魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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第十六話

俺がそう言った途端、クロノが、エイミィが、猛烈な勢いで反対してきた。

『無茶だよ! 麻酔だって無いんだよ!?』

「俺は絶対に……誰も見捨てない」

『でも』

「ここでアルフを見捨てたら……もう、俺は二度とフェイトに顔を合わせられない」

 最初は、ただの敵だった。

でも、彼女達にも譲れない事情があったことを知った。

フェイトが、なのはという好敵手を見つけるまで、懸命に、献身的に……たった一人でフェイトを支え続けてきたアルフ。

 彼女にも、主と共に幸せになる権利があるはずだ。

 こんな、ふざけた結末があっていいはずが無い!

 

 ユーノは、結界の維持で精一杯だ。今ここで結界が破られたら、現実世界にまで破壊が広がってしまう。だから、ユーノの手を借りることはできない。

「クロノ。武装隊の中で、麻酔か何か使えるやつはいるか? 結界魔導師でもいい」

 ユーノの代役ができるようなヤツが要れば……

「すまない……医療班は、アースラにしかいないんだ。それに、今アースラとは、通信するだけで精一杯で……」

 まぁ……そうだよな。医者を最前線にまで引っ張ってくる奴はいないよな。

 やっぱり、俺がやるしかない。

俺も、一応痛み止めを使える。使うのは、よく世話になっていた術式。

 

――ヴン……

 

 足元に、魔方陣が展開する。

大丈夫だ。ちゃんと身体が覚えている。

「アルフ」

手刀に、極小の魔力刃を展開。設定を変更し、物体への干渉力を持たせる。

「もう一度、フェイトに会いたいか?」

「あたし、は……」

 アルフは、一瞬だけ言葉に詰まる。きっと、助かりたいという願望と、助からないという諦観が、一瞬だけせめぎ合っていた。

「言っておくが、俺の痛み止めなんて、せいぜい二日酔いを抑える程度だ。死ぬほど痛いぞ。それでも、やるか?」

 軽く脅しを掛ける。

 だが、アルフの答えは、最初からたった一つ。

 

「私は……フェイトに、会いたい……!」

 

「……ああ、俺に任せろ」

 これで、迷いは無くなった。

「行くぞ。我慢してくれ」

「……ん」

 こくん、と頷くアルフの腹に、魔力刃のメスを当てる。そして、

 

――ずりゅっ……

 

「ぐうゥっ……!」

 体内にメスを滑り込ませた瞬間、アルフの顔が苦悶に歪む。俺の身体に爪を立て、歯を

食いしばる。麻酔で多少は緩和されていても、体内の異物感だけは消せない。

 

――ぐっ……ぐりゅっ……

 

腹部から肋骨へ向け、内臓を傷つけないよう、慎重に、慎重に進める。

「がァァ……! うあああああああ……!!」

 ぽろぽろと涙を零し、アルフが呻く。

「頑張れ……! もう少しだから……!」

 焦ってはいけない。だが、爆弾のリミットはもうすぐそこまで迫っていて……

肋骨を抜け、心臓の横に指を伸ばし……!

 

――コツッ……

 

「あった!」

 俺は、ソレを慎重に指先で摘み……

 

――ずりゅっ!

 

 引きずり出す!

「うあああっ!!」

 引き抜いた手に、魔法文字の刻まれた、八角形の水晶のような無機物があった。それは、危険な輝きを放ち、徐々に、徐々に光を強くし……!

『駄目だ! その威力じゃあ、結界のどこで爆発しても……!』

 なら……

「クロノ! ユーノ! アルフを頼む!」

 

――ドンッ!

 

 一足飛びに、ユーノ達と距離をとる。とにかく、被害が広がることを防がなくては。

 結界の中央に座し、集中させた魔力を、両腕ごと筒状に固定。

「すうう……はあぁ……」

 深呼吸を一つ。そして、レイジングハートの講釈を、脳裏に再生する。

 

『魔力によって『筒』を形成し、その爆発のエネルギーを内部に通すことで指向性を与える。これが、直射型砲撃魔法です』

 

 爆弾のエネルギーに指向性を与え、ただの『超高威力の砲撃魔法』に変えてしまうことができれば……被害は最小限に収まる。

「苦手でも、練習しておくもんだな」

 筒……『砲身』を、より長く、より頑丈に構築していく。長くすればするだけ、地上への影響は少なくなる。だが、強度との折り合いを付けなければ、『砲身』はあっけなく破壊されてしまう。

 

 そして、光が臨界に達し……

 

 

――キュゴオオオオオオオオオオオオォォォォォッッ…………!!

 

 

 爆弾が、爆発した! 

「うがあああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 凄まじい衝撃に、俺は無意識のうちに悲鳴を上げていた。 

「ぐうううっ…………!! うおおおおおおお!!」

 制御どころの話ではない。俺には、手元の『砲身』を維持するだけでも一杯一杯だ!

 凄まじい光の柱が、天頂に向けて屹立する。

 

――ビキビキビキッ……!

 

「あぐっ……くそおお!!」

 とうとう、罅が入ってしまった。

 その罅割れた『砲身』の隙間から、破壊力の余波が漏れ出し……

 

――ボンッ……!

 

「あ…………」

 目の前を、血色の何かが、横切った。

見覚えのある、千切れた五本の指と、それを伴っていた掌だった。

 

 

――俺の右手首から先が、バラバラに吹き飛んていた。

 

 

「…………ぐあああああああ!!!!」

 もう、目の前がどうなっているかも分からない。吹き飛んだ右手から、左手に魔力を集中し直し、『砲身』を維持し続ける。

 

 クロノとユーノが、必死な顔で俺を援護しようとしている。

が、ユーノはアルフの傷の止血と、結界の維持で手一杯。クロノも、暴風のように荒れ狂う破壊力の渦に邪魔され、近づくことすら出来ない。

(……それで、いい)

 俺が無事に人間の姿を保っていられるのは、自身の肉体の恩恵があるからだ。もし、普通の身体だったなら……最初の爆発だけで、粉々に吹き飛ぶどころか、塵になって消滅していた。

 

だから、これは……俺にしかできない役目だ。

 

「くおおおおおおおおおおおおおお!!!」

即席の砲撃は、結界上部に大穴を開け、現実世界の雲を突き破り……成層圏をも突破している。

 

 

――ギュウウウウウゥゥ……ゥゥン……

 

 

永遠のようにも、刹那のようにも思える時間が、ようやく終わった。

「……う」

 左手に、じゃりっとした感触。どうやら、気付かぬうちに倒れていたらしい。

 目蓋を上げても、目の前が真っ白だった。どうやら、網膜をやられたらしい。

(爆弾は……? 皆はどうなった……?)

 光に焼かれた網膜が徐々に回復し、周囲の景色が目に飛び込んでくる。

 俺の周囲数十メートルは、かなり酷い状態だ。だが、そこから先は、ごく普通の町並みだった。つまり……うまくいった、ということだろう。

「…………! で……! ……でと! ……秀人!!」

 続いて鼓膜が再生し、音を拾う。

「秀人ォ!!」

 ユーノが駆け寄ってくる。

「よう……」

 と、軽く身体を起こそうとして……先延ばしにしていた限界が訪れた。

「ぐ……あぁ……!」

 あ……駄目だ。立てない。

 よろけたところを、クロノに助け起こされる。

「あ……アルフは?」

 それに答えてくれたのは、ユーノだった。

「大丈夫だよ。傷は深いけど、内臓には一切傷が付いていないから、簡単な止血と縫合で、アースラと合流するまでは持つ」

「そっか。よかっ……たぁ」

 意識が一瞬だけ飛びかけた。

 

「………………」

 クロノ達アースラの面々が、俺を……正確には、俺の右手を凝視している。

 あー……そういえば、吹っ飛んだんだっけ。

ってことは、今まさに再生が行われている最中で……

「ははっ……」

 やっぱり、何人かは気味が悪そうにしている。そりゃあ、そうだよな。

でも……嫌われるのは、嫌だなぁ……

 そんな弱気なことを考えていたら、ユーノが……自分の身体を盾にするように、視線を遮った。

「全く……いつもいつも、無茶ばかりだね、キミは」

「悪いな……でも、いまさら変えられないんだよ」

 自己満足言われようと……俺の馬鹿は、直るようなものじゃないらしい。

 

「もう、大丈夫だ……多分」

 何とか、立ち上がれるくらいには……よいしょっと。

 

――ごりっ……

 

「…………ごり?」

地面に突いた右手に、違和感。何か、手がゴリゴリする。

 恐る恐る、再生したばかりの右手を見る。

 

「……なんじゃこりゃああああああああああああああ!?」

 

 恐らく、骨格や筋肉を再生する際、巻き込まれてしまったのだろう。

俺の手の甲に……爆弾として使われていた瞳のような結晶体が、同化していた。

「取って! これ取って!」

 ぐいぐいとユーノに手を押し付ける。が。

「あ、あはは……ごめん、無理っぽい」

 ユーノは、諦め気味の半笑い。

「神経系どころか、魔力のラインまで、ガッチリ癒着してる。多分、外科手術で取り出しても」

「取り出しても?」

「どこからともなく戻ってくる」

「怖!」

 呪いのアイテムに取り憑かれてしまった!

