魔法少女リリカルなのはties 作:ハルハルharuharu
瞼に差し込む、人工的な光。
眠る邪魔になるそれを鬱陶しく思いながら、つらつらと記憶を探る。
母さん達と食事をして……お茶が無くなったから、秀人さんと買いに行って……
「あー……買って無いや」
ポケットに入れたままの千円札を探るが、何故かポケットが無い。というより、着ていた服じゃなくなっている。
「……んー?」
何か、大事なことを忘れているような……
お茶を買いに行って、それで、それで……
「あああああっ!!」
思い出した!!
がばっと跳ね起きる。そして、
「あ、いたたたた……!!」
胸の痛みで、ベッドにうずくまる。
「って、ここは……?」
きょろきょろと周囲を確認する。真っ白いベッドシーツに、仕切りのカーテン。雰囲気としては、学校の保健室に近い。いや、ここは……
「……アースラ?」
「おや、目が覚めたのかな?」
カーテンが開き、見覚えのある顔が覗いた。
「あ……お久しぶりです、オペル医務官」
プレシア事件でも世話になった、オペル医務官だった。やっぱり、アースラに運び込まれたらしい。
「調子はどうだい?」
ゆっくりなら、身体を動かしても痛みは走らない。ただ、胸の奥にぽっかりと穴が空いたような喪失感があって……試しに、ダメ元で魔力を探ってみるかな。
リンカーコア、起動……っ!?
「うッ…………!!」
再び、刃物で切り刻むような痛みが全身に広がった。
「…………最低、最悪です」
……やっぱり、ダメだった。
「その痛みの原因は、わかっているね?
リンカーコアの強引な摘出……それもあるが、」
「私自身の砲撃魔法、ですよね」
……キレていたとはいえ、さすがにやり過ぎた。
「あの……秀人さんと、レイジングハートは?」
倒れてしまってからの記憶が無い。こうしてアースラに運び込まれているということは、敵を撃退したんだろうけど……嫌な予感がする。
念話も使えないし、不便なものだ。
「……それに関しては、後にクロノ執務官から説明がある。それまで、安静にしていなさい」
「はい……」
隙を見て、こっそり探しに行こうっと。
「ああ、そうそう……ちょっと手を出してくれるかな?」
「? ……はい」
言われるままに、手を出す。
――がちゃんっ
「……はい?」
ええと……何コレ、腕輪?
「ちょっとした計測器みたいなものだから、心配しなくていいよ」
何故か申し訳なさそうに苦笑し、ファイルを纏めて席を立った。
時計が一分経ち、少しの間なら、戻ってこないと確認する。スリッパをつっかけ、ベッドを降りる。秀人さんはどこかなー……
「……ん、あれ?」
自動ドアが開かない。小癪にも、施錠されたらしい。
「あーあ、困った困った……」
なーんてね。ドア横に、非常用レバーが隠してあるってちゃんと知ってるんだから。
がきょんっ、とレバーを倒す。これでエアロックが解除されて、手動で開閉できるようになる。
「楽勝楽勝―」
と、ドアの敷居を跨いだ途端……
――――ビーッ!! ビーッ!!
「うわっ!?」
けたたましいブザーが腕輪から鳴った。
『警告します。要監視者には、そこから先への出入りが許可されていません』
まさか、この腕輪って……!
『警告します。要監視者のあなたには……』
監視用の、手枷だ!
隣の部屋に詰めていた大勢の局員がわらわらと……!
「確保ーーーーーーーー!!」「また嘱託がやらかしたぞ!」「俺達の余暇が……!!」「大人しく寝てろ!」「明日の定時上がりが懸かってるんだ! 捕まえ……じゃなくて、保護しろおおおおお!!」
思考ダダ漏れで、ゾンビのように群がってくる。
っていうか、誰が爆弾娘よ!?
「残業代出るならいいじゃない!」
――ビキッ…………
「あ、あれ……?」
地雷を踏んだっぽい感覚が……
「「「「「「残業代を使う時間が無ければ意味が無いんじゃーーーーーーー!!」」」」」」
ぴったりハモった!
「来るなー!」
もう何のために逃げているのかも、すっかり忘れて逃亡する。
が、スリッパ履き+痛みでダッシュが効かず、もたついているうちに追いつかれてしまった。
――ぎゅるるるるるっ!
