魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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第十八話

 フェイトが『大事な勝負』のため、クロノに連れられて行った、そのしばらく後。

 二人の少女が、『高町』と表札が掛かった家の前に立っていた。

「……ここ、ね」

 一人は、金髪碧眼。気の強そうな吊り目の少女、アリサ・バニングス。

「うん、間違いないよ」

 もう一人は、黒髪黒目。柔らかい雰囲気の少女、月村すずか。

 

 二人が何をしにきたのかと言えば……

「……高町、いるかしら」

「もう、緊張しすぎだよ」

 なのはに、あの日の謝罪をするためだ。子供なりに行動力を発揮し、なのはの住所録を調べ、ようやく辿り着いた。

 アリサの手には、紙袋。中には、あの日破いてしまった上着が入っている。月村家のメイドによって完璧に修繕され、さりげなくワンポイントまで追加されていたりと、サービス満載だった。

 本来であれば、すずかが渡すのが妥当なのだが……アリサが、どうしても自分で渡したいと頼み込んだのだ。

 

「ええい、死なばもろとも!」

 どこか間違った掛け声とともに、インターホンを勢い良く押す。

 

――ピンポーン……

 

 そして、玄関のすりガラスの向こうにシルエットが浮かび、ドアが開いた。

「はぁい、どちら様?」

 出てきたのは、高町桃子。

「ええと、高町……なのはさんの、お姉さまでしょうか?」

 すずかが丁寧に対応する。桃子は『姉』という言葉に苦笑し、改めて自己紹介をする。

「いえ。私は、なのはの母です」

 二人は、ポカーンと口を半開きにし……

「「母ァ!?」」

 全く同じタイミングで、驚愕の叫びを上げた。まぁ、驚くのも無理は無い。とても三人の子持ちとは思えないほど若々しく、髪の色も、顔立ちも、なのはと瓜二つなのだ。母というよりは、姉と紹介されたほうがまだシックリくる。

「……とりあえず、中へどうぞ?」

「失礼……」「します……」

 二人は、促されるまま玄関を潜る。

 

 恭也と美由紀は、しばらく行っていなかった翠屋へ行き、開店に向けて掃除と仕込みを始めている。なので、今は桃子一人だった。

「それで……今日は、どのような御用?」

 桃子が淹れた紅茶の味に驚いている二人に、用件を聞く。

 アリサが、それに応じた。

「服を返しに……あと、謝りに」

 桃子は、詳しくは聞かなかった。それは、当人達の間で解決すべきことだったから。

「んー……なのはは、しばらく帰ってこないわ」

 困ったように、寂しい笑みを浮かべる桃子。

『しばらく』には、どういった意味が込められているのか……それを、二人が知る余地は無かったが。

「何なら、私からなのはに伝えておくけれど……」

「いえ」

 アリサは、きっぱりと固辞した。

「私が直接言わないと、意味が無いんです」

 なのはへの謝罪を、人づてに済ますのは不義理に尽きる。

「そう。 ……ちょっと待っててね」

 電話機の傍に置いてあったメモ帳とボールペンを手に、戻ってくる。

そして、メモ帳にボールペンを走らせる。

書き終えると、そのページをぴりっと切り離し、二人に渡した。

「それ、なのはの電話番号とメールアドレスよ」

「…………」

 じっとそれに見入るアリサ。ポケットから携帯電話を取り出し……

「ああ、今日はきっと出ないわよ?」

 ずるっ、と、椅子の上で器用にずっこけた。

「今日、大事な勝負があるって……」

「「勝負?」」

 なにやら穏やかではない単語に、怪訝な顔をする二人。

「えっと、勝負って……?」

「簡単に言えば………………」

 そこでしばらく迷う桃子。

簡単に言い表すのは難しいと、言ってから気がついたらしい。どこかずれているところは、なのはと似ていた。

「そう、」

ぽん、と手を打ち、ようやく口にした。

 

「意地っ張り同士の、意地の張り合い?」

 

 かち、こち……

 

 時計の秒針が、いやに大きく鳴った。

「…………すみません、分かりません」

 アリサ、降参。

「……あらー?」

 桃子は一人、首をかしげるのであった。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「ぜぇ~……! ぜぇ~……!」

 私は、肺を総動員して酸素を取り込む。実戦で撃ったのは初めてだけど……反動が、予想以上にキツい。気を抜いたら、飛行魔法が維持できなくなってしまいそうだ。

 でも……!

