魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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StrikerS編 第二十四話『穏やかな日々へ。平穏に、うららかに、凪のように』

 

 

◆ ◆ ◆ ◆    それから   ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

――――皆が知らぬこと。

 

――――秀人となのは。

 

――――神の領域へ到達した二人は。

 

 

 

――――――――嘘のように、元通りの身体に戻っていた。

 

 

 

 ………………冗談ではなく、事実だ。

 秀人も、相変わらず死ぬに死なない身体ではある。なのはは、欠損部位が復元された以外、ごく平常のコンディションだ。なのはに至っては、相対的に強化された気まである。

 

 

 しかし、あの、全世界を一繋ぎへと結合させ、人々の潜在能力を極限まで引き出して見せたような超常能力は、綺麗サッパリ、消え失せていた。

 

 

「そりゃ、神様がこうして出歩いてたらまずいもんなぁ」

 秀人は、久々に戦闘服以外の……その辺の若者のような、ジーンズにTシャツにスニーカーというラフな格好で、久々の海鳴市の通りを歩いていた。

 

「うーん……アイにも理由がわからないの……」

 その隣を歩く、肩口まで黒髪を伸ばした少女が、首を傾げた。

「っていうか、別に来なくても良かったんだぞ」

「む。ちょっとソレどういう意味なの」

「いや、俺より、ヴィヴィオに付いててくれた方が……」

「アイがおまえよりも優先する事柄なんてあるわけないの! ほんっとマスターってば、ぼけなすなの!!」

 

――――。

 

 今日も仲良くケンカする一人と一機の前に、一台のワゴン車が横付ける。スライドドアを開けて、顔を見せたのは、それなりに知った顔。

「お二人とも、お待たせしました!」

 明るい笑顔が魅力的な少女……はやての一番弟子、美香だった。二人は、促されるままに乗り込んだ。そして、ふと運転手は誰だろうとルームミラーを見やると…………

 

「……!? お、おぉおお! ヨシオ! ヨシオじゃねぇか!!」

 かつての部下にして同僚、アルバイト戦士ヨシオは、学生上がりのあどけなさは既に無い、社会を生きる男の顔になっていた。

「気付くの遅すぎッスよ、秀さんってばもー!!」

 人懐っこい笑顔に当時の面影を残し、ヨシオが再会を喜ぶ。

 

 すると、後部三列目の座席から、ニョキッと見覚えのある顔が覗いてきた。

「お兄はん、お久しゅう、やなー」

 はやてそっくり。ディアーチェ。

「? ……シュテルとレヴィは?」

 聞いた話では、四人娘で行動していることが多い……とのことだったのだが。

「あはー。レヴィはおかんと…………シュテルんは、嫁はんと一緒やでー」

 ニヨニヨと含みのある笑みを浮かべるディアーチェ。

「そうか、なのはの方か」

「………………………………」

「どした?」

「ぼけなす。ちゃんとリアクションしてあげないと可哀想なの」

 ……ごく真顔で『嫁』で通じてしまった。ディアーチェは、美香の膝に顔を埋めてヨヨヨ、とわざとらしく嘘泣きしている。

 

「あーもう、少し静かにしろよお前ら。秀さん困らせんな」

 呆れながら注意するヨシオ。

『なーなー、お兄さん』

 と、今度は念話でちょっかいを掛けてくる。ちょこん、と摘まんだ指先から、接触回線で、美香に気取られること無く。

『あんなー、ウチら、闇の書事件の時に現世に顕現したんよ。んで、お姉ぇの勅命で、まだ不安定だった美香の生活全般のサポートをすることになって』

「…………」

『アーフィエルまで置いて行ったんやでー。お姉ぇ、ものごっつ優しいやろ?』

 はやてが、苦渋の選択をしたことは知っていた。しかし……全てを手放すのではなく、必要な手助けをしっかりと残していく過保護っぷりは、実に彼女らしい。

『ウチらは一応、留学生っていう『設定』で、美香の近くに居座ろうとしてねんけど、……なんか、『設定』をゴリ押す魔法を使う前に、アッサリと受け入れられてしもうたんよ』

 軽い暗示か、洗脳を用いて違和感を消そうとしていたのだが…………

 

――――え、美香の友達!? え、家に? オッケーオッケー! ドンと来い!

