魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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第二十二話

 キーを差込み、イグニッションキーを回す。

 この先必要の無いと分かっていても、ついライトやウインカーの灯火類を確認してしまう。セルスイッチを押すと、ボンッ……と、低音と共にエンジンが始動し、アイドリングを始めた。

「向こうの状況はどんな感じだ?」

『ゲートはギリギリまで遠ざけたんだけど……やっぱり、転移してすぐ、敵兵に襲撃されると思う』

 ま、今回はそうだよな。先行部隊があんなに簡単に突入できたのは、きっとプレシアが舐めきっていたからに違いない。事実、瞬殺だったもんなぁ……

 

 ヴォンッ、ヴォンッ……と、エンジンを空ぶかしして、調子を確かめる。

「各部、問題なし……と」

 俺がシートに座り、なのはがタンデムシート。ここまでは、いつもの乗り方だ。

ただ、今日は……

「せ、狭い……!」

 ユーノは俺のポケットにねじ込まれ。

「アルフ、ちゃんと掴まるんだよ」

「ああ、そうする」

 なのはの後ろに、アルフが座り。

「……走るのか? この状態で」

「カワサキなめんな」

 クロノがリアキャリアの上に立ち、俺の肩に手を伸ばすという……どこの途上国のカブだと言いたくなる様な、凄まじい曲乗りだった。

 飛行魔法でバラバラに飛んでいたのでは、飛行スピードの差でばらけてしまうし、アルフは普段のスピードを出せない。

 だからといってアルフを抱えて飛ぶだけの余裕は誰にも無く……こうして、俺のバイクに五人ですし詰めになっている、というわけだ。

 大半が子供と女。それぞれの体重は軽いが、五人合わせれば二百キロ近い。

600ccのエンジンを積んでいるとはいえ、いつもの速度が出せるのかどうか……ハイオク

入れて、エアクリ外して直キャブにして、マフラー換えて……と、突貫工事でパワーアップしてみたが、傀儡兵の追撃を振り切れるかどうかは、正直疑問だ。

 もっとパワーのあるバイクも用意できないことも無かったんだが(管理局は予算潤沢)、身体に馴染まないバイクにいきなり乗せられて、いつもの運転ができるかどうかわからなかったから、いつものバイクを使う流れになった。

『あと五秒で転送するよ』

 エイミィの声を聞きつつ、両足でバイクをしっかりと支える。

 

『3』 

 

『2』

 

『1』

 

――ガオオオオオオオオオオオオッ……!!

 

 レッドゾーン寸前まで吹かして……

『みんな、死なないでね!』

 ゼロ。同時、目の前の景色が歪み……次に見えたのは。

『 『 『 『 グオオオオオオオオオオ!! 』 』 』 』

 傀儡兵どもの、一斉攻撃!!

「うおおおおおおおおおおおお!!」

 一気にクラッチを繋ぎウイリー気味に急発進し、その攻撃をかわす。

――キュゴガガガガガガッッッ!!

 無数に飛来したエネルギー弾や投擲の雨が、直前までいた場所を抉り、吹き飛ばした。

 

 雑魚には構わず、一気に門に突撃する。蹴散らすのは簡単だが、温存しておいて損は無い。この先どんな敵がいるのか、全く分からないのだから。

 でも……

(加速が鈍い!)

 スピードメーターは、時速120キロあたりで停滞していた。やっぱり、過剰積載のツケが回ってきたか……!

「チッ……!」

 速度重視の飛行タイプが、確実に距離を詰めてきている。

――ドンッ! ドンッ!

「っと!!」

 なんとか、かわしたけど……さすがに、体重移動が難しすぎて傾け辛い。

「どうする? ここでバラけて戦うのか?」

 クロノは、流れ弾をひょいっと軽く避けながら聞いてくる。

一応、門までの距離は縮まってはいるけど……今こうしている間にも、門のあたりに大量の傀儡兵が集まってきている。このままのペースでは、あの日と同じか、それ以上の数の傀儡兵を相手取ることになってしまう。

 だからといって、バイクより速く飛べる奴はいない。

 ま、しょうがないか。 

 

「クロノ、降りるぞ」

 

かくなる上は軽量化だ。

一番重い荷物……俺とクロノが降りれば、まだ加速できるはずだ。

「は?」

 クロノが怪訝そうな顔をする。

「なのは、後よろしく」

「え?」

 なのはの手をハンドルに導き、しっかりとスロットルを握らせ……

「とうっ!」

クロノの腕を掴んで、バイクから飛び降りた。

「ええええええええええええええええ!?」

 ギアチェンジとコーナリング、ブレーキのことを考えなければ……ただしがみついて、スロットルを開けてさえいれば、バイクは直進する。

「ひ、秀人さああああぁぁぁ……………………」

 フェードアウトしていく、なのはの叫び。

「っと!!」

 クロノは危うげ無く着地。

 

――ブオオオオオオオオッ……!

