魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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第二十三話

 フェイトは、バルディッシュを手に庭園内へと降り立った。

 

 いつもの通路。そして、いつもと違うのは、通路いっぱいに傀儡兵が立ち塞がっているということ。

『 『 『 ウオオオオオオオオオッ!! 』 』 』

 途端、襲い掛かってくる傀儡兵。

 侵入者へと、容赦の無い攻撃が加えられる。

『Sonic move』

 だが、その攻撃がフェイトを捕らえることは無かった。

 

――ガギュンッ!!

 

フェイトは、すれ違いざまにバルディッシュを一閃。傀儡兵の脚部を切断する。

 

――ドドドドドッ!!

 

 数体の飛行タイプが撃ち出すエネルギー弾の弾幕。

『Arc Saber!』

「はああっ!!」

フェイトは大上段から、光刃を解き放つ。

 

――ザンッ!!

 

 回転しながら突き進むそれは、弾幕を突き破り道を開け、その向こうにいた飛行タイプを両断した。

 弾幕に開いた穴から、マントを翻しフェイトが疾走する。

『Photon Lancer Multishot』

フォトンランサーを掃射。

 

――ガガガガガガガガガガガガガガガッ!!

 

 魔力弾の豪雨は、傀儡兵の頭に、核に、武器に、吸い込まれるかのように突き刺さり、

 

――…………ドゴォン!!

 

 一拍遅れ、爆発四散。

 傀儡兵達は、何もできぬまま無意味な鉄塊へと成り下がった。

「やああああああっ!!」

 フェイトは足を止めず、文字通りに道を切り開き、前へ進む。

(ボクは、アリシアじゃない)

 戦いながらも、考える。

(ボクとアリシアは、別の人間だ)

それでも、覚えている。

あの事故の後……つまり、アリシアが死に、フェイトが『作られ』、目覚めた時……抱き締められた温もりを。それが、『フェイト』ではなく、『アリシア』への抱擁だったのだとしても、あの瞬間だけだったとしても……間違いなく、プレシアに愛されていたのだと。

 とはいえ、かつてのように妄信しているわけではない。

 プレシアはあの時、フェイトを捨てた。それ以前に行われていた暴行についても、『アレは虐待だった』と正しく認識している。

 

それでもフェイトには、プレシアに会わねばならない理由があった。

「会うんだ……!」

 アリシアの記憶にあった、あの言葉。

 

――ママ、わたしね……

 

「会って、伝えるんだ!!」

 その言葉を……心を病むほどに愛した、アリシアの遺言をプレシアに伝えるという、理由が。

 

「バルディッシュ、いちばん近い道!」

 フェイトは、この庭園の構造を殆ど把握していない。住んでいたのは、表層の居住区、さらにその一部だけ。

『ルート、既に登録済みです』

 バルディッシュは呆気なく、あっさりと回答した。

 バルディッシュの創造主、リニス。

プレシアの使い魔であり、アリシアの飼い猫で……フェイトの育ての親。

彼女はこうなることを……フェイトがプレシアと向き合おうとすることを、予想していたのだろう。

「よーし、頑張ろう、バルディッシュ!」

『Yes sir』

 バルディッシュは、どこか嬉しげに応じた。

 

――ヴンッ!!

 

 新たな傀儡兵の部隊が出現する。

「邪魔だああああああっ!!」

 だが、フェイトは止まらない。

 

――ザンッ!! ガゴンッ!! ガガガガガッ!!

 

 切り裂き、打ち抜き、薙ぎ払い……瞬く間に殲滅していく。

 

 それも、ただ闇雲に戦っているのではない。

脚部や武装などを破壊し、敵の数を減らすことなく行動を不能にしている。

 

なのは達には知る由も無い事だが、この傀儡兵達が現れる転送魔法陣は、自動制御。

 傀儡兵の頭数に変化が起きると、生産プラントから増援が現れるように設定されている。

 つまり、フェイトのように、『頭数を減らすことなく』敵を無力化してしまえば、増援は来ないのである。

 

そして、フェイトは動力炉までの近道……螺旋階段を目指し、稲妻のように駆け抜ける。

 

――バンッ!!

 

 通路の突き当たり、巨大な扉を蹴破る。

 その先に見えたのは、底が見えない程に長い螺旋階段。

 

 遥か下方から、戦闘音が聞こえてくる。

「……もしかして」

 目を凝らして見ると、時折、見慣れた桜色の光が散っている。

「やっぱり!」

 吹き抜けを飛び降りる。

 あえて飛行魔法を行使せず、自由落下の速度に任せる。

 

 そして、見えた先で……

「…………ッ!! 危ない!」

 高町なのはの死角から、傀儡兵が戦斧を投擲していた。

「バルディッシュ!」

『Yes sir.』

 

――バチッ……バチバチッ!!

 

 フェイトの身体の周囲に、稲妻が迸る。

『Sonic move』

 全身に稲妻を纏ったまま、落下速度に、高速機動魔法による加速を加える。そして……

 

『Thunder Impact!!』

 

 戦術も何も無い、身体ひとつでブチ当たる……特攻を仕掛ける!

 

「間に合えええええええっ!!」

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

――バゴンッ!!

 

 胴体を撃ち抜かれた傀儡兵が、吹き抜けを落下していく。

「はあああっ!!」

『Accel Shooter』

「シューーーーーート!!」

 

――バゴゴゴゴンッ!!

 

 後から後から! きりがない!

「ユーノくん、そっちは!?」

「……芳しくない、かも!」

 

――ギリッ……ギリリリリッ……!!

 

 十本近いチェーンバインドで、傀儡兵を纏めて縛り上げている。そして、

 

――メキャメキャメキャッ!!

 

傀儡兵たちの身体を、捻じ切った。

 ……えげつない。でも、バインドを攻撃に転用するのは考え付かなかった。

「レイジングハート、次から参考にしよう!」

『All right』

 

「もう! どこまで続いてるの!!」

 ただ延々と……妙に長い螺旋階段を、アルフの駆るバイクで延々と下る。

「あたし達は、いつも転移魔法で移動していたから詳しい構造は知らないんだけど……」

 階段の段差を危うげ無く越えながら、アルフが言う。

 手摺の下を覗き込んでも、ただ延々と続く螺旋階段しか見えない。

 

 バイクごと吹き抜けにダイブしてもいい……というか、そうしたほうが早いのは当然だけど、そうした瞬間にバイクはただの重い荷物になってしまう。何より……

『Caution !』

 螺旋階段の中心……だだっ広い吹き抜けから、また数多の傀儡兵が顔を覗かせる!

「ああもう! 鬱陶しい!!」

 こうして、敵にしつこく妨害されるっていうのが、一番の理由!

「アルフ、ユーノくん! 先行ってて!」

 バイクから飛び降り、吹き抜けに身を躍らせる。

「ちょ!?」「なのはっ!?」

 

『 『 『 オオオオオオッ!! 』 』 』

 いちいち対応していたんじゃ、間に合わなくなる!

 

 何より、この三人の中では、私が一番戦闘力があるんだから……私が一番、がんばらなきゃ!!

『Accel Shooter!』

「シューーーーート!!」

――キュゴゴゴゴッ!!

 

「次!」

『オオオオオッ!!』

 次は、重騎士タイプ!

「ディバイン……!」

『Divine Buster』

「バスターーーーーーーーーーーー!!!」

――ズバアァァンッ!!

 

「次ッ!!」

『 『 『 ウオオオオオオオオオオオ!! 』 』 』

 次、飛行タイプと騎士タイプの編隊!

『Chain Bind』

 

――ギャリリリリッ!!

 

 そのうち三体に、バインドを絡ませる。でも……しまった。飛行タイプを一機、取り逃がした!

「この~……!!」

 

――メキ……メキッ!! バゴォンッ!

