魔法少女リリカルなのはties 作:ハルハルharuharu
「ありえない!!」
薄暗い庭園の中、プレシアは傷んだ髪の毛を振り乱し、絶叫する。
「ありえるわけがないわ!!」
必勝の策だった。途中までは、思うようにいっていた。だが、あの少年がアルフに仕掛けた爆弾を処理した時には少々驚いたが、それも十分に想定の範囲内だった。
事実、少年は魔力を使い果たし、傀儡兵の大群を前に、屈しようとしていた。
あとは、仮想空間を砕き、消耗しているであろう白いバリアジャケットの少女から、悠々とジュエルシードを奪い、それで終わるはずだった。
なのに。あの少年はあっさりと蘇り、あまつさえ……
「リンカーコアを他者と同調……いえ、接続する……? そんな馬鹿なことが!!」
だが事実、今も手元に表示される映像の中では、少年は執務官と共に、鬼神のような戦い様で傀儡兵を駆逐している。
針の穴を通すような精密さと、山をも砕きかねない威力を両立させた、ふざけた力で。
生粋の技術者たるプレシアが、集団での戦闘能力と、同時操作をひたすら追求した攻撃兵器が、紙くずのように!
「う……っ!!!」
――ビチャビチャビチャッ……
プレシアの口から、大量の血液がこぼれ出し、床を汚した。
「あああああ……!」
ふらふらと覚束ない足取りで、玉座の裏にある隠し扉を開く。
「どうして、皆邪魔をするの……!?」
がん、がつん、と壁や柱に身体をぶつけながら、そこへと歩を進める。
「私はただ……もう一度取り返したいだけなのにいいいィィ!」
叫ぶだけ叫び、先ほどまでの狂乱が嘘だったかのような、穏やかな笑みを浮かべる。
目の前には、溶液に満たされた巨大な水槽にたゆたう、幼い少女。
「ああ、ごめんなさいね。ビックリさせちゃったかしら?」
もう二度と返事などすることが無いであろう、水槽の中の少女に語りかける。
「大丈夫よ……お母さん、頑張るから。だから、待っていて頂戴……」
彼女の、名を。
「アリシア」
…………四文字の、娘の名を。
◆ ◆ ◆ ◆
「はああああっ!!」
一気呵成になのはに肉薄し、鎌を振るう。
――ガギィンッ!!
なのはが展開したシールドが、それを阻む。
やはり、硬い。なのはの防御は、フェイトの渾身の一撃を受けきった。
『Holding shield』
バルディッシュの光刃が、シールドに噛まれる。
「くっ……!」
以前、このパターンで痛い目を見た。フェイトはすぐさま光刃を解除。
『Blitz Action』
高速移動魔法で、必中の間合いから脱出する。そして……
『Barrier Burst』
――バゴォン!!
爆風に弄ばれ、一瞬だけ体勢を崩したところに、
「ディバイン……バスター!!」
桜色の砲撃が迫る!
「な……めるなあああああああ!!」
フェイトは、不安定な体勢から敢えて加速。とにかく、射線上から自身を外すことだけを考える。結果、建造物のレイヤーに身体がぶつかり、少ないないダメージを受けたが、砲撃の直撃を喰らうよりはマシだった。
「しまっ……!」
砲撃を撃っている最中、なのははその場に足止めされる。
「もらったあああああ!!」
ディバインバスターとすれ違うように、再びなのはに迫る。
『accel shooter』
「シュート!!」
牽制の誘導弾。
フェイトは、バルディッシュを振りかぶり、
『Arc Saber』
光刃をブーメランのように発射。
「いっけえええええええええ!!」
光刃は、なのはの放った誘導弾を纏めてぶった斬る!
飛び続ける光刃は、なのはの真正面。それは恐らく、簡単に防がれてしまうだろう。だから。
(挟撃!)
得意の高速移動でなのはの背後を取り、バルディッシュによるショックブローを……シールドの展開より速く、叩き込む!
『Flash move』
だが、その攻撃は空振ってしまう。
「なっ!?」
いきなり目の前から消えた。そして、
「高速移動は」
聞こえる声は、背後!!
「フェイトだけが使えるわけじゃないんだよ!」
『Flash Impact』
「このおおおっ!!」
――ギンッ!!
バルディッシュで、背中をガード。それが功を奏し、なのはの打撃は不発に終わる。
「お返し……だッ!!」
振り向く回転動作に、攻撃を乗せる。
横薙ぎの一撃!
「チッ……!」
『Solid』
ソリッド。なのはは、物質強化魔法でレイジングハートの柄を強化し、
「「はああああああああっ!!」」
――ッギイイイイイイン!!!
火花が出るほどの勢いで、ぶつけあう!
