魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第二話

 

――じゃきんっ

 

 髪の毛に鋏を入れ、腰から下を切り落とす。

「……これでいいの?」

 足元の受け皿には、黒々とした頭髪が散乱していた。

何も、イメチェンしようとか思ったわけではない。全て、これから行う儀式に必要な物質だ。術者の頭髪。魔力。そして残りは……

「うん、わかった」

 

――ぶしゅっ

 

 術者の血液。

 手首を切り裂き、必要なだけの血液を抽出する。適当なところで止血。

 それが、受け皿の中の頭髪と交じり合う。

 ずもももも……と、私の魔力がそれを飲み込む。

あとは、闇が教えてくれた通りの呪文を唱えるだけ。

 

「我、力を乞う者なり。

 

 汝が剣、我が怨敵を処断するもの。

 

 汝が槌、我が仇敵を鎚滅するもの。

 

 汝が盾、我が運命を守護するもの。

 

 汝が鏡、我が願望を反映するもの。

 

 我は乞う。

 

 四種の力よ、我が手に集え。

 

我は王なり。

 

闇統べる王なり。

 

汝らが王なり。

 

汝らが王、八神はやての名の元に、馳せ参じよ…………」

 

 すぅ……と一拍置き、『その名』を呼ぶ。

 私が持つべき、闇の力。その象徴。その名は……

 

「ヴォルケンリッター!!」

 

――ギイイイイイイイイイインッッ!!

 

 足元に、数学的な図形が展開する。正三角形の頂点に円を配置した、いわゆる魔法陣。

「ぐ……ううう……!!」

 体中から、膨大な魔力が搾り取られていく。でも、これは……儀式が成功したという証だ。だから耐えられる。力を得る代償がこの程度なら、安いものだ。

 

「ぜー……! ぜー……!」

 そして、体中の魔力が殆ど空っぽになる頃……

――がしゃっ

 私の目の前に、プレートアーマーで全身を覆った者が四人……揃っていた。色合いに多少の差異はあれど、基本色は黒。

 

 一人だけ、妙にちんちくりんなのがいるけど……感じる魔力は本物だ。

 

「…………剣の騎士」

 紫がかった鎧。腰には、その名の通り、長大な剣が佩いている。

 召喚と同時に、四人の基本スペックは把握している。この剣の騎士は、守護騎士……ヴォルケンリッターを統率する将という役割があるらしい。

 スキルも近接オンリーという徹底ぶり。

 

「鉄槌の騎士」

 あらー……やっぱり、ちんちくりんだ。

下手したら、私より身長低いんじゃないだろうか。鎧までミニサイズだった。

 こんなナリで、本当にヴォルケンリッター随一の破壊力を持っているんだろうか果てしなく疑問だ。

 それでいて、中距離・近距離戦闘をこなせて、防御力も水準以上。万能選手だ。

…………まぁいいや。実戦で役立てば、何でも。

 

「盾の守護獣」

 鎧越しでも分かる、鍛え上げられた肉体。

使用術式の大半は、強固なシールド等の防御系ばかり。

 命令を下すと、青白い光を纏い……その身を、狼のような姿へ変えた。

 なるほど……二形態を使い分けられるってことか。

 

「湖の騎士」 

 最後の一人の使用術式は……回復と捕縛、索敵に転移。

 直接的な戦闘力は一番低い。

なるほどね、後方支援タイプ……あと、現場指揮官か。

 

『剣』と『鉄槌』がオフェンス、『盾』がディフェンス、『湖』がバック……そういう布陣で戦えば、どんな相手でもかなりの確立で撃破できる。

ネックなのは、個々の能力が尖りすぎていて、応用が利かないことぐらいか。

一角でも落とされれば、そこから綻んでしまう。とはいえ、落とされることなんてそうそう無いだろう。

 

 ずるぅっ……と、闇の中から一冊の本を拾い上げる。この本は、魔力の蒐集器として機能する上、闇の魔法を一時的に使用することもできる……自分で言うのもなんだけど、高性能な一品だ。ただ、高性能なおかげで一冊しか作れない。四冊作れれば、もっと楽なんだけど……ま、無いものねだりしても仕方ない。

