魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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vivid編 14話『 がんばれ女の子 』

 

 

 

――――やぁみんな! 新学年だね! クラスに友達は出来たかな!?

 

 

――――新社会人のみんな! これから定年まで40年間、頑張ろうね!

 

 

――――ちなみに老後の年金は無いゾ♪

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

ぶっ倒れた秀人とシグナムのうち、秀人だけは早々に復帰し午後の授業を受けた後のこと。シグナムを回収したのち、吾妻家であるアパートの一室へ帰ってきた。

「はいこれ運んで。つまみ食いは駄目よ?」

「ぐぬぬ……みぬかれている……」

 なのはが作った料理を、フェイトが座卓へ運んでくる。

 

 まぁ、理由はともかく、せっかく来たんだし食べていきなさい。ついでに買い物を手伝いなさい。ついでに配膳もしなさい。あとついでに今日の洗い物はあなたがするのよ。と、なのはに言われたフェイトだった。

 

「なぁ、フェイトさんや…………」「うっさいスケベ」

 ……秀人は、フェイトに嫌われていた。

「…………」

 割とガチ凹みをする秀人。悪ノリが過ぎただけで、フェイトのことは家族として大事なのである。……フェイトが求めていたのは、そういった『大事』ではないのだが。

「ぇいおー」

「あだだだだ!!」

 ……と、慈樹に長い髪の毛を力いっぱい引っ張られる。満面の笑みで、力いっぱいに。これは痛い。

「あらあら、いつきったら、すっかりフェイトに懐いて……」

「イタイイタイ! なのは助けてー!!」

 神殺しの雷神も、子供の前では形無しであった。

「まったくもう……おい、しぐなむ!! ごはん!!」

 

「……ムリ……しにそう…………」

 …………隣の部屋の畳の上に転がされているシグナムは、息も絶え絶えだった。蒼炎の効果でボキボキに折れた肋骨はうまく治ったのだが、ダメージはそうはいかない。というか、秀人が慣れすぎているだけで、普通はこうなる。

「そういうやつは大抵しなないからヘーキだよね。ボク、さきに食べてるからね」

 不機嫌からつっけんどんな態度を取るが、一応話を振っているのは心根の優しさがなせることか。

「「「いただきます!」」」

 慈樹がその辺を好きに動き回る中、実に、いつぶりとなるであろうか、フェイトを交えた食事が始まった。

「ユーノくんどうしてる? アルフが付いているんでしょう?」

 超ブラック職場に囚われるユーノ。秀人やなのはに鍛えられ、不気味にタフになったユーノはそう簡単には死なないだろうが、それでも心配なものは心配である。

「あー……なんかたいへんそう。しごともそうだけど」

 食べ方は幼少時に美由希となのはの徹底矯正により綺麗になったフェイトが、魚の骨を避けながら言う。

「アルフとザフィーラがユーノをめぐって、たびたびガチバトルしてるっぽい」

 微笑ましいように思えるが……

「………………飼い主的な?」

「んーん。ツガイになるって、どっちもゆずらない」

 さらっと重大な問題を口にするフェイトに、顔を見合わせる吾妻夫妻。

「……まぁ、文化が違うからな。ユーノんとこの部族は異類婚姻がザラにあるっていうし」

 本人が幸せなら良いか、とあっさり結論付ける。

「そうそう」

 と、なんのことはない風に、話の続きであるかのように、フェイトが言う。

 

 

「ボク、ひでととケッコンすることにしたから」

 

 

――――ガターン!!

 

 

「な、ん、だと…………!?」

 シグナムが、半死半生の身体で起き上がろうとしていた。

「えー……だって、シグナムよりひでとのほうがつよいし」

「ぐはぁ」

「かっこいいし」

「げふぅ」

「へんたいさんじゃないし」

「おおおおオレはへんたいさんではない!!」

 どの口が言うか。

「ねーねー、なのはー。ボクもひでとのお嫁さんになりたーいなー」

「…………」

 じぃ、と、何やら見つめあう二人。極めて独占欲の強いなのはのことだ。いくら可愛い妹分であるフェイトの言うことであっても、きっと、度が過ぎると激怒し反対してくれるだろう……と、甘く考えるシグナム。だが。

「うーん…………はやてもいるから、三人目みたいになっちゃうわねぇ。それでもいい?」

 なんと割と肯定的ではないか。

 

「あの、俺の意思は……」「「却下」」

 

 ……秀人に決定権は無かった。

「ウソだ……ウソに決まっている……!! フェイトがオレのもとから去るなど……!!」

 ワナワナと震えるシグナム。だが、頭上ではなのは、フェイトの二人が、将来の展望について和気あいあいと盛り上がっており……

 

「それじゃあ、こどものなまえはー、」

 

 ……とうとう限界を越えた。

 

「――――すまなかったぁあああああああああああああああああ!!!!」

 

―― DO☆GE☆ZA ! !