『魔力反応、消失。全ての魔力を削り取りました』

 レイジングハートが告げるのは、私の勝利!

「…………やった」

 とうとう私は……あの強敵を下したんだ!

「やったあああああぁぁ…………ゲホッゲホッ……! 勝っ、ゲフッ!」

『落ち着いてください、マスター』

落ち着け私。

「レイジングハートの……みんなのおかげだよ」

 ぎゅっ、と罅割れたレイジングハートを抱き寄せる。

「ごめんね。私も、魔力ギリギリだから、修復はまだ後で……」

『構いません。ところで、マスター』

「ん? なぁに?」

『彼女が溺死寸前です』

「へ?」

 スターライトブレイカーの着弾地点……そこに、水泡が浮かんでいる。

更に目を凝らすと……

「がぼがぼがぼがぼ…………!」

 水中でもがくフェイトの姿が見えた。

「ふぇ、フェイトオオオオオ!?」

 飛行魔法で加速し、勢いのまま水中に潜り、フェイトを救出。水上に上がり、何とか破壊を免れた廃ビルの傾いた屋上に、フェイトを寝かせる。

「ううう……」

 青ざめた顔で呻いている……

 とんとん、とんとん、と背中を叩く。

「げぇっほ! げほっ……おえぇ……!」

身体を丸め、喉の奥から、たんまりと水を吐いた。

「し、死ぬかと思った……!」

「ご、ごめん……まさか、泳げないなんて」

 うかつだった……戦いで体力を消耗しているのに、水泳なんてハードな運動が出来るわけ無いのに。

「違ーう! キミの砲撃で、だ!」

「……え?」

 嫌だなぁ、人聞きの悪い。

確かに、ちょっとばかし強い攻撃だったかもしれないけど……

「なんだよあの無茶苦茶な馬鹿魔力! 死ぬぞ! ボクじゃなくても死ぬぞ!?」

 ぎゃーぎゃーと怒り狂っている。 

「もう、大げさなんだから」

「大げさなもんか!!」

立ち上がろうとするも、足に力が入らないようだ。

「ほら、まだ動かないの」

 ふらつくフェイトを寝かせ、膝枕の体勢に持っていく。丁度、フェイトの顔を上からさかさまに見下ろす形だ。

 ひとしきり騒いで、私もフェイトも、呼吸が整ってきた。

 膝枕でフェイトを休ませながら、作り物の水平線を見渡す。

「いやぁ……なーんにも無いねぇ」

 ちょっと……予想以上だったかも。私達がいるここ以外、見渡す限り水面だけだ。

「……『壊れた』んじゃなくて、『消し飛んだ』んだぞ」

 ちょっととがめる様な口調。

 見下ろすと、フェイトの真っ赤なルビーのような瞳が、私を見上げていた。

「まぁ……必殺技だし? これくらい強力でも……」

「いいわけあるかっ!!」

 フェイトが、頬を膨らませて噛み付いてきた。

 

 しばらくにらみ合い……

「「ぷっ……」」

 どちらからともなく、吹き出した。

「あはははっ……! いいじゃない、別に!」

「くふふっ……あっはははは! 良くない! 絶対良くないよ!」

「あはっ、あははははっ……何笑ってるの、フェイト……!」

「ふふふふふ……!! キミこそ、笑いながら戦略兵器ぶっ放すなよ! あはははは!!」

「せ、戦略兵器!? 何ソレ、あはは!」

「だって、ドカーンって、廃ビルまとめて吹っ飛んだんだよ! あは、ははははは!!」

「吹っ飛んだんだ……!? すっごーい! あーはっはっはっは!!」

「キミがやったくせに、何驚いてるんだよ……ぷぷぷっ!!」

げらげらと、馬鹿のように笑い転げた。

「ねぇ、フェイト?」

「ん?」

 

「私の、勝ちだよね」

 

「……うん。ボクの負けだ」

 フェイトは、どこか晴れ晴れと、負けを認めた。

「全部、出し切った。力も、技も…………意地も」

 もうフェイトは、偽悪の仮面を被っていない。

少し乱暴な、普通の女の子が、そこにいた。

「約束、覚えてるよね?」

 あの夜、縁側で交わした約束。

「私が負けたら、ジュエルシードを全部あげる」

「ボクが負けたら、何でも言うこと聞く……だっけ?」

 そう。全ては、このときのために。

 フェイトと、友達になるために。 

 今こそ、言おう。

「あのね……」

 

 

『なのはちゃんっ!!』

 

 ぶっちん、と、通信回線が乱暴に開かれた。

「うるさいなぁ……!」

 なんてタイミングの悪い。下らない用事だったら容赦しないよ?