「はぁ……」

 俺達をあきれた目で見つつ、クロノがアースラと通信する。

「エイミィ、そろそろ回収を頼む」

『…………』

 が、エイミィからの反応は無い。

「エイミィ、どうした?」

『…………』

 空気が、緊迫していく。そして。

 

――ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……!!

 

 紫色の魔方陣!

「来るぞ!」

 敵の第二陣だ!

『オオオオオオ……』

 魔方陣から出てきたのは、中世の騎士を模したような……巨大なロボットだった。

 大きいが、力はそんなに強くない。ここにいる武装隊だけで、簡単に駆逐できるだろう。だが……

 

――ヴン、ヴン、ヴン………………

 

 転送魔方陣の数は、二つ、三つ、四つ…………!!!

 

「嘘……だろ……」

 武装隊の一人が、絶望的な声を上げた。

 

 結界内を埋め尽くす……巨人の軍団。数は、十や二十では利かない。

 

 まさか、アースラとの『通信だけ』が通じていたのも……今になって通信が遮断されていたのも……全て、この絶望感を味あわせるための、プレシアの策。

 

 プレシアは、俺がアルフを助け、爆弾を処理することまでも想定していたのか!

 

 母艦との連絡は取れず、戦力はガタガタ。怪我人を何人も抱え、退却することも叶わない。そんな状態で、大量の敵と戦う……正に、絶体絶命だった。

 

――からん……

 

 誰かが、デバイスを取り落とした。それを皮切りに、

「くっそおおおおおおおおおおおお!!」

「ま、待て! 体勢を立て直してから……!」

 クロノの制止も空しく、武装隊の一部の面々は……敵の機械兵へ、無謀に特攻していった。

 

 一人、また一人と倒れていく武装隊の面子。

 特に、年齢が若そうな奴ほどクロノの指揮を聞いていない。ただがむしゃらに、自暴自棄に、敵兵に突っ込んで、撃破されていく。

「くそッ! 世話が焼ける!」

 爆発の余波で転がっていた、俺のバイクを起こす。

「ユーノ、アルフを頼んだ」

 

――キュルルル……キュルルル……

 

 掛かれ、掛かれ……!

 

――キュボッ!

 

 よし、まだ動く!

「秀人!? 無茶だよ! 身体は大丈夫でも、魔力が殆どすっからかんじゃないか!」

 ユーノが俺の手を掴み、引き止める。

「怪我人を背負って逃げるくらいはできる!」

 

 フェードアウトしていくユーノの声をバックに、駆け出した。

 

「うわああああっ!?」

『オオオッ!!』

 今まさに、振り下ろされようとしていた大剣。

「させるかあああああっ!!」

 

――ズギャギャギャッ!!

 

 バイクごと横滑りし、局員を抱える。

 

――グリッ!!

 

 自らハイサイドを起こし、片腕で強引に車体を立ち上げる。

 

――ドドドドドッ!!

 

 俺がギリギリで避けた場所に、無数のエネルギー弾が着弾した。

「す、すまない、助かっ……」「この馬鹿野郎! クロノの指示に従え! それができないならすっ込んでろ!」

 勝手に行動して、それが結果的に部隊を危険に追い込んでいる事に気付いていない。全く……こんなヒヨっ子を最前線に送るなんて、時空管理局って組織は何考えてんだ!

 ビルの裏にポイ捨てし、また新たな馬鹿を拾いに行く。

 何人かを拾い、物陰に放り捨てる。

 

 だが、あくまでもその場しのぎにしかならない。

 何せ、敵は一向に減っていないのだ。

「くそ……魔力さえ回復すれば……!」

 魔力さえ…………魔力?

 右腕に目をやる。甲に埋まった、八角形の水晶のような結晶体。

 膨大な魔力を蓄積していた結晶体。

「ひょっとして……」

 意識を右腕に集中する。

 

――どくん……

 

「!! やっぱり!」

 まだ、魔力が残っている! 

あの爆発に比べたら劣るが、俺の魔力を満タンにするくらいには!

「はああああ……」

 右腕から、ポンプのように魔力を吸い上げるイメージを描く。

 乾ききっていたリンカーコアが、徐々に潤っていく。

『オオオオオ!』

 一体が、巨大な戦斧を振り下ろし……

「せー、の!」

 

――ズドォン!

 

『アアアアアア…………!!』

 衝撃波に、粉々に砕かれた。

「よし!!」

 復活! プレシアの奴、置き土産で墓穴掘りやがった!

 

「行くぞこの木偶野郎オオオオオ!」

 

『 『 『 ゴオオオオオオ!! 』 』 』

 飛行タイプ・騎士タイプ・重騎士タイプ。それぞれが、上空からエネルギー弾を撃ち、槍を突き出し、戦斧を振り下ろす。

 バイクを飛び降り、スライディングで回避する。

 

「そりゃあああああっ!!」

 

――バッチイイイイイン!!

