し、貢献し、携わってきた組織の決定に対し、ただ個人の意見で不服従とするのか、という、疑念も生まれていた。

「……な、なぁ」

 と、年若い隊員が、卑屈な声を出す。

「そりゃ、ひでぇかもしれないけど……でも、これで、平和が実現するのなら……」

「っ……! サルバ、あんた!!」

「ひっ……!」

 大柄な女性隊員に胸倉を掴み上げられ、男性……サルバが縮こまる。

「で、でもよ、マルティナ……! おれらが入隊して、……いや、おれらがガキの頃から、何かが変わったことなんて、何も無かったじゃないか……!! おれらは、運よく管理局に入れたけどよ…………でも、おれらだけじゃないか……!」

 

 闘争。飢餓。病魔。貧困。格差。

 

 それらは、この世界が敷かれて以来、どれか一つでも解消されたことの無い問題だった。

「それを、管理局のトップが、一気に解決できるって、言ってくれてるんだぜ……!? クニのガキどもも、安泰に……」

 ひきつった笑いを浮かべながら……名案だ、とばかりのサルバにマルティナが即座に激昂する。

「この、馬鹿がっ……!!」

「ひぃっ……!」

 制裁を喰らわそうと、マルティナが拳を振り上げ…………

 

――――……ぞぶり

 

「……………………え?」

「ぎゃっ…………、え?」

 サルバは、どたっ、と尻餅をつく。

「……え?」

目の前には、毎度毎度、鉄拳を喰らわせてくる、おっかない幼馴染の図体があった。

「あ、え…………はぁあ……?」

 その腕だけが、自分の胸倉にくっついたままだった。

 

――――切断された断面から、噴水のように血が吹き出した。

 

「――――!!! お、ァアアアアアああああああああっ…………!!」

 苦悶の声と共に、マルティナが崩れ落ちた。

「ひぃいいいいいいいっっ!!! う、うで、マルティナの、うでがぁあああああああっ!!!」

切断された腕を、マルティナの胴体に押し付けるサルバ。

「だ、だれか……医者、医者を……!!」

 

 

――――――『 『 『 闘争は、認めぬ 』 』 』

 

 

 ……悲鳴さえも、凍り付いた。

「こういう、ことかよ…………!!」

 闘争の概念を消し去るとは……こういうことだというのか。ありとあらゆる衝突を、絶対的な恐怖によって、磨り潰すことだとでも。

「…………!!」

 衝動的にデバイスを構えようとしたサルバを、同僚たちが諌める。

「よせ、サルバ!」

「は、はなせ……!! コイツら許さねえ!! よくも……!」

 その『諍い』を認識した、統治者は…………

 

 

 

――――『 『 『 闘争は、認めぬ 』 』 』

 

 

 

 無数の機械獣たちが、牙を剥く。

 

 

――――『 『 『 闘争は、認めぬ 』 』 』

 

 

 逃げ道を決めあぐね、『言い争っていた』男女が。

 

 

――――『 『 『 闘争は、認めぬ 』 』 』

 

 

 泣きじゃくる子供を『叱責』していた両親が。

 

 

――――『 『 『 闘争は、認めぬ 』 』 』

 

 

 通路を塞ぐ車を『怒鳴りつけていた』通行人が。

 

 

――――『 『 『 闘争は、認めぬ 』 』 』

 

 

沈黙を命じた上官へ『詰め寄っていた』下士官が。

 

 

 

――――『 『 『 闘争は、認めぬ 』 』 』

 

 

 

 ねじ伏せられ、拘束されていく。

「………………」

 人々は、ただ沈黙し、それらを見ている事しか、出来なかった。

 

――これが、『平和』だというのか。

 

 しかし、数百年の思索の末に導き出された結論だ。決して、無根拠ではないのだろう。

「………………従うしか、」

 そう誰もが、受け入れ始めようとしていた………………瞬間。

 

 

 

――――――――ズガァアアアアアアアアアアアアンッ!!!!

