魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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第十五話

「いたたたた……」

 エマージェンシーハンマーで頭蓋骨をカチコンカチコン叩かれるような痛みを目覚ましに、俺は布団からもぞもぞと這い出た。

「レイジングハートの奴、ちったぁ加減しろっつうの……」

 とはいえ、一昨日の、頭蓋骨の中で道路工事が行われているような激痛に比べたら天国のようなものだ。

「おはよう、秀人」

ユーノ(人間形態)が、食卓から顔を覗かせた。

「ああ、おはよ」

 洗面所で顔を洗い食卓に戻ると、白米・焼き魚・味噌汁・漬物の、和食が二人分用意されていた。なのはの姿は無く、書置きの手紙が置かれている。文面には短く一言。

 

『行ってきます』

 

「……行ったか」

 今日は、待ちに待った勝負の日。

 なのははフェイトへの必勝の策を練り上げ、フェイトは体力と魔力を万全に回復させた。

「なぁ、ユーノ」

 味噌汁を啜りながら、慣れない箸に苦戦するユーノに話しかける。

「なのは、勝てると思うか?」

 正直な意見が聞きたい。

「…………そうだね」

 箸を置き、真剣な表情になる。

「フェイトのスピードは、圧倒的だ」

 それはわかる。俺も、初見では全く反応できなかった。

「攻撃魔法も多彩で、尚且つ高威力で、応用も利く」

 一発でなのはを戦闘不能に追いやった雷撃。縦横無尽に襲い掛かってくる一斉射撃。鋼鉄をも切り裂いた魔力の鎌。スピードと相まって、防御も回避も困難だ。今の俺でも、勝てるかどうかはわからない。

「それを考慮に入れた上で、どうだ?」

 ユーノが顔を上げる。難しい顔をしていたのが嘘のように、あっさりと……

 

「勝てるよ」

 

 と、俺と同じ意見を言ってのけた。

「……だよな」

 俺たちは、ずっとなのはを見てきた。

 

 一回目の勝負に負けた時も。

 

二回目の勝負に勝てなかった時も。

 

三回目の勝負を邪魔された時も。

 

 なのはは、一日だって訓練を欠かしていない。話を聞いたクロノが呆れ返るような密度の訓練を行い、着実に力を着けてきた。だから。

「なのはが勝つ」

 

 

……んで。

 

「何で俺が周辺警護なんだよ!?」

 隔離結界の中、俺は、武装隊に指示を出すクロノに、おもいっきり噛み付いた。

「……僕も聞きたいよ」

 この隔離結界を張っているのは、俺と同じく借り出されたユーノだ。

 目の前には、ドーム状の結界が展開している。あの中は仮想空間になっていて、実際にはあの数百倍の面積が確保されているらしい。

「仕方ないだろう? ここには、残りのジュエルシードが全て集合しているんだ。プレシア・テスタロッサが、それを見逃すとは考えられない」

 最近アクションが無いから忘れそうになっていたが、フェイトの母親……プレシアは、まだジュエルシードを付け狙っているはずだ。

「それに、仮想空間の中に君がいても、二人の集中に水を差す結果になる」

「うぐ……! た、確かに……」

 俺は、その場にウ○コ座りをして頭を抱える。

「あ~……見たい! でも見てたら邪魔になる……!」

 どうすればいいんだ……!

 見かねたクロノが、助け舟を出してくる。

「エイミィ、秀人とユーノに端末を渡すぞ」

『了解~』

 S2Uから、何かが二つ、すぽんと排出された。

「秀人と……ええと、フェレットもどき」

「ユーノだ! ユーノ・スクライア! 誰がフェレットだ!」

「うるさい奴め……」

 手渡されたのは、液晶画面の無いi-phoneみたいな端末。

 スイッチを押すと、モニターが空中に固定され、仮想空間の中と思しき風景が映った。

「それで文句は無いな?」

 やれやれ、といった様子で肩をすくめるクロノ。

「サンキュー! お前、いいヤツだな!」

 生で見られないのは残念だだ……まぁ良しとしよう!

 

 空間内では、今まさに二人の勝負が……

 

――ザッ、ザザザザ……

 

「あ!? おい!!」

 が、画面にいきなりノイズが走ったと思ったら、砂嵐になってしまった。

もしかして……

 

――ヴォオオオオオオオオン!

 

『結界内に、侵入者あり! 数1! AAAランク相当!』

ああもう! 落ち着いて観戦することも出来ないのかよ!

