魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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vivid編 13話『男の戦い』

 

―――――ブラとパンツの仁義なき戦い

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

さて、一難去って、いつもの日常である。

 校庭のベンチの一角にて、俺、あっくん、ホンジュラスの三人で掛け、昼食を食べていた。クラスの半グレもとい仲間たちは、向こうでドッヂボールに興じていた。……ドッヂボールをするヤンキー。実に牧歌的な光景である。

「食ったら俺たちも入ろうぜ」

 メニューはというと、奇跡的に全員、まさかの塩むすびだった。……いや、質素すぎると侮ってもらっては困る。

「兄貴、タクアンちょーだい」

「んじゃワサビ漬と交換な」

「oh, アニキサン、meのピクルスもsureデスよ」

 三者三様、漬物を持参である。漬物が入るだけで、おむすびは途端にちょっとワクワクするランチに早変わりをするのだ。ぼりぼりむしゃむしゃ。

「つーか兄貴、なんで『おにぎり』じゃなくて、いつも『おむすび』って言うの?」

「……どっちモrice ballネ?」

ひょい、と持ち上げて見せるホンジュラスのは、まんまボールだよな……何合あんの、それ。ピクルスも丸かじりで、さすがアメリカン。

「あー……昔の知り合いが、変に拘るやつでさ」

 誰かと言うと、オウル隊長なのだが。

「『鬼を斬る(・・・・)とは喧嘩を売っているのか貴様』ってマジギレされるから、なし崩しでな。うっかり言ってマジで殴られたこともあるし」

 死ぬかと思ったよ。

「えー、んじゃ節分も端午の節句もナシ?」

 腐っても名家の出身だけあって、年中行事には明るいあっくん。

「ナシだ、ナシ。そのくせ話に聞いただけの恵方巻きはゴージャスに、と強要するんだ、あの女どもは……」

 あんな環境でそれなりのものを作って見せた俺の主夫力を褒めてほしい。「鬼は外―」って大豆っぽい豆を冗談で投げたら、涙目のオウルに金棒を片手に半日は殺人チェイスされたがな。アレはヤバかった。

「…………女『ども』?」

 ……なに、あっくん。そこ食いついちゃうの?

「兄貴ってさー、何だかんだでモテるよなぁ」

「んなこたぁ、」

 …………………………マジ押し通されて最後まで行っちゃったのが一人(はやて)、好きだと伝えられたのが一人(フェイト)、爛れた関係だったのが一人(カレン)、寸前まで行ったのが一人(オウル)、……カントクに再会するまでの放浪時代に一時的に関係していた人たちが、ひぃ、ふぅ、みぃ……

「…………ナイヨ? ボク、オ嫁サン一筋ダヨ?」

「爆ぜろ」

「HAHAHA、ソレ、ジゴロっていうネ、アニキ」

「誰がジゴロだ、誰が!?」

 最近は女性問題で頭を悩ませているっていうのに…………あっ、自業自得だった。

「くっ、何も言い返せない……! こうなったら……!」

 食事を終え、貸し出し用ボール籠から、一回り大きいブツを取り出す。

「あれ、バスケ?」

 きょとん、と無垢な顔で聞くが……ククク。甘いわ。

 

「さぁ……ドッヂボールを始めようじゃないか……!!」

 

「さ、殺人ドッヂ(・・・・・)、だと……!?」

「oh,知っているのデスか、あっくんサン」

 殺人ドッヂ。実に簡単なものだ。特殊ルールは何も無し。ただ……ボールがバスケットボールになる、というだけだ。そう、それだけなのだ。

「やめろ兄貴! それは、それだけは……! 職員会議モノだぞ!」

「これを、俺や、ホンジュラスが、他人に向けて投げる――マジで。……その意味が、分かるな?」

 青ざめるあっくん。不穏な空気を察して固まるクラスメイトたち。

「ぐへへへへ、おーいみんなー、ドッヂボールいーれーてー!!」

「「「「「「ぎゃあああああああああああああああ!!!」」」」」」

 蜘蛛の子を散らすように逃げだす。が。

 

――――ばちーん!

 

「イヤー!!」「グワー!!」「か、壁! 見えない壁が!」

 簡単な結界で逃げ場を塞ぐ。素晴らしき力の無駄遣いである。

「……知らなかったのか?」

 男の子が、一度は言ってみたいランキングで上位入賞のあの台詞。

 

「――大魔王からは逃げられない」

 

 

 ………………いやぁ、いい汗をかいた。

「ぐぉぉ……! 8対1でなぜ負ける……!!」

「最後の方はボール三つで狙っていたのにぃ……!」

 ヤンキーなぞに後れを取る俺ではないわフハハハハ! と、ひとしきり悪党ムーヴを楽しみ、結界を解除しようとした。この結界は、ルールの中で俺を倒すか、もしくは俺が解除しなければ出られない。

 

「よっ、秀人」

 

 背後からの、聞き覚えがある声。

「あ、」

 この声は、と、記憶と現実がリンクし、人物名が出る。振りかえる。瞬間。

 

 

 

「お前を殺す」

 

 切っ先。長剣。片刃。紫紺の炎。「シグ、」

 

 

――――――ガギィイイインッ!!!

 

 

「な、ム……!!」

 両手の甲に発生させたシールドで、魔剣を挟み止める!

「……仕留めそこなったか」

 悪びれるでもなく、あっけらかんとした様子で佇むのは、……見間違いでも、偽物でもない。

「っ、……どういうつもりだ!! シグナムッ!!」

 剣を振り払う。シグナムは、拳の間合いの外まで跳ぶ。

ひさびさに顔を見せたと思ったら、いきなり『殺す』ときた。理由の一つでも聞かねば意味が分からない。

「……どうということはない。思えば、お前とは、決闘で雌雄を決したことが一度も無かったからな。……約束もある」

約束ぅ……? ……………………あっ。

 

 

――――『今度また、サシでやろうぜ』

 

 

「あーーーーーーー!!!!!」

言ってるわーーー!! 俺、めちゃ言ってるわー!! 奈々の言ってた『約束』って、このことだわー!!