「むがー! むがー!」
あっという間に簀巻きにされ、打ち上げられた初鰹のように担ぎ上げられる。
「丁重かつ、厳重に扱え! 隙を見せたら噛み付いてくるぞ!」
わたしは動物じゃないー!
「むももももー!!」
その抗議さえ封じられ、わっせわっせと病室に強制送還。
っていうか、『定時に上がれるぞ』なんてエサをぶら下げて尻をひっぱたくような真似をするのは、多分……!
――げしっ!
「……ぶはっ!!」
身体を起こした勢いのまま、私をバインドする一人に蹴りを見舞う。しゅるっ、と、口元を縛るバインドが消えて、言葉が自由になった。
「ひ、一人やられたぞ!!」「だから、油断するなと……!」
――すううぅっ……!
思いっきり胸を反らし……肺の隅から隅まで酸素を吸入し……!
「クロノオオオオオオオオォォォォ!! ハゲろおおおおおおおおおおおおおお!!」
アースラ全体に響き渡るような大声で、クロノに呪いを掛けてやった。
「なんということを……!」「ただでさえ、ストレスを溜め込みやすいクロノ執務官に向かって……」「むごい……」
「ハゲろ! 十代後半で生え際の後退に悩め! 20代前半でバーコード状にハゲろ! 三十代で落ち武者にムググググググ!」
再び……というか、より厳重に口元を二重に拘束された。
「 「 「 「 「 「 そーれ! 」 」 」 」 」 」
ぼふんっ、と医務室のベッドに投げ込まれる。
ばしゅん、と、今度こそ完全に施錠されてしまった。
「むー……」
さっきは気付かなかったが、部屋の隅に置かれた籠の中には、私の服が畳まれた状態で入っていた。洋服の上に、私の携帯電話が鎮座している。
何気なく取り、電源を入れ…………
――ぶるるるるっ!
「……うわぁ」
電源を入れた途端、大量のメールが着信し、留守番電話が数十件表示された。
いちいち全部見るのは時間が掛かりそうだから……電話帳から、高町家の電話番号を呼び出す。
――プルがちゃっ
早っ。
『もしもし、なのは!?』
「あー……うん、そーです」
『心配したんだよ!!』
姉さん……すっごい涙声だ。
明日は月曜日で、普通に翠屋の営業日なのに、寝ずに待っていてくれたんだ。
罪悪感がひしひしと……
「ごめん……いろいろ、トラブルがあって……」
なおさら、本当のことを言うわけには行かない。
「でも、大丈夫。秀人さんも無事だから」
多分、ユーノくんも今頃アースラに召集されている頃じゃないかな。
「ごめんね。せっかくの日に……そういうわけだから、今日はもうそっちには戻れそうに無いや」
『そっか……でも、無事ならそれでいいんだ』
ほーっ、と、安堵の息をつく姉さん。
「うん……うん……それじゃ、また」
その後、母さんと兄さんにかわってもらい、同じような説明をして、電話を切った。
電話を切った時点で、午前二時。こりゃ、明日は学校行けないなぁ……
「あーあ……」
携帯電話を籠に放り、ベッドに倒れこむ。
数時間寝ていたとはいえ、深夜にまで起きているほど、不規則な生活は送っていない。
シーツを被り、目を閉じる。
私の身体はまだ休息を欲していたらしく、あっという間に眠りに落ちていった。
◆ ◆ ◆ ◆
小部屋を借りて、ユーノと向かい合う。
「秀人、それ…………本気?」
アースラに到着したばかりのユーノは、そりゃあもう凄かった。
結界に気付かずにいたことをかなり悔やんでいて……えらい勢いで号泣して。
あんな巧妙な結界、普通は気付けないし……第一、あれは自分で何とかできなかった俺の責任だと言っても、いやいや、僕の責任だ……とユーノも譲らなくて、結局クロノが場を収めてくれるまで、そんな押し問答が続けられていた。
そして落ち着いた今、俺は、自分のデバイスを持つことを明かしていた。
「もちろん、本気だ」
なぜ真っ先にユーノに教えるのかと言うと……
「レイジングハートとの契約の解除、どうすればいい?」
俺のアカウントの削除のためだ。