『強力なジャミングを確認! 仮想空間とのリンクが、一切遮断されました!』

 援軍に来る可能性のある二人を、初っ端から隔離してきた。

 なのは達が死力を尽くした勝負を終え、消耗しきった所を狙う作戦か。

「総員、迎撃体勢!」

 俺は、端末をポケットに突っ込み、リンカーコアを起動した。

「おい、思いっきりやっていいんだな!?」

 仮想空間は、厳重にプロテクトを掛けてある。こちらの戦闘音も届かないし、通信もできない。だから、俺たちがいくら暴れても、二人の勝負の邪魔にはならない!

「ああ、構わない」

 S2Uを、侵入者に向ける。その侵入者は……

 

「……アルフ?」

 

 そう。侵入者は……茜色の長髪が特徴的なフェイトの使い魔、アルフだった。俯き、両腕をだらりと垂らしている。

「今まで、どうしてたんだ? フェイトも心配して……」

 そして、俺がアルフに向かって足を一歩踏み出し……

「離れろ!」

 クロノが警告するのと同時、俺は反射的に飛びのいていた。

「ぐがあああああああああああああ!!!!」

 凄まじい咆哮を上げ……

 

――ガチンッ!

 

 俺の首筋があった空間を、鋭い犬歯が噛み潰した。

「あ……アルフ?」

 俺は、半ば呆然と、半ば確信を持って、その名を呼ぶ。

「がああああああああっ!!」

 そして、本性の赴くまま、俺たちに襲い掛かってきた!

「おい、クロノ! これ……!」

「ああ、多分……洗脳されてる!」

 やったのは勿論、プレシアか!

 

「グルルルル……」

 だがアルフは、身構える俺たちの横を素通りしていった。

「まさか……!」

 俺たちは、眼中に無かった。アルフの狙いは、最初から……!

「ユーノ! 逃げろおおおおおおお!!」

 結界を維持しているユーノと、サポートの魔導師!

「え?」

 結界に集中していたユーノに、アルフが襲い掛かり……くそ、間に合え!

「ファイア!」

 

――キュドドドド!

 

 バレットを乱射する。普通なら、回避するか、防御するしかない攻撃に、アルフは……

「ガアアアアアアア!!」

「何ッ!?」

 真正面から、突っ込んでいった。非殺傷設定にしてあるとはいっても、衝撃は通る。それを全く恐れない……いや、俺の攻撃なんて、最初から気付いていないように、ただ直進していった。

「うわっ!!」

 ユーノは防御魔法を発動し、なんとかアルフの攻撃を回避する。

だが、他の魔導師は……!

「うわああっ!」「ぎゃっ!」「……ぐっ!」

 爪で引き裂かれ、顔面を殴打され、腹部を蹴り上げられて、それぞれ戦闘不能に。

 同時、結界が『ぐにゃっ……』と揺らいだ。

結界を維持していた魔導師が、ユーノ一人になってしまった所為だ。

「このままじゃ…………エイミィ!」

 クロノが声を張り上げる。すると、

 

――ヴンッ……

 

「……持ち直した?」

 一度は揺らいだ結界が、また元通りに強度を取り戻す。

『仮想空間リソース分だけ、結界の強度を上げたの』

 仮想空間の制御が、完全に分離してしまったことが吉と出たらしい。

 

 アルフは、結界魔導師を倒すだけ倒し……再び、俺達を襲う。

「縛れ!」『ring bind』

 クロノがバインドを行使する。

 青白い魔力の枷がアルフの四肢を縛り上げ……

「ない!?」

 なんと、バインドはアルフの体表に触れた途端、ぼそっと崩れる。

 なのはのように、術式を分解した……というわけではなさそうだ。そもそも、そんな器用なことが出来る精神状態ではない。

「君たちの世界で言うところの……ドーピングだろう」

 

 アルフに施された強化は、恐らく二つ。

 

 一つは、魔法を無効化すること。さっきもそうだったが、射撃魔法のような初歩的な魔法すら防げていないところを見ると、バインドだけを無効化することに特化している処置のようだ。身体を守ることなど考慮に入れていない、偏った術式。

 そしてもう一つが、痛覚の麻痺……というより、遮断。正気をほぼ失っていることから見て、興奮剤を大量投与し、アドレナリンのような神経伝達物質を過剰に分泌させているのだろう。ヤク中のジャンキーがそんな感じだった。

 だが、もしも薬物ではなく、大脳を外科手術で処置されていたとしたら……

「アルフ……!」

 俺は、最悪の予感に唇を噛む。

この、主のことだけを想ってきた優しいオオカミを、なんとしてでも救ってやりたい。

「どちらにせよ、手遅れになる前に鎮圧するんだ!」

 威力を抑えた誘導弾でアルフを牽制しつつ、クロノが言う。

「でも、どうする!? 