 

『ウグオオッ!?』

掌打でエネルギー弾を弾き返し……

「せええいっ!!」

 

――ガギョンッ!!

 

『グアッ!?』

 渾身の撃ち下ろしで槍を殴り壊し……

「ディバイン……バスター!!」

 

――バゴオオンッ!!

 

『グオオオオオオオ……!!』

 砲撃で、重騎士の胴体をブチ抜く! 

 

――ゴゴゴン……!!

 

 三体が同時に爆発する。

 

「…………っしゃあ!」

 魔力の集中をかなり遅いスピードで行ったおかげで、身体への負担は少ない。ロボット兵どもの動きが、クロノやアルフに比べて緩慢なことが幸いだった。

 

 地面に転がったままアイドリングしていたバイクに飛び乗り、再び走り出す。

「クロノ!!」

 低空を飛行していたクロノに併走する。

「ヒヨっ子は全員避難させた! 武装隊の状況はどうなってる!?」

 苦々しく眉間に眉を寄せる。

「……ほぼ全滅だ。ベテランの局員も、若手のフォローをしている内に……」

「……………………そうか」

残っているのは俺とクロノだけか。

 

 俺も魔力が回復したとはいえ、あれだけの数を相手にし続けるのは無理そうだ。

『オオオオオ!!』

 目の前に、重騎士タイプが立ちふさがる。

「「邪魔だ!!」」

――ドゴンッ!!

 クロノの砲撃が戦斧を握る腕を破壊し、バランスを崩した胴体を、インパクトで打ち砕く!

「お前、魔力残り何パーセントだ!?」

「38パーセント。一応、まだ戦えるが……」

 クロノの魔力の最大値は、俺やなのはの半分以下。長く戦えば戦うほど、不利になっていく。俺には魔力があるが、それを効率よく使うのが下手だ。

 

 燃費とコントロール性に優れるが、パワーに乏しいクロノ。

 パワーはあるが、燃費とコントロール性が劣悪な俺。

 

 要は、俺とクロノを足して、2で割ればいい。

(……アレを、やるか)

 あの時はただ夢中で、殆ど無意識だったけど……一度やれたなら、きっと!!

 

――ヴィイイイイイイイイイ…………!!

 

 足元に、ミッド式魔方陣を展開する。

 あの時の人数は、五人。さすがにレイジングハートの性能をフル活用しなければできなかったが……今回は、たったの二人だ。きっと、俺だけでも出来る!

 ミッド式魔方陣。それを構成するうちの直線が、一本のラインになる。よし……このまま!

「クロノ! 行くぞ!」

「は!?」

 慌てて振り向くクロノに……

「繋がれ!」

 

――バシュウウウッ!!

 

 そのラインを、クロノの身体にブチ当てる!

「うわっ……! 何をした!?」

 俺とクロノの間を、一本のラインが結んでいる。

「見てればわかる!」

 目の前に、再び複数のロボット兵が現れる。数は4!

「|借りるぞ!」

 苦手だった砲撃魔法のコントロール。それが、驚くほどスムーズに行える。

 

「ブレイズキャノンッ!!」

 

――バゴゴゴッ!!

 

 発射された四発の砲撃は、狙い違わず、四体のロボット兵の胴体を、頭部を、粉砕した!!

「……僕の魔法を使ったのか」

 唖然とした様子のクロノ。

「お前もだ! 行け!」

「あ、ああ!」

 そして、S2Uを構え……

「スティンガースナイプ!!」

 本来ならば、牽制が主な目的の誘導弾は……

 

――ギュガガガガガガンッ!!!!

 

 敵の6体を、一瞬で撃破し尽した。

「…………は?」

 撃った本人が一番驚いている。

「何だ、このパワーは……!?」

「……すげえだろ、俺の魔力」

「君の……? まさか」

「ああ。…………リンカーコアを同調させた」

 

俺はクロノと魔力を共有し、クロノは俺と処理能力を共有している。

 

 そう。俺があの時、4つのジュエルシードを完全封印した時に使ったのも、この方法だった。それぞれが勝手に、バラバラに魔力を放出してはロスが生まれる。

 

多気筒エンジンと同じだ。

完全な同調が取れた多気筒エンジンは……同排気量の単気筒エンジンよりも、数段上の スペックを引き出すことが出来る!

 

 今この瞬間、俺とクロノは……二人で一人の魔導師だ!

「行くぞ!」「ああ!」

 俺は拳を。クロノはS2Uを構え……敵陣の真っ只中へ……!

 

「 「 うおおおおおおおおっ!! 」 」

 

 突撃だああああああああ!!

 

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