 

 そして、呆気にとられる三人を、何の疑いも無く自宅まで招き、その姉と対面したら。

 

――――あら、可愛らしい子たちねぇ。いつでも来てくれてもいいのよ。美香と仲良くしてあげてね。少しワガママだけど、自慢の妹なの。

 

『結局、ずぅっと何年もそんなノリでなー。なんやもう、無理やりどうこうしようって気が起きへんかったんよー』

 そして、当時小学生だった美香が中学生になり、間もなく高校受験を迎えるような学年になっても……ディアーチェたちの素性を疑いもせず、美香の友人として、今ではすっかり家族の一員のような扱いまでされてしまい、困惑を通り越して安心してしまっているのだと。

『んで、ヨシオのやつ、何かあるたんびにお兄さんの話ばっかするんよー。だから、うちら一方的にお兄さんの人となり、知ってしもうたわー』

 年齢の近さもあり、仲は良かったという自覚はあったが。

 

『……ヨシオのやつ、ずっとお兄さんのこと気にして、心配して、寂しがってたんやで』

 

 …………秀人は、その言葉を聞き……

「……なぁヨシオ」

「あ、ハイ。何ですか?」

 

「――――――ただいま。」

 

 ヨシオは、少し息を呑むように、沈黙し……

「――――ハイ! 秀さん、お帰りなさい!!」

「おお、お兄ちゃん! 前、前―!」

「ぬぉおおお危ねぇ!!」

 ……そそっかしいところだけは、変わっていなかった。

 

「ほな、またなー」

 ディアーチェと美香は、これからシュテルと合流するため、別行動だ。ヨシオの安全運転を信用しよう。この後、シュテルらを送り届けた後、また合流となる。

 

 さて、秀人がこうしているのは、何も懐かしいメンツとドライブを楽しむため………………だけでは、ない。

ごくりと、覚悟を決め……ドアを開ける。

「お、来たか秀人。ま、来いや」

カントクは、数年ぶりということを全く思わせない素振りで、秀人を案内した。

変わらないオフィス。だが、こちらを凝視してくる同僚たち。事変の際、秀人の生存を確認していた彼らだったが……それでもやはり、直接会うのとは違った。

 

応接室……に通された先。

「あら、思った以上に元気そうじゃない?」

 フェイトとはまた違った質感の金髪の少女と。

「もう……素直に久しぶり、って言えばいいのに」

 艶やかな黒髪という、対照的な少女ふたりが、先客としてソファに座っていた。

「……? おう、久しぶりだな。元気だったか?」

 しかし内心で、誰だっけ……と、若干薄情なことを思う秀人に変わり、影のように傍らにいたアイが、しゅたっと手を上げた。

「はろー。アリサ、すずか」

「えっ!?」

 ……思わず口にしてしまってから、慌てて口を塞ぐも……手遅れだった。

「あんた、気付いてなかったの!?」

 炎のように激怒するアリサ。

「……ソンナコトナイヨ? ホントダヨ? ヒデトクン、ウソツカナイ」

「白々しいわーーーーっ!!」

 すずかは、相変わらずニコニコと笑っていた。

「――それだけ、アリサちゃんが綺麗になったってことだよ」

「……っ! そ、そういうことじゃ……ないと、思うけど…………」

「ですよね、秀人さん?」

「え、あ、ああ……」

 ……言葉を濁す秀人を、じぃっと見据えて。

 

「――――――ですよね(・・・・)? 」

 

 …………全く笑っていない瞳で、そう確認した。

「……おう。二人とも、美人になりすぎてて分からなかった」

 とはいえ、これも本音だ。

 しかし……なぜ、二人がここに?