「レイジングハートは、そんなこと望まないと思うよ……? それに、まだまだ容量には余裕があるんだし……何も、契約を解除しなくても」
確かに、レイジングハートの容量は大きい。二機分の思考AIを入れても、ありったけの術式を入れても、まだ余るくらいに。でも……
「処理速度は、一人のマスターしか想定していない」
そもそも、以前フェイトに指摘されたが……効率が悪いんだ。
「この前、気付いたんだ。レイジングハートのレスポンスが、少しずつ……でも、確実に悪化してる」
「…………」
ユーノが、押し黙る。俺の言わんとしていることに、思い至ったようだ。
「限界なんだよ。デバイスの共有は、もう……」
それが、少しの誤差でも。その誤差が、生死を分けることになる。実戦ではよくあることだ。俺なら別にいい。でも、もしなのはだったら……そんなこと、それこそ、レイジングハートは望まない筈だ。
そもそも、共有するっていうのは俺達が未熟で、半人前だったから可能だった事だ。
だけど、既になのはは一人前の魔導師と言っても差し支えない。するだけ無駄……それどころか、害にしかならない。
それでもこの一ヶ月、俺のアカウントを残しておいたのは、襲撃が無かったからこその平和ボケと……レイジングハートの我が侭だ。
「……契約の解除には、デバイス側からの認証が絶対に必要なんだ。ストレージなら、そんなに難しくは無い。でも、レイジングハートはインテリジェントデバイスだから」
……どっちにせよ、レイジングハートとは話をつけないとな。
「……明日の朝、なのはも連れて行く」
「そうだね。なのはも立ち会ったほうがいいだろうし」
小部屋を出て、仮眠室に向かう。
「はぁ…………」
その道中で、ため息が出てしまう。
恋人に別れを告げる前って、こんな気分なのかねぇ……彼女なんかいたこと無いから、わかんねーけど。
「怒るだろうなぁ…………念話の周波数をチューニングして、ハウリング攻撃されるかも……いや、マルチタスクを強引に起動させられて、頭痛地獄か……?」
どう転んでも、いい展開にはならないだろう。
でもまぁ、別れ際のビンタくらいは、覚悟しておこう。
◆ ◆ ◆ ◆
『そう……闇の書が現れたの……』
クロノは、執務官としての権限を利用し、裁判を控えて拘留中のプレシアと面会を行っていた。
モニターに映るプレシアは、すっかり憑き物が落ち、柔和な雰囲気を漂わせていた。
のど元に通された、呼吸器系へ直結するチューブは痛々しいが、この一ヶ月の集中治療のおかげで、即座に生命に関わるような状態は脱した。
「拘留中で、刑も確定していないところを済まない。だが、どうしても貴女の協力が必要不可欠なんだ」
とうとう確認された、魔力変換資質『結合』を持つ魔導師、吾妻秀人。
その、特異すぎる魔力に対応した専用デバイス兼、初のミッドチルダ式カートリッジシステム搭載試験機。
プレシア程の科学者の力を、使わない手は無かった。
もちろん、プレシアには拒否権があるのだが、そんな選択肢は初めから除外されている。
『構わないどころか、願ったり叶ったりよ。
初めての技術提供が、秀人のデバイス作成だなんて……それも、兼ねてから提唱されていた、ミッドチルダ式カートリッジシステム。元科学者として、これ以上になく魅力的な研究だわ』
プレシアの、ひいてはテスタロッサ一家にとっての、大恩人。その恩に、報いないことなどありえなかった。
『機材と、秀人のバイタルデータを用意してもらえるかしら。すぐにでも始めさせてもらうわ』
「早速、手配しよう」
手元のキーを操作し、機材とデータの手配をする。
これで、準備は整った。
「こちらでも、メカニックマイスターが研究を始めている。そのデータも、纏まり次第そちらに送る」
『ええ。…………ねぇ、クロノ執務官?』
「何か、足りないものでも?」
『いえ、その…………』
