魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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vivid編 2話『グッバイ現世 ~ 覇王のユッケ ~ 』

 

 

 車に轢かれる直前、動物はその動作を停止するという。

 

 緊張か、恐怖か、好奇心か。もしくは。

 

 

――――己の死を悟ってしまったか。

 

 

 真相は、死した者にしか分からない。ただ、一つ言えることは。

 

 

動きを止めた者は、ほぼ例外なく骸となっている、ということだけだ。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

――――――バチッ……

 

 空気が、爆ぜる。ほんの一かけら、漏れ出したヴィヴィオの魔力圧が、大気を押しのけ、その摩擦で火花が散る。

 母譲りと、密かに自慢だった栗色の頭髪が……聖王由来の、黄金色に染まっていく。身体が成長する。

「お……おぉ……!!」

それに比例し増していく圧力に、自称『覇王』、少年がたじろいだ。

「………………」

 変異が完了し……そこには、輝くような頭髪で、表情の一部を覆い隠す何者かが居た。

 

「…………………………『久しいですね、イングヴァルド』」

 

 憑かれたかのように、その声色が変わる。少年は、その声色に、頭をガツンと殴られたような衝撃を覚えた。

「間違いない……!! かの事変の際、『ゆりかご』の存在から、もしやとは思っていたが……!! やはり現世に甦っていたか!!」

「『ええ、今この時、この大地…………わたしはココに在ります』」

 すぅ……と、両腕を不気味に広げる。

 

「『あぁ、実に514年ぶり。イングヴァルド。その顔をお見せなさい』」

「…………」

 求められるがまま、前髪を乱暴に掻き上げる。

 精悍な顔……になる数歩手前の、あどけなく、どこか女性的であるその顔が露わになる。

 

「『くすくす…………本当に、……相変わらず、』」

 

 ゆらゆらと、不気味な歩法で『近づいてくる』。いや……距離感が掴めない。近づいてきてはいるのだ。だが、間合いが全く掴めない。

 

「 『 か弱い乙女のような顔をしているッ……!! 』 」

 

――――ガァンッ!!!

 

 凄まじい衝突音と共に、少年が数メートルも水平に吹っ飛んだ!!

「『……? おや、挨拶代わりに、骨の二、三本でも、と思ったのですが……』」

 が、ヴィヴィオ(?)は、不服そうな、どこか嬉しそうな、そんな呟きを漏らした。

「舐めてもらっては、困るぞ……オリヴィエ。僕は……『僕たち』は、お前を倒すためだけに。貴様が惰眠を貪っている間に、絶え間無く修練を積み重ねてきたのだ!!」

 対・オリヴィエ特化の体術。そこに、基礎の薄皮を幾重にも張り合わせるような、気の遠くなるような修行。それが、オリヴィエの一撃を防御せしめた。

「『くすくすくす…………あらあら、ほんの一撫でを、マグレで躱せたくらいで……随分とご機嫌を良くしてしまって。本当に……』」

 めごっ、と、大地が陥没する。その予兆を『予測』した少年は……!

 

 

「 『 弱くって弱くって……可愛いんですから、イングヴァルドは!! 』 」

 

 

 暴風雨のような乱打を、迎え撃つ!! 指貫手、平手、前蹴り、手刀、回し蹴り、正拳! 

手を変え品を変え、その場で即興で流派と言えるものまでポンポンと創作し、遊びのように打ち放つ!!

 

「『あはははははははははははは!! 

ほぉら殴りますよ!! 蹴りますよ! 今度は突きますよ!! あぁ、こんな技を思いつきました!! 数え突き!! 5、4、3、2、1! あはははは!! そぉら防いで御覧なさい! 躱して御覧なさい!! 貴方が『覇王』を名乗るのならね!! 次は蹴りの三段です!! 一つずつ威力を上げていきますからね!! あははははははは!! あぁ楽しい、愉しい!! 砕けろ! 壊れろ!! 』 」

 

「ぅおぉおおおおおおおおおおっ!!」

 雄叫びと共に、致命打を捌き、逸らし、いなす!

(見える、見えるぞ、お前の動きが!!)