 

 

 そびえ立つ赤き巨竜に、爆炎が衝突した。

「!?」

 沈黙しつつあった世界に、その号砲は盛大に響き渡り…………その蛮行を成した大馬鹿者へ、視線が集まった。

 

 

 

「――――――…………貴様らに、問おう」

 

 

 

 機動六課部隊長・八神はやて准将の声が……全世界へ発信される。

「え、これ……また別のひと?」「どうなってるんだ……?」

 巨竜の用いていた回線へ、無理やりに割り込み、逆に利用していることは、ある程度の人物にしか分からなかった。

 

「平和を欲する心は、皆が持っているだろう。

 

そのために、闘争を根絶する必要があることも。

 

当然、皆が思っている筈だ」

 

威圧でも、籠絡でも無く……ただ事実を淡々と述べる言葉に、聴衆は自然と耳を傾けていった。

「では、なぜ、皆が平和を望むというのに、それが実現しない?」

 ある者は困惑し、ある者は思索し、ある者は……一定の正解に辿り着いた。

 

「答えは簡単だ。

 

――――思い描く『平和』の形が、皆それぞれ、違うからだ」

 

『仲間外れのいないコミュニティ』を願う者もいれば、『一人でいられる空間』を願う者もいる。ある者は群れることを望み、ある者は静寂を望む。

 

――では、正しいのはどちらか?

 

 前者は、後者を引き入れようとするだろう。前者にとって、『一人で居る』ということは、平和の定義から外れることなのだから。だが、後者にとっては……それは、己が平和を脅かす侵略者でしかない。

「――――故に、争いは起こる。

――――己が『平和』を、『正義』を守るため」

 価値観の相違。それが、全ての争いの根源なのだ。

「では、平和を実現するのに、最も手っ取り早い手段は何か? ……これも簡単だ。

 

――個人の価値観を認めなければいい(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 ……そこの木偶の坊が言っているように、な。

不可能か可能かで言えば、可能だ。

脳にマイクロチップでも仕込んで思考を機械的に固定してしまうか、肉体を休眠させてコンピュータ内に意識を保存してしまえば、世界は平和になるだろう」

 争いの無い、平和が実現される。

 

「奴に賛同する者と、しない者……当然、そのどちらも居るだろう。同じ価値観など、一つとして無いのだから。

 

しかし――――だからこそ、我らは言葉を尽くすのだ」

 

時に徹底し、時に妥協し……互いの落としどころを探ってきた。その果てに、今の世界がある。

「衝突もあっただろう。悲劇もあっただろう。次こそは、次こそは……そう願いながらも、人類の歴史は、闘争の歴史として在った」

 それを、彼らが数百年、観測してきたように。

「確かに、奴の言葉は正しい。事実に裏付けされた、有用な解決策だろう。

しかし――その価値観を絶対的なものとして強いることは。恐怖による弾圧で、それを実現するのだとしたら。

 

――――それは、ただのエゴイズムだ」

 

 そう言い切り……大きく、息を吸う。そして。

 

 

 

 

「――――貴様らに、問おう!!

 

 

 

『神』を憎んだことは無いか! 『神』の馬鹿野郎と、思ったことは無いか!?」

 

 先ほどとは打って変わっての激しい口調に、聴衆は、嫌が応にも感情を揺さぶられる。

「いつだって神は、全てを奪ってきた!! ささやかな幸福も、かけがえのない時間も……愛する者さえも!!」

 その感情の矛先を……全て、目の前の巨竜へと集める。

「――――そのクソったれな『神』を自称する輩が、今、目の前にいる!! 天上でふんぞり返っていた仇が、ブン殴れる距離にいる!! 

 そして、極大の理不尽を受け入れよと、のたまっている!!」

 じゃきん、と魔剣の穂先を、巨竜へ差し向ける。

「――――私は、『神』を認めない!