カントクが何かの紙束を持ってきて、腰かけたと見るや……

 

「――――おまえ、クビ」

 

……デジャビュを感じさせる言葉を放った。

「……っふ」

だが、天丼は通じない。この後、「なーんちゃって」という言葉が出てくると……

 

と、なぜか無言で、新聞を取り出し、秀人に渡してきた。

 

 

――――高卒認定資格、文科省大臣が不正取得に関与!?

 

――――引き籠りの息子のため……揺れる教育界!

 

――――その他、年齢と一致しない取得者も!?

 

――――仮面ライダードライブ、堂々最終回!

 

 

「なん……だと……!? フォーゼはいつ終わったんだ……!?」「ウィザード、鎧武が間に挟まるの。555完結編、仮面ライダー4号もあるの」「嘘だろオイ……!? なんてことだ……!!」「っていうかこれでも、数年前の新聞なの」「ウゾダドンドコドーン!!」

 

――――TSU○AYAに! ○SUTAYAに行かなきゃ!!

 

今の話は関係無い。

 

――――だが……秀人は、身に覚えがありすぎた。

 

アリサが発言。

「そうよ。この事件の後、徹底的に調査がされてね……出るわ出るわ、詐称のオンパレード。酷いところじゃ、児童養護施設が噛んでる事件もあって……」

「はっ…………!!」

ぎくりとする。そうだ。秀人の高卒資格は、あの施設が、厄介な秀人を放り出すための方便として、年齢を詐称して受験させたもので……

「ま、まさか……!!」

 ……カントクは、一枚の封筒から、何らかの書類を取り出し……眼前に、広げて見せた。

 

 

「――――――おまえ、高卒認定取り消し」

 

 

「Nooooooooooooooooooooooo!!!」

 

 

……世界を救った男、中卒に降格。

「……ま、というわけで、ウチの正社員の雇用条件である『高卒以上』を満たしていない以上、お前を正社員として雇用し続けることができなくなった……ってわけだ」

とはいえ、カントクは無下に秀人を切ったわけではない。

「…………ほれ」

続いて出されたのは、とある学校のパンフレットだった。

「ん……何だコレ。学校のパンフ?」「んー、定時制高校……とは、また違うシステムなの」

単位制だが、週に3回以上の登校が義務付けられており、制服もあり、部活動まである。

「それ、ウチ(月村)が出資している学校なんです」

「へぇ……いい事業だな」

「お前が入るんだよ!!」

「ええーっ、俺が!? 嘘だろ!?」

 …………この期に及んで、まだ他人事の秀人に……アイ、アリサ、すずか、カントクの四人は、盛大にため息をついた。

 

 

「――学生から、人生をやり直して来い」

 

 

――秀人に、『学生時代』は存在しない。

 

事故が起きたのは、まだ小学校に入学する前のことだった。だから、カントクは秀人に、その失われた時間を取り戻させようとしているのだ。

「……くだらねーけど、必要なんだよ」

かつて、秀人がはやてに言ったことだ。

「学業に支障が無い範囲でなら、オレの会社で、研修って形で働くこともできる。卒業して、それでもまだ働いてくれるってんなら、雇用もしてやれる。大学まで進むなら、それでもいい。別の業界に行くってんなら、それでもいい。だから……だからよ、」

 カントクは、その熊のような掌で、秀人の肩をしっかりと掴む。

 

 

「たまには、自分のために生きてみろ」

 

 

胸が詰まって、言葉が出なくなる。

「なのはちゃんにも、もう話してあるの」

「あの子は行くって言ってたわよ?」

「おぉ……んじゃ、夫婦でガッコ行くわけだ! ガハハハ!!」

愉快そうに笑うカントク。

「そうなりますね」

「 「 「 ……………… 」 」 」

 ……謎の沈黙が下りて、秀人が、何かに気付いて、一言。

「…………俺の居た施設は、」

 調査が入ったということは、その他にも、あれやこれや……いや、狡猾な連中だ。きっと逃げおおせているのではないか。被害者がいるのではないか。そう危惧する秀人だったが……

「潰しました」

「そうか、潰れ………………えっ?」

 聞き返す秀人に……すずかは、全く笑っていない笑顔で、晴れ晴れと。

 

「――――潰しました(・・・・・)

 

 ……潰れた、ではなく、潰した、と。

「………………」

 藪を突くのは止めた。

 

 カントクは、ぱん、と膝を叩いて、立ち上がり……

 

「うっし……んじゃ、行くぞてめェら!! 今日は全員早上がりじゃあ!!」

 

――――オオオオオォッ!!