 

 額を畳に擦り付けんばかりの、まこっとに美しい土下座スタイルであった。

「すまんかった……!! ほんとーにすまんかった……!! 調子に乗りすぎた! オレが悪かった! 頼むッ……! 許してください……!! 勘弁してください……!! なんでもするっ! なんでもするからっ……!!!」

 嗚呼、かくも無残な懇願であることか。

 

「――――オレ以外の男とケッコンするとか、冗談でも言わないでくれぇえええええええーーーー!! うぉおおおおおおおおおおおーーーーーん……!!」

 

 シグナム、キャラ崩壊の男泣きであるッ……!!

(し、シグナムっ……! お前……!! ちょっと見直しかけたけど、そもそもの理由が最低だぜっ……!!)

 そりゃあ、まぁ……嫉妬に狂って想い人の大恩人を襲撃した挙句、人前で初めてのブラジャーの色柄とかカップとか、バラされそうになったらキレる。百年の恋も冷めよう。そもそも恋さえしていないのだが……

「……はんせいした?」

 なのはにギュッと抱き着きながら、フェイトがジトーっと、わらじむしでも見るような目でシグナムを見やる。

「したっ! しましたっ!! 心の底から反省しましたぁっ!!」

「ホントーに?」

「ハ↑ァイッ!!」

「んじゃケータイのなかのおんなのこのアドレス、ぜんぶけして」

「ハ↑ァイッ!!」

 神速で操作を終えた端末を、捧ぐようにフェイトに掲げる。

「ふむ……よし」

「で、でわっ……!」

 希望に瞳を輝かせるシグナム。

 

「ひでととケッコンしよーっと」

「あァァァんまりだァァアァあああああ!!」

 

 絶望に打ちひしがれるシグナム。

((プレシアとジェイルみたい…………))

 ……吾妻夫妻はそんな感想を抱いていた。やはり血筋か。駄メンズに好かれるという難儀な性質はしっかりと遺伝しているようだ。

 

「これ、フェイト」

 なのはがフェイトを制する。

「もう良いでしょう」

「黄門様かーい!」

 ビシッと息の合ったツッコミを披露する。

「まぁ、シグナムも反省『は』しているようだし。この辺で手打ちにしてあげなさい」

「………………はぁい」

 ぶすっと膨れながらも、なのはの言うことを聞き入れる。

「おぉ、神よ……!!」

 さながら調停神を仰ぐように合掌するシグナム。

「はやてには報告しておくわね」

「おぉ、神よ…………死んだわオレ…………」

 戦わずとも生き残れない。神より悪魔よりよっぽどおっかない王による処罰に恐れおののくシグナムであった。

 

 いつきはケラケラと楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 罰として洗い物を押し付けられたシグナムと秀人を置いて、なのはとフェイトはいつきを伴い、近所の銭湯にやって来ていた。アパートの浴室は、入ろうと思えば二人で入れるのだが、浴槽がどうしても手狭……というか、へんたいさん扱いのシグナムの半径10メートル以内で入浴する気にならなかったフェイトが、なのはを誘った形だ。ひとり240円。

「きょうはボクがだすね! しはらいはまかせろー!」

 

――バリバリ

 

「やめて。……っていうかまだ使ってたのね、ソレ」

 それは、フェイトが吾妻家にやって来た頃、街に出たフェイトが衝動買いした子供用財布(キョウリュウジャーの柄入り)であった。

「んー、プライベート用だけどね」「でしょうね……」

 見た目『だけ』は麗しいフェイトが、颯爽とコレをポケットから取り出すイメージを抱き……

「……私服はどうしてるの? まさかこち亀の両さんみたいに、執務官の制服を着まわしているわけじゃないでしょうね」

「ギクぅっ……!!? シ、シテナイヨ……? ボク、シテナイヨ……?」

「なんでみんな、ソコだけは似ちゃうのよ……」

 だらけて寝そべる姿も割と似ているし、趣味嗜好も似ているし、だらしなさも似ているし、じつは一番、秀人の(悪)影響を受けているのはフェイトなのかもしれない。というか、進んで秀人のマネをしている、というのが正しいのかもしれない。ヴィヴィオなども、意識的に真似をしている部分が見受けられる。

 