「あ、兄貴……!?」

 あっくん達が、茫然としている。あ、居るの忘れてた。

「まぁ、アレだ。とりあえず下がっとけ。巻き込まれるから」

 あの事変の直後、ある程度の非日常への耐性は付いていたのだろう。まるでおまわりから逃げる町のヤンキーのように、ソソクサと脱出していく。……のだが。

「兄貴―! 壁―!! 出られないー!!」

 あ、忘れてた。すぐ解除「をぉおおおおっとぉ!?」

 

――――ジャギィッ!!

 

 あっぶね……!!! 首が飛ぶところだった……!!

「おい、あいつら民間人だぞ!!」

「それが?」

「それが、って、お前……」

「結界を解除するための隙が産まれるのなら、居てもらう方が都合が良いではないか」

 ……………………。こいつ。本気だ。今の一閃。避けていなければ、本当に首を落とされていた。背後からの不意打ち。「最低限、声は掛けた」とかいう言い訳だけをしての顔面狙い。日常への侵攻。本気で、俺を()りに来ている。

 

「なぁ、シグナム……」

 身体をリラックスさせる。会話をしよう、というポーズだ。

「俺はもう、戦いから離れてから長い」

「あぁ。分かっている」

「アイも、レイジングハートも、ヴィヴィオのお目付け役のために今は遠く、新世界にいる」

「あぁ、知っている」

「結界は俺の魔力で維持されている上、中には複数の民間人。解除プロセスを行うだけの時間は、」「当然、与えるつもりは無い」「だよなぁ」

 その上、コイツの格好と来たら。

「……その甲冑、新造だろ? それも、マリエルあたりの謹製」

「そうだ。研究に協力をした報酬に、拵えさせた」

魔剣も当然、同様にアップデート済み。なにせ、あのマリエルのことだ。手抜きなしに、いま持てる全ての先鋭技術をつぎ込んだんだろう。俺には未知のシステムが組み込まれていても不思議ではない。

 

 つまり俺は、ろくすっぽ準備も無しに、ハンデまで背負って、オーバーSランクの、完全武装のベルカ騎士を相手にしなければならない訳だ。

「……なぁ、シグナム。思い直したらどうだ?」

 そう。こんな。

 

 相手が完全武装でこちらは丸腰。

 

 多くの民間人を庇いながら、生命に考慮しながらの戦闘。

 

 こちらを徹底的に研究し尽くしてきた凄腕の猛者を相手に。

 

「なぁ、シグナム。」

 こんなのは、不公平が過ぎる。そう…………

 

 

 

「――『ハンデがそれだけなんてズルい』って、敗けて泣くのはお前なんだぞ?」

 

 

 

 ハンデが無さすぎる(・・・・・・・・・)ではないか。

「秀人ォオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーッ!!!」

「何か用かイケメン騎士さまがぁあああああああーーーーーッ!!!」

 ご挨拶とばかりの、大上段!! 安全靴の鋼材を強化し、蹴りを合わせる!

 

――――ガッキィイイイイイイインッ!!!

 

 か、硬ってぇええええええ!! そして、重い!!

「ぐ、ぬ、……おらぁああああああっ!!」

 インパクトを放つ。しかし……

 

「そう来るのは、分かっていた!!」

 

 バシュウッ……と、衝撃波が、シグナムの甲冑を、『素通り』していく!! 徹底的な対『俺』装備か!! ……ってことは、俺、体術縛りで戦わなきゃならんのか、コイツと! 上等じゃねぇか!!

「とりあえず、その甲冑をオフセット衝突試験してやらぁ!!」

 足元に転がってきたバスケットボールを、魔力で強化し蹴り飛ばす!!

 

 避ける、受ける、斬る、……斬った。

 

――――ボゴォオオンッ!!

 

 炸裂弾。インパクトの応用だ。衝撃波ではなく、副時差用の爆音で敵を昏倒させる。相当な至近距離で受けた。立ち込める土煙。

 

 ざりっ。

 

 ……健在か。だよなぁ。

「お前を……倒す」

 歩み出てきたシグナムは……目元以外が完全に隠れる兜までを装着した、フルアーマー状態となっていた。衝撃やら爆音やらに反応して、不要な部分を遮断してくれるとかいう機能だろう。果たして、魔法そのものに反応しているのか、俺の魔力に反応しているのか、もしくは、その両方か。ただ、現時点で言えることは。

「こちらの魔法はだいたい効かず、そちらは使い放題ってことぐらいだな……」

 

――ジャキィンッ……

 

 弓に矢を番える。背後のあいつらに考慮しなきゃならないから、自然と移動先は限られる。そして、それを見逃すような節穴の目ではないだろう。手は一つ。鏃に触れず、矢を掴み取る。いち、に、の、……!

 

――――ギュバァアアアアアッ!!!

 

 って、こっち待たずに撃ちやがったぁあああああああ!!!

「見境ナシかテメェはぁあああああああっ!!!!?」

 あぁクソッ、嫌でも前に出なきゃ背後のあっくん達が余波で死ぬ!!

 

――――――バチィイイイインッッ!!

 

 ど、どうにかキャッチ成功! ほとんど音速だったじゃねぇか!! 矢は暴れ鳥のように、俺の手の中で推進し続ける!

「返す、ぜっ!!」

 勢いのまま、投げ返す!!

「ぬぅウウウウウウんっ!!!」

 

――――ドォオオンッ!!

 

 弓で、矢を叩き落したか。

「オラッ、お望みのクロスレンジだぜぇっ!!」

 だったらこちらも、弓を剣に戻す猶予なんて与えない! 拳を振り上げ……!!

 

――――ジャキィッ……!!

 

 ……………鎧の装甲が一部を展開.猛烈に嫌な予感。そして……

 

――――ズパァンッ!!!

 

 ニードルが、炸裂音とともに発射される。射線上には、俺の眼球!!!

 あ、っぶ、「ねぇだろォがよおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

――――ガチィイイインッ!!!

 

 デコで受ける! そのまま胴体に膝蹴りをブチこむっ!!

 

――――ガシィイイイイイッ……!!

 

 ……! 今度は,腹部の装甲が開いた。ギザギザに開いた装甲は、まさに牙で、

「いぃいいってぇええええええ!!!!」

 魔力防御を突き抜け、俺の足へ牙を突き立てた!!

「ンの、やろぉおおおおおおおっ!!」

 舐めんじゃねぇ!

「うぉっ……!? こ、こいつ、この足でっ!!」

 ハイパーアーマー持ちはなぁ、打撃には強くても、投げ技が効くんだよ!! 牙ごと、足でカニ鋏みにしてブン投げる!!