 

 捕まえた奴だけは撃破できたけど……間に合わないっ……!?

「なのはァッ!!」

『Caution !』

 ユーノくんの、切迫した声。

「うわっ!?」

振り返った途端、血の気が引いた。

 目の前に迫る……巨大な戦斧。遥か下方には、それを投擲したと思われる騎士タイプ。

 回避……無理。防御……無理! 迎撃……間に合わない……!!

「や、ばい……!!」

 最悪だ……! 調子に乗った挙句、こんな所で……!

 

「だりゃあああああああああああああ!!!!」

 

――ズッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!

 

「きゃああっ!?」

 いきなり、目の前に閃光が弾けた。いったい、何が……!?

「サンダー……!!」

 え!? この声、まさか!!

 閃光で一瞬だけ失った視力が、回復する。

そして見えたのは……漆黒のバリアジャケット。そして、揺れる金髪。手には、無骨な黒い斧!

 

「レイジーーーーーーーーーー!!」

 

――ガッシャアアアアアアアアアアアン!!

 

 発生した落雷は、傀儡兵を纏めて打ち砕いた。

「………………………………フェイト?」

 紛うことなく、フェイトだ。

「…………………………うん」

「……どうして?」

 あれだけ、プレシアに酷い言葉を言われて、突き放されて……もしかして、まだ、プレシアに縋っているというのだろうか。

「その……ええと…………………………」

 蚊の鳴くような小さな声で、もそもそと呟き……

 

「た……たしゅけにっ……!!」

 

………………………………………………噛んだ。このシリアスな場面で、思いっきり、可愛らしく噛んだ。

「……………………」

「……………………」

「……………………」

 私はもとより、フェイトに駆け寄ろうとしていたアルフや、いきなりバイクを押し付けられたユーノくん、その全ての動きが、止まった。

「た、たしゅけ、たひゅっ、たひゅけに……!!」

 しかも、噛みまくってドツボに嵌り、まともな発音が出来なくなっている。

 こ、これは……ちょっと……無理……!

「ぶフッ!!」

 とうとう、吹いてしまった。我慢できないって。

「………………うがー!!」

 あ、壊れた。

「助けに来たっつってんだろー!!」

 

――バゴォン!!

 

 まるで、フェイトの叫びにシンクロするように、螺旋階段が纏めて吹っ飛んだ。

『グウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』

 で……でかっ!!

 全体の形としては、二足歩行の人型だけど……とにかくサイズが桁外れだ! さっきまで相手にしていた傀儡兵が、ミニチュアに見える!

 

――ガシャコンッ!!

 

 そして、背中に装備した……これまた巨大な大砲が、私たちに向けられる。

させるか!

「シュート!!」

 先手必勝!

 砲口目掛けて、誘導弾を発射する。これで、あの大砲は粉々に……

 

――バチイィッ!!

 

「え!?」

 砲口に吸い込まれる寸前……障壁に阻まれてしまった。

 絶好のチャンスを逃してしまい……私の身体は、敵の照準の中。更に、砲口内部には十分なエネルギーが充填されている!

 

――ドゴオオオオオオオンッ!!

 

『Sonic Move』

『Flash Move』

 レイジングハートと、フェイトのバルディッシュが同時タイミングで高速機動魔法を発動。その射線上から、緊急退避する。

 

――ガキッ、ガキンッ!!

 

 砲身が左右に可動し、もう一度私たちに向けられる。

「「させるかぁっ!!」」

 

――ギャリイイイイインッ!!

 

 緑色と、茜色。ユーノくんとアルフが、チェーンバインドで砲身の向きを換える。

 

――ドゴオォン!!

 

 的をはずした砲撃は、私たちが下ってきた螺旋階段を、壁ごと大きく抉り取った。

「……っと」

 

――ザッ!

 

 いつのまにか、最下層に到着していたようだ。こうして地面に立って見上げてみると、いかにこの傀儡兵が巨大であるのかがわかる。

 

――ズシン……

 

『グロロロロ……』

同じく、着地を果たした傀儡兵。

足場を得たため、より巨体を活かした格闘戦を仕掛けてくるかもしれない。

 

――ジャコンッ……!!

 

 やっぱり。

背中に収納されていた、これまた超巨大なハルバードを取り出した。

 

「ぜぇッ……ぜぇッ……」

アルフは、無茶をしすぎた反動からか、ぐったりしている。ユーノくんがアルフを庇いつつ、巨大傀儡兵の死角に退避。

 

「はぁっ!!」

『Arc Saber!』

 フェイトが光刃を飛ばす。それを、巨大傀儡兵は棒立ちで迎えた。

 

――ガキィンッ!

 

 避けるまでも無い、ということか。光刃は、あっさりとバリアに弾かれてしまった。

「バリアも硬い!」

 最大威力に近い誘導弾を、数発纏めて弾いたバリアだ。ディバインバスターでも、打ち抜いて本体にダメージを与えるのは難しいかもしれない。

「それに……ッ!!」

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 大上段から、ハルバードで薙ぎ払ってきた!!

 

――ドガガガガガガガッ!!

 

 地面を、壁を、掘削機のように抉り飛ばす!

 

 暴風のような攻撃の中、照れくさそうに……そして、嬉しそうに、フェイトが言う。

「でも……二人でなら!!」

 私への信頼を、口にする!

 

――ガキンッ!!

 

 再び、背中の大砲が私たちに向けられる。

でも。

「うん……!!」

 フェイトが、私を信頼してくれている……

「うんっ!!」

 それが……そんなことが、堪らなく嬉しくて……!

『ウオオオオオオッ!!』

「はああああああっ!!」

 

――キュゴゴゴゴッ!!

 

『グアッ!?』

 力が、沸いてくる!!

「アクセルシューター…………フルパワー!!」

「フォトンランサー……マルチショット!!」

 単発が効かないのなら、数で押す!!

「シューーーート!!」

「ファイアッ!!」

 

――ガゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴンッ!!

 

巨大傀儡兵が仰け反る! 

 

今がチャンスだ!!

 

「行くよ、バルディッシュ!!」

『Lancher From』

 

「こっちもだよ、レイジングハート!」

『Cannon Mode』

 

――チュイイイイイイイイイイイイイイイイイン…………!!

 

 敵の大砲に、膨大なエネルギーが集まっていく。

 そんなもの!!

 

「ディバイン……!!」「サンダー……!!」

 

 私たちには、通じない!!

 

「バスターーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「スマッシャーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

――ッドゴォン!!

 

 私たちの砲撃魔法と、敵の砲撃が衝突し、拮抗する。

『グ、グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 じりじりと、押されている。でも!!

「フェイト、行くよ!!」

「うん!!」

フェイトと私は、何度も何度も戦った好敵手。

攻撃のタイミングから、砲撃魔法の瞬間最大放出量まで、把握しきっている。

 

呼吸の合わせ方なんて、今更確認するまでも無い!!

 

「 「 せーーーーーーーーの!!! 」 」

 

気合とともに、一気に威力を増した砲撃魔法は……

 

 

――ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!

 

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

巨大傀儡兵を打ち抜き……庭園の外まで、突き抜けた!!

 

 

 

――ズズゥン……

 

 巨大傀儡兵が、沈む。

 

――バシュウウウウッ…………

 

 レイジングハートとバルディッシュが、一仕事を終えたかのように排熱を行う。

「……………………フェイト」

 歩み寄り、その手を取る。 

「……………………」

 無言で……でも、確かに、フェイトは握り返してきた。

「ありがとう、助けてくれて」

「………………うん」

 少しはにかんで、フェイトが笑う。

「フェイトーーーーーーーー!!」

 アルフが、ユーノくんを荷物のように小脇に抱えて駆けて来た。

「アルフ……ッ!!」

 それを、フェイトがしっかりと抱きとめた。

 

 と、その時。

視界の隅で何かが……倒れたはずの巨大傀儡兵の巨体が……!