 それを、『湖』に手渡す。

「行け」

 守護騎士たちは、私の血肉を用いて作った分身のようなもの。だから、多くの言葉を交わさずとも意思を伝えられる。

「……」

 四人は恭しく一礼し……隠蔽結界を展開しながら、町の方角へ向かっていった。

「さーて、と」

 面倒な魔力の蒐集は守護騎士たちに任せて……私は、自分自身の力を磨こう。

「私たちも行こうか?」

 練習台を、探しに。

 

 以前、私が破壊した街灯は修理され、いつもどおりの光を灯していた。

 人気の無い裏通りを、てくてくと歩いていく。

 街灯も、民家も、どんどん少なくなっていって……

 

「や、やめてくれ……!」

「だぁかぁらぁ……大人しく財布出せば、見逃してやるっつってんだよぉ……」

「俺たち未来ある若人に、お小遣い恵んでくれよ、あァ?」

 

 みーつけた。

典型的な恐喝。それを行っているのは、茶髪に金髪。だらしない服装に、くわえタバコ。典型的なクズだった。まるで、誘蛾灯に吸い寄せられる虫けら。

「ねぇ」

 クズ共に、背後から話しかける。

「あァ……?」

 振り返ったクズの一人が、私を見て訝しげな顔になる。

「あなたたち、楽しい?」

 げらげらと笑いながら、数の力を自分の力だと勘違いして……

「弱い奴を威圧して、力を誇示して…………楽しい?」

「おい、何言って……」

「ひいいいっ!!」

 私に意識を移した隙を見て、おじさんが逃げていった。

「あ、おい!! …………チッ!」

「くっそ、財布が逃げちまっただろうがよォ……!」

「おい、どうしてくれんだよガキ!!」

 精一杯の睨みを利かせて、子供相手に本気で凄んでいる。

くすくす、と笑いがこみ上げてきた。

 いい年をして、群れることでしか力を誇示できないクズ達が。

「わかるよ。力で何かを屈服させるのって、楽しいよね。うん、わかるわかる」

 くすくす。

「何がおかしいんだよテメェ!!」

 ぐいっと胸倉を掴もうと、伸ばされる腕。

 

「だって、私もすっごく楽しいから」

 

――とととんっ

 

「………………あ?」「え」「へ……?」

 クズ達は、何が起きたのか分からないといった面持ちで、きょとんと見ている。

 

 …………消失した、自らの肉体の一部を。

 

「いやだなぁ…………クズの分際で、私に触れないでよ」

 うぞうぞと、闇が蠢く。先端は、刃の形状。異常なまでに鋭い刃が、上腕部の半分から下を、足首を、両目を、串刺しにしている。

「ひやああああああああああああああ!! 腕、おれ、うで、うでええええええええええ!!!?」「ああああああああ! 足があああああ!!」「いてぇぇ……いてえええええええ!!」

 肩を足を顔を押さえて、ばたばたとのた打ち回る。

 刃の先端に串刺しになっていた肉塊が、闇に食べられて魔力に変換される。

「おいしい?」

 闇は、物足りなさそうに蠢く。

「大丈夫……まだまだあるから」

 今日は三人。大漁だ。

「さ、始めようか」

隠蔽結界を展開しているおかげで、邪魔は入らない。

 思う存分……魔法の練習に励めるというものだ。

「まずは~……射撃誘導の練習」

「ひィッ!!」

 眼球を抉り貫いた肉の的を、前方につるし上げる。

 狙うのは、胴体。

「闇に沈め…………」

 簡易詠唱で発動させる。

「ブラッディ・ダガー」

 

――ドドドドドドッ

 