 手早く脱衣した二人は、じゃぶじゃぶと同じようなペースで体を洗っていく。なのははいつきを乳幼児用浴槽に入れた。

「ぶるぶるぶる」

 長い髪についた水滴を頭を振って払うフェイト。いくら周りにほかの客が居ないからといって……

「ぐわぁ冷たい! 犬か!」

「いぬじゃないもーんだ」

 わっしわっしとフェイトの髪を団子に纏める。長いうえに量が多いから一苦労だ。

「こっちも」「ん」

 くるりと反転し、今度はフェイトがなのはの髪を纏める。

 

「「ふぃ~……」」

 足を伸ばせる浴槽に浸かると、思わず息がこぼれる。

「明日、買い物に行くわよ。オリエンテーリングの最終準備もあるし」

 そう。あれやこれや、凄まじいトラブルにばかり見舞われていたが、ようやくその日がやってくるのである。

「服くらい買ってあげるわよ」

 多分、私服はあると言えばあるのだろうが、しまむらのジャージとかドンキのスウェットとか、そんな感じのものが多いだろうし……

「エボルドライバーがほしいっ!! 再販したんだよアレ!!」

「服だっつってんでしょーが! あとちゃんとした財布!」

「がぼがぼ……ぶくぶく……」

 潜水訓練へと突入した。身内への折檻は割とハードだった。

「ベルト巻けるようにたべすぎないようにがんばってるのにー……」

「そんな理由でそのスタイル維持してるっていうなら大したものよね……」

 世の女性の羨望と嫉妬が集まることだろう。本人はこれっぽっちも気にしていないだろうが。

「でも、なのはがえらぶ服かぁ……」

 ……そう。なのはもぶっちゃけ、他人のことをとやかく言えるほどファッションに詳しいわけではない。はやてに聞いても同様だ。吾妻家及びその縁者の女性陣は、『着られればいい』という実に漢らしい価値観の持ち主なのだ。女子力が低い、とも言う。

「フッ……フェイトも甘いわね。私がいつまでも、昔の私でいると思っているの?」

「しょうじき図体以外はたいして成長していない気が……ゴメンゴメンうそうそ。ぶくぶくするのはヤダってば」

 魔の手から逃れる。なのはは、こぶしをぎゅっと握り、輝くような笑顔で言う。

 

「ワークマン(プラス)で、フェイトの服を選んであげるわ……!」

 

(だめそうな気がする……)

 やはり、女子力は成長していなかった……

「そういえば、望とも一緒に遊びに行く約束もしていたわね……忘れるところだったわ。今度誘いましょう」

 カレンとの再会があったりして、すっかり忘れていた。

「クラスのトモダチは?」

「……トモダチ…………トモダチ…………ワカラナイ……ニホンゴワカラナイ……」「ゴメンなんでもない」「……よくよく考えたら、私が一方的に友達だと思っているだけかもしれない。うん、誘うのはやめておきましょう……」「……」

 相変わらず対人関係はヘタレな姉貴分に呆れるフェイトだった。

 

 そして翌日。女二人で買い物に出る。出た。それは良いのだが……

「なんでホビーショップなのよ……」

「あとでふくもちゃんとかうから……って、あーーーーー!! ガオイカロス! ガオイカロスうってる! これかう!! こっちに轟雷神もある!」

 なのはにはサッパリわからない単語を口にしながら、何やらうすらでかい箱を積み上げるフェイト。

「……その赤いトリみたいなの、同じの二つも買うの?」

 フェイトは頬をムーっと膨らませ抗議する。

「おなじじゃない! こっちはガオファルコン! こっちはガオイカロス!」

 全然わからない。

「手持ちのパワーアニマルとがったいさせるヤツと、オリジナル形態でかざるヤツ! おなじじゃないの!」

「はいはい……」

 徒歩ではなくバイクで来たのは正解だった。紐でキャリアに縛り付ければ運べるだろう。

「全く、何をしに来たんだか」

 だが、久しぶりにフェイトと遊んでいると、どこか嬉しくなってくる。なのはは、知育玩具コーナー見て回る。

「……はやてのところは大変ね。男の子と女の子、両方同時に育てるんだもの」

「ニチアサはしゅっぴがかさむからねぇ。スーパー戦隊、ライダー、プリキュア……あっ。ねぇねぇなのは。このサイフにしようとおもうんだけど」

 満面の笑みで見せてきたのは、ツルッツルのビニールの表面にドラゴンがプリントされたサイフだった。なのはは無言で棚に戻した。

 