『ウ、オオオオオオオオオ!!』

「なっ……!?」

 うそ! まだ動けたの!?

『グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

――ブオォンッ!!

 巨大傀儡兵は残った右腕で、へし折れたハルバードの柄を、私たちに投擲してきた!

「くっそ……!!」

 間に合うかどうかわからないけど、ディバインバスターで……!

 

「――――ぉぉぉおおおおおりゃああああああああああああああ!!」

 

――バゴオオオオオオオオオオォンッッ!!

 

 投げつけられた、電柱ほどの太さのあるハルバードの柄が、粉々に粉砕された。

『Blaze Cannon』

そして、涼やかな電子音声。

――バゴンッ!!

『ゴブッ…………!!』

 巨大傀儡兵の頭部を、消し飛ばした。

 

 もうもうと立ち込める砂煙。

 それを切り分け、出てきたのは……

「なのは、無事か!?」

秀人さんだった。

「大丈夫、だけど……」

 秀人さんの足に目をやる。

 よっぽどの勢いで落下してきたからなのか、片足をずるずると引きずるように歩いてきた。

「足、大丈夫? 痛くない?」

「……ああ、気にするな。すぐ治る」

 だから、そういうこと言ってるわけじゃ……

「って、フェイト!? 何でここに!?」

 秀人さんが仰天している。

「……秀人」

 あ、クロノだ。でも、どうしたんだろう?

 額に、見事なまでに青筋が浮かんでいて……明らかに怒っている。

「……エイミィから連絡があった。君が破損させたブリッジの内壁……その奥にあった、AMF発生装置のコントロールユニットが粉々だそうだ」

 ああ、だから転送魔法で来られたんだ……

「…………………………ツケに」

「出来るかッ!!」

――ごんっ!

 S2Uでしこたま殴られていた。

「まぁまぁ……おかげで、危ないところで助かったんだし、いいんじゃない?」

 あそこでフェイトが助けてくれなかったら、墜とされていた。

差し引きゼロ、ってことで。

「それは……そうだが」

「そうなの。だから、結果オーライだよ」

 

『みんな、聞こえる?』

 S2Uから、全体に向けて通信が入った。

『さっき、秀人君となのはちゃんが倒した二体の傀儡兵なんだけど……』

 エイミィだ。

『どうにも、あの二体が、他の傀儡兵の親玉……っていうか、生産プラントそのものだったみたい。

二体の間で循環するエネルギーの余剰出力で、他の傀儡兵を製造したり、動かしていたらしいんだ』

一応、念のために。

「レイジングハート、エリアサーチお願い」

『All right』

 

――キンッ……

 

 音叉を鳴らすような音を立て、波紋が広がる。

エリアサーチの結果は……

『周辺に、敵性因子と思われる熱量・質量・魔力を持った存在は、認められません』

「……本当みたい」

 

 ところで。

「秀人さん達も、あのおっきいの倒したの?」

「ああ。でも、そんなに強くは無かったけどな」

 秀人さんは、右斜め上に視線を外し、言う。

これ……秀人さんが、話を誤魔化す時の仕草だ。

「……嘘」

 秀人さん……何を誤魔化そうとしているのかな……?

「な、何がだ?」

「……怒らないから。絶対に怒らないから。……正直に教えて?」

「いや、何のことだか俺にはさっぱり、」

 この期に及んで、まだ白を切ろうだなんて……

「お・し・え・て?」

――ごりっ……

 キャノンモードの先端を、鼻先に突きつける。

「秀人……諦めろ」

 クロノが、ふぅとため息をついた。

 秀人さんは、がっくりと肩を落とす。

「……わかったよ」

 そして、クロノも説明に加わって…………

 

 

「秀人さんの馬鹿ーーーーーーーーーーーー!!」

 

 

「おおおお怒らないって言ったろー!?」

 さっきはさっき、今は今!!

「何で言ってくれないの!? 同時に叩けば、もっと負担無く倒せたのに!!」

 リンクしているというのなら、二体の、同じ箇所に損傷を与えてしまえば、修復は行えない。

そんな簡単なこと、秀人さんが気づかないわけない。

なら、理由はひとつだ。

「また、私に負担をかけないようにって抱え込んだんでしょ!?」

「…………ああ」

 

「なのは、ストーーーーーーーーーーップ!!」

「ちょっと待った! 話を聞いてくれ!!」

 ユーノくんまで、庇い立てする気!?

「…………なに。言い訳なんて聞きたくない」

 チャージ、完了。

「なのはには、大事な役割があるからなんだ!!」

 ぴたっと、発射直前で止める。

 大事な、役割……?

「この先に、この庭園を動かしている動力炉がある」

『うん。そこから、数百メートルの距離』

 エイミィが言うからには、本当なんだろう。

「動力炉には、ロストロギアが使われているらしくて、封印魔法で動きを止めることが出来る」

 フェイトが、バルディッシュ振った。

「リニス……えと、ボクの先生みたいな人が、バルディッシュの中に色々とデータを残してたから、本当だよ」

 なんとなく、話が読めてきた。

「でも、俺の封印魔法は乱暴すぎて……逆に、動力炉を暴走させるかもしれない」

「………………」

「だから、なのはには、できるだけ万全の状態で動力炉の封印に向かってもらおうと思って……」

「……話は、理解できたよ」

「なら……」

「でも……………………一言くらい、欲しかった……」

少しくらい、頼ってくれたって……私、そんなに頼りないのかなぁ……

「悪かった。今度からは、ちゃんと言うから」

 凹んで俯いた私の頭に、ぽん、といつものように秀人さんの手が乗っかる。

「……絶対だからね」

 今日のところは……許してあげよう。

 

 

「二手に分かれるぞ」

私と、ユーノくんと、クロノは動力炉へ。

 封印魔法が使える私と、結界魔法に詳しいユーノくん、それに、いざというときの保険にクロノ。

 傀儡兵はもういないけど、崩れた瓦礫で道が塞がれていたとき、一々私が吹き飛ばしていたのでは、肝心なときに魔力が足りなくなってしまうかもしれない。

 そこで、クロノが露払いを買って出た。

 

フェイトと秀人さんとアルフは、プレシアの元へ。

 こちらは、秀人さんがどうしてもプレシアに一言ぶつけてやりたい、と望んだことだ。

「秀人さん、気をつけてね」

「任せとけ」

 うん。秀人さんがいれば、こっちも大丈夫。

「ユーノ、クロノ。なのはのこと、頼む」

「うん。任せて」「ああ」

 それにしても、秀人さんとクロノ……初対面は最悪だったのに、結構仲良くなったよね。

 これも、秀人さんの特徴なのかもしれない。

 もしかしたら、プレシアも説得できちゃったり……なんて、都合良すぎるよね。

「それじゃ、行こう!」

 妄想はここまでだ。

「無茶はするなよ、なのは」

「秀人さんには言われたくないよっ!!」

 まったくもう!!

「ははは、そうだな。んじゃ、行くぞフェイト、アルフ!」

 バイクではなく、自分の足で走っていく。

 

「フェイト!」

 秀人さんについていくフェイトに、声をかける。くるりと振り向いたフェイトに、一言。

「がんばれ!」

「……うんっ!」

 フェイトは今度こそ振り返らず、走っていった。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

――ドォン……!!

