魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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vivid編 7話『 ぼっち生態学 ~カラオケ地獄変~ 』

 

 

――――歩くのが速いやつはだいたいぼっちの法則

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

――――そして翌日である!

 

 脱走は事前に予測されていたために阻まれ、四葉の服に着替えさせられ、秀人に少なくない額のお小遣いを渡され、ヴィヴィオに励まされ、自宅までハリーが迎えに来るという包囲網により、終始引きつった顔で連行されていった。

 

 そして、当初の待ち合わせ場所であるモニュメント前。

「ようオメーら。待たせたな」

 気安く手を挙げて、三人娘に挨拶するハリー。

「………………」

 その背中に隠れるなのは。

 

「今日はよろしくね、なのはちゃん」

 いきなり下の名前で呼ばれ、ビクっと驚く。だが、申し開きはしない。荒療治だが、遠慮していては一生、距離は縮まらないという判断だ。

(なのはちゃんの懐に、飛び込むのよっ……!!)

 呼ぶ方も呼ぶ方で決死なのである。

「うーっし、んじゃ予定通りモールで服買うぞ、服!」

 結果的に、ハリーが音頭を取るハメになった。

 

「なのはちゃん、その服、かわいいね」

「私のじゃない」

「「………………」」

 緊張しているだけである。しかし、なのはも学習している。

「妹の、借りてきた」

 自分が言葉足らずであることは承知しているので、必要と思われる情報を追加する。

「そ、そうなんだ……」

 大宮がホッとした表情をしたので、なのはもホッとする。

( ( よし、上手くいってる……!! ) )

 奇しくも、同じことを考えながら。

「なのはちゃん、家のことは大丈夫? 主婦やってるって聞いたけど」

「秀人さん……夫が、子供の面倒は見ていてくれるから、行っておいで、って」

「わたしたち、学校ではお弁当持って来てるんだ。なのはちゃんは、学食と持参弁当、どっちにする予定?」

「お、お弁当……私、作ってる……夫の分」

「お弁当と言えば、」(ここだ!)

 デキる女・中野は、会話の切っ掛けを逃さない。ある程度、会話を継続することで抵抗感を軽減し、そこへ一人ずつ会話人数を増加する、名付けて『慣らし会話』である。

「オリエンテーリングも、お弁当持参するんだって」

「……………………ん」

 一瞬、なのはが暗い表情を作るのを見逃さなかった。ここで小山がフォローに回る!

「わたし、いつもお母さんにお弁当、作ってもらってるんだけど……その日は自分で作ってみようと思ってるんだぁ」

ここで、『一緒に作らない?』系の話の振り方をするのは、実は悪手である。あくまで、『作ろうと思っている』で終わらせ、意識に刷り込むことが重要なのだ。

 

 コツさえつかめば、あとは、ブツ切りになりつつも会話は継続できた。あくまで受け身の会話だが、なのはには大きな進歩だった。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

――――――あら、よく見たらクラスメイトの皆様ではありませんか。

 

――――私服、ですわね。

 

――――校則第十七条四項。『外出時は制服着用が望ましい』。

 

――――『望ましい』は『そうせよ』ですわ。

 

――――…………。

 

――――校則違反、ですわね。

 

――――正しくありませんわね。

 

――――正さねば、なりませんわね。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

(……よし。どうにかモール到着まで会話を繋いだわよ!)

 ここから、女子特有のお買いものタイムである!

 

「効率的に行きましょう。

 

私はあっちで現地情報を調査します。皆さんは買い物をどうぞ。ではまた」

 

 シュタタタタタ……と、颯爽と歩を進めていくなのはを、三人は茫然と見送り……ハリーが真っ先に、はっと我に返る。

「はぐれメタルかアイツは~!!!」

攻略できれば、それはもう大量の経験値が手に入ることだろう。

 しかし、ハリー自慢の俊足で追いかけようにも、賑わっているモールの人ごみのせいで見失いそうになる。そして……

「 「 「 な、なんという速さ……! 」 」 」

 

――――ぼっちは歩くのが速い。

 

 ぼっちは誰かと並んで歩くという習慣が無いため、歩調を合わせるということができない、というかしないのだ。あらゆる意味で、歩調を合わせられないのだ……

「ハリーさん、スマホ鳴らして! 音で位置を特定できます!」

「その手があったか!」

 早速、コールをする。するのだが……着信音が、聞こえない…………

 

「……………………やろう……マナーモードにしていやがる…………」

 

――――ぼっちは無音で行動する。

 