 

――――ダァアアンッ!!!

 

 寸前に受け身を取りやがったか。しかも、投げられている最中から、弓を引き絞っていやがった!!

 

――――ジュウッ!!

 

 頬を矢が焼く。だが、

「ハズレだなぁ!!」

 校庭と打撃でサンドイッチにしてくれる!!

 

――――ずしゃぁああああっ!!

 

 くそっ、避けやがったか! 苦し紛れのように、矢を二本、俺の体の両脇を通るように……って、ヤバい!!

「ワイヤーかっ!!」

 矢と矢の間をワイヤーで橋渡しにしている! 屈む、跳ぶ、飛ぶ…………、

「――――詰めるッ!!」

 

――――ビシィイイッ!!!

 

 ワイヤーの中央を、魔力で覆った腕で受ける!! 慣性のまま、矢は、くるりと方向を変え……このまま、さっきみたいに持ち主のもとに投げ返してやる!!

 

――――……ィィイイイイイイインッ!!!

 

 ……マズいッ! さっきの矢!! 直上へ射ったのは、上空で百八十度回転し、俺の頭上へ落とすためか!! そうこうしているうちに、シグナムは弓に矢を番えている! そうか……こうして、俺を矢の包囲陣で囲うために……!!

「しゃらくさいわァッ!!」

 

――――ドパァアアアアンッ!!!

 

 インパクトで地面を掘り返し、背後からの矢避けに! 脳天目掛けた一矢を、またまたデコで受けて、反らして……直上の矢と衝突させる!

「くっ……!! 滅茶苦茶なクセになんと器用な……!!」

 抜刀した魔剣で、胴薙ぎ! 剣の弱点、横っ腹を、膝と肘で挟み潰す!!

 

――――ボギンッ!!!

 

 よし、折った! くるくると舞う折れた刀身を、空中キャッチし……!

「返すっ!!」

たぶん、鎧のコアであろう部分に当てずっぽうで突き刺す! 当然ハズレだが、今度は弾かれることなく、刀身が鎧に突き刺さった。

「頭も、働くっ……!!」

 どうした。せいぜい肉を抉った程度だろう。これからだ。まだようやく、体が温まってきた程度のはずだ。

 

――――ドズゥッ……!!

 

「ぐ、……!! 打撃が、通っただと……!!」

 浸透頸。打撃のインパクトを一瞬ではなく、長い波長で送り込むことで、内部までダメージを行き渡らせる……『遅い打撃』の奥義だ。

「なにが、ブランクだ! 現役のままではないかっ!!」

脳内妄想(イメージトレーニング)は、男の子の嗜みだろう?」

「お前のような男の子がいるか!!」

「そして、培った想像力は…………こういうことが出来るようになる!」

 

――インパクトウォール。

 

 だが、俺由来の魔法、副次作用までを無効化する、AMF上位版。だが……空間振動(・・・・)までは、想定していまい。良かったよ。結界を解く間もなく攻めていてくれて。おかげで、この攻撃による影響が、少なくて済む。

「――インパクトウォール、プラス…………ディメンジョンクエイカー!」

 ぐにゃりと、シグナムの周囲の空間が、歪む。歪んで、撓んで……戻る(・・)

 

――――――グシャッ…………

 

 紙を丸め潰すような音とともに、シグナムの身体が捻じれる。

「ぐがぁあああっ…………!!!」

 あの鎧に感謝だ。マリーの作る逸品だ。神の攻撃の一発や二発で、機能を失うほどヤワでもないだろう。おかげで、シグナムを殺さずに済んだ。

「ま…………負けぬっ!! 負けられんのだ、オレはッ!!」

 どう見ても折れている手足を、精神力で立たせる。確かに、負けられない戦いというものは存在する。しかし、いまこの時間が、ソレだとは到底思えない。

「何を使ってでも……どんな手を使ってでも、俺は、お前に勝たなければならんのだッ!!」

 鎧の胸部が展開する。そこに収められていたのは………………

「あっ、それ、俺の……!!」

 文字通りの黒歴史。ナンバーズたちに供与していた、黒炎のランタン!

 

――――ボォウッ……!!

 

 黒い炎が全身を包み……あとは、見覚えのある現象だ。折れていたはずの手足、身体の損傷が回復……否、復元していく。

「これで……当面は、お前とイーブンだ、秀人!」

 変なギミックは全部オマケで、本当の目的は、黒炎の運用ということか。

「なぁ……いい加減、理由を聞かせろよ」

「言えん」

 そうか。

「なぁ、シグナム。イーブン、と言ったな」

「…………」

 確かに、そうかもしれない。もともと、技能面では俺とシグナムは互角に近かった。俺をシグナムの一歩先たらしめていたものは、頑強な肉体と、蒼炎の再生力。肉体性能を鎧で補い、蒼炎の亜種である黒炎を運用した今、シグナムの戦闘能力は、俺に匹敵しているのかもしれない。

 

「――――いつの俺と、イーブンのつもりだ?」

 

「………………!?」

 まぁ、確かに互角かもしれないな……当時の俺(・・・・)と。

 

――――ゴウッ……!!

 

 蒼炎を体の表面に纏わせる。とりあえず、現在の最大量まで。

「お前の知っている俺は、『これ』だろう?」

「………………」

ここへ、アイが加わることで、俺のスタイルが完成する。……今はいないから、まぁ完成度50%といったところか。

「それじゃあ、始めるか」

「……。手加減のつもりか」

「あぁ、手加減だ。……本気を、出させてみろよ」

 

 黒炎を纏った斬撃と、蒼炎を纏った拳が激突する!