 

「……っく!?」

 プレシアは、次元震とは違う揺れに身体を揺さぶられた。

 一瞬、苦痛に顔をしかめ……次第に、歓喜に染まっていく。

「あと、少し……」

 ジュエルシードが、いよいよ本格的に空間を破ろうとしている、その証だった。

「もうすぐ……行ける……アルハザードに……」

 うわごとのように、ぶつぶつと繰り返す。そして、唐突に、

 

――ズズズズ………ズ…………………

 

 振動が、止まった。

「……なに?」

 

『プレシア・テスタロッサ……聞こえていますね?』

 

 その声を……リンディの声を聞き、悟る。

「邪魔を……!!」

 こんな大詰めで、またしても邪魔が入ったことを。

『次元震は、私が抑えています』

「ディストーション、シールド……!!」

 次元震を押さえ込む。ただそれだけに特化した、汎用性の欠片も無い術式。

 途方も無い魔力を喰う上、非常に高度な演算が求められるために、術者は他の魔法を発動できず、その場を動くことも出来ない。

そして、次元震の中心部近くでしか発動できないという最大のデメリットがある。

 リンディが今の今まで使用しなかったのは、そういうことだった。

 秀人たち突入部隊が道を開き、障害となる傀儡兵を全て止めたことで、ようやく発動できたのだ。

『動力炉も、じきに封印されます』

 リンディは、宣告を下す。

 

『終わりです』

 

「まだよ! 私は、アルハザードへ……!!」

『アルハザード……失われし都。禁断の秘術……そんなものは、もう失われています』

 それは、管理世界の人間であれば、生涯に必ず一度は耳にするであろう御伽噺。

 

原初にして、至高の世界。

 死者蘇生。時間支配。因果律操作。

 神域の技法を誰もが使用し……なんらかの理由で、滅びた世界。

 

 そんな世界は、最初から無かった。

そもそもが作り話だというのが最も現実的な話だ。

第一、 本当に時間や因果律を支配できたというのなら、なぜ滅びたというのか?

この御伽噺の作者が未だに不明だということが人々の空想に拍車を掛け、一人歩きしているに過ぎない。 

 いよいよ、そんなオカルトじみたものに縋るようになってしまったのか、と、リンディはプレシアを哀れむ。

「違うわ」

 だがプレシアは、それを確信を持って否定する。

「アルハザードは存在する」

『…………では、あなたは。そこに行って、何をするの?』

「取り戻すのよ……私とアリシアの……過去と未来を……」

 神を、運命を呪う、呪詛を吐く。

 

「こんなはずじゃなかった、世界の全てを!!」

 

 

――バゴンッ!!

 

 と、壁が破壊された。

「おかーさん……」

 フェイトとアルフが、姿を現す。

「お前に一つ、教えてやるよ」

 更にその向こうから、瓦礫を踏みしめる足音。

 ボロ切れ同然のジャケット。穴だらけのグローブ。プロテクターが剥がれ落ちたブーツ。

 

「過去を取り戻すことは、誰にも出来ない」

 

秀人が、プレシアの元に辿り着いた。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

(やっぱり、似てるなぁ……)

 秀人は、初めて生身で相対するプレシアに、そんな意味不明の感想を抱いていた。

 漫画のような巨悪をイメージしていて、モニター越しに見た姿はまさにソレだったのだが……こうして見ると、普通の人間であることに、戸惑った。

 

「お前は、お前たちは……なぜ、邪魔をする!? 何度も、何度も……!!」

 憎憎しげに秀人を睨み付けるプレシア。

 その傍ら、あの巨大な水槽の中には、フェイトにそっくりな少女の遺体。

 フェイトはそれを、何ともいえない表情で、ただ見つめていた。

「……あんたが、俺の家族や知り合いを危険に晒すからだ」

 次元断層などというものをこんな場所で起こされでもしたら、秀人たちの世界は、凄まじい被害を被ってしまう。カントクも、先生も、桃子も、恭也も、、美由紀も、アリサも、すずかも……傷付き、最悪、死んでしまうかもしれない。

「もう、よせ。あんたがどう足掻いたって……その子はもう、死んでいるんだ」

 プレシアもまた、ある意味被害者であるということは、秀人にも分かっている。

 話し合いで止まってくれるなら……暴力に訴えずに済むのなら……それに越したことは無い。

「あんたがやろうとしているのは、ただの無意味な虐殺だ」

「関係無い……! 私は、アリシアさえ取り戻せれば……!!」

(駄目か……)

 諦観が、秀人の心を支配しかける。もう、誰かの言葉で止まれる段階ではないようだ。

 

(仕方ない。言葉が通じないなら……ぶちのめして、確保しよう)

「待って」

 だが、フェイトが秀人を止めた。

「ボクに、話させて」

 両手を横に広げ、秀人の前に立ち塞がる。

「……大丈夫か?」

「うん。……アルフも、お願いだから、ボクにやらせて」

「…………わかった」

「ありがと」

 アルフを一撫でし、一歩、前へ。

 

「おかーさん……」

 フェイトが、プレシアに一歩、近づく。

「お前の母親になった覚えは無い」

 プレシアは、目も向けずにそう言った。

「てめぇ……!」「アルフ、少し待て」

 飛び出そうとしたアルフの手を掴み、止める。

 

「ううん。おかーさんは、おかーさんだよ」

 笑みを浮かべ、母親への好意を言葉にする。

 

「ボクの中にある記憶は、アリシアの物なんだよね」

「そうよ。おまえは、アリシアの模造品だもの」

 淡々と、フェイトを否定する。

 

「おかーさんは、ボクのことなんてどうでもいいんだよね」

「そうよ。私には、アリシアさえいればいいのよ」

 暖かな言葉に、酷薄な返事。

 

 だが裏を返せば……フェイトは、プレシアとの会話を成立させているということだ。

「おかーさん、覚えてる? アリシアの、六歳の誕生日のこと」

 六歳……アリシアが、死んだ年。

「………………」

 黙っているのは、肯定だろうか。

「ピクニックに行って、シート広げて……花の冠、作ってあげたんだよね」

 場違いなほど楽しそうに、自分のものではない思い出を語る。

「それが、何だって言うの!!」

 プレシアは激昂し……初めて、フェイトと目を合わせた。

「それは、アリシアの記憶よ! お人形のお前じゃない! 私の、アリシアの記憶なのよ!」

 プレシアは、言葉のナイフでフェイトを切り刻もうとする。

「ううゥ……!!」

 アルフは怒り心頭で、変身魔法が解けかかっている。

「頼む。もう少しだけ、我慢してくれ」

 

「うん、知ってるよ。これは、アリシアとおかーさんの記憶」

だがフェイトは、寂しそうではあるが、微笑を崩さない。

 

「おかーさん……アリシアが、誕生日に何を欲しがっていたのか、覚えてる?」

 

 劇的な、変化があった。

「…………あ、…………あ」

 ぱくぱくと、愕然とした面持ちで、フェイトの顔を……いや、アリシアの面影を、穴が開くほど見つめる。

「……覚えてない?」

「違うッ!! 覚えてる……覚えているわッ!!」

 プレシアは、割れるような大声で、否定した。

だがそれは……暗に、今の今まで忘れていたということの、証明だった。

「プレゼント……アリシアの、誕生日プレゼントは……!!」

 必死に思い出そうと、髪を振り乱し、かきむしる。

 

 ふらふらと後ずさり……虚数空間の穴の方へ……!!