先ほどまでのキレのいい態度から一変、妙に腰が引けている、弱気な態度を見せる。
『……フェイトは、元気かしら?』
別の場所で裁判を待つ、娘の心配だった。負い目がある反面、やはり気になるらしい。
クロノは、キーを叩く手を止める。
「ああ。それはもう…………」
遠い目をして、この一ヶ月の苦労を思い出す。
思い出す。
思い出す……
「手に余るくらいだ」
その並々ならぬ苦労を感じ取ったのか、プレシアは項垂れた。
『ごめんなさいね…………どんな様子?』
「最近は、幾分大人しくなっているんだが……」
今現在のフェイトの様子を思い出し……途端に眉根を寄せる。
「………………アレは、いい傾向なのだろうか」
『……本当に、手間を掛けて申し訳ないわ』
と、そこで面会時間終了のチャイムが鳴った。
「……では、頼んだぞ。プレシア・テスタロッサ」
『ええ、クロノ執務官』
ぷつんっ、とモニターが消える。
「秀人のデバイス、か…………」
S2Uを懐から取り出し、物思いに耽る。
「秀人の出力からすれば、当然のことなんだろうな」
ぐっと、知らず知らずのうちに、歯を食いしばっていた。
あれだけの魔力量と資質を持つのなら、一般に流通しているモデルでは、到底スペックが追いつかない。専用機を得るというのは、至極当然の流れだ。
専用機を得て、その魔力を使いこなせるようになれば……秀人の力は、飛躍的に上昇するだろう。
「……僕は、守護騎士に勝てるだろうか」
それに比べて、自分は…………
――――キンッ
S2Uを起動。
「僕は…………」
一応は、これも自分の専用機だ。自分の足りない出力を十二分に活用し、迅速かつ正確な運用を可能にする……自分にとって、長年を共にしてきた相棒。
だが、それも……敵の守護騎士達の圧倒的な白兵戦能力、カートリッジシステムによる爆発力……それらを相手に、どこまでやれるのか……
「僕に、もっと出力があればな……」
父に関しては、データが不十分なために何とも判断し難いが……母は。
衰えぬ膨大な魔力と、超大規模の魔法の展開を可能にする、正真正銘の怪物だ。
だが、自分に遺伝したのは、魔力量のみ。出力は、十人並みだ。どんなにガソリンタンクが大きかろうと、エンジンパワーが足りていないのであれば、持ち腐れだ。
二人の師匠に鍛え上げられ、出力に依存しない戦い方を習得したものの……
「秀人。僕は……いつまで、君の隣で戦える……?」
それは、クロノが執務官になってから初めて漏らす、弱音であった。
◆ ◆ ◆ ◆
翌朝、私のいる医務室に、秀人さん、ユーノくん、クロノ、エイミィがやってきた。
「悪いな、朝っぱらから大勢で」
「いいよ。丁度、起きたところだし」
ベッドからおりて、スリッパを突っかける。
「……あれ? レイジングハートは、一緒じゃないの?」
てっきり、秀人さんが持ってるんだと思ってたけど……
「……」
途端、秀人さんが険しい表情になった。
「……まずは、来てくれ」
「? ……うん」
ユーノくんも、何だか所在なく落ち着かない。
「……じゃ、行こうか」
「うん」
秀人さんと手を繋ぎ、廊下を歩き出す。
「…………?」
でも、なんだろう。いつもの秀人さんに比べて、何か、違和感がある。
「……ここだ」
連れて行かれた先は、ラボルーム。プレシア事件のときにも、レイジングハートのメンテナンスをしてもらったりした所だ。
ドアを開けて、中に入る。
「レイジングハート」
入ってすぐ、レイジングハートがいた。
『…………』
「どうしたの?」
が、気配が感じられない。
「厳しい戦闘の所為で破損して……休眠させてるんだ。今、起こしてもらうから」
秀人さんが目配せし、クロノがレイジングハートに繋がった機械を操作する。
そして……
『…………ここは、アースラ……ですか』
途切れ途切れ、時々ノイズ交じりの声で、レイジングハートが話し始めた。
『……! 秀人、秀人!?』
って、うわぁ!? ど、どうしたの!?