 

 おー、ちゃんと走ってるな。とりあえず一安心だ。

「……大丈夫か?」

 心配性な奴だなぁ……

「大丈夫だって。自転車に乗れればバイクにだって乗れる」

あとは、なのは次第だ。いつもタンデムシートに乗っていたし、直進するだけなら、さほど問題は無いと信じよう。

「さぁて……」

 

――ギンッ……

 

 魔力刃を構築。

 目の前にいる数多くの傀儡兵を、正面から睨みつける。

「ちょっとばかし、足止めさせてもらおうか?」

 

 プレシアの居城のどこかには、きっと傀儡兵の生産プラントがある。でなければ、あれだけの兵力をたった一人で生産・維持できるとは思えない。

 俺達がここで大多数の傀儡兵を足止めし、その間になのは達が生産プラントを潰せば、あとはプレシアまで一直線だ。

「水を差すようで悪いが……生産プラントがあの中にあるのか、まだ確定したわけじゃないぞ。別の場所にあったり、最悪、生産プラントなんてそもそも無いかもしれない」

 クロノが言うことも尤もだ。でも、やってみないことには分からない。それに……

「俺達が足止めしておけば、なのは達が少しでも楽に進めるだろ?」

 なのはは、いかに魔力が多かろうが九歳の女の子だ。体力にも恵まれていないし……何より。

「なのはの身体には、傷一つ付けさせないって決めてるんだよ、俺は」

「……過保護だな、君は」

 そう言い、S2Uを構えるクロノ。俺が過保護なら、クロノはお人よしだ。

「悪いな。また付き合ってくれ」

 

――ヴォンッ!!

 

 あの日と同じように、魔方陣を展開し、ラインを伸ばす。

 

――バシュッ!!

 

 そして、クロノに繋げる。

 あの時と違うのは、俺も、クロノも、万全の状態だということ。

これで、俺にはクロノの処理能力が加わり、クロノには俺の魔力が加わる!

『 『 『グオアアアアアアア!! 』 』 』

 痺れを切らし、傀儡兵が突っ込んできた。さぁて、と。

 

「 「 うおおおおおおおおおっ!! 」 」

 

 行くぞッ!!

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「ひゃああああああああ!」

 ひ、秀人さんの馬鹿ーーーー! 私が、私が……! すっごい運動音痴で、自転車にも乗れないってこと忘れてるでしょおおおお!? 

『グオオオオオ!!』

「きゃああああ! どいてーーーーーー!!」

 見よう見まねでブレーキを掛けようと、して……

「届かないー!?」

 スロットルを握るのだって精一杯なのに、ブレーキにまで手を伸ばす余裕なんてあるはず無いよー!!

『Floater』

 ふわ、っと前輪が浮かぶ。

『Solid』

 その前輪が、強化魔法の光を纏って……

 

――めきぐしゃべきっ

 

 傀儡兵を、轢き潰した。

「……………………」

 ははは……やっちゃった……自動車運転過失致死……

 もう、引きつった笑いしか出てこない。

『オ、オオゥ……』

 ミラーに映る傀儡兵が、ぴくぴくと悶えている。

『マスター、落ち着いてください。いつも乗っているではありませんか』

「いつもは秀人さんが運転してくれるんだもん……」

「なのは! 前! 前ー!」

 って、

 

『 『 『 『 ウオオオオオオ!! 』 』 』 』

 

怒りに燃える傀儡兵たちが、目の前に迫っていた!

「いいぃやあああああああああ!!」

『Solid !』

前輪の強度を上げ、

 

――ばごばごべきべきめきゃっ

 

 撥ねて、轢いて、押し通る!

 

『 『 『 ギャアアアアアア!! 』 』 』

 

「ごめんなさあああああああい!!」

 何て後味の悪い!!

 

――ガッ、ガガガガガガガッ!

