魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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vivid編 12話『 しせつぐらし! 』

 

 

 

――――――――――――窓割れてね?

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 さて。

 

 近頃は、どっかのダメな神の方にばかり視点が行きがちであった。

 

 その話のさ中、女性問題と言う実に俗っぽい面で話題に上がることになった、我らが主人公、吾妻秀人の日常を、入学式まで遡って観てみよう。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「ふむ」

 俺は、困った嫁であるなのはを教室に押し込み、自分のクラスへ。確かに俺は、小学校から先、つまり『学校』というものを体験としては知らないのだが……漫画や小説などで、どういったものであるか、ということは常識として知っていた。

 クラス分け表に示された教室、並べられたテーブル、その上にセロハンテープで貼られた氏名……と、特に困ることは無く着席する。

 俺は、戸籍上は『26』という年齢だが、外見はハタチ前後でストップしている。この教室内では、やや年かさではあるが、そこまで浮いてもいない。きょろきょろとあたりを見渡している奴らもいるし、着席し、じっと俯いている奴もいる。まぁ、みんなイロイロあるのだろう。

 そして……

「あー、っだりーなオイ」

 ドカッ、と鞄を乱暴に机の上に放るように置く……不自然な髪色(赤)の若者。

……いるんだよなぁ、不思議と。どんな空間にも。世界の七不思議だわ。ヤンキーってホントどこにでも湧くよな。しかもだいたい複数で。

「あっくん、タバコあるー?」

 と、今度は緑色の頭のが声を発した。

「あー? ……あれ、落しちまったみたいだ、クソッ……」

 …………俺は見ていた。教室案内係の細身の中年教師が、その懐から煙草とライターをスリ取るのを。

 特に誰とも絡むことなく、簡単な説明と……生徒同士の、挨拶の時間がやってきた。

「出席番号1番。――吾妻秀人さん」

 おぉ……『あ』で始まるから一番なのか。教師に促され、壇上へ。こっちを見ているやつ、見ていないやつ、そして……挑発的にガンを飛ばしてくるやつ。男も女も、バリエーション豊かな面子だ。

「吾妻秀人。齢は、26です」

「ぶはっ」

 とたん、ヤンキーの頭目と思しきカラフル赤頭があからさまに嘲笑する。

「26!? オッサンじゃねーか、オッサン!」

 そのツレも、げらげらと下品に笑いだす。

 ……いや、君らホントよく試験受かったね?

 

 よくない空気だ。教室中の空気が、彼らを中心に淀んでいくような感じ。覚えているぞ、これは。施設に入れられたときのアレだ。

 

――――集団を相手にするときは、まずアタマを潰せ。

 

 挨拶を中断し、赤頭のもとへノシノシと歩く。あぁ、懐かしい。なのはにも教えてやったんだった。

「……ンだよ、オッサ」「あ・が・つ・ま・ひ・で・と。」「ご、ぐぶッ……!!」

 口を掌で覆い、笑顔で説く。

「クラスメイトのお名前は、正しく呼ぼうな? ……ボクちゃん?」

「…………!」

 腕を闇雲に振り回すが、この距離じゃ意味は無いな。どうやら、こいつらはいわゆる半グレ。実際に犯罪行為や暴力行為までは、そこまで本気では行えない類の可愛いやつらのようだ。喧嘩慣れをしていない。

「……!!」

 鼻は塞いでいないから呼吸は出来るはずだが、どんどん顔が真っ赤になっていく。

「てめっ……あっくんに何すんンンンーーーー………………!?」

 はい二人目ー。両手にヤンキーだぜHAHAHA。

 

 さて、そろそろいいか。ここいらで、二人を解放して、平和的解決を図り穏便に『どがしゃぁああああああん』『キャー!』『不良とヤンキーが!!』『あぁ、窓に、窓に!』『窓割れてね!?』はい無理になったー。

 

 …………どうやら、ふたつ隣のクラスで、なのはが『やらかした』ようだ。始業式直後までしか保たないとか、ウチの嫁の社会性は俺の想像を遥かに下回っているようだ。

 