「あ、あぎ、ぎ、ぎゃ、…………!!」

 臓腑をズダズダに切り刻み、肋骨を切断し、肝臓を、肺を貫通し……最後に、心臓を破る。

「よし……狙い通り」

 初めて使った時は、何発か狙いがそれてしまったけど……段々と、コントトール能力が上昇している。この調子で行けば、百発百中の精度にまで磨き上げられるだろう。

 ぐりんと白目を剥いて、男が死んだ。

 もう全身ズタボロで、的に使っても手ごたえが無くて面白くなさそう。

 というわけで。

「はい、召し上がれ」

 

――ごきごきぼきごぎゅん

 

 あっという間だ。

 

 残りの二人は、ガタガタと恐怖に震えながらその光景を見ていた。

「次は、近接攻撃の練習を……」

 さて、どっちにしようか。

「うわああああああああああ!!」「て、テメエが行けええええええええええっ!!!」

 半狂乱になって、さっきまでつるんでいた片割れを足蹴にする。

「あーあ……駄目じゃない。トモダチは大事にしなきゃ」

 決めた。次はお前だ。

 右足を掴み、さかさまに吊り上げる。

「嫌だあああああああああああああああああああ!!!!」

もう、うるさいなぁ。静かにしてよ。集中できないじゃない。

 今度は、これだ。近接用の、魔力付加攻撃。

 宙吊りになった男の胸に、掌を当てる。

ええっと……技名は……

「……フランメ・シュラーク」

 

――ボンッ……!!

 

「……!」

 一瞬だけびくっと痙攣し……絶命する。

「ん……?」

 背中を見てみると……威力が大きすぎたのか、身体の中身が道路にぶちまけられていた。

「あっちゃー……難しいなぁ」

 本当は、体内だけを綺麗に焼き潰すつもりだったのに。

「チッ……失敗か」

 じゅるじゅると、道路にぶちまけられた臓器や血液、骨の欠片まで、闇が啜り尽くした。

 ぽいっとセミの抜け殻みたいになった死体を闇に放り、食べさせる。

「何でだよォ……!! 何で俺なんだよォ……!!」

 涙と鼻水で顔をどろどろに汚しながら、最後の一匹が聞いてきた。

 特に理由は無いんだけどなぁ…………ああ、そう。強いて言うなら。

 

「たまたま、そこにいたからだよ」

 

 あんたたちと、同じ理由だよ。

「彼方より来たれ、やどりぎの枝。銀月の槍となりて、撃ち貫け」

 さっきの二人を喰ったおかげで、また一段と闇が活性化し……新しい魔法を、使えるようになった。早速試そう。

「嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!! 助けて! 助けて母ちゃ……!」

 感謝して欲しいくらいだ。何の意味も、価値もない命を……私が有効に活用してあげるんだから。

 白色に輝く槍。さぁて、どういう効果があるのやら……

 

「ミストルティン」

 

――ざしゅっ!

 

「ぎゃっ……!」

 槍は、男の残った右腕、両足、腹部、胸部に突き刺さった。

「あ、あ……? いき、てる……?」

 それ単体でのダメージは、肉体を貫通する程度の微々たる物だ。死にはしない。

「はひゃ、ひゃひゃひゃひゃ!! 生きてる、まだ生きて……!」

 歪んだ歓喜の表情を浮かべ……

 

――ビキンッ……

 

「…………?」

 男は、両の眼球を残し、動かなくなる。

 全身が、石化していた。

「へぇ……石化するんだ。それも一瞬かぁ……え? 的が小さいから、早く固まっただけ?」

 こんこん、と軽くノックしてみても、岩石そのものだ。

「魔法って、何でもアリなんだ……ねっ」

 細い小指を、ぺきっとへし折ってみる。

 断面から、真っ赤な血がたらたらと流れ出してきた。

「……! ……!!」

 ぎょろぎょろと両目が動く。

「あはは。ちゃんと痛いって、わかるんだ?」

 正確には、全身の筋肉を石化させているわけだから、痛覚もある。

 当然、心臓も肺も機能しているから、呼吸もする。

 ただ、口と鼻を完全に塞いでいるから、死ぬほど苦しいだろうなぁ……あらら、目が見る見る血走っていく。うわぁ、苦しそう。

 可哀想に………………………………………………一思いに、殺してあげよう。

 

「テートリヒ・シュラーク」

 

 腕に、闇の魔力を纏わせ……

 

――ガゴンッ!!

