魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第五話

「え……」

 

 突然の警告に私は、そんな間の抜けた声を出すことしか、できなかった。 

 

 ああ、認めよう。

 鍛錬を怠れば、その分だけ力は削げ落ちていく……それは、私にも適用されてしかるべきだった。

平和に慣れきって……神経が、完全に鈍っていた。

 ほんの一ヶ月前までなら反応できたはずのレイジングハートの警告に、呆けてしまったことが、何よりの証だ。

 だから、気付かなかった。

振り向いた背後から、すぐ目の前に…………鋭い凶刃が迫っていたことを。

 得物は日本刀。

 それを手にするのは、黒い鎧を纏った騎士。

 ちぐはぐな組み合わせの襲撃者は、迷い無く躊躇い無く……私の顔面へ、刃を突き出した。

 

「………………………………何やってんだ、てめぇ」

 

 けれど、その凶刃が私に届くことは無かった。

 

――ビキッ……

 

ぎらぎらと輝く日本刀は、私の目の前数センチで、その進攻を止められていた。

「おい…………」

 

――ビキッ、パキッ……!

 

 めきめきと、単純な握力だけで鋼を握り潰していく。

「秀人、さん……」

 

――バキンッ!!

 

 とうとう砕け散った金属片が、血と一緒にぱらぱらと落ちた。

「何やってんのかって…………!」

 ぎちぎちと、拳が硬く握りこまれていく。

「……ア……アアア」

 襲撃者は言葉にならない呻きを上げ、構わず日本刀を振り上げる。

 それよりも速く……

 

「聞いてンだよオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

――グギャアッ!!

 

その顔面に、鉄拳がめり込んだ!

「ゴ、ゴフッ……ギャァッ……!!」

 コンクリートの塀を何枚もブチ抜き、何件もの民家の庭をぶち抜き……ようやく止まった。

「怪我は無いな?」

 手に食い込んだ金属片を抜き取りながら、私の心配をする秀人さん。

「う、うん」

 ようやく、言葉が出せた。

「よかった。………………………あの野郎、死ぬ寸前までサンドバッグにしてやる」

 安堵の笑顔から一転。憤怒の形相で殴り飛ばされた襲撃者を睨む。

 

 でも……生きてるかな、アレ。顔面がべっこり凹んでるけど。

「…………ア、ア」

 顔面を陥没させ、足が変な方向にひん曲がった状態で立ち上がった。 

気持ち悪ッ……!

「……まともな状態じゃ無い。レイジングハート、スキャンだ」

 すっと怒りを霧散させ、敵の身体をスキャンする。

『All light.』

 そして、結果が提示された。

『あの鎧は、魔法により実体化したものです』

「つまりはバリアジャケットか。他は?」

『思考操作の形跡が見受けられます。生命反応が微弱ながら在るので、洗脳され、操られているのでしょう』

 洗脳って……いきなり現実感の無い言葉が出てきた。

 いやまぁ、私もやろうと思えば出来なくも無いけど……それを実行するには、良心が咎める。

 つまり、こいつを洗脳してけしかけた奴は、何本か頭のネジが飛んでるんだろう。

「……傀儡兵みたいに、四肢をもぎ取って動きを封じるのは無理か」

「だよね」

 中身が人間……それも、何かの被害者だというのなら、力ずくで叩き潰すわけにはいかない。バインドして、動きを止めて……

「やっぱりな。気づかない内に、結界の中に誘い込まれてた」

「え?」

 結界……?

「さっきから、ユーノと連絡が取れない。真昼間なのに人もいないし、間違いないだろ」

『迂闊でした。まさか、私のセンサーに悟られずに結界を展開するなど……』

 

――ぱんっ!!

 

「うおっ!?」

 乾いた音が響いたのと同時、秀人さんが上体を思いっきり反らした。

 ちゅいんっ! という変な音と共に、塀に何かが当たり、砕けた。

「野郎ッ!」

『Impact !』

 

――バゴォンッ!!

 

 衝撃波でブロック塀を破壊する。

 その影から転げ出てきたのは……オートマチック拳銃を構えた、さっきのと同じ鎧を身に着けた騎士だった。

「け、拳銃……?」

 さっきの日本刀といい、なんでこんな変な武器ばっかり……

 

「ア、 ア……」「ウウ……」「ウアァ……」

 

 続々と増えていく、黒い騎士。

釘バット、鉄パイプ、匕首、拳銃、日本刀……まるでヤクザだ。

 じりじりと、緩慢な動きで間合いを詰めてくる。

 

落ち着け。警戒を怠るな。これは、一ヶ月ぶりの実戦だ!