 ……その後も断続的に響く破壊音に、我がクラスはそれどころではなくなり、うやむやのうちに解散することになった。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 …………いやぁ、凄い一日だった。

 

 嫁がクラスメイトの戦闘民族みたいな子と大喧嘩をした。

 

 その数時間後に我が子が生まれた。

 

 戦闘民族っぽい子がなのはの友達になった。

 

 …………うむ、意味が分からない。

 

 意味は分からないが、今日も学校だ。

 

「……うわ、すご」「廃墟みたい……」「『例のあの人』がやったんだって」「あぁ、『例のあの人』が……」「窓割れてね?」

 ……伝説の極悪魔法使いみたいな呼ばれ方をしているのは間違いなく俺の嫁です。

 

 ほぼ廃墟と化し、申し訳程度にブルーシートで窓際が閉鎖された教室をスルーし、我がクラスへ。

「おはよー」

 誰にともなく挨拶をすると、教室中から、散発的に返事が返ってくる。

 

――ダンッ!

 

 …………あ、忘れてた。半グレくんと遊んでいたんだった。

「おう吾妻ぁ……! ナメた真似してくれたじゃねぇか……!!」

「おっ、あっくん。俺の名前、ちゃんと憶えてるじゃん」

「誰があっくんだオラァ!」

「? ……おいあっくん。相方の緑の……えぇっと、ガチャ○ンみたいな色の頭のやつは?」

「が、ガチャ…………!? ハヤシのことか……?」

「…………ム○クみたいな色してんなー、この頭」

「さ、触るんじゃねぇ! つか、いつの間に真横に来てんだよ!?」

「フハハハハハ」

「笑ってごまかしてんじゃねぇ!」

「そうは言うけどさぁ……はぁー……俺も昨日からイロイロ有りすぎてさぁ……もう……聞いてくれる?」

「何で深刻な相談のノリなんだよ!?」

「昨日、予定日直前の嫁がクラスメイトと大喧嘩して、そのまま急に産気づいて、そのまま勢いで息子が産まれちゃったんだよね……」

「あ、い、う、え、お、ぉおおお……!?」

 ククク……情報の津波に正気を失うがいい。

 

「息子……?」

 そのワードに、クラスメイト……特に女子が食いついた。いいぞいいぞ。徒党を組んだ女子の圧力はヤバい。

 

――――っていうか、徒党を組んだ女子なんて、死んでも敵にしたくないわ。あいつら、ちょっとしたヤンキーより厄介だし。そこに武力が加わるウチ(アースラ組)の女所帯の恐ろしさたるや……

 

「そうそう、俺の息子。昨日産まれたんだよー。写真見る?」

 キャー、と歓声を上げ、あっくんを力士ばりに押しのけ、人の輪が出来上がる。

 好奇心からか、男子もちらほらとその輪に混ざってくる。いい傾向だ。

 

――――キーン、コーン、カーン、コーン…………

 

「奥さんってどんな人!?」

 そして、当然来ると思っていた質問が来た。写真を一枚スクロールすると、我ながら最高の出来であろう一枚……笑顔で慈樹を腕に抱くなのは……の写真が表示される。

「わぁ……綺麗なひと……!」

 そうだろう、そうだろう。真顔が怖いだけで、笑うと普通に可愛いんだ。

「…………でも、どこかで見たような」「……目の傷とか」「……この茶髪」

 ……まぁ、気付くよな。

 

「 「 「 「 「 「 『例のあの人』じゃん!? 」 」 」 」 」 」

 

「そう……『例のあの人』こと、吾妻なのはこそ、俺の嫁なのだ」

 ほぇー…………と、感嘆の声を上げるクラスメイトたち。

「そ、そんなことって……」「…………どうやって落としたん?」「すげぇ甲斐性……」「あなたは神か」

 神様なんだよなぁ、これが。

 渡した携帯電話の画面を好き勝手にスクロールして、あーだこーだと和気あいあいとする面子。

「いやぁ、楽しそうですねぇ」

 担任の先生までもが、その輪に加わり……。あっ。そういえばさっき予鈴……

 