 

 石の身体を、粉々に打ち砕いた。

 うひゃー……とうとう素手で岩を砕いちゃったよ、私。

 

――ごりごり……

 

 闇は、石の身体をお構いなしに噛み砕き、飲み込んだ。

 

――――…………

 闇が、まだ足りないと訴えている。でも……

「もう、三人も食べさせてあげたでしょ? 今日はおしまい」

 隔離結界、攻撃魔法と使い続けて、守護騎士も遠隔維持してるおかげで疲れた。

 今日はもう、守護騎士たちも呼び戻して帰って寝よう。

 

 あっちはどのくらい集まったかな。

「ん……」

 歩きながら、『剣』『鉄槌』と視界を共有する。

「……うん、順調みたいだね」

 なにやら、杖を構えた人たちと相対している。その足元には、同じような服装の人たちが転がっている。

 見た感じ、相手方の実力は、『剣』『鉄槌』に遥かに及ばない。百人で掛かってきたって、撃退できるだろう。

「『剣』、殺したら駄目だからね」

 殺したら、魔力の源……リンカーコアが、取り出せなくなる。

「殺さなければ、腕や足の一本は飛ばしてもいいから」

 ま、そういうことだ。

 視界の向こうで……『剣』が、残った数人に襲い掛かる。

『盾』と『湖』に、『剣』『鉄槌』の回収を命じて、視界を閉じた。

 今日は大量だ。三人を喰って、リンカーコアも多数を蒐集できた。

 

……そうだ。いいこと考えた。

 

「らっしゃーせー……」

 今日も今日とてやる気の無い店員に迎えられた。目指すのはは弁当じゃなくて……ドリンクコーナー。

「これと、これと……あとこれ」

かごの中に、チューハイだとかビールの缶をぽいぽい放り込んでいく。

 祝杯というやつだ。

 レジに持っていくと、金髪の店員は訝しげな顔をした。

 売ってくれないというのであれば、魔法で催眠を掛けてやればいいか。

「あー、すんません。お酒はハタチからなんでー、売れないんスけど…………ま、いいや。オーナーいねぇし」

 こんな店員を雇っていて、問題ないんだろうか。素直にありがたいけど……

「あのさぁ、」

 と、財布から現金を取り出す私に、興味本位で話しかけてきた。

「あんた、足治ったの?」

 ……店員は、案外客の顔を覚えているものらしい。そこそこ通っている私が、今日は自分の足で歩いていることに気付いたようだった。

「ええ、問題なく」

 少しイラッとしつつも、如才なく答える。答えてやったんだから満足だろう。

 けど、店員は妙に真剣な顔で食いついてきた。

「どこの医者? 教えてくんねーかな」

 ……めんどくせぇ。

「海鳴総合病院の、石田って人」

 敬語と愛想を彼方に投げ捨て、端的に教えてあげた。

「もういい? 眠いんだけど」

 店員は、メモ帳に汚いカタカナで『海鳴総合病院・石田』と殴り書いた。

「ああ、さんきゅー」

 んじゃ、帰るか。

 

「ただいまー、っと」

 家のリビングには、守護騎士四人が戻っていた。チェックしてみた感じ、大きな負傷は無い。楽勝だったらしい。

 すっ、と『湖』が本を差し出した。

「ん」

 受け取り、ページを確認してみる。かなり分厚い本の、最初の数ページが埋まっていた。

 記されている魔法も、闇が保有しているものよりずっと低レベル。

「あんな雑魚じゃ、この程度か……」

 この本のページが全て埋まった時……闇の奥底に眠る、最強の殲滅魔法が完成する。

 焦る必要は無いけど、ちんたらやっているのも性に合わない。

 もっと魔力の大きい獲物を、狩らなければ。

「……明日は、コレ使ってみるか」

 瞑目し、今現在私が使える魔法をリストアップしていく。

 結界魔法のバリエーションに、『魔力を持つものだけを閉じ込める隔離結界』という便利なものを見つけた。どうやら今日、蒐集した中にあったらしい。

 クズを嬲り殺すのも楽しくていいんだけど、やっぱり本命はこっちだ。

 ……明日は、私が現場に赴くとしよう。守護騎士の連携も、直に見ておきたいし。

 