『大丈夫!?』

「ああ、うん」

 大丈夫、と言い掛けて。

『ひどい……!』

 仮想空間の中。私の最大砲撃で根こそぎ消し飛んだ建造物を見て、エイミィが戦慄している。ひどいって。

『一体、何があったの!?』

「ええと……」

 説明しづらい。

『まさか、またプレシアの次元跳躍攻撃!?』

「いや、その……」

 つまり何か。

今のこの惨状を作り出すには、プレシア並みの攻撃力がいるってことか。

『って、周辺魔力がほぼゼロ!?』

 収束砲のエネルギーになりました。

『まさか……集積型の魔力爆弾が!?』

 言うに事欠いて……!

「ブフッ……!! ば、爆弾だってさ! くくくくく……!!」

 膝の上で、フェイトが腹を抱えて笑いを堪えていた。

 

 だが、その後の一言で、空気が変わった。

 

『それとも、こっちにも襲撃があったの!?』

 

「こっち、にも……?」

『あ、やば……』

 エイミィが失言に気付き、慌てた声を出した。

「どういうこと!? ちゃんと説明して!」

 やがて観念して、事情を説明し出した。

 

 この仮想空間と外が、完全に切り離されていたこと。

 

 アルフが、爆弾を仕込まれて寄越されたこと。

 

「アルフに……!? そんな……そんな!!」

 フェイトには衝撃が大きかったらしく、モニター内のエイミィに詰め寄った。

「アルフはどうなったの!? ねぇ!?」 

「フェイト、落ち着いて!」

 腰の辺りを掴み、抱き寄せる。

「落ち着けるわけが……もごっ!」

 その口を、掌で塞ぐ。

「いいから! 黙って聞きなさい!」

「うーーーー!!」

 涙が滲む目で、私を睨み付けるフェイト。

「心配なのは、よくわかる。でも、今ここでフェイトが暴れても、何にもならないんだよ」

 私だって、冷血漢じゃない。フェイト程ではないにせよ、それなりに面識のあるアルフに命の危険があると知らされて、何も感じていないわけが無い。

 でも、だからこそ……今は、冷静にならないと。

 

「それで、アルフに仕掛けられた爆弾は?」

 最悪の結果を覚悟し、聞く。

『それは、大丈夫。秀人君が、なんとか摘出してくれた』

 ほう……と、安堵する。

「あ、あ……」

 フェイトの動きが止まり……ふにゃっ、と弛緩する。どうやら、アルフが無事とわかって、一気に緊張が解けたらしい。

『でも』

 そう。あのプレシア・テスタロッサが、その程度で済ますような、諦めのいい奴じゃないということは、よく知っている。

『多分、今も……クロノくん達は襲撃を受けている』

 策が一つで終わりというわけはないだろう。万が一のときのために、保険を二重にも三重にも用意しているはずだ。

『爆弾を摘出した途端に、通信や操作が全部遮断されちゃったから、詳しくは分からないけど……』

 秀人さん達を孤立させて、戦力を削ぐ気でいるに違いない。そして、護衛がいなくなったところで……

「次は、私ってこと?」

 私の持っているジュエルシードが、プレシアの最大の標的だろう。

『多分……ううん、間違いなくそう。

そこはある意味一番の安全区域だから、二人は、そこで待機するようにっていうのが艦長の指示』

 今すぐにでも、秀人さん達を助けに行きたい。でも、魔力も体力もカラッポのままでは、行っても足手まといになるだけだ。

 悔しいけど……本当に悔しいけど、今はここでじっとしているしかない。

「アースラからの救援は?」

 増援でも何でも、秀人さん達が無事でいてくれるならそれでいい。

『全力で結界に干渉してるんだけど、まだ小さな穴しか開けられていない状況が続いてる。だから、増援も、医療班も……』

「くそっ……!!」

何か無いの!?

(考えろ、考えろ……!!)