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

その頃なのはは、昼休みを教室で過ごしていた。契約のもと、ハリーと相席し、大宮、中野、小山、更にはエルスも加わるという、なかなかのグループである。

 

 ……のだが。

 

「……………………………………」

 

 我らがヒロインは、新刊本に夢中だった。なのはが本を読んでいるとき、それは二通りに分けられる。

 

一つは対人防御のため。

 

一つは、単純に物語に夢中になっているとき。

 

 前者であれば、ハリーが無理やり本を引っぺがしてやるのだが……今回は後者のようだ。

半年ぶりのシリーズ最新刊。読まずにはいられない。朝っぱらから挨拶もそこそこに、授業の中休みなど、隙あらば読書をしているのである。

個人の楽しみまでを邪魔するつもりは無い一同は、控えめな声で会話をしているに留めていた。

 

 良くも悪くも……というか、悪くも悪くも他人の注目を集めてしまうなのはは、『うわアイツ本読みながら笑ってるキッッッモ(笑)まじキッッッモ(笑)』と言われないよう、経験から身に着けたポーカーフェイスで、一定のペースでページを捲っている。

開けた窓からは心地の良い風が吹き込み、一房に束ねた髪を揺らす。

まるで一枚の絵画のように、静謐な光景だった。……そう、なのはは、黙ってさえいれば、口を開かなければ、残念な一面がバレなければ、かなり美人なのである。

 

ブックカバーで隠したタイトルが『どっこい原始人』というタイトルでさえ無ければ、尚良かったのだが…………

 

(ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの両族の殲滅戦争は止めることができず、互いの最強の戦士たちの苦肉の策で、二人による決闘に委ねられたのか前巻ラスト。あれだけのヒキ展開から、まさかの冒頭3ページでの痛み分け。壁を挟んでの互いへの不干渉条約の締結という形で終わるのはあまりにも予想外だったわ。そして、壁をお構いなしに破壊する侵略者・ギガントピテクス族の登場で、一気に混迷の様相に。強大な敵が出現したことで、皮肉にも壁を越え、結束せざるを得なくなる両族。今度こそ並び立つ両族の最強戦士。これは熱い展開ね。そして全く先が読めない展開だわ。半年も待ったけど、待った甲斐があったわ)

 

 意外と王道な作風が好みのようだった。

 さて、昼休みは残り20分ほど。じっくりと読み進めようとしていた。過去形である。

 

「なのはーーー!!」

 

…………空いた窓の上……おそらく屋上から、綺麗な金色の髪の毛と、さかさまの顔がニョキッと生えてきた。フェイトだった。

「ギャアアアアろくろ首!!」「飛頭盤!!」「デュラハン!!」

 ファンタジーに明るいクラスメイトたちだった。

「…………」

 なのはは、胡乱なものを見る目で、さかさまの金髪頭を見やる。

「あのね、あのね! ヤバいことになりつつあるんだけど、ボクも無関係じゃないというかモロ当事者というかね、なんというか、まじめにやばいことになるんだよ、これ! でも、ボクじゃどーにもならないっていうか、どーにかしようとするととっても大変というか、急いで伝えようとはしってきたんだけど、警備員に止められるし、逃げたらリアルGTAになるし、こんなトコからアレなんだけど、ヤバいことになりそうっていうか、ああぁ、もう、もう……!!」「フェイトうるさい」

 

 なのはは、無言で消しゴムを指先で弾き飛ばした。

「あっぶね! …………あっ」

 あっぶね、の箇所で背筋力を生かし消しゴムを回避し、あっ、の箇所で、支えにしていたつま先が屋根の縁から外れた。結果。

「あーーーーーーれぇーーーーーーーーー!!!」

 …………フェイトは、きれいに一直線に落ちた。空中でチェーンバインドでキャッチし一本釣り。窓枠にお尻から着地させる。

「どわぁっ! お、オシリうった……!!」

「………………ふぅー。」

 ……なのはは、本に栞を挟み、『うーわ、コイツこんなキモい表紙の本読んでるんだけどー(笑)』という攻撃を受けないため、習慣的にポケットに仕舞った。

「……コレは?」

 諦め気味のハリーが聞く。

「よく話しているでしょう。うちのフェイトよ。ほら、挨拶したら行くわよ」

「あ、こんちわー……あー引っ張らないでぇー」

 騒ぎにならないよう、手を引いて教室を出ていく。

 

――『例のあの人』が昼休みに訪ねてきた金髪の女子と出て行った

 

――『例のあの人』が昼休みに窓から飛び込んできた他校の金髪の女を連れ出した

 

――『例のあの人』が昼休みに襲い掛かってきた他校の金髪を連行していった

 

――『例のあの人』が他校のスケ番をシメに行った

 

 恐ろしきかな伝言ゲーム。憶測が憶測を呼び、尾ひれ背びれロケットエンジンが装着され、彼方へと噂が飛躍していく……

 

「ンなワケねーだろ!! アレはなのはの妹分だ!!」

 

 ハリーが一喝。これも契約のうちである。そう。誤解とは、第三者が『それは違う』と早期に誤情報を否定することで、拡散は抑えられるものである。

 

――『例のあの人』がまた(・・)美少女をたらしこんでいる

 

 ………………まぁ別の形で拡散するのだが。

 

 

「なに、ここ……」

「私の校内隠れ家よ」

 廊下の吹き溜まり、教師でさえ思わず見逃してしまうような死角スポットでフェイトを問い正す。なぜこんな場所を知っているのかというと、復学直後から構内を徘徊し発見した、人呼んで『ぼっちスポット』のうち一つである。あとはボイラー室とか、校舎裏の体育倉庫とか、エレベーター点検室とか、プールサイドの小屋とか…………

 

 ぼっちは校内を徘徊する生物なのである。

 

「で、何よ、ヤバいことって。仕事はどうしたの? まさかサボりじゃないでしょうね?」

「ちがうってばぁ!!」

 未だにフェイトの保護者気分が抜けきらない。

 

「シグナムが、……ひでとをぶっころすって……なんかスゴい武器もって出て行っちゃったんだ」

 

「………………あー」

 ……しかし、意外なほどになのはは驚かない。むしろ、『ついにこの日が来たか』とでも言いそうな雰囲気である。

 同時。校庭に何故か展開されていた秀人の結界が、異様な熱を帯び始める。

「あーやばいよー、やばいよー……!!」

「ついでに、慈樹の様子でも見に行こうかしらね。フェイトもたまには末っ子に会っていきなさい」

 別棟の最上階が託児所で、校庭も見渡せる。のほほん、とした調子で、なのははフェイトの手を引いて歩きだすのだった。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「……はぁ、はぁ……!!」

 シグナムは、肩で息をすることを隠さなくなっていた。戦闘による消耗だけ、ではない。シグナムは、不眠不休で三日三晩どころか、七日七晩を継戦できる戦士だ。それが、ほんの一刻にも満たない打ち合いで、既に疲弊している。考えられる要因は……当然だが、あの鎧と、黒炎だ。

「……久々だよ、こんなにも力を出し続けたのは」

 対する秀人は、余裕こそ消えつつあったが、まだまだ、余力を残している状態。本人たちにとっては、秀人は結界の維持と、民間人を守り続けながら戦うという二重のハンデを背負っておいて、こうである。

 

 ……シグナムは、決して弱くはない。

 

 むしろ、多少は弱体化しているとはいえ、神と化した秀人を相手に、一対一の決闘で、ここまで保っていることのほうが、驚異的かつ、異常なのである。

「……退かぬ。決してな」

「……そうか」

 秀人は、嘆息する。油断はしていない。まだ、何らかの奥の手を隠している可能性が高い。長引かせることは、不都合に繋がるかもしれない。故に。

 

――――ゴォオオオオオオオオッ……………………!!