「さっきのがよかったのにー。ドラゴンだよ、ドラゴン」

「いま使ってるのと何が違うのよ……」

 結局、秀人が使っているのと同じような、フェイクレザーで二つ折り、内ポケットが多くSuicaポケットも備わっている機能性重視のものを近所の店で新品購入した。

「ケーキたべたい! みゆきンとこいこうよ!」

「えぇー……」

 フェイトに引っ張られるように翠屋へ。もう、何の買い物なのか、分からなくなってきた。まぁ、普通に余暇でいいと思うのだが。

「あぁそうだ。翠屋の前に一件、寄っていくところがあったんだ」

 そう。その用事を済ませなければ、オリエンテーリングが始まらないと言ってもよい。

 

――――『骨董 買取販売 座自緒』

 

「こっとう……? おちゃわん?」

「? なんで骨董屋で茶碗を買うの?」

「……」

「ごめんくださーい」

「はい…………あぁ、お待ちしておりましたよ」

 サングラスの老店主が座敷より現れる。懐には、絹の袋に包まれた……何というか天丼芸である。

「はい。おととい仕上がったばかりですよ」

「むふふ……」

 そして、袋から取り出したるは、またしても懲りずに刀…………ではなく、山刀。要は鉈である。

「ふぅむ……握り良し。鋭さ良し。重心は、えぇと……」

 ひゅん、と振るう。

「うむ……理想的な仕上がりね。これなら夜叉猿でも狩れるわ」

「おや、マタギでもされるおつもりで?」

「いえいえ、山を越えるんですよ。手持ちの刃物は、藪漕ぎには向いていなくて……」

「米軍のナイフにご興味は? 今度、あるツテから払い下げを一ダースほど仕入れる予定がありまして」

「向こうの刃物は雑で大味ですけれど、大雑把な用途にはそれがまたマッチしますよねぇ。そもそも行軍のためのツールとして存在するわけですから。入荷をしたら、また連絡を頂きたいです」

「えぇ、えぇ。一番にご連絡しますよ」

 和気あいあいと、老店主と刃物トークに花を咲かせる。

 

「…………………………なのはー、しょうきにもどってー」

 

 肩口をぐいぐいと引かれる。

「こら。少しは辛抱しなさい」

 子を窘める母のような口調だが、どう考えてもなのはがおかしい。

「あのね、なのは。学校行事にナタはいらないの。いらないんだよ」

「? フェイトはおかしなことを言うね。要る要らないではなくて、刃は身に帯びるものよ?」

「………………ひでと、ゴメン……ボクはなのはをとめられない」

「わかったわよ。待たせてゴメンってば。翠屋行くわよ。会計は兄さんに出させるから遠慮なく食べていいわよ」

「またのお越しを」

 

「おーっす、みゆき!」

「おーっす、フェイト!」

 翠屋へ到着するや否や、ぱしーんとハイタッチをする二人。相変わらず仲がいい。

「やぁ、なのは。よく来たね」

 リハビリとしてウェイターを始めた父、士郎が、まだ痩せたままの顔でなのはを出迎える。

「あ、父さん。今日、出てたんだ。……ねーねーこれ見てよコレ。買っちゃった!」

 ゾロリと山刀を抜くなのは。凍り付く店内。

「な、なのはー!!」

 フェイトは、とっさにバウムクーヘンを引っ掴み……

「とぉうっ!!」

 ひょろろろろ、と、なのはの前に放物線を描くように投擲した。

「? 切ってほしいの?」

 シュカカカカッ! と、肘から先が掻き消え残像だけが視認できるレベルの速度で、鉈が振るわれる。寸断されたバウムクーヘンは、フェイトがもう片手に構えていた皿に綺麗に整列するように返される。

「じゃ……じゃ~ん! いっぱつげい~! ……あは、あはは……」

 ひきつった笑いで店内を見渡すフェイト。

 

――――ぱち……ぱち……

 

 客たちもまた、ひきつった笑いで疎らな拍手をする。

(((((気にしない、気にしない…………)))))

 逃避だった。

「いい山刀だね」

 第一声がそれかーい。

「山で何か狩ったらお土産にするね」

「この時期は猪かなぁ」

「熊はちょっとまだシーズンじゃないよねぇ」

 なのはの、若干天然なところは父譲りだったらしい。

 

「………………みゆき。ボク、がんばったよね…………?」

「うんっ、頑張った! フェイト頑張った! わかってる!」

 よしよし、と頭を撫でられていた。

「そのバウムクーヘンとサンドイッチ。レモンティーとカフェオレで。会計は兄さんの給料からよろしく」

「な、何ッ!?」

 恭也が奥でずっこけていた。だが結局は出してやるところが、恭也の甘いところだ。

 