「――――着席」「「「「「ハイ……」」」」」

 

 ……今朝のホームルームは、長いお説教から始まった。

 

 纏まりつつあるクラス。だが、あっくんを始めとする半グレたちが、今度は逆に孤立を始めていた。

 

 さて、俺は早く帰りたいわけなんだが……

「あっくん、呼んだー?」

「友情かよ!!」

 ヤンキーの群れと校舎裏の親和性よ。

 あっくんをはじめとする他クラスのヤンキーたちが集っていた。単にだらしなく着崩したのとか、下に変な柄シャツを着ているのとか、制服の裏地に特権階級の紫を縫い付けているやつとか、髪の毛の濃淡で模様を描いたやつとかギャル男ヘアーとか……ヤンキーの見本市かここは。

「つか、誰があっくんだ!」「あっくんじゃん」「あっくんじゃなかったら誰だよお前」「ってか、本名なんだっけ?」

 あぁ、味方から壮絶に突っ込まれてる……

 

「ここにいるのはなぁ……みんなオレのダチだ」

 

 ほほう。

「えっ、そうだったの……?」「さぁ……?」「おれ帰っていい? そらジロー見たいんだけど」

 ……あっくん……そらジロー以下。

「憐れみの目で見てんじゃねーよ!? おい、本田! ホンジュラス本田! 来い!」

(ホンジュラス本田!?)

 と、集団の奥から、ひときわ大きな…………いや、何コイツ。

「Oh……あっくんサン……」

 …………ハリウッドばりのガチムチ黒人じゃねーか。ちょっとカッコいいし。筋肉でブレザーがやべぇ。

「へへへ、吾妻よぉ……このホンジュラス本田はなぁ、オレらの収容されていた児童養護施設にて最恐の男よ……! 投げ飛ばしたクソ職員は数知れず、女だろうと顔面をパンチ一発で叩き割るモンスターだぜ……!」

 ん? いま、なんかすっごく気になるワードが。

「やれ、本田ァ!」

「ah……humm……」

 やるのかホンジュラス本田。妙にやる気が無いというか、戸惑っている感じがするのだが。

「あっくんサン……ボウリョクは、No、デスよ」

「……は?」

 まさかの説得フェイズ。ぽかん、とするあっくんに、ホンジュラス本田は2メートルの背丈を屈めるように縮める。

「ワタシ、grandpa……サトオヤ、の、オジイチャン、に、オソワリ、まシた。ボウリョク、は、more、おおキな、ボウリョクのまえに、いつかは、endだと。Really ワタシ、オジイチャン、に、knock out 、されマシタ。But 、でも、オジイチャンは、say、……『その大きなpowerで、誰かを助けられたなら、それは、きっとvery niceなことだ』。オジイチャン、ソウいいマシタ。ワタシ、ダレかにloseしたのも、cry、したのも、ハジメテ、だったネ。ワタシ、chicken な、smallな、チッポケ、な、boy、だったネ」

 大きな手で、呆けるあっくん肩を掴む。

「だから、ワタシ、もうボウリョク、は、しまセン……monster、には、なりマセン。このschoolで、big human……デッカイ、オトコになるネ。ゴメンなさい、sorryね、あっくんサン」

 な、なんて人間の出来た、いい奴なんだ……!

「ホンジュラス……!!」「すげぇよ、ホンジュラス……!!」

 半グレ連中は涙ぐんでいた。

「こんないい奴を喧嘩に駆り出そうなんて……!」「あっくんは鬼や!」「徒党を組むなんて、男らしくも無い!!」「それでも人間か!」「自分で戦え、このザボエラ!」「やーい、あっくんのザボエラー!」「超魔ゾンビー!!」