「ッッ! 止まれ、馬鹿!!」

 秀人の制止も空しく……

 

――ごつんっ……

 

と、プレシアの身体が、アリシアの遺体が入った水槽にぶつかった。

 次元震の揺れで、不安定に傾いていたアリシアのポッドは、自重で傾いていってしまう。

「アリシアッ!!」

 我に返ったように、アリシアの水槽の、その金具部分を掴み止めようとした。

だが、質量の差から、プレシアの身体までもが、虚数空間へと吸い込まれるように……

「…………あ」

 落ちる。

「アリ、シア……」

 落ちていく。奈落の底へ。

 

――綺麗な花が咲く、どこまでも続くような草原。

 

 それは、人が死の直前に垣間見る、走馬灯だったのだろうか。

 

――自分と娘だけの、一年に一度の、楽しい時間。

 

 かつて無いほど鮮明に、幸せだったあの日の風景が、目の前に広がる。

 

――アリシアは、小さな手で一生懸命に花の冠を作ってくれて、少し楕円気味になったそれを、頭に乗せてくれた。

 

「アリシア、ありがとう……母さん、とても嬉しいわ……」

 プレシアの口から、言葉が漏れる。心だけが、あの日に戻ったかのように。

「誕生日のプレゼントは、何がいい……?」

 久しく忘れていた笑顔を浮かべながら、幻影のアリシアに語りかける。

「なんでもいいのよ……ぬいぐるみ? おもちゃ?」

『本当に、何でも良いの?』

「ええ、もちろんよ」

『それじゃあ……』

 アリシアへのプレゼントとは、なんだったのか。

『ママ、わたしね……』

 

 

 

――妹が欲しいの

 

 

 

「あ…………」

 ハッと……夢から覚めたように、思い出した。

『妹がいれば、お留守番してても、寂しくないんだよ』

「そう……でも、ごめんなさい。すぐに用意することは……できないの」

『ふ~ん、そっかぁ……じゃ、約束!!』

「約束……」

『いつか必ず……妹に会わせてくれる?』

「ええ、約束するわ。いつか、必ず。あなたの妹に……会わせてあげる」

 

「おかーさん! ……おかーさんッ!!」

 穴の淵から、必死に手を伸ばす……自分を母と呼ぶ、アリシアとよく似た少女。

「妹…………アリシアとの、約束……」

 そう。最初から、間違えていたのだ。

『彼女』は、アリシアの代替品では……人形などでは無かったのだ。

「わたしは……何をしていたのだろう」

 彼女は、アリシアではない。

「私は、いつも……」

 彼女は、アリシアが切望した……妹だったのだ。

「気づくのが、遅すぎる……」

 

 

――約束は、果たされていた。

 

 

「ごめんなさい…………アリシア」

 大事な妹を、愛してあげなかったことを。

 

――――神という存在が、あるとしたら。

 

「ごめんなさい…………フェイト」

 もう一人の娘を、愛してあげなかったことを。

 

――――残酷なまでに平等で、公平だ。しかし。だからこそ。神という存在は……

 

「ごめんなさい……!!」

 心の底から、謝罪した。

 

――――罪を償おうとする者には、平等に……

 

 

 

「気付いたなら……まだ、遅くない」

 

 

 

――――救いの手を、差し伸べる。

 

「過去を取り戻すことは、誰にも出来ない」

 

――救いの手は痛いほどに、力強く……プレシアを繋ぎ止めている。

 

「それでも……どんなに辛い過去、やり直したい過去でも……現在に繋がっている」

 

――腰元から伸びる、一本のロープ。それだけの装備で、虚数空間へ飛び込んだ。

 

「過去を取り戻すことが出来なくても、あの日に帰ることができなくても……」

 

――彼は、そういう男だ。手を伸ばさずにはいられない、愚直なまでの、お人よし。

 

 

「今を生きて、過去を償うことは、きっと……誰にでも出来るんだ」

 

 

――吾妻秀人は、そういう男だ。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

――間に合った……!!

 

 柱に命綱を結んで、虚数空間にダイブして……プレシアの手を、掴んだ。

「…………っく!!」

 でも、さすがに重い……!!

 無理がある体勢で、プレシアと……プレシアが掴んでいる、液体が満タンに詰まった水槽を支えているんだ。

 プレシアがアリシアを手放せば簡単だけど……そんなこと、絶対にしないだろう。

「この~!!」

 フェイトとアルフが引っ張りあげようとしているけど……こいつは厳しい。

「手を、放しなさい」

 宙ぶらりんんのまま、憑き物が落ちたように涼やかな声で、プレシアが言った。

「このままじゃ、あなたまで落ちてしまうわ。私は、いいから……」

「ざっけんな!! 何、一人で勝手に諦めてんだよ!! あんたは、まだ……!!」

 力を込めながら、プレシアに届かせるように、叫ぶ!

 

「フェイトに、謝ってないだろうがッ!!」

 

 プレシアは、心底不思議そうに首をかしげた。その手は、水槽を保持し続けている為にうっ血し、青黒く染まっている。

「なぜ、そこまでするの……? 私は、フェイトをさんざん虐めて痛めつけた……あなたにとっても、憎い敵なんでしょう……?」

 確かに、憎くないと言えば嘘になる。

「超、個人的なことなんだけど……」

 でも、憎めない。憎みきれない。なぜなら……

「……あんたってさ、」

 初めて見たときから、思っていた。

 

 

「俺の母さんに、似てるんだよ」

 

 

 あの日、離してしまった手。

「マザコン野郎って笑いたければ、笑えよ……!!」

 今は……この手を、絶対に離さない!!

「もうすぐ、増援が来る!! それまで、諦めるな!!」

 

 命綱は……まだ、ほつれていない。クロノ達が来れば……

 

――ズズンッ……!!

 

 と、庭園が、最後の抵抗のように、身を震わせた。

 その揺れは、最深部に程近かったこの場所にも伝播し、地面を揺らし……

「あ……」

 フェイトの小さな身体を、宙に放り出した。

 穴の淵に足を掛け、踏ん張っていたフェイトは当然、虚数空間の中に……!!

 

「フェイトオオオオオオオオオ!!」

アルフの絶叫が、木霊する。

「フェイト、掴まれえええええ!!!」

 プレシアを右腕一本で吊り下げ、左手を伸ばす!!

 

――ズルッ……

 

フェイトの手は、俺の手をすり抜けて……!!

 

 

「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 一瞬、庭園が揺れたのを感じ、プレシアはアリシアの水槽を持つ手に力を込めた。

 

 顔を上げた先。

「あ…………」

穴の淵から、フェイトが投げ出される姿と、

「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 秀人がフェイトの手を掴み損ね、叫ぶ姿が……静止画のように、目に飛び込んできた。

「フェイト…………」

 それは、半ば無意識で行った行動だった。

――『現在(いま)を生きて、過去を償う』。

 秀人の言葉……それが、その瞬間にプレシアの脳裏に浮かんだのかどうかは、不明だ。

 

「フェイトッ!!!」

 

 プレシアは、迷うことなく……

 

 

――アリシアの水槽を手放し、フェイトの手を……しっかりと、掴んだ。

 

 

「え……?」

 フェイトは、ぽかん……とプレシアを見つめる。

「おかー、さん……?」

 必死な表情で、自分を助ける、母親の姿を。

「フェイト……! 放したら駄目よ……!!」

「おかーさん……でも、アリシアが!!」

 虚数空間へ落ちていく、アリシアの亡骸。

「アリシアはもう、死んでいるの……!!」

 とうとうプレシアは、現実を受け入れる。

「あなたはまだ、生きているのよ!

アリシアの妹を……娘を! 二度も死なせて、たまるものですか!!」

「……!!」

 フェイトの目が、見開かれる。

「ボク……おかーさんの子供で、いいの?」

 しょぼくれるフェイトに、プレシアが微笑みかける。

「あなたは、アリシアの妹よ。わたしの娘……フェイト・テスタロッサ」

 

「おかーさんっ!!」

「フェイト!!」

 母は娘を。娘は母を。

放さぬように。離れぬように。お互いを、しっかりと抱きしめた。

 最後の手向けにと……落ちていくアリシアを、瞬きもせずに、見送る。

 

――ぱきんっ

 

 ……と。バルディッシュの台座の、アミュレットが、砕けた。

 その二人の耳に……ある声が、確かに聞こえた。

 

 

『――――ママ……約束、守ってくれてありがとう』

 

 

それは、プレシアには懐かしく。 

 

 

『――――フェイト……やっと会えたね』

 

 

 フェイトには、聞きなれない声だった。

 

それは、この場においてありえる筈の無い……アリシアの声だった。

だが、二人の耳に、アリシアの声は確かに届き。

水槽の中。動くはずの無いアリシア亡骸は。

 

 

『――――――――――ちゃんと、仲良くするんだよ?』

 

 

 確かに……微笑んでいた。

 

 

「 「 アリシアアアアアアアアアアアアアアアア!!! 」 」

 

二人の母娘の長い夜は……ようやく、終わりを告げた。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「おりゃあああああああ!!」

 

――ブオンッ!!!