 

――――対話を放棄し『手っ取り早い』支配を行使するような浅慮なる神を、決して認めない!!」

 

 そうだ、その通りだと、『神』の宣言への反発を、再び取り戻す。

「――――我らは、何だ!? ただ与えられる平和とやらを享受するだけの……保護の見返りに身を捧げるだけの家畜か!?」

 

「……ち、違う!」

 市民を避難誘導していた善意の若者が、声を上げた。

「―――違うわ!」

 機械獣から子供を庇っていた老婦人が、声を上げた。

「そうであって、たまるか!」

 妻子の待つ我が家へ走る父親が、声を上げた。

 

 

「――――我らは『人』である!! 数だけが取り柄の、十把幾らの『人』である!」

 

 

『 『 『 危険分子は、 』 』 』

 巨竜の頭の一つ。その口腔内へ、エネルギーが充填されていく。標的は、射程内、遮蔽物の無い空中に佇んでいる。外しようも無い。

 

『 『 『 排除する 』 』 』

 

 

――――――ギュゴォオオオオオオオオッッ!!!

 

 

 はやてが、その破壊の奔流に呑みこまれ……誰もが息を呑んだ。

「部隊長っ……!!」

「大丈夫です」

 機動六課の面々が、悲鳴を上げる中……フィアットだけは、平静を保っていた。

「――――部隊長は、無敵です」

 そして、皆が見上げるモニターの中。

 

 

――――――……バヂィイイイイイイイイイイイインッ!!

 

 

『神』の一撃を耐え抜き……弾き返した!!

 

「――――我らが、家畜でないと言うのであれば……『人』の意志を示すのだ!」

 

 魔剣は亀裂が入り……黒翼は千切れ飛び、防護服を貫いた威力が、肉体を焼き焦がし……しかし、『神』の一撃、その直撃を受け……それでも、立っている!

 

「――――――――今こそ、『神』へ抗う時!! 

 

意思を示し、意志を束ね……『神』討つ刃として、喉元に突き立てよ!!」

 

 

――――ガゴォオオオオンッ!!

 

 

 機械獣が、横合いからの一撃に砕かれる!

「ぅおおおおおおおおおおっ!!」

 気を確かにした局員たちが、反撃へ撃って出た!

 

 

 

「――――すげぇな、アイツ」

 機械獣たちを撃破しつつ、その成り行きを見守っていた秀人が、呟いた。

 見れば……機動六課の面々だけではない。展開していた他の部隊……陸士部隊、空戦部隊……それどころか、指揮官を失ったデイリンの部下たちまでもが、自発的にはやての指揮下に集っていた。そして、その急造の大部隊は、はやての指揮のもとに見事に連携し、機械獣たちへ組織的に対抗さえしていた。この扇動の能力。もはや、カリスマと言い換えても良い。

「あのぼっちでヒッキーで野菜が食えないお子様単細胞が」

「誰が単細胞だ!」「いてぇ!!」

 地獄耳で聞きつけてきたはやてが、秀人の尻を蹴飛ばした。

「この野郎! 話はいくらでも、そりゃあもう、いくらでもあるんだぞ! つーかトマトとセロリ以外なら野菜食えるわ馬鹿にすんな!」

 秀人の胸倉を掴み上げながら、ギャンギャンと吠える狂犬はやて。

「よくも勝手に居なくなりやがったな!! これでも多少は自力で歩けるくらいにはなってるんだぞ!! 何で見てなかった!! お前に一番に……一番最初に、見てもらおうと思ってたのに!! 何年もほったらかしにしやがって! この嘘つき! 見ててくれるって言ったくせに!」

 至近距離から罵詈雑言を浴びまくった秀人は……

「――ただいま」

 はやてを、思いっきり抱きしめた。

「は、はなせ……!!」

 じたばたと暴れていたはやてだったが……

 やがて、自らも秀人の身体に手を回し、抱きしめ返した。

 

――めりめりめりめり。

 

「ぐぉ、ちょ、おま、つよ、……」

 肋骨がミシミシと軋む。

「うるせー……黙ってろ馬鹿……」

呆れたように笑いながら、好きなようにさせた。

「……、ふんっ!」

 どん、と秀人を突き放したはやては、少し赤くなった目元を拭う。

「戻ってきたからには、私の手足となって馬車馬の如く働いてもらうぞ!!」

 