バインドは効かないし、ダメージでノックダウンできたとしても……多分、鎮圧できる頃には手遅れだ!」

 アルフが動きを止めたとき……それは、俺たち全員を倒すか……肉体が自壊し、構造的に動けなくなった時だけだろう。手足をへし折っても、『痛み』を無視できるのであれば、まだ動けてしまう。

 

編み出したばかりの、あのカウンター技は使えない。

加減ができないのだ。

今の俺には、あの技を『繰り出す』だけが精一杯で、『威力を抑える』なんて段階には達していない。

なにより、失敗すれば、それだけで俺が戦闘不能になってしまう。

 

チョークスリーパーで締め落とそうにも、興奮しきったアルフには効果が無いだろう。

「一か八かの賭けになるが……」

「言ってみろ! ……おらァ!」

 武装隊の一人に飛び掛っていくアルフを蹴り飛ばしながら、クロノの案を聞く。

「ストラグルバインドを使う」

 ずるっ、と思わずずっこけてしまった。

「アホかお前は!? バインドは効かないんだっての!」

「誰がアホだ! 話を最後まで聞け!

この魔法は、相手を拘束するものじゃなく、解呪するための魔法だ!」

要はアレか。『凍てつく波動』か! それなら、確かに! 

「もしも、その興奮剤が魔法を用いて調合された物なら……きっと、打ち消せる」

 なぜ最初から使わなかったのか……その理由は。

「だが、もし興奮剤が化学的に調合されたものだったり、外科手術が原因だとしたら……空振りになってしまうどころか、かえって症状を悪化させてしまう可能性も……」

 いまさら、悩むことなんて無い。

「俺が押さえつける。その隙を狙え」

 締め落とすのは無理だとしても……クロノが魔法を発動させるまでの数秒だけなら、俺の腕力で押さえつけることが出来るはずだ。

まさかプレシアも、バインドを使わずアルフの馬鹿力を押さえ込める人間がいるとは想定していないだろう。

「だが……下手をすれば」

 大怪我をする……って?

「忘れたのか? 俺の身体は……」

 身体を、深く沈める。四つんばいに近いまでの、前傾姿勢……クラウチングスタート。

「グアアアアアアッ!!」

 牙をむき出しにしたアルフが、今度は俺たちを標的として襲い掛かって来る。

 

「そういうふうに、できてるんだよ!!」

 

――ゴバッ!!

 

 ビルの外壁をスターターに、突撃する!

「おりゃあああああ!!」

「ガアアアアアアッ!!」

 アルフが繰り出す拳と、俺の蹴りが、正面から激突した!

「グルアァッ!!」

 五指を開いた、鋭い爪による一撃。

「んぐっ……」

 それを、わざと首で受け止める。

「ガアアアッ……!」

「はッ……あ」

 ギリギリと万力のように首を締め上げるアルフ。だが、これでいい。

 俺の前に、無防備に差し出された腕を掴む。 

 ぐりん、と一回転させ……

「大人しく……しろっ!」

 

――ダンッ!

 

 ビルの屋上に、身体ごと押さえつける。肩をがっちりと極めてあるせいで、アルフは思うように身動きが取れない。

「よし、このまま……!」

 だが、アルフはそこで、信じられない行動を取った。

「アアアアアッ!!」

 肩を拘束されている方向に、力いっぱい捻り……

 

――ボギンッ……!

 

「な……何やってんだ!」

「グアアッ!」

 

――ドズンッ!

 

「ぐえっ!」

 呆気に取られた隙に、ボディブローを喰らってしまった。

「グルル……!」

 俺が極めていたアルフの右肩……そこは、赤黒く腫れ上がり、力無くぷらぷらと垂れ下がっていた。

 どうかしている。拘束から逃れるために、躊躇いも無く腕を捨てるなんて!