 

 凄まじい火炎が、渦を巻き、秀人の手の中に収束し……一つの存在を、形取る。

 

――――――ギュアァアアアッ!!!

 

 蒼炎の不死鳥。秀人の分身にして、秀人の本質に近いチカラ。

「では、幕引きだ」

 万物を焼却し、滅する力。神の権能。

「お前風に、言うのならばっ……!!」

 だが。

「――――『この時を、待っていた』、だッ!!」

 

――――グワァああああああッ!!

 

 鎧が展開する。先ほどまで、あれほど繋ぐことに心血を注いでいた黒炎をあっさりと放棄する。そして……

 

――――バぐンッ!!!

 

 胸部の『牙』が、蒼炎を……!

「…………吸収した」

 秀人が、唖然と呟く。

「あぁ、そうだ、これが、狙いだ……!!」

 

――かつて。

 

 秀人とはやてが、本気の勝負をしたとき。はやてのスレイプニルが、秀人の蒼炎を取り込むという予想外の事態が、発生したことがある。それはあくまで、『吸収された』というだけであり、その場での活用は出来なかったのだが……

「徹底的な当時の状況の再現、検証、研究……! その結果が……!!」

 

――――ゴォオオオオオッ!!

 

 ……シグナムが、蒼炎を吹き上がらせる!!

「コイツだぁああああああっ!!!!」

「――――――……!!」

 秀人が……ここに来て初めて、防御の構えを取る。剣閃と、秀人の防御が衝突する。

 

――――ドゴォオオオンッ!!!

 

「…………!!」

 秀人の蒼炎。特に、不死鳥召喚の一撃には、大きなデメリットが存在している。蒼炎の源である不死鳥は……言い換えれば、秀人のリンカーコアそのものだ。さすがに、すべてを一撃に込めた訳ではないが……シグナムに十分なトドメを刺せるだけの出力は与えている。つまり、秀人の最大出力のうち、何割かが、シグナムに奪われたという形になる。

 

「――我が主でさえ叶わなかった、吾妻秀人の蒐集! いま達成せり!!」

 

 秀人は……唖然とした表情を、すぅっ……と、消す。

「今度こそ、ごか」

 

――――――。

 

「……く、」

 ……鈍い衝撃が、遅れてやって来る。痛みは、さらに遅れて。発生個所の把握は………………すべての後に。秀人の貫手が、シグナムのどてっ腹を、貫通していた。

「、お、ご、ォ、おおおおおおオオオオオオっ!!!」

 それても、秀人はシグナムの間合いにある。魔剣を横一閃。しかし。

 

――――パキィイイインッ…………

 

 折れる。返す手刀が、

 

――――ガリィイイッ……!!!

 

 鎧の肩口を、断った。

「ぐ、ぅ……!!」

 シグナム、、飛び退る。

(はぁ、はぁッ…………! 何だ、今のは……!?)

 蒼炎の恩恵により、傷はおろか、断たれた装甲までも接合される。だが……見えなかった。

 

「――――シグナム」

 

 冷徹な無表情のまま、秀人が呼ぶ。

「おかげで、平和ボケの目が覚めたよ」

 その体。その身に纏うのは、燃え盛る蒼炎…………ではない(・・・・)

 

――――リィインッ…………。

 

 揺らめくことのない……言い表すならば、ガラスの被膜。それが、秀人の身体を甲冑のように覆っているのだ。色は、空色。秀人の魔力光。その表面に触れた塵が、一瞬で燃え尽きる。その、正体は。

 

固体の蒼炎(・・・・・)、だと……!?」

 

炎にして、固体。存在からして矛盾している。だが……それは確かに、そこに在る。

「……そうだったな。お前は、何が何でも、俺の命を取ろうとしているんだったな。……だとしたら、こちらばかり、日常の延長のような気構えで対応するのは、不誠実というものだ」

 

―――――ガシャァアアアアンッ!!

 

 秀人の背に、固体蒼炎の翼が開く!!

 

「――殺す気で殴る(・・・・・・)。覚悟は良いな」

 

 ごくりと、シグナムの喉が鳴る。

(……落ち着け。呑まれるな。ヤツのリンカーコアの四割はオレの手元にある。出力だけならば、互角に近い。初撃で速度は覚えた。だから、あとは……)

「――あとは、思う存分、研究成果を試すが良い。その全てを潰してやろう」

「……!!」

 シグナムは、剣を強く握る。対策に対策を重ねても、尚も感じる実力差。しかし、退くわけにはいかないのだ。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「おぅおぅ、やっておるのう」

 

 ……作務衣姿の老人が、校舎屋上の縁に腰掛け、若人の戦いを眺めていた。

 

 剣士と拳闘士。ともに蒼い燐光を散らしながら、一進一退の攻防を繰り広げていた。

 

「男の意地を掛けた戦いというものは、良いものじゃて。…………のう、奈々?」

 くるりと振り返ると……そこで初めて、世界に認識されたように、化粧もしていない女性が現れる。

「………………おじいちゃんには、叶わないなぁ」

 平時のエキセントリックな、処世術のためのオモテヅラではない。卑屈と取られんばかりに内気で人見知りな、素顔の奈々だ。

「老眼の所為かのう。ボヤけてよく見えん。……どうにかして貰えるか?」

「………………うん」

 奈々は、大家に恐る恐るといった調子で近づくと、ぽん、と肩に手を置く。途端、鮮明になる世界。

「ほっほ。よーく見えるわい。曇りガラスの向こうまで、しっかりと」

「ん」

 と、奈々が懐からゴロリと……とても自然な動作で、不自然な質量のものを取り出す。一升瓶と、酒枡である。

「おぉ、気が利く良い子じゃ」

 ぐりぐり、と奈々の頭を撫でる。奈々は無言で、大家の隣にちょこんと座る。

「……結界は気づかれない程度に補強してあるよ。万が一割れても、別の位相にエネルギーを逃がすから、この世界に影響は出ない。あのバカヤンキーたちも、呑気に観戦させておいて大丈夫だよ」