 

 待ってましたとばかりに、応接室になだれ込んできた同僚たちが、秀人の肩や背中をバンバン叩き、照れ隠しの憎まれ口を叩きながら、連れ出していく。

「よっし、健太と望も連れ出すわよ!」

「春休み、もう始まっているものね」

 

 

 

 

 

「…………マスター、本当に良かったの」

 アイは、その光景をじっと眺めて……珍しいことに、素直に笑顔を見せるのだった。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

海鳴市、とある喫茶店。

「人がいない喫茶店って、新鮮ね……」

小学校教師にして学年主任、富山咲は、店内で人を待っていた。店主の厚意で、店を貸切にし、ケーキと紅茶が振る舞われている。

 今日は大事な教え子から、『話がある』と、珍しく相談してきたのだ。幸いにも春休み。児童がいない分、仕事と言えば、新学期へ向けての事務作業がメインだ。有給を取り、その家族へ連絡し、今こうして、この場所に居る。

 

――――カラン。

 

 ドアベルが鳴った。貸し切りの店内に、来客ということは……待ち人である彼女。そう思った咲が、そちらへ目をやると…………………

 

――――紙袋を頭に被った不審者がいた。

 

「ブッ……!!」

 思わず、アッサムティーを噴霧してしまった。

「なっ……だ、誰っ……!?」

 厨房からこちらを覗いてきた桃子たちも、怪訝な表情をしていた。

『………………』

 目の位置が丸くくり抜かれていて、その向こうに、瞳が見えるのだが…………いくらなんでも、怪し過ぎる。

「………………」

『………………』

 距離を取り、見つめ合う二人……だったのだが。

 

「ただいまー。あ、先生やっほー」

 

 ………………なのはが、とても軽い調子で現れた。

『………………』

 不審者は、そろそろとなのはの方へ移動し……サッと、その背後に隠れてしまった。

「……あんた何してんの」

『だ、だってぇ…………』

 呆れ声に、くぐもった声で返答する不審者。クアットロ時代の習慣で、仮面で素顔を隠していないと落ち着かないのかもしれない。

「バカなことやってないで取りなさい」

『でもぉ…………顔見せたら、ぜったいに笑われる……』

「今の方が百倍は笑えるわよ……ほら、取りなさい」

 そしてなのはは、ずばっと紙袋を強奪する。

 

「…………え?」「あら」「……む」「……へ?」

 

 そして現れる、なのはと瓜二つの、整った顔。それが、見る見るうちに朱に染まり……

「………………ぅ、ううううう~~~!!」

 顔を覆って、うずくまってしまった。

「あの……なのはさん」

「先生、ひさしぶり」

「ええ、久しぶりね……で、そちらの……その、そっくりな方は?」

「いもうと」

「………………?」

 意味不明な事態に混乱する咲。いや、それよりも深刻なのが。

 

「えっ、えっ……どういうことなのかしら。わたし、まだ子供がいたのかしら忘れていたのかしらいつ産んだのかしら」「母さん、落ち着け…………どう見ても似ているだけで、似ているだけだ。うん、どう見ても似ている…………どういうことだ…………?」「妹が増えた…………妹って、増えるものだったっけ……?」

 

 ……高町家の面々だった。

「お、お姉ちゃん……もういいよ……わたし帰る……」

「だーめ」

 袖を引く四葉に、なのははいじめっ子のような笑みを見せるのだった。

 

 

――――そして。

 

 

「そ、そういうことか…………」

「大概の事には、もう驚かない自信があったんだけど……」

 恭也と美由希は、まじまじと四葉の顔を見る。

 