 

――――見よ。

 

「――――断、」

 大地を踏みしめる。最も大きな憑代と、脚を一体化させるイメージ。

 

――――これが。

 

「――――空……!!!」

 そして、下肢から上肢へ、己が身を一つの射出装置と見なし。

 

――――貴様を打ち倒す。

 

『力』を、解き放つ!!

 

 

「――――――拳ッッ!!!!」

 

 

「『………………!!』」

 

 遊びと捉えていた。

 

 この身を脅かす者など居ないと。

 

 天に座すこの聖王に、届く拳など有りはしないと。

 

 だが……

「『…………まさか』」

 その身に、衝撃がある。その衝撃は、世に肉を受けてより、数える程も識ることの無かったものだった。

 

「届いた……ぞ……!!」

 疲労困憊。

 ただの一撃。その身に大地の力を伝える秘奥義は、尋常ならざる負荷を及ぼしていた。

「この身に宿る…………圧にして、1000万の魔力。貴様とて、一溜まりもあるまい……!!」

 少年の見立てによると、かの聖王の最大魔力圧は1500万。これが、『ゆりかご』に接続されると、その数倍ともなる異常な数値を叩き出すそうだが……身一つでは、1500万、多く見積もって2000万だ。しかし、その全魔力が、常に解放されているわけではない。一つの動作に1万、10万、100万と乗ることはあっても……瞬間的に、1000万もの放出は不可能。故に、少年はそこに賭けた。『全魔力を一撃に込め、瞬間最大放出を行う』という、戦法としても、戦術としても、武術としても出来そこないのソレに。

 

 それは、確かに聖王の鎧を貫き、届かせた。

 

「『まさか…………あの小童が……この身に……』」

「小童と、侮ったことが、貴様の敗因だ……!!」

 打ち倒す。それは、何も戦闘不能に陥れることだけが全てではない。

 

――絶対の自信。絶大なる自負。天頂にまで達する増長。

 

 それを、圧し折ることが出来れば。行うのは、強者であってはならない。互角の勝負などしてはならない。遊び程度の攻撃に苦戦し、這いつくばる姿しか知らぬ弱者でなければならない。

 

――『弱者に打たれた』という事実が(くさび)となり、その牙城を突き崩す。

 

 

「どうだ、暴君よ。――それが『痛み』だ!!」

 

 

「『………………』」

 暴君は、膝を突いたまま動かない。

「さぁ……頭を垂れるのだ。貴様の布いた圧政の下、無念を抱いて潰えていった者達へ、心の底から詫びるのだ!!」

 

 また立ち上がるのならば、二度でも三度でも。幾度でも、この拳を届かせよう。

 この命、潰えようとも……既に、己は勝っ「『…………』はい、ここまで」「!?」

 

 ばっ、と、思わず力む。

「『…………』あー。あー。よし。エミュレートは終了(・・・・・・・・・)

 ぽんぽん、と膝の土を払いながら、平然と立ち上がる…………目の前の、誰か。

「お……、オリヴィエ……?」

 目の前の誰かは、オリヴィエの顔で、その人物が決してしない表情で、こちらを見ていた。

 

「――――私は、吾妻ヴィヴィオです」

 

 ばしゅううっ……と、呆気なく、目の前に居た筈の『オリヴィエ』が、消える。

「最初から、そう言っています」

 そこに居たのは、少年の知らない誰かだった。茫然と立ちすくむ少年に、ヴィヴィオは。

 

 

ゴッコ遊びは楽しかったですか(・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

 

 と。

「ごっこ、あそ、び…………?」

「『英霊使役』スキルの応用ですよ。あなたが会いたかったであろう、『聖王』の一柱を、魔力と私の肉体で再現した模倣体」

 よく似ていたでしょう? と、ヴィヴィオが笑う。

「もちろん、本物の魂は込めていません。できますけど、しませんでした」

 最早、理解の追いつかない少年に。

 

「――――見分けられない節穴には、お人形遊びがお似合いですよ」

 

 怒りが。

 どこから湧いたのか。騙されたことか。騙されたことに気付けなかったことか。遊ばれていたことか。遊ばれていたことに気付けなかった自身の道化っぷりか。

「あ、ぁあああああああああああ!!」

 再び、秘奥義を振るう。

「――断、空…………!!」

 

 

断空拳(・・・)

 

 

――――――ベギィッ…………!!!!