 

「うわ、うわあああああっ!?」

 砂利やら砕けた石畳の欠片を踏んでしまい、一気にハンドルがぶれ出す。

「くっ、このっ!!」

 ハンドルは、私の抵抗を嘲笑うかのように暴れ……!

 

――ずるっ

 

「あっ……!」

 こ……転ぶッッ!!

「っとォ!」

 と、私の両側から手が伸び、ハンドルをがっちりと握った。

「こんにゃろっ!」

 ぐわん、と大きく揺れ……なんとか、タイヤが地面に接地し直した。

とりあえず、転倒することは防げたけど……

「アルフ、運転できるの!?」

 ユーノくんが、私のポケットから顔を出し、風切り音に負けないように叫ぶ。

 間違いなく、初めての筈。だが、

「ああ! もう十分見たからね!」

 カキンッ、と、左下方でギアの変わる音。そして、

 

――ガオオォォッ!!

 

 アクセルを開け、加速!

 まだ多少のぎこちなさはあるけど、間違いなく……乗れている。

「ははっ……なかなか、いいモンじゃないか!」

 

――ガオンッ!!

 

「ひゃっほー!」

アルフは、その長い手足を存分に活かし、バイクを操る。殆ど直感的にバイクの挙動を見極め、コントロールしている。

 すごい。さすが、狼を素体にしているだけあって、運動神経も反射神経も抜群だ。

 タンクにへばりつくようにして、メーターを覗き見る。時速……200キロオーバー!

 門はもう、目の前だ!

「レイジングハート! ユーノくん!」

『All light』「わかった!」

 私がプロテクションを展開。そして、ユーノくんが円形の形を崩し……以前、秀人さんが使ったときのように、円錐状に変形させる。

「アルフ! スピード上げて!」

「言われなくても!」

 

 

――ガオオオオオオオオオオッ!!

 アクセルを全開!

「う、う……!」

 しがみついているタンクから引っぺがされそう!

 でも、これだけスピードが出ていれば……!

 

――ヒュガガガッ!!

 

 傀儡兵達はまともに照準を合わせることができず、攻撃は掠りもしない。

 

 傀儡兵の攻撃を振り切り、巨大な扉へ!

 

「「「いっけえええええええええええええええええええ!!!」」」

 

――バガアアアアアアアンッッ!!

 

 扉を粉砕し、プレシアの居城へ乗り込んだ!

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「忌々しいッ……」

 プレシアは、アリシアの眠るポッドを伴い、庭園の最下層に降下していた。

 目の前に展開されるモニターには、増産が追いつかない程のペースで傀儡兵を破壊する秀人とクロノが、そして、庭園内を原始的なガソリンエンジンで爆走する、なのは達の姿が、それぞれ映し出されていた。

「でも……もう終わり」

 秀人の気迫に怯えるという醜態は晒したが、プレシアの手元には、九つのジュエルシードがある。

「さぁ……始めましょう」

 アリシアのポッドを、愛おしそうに撫でる。その周囲に、九つのジュエルシードが浮かび上がり、旋回していた。

「取り戻すのよ……」

 コンソールのキーを、叩いた。

 

――ズズズ……

 

 低く、庭園が唸る。そして、

 

――ズゴゴゴゴゴ…………!!

 

 それは、巨大な震動へと変化した。

 

「私達の全てを!!」

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

アースラのブリッジ。そこは現在、かつて無い緊迫感に包まれていた。アラートは鳴り続け、誰もが現状の把握と対処に追われていた。

「次元震、発生!!」

「徐々に増加中! 既に、中規模に達しています!」

 エイミィは庭園内をサーチし、この次元震の発生源を探る。

「『庭園』の動力炉と連動しています。恐らく、足りない分の出力を補おうと……」

 九つという、想定の半分にも満たない数。

それを補うため、動力炉を限界以上に稼動させているのだろう。

 あの巨大な庭園を常時、準虚数空間に浮遊させ続け、完全に独立したエネルギー供給を実現させる動力炉だ。そのエネルギー総量たるや、ジュエルシードにも匹敵するだろう。

 秀人たちの世界で言えば、原子炉のようなものにあたる。

適切に管理し、安定供給を続けるなら、さほど危険は無い。だが……

「わざとバランスを崩して、意図的に暴走させているのかと」

 炉心溶融させるのであれば……炉の破壊と引き換えに、莫大なエネルギーを発生させることができる。できてしまう。

 