 ヤンキー人道を説く。ザボエラ呼ばわりされたあっくんは、今や半グレの中でまで孤立しつつあった。

 ……さすがに哀れになってきた。

「あぁあークソッ! わかった! わかったよ! 勝負してやらぁ!! あとザボエラっつったやつ、後でぶん殴るからな!!」

 すっかりヤケクソになったあっくん。さて、勝負とは言うが……もう喧嘩をするような雰囲気でも無い。ここは乗ってやろう。

「できればこの勝負はしたくなかった……! お前が……お前が悪いんだ……!!」

「なっ……! あっくん……まさか……!?」「ウソだろオイ……アレをやるってのか……?」「死人が出るぞ……!!」「あ、あっくんサン……! ヤケになっては、noデスよ……!」

 周囲の半グレたちが慄きはじめる。いったい、どんな恐ろしい勝負を持ちかけようとしているんだ……。

 

「オレと……『施設暮らしあるある』で勝負だオラァアアアア!!」

 

 ……………………、

 ………………、

 …………、

 ……。

「フッ…………この俺に、その題目で勝負を挑む奴が居ようとは」

 ばさっ、とブレザーを脱ぐ。あっくんも同じく脱ぐ。

「私営児童養護施設『なかよしの家』出身、綾小路彦摩呂(あやのこうじひこまろ)だ!」

 すげぇ名前してんな、あっくん!?

「よっ、綾小路!!」「没落公家!!」「FXで家溶かした貴族!」「お前のカーチャン十二単!」

 なるほど、公家か。そして最後のやつ、お前ぜったい、あっくんのこと嫌いだろ。なにはともあれ、名乗りフェイズらしい。あまり思い出したくも無いが……

 

「社会福祉法人『逢瀬櫃(おうせひつ)』出身、吾妻秀人だ」

 

 ザワッ……! と、俺の名乗りを聞いた半グレたちにざわめきが走る。

 

「あ、逢瀬櫃(あうしゅびっつ)、だと……!?」「あの伝説の……!」「おれらへの最終宣告、『悪い子は逢瀬櫃に送るよ』の、あの!?」「公務員でさえ逢瀬櫃にだけは子供を紹介しないで済むよう必死で働くという……!」「公務員OBが、天下りをも拒否した……」「代議士と組んで、大規模な児童搾取を行っていた臓器カルテル……」「併設された医療施設から、不自然なカルテが山のように発見され……!」「跡地に慰霊鎮魂の碑が建立されたという……!?」「救出された児童たちが『生存者』と報道されたほどの、あの魔窟……!?」

 

……………………え、そうだったの?

 

 ……まぁ俺、隔離されてたし、知らなかっただけでそういうことがあっても不思議ではない場所ではあった。たまに人、不自然に居なくなってたし。

「さぁ……始めようか」

「クッ……! い、いいだろう。だが先攻は貰う!」

 すーはー、と呼吸を整えるあっくん。そして、第一声は……

 

「『力こそ全てであると入所初日で思い知らされる』」

「「「「「「あるある」」」」」」

 うむ……基本だな。では俺から。

「『女子は職員に取り入るのが上手』」

「「「「「「あるある」」」」」」

 ……やはりどこも同じか。

「『暴力は痣で職員にバレないように腹パンが中心』」

「「「「「「あるある」」」」」」

「『おかずは奪い合い……だが不文律として主食は奪わない』」

「「「「「「あるある」」」」」」

「『面会で呼び出されたヤツは勝ち組にして裏切り者』」

「「「「「「…………あるある」」」」」」

「『恐怖の反省室(もしくは面談室)』『その実態は拷問部屋』」

「「「「「………………ある」」」」」「うビャぁあああああああごめんなさい! ごめんなさいぃいいいーー 先生、エンピツは、エンピツだけはぁああああああ!HB!? HBなんですかぁああああ!?」

 一人脱落した。鉛筆を指の間に挟んで強く締められでもしたのか。アレ慣れないと痛いんだよなぁ……

「『汁ものはおかわり自由(おかわりできるとは言ってない)』」

「「「「「「ある……ある」」」」」」

「『なのに食べ過ぎと怒られる』」

「「「ある!! めっちゃある!!」」」「しくしく……お腹が空いたよぉ……田中くん、ボクのおかず返して……!」「あぁ、甘シャリだけは、甘シャリだけは取らないでぇ……! きょうはボクのお誕生日なのぉ……!!」