 

 

「け、ん…………?」

 意思に反して垂れ下がる。己の、腕。

「おれ、………ぁああああああああああああーーー!!?」

 痛みが襲い、本能的に折れた右腕を庇って後退する。

「う、ううう…………!?」

(馬鹿な……今のは、そんな、ありえない!!)

 痛みでまとまらない思考の中、状況を判断する理性と、それを認められない感情が衝突する。秘奥義。必倒の拳。それが。それが。

「なぁんだ……あなたの500年は、この程度ですか」

 一瞬で。

「ほら、返してあげますよ。あなたの『だんくうけん』」

 軽く肩を上げ、右腕しか使っていないような軽い動作。しかし。

 

――――グシャッ!!

 

 体内へ、考えたくも無い損傷が発生する。

「ぐ、ぉ……おェッ…………!!」

 粘り気のある血反吐が、口から零れる。

「脆いなぁ……ちゃんと鍛えてるのかな?」

 跪いた少年。それを見下し、何の感情も伺わせない声で、ぼそりと言う。

「(…………!! まだ、だ!!)」

 しかし少年は、身体を痛めつけられながらも、大地より得る魔力で、再び己の力を蓄えていた。残った左腕を、身体の痛みを無視して振りかぶる!! 必中の好機! 間合いの中!! 

 

「――――断……空、拳!!」

 

 年少の少女へ拳を振るう。その意味が理解できないほどに追い込まれた少年の拳は、しかし手応えを得た。

 

――――ドバァンッ!!!!

 

 少女の胴体。土手ッ腹。たとえ防御していようとも、必ず通ると。

 

「…………気は済みましたか?」

 

――――健在。

 

(あ、あ……? 当たっ、て、…………!?)

 視界が暗闇に包まれる。顔面を鷲掴みにされている。体が浮遊している。振られる。

(防、)

 

「……………………ったいなぁ、もうッッ!!!!」

 

 

――――ズゴォオオオオンッッッ………………!!!

 

 

「ゴぁあアアアっ………………、!!」

 己の肉体を鎚代わりに、大地を陥没させたのだと。気付いた時には、とにかく、己が生あることに安堵していた。……たとえ、その両腕があってはならない角度へ曲がっているのだとしても、

 

「あり、え、ない…………」

 

 口をついて出たのは、理不尽への言及。

「だって……オレは……僕は…………覇王の、血族で…………転生体、で…………」

「……………………」

「まりょく、だって…………1000万、あって…………ぜったいに…………」

 

――魔力、魔力と……たかが数字の指標一つが、そんなに大事か。

 

 ヴィヴィオは、呆れ、失望していた。『聖王』の中には、100万も無い魔力で、大国を討ち果たした王もいる。育成者として、今につながる分家筋を創生した王もいる。それこそ……あんな、魔力と資質だけで戦うタイプなんて、オリヴィエくらいのものだった。単に、他国にちょっかいを掛け、要らぬ諍いを産み、その果てに勝ち続けていたが故に『歴代最強』などと誤解されていた……

 

――悪目立ちしていただけの小物(・・)に執心とは。

 

「たおせる…………倒せる、筈だ……この身の、魔力を、一撃に…………!!」

 

 秘奥義への、絶対の自信。これがある限り、肉体を折り砕こうとも、幾度でも挑まれる。平穏な日常に、それは要らない要素だ。

 

 

 

 

 

 

「私の魔力は530,000,00です」

 

 

 

 

 

 

――――ぼきり、と、心の折れる音がした。

 

「――――あ、あ」

 虚ろな表情で、ぱたりと腕が落ちる。

「安心してください。あなた相手に、本気は出しません。二段階掛けているリミッターを、外すことはありません。事実、先ほどの戦闘でも、貴女が見積もった通り、とりあえず自由に使える魔力のうち、ほんの(・・・)1500万の魔力でのみ、エミュレートを行っていました」

 にこりと、欠片も感情を込めていない笑顔を浮かべる。

 

「たぶん、500年前のオリヴィエ程度でしたら届いていましたよ。良かったですね」

 

 もう、何も聞こえない。虚無感だけが、心の内を占有していた。

 

――――ジジジジジッ……!!