――動力炉の暴走。

 

 それは、プレシアが娘を失うことになった、直接の原因。あれは、未完成のまま強引に稼動を決定した上層部が引き起こした事故だった。プレシアには、非難される謂れは無い。

だが今回は、プレシア自身がそれを引き起こそうとしている。

「なんてことを……!」

 リンディは、席を立った。

「私も出るわ。庭園内から、次元震を抑えます」

「了解!」

 指揮権を副官に移譲。リンディは裾を翻し、ゲートへと向かった。

(必ず阻止する)

 リンディは、歩きながら決意を新たにする。

(死者は、決して蘇ったりはしない)

 リンディ自身が、それを知っていた。

十一年前。とあるロストロギアを追っていた、リンディの夫、クライド・ハラオウン。

 彼はそのロストロギアを道連れに、この世から消滅した。

一片も……髪の毛一本として、この世には残らなかった。

 悲嘆に暮れ、親友の言葉にも耳を貸さず、ただ部屋に閉じこもって泣くだけの日々。

 提督という、それなりに高い地位にあったリンディは、上層部にのみ公開されるロストロギアの資料を読み耽る日々を送った。

 夫を取り戻す。ただ、そのためだけに。

 

 そして、候補になりそうな物を見つけた。それは、管理局の保管庫に、極めて厳重に収められていることを知った。

 普通ならば、躊躇したり、諦めたりもするだろう。だが、当時のリンディは、正気を失う一歩手前まで、追い詰められていた。

 そしてその晩、リンディはデバイスを手に、着の身着のまま部屋を飛び出した。

 地位になど、クライド無き生活になど……今更、未練は無かった。反逆者として追われることになろうと、クライドさえ取り戻すことが出来れば……そう、本気で考えていた。

 そして、家を飛び出そうとした彼女が目にしたのは……たった一人で廊下に佇み、リンディに声を掛けるか、掛けまいかと葛藤する……クロノの姿だった。

そして、ようやく正気に戻れたのだ。

 自分には、まだ愛する者がいるのだと、気付くことができた。

 あの晩、クロノがいなければ……リンディもまた、狂っていたのかもしれない。

 

 今のプレシアの姿は、リンディの可能性の一つだ。

 愛するものを失い、引き止めるものも無く、ただ修羅の道を進むことでしか己を保てなかった、もう一人の自分。

 その気持ちは、誰よりも……本人よりも理解できる。

それでも。

だからこそ。

(必ず……止める!)

 彼女を、止めなくてはならない。

 

――彼女と同じ、一人の『母親』として。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

――ズズズズ……!!

 

 いきなり、足場がぐらぐらと揺らいだ。

「うわっ……何だ!? 地震か!?」

 って、こんな場所で地震が起きるはずが無い。

『オオオオオ!!』

「るっせぇ!」

――ザンッ!!

 首を切り落とし、飛行タイプの撃ってきた魔力弾を回避する。

 とんっ、と着地した、その時。

 

――ボゴッ!

 

「うぉわっ!?」

 唐突に、足場にしていた石畳が抜け落ち、巨大な穴が開いた。妙な極彩色の……原始的な恐怖を呼び起こすような、どこまでも続く穴。

「何だ、これ」

もう少し遅かったら、落ちていた。

『オオオオ……!!』

 俺を追撃していた飛行タイプの一体が、その穴の上を通過しようとした、その時。

『オオオッ……』

 まるで、いきなり見えない手に掴まれたかのように、穴に落ちていった。

何だ? 何が起こった?

「何で飛ばないんだ……?」

 飛行タイプなのに。

「飛べないんだよ」

 穴を迂回してきたクロノが、意味の分からないことを言った。

「? どういう意味だ?」

「あれは虚数空間……魔法が一切発動できない空間だ。次元航行艦ですら、あれに落ちたら重力の底まで真っ逆さまだ」

 恐ろしいことをサラッと言う奴だな……でも、

「そりゃ、好都合だ!」

 いいこと聞いた!

『グオオッ!』

 重騎士タイプ。とにかく装甲が硬く、二発、三発とこれ一体に消費させられる、厄介なタイプだ。だけど、

「そりゃっ!」

 

――ゴンッ!