何かあるはずだ……!!

 

――未だに、

 

……そうだ

 

――小さい穴しか……

 

「エイミィ!!」

私には出来なくても!!

 

私は、胸元のレイジングハートを握り……

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「だああらっしゃああああ!!」

 

――バギンッ!!

 

 頭部を殴り砕かれた傀儡兵が、重い音を立てて地面に転がる。

「クロノ! 何体倒した!?」

「五十から先は、数えていない!!」

 

――ズガガンッ!!

 

 誘導弾で傀儡兵を蜂の巣にしながら、クロノが答える。

「ああもう、何体隠し持ってるんだよ!」

 

――ガゴンッ!!

 

 騎士タイプの胴体に風穴が開く。

 

 俺とクロノは、リンカーコアを『結んで』いるおかげで、完全に消耗するまで、まだ猶予がある。だが、結界をたった一人で維持しているユーノは……

「ユーノ、大丈夫か!?」

 ユーノともリンカーコアを『結ぶ』こともできるけど、そうすると、結界の維持なんて高度な計算をしているユーノに、余計な負担をかけることになってしまう。

「うん、大丈夫……!」

 言葉とは裏腹に、額にはびっしょりと汗を掻き、膝は震え、今にも崩れ落ちそうだ。

「後援が来れば、負担も減るから……」

 アースラの連中だって、いつまでも指をくわえて眺めているなんてことは無い筈だ!

「それに、」

 にやっ、と、ユーノには珍しく、不敵な笑みを浮かべる。

「ここで負けたら、なのはに、顔向けできないからね……!! 絶対に死守する!」

 たとえ戦闘に参加できずとも。ユーノは、果敢に戦っていた。

 通常なら、アースラの出力に頼るか、何人かで交代しながら維持するような結界を、長時間、たった一人で支え続けている。いかにユーノが優秀な結界魔導師だとはいっても、疲労は蓄積する。傀儡兵に襲われでもしたら、無防備なまま攻撃を受けてしまうという緊張もあるはずだ。だがユーノは、俺達を信じ、全力で結界を支えている。

「……アースラのクルーは優秀だ」

 その姿に思うものがあったのか、戦闘時には無口なクロノが、口を開いた。

「きっともうすぐ、干渉を無効化して増援が来る。だから……!」

『Brake Impulce』

――チュイイイイイイイイイン!!

 傀儡兵を振動波でバラバラに分解しながら、クロノが叫ぶ。

「もう少しだけ持ちこたえろ! フェレットもどき!」

 ユーノへの激励を!

 

『グオオオオオオ!』

 

「「すっこんでろ!!」」

『Blaze Cannon !』

――バガアアアアアンッ!!

 二発の砲撃が、重騎士タイプの装甲を爆破。副次効果の爆裂が、内部機構を滅茶苦茶に引き裂いた。とりあえず、第……八陣くらいか?……までを片付けた。だが、おかわりとばかりに、また転送魔法陣が出現し、何体もの傀儡兵が顔を覗かせる。

「残存魔力、31パーセント……」

 三分の一を切ったか。もし魔力が切れたら……と、そこまで考え、頭を振る。

(『もし』『たら』『れば』は、その時になったら考えろ! 今は、目の前の敵をブッ潰せ!)

 俺は、拳に魔力を纏わせ…… 

 

『クロノくん、秀人君!』

 

――――待ってました!

 

少しばかりノイズ混じりの、随分と懐かしい声が聞こえた。

『遅れてゴメン! 状況は!?』

 すぐに、クロノが声を張り上げる。

「術者が限界だ! 結界の維持を!」

『了解!』

 

――ヴンッ……

 

 返事とほぼ同時、

「……はぁっ、はぁっ!」

ユーノが地面に手を突き、そのまま崩れ落ちる。 本当に……よく頑張ったな、ユーノ!

「他に、怪我人が多数いる! 転送ポートは開けないのか!?」

 応急手当しかしていないアルフと、武装隊のヒヨっ子ども。今も、後ろのビルの中に引っ込めてある。ユーノと共にアースラに回収してもらうことができれば、自由に動き回り、遊撃に打って出ることが出来るようになる。いつの時代も、大変なのは拠点防衛戦だ。

『ごめん、今、全力で解析にあたってるから……』

 あー……そう都合よくはいかないか。

『でも、援軍はいるから!』

 そして、俺の目の前に、直径10センチ程度の、極小の転送ポートが開いた。

『秀人君、これを!』

僅かに開いた転送ポート。そこから、心強い『援軍』が現れる!