 

 その右腕に……膨大な魔力が収束している。

「魔力比べがお望みでしたね? 応えてあげます」

「……あ、」

 本能的な恐怖が、唯一動く足が、一歩でもその場から離れようとする。

 

「では、さようなら。また来世(・・・・)

 

 何の躊躇も無く、拳が、魔力が、振り下ろされ――――

 

 

 

「 『 なくなれ(・・・・)!! 』 」

 

 

 

――――ぱしゅんっ

 

 蓄積していた魔力が、瞬時にゼロとなる。

「……、」

 ヴィヴィオが、特に驚きもせずに、もう片方の腕を振り下ろす。

 なぜなら、知っていたから。『彼女』の能力は、『一度に一つの願望しか叶えられない』ということを。右腕の魔力が消された、その『余波』が収まるまでは、再びの無効化はされないと。

 

――――バチィイイインッ!!!

 

 今度は、別の……不可思議な光の粒子が膜状に展開され、ヴィヴィオの拳を防御していた。

「。」

 たんっ……と、数メートルほど後方へ下がる。

 

 

――――――ズパァンッ!!

 

 

 あからさまな威嚇射撃が、天空より降る。

「……。どういうつもり」

 行く手を阻んだ三つの要素へ、わかりきった質問を投げかける。

 

「こちらの台詞だ。では問おう。『どういうつもりだ』」

 うち一つ。戦闘機人・封印個体No.9『時空粒子(タキオン)』九音はそう問うた。

 

「わたしが止めていなかったら、その弱っちい気配のやつ、死んでたんだぞ!」

 うち一つ。戦闘機人・封印個体No.5『願望機器(デザイアマシン)』五香はそう咎めた。

 

「やりすぎ。だれがみても、そうおもう」

 うち一つ。戦闘機人・封印個体No.7『破壊天体(デススター)』七緒はそう伝えた。

 

 三人。全てが、ヴィヴィオと同格。100回戦えば、100回引き分ける。そういう間柄。

「不敬への処罰を執行中です」

「冗談でも、」

 

――――ギュオォッ…………!!

 

 九音を取り巻く魔力光が、粒子へと変換され……その身を取り巻いた。

 

「父上の品位を貶める言葉を、口にするなッ!!」

 

――――ドゴンッッ!!!

 