『Impact !』
『Photon Burst !』
そして、示し合わせたように、衝撃波で互いを間合いから弾き出す。
「はぁっ……!!」
肺いっぱいに酸素を吸い込み、眼前を見据える。
白いバリアジャケット。同色の杖。
……自分より小さい女の子。
(強くなってる……前より、確実に!!)
だが彼女は、圧倒的な威圧感を放ちながら、フェイトの前に立ちふさがっている。
(おかーさん……!)
だがフェイトは、母への想いでその重圧を跳ね飛ばす。
(また二人で、ピクニックに行くんだ……!)
記憶が、フラッシュバックする。
見渡す限りの草原。そこにシートを広げ、母とたくさん話をして……また優しく、自分の名を呼んでくれるのだ。そう、『フェイト』と……
『アリシア』
「……え?」
ぱきん、と、何かが割れた。そして、堰を切ったように、今まで曖昧にしか聞こえなかった……いや、聞こうとしてこなかった四文字が、母の声で再生される。
『おいしい? アリシア?』
『アリシアは、甘えん坊さんねぇ』
『アリシア』
『アリシア』
プレシアが呼ぶのは、フェイト以外の誰かの名前。
(おかーさん……違うよ。ボクは、ボクは……)
あの、優しい笑みは……一体、誰に向けられたものだった?
フェイトは、ぶんぶんと首を振る。
(どっちでも、いい!)
自分が『フェイト』でも、『アリシア』でも。
(おかーさんが笑ってくれるなら、ボクは!!)
そのために、ただ全力で……目の前の敵を、打ち砕くだけ!
「行くよ……!!」
『Photon Lancer』
発動するのは、フェイトが最も得意とする攻撃魔法。だが、その規模は……フェイトの側面、数十メートルにまで魔力スフィアを展開する程だ。
「……やばっ」
なのはは、すぐさま危険を察知し、射程外への退避を試みる。が。
――ガチンッ……
「あっ、しまった!」
バインドにより、両腕を拘束されてしまう。
『Phalanx Shift』
フォトンランサー・ファランクスシフト。
『個々の威力に劣る分を手数でカバーする』というフェイトの戦術理念を反映した、フェイト最強の攻撃魔法である。
いかなる防御であろうとも、38の魔力スフィアによる一斉掃射を受ければ削りきり、落とす事ができる。そう自負している。
「これが!」
フェイトは詠唱を終え、空中に磔にされるなのはを睨み付ける。
「ボクの!」
そして、バルディッシュを振りかざし……!!
「全力だあああああああああああああ!!」
――キュドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……!!
比較にならない数の射撃魔法が、なのはに迫る。
「私だってッ……!」
だが、なのはもまた……
「負けるわけには、いかないんだからあああああああああああ!!」
フェイト必殺の魔法を、受けきる覚悟を決めた。
なのはは防御魔法を展開。そして、
――ズガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!
「きゃあああああああああ!?」
正面から、激突!
――ガガガガガガガガガガガ……!!
一秒、二秒……
――ガガガガガガガガガガガ……!!
すでにその数は、三桁の大台に達している。
残った数十発分のフォトンランサーを、手元に収束する。
「スパークウウウウゥゥゥ…………!!」
それは、魔法の名のとおり、槍のように固定化される。
長さは、五メートルもあろうか。
フォトンランサー・ファランクスシフトの、決定打!
「エンドオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
投擲された槍は、吸い込まれるように……
――ズッゴオオオオオォォォォォォンン…………!!!
なのはに、突き刺さった!!
「はぁー……はぁー……! ど、どうだ、参ったか……!」
四秒間の一斉掃射。総数にして、1028発ものフォトンランサー。さらに、トドメの一撃まで、クリーンヒット。間違いなく直撃した。
煙が晴れたそこには、ズダボロになったなのはが、海面に向かって落下している筈だった。
だが。
フェイトの宿敵たる彼女。高町なのはは。
「……………………………………………………うそ」
健在だった。
当然、無傷とはいかない。
バリアジャケットは原型を留めないほどに破壊され、露出した素肌は、打撲による内出血で浅黒く変色している。レイジングハートにも、あちこち亀裂や欠損が見受けられる。
だが、確かに立っている。
「今度は」
静かな声。それに、フェイトは思わずビクッと身をすくませる。
「こっちの番!!」
『Cannon mode』
ぎしぎしと、可動部分に破片でも入り込んだのか、ぎこちなく変形を行う。
「避けたいなら、避けていいよ」
その減らず口にカチンときた単細胞なフェイトは……
「来い! このやろー!!」
バルディッシュを目の前にかざし、防御魔法に目いっぱい魔力を注ぎこみ、強度を上げていく。
『Sir.』
バルディッシュが警告を促す。
「うっさい!」
……その向こうで、なのはが……『掛かりおった!』とでも言いたげに『にやり』、もしくは『にたり』と笑っていたことについては、言及しないでおこう。
「ディバイン………………!!!」
――チュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ……!!