 

 最も重い水槽が無くなったことで、俺とプレシアとフェイトは、アルフの気合と共に、穴から引っ張り上げられた。

「さ、さすがに、今回ばかりは………………死ぬかと思った…………!」

 息も絶え絶えに、その場にへたり込んだ。

 プレシアとフェイトは、お互いを抱きしめあっている。

 解決……といえば、解決だ。九つのジュエルシードは虚数空間に落ちてしまったけど、主犯のプレシアは無事確保。次元震も、リンディさんのなんとかシールドで抑えられていて、持ちこたえている。

でも。

あのアリシアって子の遺体……できればあれも、ちゃんと回収してやりたかった。

「ウー…………」

 アルフが唸りながら、フェイトとプレシアを見ていた。

「いいのか? お前は行かなくて」

 ひょこっと顔をこっちに向ける。

「あたしはまだ……アイツを許せない」

 ……そりゃ、そうかもな。フェイトを散々痛めつけた奴だ。フェイトを大事にしているアルフが、そう簡単に納得するわけがない。アルフ本人も、結構……いや、滅茶苦茶ひどい目に遭ってるし。

「でもさ」

 と、アルフが俺を……正確には、右手の魔力結晶を見ながら、言う。

「それ、元はあたしの腹ん中にあったんだよな」

「ああ」

「でも、臓器との癒着は無かった」

「……ああ」

 なんとなく、アルフの言いたいことが伝わってくる。

「もしかして、プレシアは…………最初から、いざとなれば取り出せるようにしていたんじゃ……」

「…………どう、だろうな」

 確かに、そういう見方もある。俺も最初は、理由を思いつかなかった。

 もしかしたら……という、あくまで仮定の話だが。プレシアは、最後の最後まで、己の内にあった修羅に、抗い続けていたのではないだろうか?

「あたしは、信じてみようと思うんだ。

今は無理でも……アイツが、ちゃんと反省してるってことが、納得できるまでは……」

 その頭に手をやり、犬にするようにわしわしと撫でる。

「……好きにするといい。これから、時間はいくらでもあるんだから」

 さてと……

「急いで脱出しよう。もう、いつ崩れるかも分からない」

 なのは達のことだ。ちゃんと封印はできているとは思うが……さっきから、細かな震動が続いている。もう、この庭園そのものが崩れ始めているんだ。

 

「プレシア、フェイト。脱出するぞ」

 俺は、落ち着いてきた二人に言う。魔力以外にも、いろいろと消耗しているに違いない。

「おかーさん、立てる?」

「ええ。……ッ!!」

 立ち上がろうとして……すとん、と膝が砕けてしまった。

ったく……無理するから。

「よいしょ」

 プレシアを担ぎ上げて、背負う。軽いなぁ……

「…………あ」

 耳元でプレシアが何かを言おうとしていたが……とにかく今は、脱出する方が先だ。

 

「行くぞ!!」

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

――ズズズズズ……………………

 

 封印魔法を打ち込まれた動力炉は、始めは抗うように震動を増していたけど……それが、ぴたりと止まる。

『Sealing Completed』

「よし!!」

 動力炉の封印、完了!!

「クロノ、ユーノくん、戻るよ!!」

「了解だ」「急ごう!」

 もう用は無い。一刻も早く、秀人さん達と合流しなきゃ!

 

――ズシン!!

 

「え!?」

 今の揺れは……!?

「ちゃんと、封印したよね!?」

 走りながら、ユーノくんに聞く。

「ああ、手順も問題なく、魔力も十分だった!」

「じゃあ、何で!?」

「単純に、この庭園そのものが壊れ始めているんだ! 急いで脱出しないと、生き埋めだ!」

 ったく、最後の最後まで気が休まる暇が無い!

『クロノくん! 転送ポート、一番近くに開いたから! なのはちゃん達も連れて、急いで!!』

 一番近くって……それでも、直線距離で二百メートル以上は離れている。

「秀人たちと……プレシアはどうなった!?」

 目の前の壁を、砲撃魔法で破壊しながらクロノが聞く。

『ええと……魔力反応、四つ! 健在だよ!!』

 秀人さん。フェイト。アルフ。そして……プレシア。

「ヤツなら当然だ」

「うん。秀人なら、やってくれると思ってた」

 クロノとユーノくんは驚いた様子も無い。

 でもまさか、あの益体の無い妄想が現実になるなんて……

『……よし、バルディッシュに、データの転送、完了! もう大丈夫!』

 それじゃあ後は、脱出用の転送ポートに向かうだけだ!

 

 足元に開く虚数空間に気をつけながら、走る。

「なのは!!」

「秀人さん!!」

 よかった! フェイトも、アルフも無事で……

 その秀人さんに背負われて……プレシアの姿が見えた。

「……プレシア・テスタロッサ」

 クロノが一歩、踏み出す。

そして、感情を抑えた声で罪状を読み上げる。

「時空法違反・特殊研究管理法違反・ロストロギアの不正使用……そして、児童虐待の容疑で、あなたを逮捕する」

 フェイトが、プレシアの服の裾を、ぎゅっと不安そうに握り締めた。

「クロノ、今はまだ……」

 秀人さんが、苦りきった顔で言う。

「……分かってるさ。今は、脱出する方が先決だ」

 

 転送ポートに、大人数で一気に飛び込み、アースラに帰還。その直後、さっきまで転送ポートがあった場所が、虚数空間に飲み込まれた。

「あ、危なかった……!!」

でもこれで、一安心……

 

――ズズズズ……!!

 

 じゃない。もう震動は、かなり危ないレベルに達してきている。

「クロノ。もしこの庭園が崩れたりしたら、どうなる?」

 秀人さんが、単刀直入に聞く。

「これだけの質量だ。たとえ動力炉を封印してあるとはいっても、周辺の次元世界には、少なからず被害が出る」

「具体的には?」

「……庭園の破片が、ワープアウトして落ちてくる」

 大惨事だよ!! 庭園の破片……遠めに見ただけでも、10メートル四方はある! それが、無数に降り注いだりしたら……!! 

山奥とかだったら、まだいい。でも、それが街中に落ちてきたりでもしたら……!!

「アースラの武器で、粉々にしたりとか……!」

あの図体だ。どうせ、山のように武器を搭載しているに決まってる。

「粉砕しようにも……封印した動力炉がまた活性化して……更に被害が広がることも考えられる」

「じゃあ、どうすればいいの!?」

 ああもう、クロノに当たっても仕方ないっていうのに!!

「あの庭園を、丸ごと封印するしか無いだろうな」

「丸ごと……」

 あの、東京ドーム何個分かを数えるのも馬鹿馬鹿しいサイズの、庭園を……?

「なのは。ユーノ」

 秀人さんが、その庭園を睨みながら、言う。

 

「俺達で、なんとかしよう」

 

 …………そうだよね。今ここで騒いでいる暇なんて、無いんだ。

 頭が、すーっと冷えていく。そして、レイジングハートを握り締める。

「待って! ボクも……!」

 フェイトが加われば、成功率はぐんと上がる筈。

「バルディッシュ、もうヤバいんだろ」

 え……? 見た感じ、傷一つ無いけど……

「う……」

 苦虫を噛み潰したような表情で、黙りこくる。じゃあ、本当に……?