 ……どうしてもメシ系の話題が多くなるが、仕方ないだろう。ああいった環境での人間同士の交流なんて、ほぼ勢力争いか喧嘩かイジメかマウントの取り合いになるし。

『施設育ちあるある』。それは、互いのトラウマを抉り合う誰も得をしない恐怖の泥仕合のことである。

 続々と撃沈していく半グレたち。あっくんは意外なほどの根性を見せてはいるが……顔面蒼白だ。

「はぁ、はぁ……『冷暖房費ケチって夏暑く冬寒い』」「『でも職員室は冬ヌクヌクで夏キンキン』」「『たまにいい職員もいるけどだいたい辞める』」「『もしくは死んだ目をしているの二択』」「『女が施設長のところは地雷施設』」『代々おさがりされるランドセルに歴史がありすぎる』」「『ジャンプが古い』」「『もしくは歯抜けでしか無い』」「『単行本の表紙が無い』」「『シャープペンシルが伝説のアイテム扱い』」「『欲しい文房具第一位がギミック付き筆箱』」「『学校では浮く』」

 ……中には俺の知らない情報もあるが、そういうもんなのか。

 

「『たまに本当に死人が出る』」

「「「いや、出ねぇから!! お前んとこだけだから!」」」

 えぇ……あるあるじゃん。

「『……ある日、どこかへ連行されていく子供』『先生は「里親に引き取られた」と言うが絶対ウソ』『夜な夜な隣の白い建物から居なくなった子の泣き声が』」

「やっ……やめろォ!! きっとその子は優しい里親の下で今も幸せに暮らしてんだぁーー!!」

 

 チッ。仕損じたか。

「『ある日、突然外に放り出される』」

「…………」

「『理由はカンタン。よりオイシイ(・・・・)条件の子供が入ってきたから』」

「…………」

「『その後に待っているのはたらい回し、のち寮付きのタコ部屋』」

「……うっ」

「『そこでも待っているのは、より激しい搾取』」

「うわぁあああああああ!!」

「『やがて、あれほど嫌だった施設に帰りたくなる。だが帰れない』」

「……ごふぅ」

 あっくんを残し、全滅したようだ。

 

「『そして、ある日、同郷もしくは同族と社会で再会する』」

「…………おぅ」

「『不思議と親近感を覚える』」

「……っ、おぅっ……!」

 だよなぁ……。臭いメシを食った者どうしだもんなぁ……。よし。

「あっくん……!」

「吾妻……!」

 ガシッ、と熱く肩を組む。

「あっくん、フォーゼのアレやろうぜ」

「おう!」

 ガシピシグッグッ……と、いつの間にか復活していた奴らも感涙せんばかりに光景を見守っていた。

「俺たち……」「……もう、ダチだぜ!!」

 

――――うぉおおおおおおおおお!!!!

 

 謎の感動が広がっていく。

「おっし、ラーメン食いに行くぞ!」

「オレこの辺のラーメン屋詳しいんだぜ!」

 晴れ晴れした表情でラーメン屋へドヤドヤと向かう半グレもとい友人たち。

 

「そうそう、BOOK(ピー)FFで全巻安売りしてるシリーズしか置いてないんだよな!」「一番新しいのがNARUTOだし」「スポーツマンガってあんま人気無くってさぁ」「聖闘士星矢、ダイ大、あとは何故か手塚治虫」「あったあった!」「ゲームは無い。なぜなら……」「「「「管理が面倒だから」」」」「だよなー!」「テレビのチャンネル争いは意外と起きなかったなぁ」「みんな観たいモン決まってたし」「ライダー」「戦隊」「プリキュア」「「「えっ……?」」」「……ゴホン。女子が、見たいって意味だぞ?」「「「…………」」」

 ……ナニ自爆してんだこいつ。

 

「ここ! ここなんだよ! ワンコインでライス大盛りまで付いてくるんだぜ! 餃子も安くて10個も食えるんだ!」

 おぉ……ここは…………そう。カントクたち会社連中の行きつけじゃないか。安い多い美味いの三拍子が揃った男子の味方。でも、実際来るのは久しぶりだなぁ。

「んでよぉ、卓上の漬物がまた美味くて、」

 ガラッ、と引き戸を開け。

「………………」

ピシャッ、と閉じた。どした?