 音を立てると、注目を集めてしまうから。注目が集まると、孤立していることがバレるから。それ故、足音を鳴らさないよう細心の注意を払い、金属製の物品は身に着けず、携帯電話はマナーモード、最悪、電源を切っているまであるのだ。

 

「ハリーさん、鼻は利く!?」

「くそっ、ここはフードコート……! 肉屋のメンチカツのジューシーな脂の匂いと、ドーナツ屋のチョココーティングの濃厚な甘い匂い、うどん屋のカツオ出汁の芳醇な香りが混然一体となってそれどころじゃねぇ……! 腹減った……!」

 

「お昼ご飯は全員揃ってからです! えぇと、『現地情報の調査』……旅行会社、違う。マンツーマン接客の恐怖に抗える子じゃない。接客されず、目立たず、静かで、一人で居ても不自然ではなく……。!!! あそこよ!」

 

 指さしたのは、フロア案合図。

「 「 「 「 本屋だ ! 」 」 」 」

 

 果たして、なのははそこにいた。地域情報誌コーナーの立ち読み客数人の間に隠れ潜み、完全に空間と調和していた。

「あれ……ハリーどうしたの、もう買い物終わったの? じゃあ帰ろうか」

 すとん、と雑誌を書架へ戻し、ケロッとした顔でそんなことをのたまう。

 

「 「 「 「 …………………… 」 」 」 」

 この子はいったい、これまでどんな人生を送ってきたのだろうか……。四人は、脱力の極みにあった。

 

 三人娘リーダー格にしてお姉さんの大宮が、腕を組んでなのはへ告げる。

「――――帰りません。これからみんなで服を買いに行って、みんなでフードコートでお昼を食べて、みんなでカラオケ・ゲーセンでカロリーを消費して、みんなで次の遊びの予定を話しながら、みんなで街をぶらぶらします」

 なのはは……愕然としながら、その宣告を受けた。

「みんなで、か、買い物…………カラオケ、カラオケ…………うっ頭が」

 デロデロと、暗黒のオーラが滲み出す……!

「ヤバい、黒歴史だ! みんな聞くなーーーッ!!!」

「う、うごけない……!?」「いやぁー!!」「なのはちゃんストップー!!」

 だが……全員、魅入られたように、動きを停止していた。そして、鼓膜を通じ、音声として、脳内に…………

 

「――――『高町さん、カラオケ行かない?』そう聞かれたとき、私は正直嬉しかった。転校から数か月。そういった遊びに誘われたことなんて無かったから。もちろんイエスと答える。浮かれて過ごして、放課後。誘ってくれた子たちに連れられ、カラオケへ。小学生だけでも入れる店、と説明を受けた。料金は後払いらしく、初めてのカラオケボックスへ。選曲の前に、飲食物をオーダーするのが基本らしい。電話機の近くに居た私、みんなの注文を聞きスタッフへオーダーを通す。みな、不自然に多く頼んでいたことに、ここで気付くべきだったのかもしれない。いざ選曲。『高町さんは初めてだから、見ていてね』そう言い、私以外の全員で予約リストを埋め尽くす。私、言われた通りに見ている。選曲の権利は無かった。この時点でも不自然さを感じとることが出来なかった。運ばれてくる飲食物。流れ続ける音楽。聞くだけ、見ているだけの私。結局、終了までの二時間、会話という会話は無く、ただ、追加オーダーを伝えるだけの生きた電モクと化す。終了後、清算の時間。『こういうのは、誘ってもらった子が出すものなんだよ』。そういうものなのか。私は愚かにもそう思い、払う。学割とはいえ数千円の出費。その頃の私は、仕事にかかりきりになる母親から一日千円という、小学生には過ぎた金を受け取っていた。自分で簡単な調理は出来た私は、買い食いはほとんどしなかったため、金は溜まり、小学生規模からみれば大金持ちの部類。それが普通だと思っていた私、そのことをクラスの雑談の端っこで漏らしていたことを思い出す。『また行こうね』の言葉に、ただ頷く私。二日おきに催されるカラオケ大会。『初めてだから見ていてね』はどこへやら。私には選曲の権利はおろか発言権さえ無く、常に生きた電モク。『誘ってもらった子が出す』のみが延々と履行され、手持ちの現金はあっという間に底をついた。やがて不自然さに気付いた店員が学校へ連絡。全校集会が開催される。私、『チクった』という濡れ衣を着せられ針のむしろに立たされる。私を誘った子たち、ひとりとり呼び出される。連れられていく時の憎々しい視線はエンドレス。私、被害者では無く、和を乱した異分子として扱われる。『チクリの高町』。小気味よく語呂の良いあだ名はあっという間に学年中へ広まり、年度を跨いでリアルに75日間呼ばれ続ける。ようやく収まった頃に待っていたのは、新しい環境では無く、逆恨みからの虐めだった。通りすがりにワザと肩をぶつける、聞こえよがしに悪態をつくといった基本技から、流言飛語を吹聴し尊厳を貶める、笑顔で優しく話しかけるように見せかけて『うっそだよーん』と上げてから突き落とす高等テクニックまでを駆使し、身勝手な復讐を行う。同情的な目を向けていた子も、標的変更が怖くて何もできず。聞こえないフリ、見えないフリ、知らないフリ。私は空気だった。空気だったから、誰も空気を助けようなんて思わない。誰も。誰も――――」