「……くそっ」

 きっと、四肢を個別に固めるだけでは押さえられない。

 全身を、一気に縛り上げることができれば……

 アルフの猛攻を防ぎながら、方法を探す。飛行魔法を駆使し、無人の街を飛び回り、工事現場の上を通り……………………工事現場?

「あれだ!」

 工事現場の一角に放置されていた、高所作業員の命綱!

 あのワイヤーなら……力で千切ることは出来ないはずだ!

「インパクト!」

 

――ドパァン!!

 

「ガウッ……」

 衝撃波でアルフを弾き飛ばし……よし、ゲット!

 がちんっ……とベルトを腰に巻く。準備完了!

「クロノ! 他の奴らを連れて、一旦引け!」

 アルフの目に映る敵が俺一人なら、俺をひたすら襲い続ける。

 

――ブンッ、ブオンッ!

 

 大振りの攻撃を、スウェーバック、ダッキングで避け続ける。

 突き出された左拳。その左手首にワイヤーのフック部分を引っ掛け……

「グルアアアアアッ!!」

 

――ブォンッ!!

 

「っと!?」

 途端、今度はハイキックが飛んできた。でも……その足、もらった!

 蹴りの軸足を払い、その場に転倒させる。

「ギャウッ!」

 ずでん、と尻餅をつくアルフを逆マウントに固め、両手、両足を胴体と結びつけて固定する。

 

 恐らくミッドチルダでは、魔法という便利極まりない技術が浸透しすぎて、こういったアナログな手段には耐性が低いのだろう。

 

『バインドされなければ捕まらない』なんて、本気で考えてしまうくらいには。

 

「オラオラオラァ! 現場職ナメんじゃねえぞコラァ!」

 ワイヤーでぐるぐるの簀巻きにする。怪力を発揮しようにも、力を出すことが出来ない体勢にしてしまえば、あとは……

「クロノ!」

 俺の後方で、術式を編んでいたクロノが、それを発動する。

 

――ギュウウウッ……!!

 

とうとう、アルフの身体に、青白い拘束魔法が巻きついた。今度は、分解されることは無い。

「ストラグル……バインドォッ!!」

 トリガーボイスと共に、バインドが一層強くアルフの身体を締め上げ……

「ゲホッ……!!」

 アルフが、口から何かを吐き出した。どうやら、幸いなことに魔法薬だったらしい。

 抱き起こし、顔を覗きこむ。

「……え、あ?」

 開きっぱなしだったアルフの瞳孔が、焦点を結ぶ。

「アルフ、俺が分かるか?」

 見詰め合うこと、数秒。

「あ、あんた……?」

 アルフは、ようやく俺の顔を認識した。

「よかった……正気に戻ったんだな」

 これでひと段落。そう思っていた矢先のことだった。

「は……離れろ!」

 

――ドンッ!

 

 いきなり、アルフが俺を突き飛ばした。

「うあああああ……!!」

 突如として、アルフ苦しみだす。その身体から、明らかにアルフのものとは別の、禍々しく、膨大な魔力がにじみ出てくる。

「おい! 何が起きてるんだ!?」

 通信の向こうで、エイミィの困惑するような表情が目に浮かぶ。

『アルフの体内に、高密度の魔力結晶が埋め込まれてる……』

 魔力結晶……?

「つまり……爆弾だ」

 クロノが、苦々しくそう言った。

「爆弾だって……?」

『きっと、アルフの魔法薬の効果が破られると、発動するように設定されて……』

そう。知恵の働くプレシアが、ストラグルバインドのことを想定していない筈が無かったのだ! 俺は、自分の迂闊さに腹が立った。

「くそっ!」

 アルフに一歩歩み寄る。

『駄目! 逃げて、秀人くん!』

 逃げる……? 今にも体内の爆弾が破裂しそうになっているアルフを放って? 冗談じゃない!

「逃げ……て」

ぼろぼろになったアルフが、諦観の表情を見せた。

「仕方ないんだよ……爆弾は、体内に埋め込まれている……」

「『仕方ない』で……見捨てられるわけないだろうがっ!!」

 エリアサーチを応用し、探索魔法をアルフの体内に発動させる。

場所は……くそっ、肋骨の内側! 心臓の真横だ!

 

――ビリッ……

 

 アルフの胸元をはだけさせる。今まで服に隠れていたが、真新しい縫い目が、その肌に痛々しく刻まれていた。

「なにを……」

『秀人君、何をするつもり!?』

 決まっている。

 

「俺が……今ここで、爆弾を取り出してやる!」

 

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