 

『お久しぶりです。生きていますか?』

 

 赤い宝石。レイジングハート!

「一応な! 手ぇ貸せ!」

『了解しました』

 ある意味、誰よりも心強い援軍だ! これで、自分の魔法が使える!

 レイジングハートを右手に握る。

 結晶体とレイジングハートが擦れ、かりっ、と硬い音を立てた。

『? 何ですかこれは?』

「ああ、これか」

 右手が吹っ飛んだことをぼかして、説明する。

レイジングハートは『またですか』と、ため息一つで納得するだろうけど……なのはは、間違いなく怒る。そして泣く。というわけで、黙っておくのがベストだ。

『恐らく、無尽蔵に魔力を吸収し、蓄積するタイプのロストロギアでしょう』

 レイジングハートは、そう結論付けた。

『簡単に言えば、ジュエルシードの亜種です』

 多分だけど、ジュエルシードに辿り着くまで、プレシアが収集してきた候補の一つ。

 とはいえ、さっきの魔力補充で完全に沈黙し、今はただの無機物になっている。

 魔力を補充した、という話を聞いたレイジングハートが、何やら思案顔(顔無いけど)で考え込む。

『吸収……ですか』

 

――バキャッ!!

 

 騎士タイプの頭部を握り潰す。

「打開策、何か出してくれよ!」

 正直、クロノと連携する以上の考えなんて浮かんでこない。前にレイジングハートが言ったとおり、瞬間の閃きこそ強いが、長時間思考し続けることには滅法弱い、ドラッグレース仕様の脳みそだ。

『賭けになるかもしれませんが、よろしいですか?』

「このままじゃ、どうせまた魔力が切れる。それなら、お前に賭けるよ」

 今までだって……レイジングハートの言うことが、間違っていたことなんて無いんだから。

 レイジングハートはしばし黙考し、『ある術式』を起動した。

 

『Sterlight』

 

 スターライト。

 周辺に散らばった魔力を集め、再び利用する技術。攻撃にも、防御にも転用できる、かなり実戦的応用的な術式だ。

でも、何でだ?

「俺、スターライトには適性が無いんじゃ……」

 練習の時は、いくら集めても、それを留めておくことが出来なかった。

『こればっかりは、適性ですから』

 と、レイジングハートも無理に習得をさせようとはしなかったのに。

「……賭けにもなってないぞ」

 練習で使えなかったものが、いきなり本番で使えるようになるなんて……フィクションの世界だ。

『ええ、確かに。以前の秀人なら、無理でした』

 粛々と術式の発動を準備しながら、続ける。

『あなたの右手。そこに埋まっている物は何ですか?』

 へ? 右手?

「ええと……カラッポの魔力結晶」

『その働きは何でしたか?』

 確か……

「無尽蔵に魔力を吸収する……………………ああ!!」

 そういうことか!!

 理屈としては、筋が通っている。

 魔力を『集める』ことはできるが、『留めて』おけない。だから、『留める』役目を、右手の魔力結晶に頼る。

 だが、魔力結晶が一回こっきりの使い捨てタイプだったり、蓄積に長い時間が必要だったりしたら、もうアウトだ。

「ははっ……確かに、賭けだな」

 リスクは高いが、リターンがあるかどうかも分からない。でも。

「やるぞ」

『よろしいのですか?』

 レイジングハートが、少し驚いたように確認を取る。

 たとえ、クロノに止められても、俺はやる。何故なら……

 

「俺は、お前を信じてる」

 

 レイジングハートは、何度も何度も戦いを共にしてきた、仲間だから。仲間を信頼するのに、理由はいらないだろ? 

「だからお前も、俺を信じてくれ」

『……』

 レイジングハートが黙り込み……

『スターライトを、アカウント・吾妻秀人に合わせ、再編成。完了』

 術式を、書き換えた。

「行くぞ!」

 目を閉じ、意識を集中。自分を中心に、渦巻くようなイメージを描く。

 

――ギュイイイイイイイイ…………!!