「うん。間に合わせで応急処置したんだけど、ここに来るまでの戦闘で……」

 バツが悪そうに、白状した。

「でも、魔力ならまだ余裕が……!!」

 それに、レイジングハートが答える。

『これから行う封印魔法は、大量の魔力を消費します。バルディッシュが万全ならば、耐えられるでしょう』

 それは、逆を言えば万全でなければ耐えられないということだった。

「もし、今の状態でバルディッシュを使ったら……?」

『全機能……機構から思考AIまでの全てが、全損します』

「…………!」

 フェイトはバルディッシュを握り締め、息を呑んだ。

 機構……外装の損傷であれば、直せば直る。でも、思考AI……要は、バルディッシュの心は、戻ってはこない。

つまり、バルディッシュは死んでしまう。

『……あなたが、望むのであれば』

「馬鹿なこと言うな!!」

 バルディッシュのその言葉に、フェイトが声を張り上げる。

 

「だから今回は、俺達に任せておいてくれ」

 うん……それしか、無いよね。フェイトだって、バルディッシュを犠牲にしたくはないだろうし。ちょっとだけ、厳しいかもしれないけど……

「待って」

 意外な人物が、声を上げた。

「おかーさん?」

 プレシアが、秀人さんを見ている。

「少しだけ、待って頂戴」

 いったい、何だろう。

「フェイト、バルディッシュを」

「うん」

 疑いも無く、バルディッシュを差し出した。プレシアはそれを手に、極小の探査魔法で、バルディッシュの状態をスキャンする。

「機体の損耗は……外部は12%、内部が40%」

 四割……大雑把に言って、半分が壊れているらしい。秀人さんの見立ては、正しかった。

 そしてプレシアは、次に私を見た。

「あなたのデバイスを、見せてくれないかしら」

「え…………」

 レイジングハートを抱き、後ずさる。だって……ついさっきまで敵だったんだ。警戒するな、って方が無理だ。

「お願い。時間が無いの」

 どうしよう…………考えて、考えて。

「ううううう……秀人さぁん……」

 秀人さんに、委ねた。

「……それは、なのはが決めるといい」

「そんなぁ……」

 私はまだ、そこまで割り切れないよ……

『マスター』

 レイジングハート……?

『ヒデトは、彼女を信じたようです。ですから、私も彼女を信じてみようと思います』

……レイジングハートが、そう言うなら。

「……………………わかった」

 本当は嫌だけど、プレシアに任せてみよう。

「……どうぞ」

 プレシアに、レイジングハートを手渡す。

 そしてプレシアは、バルディッシュと同じように、内部をスキャンした。

「損耗率、内部・外部、それぞれ10%以下………………っ!? 

これは……!?」

何か驚いた様子だ。さっきから、プレシアは一体何をしようとしているのだろう。

「あなた……」

 秀人さんに何かを言おうとして、言葉に詰まった。

「秀人だ」

 あ。そっか、名前……

「秀人。この二機を持ちなさい」

 プレシアは、フェイトから受け取ったバルディッシュと、私達のレイジングハートを秀人さんに手渡した。

「ええと……持ったけど」

 左手にレイジングハートを、右手にバルディッシュを持った秀人さんが、プレシアに聞き返す。私もフェイトも、両手の納まりが悪い。

「あの魔法を使いなさい」

 あの魔法……って、例の連結魔法陣を? 何でこのタイミングで……

「でも、いくらアレで魔力を増しても、バルディッシュの機体が耐えられないことに変わりは……」

 秀人さんも同じようで、納得がいっていない。

 だがプレシアは、予想外の提案をしてきた。

 

「あなたたちじゃない……バルディッシュとレイジングハートを、繋ぎなさい」

 

「……はい!?」

 え、それって、レイジングハートとバルディッシュを、合体させるってこと!?

「そんなこと、できるわけが……!」

 機体を制御するプログラムから、構成素材まで……レイジングハートとバルディッシュに、共通項はほとんど無い。

 いや、もしあったとしても……そんなプラモデルみたいに簡単には……

 

だがプレシアは、確信を持って告げる。

「秀人になら……いえ、秀人にしか出来ないわ。秀人の魔力資質…………」

 魔力資質……? 確か、フェイトの電気がそうであるように、変換プロセスを経ずに魔力の属性を変換できる、ある種の才能。秀人さんに、そんな物が……?

 

 

「………………『結合』」

 

 

「ありえ、ない……」

 真っ先に反応したのは、クロノだった。

「《結合》は、何年も前に、存在を否定されている筈だ」

そんなに珍しいの? 

聞く限りでは、『結び合わせる』という、ごく単純なものに思えるけど……ユーノくんまで愕然としている。

「あのー……具体的には、その『結合』の、何がありえないの?」

 とりあえず、聞いてみた。

「たとえば、リンカーコア」

 クロノの話は、いきなりその言葉から始まった。

「空気中の魔素を取り込み、魔力を精製する……魔導師にとって、もう一つの心臓のようなものだ」

 うん。それはユーノくんの授業で、何度か耳にした。

「その精製する魔力の大小の差こそあれ、機能的には、誰のものであろうとも大差は無い」

 それも、聞いた。たとえ魔法が使えない人にも、必ずリンカーコアは備わっているのだと。

「だが……例えば、僕と秀人のリンカーコアに、互換性は全く無い。

なぜなら……僕達二人ののリンカーコアを動かしているのは、それぞれ全く別の意思だからだ」

 同じように、同じ魔法を習得したとしても……その発動の際に踏まれるプロセスは、千差万別。

『同じようなもの』と、『同じもの』には、絶対的な隔たりがある。そういうことらしい。

「その、全く違うものを、文字通り『結び合わせる』……言ってしまえば、水と油を、有機物と無機物を、プラスとマイナスを、完全に融合してしまう。

それが、魔力変換資質『結合』だ」

 ……確かに、そんなことはありえない。でも……

「でも、あなたは……誰よりも、知っているのではなくて?」

「…………」

 クロノは、グウの音も出ない。私とフェイトの勝負の日も、今日、大量の傀儡兵を相手取った時も……クロノは、秀人さんの能力を身をもって実感しているのだから。

 もちろん、私たちも。

「だが、二機はAI搭載のインテリジェントデバイスだ。AIが衝突(コンクリクト)して、破損してしまうかも……!!」

「そのレイジングハートというデバイスは、少し特殊だわ」

 ……ユーノくんが、古代遺跡から発掘した、正体不明の出土品。それが、レイジングハート。デバイスとしての使用が可能だったから、デバイスとして扱ってはいるけど……まだまだ、謎が多い。

「容量が、デバイスとしては異常なほどに大きいの。自身の人格AIと、全ての魔法術式……その全てを合わせても、全体の5パーセントも使っていない」 

あれだけ毎日、たくさん魔法を覚えて、登録して……それでもまだ、その程度……?

「レイジングハート、本当?」

『Yes. No probrem』

 ……………………私、実はとんでもない子と契約しちゃったんじゃないだろうか。

「だから、バルディッシュと合体させたとしても、AIが対消滅することは起きない筈よ」

「信用していいんだろうな」

 クロノが、用心深く聞く。

「腐っても科学者よ」

 プレシアは胸を張り、太鼓判を押す。

「ひでと、お願い」

 フェイトが、秀人さんを上目遣いに見た。

「ボクは……最後まで、ちゃんとやりたい」

 秀人さんは、少しだけ考え込んで……

「…………よし、ちょっと待ってろ」

 フェイトの頭を、ぽん、と軽く撫でた。

 

「行くぞ、レイジングハート」

『Yes,my bady』

 レイジングハートは、相棒、と秀人さんを呼ぶ。

「バルディッシュも、力を貸してくれ」

『Yes , my friend』

「…………!」 

バルディッシュの言葉に、秀人さんが目を見開き……嬉しそうに、笑った。

「ああ! それじゃ、二人とも……やるぞ!」

『 『 Standby ready 』 』

 

――ヴオオオオオンッ……!!