「いや、それは俺の権利だ」

 

 と、そこへ闖入してきた別の声。

「んん……?」

 秀人は、その顔を見て………………ハッと気付いた。

「く……クロノぉ!?」

 何と言うことか。あの背丈が小さく、真面目に発育を心配していたあのクロノが、今や秀人とさほど変わらぬ体躯となって、目の前に立っていた。

「ふんっ!!」

 

――ぐしゃ。

 

 唐突に、顔面を殴打。

「ぶっ……! ってぇな、この……!」

「…………」

 ……しかし、二人は同じタイミングで、片手を振り上げる。

 

――――パァンッ!

 

 ハイタッチを交わした二人の間に、わだかまりは残らなかった。

「おう、悪かったな」

「ああ。このバカめ」

 そしてクロノは、はやての方を向く。

 

「はやて。君はこんなところで、有象無象の雑魚を相手にしている場合か?」

「……秀人と私でやれば、殲滅なんて簡単に…………」

 珍しく口ごもるはやてに、クロノが告げる。

「適任というものがある。俺には大隊は指揮できない。

はやて。君以外の誰が指揮を執るというんだ」

「ぐぬぬ…………」

 はやては……未練タラタラな様子で、秀人を睨みつけ…………

「……あーもう、分かったよ、譲ってやらぁ!!」

 ヤケクソ気味に、アースラの方面へと戻っていった。

 

――――ガシャガシャガシャ……!!

 

 減るどころか、むしろ数を増してきた機械獣たちに包囲される秀人とクロノ。

「敵は多いな」

「ああ」

 背中合わせに、機械獣たちと対峙する。改めてみると、凄まじい数だ。どこにこれだけの資源があったのだと聞きたくなるほど……地平線の向こうまで広がっている。そして、一体一体の戦闘能力も、ハリボテではないだろう。

 

――しかし。

 

「――行くぜ、クロノ!」

「――行くぞ、秀人!」

 

――――二人に、後退の二文字は既に無い。

 

『Connect on!』

『Completed!』

 

――――いつだって、そうだった。

 

――――クロノ・ハラオウンは……吾妻秀人の、最高の戦友なのだから。

 

 押し返す。

 

 跳ね除ける。

 

 投げ飛ばす。

 

 

――――皆が、戦っていた。

 

 はやてに喝を入れられた局員たちが……それを見ていた市民たちが、皆、精一杯の抵抗を続けていた。

 

『 『 『 ………………、 』 』 』

 

 直接の戦闘をすることだけが戦いではないとばかりに、若者たちは女子供や年寄りを、戦闘区画から非難させていく。それに追いすがる機械獣たちを、管理局員が一丸となって排除する。そこに市民も、管理局員も、違いは無かった。皆が、己に出来ることを精一杯に、取り組んでいた。

 

『 『 『 …………所詮は、一時凌ぎに過ぎぬ 』 』 』

 

 巨竜は……体表を撫でるに過ぎない魔導師たちの攻撃を意にも介さず……

 

――――――ギュヴァァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ………………!!!

 

 多頭の全口腔へ、エネルギーを充填していく!

 そして、今度の標的は……地表の、避難民たち!!

「ふ、」

 はやてが、極限までバリアを展開し、射線を遮る!

「ふざけんなぁああああああああああああああああああああああ!!!」

『駄目です、部隊長!! その出力では……!!』

 

「させるかぁあああああああああああああああああああああっ!!」

 

――――――ドガンッ!!

 

 秀人が……アースラの艦首へ着地し、拳を打ちつける! 瞬時に『結合』! アースラを、その艦首を支配下へ置く!!

「認証クリアだ!」

『発射シークエンスオールスキップ!! バレル展開!!』

 クロノとアイが、最短手順で突き抜ける!

 

――――ガキィイイイインッ!!

 

 アースラの艦首……『アルカンシェル』が、即座に展開!