 

 胴体を蹴りつけ、数歩後退させれば……

『オ、オオオオオォォォォ…………』

 虚数空間の穴に、勝手に落ちていってくれる。

「……なるほど」

 クロノが感心したように息を吐く。

 

――ギャリリリリッ……!!

 

 騎士タイプを三体纏めてバインドし、

『Blaze Cannon』

 

――ゴンッ!!

 

『 『 『 ギャアアアアア………… 』 』 』

 纏めて、穴に叩き落とす。

 とはいっても、下手をしたらこっちが穴に落ちてしまうことも考えておかないと。

「インパクト!」

 

――ドゴオオォン!!

 

 広域版インパクトで、傀儡兵の足元を爆破する。ただでさえ図体のでかい傀儡兵。一度バランスを崩してしまえば、転倒は必至。そして、倒れた先には……大口を開けて待ち構える、虚数空間。

『オアアアア……!!』

 さよならーっ、と。

 クロノはクロノで、バインドで足を引っ掛け、誘導弾で穴に突き落としている。

「おっ」

 さすがに、敵兵も馬鹿じゃないようだ。穴を迂回し突進してきている。

「……でも、所詮はロボットだな」

 傀儡兵どもは、総じてガタイがいい。穴の隙間を縫うように走ってきても、一直線に並ぶという……入れ食い状態になっていることに、全く気付いていない。

 魔力刃を振りかぶり、

「はあああああッ!!」

 

――バシュンッ!!

 

 斬撃波を射出!

 

――ザンッ!!

 

 騎士タイプ、飛行タイプを数体纏めて両断し、その後ろにいた重騎士タイプの装甲に亀裂を入れる。

『Blaze Cannon』

 

――バォンッ!

 

 亀裂の中に、クロノの放った砲撃が直撃。重騎士タイプは後退し、虚数空間へと落ちていった。

 

とりあえず、足止めは問題無く……

「秀人、下がれ!」

「っとォ!?」

 クロノの声を聞き、全力で後ろに跳ぶ。 

 

――ヴォンッ!!

 

 俺が飛びのいた場所に、巨大な魔法陣が展開された。

「……何か、ヤバそう?」

 ボス的な何かが、出現しようとしている。

 そして。

 

――ズズゥ……ン!!

 

 巨大な質量を伴い、そいつは現れた。

「で……っけぇ」

 思わず感心してしまうほど、巨大な傀儡兵だった。

『グ、グ……』

 大きさは、足元に転がった重騎士タイプが、子供に見えるほど。

 足は無く、巨大な円盤のようなものに上半身が直接生えている。

 腕は、大小含めて八本。

「ボス戦か……」

 

『グ……ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

――キュイイイイイイイイイイイイイイイイイイ……!!! 

 

 小さいほうの四本腕。その先端に、魔力スフィアが生成されていく!

「来る!」

防ぐ……のは、得策じゃないか。

「上手く避けろよ! クロノ!」

「君もな!」

 

――ズバババババババッッ!!

 

「うおおおおおおおっ!!」

 四本の腕から乱射されるビームの束。狙いを付けているのかどうかも分からないそれを、右へ、左へ、上へ、下へ、とにかく避けて避けて避けまくる!

 

――ギュボンッッ!

 

「ぐァッ!」

「秀人!」

 目の前が白く染まり、右腕に激痛が走る。

(ヤバ……!)

 回復した視界の中、右腕を覗き見る。

 まだ……腕は繋がってる。

「あっぶねぇ……!」

 右手の結晶体で受け止めなかったら、腕が吹っ飛ぶところだった。

 放っておけば治るけど……今は、いちいち修復を待っている時間は無い。

『ゴアアアアアア!!』

 巨大な腕を振りかぶり、打ち下ろす!

「舐めるなああああァァァ!!」

 左腕に強化魔法を纏わせ、迎撃!!

 

――バギイイィィンッ!!

 

 硬い! さすがに、雑魚とは装甲の厚みからして違う!

「こいつで……どうだァッ!」

 

――ザンッ!!

 

 魔力刃を、思いっきり腕に突き立てる。よし、刺さった!

「ブレイク……インパルスッ!!」

 S2Uから魔法を発動! 突き立てた魔力刃から、体内に振動波を送り込む!!

 

――ボォンッ!!

 

「チッ……」

 破壊できたのは、肘から先のアーム部分だけ。わざと腕をパージして、ダメージを最小限に抑えやがった!