 

 

「「「「「「「「「「……………………………………………………」」」」」」」」」」」

 ……活気に満ちていた筈のショッピングモールが、沈黙していた。

 呪詛と共に溢れ出る暗黒の波動は空間を超越し、『陽』の気を排除。『陰』の気がそこいら中に毒ガスのように充満していた。

「――――というわけだからカラオケは嫌……って、なんでみんな虹色のエクトプラズム吐いてるの……?」

「こ、の……おバカ祟り神が……っ……!! り、臨、兵、闘、者……はぁ、はぁ、……か、皆、陣、烈、在……前ッ…………!!」

 ハリーは息も絶え絶えになりながら、唯一動く右手で九字を切る。『陰』の気は霧散し、再び、『陽』の気と交じり合う。

 

――――世界は調和を取り戻した………………。

 

「はっ、ここは一体……」

 大宮たちも、意識を取り戻した。多少、意識が混濁しているが命に別状はないだろう。良かった良かった。

「……………………あの、」

 と、なのはが、申し訳なさそうにしているのに気付いた。

「あっ、なのはちゃん。楽しい時間ってあっという間だね。気付いたら記憶が飛んでいたの。キット楽シカッタンダネ。楽シカッタンダネ。楽シカッタンダネ」

 命に別状はない。命、には…………。

 

「あの……このモール、カラオケ、ない……けど、ゲームセンター、ある、ので」

 ハリーから、要らぬ手間を掛けさせた代償に、そう誘うように言われたのだった。

 俯いて、もじもじと落ち着かない様子ながら、しっかりと言えたあたり、なのはも頑張っているのだろう。

 

「 「 「 是非!! 」 」 」

 

 早くも一つ、目標を達成してしまった。

「なのはちゃん、プリ撮ろ、プリ! デコろ!」

 意外とゲームセンター慣れしているらしい中野が、なのはをリードしていく。

「…………ぷり?」

 ……理解できていない顔だった。こういうのは、やって見せるのが手っ取り早い。

 五人でハコに入り、ハリーにマリオネットのようにピースを作らされ、パシャリと撮影。

「はい、なのはちゃん」

 と、デコ用のペンを渡される。

「何でも好きに書いていいんだよ! ほら、スタンプも!」

「………………すたんぷ?」

 迷いながらも、サラサラと文字を書き込む。

『ショッピングモール内 4 F 11:35 異常ナシ 引き続き警戒を続行』

「報告書かッ! ちげぇの! こういうのは、素直に感じた気持ちを文字にするんだよ!」

「素直に、感じたことを…………」

 さらさら。

 

『お腹が空いたので食事がしたいです』

 

「あ・と・で・な! リテイク!」

「う、うぅんと……感じたこと……」

 

『秀人さん大好き』

 

「…………これでいっか」

(((いいんだ……)))

 素でやっていることである。まごうこと無き素直な気持ちだろう。

 5枚のシートになって出てきたシートを、それぞれ一枚ずつ受け取る。

「……今さらだけど恥ずかしくなってきた。消そうかな」

「おいなのは」「何よ」「いぇーい」ぱしゃり。

 先程のプリクラをバッチリ写しての不意打ちツーショット自撮りである。

「さて旦那に送信、と」

「わぁあああああああ」

 バタバタするなのはだったが、ハリーが指一本動かす方が速かった。

「時間を巻き戻さなきゃ……!」「過ぎた時間は神でも戻せねぇんだよぉ!」

 

「なのはちゃん、次アレやろ、アレ!」

 と、中野が指さしたのは、筐体のほかに一段高い『お立ち台』がある、いわゆるダンスゲーム。

「どうすれば……」

「画面に表示される色と同じところでステップ踏むんだよ。ほら、スタートするよ!」

「あわ、あわわ…………」

 言われるがままに……と、言う割には。

 

「なのはちゃん、超上手い!?」

 

 慣れれば、身体を動かす系はなのはの大得意とする分野である。ヒッキー気質でぼっちだが、実はアクティブな少女だった。

「……………………(楽しい)」

あっという間にワンプレイをパーフェクトクリアしたなのはは、今度は自ら硬貨を投入し、最高難易度を選択する。その神業的ステップに、ギャラリーまで集まってくる。

 

――――何だあのJK!?