「発射ぁあああああああああああ!!!」

 

 

――――――――――――――!!!!!

 

 

 発射される、互いの最強兵器!!

「ぐ、ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 破壊力と破壊力が拮抗する! ……否、アインヘリアルの方が、圧倒的に高威力!!

「うぉりゃああああああああああああああああああッッ!!」

 気合一閃。

 アルカンシェルの砲撃は、アインヘリアル主砲の一撃を、高空へ逸らすことに成功した!

「くそ……、!?」

 

――――――――ズガガガガガガガガガガガガガガッ……!! バッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!

 

 上空を薙いだアインヘリアル主砲は…………空間を、砕いた。ガラスのように、次元の壁、その破片が……地上へ、降り注ぐ。

 

――――ガッシャアァアアアアアアアアアアアアンッ……!!!

 

 物理法則を狂わせる、その次元の壁の断片が…………地上へ、機械獣へ、管理局員へ…………無辜の市民へ、襲い掛かった。

「――――!!! け、怪我人を救助ーーーー!!!!!!」

 いち早く我を取り戻した指揮官たちに、即座に従う局員たち。

「しっかりしろ!! ……おいっ!!」

「あ、あぁああああ…………」

 魔力に乏しい者たちの中には……最早、手遅れの者さえ居た。

「さ、下がれ!! まだ、『余震』が来るぞっ!! 次元の亀裂から、少しでも遠ざかれぇえええええええええッ!!」

 

――――ゴガガガガガガガガガガガガァアアアアアアアアアアアアアッ!!!!

 

「きゃああああああああああッッ!!!!」「うわぁああああああああああっ!!」

「た、助けて…………!!」

 一度は、希望を抱いた者たちが。無惨に、無慈悲に…………蹂躙されていく。

「…………………………なんという、ことを………………!」

 戦慄に、ぶるりと身を振るわせる。

 

 アインヘリアル主砲の射線上へ……虚数空間が、広がっていた。

「じ……次元震、…………いえ、これは……、次元断層です……!!」

 それを……あの巨竜は、あろうことか、戦う意思を持たぬ市民へ、直接照射しようとしたのだ。直撃でなく、この被害規模。

「こ、これが…………人間の作り出したもの、だというの……!?」

「こんなもので……こんなもので、平和を実現しようってのか!!?」

 空の色……否。空さえも消して見せたその超威力に、ただ、畏れを抱いた。

 

「…………、っぐ!!」

『マスター!』

 アルカンシェルを己が身を媒介に発射せしめた秀人は、その反動をその身に喰らい膝を突いた。

「て、てめぇ…………!! 何を、やってやがる……!!」

『 『 『 ――無論。恒久平和実現の障害を、排除したまでの事 』 』 』

 

「……! てめぇの、守るべき市民だろうがぁああああああああああああッ!!!」

 

 激怒と共に、吠える!

「何が、聖戦だ……!!」

……分かる。

 戦場の中に、消えゆく命の燈火。風に吹かれる蝋燭のように……儚く、呆気なく、吹き消されていくのが。

「――――何が、恒久平和だ!!」

 修復を終えた秀人が、立ち上がる!

「悲劇をバラ撒いてるのは、てめぇらじゃねえかぁあああああああああああっ!!」

 止める。何としてでも。何をしてでも!!

 

――――キィイイイイイイイイイイイイイイッ!!!

 

 不死鳥を召喚。周辺魔力を収束魔法で取り込み、熱量を上げていく!

 ユーノの、無限書庫魔力砲による援護!

 

 そして、アインヘリアル、第二射!!

 

――――ギュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!

 

戦闘区域の全魔導師たちによる援護射撃を取り込み、不死鳥が砲撃と衝突する!!

「ぐ、……がぁああああああああああああッ……!!!」

 

――重い。

 

 まるで、ダムの放水を、身一つで受け止めているかの如き衝撃。

 しかし……『逸らす』のでは、足りない。この攻撃は、どこへ着弾しようとも、結果として次元断層を発生させる。求められるのは、『相殺』だ。

「――イモータルハート!!」

『了解、なの……!!』

 

――ガリィイイイイッ……!!