「いやいや、いつもすまんのう」

「それは言わない約束…………いや、普通はこんなサービスしないからね。しっかりお金を取るよ。秀人から」

 世界は大丈夫でも吾妻家のお財布がピンチだった。

「でもさぁ」

 ちびちびと日本酒を飲みながら、奈々がごちる。

「あのイケメンが本気になってる理由ってさぁ…………なんていうか……」

「愚かしい……と言うか?」

 無言の頷きで返す奈々に、大家が笑う。

「まぁ、男というものは、今昔、変わらぬものよ。男が身命を賭して戦うとき。それは、究極的には、名誉でも金銭でも仇討ちでもない。

 

 

――――惚れた女子(おなご)のためと、相場が決まっておる」

 

 

 奈々は、理解はできたけれど意味が分からない、と、首を横に振った。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「あ、やっと見られる」

 別棟の窓が開き、慈樹を胸に抱いたなのはが、フェイトとともにひょこっと顔を覗かせる。

「やってるやってる。ほら、いつき。お父さん見える?」

「ぁーい!!」

「んー、なにか話しながら戦っているみたい」

「遠くてあんまりきこえないけど……」

「ちょっと待ってて。それとなくバレないように集音してみるから」

 フェイトが嘆息する。

 

「……ま、どうせくだらないことだろうけど」

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

――ゴズンッ……!!

 

 シグナムの剣、秀人の拳が、もはや何合目になろうかという打ち合いをする。

(ここまでっ……! ここまでやって、まだ届かぬか……!!)

 十全の策を講じての、丸腰相手への不意打ち。戦争ならいざ知らず、決闘としては最低なまでの行いをして、奇跡的な確率を手繰り寄せ、蒼炎の力を一時的とはいえ手に入れた。固形蒼炎という、意味不明な手を繰り出してくるという誤算はあったとはいえ、戦技ではほぼ互角なのだ。

 

 さて一方、秀人はというと。

(やっべ、マジやっべ……!! コイツ本気じゃねーか!! ちょっと脅せば引き下がるか譲歩するかと思ったのに!!)

 余裕しゃくしゃくに見えて、実は結構、テンパっていた。

(「フッ……」とか余裕ぶって笑ってる場合じゃねーっつーの!! どーすんだ出力半分近く奪われて!!)

 セルフツッコミで状況を確認していく。

(丸腰で襲われるとか、そりゃあ、それなりに想定はしてたけどさ! ここまでガチで狙われるなんて思うわけねーだろ!!)

 

――――ゴギィッ……!!

 

 魔剣の刃を殴り潰す。しかし、それも蒼炎で即座に復旧する。無論、自身の能力の限度は知っている。蒼炎の再生力も、結局は術者のスタミナに依存するということを。シグナムのように、武装の再生にまでエネルギーを回していれば、徒手空拳の秀人よりも早くガス欠するということも。

 

「――シグナム。そろそろ教えろよ。なぜ、今だったんだ?」

 

 機会は数々あるとはいえ、シグナムが尊ぶ正々堂々の決闘というのであれば、それこそ、六課など立会いの下、どこか演習場を借り切って行えば、何の不自由も生まれなかったはず。わざわざ、この状況で襲撃という形で行うなど、シグナムがなぜ、そう望んだのかが不明のままだ。

「…………秀人。正直に言うと、だな」

 鍔迫り合いの間合い。

「――――お前との約束、決着など、ただの口実でしかないッ!!」

 口実。

 

「――――――フェイトだ」

 

 ぼそりと、場に居ない人名を唐突に持ち出され、秀人はぽかん、と放心する。

「フェイトが、どう関係あるって?」

「――そういうところだッ!!」

「理不尽かよ!」

 ギリギリギリ……と、鍔迫り合いを押し込まれていく。

 

「オレは、フェイトに惚れているッ!!」

 

「!?」

「あの事変……否! 初めて剣を交えたその日から! オレはフェイトに惚れていたっ!!」

「え、えぇ……!?」

「だがっ!! フェイトの心には、既にお前が居たんだ!! 秀人ッ!!」

 …………鈍い秀人にも、ようやく全容が掴めてきた。

「…………つ、つまり、アレか。お前は……ンな理由で、俺を……」

「そんな理由……ふん、そんな理由さ」

 シグナムが、卑屈とも取れる力ない笑いを漏らす。

「……お前にはわかるまい。何気なく共に過ごす時間も……食事を摂るときも、現場へ向かう車中の空間も、向かい合って話をする時間も、オレではない誰かをッ!!

 

――――想い人の視線の先に、自分以外の誰かが居るという屈辱がッ!!!」

 

 

 ガギンッ! と、魔剣が秀人の腕を抉る。

 

「――――お前を倒して! お前を排除して!! 

 

――――――フェイトを、オレに振り向かせてみせるッ!!」

 

 高らかに宣誓したのは……あまりにも俗っぽい決意だった。

「騎士の誇りはどこ行った!?」

「フェイトの愛に比べたら些細なものだ!!」

「言い切りやがったぞコイツ!!」

 あまりにも下心満載な決意と気迫に戦慄する秀人。

「勝算も、あるッ!!」

「勝算ん……?」

 再び間合いを取る。今更、ここまでやっておいて、更に隠し玉などは無いだろうが。

「オレは、飢えている……!! フェイトがもう、愛おしくて愛おしくて、しかし手に入らない! そんな状況に年単位で置かれていた、オレの飢餓感だっ!!」

「どうしようこの騎士さま……どうにかしないと……」

 クールで飄々としている強者……というイメージが、ガラガラと崩れていく。

「半面お前は、世界を救うは最愛の人と結ばれるわ子にも恵まれるわ、順風満帆ではないかクソがっ!! 死ねッ!! 炸裂しろッ!!」「そうだそうだ!」「兄貴ばっかりモテすぎなんだよー!」「やっちまえイケメン!」「でもイケメンも死ね!!」