 なお、魔法とは縁の無い咲にはこう説明してある。

 

―――――助成金をピンハネして、虐待が常態化していた悪徳施設を(物理的に)解体するのを手伝った時、その施設の中に居た、何故か私に瓜二つだった女の子。他人とは思えなくて、あれこれケアに関わっていたら懐かれた。知り合ったのは少し前になるけど、心身のケアに少し時間が掛かって、いまこのタイミングでの紹介になった。

 

 …………すずかとの口裏合わせはバッチリである。持つべきは友人。

「しばらくは、私と秀人さんが面倒を見ながら暮らすことになるから」

「……ウチで預かってもいいのよ?」

 真相を聞かされている桃子が、気を利かせる。しかし、なのはは首を横に振った。

 

「私の妹だもの。普段は、私が見てあげなくちゃ」

 慈しむように、その頭を撫でる。

「それにね……、」

 と、胸元のレイジングハートに、念話で語りかける。

 

――――からんからん!

 

 ……と、今度は、けたたましくドアベルが鳴る。

 

「ママ! けんさ、おわったよー!!」

 

 …………と、なのは、四葉と同色の髪色の少女が、ぱたぱたと店内に駆け込み、四葉の胸に飛び込んだ。

「 「 「 「 『ママ』!? 」 」 」 」

 またしても驚愕する一同に、かくかくしかじか。

 

――――同じく施設から保護した外国籍の女の子。あわや性的搾取の被害者になるかというギリギリのタイミングで保護できた。閉鎖環境で、四葉と擬似的な親子関係を築くことで互いに精神の均衡を保てていた。なので、しばらくは一緒に居た方がいいという判断。救出に携わったなのはのことは『お母さん』と呼ぶが、刺激してしまうので、指摘しないように。

 

 …………はやてから、しっかりと台本を渡されていたためにスラスラと説明が出来た。

 

「やぁ、遅くなって申し訳ない」

「あ、父さん」

 と、やや遅れて、士郎も病院から一時帰宅許可を取り付け、店にやってきた。

 闇の書事件の折、闇の書の展開した精神世界で、なのはと対話したことは記憶に残っており、事変の際の記憶も消えずに残ったため、こういった類の話には割と寛容だった。

「なのは。遅くなりました」

「お邪魔します!」

 シュテル、美香も店内へ続く。ヨシオは、今度は秀人を迎えにとんぼ返りだ。なんとも忙しい。ちなみに、シュテルの容姿に関しては、かつてはやてが使用したのと同様の認識阻害魔法を展開している。さすがに、三人を『他人の空似』で押し通すには無理があった。

 

『検査の結果はどうだったの?』

 なのはが、念話でシュテルに聞く。

『問題ありません。秀人の治癒を無理やり再現した、過剰な細胞分裂が原因であった短命も、あの『矢』の影響で正常化、というか、秀人の力の一片を受けたことで、さながらプチ秀人状態です。……むしろ、貴女以上に頑丈な肉体になったと言ってもいいでしょう』

『それなら良かった』

 マリエルの検査だ。問題がある筈が無い。

 

「高町、来たぞー」

「なのは、しばらくぶり!」

 健太と望も、店に到着する。

「……はー……マジで瓜二つだな」

「うん……同じ格好して黙ってたら分からないかも」

 並んだなのはと四葉を見比べて、各々の感想を言う。

 

『魔法ってすげぇなー……今更感あるけど』

『ホント、知ってるのと使えるのとじゃ、全然違うわね』

 

 ……と、二人が、念話(・・)でなのはに話しかけた。

 

 あの事変の際、二人……特に、健太へ与えた影響は大きく、封印されていた、闇の書事件の際の記憶が解凍され、一定の魔法にまでその力を高めてしまっていた。

 

 もともと、魔法の素養の在った二人だけではなく、あの事変の際、『可能性』としての魔法へ目覚めた者達へは、管理局のエージェントが接触し、希望によっては封印、希望によっては条件付きの知識供与……という対処となっていた。