 

 カーバンクルを使用し、エネルギーを底上げする。一つ、二つ、三つ…………!

 イモータルハートが異常に発熱し、秀人の身体も崩壊が始まる。しかし……

 

 

『 『 『 ――――――――――消えろ 』 』 』

 

 

 不死鳥と、アインヘリアルが……互いを飲み込み合い、…………弾ける!

 

――――――――――――…………グゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!!!

 

「がぁああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 堅牢なイモータルハートの装甲が砕け、秀人ごと吹き飛ばされる!

「秀人ッ!!」

 クロノが、アースラから落下する寸前の秀人を救助する。

「ど、どうなった……!?」

「………………、アインヘリアルの第二射は、相殺された。第一射よりは、被害は少ない」

 しかし、ユーノの切り札、無限書庫は魔導書の半数を焼失し、砲身の維持は不可能。周囲に居た魔導師たちは、援護している隙を機械獣たちに突かれ、戦闘不能。少数のエース級は健在ではあるが……それも、敵の物量に押され気味である。

「…………っく!!」

 

――ジュウウウウッ!!!

 

 炎と共に修復を終えた秀人が、状況を己の眼で確認する。

「………………」

 敵アインヘリアルは、先ほどの衝突でどうにか砲身を潰すことには成功したものの……修復機能が備わっていないほど、抜けた設計でもないだろう。愛機イモータルハートは、カーバンクルの多重使用による発熱で、整備が必要だ。

「秀人。ここは……」

「ああ。…………戦略的撤退だ」

 この状態で立ち向かっても、犬死にだ。敵アインヘリアルを使用不能にしたことで、はやては、大分楽に立ち回れるようにはなっている。この隙に、整備を受けるのが正解だ。

 

 

 

「――――状況は、最悪です」

 

 リンディは、開口一番にそう言った。

 敵アインヘリアルの破壊力は、想定を遥かに超えており……修復と再チャージに時間が必要とはいえ、次元断層を引き起こすほどの破壊力を持つ。はやては、アインヘリアルを周回しつつ、距離を保ち……囮となって、副砲による射撃のターゲットを外してはいるものの……また、いつ標的が変わるかも知れない。

「アルカンシェル、先ほどの衝突で大破。……少なくとも、発射は不可能」

「……他の、航行艦は?」

「…………評議会の権限により、このアースラ以外は、機能をロックされて……他世界からの帰還もままならない状況です」

 いや……彼らもまた、その世界に出現した機械獣たちへの対応で、手一杯だろう。

「敵主砲……修復完了まで、推定、600秒。今度は……相殺する手段は、……」

 

――――。

 

 ……と、そこへ、マリエルが歩み出た。

「……………………方法は、…………ある、には…………ある」

 苦渋の表情。その方法とやらが、非常にリスキーであることを、暗に示していた。

「…………秀人はどこだ?」

「……イモータルハートは整備中だからと、艦首から、自力での砲撃を行っています」

 呼び戻された秀人は、その気配を察した。

 ジェイルと、マリエルが……そして、モニターの向こうに、プレシアも。三人の傑出した技術者が、揃っているということは。

「…………秀人。お前に、問う」

「…………ああ。」

 

 

「――――――――………………。」

 

 

 ………………その、説明を受けた秀人は。

 

「――――ふざけるなッ!!」

 

 マリエルを、片手で掴み上げた。

「お前っ……! 自分が、何言ってるのか、わかってんのかッ!?」

「…………!!」

 されるがままだったマリエルが、頬を紅潮させる。

「――――ああそうだよ!! わかってて言ってるんだよっ!!」

 げしっ、と秀人の顔面を蹴り飛ばす。そのまま、今度はマリエルから掴みかかった。

「こうして解決策でも提示してやらなきゃ、またお前は…………どうせ、同じことするつもりだったんだろう!!」

 あの日……次元の坩堝へ、一人で消えたように。

「…………!!」

 図星を突かれた秀人は、言葉に詰まり……

「…………それでも、俺がやるしかないんだっ!!」

 マリエルを突き飛ばし、イモータルハートを整備ポッドから強奪。

「秀人、待て!! 待ってくれ……!! 行かないでくれっ……!!」

 