 だが、この調子で腕を捥(も)いでいけば……

「なっ……!?」

 だが、そう上手くはいかなかった。

 

――ビュウウウウウ、ン……

 

 光が軌跡を描いたと思ったら、そこにすっぽりと収まるように、腕が元通りに修復された。

「はァ!? そんなのありかよ!?」

「君が言うな」

 

 ……………………それもそうだな。

 

――ギュイイイイイイイイイイィィン……!!

 

 四肢の先端に魔力スフィアが出現する。またあのビーム弾幕を撃つ気だ。

「させるかっ!!」

『Stinger Snipe』

 クロノが誘導弾で誘爆を狙う。

 

――ガキンッ!!

 

 だが今度は、強固なシールドに阻まれてしまった。

「攻防共に死角無し、再生能力付きって……」

 思わず呆れてしまう。

 

――ズバババババババッ!!

 

「ぬおおおおおおおおっ!!」

 そして発射された弾幕を掻い潜り……

「ファイア!」

 バレットを数発、試しに撃ってみる。すると、

 

――ガガガガンッ!!

 

「駄目か……!」

 攻撃中はバリアを張れないと思っていたが、そう上手くはいかないらしい。

『ウオオオオッ!!』

 弾幕が止むと、今度は巨腕による攻撃。今度は、しっかりと表面がバリアで覆われている。やろうと思えば、ぶち抜けなくも無いけど……

「はっ!!」

 

――バゴンッ!

 

 回し蹴りにインパクトを纏わせ、巨腕を蹴りつける。

 バリア越しに多少のダメージ……装甲の表面を凹ませることはできたけど、またすぐに直ってしまった。

 

「エイミィ、何かわからないか!?」

 クロノが、通信の向こうにいるエイミィに聞く。

『もう一度、そのでかい奴に攻撃当ててみて!』

「了解!」

『Blake Impulse』

 

――チュイイイイイイイイン!!

 

 振り下ろされた巨腕を回避し、振動波を打ち込む。

 

――ボンッ……!

 

『グッ……!』

一瞬だけたじろぐ傀儡兵だったが、またしても腕だけを切り離し、そこを修復してしまう。 『……うん、やっぱり!』

だが、エイミィはそこから何かを掴んだようだった。

『別の場所にもう一つ、そいつと全く同じ反応があって、リンクし合ってる』

「別の場所……?」

 しかも、リンクし合ってるということは……

『そこにいるもう一体も同時に叩かないと、いくらでも再生しちゃう』

 お互いが、お互いのバックアップになっている……そういうことか。

『今、そこになのはちゃん達が向かってるから……! それまで、持ちこたえて!』

 攻撃力も防御力も高くて、再生能力もあって、パーツを切り離してダメージを抑える知能まで持ち合わせている。

そんな馬鹿げた敵を相手に、いつまでも時間稼ぎなんてしていられない……………………………………………………………あれ?

「ダメージ……? 待てよ……?」

 思わず考え込んでしまう。

「どうした!?」

 クロノが、ビームを避けながら聞いてくる。

「いや……回復するなら、腕を一々切り離す必要なんて……ダメージの大小を気にする必要は無いんじゃないか?」

 その再生力が無限なら、ダメージのことなんて気にしないで戦うに決まっている。

「…………あ」

 クロノが、腑に落ちたようにハッとする。

そう。ダメージを気にするってことは、つまり……

 

「「耐久力にも再生力にも限界がある」」

 

 ということだ。

「……僕としたことが、再生能力に気を取られすぎていた」

 じゃきっ、と、S2Uを強く握りなおす。

「どうする?」

 これは、時間稼ぎの防戦なんかじゃない。道を拓くための、攻戦なんだ。

 そうと決まれば、話は簡単!

「変更は無しだ! 再生が追いつかなくなるまで……徹底的に破壊する!」

「了解!!」

 こっちを潰せば、向こうのもう一体も、バックアップを失って弱体化する。そうと分かれば、気合も入るってもんだ!

『そいつが傷を再生する時には、胴体と円盤部分の繋ぎ目、そこが中心になってる! 多分、そこが弱点!!』

「っしゃあ!」

 

『オオオオオオオ……!!』

――ギュイイイイイイイイイ……ン!!