 威圧が物理的な衝撃波となり、ヴィヴィオを叩く。髪留めが解け……受け止めた拍子に、表情が、隠れる。俯いたままのヴィヴィオに、九音が言葉を重ねる。

「ヴィヴィオ。俺たちは、ほんの腕の一振りで、容易く竜種さえも絶命させる力を持っている」

「……………………わかってる」

「分かっていて、なぜ弱者に、あんな力を振るった。五香が止めていなかったら、本当に死んでしまっていたんだぞ!!」

「………………!」

 びくり、と、肩をすくませる。

「創王覇道学園三箇条、その二……『力の意味を、己が内に問い続けろ』。……お前は、力を振るう時、それを忘れていただろう」

 ……否定、できなかった。

「一時の癇癪に身を委ね、野放図に力を振るう……!! お前のやったことは、父上の名にも、『聖王』の名にも、泥を塗る行為だっ!! 何を考えているッ!!」

「……………………!!」

 ぐうの音も出ないド正論に、ヴィヴィオは……俯いたまま、だんまりを決め込んでいた。

「何とか言ってみろ、このド阿呆!!」

 ……どこまでもヒートアップしていく九音の叱責に、始めは言わせていた五香、七緒がさすがに止めに入る。

「こ、こら九音! 言いすぎだ! それではヴィヴィオが何も答えられん!」

「しかるのは、いい。でも、おこるの、だめ。かわいそう。かわいそうだよ」

 袖口を掴まれ、妹二人に今度は自分が咎められ…………

「ッ!!! …………はぁ~…………。」

 九音は、深く深く、息を吐き出す。怒りの熱を、体外へ逃がすように。

「……わかった。ただ、ヴィヴィオがいま、何を考えているのかだけ、聞かせろ。正直に反省の意を示せば、俺はもうお前を責めない。誓おう」

 俯いたまま、一度も顔を上げないヴィヴィオは。

「…………ぃもん」

 ぼそりと、小声で、全く聞き取れないような何かを口にする。

「……あんだって?」

 それを、身体スペックによる地獄耳で聞いた九音が、聞いていながら、半信半疑で聞き返す。

「――――――!!」

 ヴィヴィオは、九音をキッと睨みつけ……

 

 

「――――私、悪くないもん!!」

 

 

 ……………………………………。

 時が、止まっていた。九音も、五香も、七緒も……『あちゃー』とでも言いたそうな、ソックリの表情で固まっていた。

「だって!! そいつが!!」

 びしっ……と、そいつ。半死半生でゴミのように転がる少年を指さす。

「そいつが、私に意地悪なこと言ったんだもん!」

 ………………。

「だから、私、悪くないもん!!」

 そして……涙目を九音に向けたまま、ずかずかと近寄って行く。

「どうして私ばっかり怒られなきゃならないの!! ちょっとくらい味方してくれたっていいじゃない!! 九音の馬鹿! 分からず屋!! おたんこなす! 石頭!」

「いや……あのなヴィヴィオ。別にお前の味方をしないと言ったわけでは…………おい、お前らもなんか言え!」

 びゅおん、びゅおん、と顔面目がけて正確に振るわれる破壊拳を躱しつつ援護を求める。

「九音も悪い」「くおんがわるい」

 いかなる理由が有ろうとも、女子を泣かせるものは女子の敵。不変の真理だ。

 

「…………はぁ~。ああ、分かった、分かった! ヴィヴィオは悪くないって!」

 ぱんっ、とヴィヴィオの拳を掴み止める。

「詫びに、今度のクラス対抗戦で、『全力で』思いっきり相手してやる! それでどうだ!?」

 A組の加勢や、拮抗を保つため……ではなく、ヴィヴィオ一人のために、全力を出すという。それは、この九音という少年には極めて珍しい行為であり、ヴィヴィオにはとても魅力のある提案だった。

「…………………………ほんとに」

「ああ、本当だ」

「………………ほんとのほんと」

「本当の、本当だ」

「指切り!!」

「ああ、はいはい……」

 ゆーびきーりげーんまーん……と、年相応に約束をして、ヴィヴィオの涙は晴れていた。

「帰る。」

 簡潔に言い、自宅方面へ歩いていく。送ろうとしてきた五香と七緒を遠慮し、毅然とした足取りで歩いていく…………途中。足を、止める。

 

「…………止めてくれて、ありがと」

 

 それだけ言うと、振り向きもせず、だっ、と駆け出して行った。

 

 ヴィヴィオを見送り、見送り…………周囲を索敵し誰の目も無いことを確認。簡単な遮断結界を展開する。

 

「よし、では始めるぞ。五香」「うむ。――『なおれ』!!」

 言霊が、世界へ作用する。ベキベキに折れ、一部体外へ露出していたホネが、巻戻し再生のように、体内の在るべき位置へ戻っていく。破れた内臓が、結着する。

 

「――――う、う。ぼくは…………!? ひっ」

 

――――鬼がいた。

 

 意識を取り戻した少年が見たのは。角こそ無いものの、炎のような、稲妻のような、氷のような、三者三様の『怒り』を顕す、三人の神の子たち。どうあがいても死ぬ未来しか見えない力の権化たち。

 

「…………おう、ちょいとツラ貸せや」

 

『お兄ちゃん』として、妹分を泣かせた奴はシメる。それは、九音の信念だった。

 ひょい、と、猫のように首根っこを掴まれ、物陰へ連行されていく少年。

「安心しろ。決して死なないよう、死の一歩手前で懇切丁寧に治療してやる。そして何度でもボコる」

 