 マリエルの、切望するような声を振り切り……秀人は、飛び出した。

 

 

 

 

 

――――――対抗するには、お前の力が必要だ。

 

 

 

――――――お前の『結合』の力を、極限まで増幅し……

 

 

 

――――――評議会どもと、同等の存在になる必要がある

 

 

 

――――――――そのためのプログラムは、用意できている。

 

 

 

――――――――ただ、一人では、プログラムが実行できない。

 

 

 

――――――――二種の術式の複合発動が、鍵だからだ。

 

 

 

――――――――誰か、もう一人…………………

 

 

 

――――――――その、もう一人と共に、『神』と、対等のステージへ。

 

 

 

――――――――そして、その誰かは、確実に……

 

 

 

――――――――お前と同じ(・・・・・)不死性を発現する(・・・・・・・・)

 

 

 

「ふざけるな……ふざけるなよ…………!! そんなこと……!!」

 

 

 

――――――――お前が選べ(・・・・・)

 

 

 

「誰が、そんな選択をするものかっ!!」

 ……秀人は、誰よりも知っている。人類の夢……不老不死というものが、現実には、どのようなものなのか。老いず、死なず…………時間の流れから取り残され、ただ、近しい誰かが逝くのを、見ている事しかできない。世界が滅んだとしても、ただ一人、取り残されるのだ。永遠の生命は、永遠の孤独に他ならない。

「…………俺だけで、いいんだ。そんなのは……!!」

『………………マスター。』

 秀人は、飛び続け……しかし、ふと、止まった。

 

――――また、繰り返すのか。

 

 …………また、無理やりな方法で、誰も望まない方法で、問題を先送りにして。

 皆を悲しませるのか。

 しかし。でなければ。誰が、どうやって止める。

「あああああぁああああああああああ……!!」

 

 

――――――お前が選べ。

 

 

 その言葉を聞き……真っ先に彼女(・・)の顔が浮かんでしまった。その、愚かな思考に反吐が出る。

『マスター……』

「………………………………モード『カノン』、展開。遠距離から……カーバンクル使用の砲撃で、アインヘリアル主砲を、破壊する」

 秀人の選択は……現状維持と言う、最も消極的な応戦だった。

『…………………………マスター。』

 諌めるでもなく、言い含めるような呼びかけをするアイ。

『アイにとっては、マスターが、望みのままに行動できることが、一番の願いなの』

「…………………………指示が、聞こえなかったのか」

『それが、マスターの望みであれば……アイは、全てを捧げて、それを叶えるの』

「…………………………」

『けれど…………マスター。アイが、一番かなしいのは………………マスターが、自分にウソをついて、誤魔化して…………自分を、曲げてしまうことなの』

 それは、今、まさに秀人が行っていることだった。

『アイは、マスターに……心のままに、動いて欲しい』

 心のままに。しかし、それは……『彼女』を、永遠の牢獄へ、閉じ込めてしまう。

『マスター。……マスターは、そもそも、思い違いをしているの』

「………………へ?」

 思い違いとは、どういう意味だ。そう問い詰めようとした。

 

『――――――秀人さん』

 

 まだ聞き慣れない、人工的な合成音声。

「…………………なのは」

 ……痛々しい姿だ。左目は、裂傷の痕……白濁し、視力は喪失している。左腕は、肩から先が欠損し、カモフラージュ用の義手が失われている今、その傷跡が、より強調される。体中の魔力の流れも、歪に変形しており……かつてほど緻密な魔法の行使は、望めない。

 

(俺に、関わらなければ…………)

『とか考えてるんだったら、怒るからね』

 なのはは、秀人の頬をつねり上げた。お見通しである。

「…………でも、駄目だ。こればかりは…………」

『…………』

 