「う、う……」
チャージが、長い。フェイトの脳裏に、じわじわと後悔が浮かんでくる。
(逃げてれば……よかったかなぁ……?)
顔を引きつらせながら、自分の選択に首をかしげるのだった。
『……Good luck』
バルディッシュの返答も、どこか投げやりだった。
「バスターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
なのはの主砲が、目の前を桜色に埋め尽くす!!
「う……うわああああああああああああああああああああ!!」
もはやヤケクソに、バルディッシュを支えるフェイト。
そして……
――ドバババババババババババ…………!!!
瀑布のように、フェイトの防御を押し潰しに掛かった!
フェイトの華奢な身体が、その勢いを殺しきれず、ずりじりと後退していく。
「これさえ……!!」
そう。
「これさえ防げば!」
なのはの魔力は、フェイトとほぼ互角。なら、なのはも同じように消耗しているはずだ。
「ボクが勝つ!」
魔法が殆ど使えない状況なら、フェイトに勝機がある。
「ううううあああああああああああああああああ!!!」
耐えて、耐えて……桜色の瀑布に、抗った。
一秒。グローブが砕けた。
二秒。スカートが千切れた。
三秒。マントが消し飛んだ。
四秒。バルディッシュに亀裂が入った。
五秒。瀑布が、収まった。
「……くっ、あはははは……!」
耐えた! 耐え切った!
フェイトは、思わず哄笑する。
『Restrict Lock』
――バキィン!
「…………あ?」
その両足、右手に、桜色のリングが巻きつく。
「なに勘違いしてるの……? まだだよ」
聞こえる声。それは、遙か天空から。
見上げた先。そこに、高町なのはが、レイジングハートをこちらに向け、佇んでいた。
「は……ハッタリだ! もう、魔力なんてカラッポのくせに!」
バインドを力ずくで解除するだけの力は、残っていない。持続時間いっぱいまで、この場に拘束されることは、確定している。
「魔力なんて」
なのはは、笑みを崩さない。
「そこらへんに、いくらでもある!」
その言葉に呼応するように……
『Starlight Breaker !』
「使い切れずにばら撒いた魔力を……」
円環が、回る。
「もう一度、自分の下に集めて、再利用する……!!」
自分に確かめるように、言葉を反芻する。
「収束、砲撃」
ぽつりと、フェイトが口にする。フェイトが、ついには習得できなかった技術だ。それを、目の前の少女は使っている。
回る。そして、集まる。桜色の粒子と、金色の粒子。
「ああっ、それボクのじゃん!! ズルい!!」
抗議するフェイトに、なのはは、クワッと目を見開き……
「――――勝てばいいのよ!!」
…………勝利の鬼と化したなのはには、そんな抗議は通じなかった。
「レイジングハートと」
ぎゅるん、ぎゅるん……と、回転する円環の中心部に、明るい光が生まれる。
「ユーノくんと」
それは、あっというまに膨れ上がる。
「秀人さんと一緒に考えた、知恵と戦術」
遂には、直径50メートルにも膨れ上がり、今か今かと発射の瞬間を待ちわびている!
「最後の……最強の切り札!!」
じゃきん、と、レイジングハートを振り上げ……!
「受けてもらうよ……」
それは、星の光。
「これが私の、全力全開!!」
そして、発動のキーとなる、トリガーボイスが紡がれる。
「スターライト…………!!」
魔力スフィアが、一瞬だけ萎み……解放の瞬間を、迎えた。
「ブレイカアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
鉄槌の如く、振り下ろす!!
「ちっくしょーーーーーーー!!」
やけっぱちに、残る全ての魔力を防御魔法として放出する。
大中小からなる、五重の円錐状バリア。
正面からの攻撃に対しては、絶大な効果を発揮するそのバリアは、果たして。
――パリイイイイン……
「あ……」
呆気なく、第四層までを貫通。第五層……最後の一枚にも、致命的な罅が入っている。
それが、紙くずのように破られ、身体に直撃するまでの数瞬。フェイトは、ただ一つのことを、考えていた。
――ボクの、負けかぁ……
だが、不思議と悔しさは感じない。
母より遺伝した莫大な魔力と、リニスに教わった戦い方、そして、アルフと共に磨き上げた技術。
己の全てを出し切ったフェイトは、生まれて初めて……充足感と共に、桜色の暴風雨に身を任せた。