「おい今しれっと混ざったの誰だ!? アサクラか!? タケイか!? 覚えておけよ!!」

 なんと観客からのヤジが飛ぶ。

「言いたい放題言ってくれやがって!!」「げふぅっ……!!」

 密着状態からの膝蹴りを叩き込む。

「お前、局の若い子から言い寄られて片っ端から遊んでるって話じゃねーか!! なぁにがフェイトの愛だ、このヤリ〇ン騎士!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」

一瞬のうちに支持を取り戻す秀人。というかヤンキーズの民度が低すぎてヤバい。

 

「お前のような男にウチのフェイトをやれるか!」

「ヤリっ……!? 貴様、なんという物言いをぉおおおお!! というか、ウチのとはなんだ、ウチの、とは! 既にオレとともに立ち上げた事務所で立派に業務をこなしているわ! つまりフェイトはウチの子だ!」

「違いますぅー!! フェイトにとってのウチは吾妻家ですゥー!!」

 

 ……あぁ、なんと低俗な理由で、高度な戦闘を行っているのだろう、この二人は……

 

「あー可愛かったなー! 初めて会ったときは荒んでツンケンしてたのが、戦いを通じて気持ちを通わせていくフェイト、ちょー可愛かったなーー!」

「ぐわぁあああああああ妬ましい話を今すぐやめろォオオ!!!」

 秀人の精神攻撃がシグナムの嫉妬心にクリティカルヒットする。

「ク、ククク……! そういう手で来るとはなぁ……!! だが、お前は知るまい……!!」

 シグナムが、壮絶な笑みを浮かべる。

 

「フェイトの、二次性徴の歩みをっ……!!」

 

 なんか最高に最低なことを言い出した!!

「おい秀人!! フェイトが初めて買ったブラジャーの柄を知っているか!? オレは知っているぞ!!」

「何ィ!? フェイトのブラジャーだと!?」

「ハハハハハ知りたいか! 知りたいだろうなぁ! だが教えんっ!!」

「貴様ぁー!!」

「ククク、一年刻みのカップサイズもトップとアンダーの成長も把握している……!!」

 高度な変態だった。

「お前が消えた後、執務官試験のため、日夜勉学に訓練に励むフェイトに、イソフラボン満載の食事を用意し続けること幾年月! そう! 

 

――フ ェ イ ト の お っ ぱ い は オ レ が 育 て た ! 」

 

「くぅっ……!」

 秀人が、シグナムのシモから来る気迫に、思わず退いた。

「……こうなったら仕方が無い……」

 あ。嫌な予感しかしないやつだ。

 

「俺は、

 

フ ェ イ ト の パ ン ツ を 洗 濯 し た こ と が あ る !」

 

「な」

 シグナムの顔が、驚愕に歪む。

「ん、だとぉッ……!? トランスフォーマーや変身ベルトを散らかし放題の部屋のくせに、衣類というか下着関係だけは隙無く片付けているフェイトの、パンツだとぉッ!?」

 嗚呼、ブラとパンツの仁義なき戦いよ……

( ( コイツ……やはり、できるっ……!! ) )

 何がだ。

(……って、そうこうしているうちに蒼炎がカラっけつ寸前ではないか! あちらは……)

「なんだ、長話はジリ貧でも狙っていたのか?」

 秀人の固体蒼炎は……健在どころか、さほど衰えた気配も見えない。というのも、この固体蒼炎は、何よりも持続力に重点を置いた形態である。ただ燃やすだけでは魔力を垂れ流してしまう蒼炎を、空間に固定することで劇的に負担を軽減し、破壊されたとしても欠片を集めて結合させれば、欠片を集めて結合させるだけの魔力で、再度展開が可能。その際に消費する魔力は、秀人が自然と回復する魔力の数値よりも小さいため、理論上、半永久的に展開し続けていられる。まぁ、その維持には神通力が多分に働いているので、ヒトの身では再現不可能なのだが。

「……」

「どうした、さすがに諦めたか」

「…………諦めはしない。だが、勝てもしないだろう」

 熱くなりながらも、シグナムは冷静に……負けを確信し始めていた。この、殆ど消耗しない固体蒼炎のこともそうだが……それ以上に。

「話には聞いているが、ここへ更に神化が加わってしまっては、な」

 

「あー、それ(神化)出来ないんだわ、今の俺」

 

 ……が、返ってきたのは予想外の否定。

「…………なに?」

 

「いやぁ、実は…………神通力の九割ほどを息子に譲ってしまって」

「な、なにィイイイイイイイイイイイイイイイイーーーーーーッ!?」

 嘘だ。ありえない。シグナムは目を見開く。普通、手放すのか、ソレを。

 というか。

 

――秀人は神通力の九割を譲ったと言った。

 

――片やなのはも、九割を譲ったと言った。

 

――で、あるのなら。

 

――――吾妻慈樹の生まれ持った分と併せた、神通力の総量は。

 

 

「まぁ、それ抜きにしても、負ける気はしないがな!!」

「なんだ、その自信は……!!」

「シグナム。おまえ、飢餓感と言ったな。満ち足りた俺には、それが足りないと。そう言いたいわけだ」

「……違うと言うわけか」

「あぁ。――――おーい、なのはー! いつきー!」

 

 実は観戦に気付いていたらしい。くるっと背後を振り向き、妻子へ手を振る。

「あなたー、頑張るのよー」

「おーう! 見とけよー!!」

 いつきの小さな手を振るなのは。

「あ、そういえばフェイトが「幸せを見せつけやがってぇえええ……!!」

 シグナムの妬みの波動がなのはの声をかき消した。

「そう。愛する妻子! 円満な家庭! これ以上の幸福などあるものか!」

「それな。ほんとそれ。」「帰る家があるって、幸せだよな……」「お金じゃないよな……」「幸福を維持するのにお金は必要だけどね……」「おれんち借金で離散したぞ……出て行った母ちゃん、元気かなぁ」「マグロ漁船の父ちゃん、ハガキ届かなくなっちゃったな」「ドラッグのbuyerで、イマはどっちモprisonにlive sentence(終身刑) ネ……」

 ヤンキーズがしみじみと頷く。

 

「――――――愛する妻子の前で、男が負けるわけにはいかんのだッ!!」

 

 ズシン、と、重く一歩を踏み出す。決着の一撃を繰り出す前兆だ。

「だいたい、お前は順番を間違え過ぎなんだよ! 俺をどうこうするんじゃなくて、もっと大事なことがあるだろうが!!」

「――――――。」

 ハッ、と、シグナムが気付く。そうだ。想い人を手に入れるため、必要な段階を踏んでいなかった……と。残りわずかとなった蒼炎と、全魔力を切っ先に集中させる。たとえ、敵わずとも。秀人も、相手が弱っていようと全力で迎え撃つ。

 

「――――。」

「――――。」

 

 一拍。覚悟の一瞬。シグナムは……駆け出す!!

「うぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

「来いやぁああああああああああああっ!!」

 

 振りかぶる。大上段。シグナムが最も得意とする一撃。

 

「フェイトを!!!!

 

 

オレに!!!!!!

 

 

くださぁあああああああああああああああああいっっ!!!!!」

 

 

 まさに、シグナム渾身にして最高の一撃!!!

 

「――――百万年早いわぁあああああああああああああああッ!!!!!」

 

――――ベギィイイイイイインッ…………!!!

 

 大人げなく……全力の拳が、魔剣と鎧とシグナムの顔面を殴り飛ばした。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「あーあ。やっぱりこうなったわね、フェイト……あれ、フェイト?」

「ぇいー、」

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「ガーッハッハッハ!! わざと負けるような事をこの俺がするかっ!!」

 勝ち誇る秀人。見守るヤンキーズも、安全と見るやワラワラと寄ってくる。地面に転がるシグナムの顔を覗き込み、首筋に指をあて……

「……、兄貴、このひと息してないよー」

「……………………えっマジでヤベェ」

 傷害致死である!

 

「うわぁああああ! 兄貴が殺っちまったぁー!!!」「『はい、ええ、普段は面倒見のいい人だったんですが(プライバシー保護音声)』」「oh,,,アニキサン、オツトメ、するネ……」「兄貴……! 安心しろ、あのクラスはおれが纏めていくからよ……!」

 

「バッカお前、まず心マだ心マ!! ……ええっと、気道を確保し!(ゴキゴキッ)胸部をリズミカルに圧迫する!(ボキッボキッボキッ)!」

「兄貴ストップ! トドメ刺してる! トドメ刺してるってぇ!」「テロップに(首の骨が折れる音)って出てる!!」「リズミカルに肋骨がハーモニーを奏でてるって!!」

 

 シグナムの命運、もはやここまで……と思ったその時。

 

――――ドンガラガッシャアアアアアアアアン!!!!

 

 雷雲も無いというのに、落雷!!

「――、あっぶねぇ!!!」

 寸でのところで魔力を察知し、ヤンキーたちを抱え飛び退いたお陰で、黒焦げ案件だけはセーフだった。

「あっシグナム忘れてた! ……でも証拠は消えたぜ」

 クズいことを口にする、うっかり秀人くん。

「まぁ冗談はさておき、」

 

「……………………く、首と胸が痛い…………!!」

 

 シグナムは息を吹き返し、覚えの無い脱臼と骨折の痛みに喘いでいた。

 あまりにも強引というか、普通そんなことをしたら死ぬ以前の問題なのだが、これだけ緻密に()を操れる術者を、秀人は二人しか知らない。一人はプレシア。そしてもう一人は……

 

「…………」

 

 ばりばりとイカヅチのオーラを纏うフェイトが、逆に恐ろしい無表情で佇んでいた。人差し指で、シグナムのほうをゆび指しているのは、先ほどの落雷による心肺蘇生のためだろう。なんという精度か。しかも恐らく、デバイス(バルディッシュ)を使ってすらいない。

「……」

「ぬぅ……冥府よりの使者か…………いや、フェイトの顔をしているから天使に違いなブばいガワラッ!!」

 もう一度冥府に送らんばかりの拳が、シグナムを沈めた。

 

「お、おぉフェイト……元気そうで何より…………」

 すたすた、と、普通に歩いている筈なのだが、ヤンキーたちがサササーっと割れるように避けていく。強者の貫禄に、本能が反応してしまったのだろうか。

 

――がしっ。

 

 フェイトのアイアンクローが、秀人の顔を掴む。

「――――――~、なんつーはなしをしているんだこの大バカぁあああああああああああああああああーーーーーーーー!!!」

 

――――――ズババババババババビガガガガガガガガガバリバリバリバリ!!!

 

「ぎょえぇえええええええええええええエェエエエエェエエーーーーーー!!?」

 秀人の魔力を強制的に電気に変換し、そのまま逆流させるという凄まじい攻撃で、秀人をブチのめした!!

 

「ぐはぁっ…………!!」

 ……秀人、フェイトに再び敗れるの巻。

 

 

――――この日、フェイトには『神を二度倒した女(ダブル・ゴッド・スレイヤー)』という異名が付き、三千世界にその有名を轟かせるのだった。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「ばか! ばか! あほ!」

 げしげしと秀人とシグナムを足蹴にし続けるフェイトを、校舎を窓から降りてきたなのはが止める。

「はいはい、そこまでにしなさい」

 フー、フー、と羞恥と怒りに震えるフェイトをなだめる。

 

――キーンコーンカーンコーン

 

「学校のチャイムって個性無いわよねぇ。ま、私は小学校のしか知らないんだけどね……あはは……小卒未満ですよ、ってね…………」

「じぶんのことばで凹むクセ、かわらないよね……」

 ちょうど、昼休みも終わるころだった。

「そこのヤンキーたち」

「「「「「「「「イエス、マム !!」」」」」」」」

 兄貴の嫁。つまり姉御である。なのはにとって、普通の人間より、ヤンキーのほうがなじみが深く、人見知りせず付き合える。

「二人を手分けして保健室まで運びなさい」

「「「「「「「「イエス、マム !!」」」」」」」」

「さ、私は授業が待っているから戻るけど……フェイトはどうする?」

「…………うー、先にいえ帰ってまってる」

「鍵は?」「もってる!」

 家の鍵……つまり、吾妻家の鍵。なのはは少し嬉しくて、ニコニコと上機嫌で教室へ戻るのだった。

 

( ( ( ( ( ( あっ、勝ったんだ ) ) ) ) ) )

 

 …………なのはちゃんヤンキー疑惑、未だ解けず。

 

 

 

 

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