「れ、レイジングハート、落ち着いて……!!」
びかびかと点滅し、異様なまでに興奮したレイジングハートを、なんとか落ち着かせる。
「私も、秀人さんも、ちゃんと無事だよ……だから、落ち着いて」
『………………申し訳ありませんでした、マスター』
驚いた……こんなに慌てたのなんて、初めて見たかも……
「レイジングハート……」
秀人さんが、相変わらず険しい表情のまま話し始める。
『秀人……よかった。無事だったのですね』
「ねぇ、レイジングハート……あの後、どうなったの?」
『…………それ、は』
もごもごと、言いづらそうに言葉を濁す。
「いいよ、話しても」
だが、秀人さんの了承を得て、あの後の状況を説明してくれた。
――敵の大将格が現れたこと。
――秀人さんの必殺技が、通じなかったこと。
――レイジングハートが、全損寸前まで破壊されたこと。
――なんとか、命からがら危機を脱したこと。
「……そんな」
……私が自爆した後、秀人さんは相当に危ない状態だったらしい。
「私が、あんな無茶をしたから……」
「違う。俺の力不足だ」
秀人さんが表情を変えないで、ばっさりと言う。
そうか……感じていた違和感の正体が、ようやくわかった。
秀人さん、今朝から一度も笑っていないんだ。
「レイジングハート、大事な話がある」
秀人さんが、改めて話を切り出す。
その言葉の響きからして、かなり重要な話。
『…………今後の、敵への対策ですね』
レイジングハートは、話をはぐらかそうとしている。私には分からないけど……何かを察したのだろうか。
「違う」
『では、複合技のパターン変更でしょうか?』
「違う。話を、聞いてくれ」
『あ……ああ、一番大事なことを忘れていました。技全体の、魔力運用の最適化ですね。そうすれば、今度は敵に有効打を与えることが出来る筈です』
レイジングハートが、のべつく間無しにしゃべり続ける。その言葉の先を、言わせまいと。聞くまいとして……でも、秀人さんは、それを無視して、言った。
「契約を、解消しよう」
『……………………………………』
一瞬のうちに、沈黙する。
「…………」
秀人さんは、もう何も言わない。
ユーノくんも、辛そうに俯いている。
『……………………………………嫌です』
「……その我侭で、なのはの身を危険に晒すことになっても……か?」
薄々、私も感じていた。
……術式の展開に、意思とのタイムラグが発生している。特に、私と秀人さんが、別々の術式を同時発動した際、それが顕著になる。
私でも気付くことに、レイジングハートが気付かなかった筈が無い。
『……嫌です』
レイジングハートが、そう繰り返す。
「…………我侭を、言うな」
秀人さんの言葉にも。
『……嫌です』
ユーノくんの言葉にも。
「レイ、」
『絶対に、嫌です!!』
びりびりと、部屋中に反響するような大声を出した。
『私は、そんなに頼りになりませんか!?』
「違う、そうじゃない」
『私にはヒデトの資質を見極め、伸ばしていく義務があり、それが私たちの契約の筈です!』
「…………俺の資質は判明した。あとは、俺一人でも伸ばしていける」
『魔法の発動補助は、どうするのですか!? 人一倍、術式の制御が下手糞な癖に!! カウンター技だって、私がいなければ自殺行為にしかならないのですよ!?』
暴言に近い言葉で、必死に言いすがる。でも、秀人さんは淡々と、それに返す。
「……俺の専用デバイスが、近いうちに製造される。術式の運用は、ソイツに任せるつもりだ」
『…………!!』
…………確かに、それは必要かもしれないけど……
「秀人さん……本当に、マスターやめちゃうの?」
レイジングハートは、私達の出会いの切っ掛けで……そのマスターであるということは、私達の大事な繋がりだった筈なのに……
「秀人。もう一度聞かせて。
……本当に、いいの?」
ユーノくんの念押しに、秀人さんは僅かに黙り……言った。
「……ああ。なのはを、危険に晒すわけないはいかない」
一瞬の油断が、命取り。それは、よく分かるけど……
「俺の分のアカウントを削除すれば、タイムラグは無くなる。何の問題も無い」
『問題ない、ですって……!?』
その一言に、もう一度レイジングハートが猛る。
より激しく、光が明滅し…………
――翼を、形作った。
「……な」
クロノの驚愕をよそに、レイジングハートが自立的に飛翔し始めた。
ひゅん、ひゅん、と……助走をつけるように旋回し……
『この…………わからずや!!』
――カコーン!
「ぐおっ……!!」
秀人さんの額に、クリティカルヒット。
「秀人……」
「うわぁ……」
超痛そう……
『馬鹿者! 大馬鹿者!』
二発、三発……秀人さんの頭に、体当たりを敢行する。
「い、いてっ……!! いてててっ!!」
気が済むまで秀人さんに暴行を加え……ぽすっ、と、秀人さんの頭に着地した。
『…………何故、わかってくれないのですか』
光の羽根が『へにゃっ』としなり、人間臭く感情を表している。
『……認めましょう。確かに、もう共有は限界でした。マスターの力を発揮するには、私がマスターの専用機になるしか、ありませんでした』
そっか、やっぱり……レイジングハートも、気付いてたんだ。
『ですが……理屈では、割り切れないのです。私は、マスターのデバイスであるのと同時に、あなたのデバイスでも、ありたかったのです』
「レイジングハート……」
相棒の、可愛い我侭。
『…………了解、しました。秀人のアカウントを、削除します……』
なんとかしてあげることは、できないだろうか。
「…………まぁ、待て」
レイジングハートの奇想天外な行動に呑まれっぱなしだったクロノが、それを止める。
「秀人、君は肝心なことを説明していない」
え……?