『あれから、どう?』

『んーっと……三人は捕まえたかな?』

『四人でしょ。そんで、二人は助けたわね』

 その『条件』とは、

 

――『現地で魔法を濫用・悪用する覚醒者たちへの初動対応』というものだった。

 

 もちろん、唐突に目覚めた力にパニックになり、暴走する被害者の救出もそのうちに含まれる。

かつて、ジュエルシード事件の際、救出される側だった二人が、今度は手を差し伸べるようになったのだ。

 

 魔法を知る者も、知らぬ者も……そこに垣根は無く、ただ日々を語らう。

「………………」

 四葉がヴィヴィオに押し出されるように、輪の中に加わっていくのを見ていたなのはは……

「先生、ちょっといい?」

 ……と、咲だけを、こっそりと角席に連れ出した。

「ええ。わたしも、それが一番の楽しみだったの」

咲は、なのはが変わったことに気付いていた。いつも、何かに対して気を張っていた姿はそこにはなく、ただ優しく微笑む少女がそこにいた。

そして、今日の本題はと言うと……

「……これ、わたしの友達が、くれたの」

 と、秀人に渡されたものと同じ冊子を取り出し、咲へと手渡す。

「……、これは」

 咲は、教育者として、その『学校』の存在は知っていた。

 

『無駄無駄。まっとうに全日制にも入れない、入っても堪え性が無くて逃げるような人間が、変に自分に都合のいいシステムを期待して入って、結局ワガママに不満タラタラで辞めていくだけ。運営者も、それが分かっているから高い入学金を請求するんでしょう。餌で吊ってキャッチ&リリース……いい『ビジネス』ですよ、まったく。こんなものが、『教育』であるものですか』

 

 心無い同僚は、しかし、ある一面においては真実である言葉を述べ、否定していたが……

 

「私、学校に通おうと思うんだ」

 

 ……咲は、この少女が、言い出したら聞かなくて、しかし、言い出したら最後までやり遂げる、そんな女子らしからぬ根性の持ち主であることも……何か目的があるとき、その行動がより補強されるということも、知っていた。

「――――何のために?」

 

――何のために、学校へ行くのか。

 

 なんとなく。将来のため。友達が行くから。わかんない。大抵、子供とはそういうものだ。

 学校とは、『目的の場』ではない。『目的を見つける場』だ。カントクが、秀人を送り出したように、『可能性を広げる場』でもある。

 

そして、なのはは、小学4年から先、学校へ通っていなかった。彼女は、見つけたのだろう。

『神様』になったりと、ずいぶんと遠回りしたが……『福音』が、彼女へは効果を及ぼさなかった理由が、今にして分かる。彼女の中には、既に、道が定められていたから。『人』としての時間を過ごすための、目的が。

 

 

「――――私、学校の先生になりたいの」

 

 

 …………咲は、少し意外そうに眼を瞬かせ……しかし、すぐに微笑んだ。

咲がそうであったように、問題児が教師になることも、そう珍しくは無い。自分と違って、てきぱきと手際のいい彼女のことだ。きっといい教師になれるだろう。

「ううん」

だが、なのはは首を横に振った。

「いつも、生徒のために、空回りするくらい、一所懸命で……優しくて、厳しくて……私は、そんな先生が大好きで……だから、私……

 

 

――――咲先生みたいな先生に、なりたいんだ」

 

 

……かつての自分。救ってくれた恩師に追いつくために、教師になった。そして今……今度は、自分の教え子が、自分の後に続くのだ。

「ええ……きっと、なれるわ」

 咲は、そっと目元を拭い……笑った。

「さ、さぁて、それじゃあ、長谷川先生にも伝えなくちゃね!! うん!」

 そうして、いそいそと携帯電話を取り出して、コールする。

 

「……咲先生も、今は『長谷川先生』なのにねぇ」

「なのにねー」

 近くにやってきたヴィヴィオを、膝の上に抱き上げ……顔を見合わせて、笑うのだった。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 シュテルが士郎を迎えに来て、少し経って。