「レイジングハート、」

 レイジングハートを掲げ、起動させる。

『Standby ready ,』

一ヶ月のブランクを感じさせない、力強い声が返ってくる。

 よし……!

 

「セットアップ!!」

『Set Up !』

 

 巻き上がる、桜色と空色。

 バリアジャケットを装着し、デバイス形態のレイジングハートを握る。

「それじゃ、軽くやっちゃおう!」

 油断さえしなければ、雑魚に遅れは取らない!

「アクセルシューター!!」

 誘導弾を形成。数は12!!

「バレット」

 秀人さんも散弾を準備完了。

 

「オオオ!!」「アアアアアア!!」

 

 凶器を振りかざし、迫る敵兵。

 ふん……取り柄は、魔力気配の遮断だけ。攻撃力なんて、十回喰らったって私の防御は

貫けない貧弱なレベル。

「シューーーーーート!!」

「ファイア!!」

 

――キュゴガガガガガガガガッ!!

 

「ギッ……!」「ギャアッ!!」

 面白いように命中する。でも、やっぱり……

「うわ……」

 ぶらぶらと、多分折れたらしい腕や脚を引きずりながら、ゾンビのように近づいてくる。

 無駄に頑丈……というか、痛みを感じていないんだろう。

「ストラグルバインド」

 

――バチイイッ!!

 

 秀人さんが、魔法効果を打ち消すストラグルバインドを仕掛ける。

 あの鎧はバリアジャケットの一種だし、思考操作が魔法によるものであれば、救出も可能かもしれない。

 でも……

「……駄目みたいだな」

「……うん」

 バインドの効果で足止めは出来るけど……それだけだ。

「解除。魔力の無駄だ」

『All light 』

バインドを解除する。

 うーん、どういうこと? 魔法効果なら、打ち消せるはずなのに……

『単純に、向こうの魔法のほうが強力なのです』

 ああ、効いていないわけじゃないんだ。

『もし、あの魔法を打ち破ろうとするのなら……瞬間最大放出量を増やすしかありません』

 もっと魔力を注げば、効くかもしれない。

「却下だ。魔力切れして負けるのが目に見える」

「だよね」

そうと決まれば、話は簡単だ!

 

「耐久力の限界までボッコボコにして、無力化する!」

 

『妥当な判断です』

 じゃきん、とレイジングハートを構えなおし……攻撃魔法を発動!

『Impact wall !』

インパクトウォール。

秀人さんの収束系最大技、スターダストウォール。その発動に必要な魔力収束の代わりに、インパクトを組み込むことで、速攻性と汎用性を持たせた簡易版。

さすがに攻撃範囲は小さくなるけど……威力と扱いやすさは広域版インパクトを数段上回る。

「インパクトォ……!」

こういう、雑魚の殲滅にはもってこい、ってね!

「ウォーーーーーーーーーーール!!」

 

――……グオオオオオオオオオオォォォォォ!!

 

そそり立つ衝撃波の壁が、兵士の軍勢に迫る!

「オオォ……!」

ある者は逃げ、ある者は手にした得物でささやかな抵抗をしているけど……決まりだ!

「よし…………ッ!?」

 

――ずりゅっ……

 

 胸元に違和感を感じるのと同時……ぷしゅん、と、衝撃波が掻き消えた。

 

「…………………………………………………………………………あ?」

 

 わけが分からない。

 術式に穴は無いはず。

発動工程にミスは無かった。

十分な魔力も注いだ。

「なのは……!?」

秀人さんが、驚愕に目を見開いて、私を……私の胸元を見ている。

「あ、あ……?」

見下ろした先、私の胸元から……………………漆黒の篭手が、生えていた。

「う」

痛みは無い。でも、そこには確かに、手があって……

「う、」

手の平に、ピンポン玉サイズの桜色の光球を握っている。

「この、野郎……!」

秀人さんが、その篭手を捕まえようとして……

 

――ずるぅっ……!

 

「うああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

極大の違和感と共に、全身の力が、ゴッソリと喪失した。

 バリアジャケットが……まるで、腐り落ちるように崩れていく。

「あ、あああ……!」

あの光球……あれは多分、魔法の源、リンカーコア。

魔力を生成する、魔導師にとっての、もう一つの心臓。

それを、抜き取られた。

 

「……くも、」

 

私の大事なものを、

 

「よくも……!」

 

秀人さんと、ユーノくんと、レイジングハート……私たちを繋いでくれた……魔法の力を!!