「説明する前に、レイジングハートが……」
「言い訳をするな」
「理不尽だ……」
相変わらずの二人だった。
「エイミィ、説明を」
「はいはーい」
軽い調子で返事をするエイミィ。
最初から、エイミィが説明していれば良かったのに……と思ったけど、秀人さんの口から言わなければ、レイジングハートは絶対に納得なんかしなかっただろうし、仕方ないのかな。
「秀人君のデバイスは、インテリジェントデバイスになる予定なの」
ぴこん、と羽根が反応する。
やっぱり、辛いんだろうな。自分以外の誰かが、秀人さんに寄り添うのが。
「でも、今から思考AIを1から構築していたら、時間がかかりすぎる」
……確かに、魔法の運用システム構築なんて、気が遠くなるような作業が必要だろう。
「だから、レイジングハートのデータを流用しようと思うんだ」
「え……それって、」
私に向かい、ぱちりとウインクを決めるエイミィ。
「言わば、レイジングハートの姉妹機になるわけだ」
『姉妹機…………ですか』
「定期的にレイジングハートとデータのリンクを行い、システムの調整やデバッグを行う」
お、おおお…………これって、かなりの名案なのでは。
「私と秀人さんは気兼ね無く魔法を使えるようになって、レイジングハートは、姉妹機を通じて秀人さんとの繋がりを保てる……ってこと?」
「イグザクトリィ!!」
びしっ! とサムズアップ。
「すごいよエイミィ! 見直した!」
「えー? えへへ、そう?」
「うん! クロノの補佐官がこんな軽い人なのは何でだろうって、いつも不思議だったんだけど、これで納得だよ!」
「………………持ち上げてから、しっかり落とすんだねー」
……あれ? 何で沈んでるの? 褒めてあげたのに。
「なのは…………言葉というのは、時として思わぬ威力を発揮するから、気をつけよう?」
「? ……うん、わかった」
何故かユーノくんに窘められてしまった。
「ね、レイジングハート。そうしようよ」
『…………条件が、一つあります』
「何だ? 言ってみ」
『私の姉妹機の命名は、私に任せてください』
自分の写し身であり、大事な人を守る盾。その名前を、自分で付けたいのだと言う。
「デバイスの完成には、まだ時間が掛かる。何せ、ようやく設計が始まったばかりだからな」
「……いつごろ?」
「高町なのは。君のリンカーコアが、再生し終える頃になるだろう。……オペル医務官の見立てでは、あと四ヶ月といったところだな。
それまで、じっくりと考えておくといい」
四ヶ月、かぁ……
「その間にまた襲撃があったら、どうしよう?」
正直、秀人さん一人じゃあ、大変だ。
「闇の書の守護騎士達が蒐集を行えるのは、一人につき一回。一度蒐集された魔導師の元に現れたという記述は無いから、安心していい」
なるほど。
「でも……アースラのみんなが戦っているときに……」
じろり、と、クロノが私を睨む。
「では、魔力を失った君に、何が出来る?」
「う……」
キツい一言が、突き刺さる。
私には、戦う以外に脳が無い。デスクワークもできなければ、機材を活用することもできない。
大人しくしているのが、一番いい。
「なぁ、俺は?」
秀人さんが控えめに挙手し、聞く。
「君のリンカーコアは、通常の魔導師のものと比べて特異だ。高町なのはを襲ったのと同じやり方では、摘出は不可能だろう」
それじゃあ、ひとまずは襲撃される心配は無いってこと?
「闇の書の主が、それを可能にするだけの力を手に入れるのが先か、秀人のデバイスが完成するのが先か……どちらにせよ、通常通りの生活を送っていてくれればいい」
四ヶ月……猶予があるような、無いような。
「……護衛も付けるから、心配はいらない」
……何故か、微妙な顔をしながらそう言った。
…………まぁ、気にしなくていいや。
「かっこいい名前、付けてあげようね」
『当然です。私の、妹になるのですから』
……秀人さんのデバイス完成まで、あと四ヶ月。
これが、後に『闇の書事件』と呼ばれる物語の、プロローグだった。
よく二次創作で言われる「クロノは魔力量が少ない」っていうのはデマです。
にゃんこ師匠たちからも、「魔力はそこそこのものを持っている」と明言されています。