「……はい、高町士郎さんは本日、AM11:00に退院となりました。……え、あ、はい、少々お待ちください」

 一人の看護師が、電話口で対応する。そして、内戦を接続し……

 

「――――はい、石田です」

 

 ある一人の医師に。

『よう、石田。オレだよオレ』

「はい、失礼ですが、どなた、………………、ぅえッ!?」

 聞き返している途中で思い出し、珍妙な悲鳴を上げてしまった石田を、同僚たちが怪訝な顔で見やった。

「み、翠先生ですか……!?」

 受話器の口元に手をやり、少し声を抑え、確認する。

『おうよ』

 …………実に軽い挨拶に、拍子抜けしそうだった。

「…………その、お久しぶりです」

『でよぉ、いま秀人がそっちに居るんだけど』

「ちょっと文脈的に待ってくれます!?」

 子機を持ったまま外に出ようとし、はたと気づいて携帯電話でその番号へ掛け直しつつ、駐車場へダッシュする。

「で、秀人くんがどこにいるんですって!?」

 がちゃがちゃと車のキーをポケットの中に探しながら、怒鳴るように聞く。

『あー……アイツのことだから、』

 

「もう目の前に居ますよ」

 

 ……と、キーを取り落とした石田の目の前に。あの日のままの姿で、秀人が立っていた。

「相変わらずそそっかしいなぁ、あんたは」

 と、落したキーを拾い上げ、石田に手渡す。

「あの、……秀人くん、…………」

「久しぶり、石田先生」

 あの日……別離したきり、二度と会えないものだと覚悟した。

 石田に対する秀人の表情は、相変わらず、やや硬い。

 しかし、それでも……目の前に、立っている。

「……まぁ、ここで話すのもアレだからさ、来てくれよ」

「えっ、えっ、えっ…………?」

 と、石田をひょいと米俵のように担ぎ上げ……

「カントクー、この人も連れて行きまーす」

「おー、何人でもいいぞ」

 会社の営業ワゴン車に、そのまま乗り込んだ。そしてそのまま走り出す。

 

「――――ぇええええええええええええええええええええええええッッ!?」

 

 ………………これを、世間一般では拉致という。

 

 

「おぉ、アンタお医者様なんだって!?」「え、えぇ、はい。神経科に……」「シンケーって?」「痛風とかリウマチじゃねーの?」「おお、それだそれだ!」

 むさくるしい男衆の中、すっかり萎縮する石田。

「みなさん、石田先生が困っていますんで、そのへんで!」

 と、ヨシオがそこへ割り込んだ。

「おぉ、わりぃわりぃ」「美香ちゃんの大恩人だもんなぁ」

「いえ、そういうわけではないのですが……」

 石田からしてみたら、理由はサッパリ不明なのだ。しかし、それは謙遜として捉えられたらしく、ますます好感度が上がっていく。

「先生」

 と、秀人が石田を呼んだ。

 

「俺、先生に怒ることはあっても、嫌いになったことは無いよ」

 

――――。

 

 石田は、少し動きを止めて……氷が解けるように、微笑んだ。

 秀人は……無限の慈悲を体現するような笑みで、それに応じ…………

 

 

「だからもう……責任を感じて、独身を貫く必要なんて無いんだよ、先生…………」

 

 

 ……すっげぇ失礼な暴言を、『3○さい・どくしん・しゅみ、ちょちく』の、あらゆる意味でデリケートな年代の女性にぞんざいに投げた。

「…………………………。」

 石田は、鎌倉大仏のような表情となり………………

「お」

 ……辛うじて、一言を絞り出した。

「お?」

 怪訝に聞き返す秀人(バカ)

 

 

 

「大きなお世話よ、お馬鹿ーーーーーーーーーーーっ!!!」

 

 

 

――――ばちーん。

 

 

張り倒される中、秀人は、人として一つ学んだ。

 

 

――――独身女性の、婚姻関係の話題は地雷である、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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