――――人、それを拷問という。

 

「今回ばかりは、ちょこーっとだけ怒ったぞ」

「…………ゆるさない」

 

 少年の未来や如何に。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆  ヴィヴィオ 魂の座  ◆ ◆ ◆ ◆

 

「『久しいですね、イングヴァルド』『ええ、今この時、この大地…………わたしはココに在ります』『あぁ、実に514年ぶり。イングヴァルド。その顔をお見せなさい』」

 

 …………映画館のように、その姿が大写しで上映されていた。それを、23人の人影が、思い思いに鑑賞している。

 

「いやぁああああああああああああああっ!!」

 

 ……可憐な少女が、鋼鉄の義手で己の頭を抱え、ゴロゴロと転げまわっていた。

「思い上っていたわたし的暗黒時代のホロ苦い思い出が口いっぱいにぃいいいいいいいいいい!! 死後も語られる『最強(笑)伝説』ッ! 誰か! 時間を戻して! あの日々を無かったことにしてぇえええええええええ!」

 耳まで真っ赤にして、消えぬ古傷にもだえ苦しんでいた。

 

 これが、畏れられし暴君、『オリヴィエ』の現状だった。

 

――――オリヴィエがやられたようだな

 

――――フフフ……奴は聖王の中でも最弱

 

――――覇王ごときに負けるとは聖王の面汚しよ

 

「うわぁああああああん!! 皆さんも掘り返さないでくださいよぉおおお!!」

聖王の三巨頭にイジられ、オリヴィエの羞恥心はマックスだった。

「それに、そんなに弱い弱いって言わなくっても良いじゃないですか!!」

 

――――や、実際クソザコだしお前

 

「ぐはぁっ……!!」

 

――――魔力が取り柄って……しかも『ゆりかご』前提っていう

 

「うぐっ……!!」

 

――――アレ、弱い奴用に作った護身具のつもりだったんだけどなぁ

 

「うぼぁっ……! い、今明かされる衝撃の真実ゥ!!!」

 

――――ステゴロできない王とか看板下ろしちゃえよ

 

 死後、余裕綽々でこの座にやってきて、あっという間にボロカスゴミ雑巾にされて以来、オリヴィエは心を入れ替え…………たのだが、相変わらず先輩たちには遊ばれているのだった。

 

「はぁ…………イングヴァルドにも、謝らないとなぁ…………」

 今、現世に居るのは聖王家の末っ子、ヴィヴィオだ。彼女が望めば、現界することも可能だが……

「アレはイングヴァルドじゃないし」

 しかし、血族だからと自分とヴィヴィオを混同するなど言語道断。直々に出向いてお説教してあげたい気持ちも強くある。

「でもヴィヴィオが望んでないし…………あぁぁああああ、もどかしいなぁ」

 

――――なに、簡単なことでは無いか

 

 と、久しく聞かない声が聞こえた。

「げっ……ダキニ!?」

 妖艶な女性の声に、オリヴィエは分かりやすく顔をしかめた。

 

――――聖王ダキニ。

 

 魔力資質がほぼ一般人相当ながら、その卓越した……というか、ヒトとしての良心の呵責を彼岸に置き忘れてきたかのような悪辣な計略により、七つの国を滅ぼした生粋の『魔女』である。

 

――――その『スポット』をわしに寄越すのだ

 

 ぐわん、と、オリヴィエの足元が歪む。

「ちょ、駄目! ここはヴィヴィオのために、あぁあああああー………………

 

 彼方へ消えていくオリヴィエの意識。反比例し強くなる、別人の意識。

 

 

「ふむ。ちと強引だが、これでよかろう」

 

 佇んでいたのは、和装を着崩した、妖艶な雰囲気を漂わせる黒髪の美女。

 

アレ(ヴィヴィオ)はわしの玩具じゃ。弄ぶも、転がすも、わしの気分次第じゃからのう!」

 

 くけけけけ、と笑う。

 

「さぁヴィヴィオよ。わしの『遊び』、どこまで耐えきれるかのう!? けけけけけ……くけけけけけけけ!!」

 

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