 

「よくも……やってくれたなああああああ!!」

 

胸元の穴に、レイジングハートを突っ込む!

「なのは、何を……!?」

この穴の先に、必ずいる筈だ!

(ぶっ飛ばしてやる……!)

『マスター!』

(絶対に、許さない!!)

 

「ディ……バ、イン……!!」

 

――ギンッ……!!

残った魔力を総動員して、砲撃魔法を発動させる。

『お止め下さい!そんな事をしては、あなたの身体が!』

「なのは、よせ!」

 

消し飛べええええええええええ!!!

 

「バスタァァァーーーーーー!!」

 

 発射された砲撃が、私の身体を貫通することは無く……

 

――――――ゴォォォ、ン……!!!

 

遥か遠方で、着弾したような轟音が鳴り響いた。

「うああああああああああっ……!!」

倒せたかどうかは分からない……それに……!

どさっ……と、立っていられなくなって、地べたに倒れた。

 

「がっ……!あ、はっ、あああ……!」

 

刃物を突き立てられたような痛みが、全身に広がる。

 やっぱり……体内に向けて砲撃なんて、暴挙だった……

 でも、そうしないと敵の位置は分からないし……今度は、秀人さんが狙われたかもしれない。

「ああ、あああああ…………!!」

 でも……ダメージがここまでだなんて、予想外だった。

バラバラになりそうな身体を抱きしめ、痛みを堪える。

「なのは……なのはっ!くそっ……!」

 

多分、秀人さんが一人で敵兵を退けているんだろう。

あれだけの数……しかも、異様にタフネスが高い集団を。

 なんとかして加勢しようとしても……すぐに力が抜け落ちてしまう。

 

「く、ううぅ……!」

……馬鹿だ、私。

平和ボケして、勘を鈍らせて……挙げ句、自爆して秀人さんのお荷物になって……

「秀人さん……ごめん」

 

ぷつん、と。

 

意識のブレーカーが……落ちた。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「なのは!」

 くそっ……なんて馬鹿な真似を!

「レイジングハート、どうだ!?」

『……危険です。リンカーコアを無理やり摘出された上……砲撃により体内の臓器にまでダメージが及んでいます。非殺傷設定とはいえ、これでは……!』

 自分の身体の中に砲撃を撃つなんて、何考えてるんだ!

「治癒魔法を…………邪魔だおらァッ!!」

 

――ベゴンッ!!

 

 手加減無しのミドルキックを繰り出し、敵兵を纏めて蹴り飛ばす!

 悪いけど、手加減できるような余裕は無い!

 

――ゴババババッ!!

 

 砲撃を振り回し、広範囲を薙ぎ払う!

 傀儡兵レベルだったら一気に蹴散らせる威力だというのに、敵兵は何事も無かったかのように立ち上がった。

「くっそ! キリが無い!」

 でも、とにかくなのはの治療が先だ。

『Healing』

 

 治癒魔法に大部分のタスクを割き、残った一つだけで戦闘を行う。

俺は、なのはを守るためにここを離れるわけにはいかない。それに対し、敵は大勢で、自由に動き回れる。

『Protection !』

 今はこうして、防御に徹するしかない。

ああ、畜生……ユーノがいればなぁ……!

『Caution !』

「あァ!?」

 今度は何だ!? とにかく、防御に魔力を追加して、強度を上げて……!!

ぞわぁっ…………と、首筋の毛の一本一本が、悪寒で逆立った。

「や、べぇ……!!」

 何かが、来る!

「うおおおおおおおっ!?」

 全魔法をキャンセル! なのはを抱え上げ、思いっきり跳ぶ!!

 

――バッガアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァン!!!!

 

 その場所を…………俺の弱まった防御を紙のように突き破ったであろう、とんでもない威力の攻撃が吹き飛ばした!!