 

 そして……集まってきた魔力を、右拳の結晶体に。

 だが。

シン……と、結晶体は沈黙したままだ。

(頼む……)

 俺は、霧散していこうとする魔力を必死に繋ぎとめ、結晶体に送り続ける。

 だが、しばらく経っても結晶体に変化は見られない。

 駄目、なのだろうか。やはり、そう都合よくは行かないのだろうか。

(頼む……)

 でも。

(頼む……!!)

 それでも。

 俺は、レイジングハートを信じると決めたんだ!

 

――ドクン

 

 と、結晶体が、鼓動を刻んだ。

 

――ドクン、ドクン、ドクン、ドクン……!!

 

 行ける。行ける!!

 結晶体と、リンカーコアの鼓動。

バラバラのそれらを、時に押さえ、時に解放し、徐々に、徐々に同調させていく。

 

――ドクンッ!!

 

 一際強く、弾けるような鼓動を刻み…………!!!!

 

「いッけえええええええええええええええええ!!」 

 

 そして……

 

――ギュゴアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!

 

 起動、した!!

 

『結晶体、起動を確認。魔力の蓄積を開始しました』

「な? 信じてみるモンだろ?」

『…………私の見立てでは、成功率は十パーセント前後でした。マスターも含め、あなたたちは、とことん私の計算を越えて行きますね』

 あきれたような賞賛を零す。

「さて」

 睥睨する先には、うじゃうじゃと傀儡兵の群れ。そいつらは、けが人を避難させているビルを目指していた。

「片付けるぞ!」

『Here we go !』

 

 魔力結晶に吸いきれなかった魔力のカスが、俺の身体を中心に、放射状に広がっていく。なのはのスターライトとは、逆に…………そう。

 

『Ster dust』

 

星屑のように。

 決めた。この技の、名前は……!

 

「スターダスト…………!!」

 

 手刀に構えた右手を、居合い切りのように、腰に構える。

『 『 『 『 『 グオオオオオオオオオ!!! 』 』 』 』 』

 危険を感じ、方向を換え、俺に殺到する傀儡兵。でも、もう遅い!!

 膨大な魔力を……俺の得意な衝撃波として……!

 

「ウォーーーーーーーーール!!」

 

 一気に、振り抜いた!!

 

そして発生する、桁違いに巨大な、魔力の大津波。

 

――ガゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!

 

 それは、進行方向にあったアスファルトを、ビルを、天高くまで舞い上げ粉砕し、傀儡兵どもへと押し迫る!

 効果範囲は……上は結界最上部。横は結界全幅。つまり……結界の端から端まで。

「逃げられねぇぞ、鉄クズ」

 

――…………ゴアアアアアアアアアアアアアッ!!!

 

元々、装甲は大して厚く無かった傀儡兵どもは……悲鳴も無く爆砕され、ただのスクラップへと成り果てた。

 

――ガランッ……

 

 装甲の一部が、禿げたアスファルトとぶつかる。それを合図に、俺は戦闘態勢を解いた。

「ふう~……キツかった」

 

――ヴ……

 

 転送魔方陣が出現し……

 

――……ウン

 

 すぐに消える。癇癪を起こしたように、何度も、何度も……

 

「無駄だ。もう、お前の転送魔法は届かない」

 俺は、きっと見ているであろうプレシアに宣言する。

「ジャミングは、お前の専売特許じゃない。少しは考えておくべきだったな」

 先ほどの、収束魔力波。

アレにはわざわざ不純物を混ぜた、結界全域にバラまいておいた。それらは、レーダーを乱反射させるチャフの役目を果たし、遠距離からの干渉を防ぐ。近距離……つまり、結界の中にいればさほど影響は無いが、このプレシアのようなタイプには効果的なはずだ。

「安全圏から一歩も出ずに、高みの見物を決め込むつもりだったんだろうけど……残念だったな」

 俺は、今にも直立を放棄しそうな両足を叱咤し、余裕を装って天を見上げる。

さぁ、どう出る?

 諦め悪く出現と消失を繰り返していた転送魔方陣が、止まり消えた。

 そろそろ、来る……

 

 

『おォのれええええええええええええええ!!』

 

 

 ビリビリと、叩きつけるような殺気を含んだ声が、結界中に響き渡った。

 この声が。こいつが!

 

「プレシア・テスタロッサ!!」

 

 俺は、全身で殺気を受けながら、その名を呼んだ。

 

 

 

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