 

――――バー全く触れてねぇぞ!?

 

――――回転だよ、回転! コマみてーに! ジャイロで! だからコケねーんだ!

 

――――……自称・上級者に限って、バーに完全に体重を預けきり、バタバタとみっともなく足踏みをするだけの輩が多い中……見てみろよ。

 

――――あのJK、マジで(ダンス)ってやがる……!

 

 そして……実は実装直後であり『殺人的』とまで評される難易度を、まさかの初見パーフェクトクリアである。更に言えばこの筐体はネットワークで全世界と接続されており、観戦モードで全世界生中継までされていることをなのはは知らなかった。

「…………あー楽しかっ………………え、なに、この人だかり……人がいっぱいいる……いっぱいいる…………」

 

――――ぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーー!!!!

 

(やべぇ、世界中継されてるとか知ったらなのはが入滅する……!)

 

「ポップコーンタダで配るんだとよ」「なにそれ欲しい。ポップコーン食べたい」「タダより高いモンはねぇって言うだろ」「高いなら踏み倒しちゃえばいいのよ」「はい、てっしゅー。てっしゅーしまーす」「あああ、ポップコーン、ポップコーン…………」「後で買ってやるから!」

 なのはを、ハリーが手を引き撤収する。

 

――――後に、『アレ設定ミスってたわ。すまんな(意訳)』というふざけた通知とともにバランスを修正された最高難易度ステージだったが、修正前の『人間には無理』とされたステージをパーフェクトクリアーしたプレイヤーネーム『NNH』は、界隈で都市伝説と化したのだった。

 

「あー、楽しかったね!!」「なのはちゃん、すごかった!」

 ゲーセンを抜け出し、休憩所でジュースを飲みながら笑う。

「………………」

 ハリーが買ってくれたポップコーンを食べ終わったなのはは、ポケットの中身をまさぐり、三人娘を見やり、もじもじ、もじもじと……。

「なのは、ほら、行け! 行けってば!」

「わ、わかってるわよぅ…………」

ハリーにせっつかれ、一歩前に突き出される。

「……………………」

「……ど、どしたの?」

 ……今から敵の親分のタマを取る鉄砲玉のような形相のなのはに、三人がたじろぐ。

 

「こ。これ。あげるっ!!」

 

 ズバッと差し出したのは……ラッピングされた、ストラップ。

「さっき、く、クレーンゲームやったら、一回で、みっつ、落ちたから……」

 ……実はゲームと相性が良いのかもしれない。

 

――――一人でも遊べるし……

 

「これ、ホイッスルになってて! あの、オリエンテーリング先、山で! 山で迷子になったら、使えるから! だから、あげるっ!!」

 ずずい、と一杯いっぱいの表情と共に押し出された。

(あぁー……やっちゃった……『え、……ありがとう(苦笑)』『あー、うん(困惑)』とか言われるんだ……あぁー、やめときゃよかった……ぜったい馴れ馴れしいって思われた……あぁー……)

 後悔でグッダグダになるなのはだったが。

 

――きゅ。

 

 握られる手。

「なのはちゃん、ありがとうっ!!」

「……へ?」

 顔を上げれば、心からの笑顔があった。

「さっそく付けよう!」「あ、くっそ……このスマホ、ストラップホール無い」「機種おなじだっけ? はい、予備のカバー。ここにホールあるよ」「中野さん、さすが!」

 フツーに喜ばれて、困惑してしまう。

 と、いうのも。なのはが異常に悲観的なだけで……普通、友人(・・)からの贈り物が、嬉しくないわけが無いのだ。

「なのはちゃん。これ大事にするね。オリエンテーリングの日も、持って行くね」

「……鳴ったら、困ったら、助けに行き、ます」

 ようやく、なのはにも笑みが見える。

 

 

――――ぼっちは義理堅い。

 

 

恩を仇どころか嘲笑で返されてきた経験から、せめて自分だけでも、誠実であろうとする。恩は返すし、スジも通す。

 

ひねくれていることが玉に傷だが。

 

 

「…………なーんか犬笛みたいだなぁ」

「やかましい」

 ハリーの指摘に、なのはが少し怒った。

 

 

 

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