 

「ぐっ、ううっ……!!」

 なのはを胸に抱えたまま、ごろごろと地面をバウンドする。

 身体を起こし、視界を前方に向ける。

「ア、アアアア……!」

 その攻撃は、俺たちどころか、その辺にいた数体の雑魚騎士を巻き添えにしていた。

「ちっくしょう! お構い無しかよ!!」

 再びなのはに治癒魔法を幾重にも施し、矢面に立つ。

 

 粉塵が晴れ、ようやく敵の姿を見ることが出来た。

「………………!」

 敵は、ゲートボールのスティックのようなハンマーを持った、赤黒い鎧を着た騎士だった。雑魚とは違う、禍々しさの中に不思議な優美さを備えた鎧。

「どういうつもりだ!」

「…………!」

 返事は無い。ただ無言で、ハンマーを上段に構える。

 その肩は、なにかに興奮しているかのように上下していて……ん、もしかして……?

「………………怒ってる、のか?」

 もしかして、なのはの砲撃で倒された(多分)仲間の仇を取りに?

「……!!」

 図星。そして、返礼は……!

 

――ボボボボボッ……!!

 

 数十個の魔力弾……いや、鉄球!

「……レイジングハート、治療は止めるな」

『了解。ですが、おそらくあの攻撃は防御を貫通してきます』

「だよなぁ……」

 初撃も多分、あれの掃射だったんだし。

 一つしかタスクを割いていない防御なんて、無いも同然。

 でも、一応考えはある。

「じゃーん」

 背中から取り出したのは……あの雑魚騎士の一体が持っていた、釘バット。

「これで打ち返す!」

『馬鹿ですか、あなたは……』

 レイジングハートが脱力したように呟く。

「というわけで、強化よろしく!」

『…………はぁ。了解』

 幸いにも、雑魚騎士はチビ騎士の攻撃であらかた吹っ飛んでどこか行っちゃったし、一対一だ。

「さぁ来い、チビ!」

「……!!」

 実は気にしているらしく、殺気立ち……

 

――ボバババババッ!!

 

 鉄球を一斉に発射してきた!

 

「オラオラオラオラオラァッ!!」

 

――ガキンガキンガキンゴキンカキン!!

 

 くうううううう、硬ってええええええ!!

 手がびりびり痺れてきやがる!

 それに、強化したバットが一発打ち返すごとに凹み、歪んでいく!

「だあああありゃああああああああああああああ!!」

 全部打ち返すくらいまでは、持ってくれよ……!

 

――ゴキンゴキンゴキン……カキィンッ!!

 

 うち一発を、正確にチビ騎士の頭部へピッチャー返し!

 

――パガンッ!

 

「!!」

 頭に血が上って、判断力が低下していたのか……額に直撃し、仰け反った。

 同時、全ての鉄球が制御を失い、あらぬ方向へ飛散する。

 

――ピキッ……!!

 

 チビ騎士の兜に亀裂が入った。

 くそ……こんな状況じゃなければ、攻め込むには絶好の機会なのに……

「レイジングハート、そっちはどうだ?」

『脈拍は安定してきましたが、予断を許さない状況です』

「……タスク三つ、俺に割けるか?」

 こうなったら、アレしかない。

「カウンター三連撃……決まれば、倒せる」

 あのチビ騎士の鎧は、そんなに頑丈じゃない。

 うまく『返』せれば、倒せるはずだ。

『……可能ですが、制御プログラムがまだ未完成です』

「どうせ、このままじゃ負ける」

 負けるだけならまだしも……最悪、なのはが死ぬ。

「俺の身体なんてどうなってもいい。今、あいつらを退けるのが先だ」

 それでこの結界を壊せればユーノを呼べるし、な。

『…………可能な限りバックアップします。無茶も程ほどに』

「あいよ」

 

 タスクは三つ。

ディバインバスターと、ブレイズキャノンと……魔力刃。

いつでも発動できるように、スタンバイしておく。

「…………」

 

――ガキッ……

 

 チビ騎士が、ハンマーを構える。

「…………来い!」

 半身に構え……右手を腰溜めに、左手を緩く突き出す。

「…………!」

 

――ダンッ!!

 

 地面が砕けるほどのスタートダッシュで、一気にハンマーを振り下ろしながら突っ込んできた!

 でも……フェイトに比べたら、全然遅い!!

「はぁっ!!」

 使えるだけの全魔力を、掌打に乗せて……!!

 

――バチイイイイィィンッ!!

 

 衝突!!

「…………!!」

「こ、のおおおおおおおっ!!」

 スピードはフェイト以下でも……パワーは俺以上か!

 拮抗した状態から、チビ騎士のハンマーがじりじりと迫ってきている。

「うオォあああああああああああああ!!!」

 砕けそうになる膝を叱咤し……拮抗を押し返す!