「………………なんかヤベー人いる」

「おいおい、人を見かけで判断するもんじゃないぞ」

 どれどれ、と引き戸を開ける。

 

……………………奈々がいた。

 

 相変わらずケバいを通り越してヤバいファッションだ。もう、店内の照明をギラギラ反射してミラーボールの様相。うむ、確かにヤバい人だな。帰ろう。

「…………待ちなヨぉ、秀人ぉ…………」

 見つかった。コツコツ、と隣の席を指で突く奈々に、渋々、その隣に腰を下ろす。

「うっわ、酒くさ……! さては相当飲んでるだろ……!」

 どうせ隠し事なんて出来ない相手だ。もう思ったこと言ってしまえ。

「ヘッ……奈々ちゃんはとっくに成人、いまアラサーだヨ……呑んでナニが悪い……おぅ、オメーは随分とセイシュンを謳歌してるじゃねーか、我が弟分ヨォ……」

 しかもコイツ、めっちゃ絡み酒!

「…………あ」

 さては、爺さんの曾孫とかいうあのハリーのことだな? あの爺さんに明確な『血縁者』が現れたから、自分の居場所が心配になってるんだろう。

「大当たりだヨこんちくしょう!!」

 ゴンッ、とジョッキを置く。

「オヤジィ、生、……じゃなくて紹興酒……ジョッキに注いで……ヘヘ……カネならあるんや……今日、オトナのお馬さんレースで勝っちゃったからネ……もちろん未来予知を使ったヨ……? クニにとられた税金を還付してもらっただけだヨ……? 悪い?」

 なんてダメな大人なんだ……

あっくんたち一同を手で招く。放っておけば噛み付いては来ないから大丈夫だぞ。ちょっと心の中を覗かれて人に言えない性癖を暴露されるくらいだ。

「…………兄貴、なんスかソイツ……」

「えぇっと…………」

 真性の『魔法使い』……なんだけど。表向きは行商人……じゃない。店を構えて……あっ、潰れたから……今は。

「……同じアパートに住んでいる無職でプーでNEETな自称・家事手伝いのお姉さんだ」

「ダメ人間じゃないっスか……」「あぁアアアアンッ!?」

 うわぁ、出た。酔ってるくせに変なところで敏感な面倒な酔っ払い! ハヤシの顔面をギンギラの爪でアイアンクロー! ハヤシィー!!

「コソコソとスーツに着替えて本屋でエロ本買ってるガキに言われたか無いヨ!! OLパンスト脚フェチってかぁ!? ほほーう、OLがバニースーツでナニする企画ものでヨンキュッパかい! 奮発したネぇ!」「ぎゃああああああああああなぜ知っているぅうううう!!?」

 ハヤシィー!! 安心しろ、そのくらい男なら普通……。普通、だ!!

「止めろ奈々! 男子の秘めたる純情を暴くんじゃない!!」

 奈々を羽交い絞めにして引き剥がす!

「うるさいうるさいー!! どーぜNEETでプーな奈々ちゃんは、本物の孫が訪ねてきたお爺ちゃんに捨てられちゃうんだぁー!」

 カウンターに突っ伏し、オイオイと泣き始めちまった……

「oh…オネエサン、cryしてるネ……」

 ホンジュラスが眉根を寄せ、恐る恐る、その傍に寄る。

「hey、オネエサン…………ホンモノって、ナニ、デスか……?」

「ふえぇ……? そりゃあ、血縁があって……赤ん坊のころから知ってて……」

「ワタシのオジイチャン、サトオヤね。でも、いっぱい、important、なコト、オソワタよ。ワタシ、オジイチャン、ダイスキ……それでも、オジイチャン、ニセモノ?」

「ソッチの事情なんて分からないヨーだ! ばーかばーかうんこー!」

 これがアラサーの語彙である。悲しくなる…………が、うんこと罵られて尚、ホンジュラスは切々と話す。

「ワタシも、オネエサンこと、ワカラナイね。デモ、分かるヨ。オネエサンも、オジイチャンのこと、ダイスキね。……それは、オジイチャンが、あなたのこと、ダイスキだから、ネ。ダイスキに、rankingも、ホノモノも、ニセモノも、nothing、デス、よ」

 ホンジュラス……お前、菩薩の化身か何かなのか……?