 さて、紆余曲折の末、ようやく目当ての店の入るモールへ到着した。本来の目的であったはずなのに、気づけば日も傾きかけている。

「学校に居る時は『一日が早く終われ』って思うけど、楽しいとあっという間よね……」

「……がっこう、たのしくないの?」

 フェイトは、心配になって聞く。

「………………わかんない」

 返ってきたのは、あいまいな答え。

「…………まぁ、当初予想していたハイパーぼっちタイムは免れているみたい。友達……って、言って良いのかな。一緒に過ごす人はいる。話をしてくれるクラスメイトもいる。その人たちと一緒に行く遠足を楽しみにして、こうしていそいそと準備をしている私がいる。……楽しい、のかなぁ。うーん……わかんない…………」

 

――なのはの人間関係は、独特かつ極端だ。

 

 一度踏み込めば、それこそ、血縁が無かろうと家族のように相手のために心を尽くす。それがフェイトや、はやてを救うことにも繋がった。だが一方で、踏み込まなければ、血縁があろうと、なのはにとってそれは『他人』と同義であるのだ。

『他人』と『家族』。0か1か。なのはにとっての自分以外は、その二つだけだった。なのはにとって、その中間となる『友人』というものは、数えるほども存在していなかった。特に、秀人の失踪後はそれが顕著で、小学生時代にようやく出来た『友人』とも疎遠に。凶鳥部隊での、これまたどっぷりと親密なコミュニティを作り上げ……それを失った。なのはは、情操が安定するまで、あまりにも多くの『家族』との別れを経験し過ぎたあまり、そういった感性が鈍磨してしまっているのだ。

 それゆえの、『わかんない』である。

『多分、これが楽しいということなんだろう』という、どこか他人事の感情で止まってしまい、それ以上に進展がしない。そこで止まってしまう。

 なのはと親しくなりたい。そう考える者は、あの学校にはきっと多く居るのだろう。こんなクソ難儀なコミュ障ぼっち社会不適合者ではあるが、なのはは同時に、人を惹きつける一種のカリスマを持ち合わせているのだ。

 ただ、そのためには、難攻不落の心のダンジョン最深部にて鎮座するなのは(大魔王)のもとへ、どうにかして辿り着かなければならない。

 

 あぁ、なんと難儀な。

 

 しかし、その大魔王なのはにも、変化が現れようとしていた。暴走するエルスから大宮たちを守ったように。その際、とっさに『友達』という言葉が出たように。こうして、自発的に遠足の準備をしているように。

「それじゃあ、イヤじゃないんだね」

「うん」

「だってさ」

 

 と、フェイトが後方を振り返り、言う。え? となのはも釣られて後ろを見ると……

 

「そっか。心配しすぎだったみたい」

「なのはちゃん、良かった……」

「どうにか上手くやれているみたいね」

 

「……アリサ。すずか。のぞみ」

 まさに件の、なのはの片手で足りるほど希少な『友人』たち。

(すずかは学園の運営陣、アリサも出資者の一族。こんなプライベートな場で会っていることがどこかへリークされたら二人に迷惑が掛かるわね。ここは逃げましょう)「って考えてるだろうから捕まえておくわね」「うわぁ」

 回り込んだ望が、なのはの腕を抱く。

「その遠回り過ぎる気の回し方……なのはには困ったものね」

 やれやれ、とジェスチャーをするアリサ。

「今日は私人だから大丈夫だよ。ほら、変装だってしてるんだから」

 すずかは、ぶかぶかのオレンジ色のサングラスを掛けている。

 

「――それに、チャチなタレコミならクシャポイできるからね」

 

 …………現実的に一番怖いのは、すずかなのかもしれない。

「……フェイト。私をハメるとはいい度胸ね」

「ハメてなーいもーん。この時間にこのモールに行く予定ってメールしただけだもーん」

 さっきまでやたらと遠回りや寄り道をしていたのは、アリサたちと落ち合うためか。

「……まぁ、たまには良いか。大勢でも」

「きーまりっ!!」

 もう片方の腕を、フェイトが抱き寄せる。

「なのは、両手に花ね」

 アリサが茶化す。なのはが、私は茎か何かか、と笑う。でも、と前置きし……

 

「学芸会で木の役を貰ったことがあるから、慣れてるよ」

 

「「「「…………それは貰ったとは言わないんだよ」」」」

 ………………やるせない気持ちだけが残された。

 

 ワークマンで衣類を(秀人の分も)購入し……いよいよ準備万端。

 

 

 

――――――明日は、遠足である!!

 

 

 

 

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