「そもそも、どういうことなのか、本当に分かっているのか。 永遠なんて…………歌や物語で祀り上げられるほど、高尚なものでもなんでもない。……その選択をしたら、もう、引き返せなくなるんだ。テレビゲームみたいに、ロードしてやり直すことも出来ない。なぁ、分かってるのか? もう、あいつらと同じ時間を生きられなくなるんだぞ。フェイトも、はやても、ユーノも、アルフも、クロノも、桃子も、恭也も、美由希も……あいつらだけが、みんな、先に死んでいくのを、老いない身体で、ずっと、ずっと……あいつらの子供も、孫も、……全てを、見続けなければならないんだぞ。もう嫌だ、もう終わりにしたい……ずっとずっと、そうやって苛まれながら、世界が終わっても、存在し続けて、」

 

 

『ああもうゴチャゴチャうるさいなぁ』

 

 

――――――。秀人の言葉が、物理的に中断させられる。

 

 視界が塞がるほどの至近距離。柔らかな温もりが、唇を介して伝わってくる。

逃げようにも、片腕で器用に首を固定されていて……というか、そもそも……

 

――――逃げる気が、不思議と起きなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

『――――――――――――――――秀人さんが、好き』

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――変わらず抱き続けてきた、その想いを伝える。

 

『――私、後悔なんて、してないよ。ユーノくんやレイジングハート、フェイトやアルフ、クロノやリンディさんにエイミィ、はやてに、フィアットに、守護騎士のみんな。カレンやオウル隊長。機動六課のみんなや、ヴィヴィオ、四葉。

 

 秀人さんがいたから。秀人さんが繋げてくれたから。私は、みんなに会えた。

 

――――秀人さんと出会ったことは、私にとって、最高の幸運だったよ』

 

 それでも、と、秀人が言い募る。

 怖くないのか、と。

 

 

『――――――――――ずっと一緒だから、怖くなんてないよ』

 

 

 ……秀人は、すっかり見落としていたのだ。

 永遠に続く時間。それは、孤独に違いない。……………………一人ならば。

 だが、もしも…………隣に居てくれたのなら。温もりを、分かち合えたのなら。

 

『――――大丈夫。きっと大丈夫だよ』

 

 こうして、手を取り合って、歩いて行けるのなら。

 

 

『私は…………秀人さんと一緒なら、ずっと、ずっと……一緒に歩いて行けるから』

 

 

 抱いては、消えていった願いがあった。望んだ数だけ裏切られ……いつしか、願うことさえ、無くしてしまった……諦めてしまった願いがあった。

 

――――――暗い夜の中、不屈を訴えた少女がいた。

 

 折れそうな手足で……それでも、胸に抱いた小さな燈火を、絶やさないように懸命に生きていた。自分が失ってしまったものを、守り続けていた。

 

 

――――笑っていてほしいと、心から、そう思えた。

 

 

――――この少女の笑顔が、もっと見たくて……

 

 

――――幸せになって欲しいと、思って。

 

 

――――気付けば、自分も笑っていた。

 

 

――――当たり前の日々が……こんなにも愛おしいと、教えてくれた。

 

 

――――この少女がいたから、俯かずに歩いて来られた。

 

 

――――これが。

 

 

――――この感情が。

 

 

 

 

 

――――――――――――――『愛』ではなく、何だというのだろうか。

 

 

 

 

 

「………………なのは。」

 秀人は……生まれて初めて……自分のための、我儘を口にする。

「俺も…………、いや。

 

 

――――俺は、なのはが好きだ。俺と、一緒に生きてくれ」

 

 

 その言葉を、聞き届け……

『………………手間の掛かる人ですね。いったい、何年気付かなかったやら』

 レイジングハートから、一組の…………銀の指輪が、現れた。

 

 秀人と、なのはは…………躊躇なく、その指輪を着け――――――――

 

 

 

『――――――――Standby ready』

 

 

 

――――永遠が、始まる。

 

 

 

 

 

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