 

「クロノ! 突っ込むぞ!」

 右手の結晶体を中心に、小さく、硬くしたシールドを展開する。

 全身を覆うと被弾面積が大きくなってしまい、突進を阻まれてしまう。

 小さなシールドで、頭などの致命傷になるであろう部分だけを防ぎ、一気に間合いを詰め、叩く!

「ああ!」

『Blaze Cannon』

『Stinger Snipe』

 クロノもまた、砲撃と、誘導弾をセットする。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 一際大きな咆哮を上げ……

 

――ゴバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!

 

 なのはに匹敵するほどの巨大な砲撃を発射した!

 掃射時間を犠牲にする代わり、攻撃範囲を広げたのか!

 

――ドバババババババババババババッ!!

 

「んがあああああああああああああっ!!!」

 シールドをかざし、砲撃を受け止める。

「やれ! クロノ!」

 俺の背後……庇う形になったクロノに、檄を飛ばす。

「はあああああっ!!」

『Fire!』

 

 クロノが発射した砲撃と誘導弾は……

 

――バゴォンッ!!

 

 砲撃の隙間を掻い潜り、砲身となっている小腕を叩き折った!

『グ……グ……』

 またしても、腕を切り離す。けど……

 

――ギャリイイイインッ!!

 

 チェーンバインドが絡みつき、それを妨害する!

「今だ!! 行け!」

「よっしゃああああ!!」

 クロノの声に応え、飛び出す!!

 

 小腕が無ければ、射撃や砲撃はできない。

 さっきから観察し続けて発見したことだが、この巨大傀儡兵は……巨腕と小腕を、同時に動かすことはできない。憶測だが、同時に操れる腕は四本が限界なんだ。

 いくら機械仕掛けでも、八本もの腕を干渉しないように同時操作するなんて出来ないのだろう。

 そして今、あいつは小腕を切り離すことに夢中になっていて、俺の接近に対する反応が明らかに遅れている。

 

 チャンスは一度だ! 一撃で、あの巨体をブッ壊す!

 

 両掌に、ディバインバスターとブレイズキャノンをセット。そして、殆ど直感的に、

 

――ぱぁんっ!!

 

 掌を打ち合わせ、二つの魔法を合体させた。

 発生した魔力スフィアを発射するのではなく、魔力刃のフレーム内部に溜め込む!

 

『 『 『 ウオオオオッ!! 』 』 』

『Stinger Snipe!』

 

――キュゴガガッ!!

 

 それを阻もうとする傀儡兵に、クロノの放った誘導弾が突き刺さる!

 俺は、完成したばかりの新魔法を片手に、一直線に巨大傀儡兵へと切りかかる!

 狙うは胴体! 正中線!!

 

「ブった斬れえええええええええええええええええッ!!!」

 

――斬ッッ!!!!

 

「……………………」

 振り下ろした刃は、巨大傀儡兵の正中線を、正確に切り割っていた。

『ガ……ガ……!』

 ぶった斬られた断面同士が、磁石であるかのように引き寄せあう。ここまでやってもまだ生きているとは恐れ入る。

だが……

『ガッ、ゴガアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!??』

 

――ボゴンッ!! ボゴゴゴゴゴンッ!!

 

 切断面から、爆発が連続して発生し……

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!』

 

――ズガアアアアアアアアアァァァァンッッッ!!

 

一際巨大な爆発と共に、巨大傀儡兵を粉々に爆砕した!

 

 爆風が収まり、視界が開ける。周囲を見渡してみるが、動いている傀儡兵の姿は見えない。

「……片付けたみたいだな」

 ガラン……と、剥がれ落ちた装甲が足元に落ち、さらさらと砂のように崩れた。

 

『反応、消失! 撃破を確認!!』

 エイミィの歓声が聞こえ、俺は、ようやく一息ついた。

「これで、このフロアは制圧だ」

 足元に転がった、飛行タイプの頭部を虚数空間に蹴り捨て、クロノが戻ってきた。

 

「よし……次だ」

 休んでいる暇は無い。まだ、他のフロアには敵がうじゃうじゃと徘徊している。

「なのは達はどこだ?」

 早いとこ合流したい。

『庭園の……動力炉に繋がる通路! そこからの最短距離は、S2Uに転送済み!』

 よし。

「クロノ、先導頼む」

「ああ」

 いつ虚数空間が開くかもわからない以上、うかつに飛行魔法で飛ぶのは危険だ。バイクも無い以上、走って行くしかない。

 

 無事でいろよ、なのは!

 

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