「………………」

 いつもは人を食ったような態度ばかりの奈々だが……というかはやてにも言えることだが、必ず心に予防線を張ってからコミュニケーションを始めるようなやつは、こういう、ストレートに言葉を投げてくるやつに弱い。

 黙りこくってしまう奈々。ホンジュラスはあっくんたちを手で招く。

「ミンナで、ラーメン、たべマショウ。オイシイもの、たべる。オナカイパイ。それ、very happyネ。badなコト、なくなるヨ」

 ……菩薩の化身どころか菩薩そのものだった。

 

 奈々がアウシュビッツ脱走者であることを明かすと、周りは奈々を、まるで英雄か何かでも見るかのように態度を一変させた。というか、気付く奴は気付くのだが、奈々は結構な美人さんなのだ。メイクとファッションが諸事情からヤバいだけで。男とは現金なものである。全員、大なり小なり同じ境遇であると知った奈々は、少しだけ心を開いたようだった。

 

 ズルズルと、意外なほど器用に箸でラーメンを啜るホンジュラスが、不思議そうな顔で聞いてきた。

「ah…ヒ、de、ト、サン」

 あー……『た行』の発音って、英語圏の人には鬼門だって言うからな。好きに呼んでいいぞ。

「アニキ=サン。『ウンコ』って、なんデスか?」

 ……………………気づいてなかっただけかよ!

「……英語で言うと、『holy shit』とか『sun of a bitch』とか『mother fucker』とか、……とにかく、言っちゃいけない類の汚いスラングだよ」

「ワタシ、あのオネエサンのheadをcrashさせてくるネ。Watermelonのようにネ。いまダケmeはmonsterネ!」

 菩薩が修羅に変わった瞬間だった。

 

 

 ……大暴れを始めたホンジュラスの鎮圧は、本当に…………ホント~~~~に、大変だった。

 

 あわや出禁を喰らうかという段階だったが…………全員で店内清掃と皿洗いをすることで、どうにか許して頂いた。

 

 

「あーーーーーーーー…………疲れた…………」

「飲んだ飲んだヨー」

 へべれけになった奈々の手を引き、とりあえずアパートへ帰る道すがら。

「お前、後でちゃんとホンジュラスに謝っておけよ」

「わぁかってるヨー……」

 げふー、とアルコールくさいゲップをするデリカシーの欠片も無いアラサー。

「ホンモノー、ニセモノー……ホンモノー、ニセモノー……」

 変な調子で変な歌を歌いながら、へらへらと笑っている。

「あぁ、いいお酒だった」

 すっと真顔に戻る。……そうだよな。酩酊くらい、お前ならコントロールできるよな。

「お礼に教えてあげる、秀人。」

 ぴたっ、と俺の胸元に人差し指を突きつける。

 

「――――――あなたを狙う者がいる。因果でも怨恨でもなく、ただあなたとの戦いを望む者がいる。それはあなたの顔見知りで、よく知っている顔で、……未だ果たされていない約束を、果たそうとしている」

 

 預言か、予言か。敵の来襲には、注意をしておこう。気の弛みが……そう、あの日……闇の書事件の始まりの日のような惨事を招くことも………………。あれ? 何か、忘れているような

「――気を付けなさい。秀人。」

 思考を断ち切られる。

 

「――――女がらみで、あなたは永遠に苦労する運命にあるのよ」

 

 

 ……………………えっ?

 

 

 

 

 

 その数週間後、俺は……その言葉の意味を、身を以て知ることになる。

 

 

 

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