 

「……! ……!!」

「こ、のやろおおおおおおおおおおおおお!!」

 そろそろだ。もうそろそろ、チビ騎士は突進力を失う。そうすれば……

 耐えて、堪えて……!

ふっ……と、突進が止まった!

「うおりゃあああああっ!!」

 

――ドゴオオォォンッ!!

 

 左手から、ブレイズキャノン!

 

――ガギュウウウウンッ!!

 

 右手から、ディバインバスター!

 

「喰らいやがれえええええええええェェッ!!」

 

 発射した二つの攻撃魔法と並走し……魔力刃を振り下ろす!!

 

 チビ騎士は、完全に攻撃を終えた無防備を晒している!

(貰った!!)

 確信は、手応えとして返ってくる…………筈だった。

 

――――――――ガギュンッ、ガギュンッ!!

 

 チビ騎士のハンマー……そのヘッド部分がスライドし、弾丸のような薬莢を排出したのと同時。

 

――ガオオオオンンッ!!

 

「…………あ?」

 ディバインバスターとブレイズキャノンを、あっさりと撃墜し……先端を鋭利なピッケル状に変形したハンマーが、

 

――ごぎゅっ……!!

 

「…………が、あ、あ……!!」

 俺の胴体に、深々と食い込んだ…………

 食い込んだだけでは止まらず、めきめきと骨が砕け、何かが潰れる音が、体内から聞こえた。

 

――どさっ

 

一瞬だった。

 ほんの一瞬で、俺の最大技は破られて…………俺は、負けた。

『秀人!?』

 レイジングハートが俺を呼ぶ声が、妙に遠く聞こえる。

「げふっ……!」

 喉の奥からこみ上げてきた、鉄臭い、液体だかよくわからん物を吐き出す。

 

――ザッ……

 

 立ち上がれない俺達の周囲を、チビ騎士と……その辺に散らばっていた雑魚騎士が取り囲む。

「なのはに……ざ、わるな……!」

 潰れた肺が、言葉を濁らせる。

 ずるずると這いずり、なのはの身体の上に、覆いかぶさる。

 少しでも、時間を稼ぐんだ……!

「…………」

 

――ざくっ

 

「ぐっ……!」

 背中に、刃物のようなものが食い込んだ。

「ア、アア……!」

 俺が抵抗しないと見て……

 

――ざぐっ、ごきっ、ばきっ、がしっ、ぐちゃっ……!

 

「ぐっ……う、ううう……ああ!!」

 全身を鈍器が殴打し、刃物が蹂躙し、つま先が傷の治りかけた腹を蹴り上げる。

 

傷の修復は行われているけど……流石に、数が多すぎる。

 頭部を殴打されるたびに意識が飛びかけて……背中を切りつける刃物の鋭い痛みが、再び意識を繋ぎ止める。

「あ、あ……!!」

 徐々に、意識が薄れてきた。あまり痛みも感じない。

 

――がぎゅんっ、

 

 また、あの音だ。

チン……と、見せ付けるように目の前に薬莢が落ちる。

 俺のしぶとさに業を煮やしたのか、チビ騎士が止めを刺すつもりらしい。

やべ……今回ばかりは、死ぬかも……

『秀人! 秀人ッ!! 気をしっかり持ちなさい!』

 レイジングハートが、これまでに無く切羽詰った声を張り上げる。

『秀、』

 

――バキンッ!!

 

 その声が、不自然に途切れる。

『………………人、…………逃、』

 

 レイジングハートは、チビ騎士のハンマーに叩き壊されていた。

 

ころん……と、ヒビだらけになったコアが、目の前に転がってくる。

 その赤い宝石に宿る光が消え………………

 

――途切れかけていた意識が……燃え上がった。

 

「て、めェ…………!!!」

 

 血反吐を吐き散らす内臓を無視し、断ち切られた靭帯や筋繊維を強引に再生し……

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 獣のような咆哮と共に、立ち上がる!!

「おおォまエェェ…………!!」

 自分が出しているとは思えない、おどろおどろしい怨嗟の声が、喉の奥から絞り出される。 

 

――ゴボゴボゴボッ…………!!

 

「ううううウウウゥオオオォォ!!」

 撒き散らされた俺の血液が……泡立ち、煮え滾り……!

 

――ゴォウッ……!!

 

 烈火の如く……発火する!!

 

 怒りのままに…………いや、怒りそのものを、炎と化して!

 

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 

 蒼き炎が、燃え盛る!

 

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