 ぷしゅっと缶のプルタブを開け、人生初のアルコールを口に含んだ。

「……う」

 最初、つーんとした刺激臭が鼻をつき、続いて、人工的な果汁の匂いが口に広がる。

「…………悪く、無いかも」

 くらくらと酩酊して……何というか、気持ちいい。

「んっ、んっ……」

 二口、三口と飲み………………………………………………………………その後の記憶が消えた。

 

 

 

「あたまいたい………………きもちわるい………………おえええぇ」

 

 リビングのソファで起きて、目にしたのは三本のお酒の空き缶。酔っ払って、一晩で飲んでしまったらしい。

 これが世に言う、二日酔いというやつか………………キツい。

「……ん」

 本はどこにいったのかと思ったら、頭に敷いて枕にしていた。

 寝転んだままページをめくり、都合のいい魔法を探す。

「体内浄化魔法……」

 よし、これで体内のアルコールを飛ばせば大丈夫のはずだ。

 なぁんだ。これさえあれば、いくらでも飲み放題だ。

 早速、発動っと…………………………

「…………あれ?」

 発動しない。何で?

「この、このっ……何で!?」

 調べてみると、何故か闇が発動を妨害していた。

「ちょっと、何すんのよ!」

 

――――…………。…………。

 

「『飲みすぎです。少し懲りてください』だぁ……!?」

 あんた、いつから主にそんな生意気なこと……!

「いっ……!? たたたたた……!!」

 あ、頭が痛くて、怒るに怒れない……

「お、覚えてろテメェ……!! う、おえぇ……!」

 幻聴なんだろうけど、呆れたようなため息が聞こえた気がした。

 

 結局、昼過ぎまでソファでぐったりしていた。

 多少はマシになってきたけど……まだ立ち上がると辛い。

「水……」

 ああ、駄目だ。シンクまで歩いていくのがキツい。

車椅子、処分するのは早まったかなぁ……

 

「……」

「んー……?」

 気配を感じて目を開けると、赤い鉄兜が目に入ってきた。

『鉄槌』……? 私に何か用でもあるんだろうか。

「……」

 すっ……と差し出されたグラスの中には、氷水。

「…………もしかして、私に?」

『鉄槌』は、こくんと頷いた。

「ああ……ありがと」

 少し驚いたけど、助かった。

「んぐっ、んぐっ…………ぷは~~~っ!!」

 生き返る……!

 にしても…………

「あんたたち、自由意志あったんだ」

 てっきり、私の意志を忠実に実行するだけの人形だと思っていたけど……ちゃんと考えることができるんだ。

 からん、と、グラスの中で氷が滑る。そう、氷だ。冷蔵庫を開けたとしか思えない。

「…………」

 中世の物語に出てくるような鎧の騎士が、冷蔵庫から氷を取り、グラスに水を注ぐ……実にシュールな光景を、想像してしまった。

「ま、助かったよ。ありがと。ええっと…………」

『鉄槌』、と言いかけて、少し悩んだ。

「ねぇ、アンタたちの名前……」

 

――ばつんっ……

 

「……あれ?」

 いきなり、目の前から『鉄槌』が消えた。消えた……というよりは、強制的に闇の中に引き戻された感じだ。

――――………………。

「 『アレは人形だ。名前など無い』……ねぇ。はいはい、わかったよ」 

 ……違和感が残った。

 まるで、聞かれたくないことを聞かれてしまったように、唐突に話を遮った。いくらなんでも不自然だ。

 それに、二日酔いをたしなめた声と、今の声…………トーンが違っていた。

 前者は、暖かく柔らかい声で……後者は、冷徹で硬質。

まるで…………

 

――闇の中に、二つの人格があるようだ。

 

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