 

 秀人さんの足元に、魔法陣が展開する。

 いつものように、魔法陣が分解し……

 

――バシュッ……!!

 

 伸びたラインが、クロノ、ユーノくん、アルフの順に、繋いでいく。

「せめて一声掛けろ……」

 残り少なくなっていた魔力を吸い取られ、げんなりしながらクロノが言う。

 けどもう、既に諦めたかのような、気安い雰囲気が漂っていた。なんだかんだで、秀人さんには振り回されっ放しだもんね……

 そして四人の魔力のラインが、レイジングハートと、バルディッシュを繋いだ。

 

――ヒュイイイイイイィィィィィン……!!

 

 レイジングハートとバルディッシュが、光に包まれる。レイジングハートは、桜色。バルディッシュは、黄金色。

 二色だった輝きは、徐々にその色合いをシフトさせ、空色へ近づいていく。

「ぐっ……!」

 ユーノくんが、がくりと膝を突く。

 二つの光は、次第に重なっていき……一つの光へ。

「う……!」

 アルフが、その場に倒れる。

 一つになった光は、次第にある形へと収斂する。

「しっかりと、決着を着けろよ……」

 ばたん、とクロノが倒れる。

 そして……

「……来い!!」

 秀人さんが、魔力を最後の一滴まで注ぎ込み…………

 

――光の中から、一本の杖が現れた。

 

 基本は、レイジングハートのキャノンモード。その各部を補強するように、バルディッシュを思わせる外装が装着されている。レイジングハートの基本色である白と、バルディッシュの基本色である黒が、美しいツートンカラーを描いている。

 

核である赤い宝石の隣には、バルディッシュの……フェイトの魔力光と同じ、黄金色の宝石。少し地味であるモノクロの杖に、鮮烈な色を加え……

 

「…………きれい」

「…………かっこいい」

 

その美しさに……そして、その凄みに圧倒されてしまう。

 レイジングハートでもあり、バルディッシュでもある杖が、二重音声で発声した。

 

 

『 『 United Heart Set Up 』 』

 

 

……それが、この杖の名前。

……まるで、私達を象徴するかのような名前。

『 『 さぁ、マスター達。私を手に取ってください 』 』

「マスター……」「……達?」

 フェイトと、ぴったり同じタイミングで秀人さんを振り返る。そういえば、この杖は誰のものなんだろう。私? それとも、フェイト?

 秀人さんは、今度こそ魔力と体力をすっからかんに干上がらせ、床に倒れていた。その体勢で、答える。

「どっちも……なのはと、フェイト。二人がマスターだ。中身も、そういう風にしてある」

「本当に……よくやったわ、秀人」

 プレシアが、秀人さんを休ませる。

『二人とも!! 準備はいい!?』

 エイミィの呼びかけに、私達は、声をそろえて……!

「 「 いつでも!! 」 」

 

 アースラのハッチが開き、目の前に、準虚数空間に浮かぶ庭園が現れる。轟々と唸り、今にも瓦解しそうな、巨大な質量を持った建造物。

 もしもあれが砕け、地球に、海鳴市に降り注いだりでもしたら……私の大事な人たちが、欠けてしまうかもしれない。絶対に、止めなければならない。

「……ボクね、」

 と、フェイトが独白を始めた。目はしっかりと目標を見据えながら、それに耳を傾ける。

「ついこの間まで、おかーさんとアルフ以外、何もいらないって思ってた」

 初めて会ったときの……冷酷な敵。

「でも、今は……ちょっとだけ違うんだ」

 それは、偽りの姿で。本当は、ただ寂しがりやなだけの、優しい女の子。

「ももこ、みゆき、きょうや……」

 フェイトにつかの間の温もりを与えた、私の家族。

「ユーノに、ひでと。それから、それから……」

 手を伸ばしたのは、ほぼ同時。

私と、フェイトの手が、

 

「なのは」

 

 ユナイテッドハートを、手にした。

「フェイト……? 今……」

今、私の名前を……

「ボクは、みんなを守りたい」

 目の前には、照れくさそうなフェイトの笑顔。

「力を貸して。ボクたち二人なら……なんでも出来る!!」

「…………うん!」

 ……暖かな気持ちが、胸を満たしていく。

 それは俗に……『友情』と、呼ばれる気持ちだった。

「やるよ、フェイト!!」

 名前を呼ぶ。

「うん、なのは!!」

 呼び返してくれる。

 

無敵の万能感が、全身を満たしていく!!

 

『 『 Sealing mode \High END 』 』

 

 桜色と、黄金色。二対の翼が、広がる。

 シーリングモード・ハイエンド。

 放たれるのは、最強の封印魔法。

 魔力収束……スターライトで集めた魔力を、私たち二人の封印魔法に乗せて、打ち出す。本来であれば、機体も、肉体の限界もはるかに超えた、過剰出力にも程がある魔法。

 

今の私達には、『限界』なんて……きっと無い。

 

 既に、十分な魔力は集まっている。

 あとは、たった一節の言葉を、詠唱するだけ。

 それは、レイジングハートとの契約の一節。

初めて魔法を使って暴走体を封印するときに、秀人さんが選んでくれた。

 

――始まりの言葉。

 

それを今、もう一度口にしよう。

 

「 「 不屈の心は…… 」 」

 

 ……これで、終わる。今までのすべてが。

 そして、これから始まるんだ。私の……私たちの、すべてが。

 

「 「 この胸に!! 」 」

 

 

――――――――――!!!!!!

 

 

 発射された二色の封印魔法は、まっすぐに、揺れることも、阻まれることもなく突き進み……

 

――ゴオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!

 

 今にも崩れようとしていた庭園を、捉えた。

 貫くのではなく……命中した箇所を中心に、庭園を魔力の殻で包み込んでいく。

 負担は、ほとんど感じない。当然のように、封印は成されていく。

 そして。

 

――キィンッ……!!

 

 そんな甲高い音を最後に、庭園の震動は完全に止まった。

『 『 Sealing Completed 』 』

 封印、完了。

 

『 『 Mode Releace 』 』

 

 役割を終えたユナイテッドハートは、元の二機に分離し、レイジングハートは私の左手に。バルディッシュはフェイトの右手に、それぞれ帰還した。

『皆さん』

 エイミィではなく、リンディさんが直々に通信をしてきた。『皆さん』と言うからには、これはきっと全体通信。

『次元震の停止を、確認しました。これより、準警戒態勢へと移行します』

 危機は脱した。

『嘱託魔導師の皆さん』

 嘱託……つまり、私たちのことだ。

『あなた方の協力無しには、本件の解決はありませんでした。アースラ艦長として、また、一人の管理局員として、深くお礼申し上げます』

 

 そっか…………終わったんだ。でも……

ちらりと、横を見る。

 この事件が終わったら、フェイトは、事件の重要参考人として、連れて行かれてしまう。死に別れるわけではないから、一生会えないというわけではないけど……でも折角、仲良くなれたのに……

――ぎゅっ

 俯いていた私の手を、フェイトが握った。

「大丈夫だよ」

――また、会えるから。

 暗に、そう言われた気がした。

 全く……そんな希望に満ちた顔をされたら、私が馬鹿みたいじゃないか。

「ん……」

 でも、わざわざお礼を言ってやるのも癪だから……今は、こうして。

 

手を取って、少しでも長く……繋がっていよう。

 

 

私は、フェイトの手を握り続けた。ドッグに局員が来て、フェイトを連れて行く、その間際まで。

 

 

 

そして、ジュエルシード事件……後に、P・T(プレシア・テスタロッサ)事件と呼ばれるこの騒動が終結して、二週間が過ぎた。

 

 

 

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