魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第十話

 

 

ここは、とある一室。

 広さは八畳ほど。窓は無く、扉には、厳重な対衝撃・対熱・対魔法処理が施されている。

 俗に言う拘置所なのだが……この一室の住人は、そんな状況などお構い無しに、うきうきと調子っ外れな歌などを歌っていた。

くるくると、無駄に洗練された無駄の無い無駄なターンをしながら、部屋の一角へ移動していく。

 

 清楚なワンピースを可憐に翻しながら、調子っ外れの歌は続く。

 

 ニコニコと、子供の無邪気さを百倍濃縮したような笑顔を浮かべながら。

 

 ……よほど、気に入ったらしい。

 

ぱこん、とその箱を開ける。

目に見える面には、奇妙な覆面を被った……俗に、『ヒーロー』と呼ばれる格好のものが、印刷されていた。

八畳間に置かれた唯一の娯楽……テレビと、DVDデッキ。

 その脇には、大量のDVDが積み上げられていた。

 アニメであったり、特撮であったり、タイトルはとにかく多いが、唯一の共通点は……その全てが、男児向けである、ということだった。

 

 

 歌詞を端折りつつ、トレイにディスクをそっと置き、読み込みを開始させた。

 しゅいいいいいいん、かりかりかり……と、使い込まれたDVDプレイヤーがディスクを読み込み、タイトルを映し出す。

「…………」

 わくわくしながら、本編再生のボタンを押した。

 

 物語も佳境。

 番組もそろそろ終盤に向けてのスパートに入っており、強力な敵との、バイクチェイスが映し出されていた。

「おおおぉぉ…………!」

目は星を浮かべたようにきらきらと輝き、両手は興奮でぎゅっと握り締められている。

 甲高いエキゾーストを奏でながら、追い抜き、追い越し……時には前輪を浮かせるアクロバティックなアクションに、少女はすっかりと心奪われていた。

「ふあぁ…………かっこいい…………」

 敵を倒し、さぁ次回予告を見ようとしていたところに、無粋な雑音が割り込んだ。

  

――ビーッ……

 

来客を報せるブザーだ。

「…………誰だよ、まったくもう」

 仕方なく、一時停止をして応対する。

「はーい」

『僕だ。入るぞ』

 がしゅん、と重苦しい音を立て、ドアが開く。

「なーんだ、クロノか」

「いきなり、ご挨拶だな……フェイト」

 そして、どちらからでも無く、透明な衝立を挟んで椅子に座った。

「アルフと、おかーさんはどうしてる?」

 これは、クロノが来る度に聞いている。

「アルフの腹部の傷は、完全に治癒した。最近は、走り回りたくて落ち着かない様子だな。プレシアの呼吸器系の疾患も、何とか治療が間に合ったよ」

 そもそも、あそこまで重篤になるまで症状を放置していたことが不自然なことなのだ。

「……会える?」

「ああ、アルフに関して言えば、すぐに会えるだろう」

 上目遣いで聞くフェイトに、クロノは丁寧に受け答えする。

 ある程度付き合ってみればわかることなのだが、クロノは少し言葉が厳しく無愛想ではあるが、冷血というわけではない。当たり前の気遣いくらいなら、出来る少年だった。 

「事情聴取に協力的で、素行にも問題は見られない。君との面会も、じきに設けられるだろう」

「やった!」

 ぱっと嬉しそうに笑い……

「…………おかーさんは?」

 心配そうに、そう聞いた。

 

 途端、クロノの表情が濁る。

「…………プレシアに関しては、正直難しい。アルフと違って、大規模事件の主犯だからな。技術協力による司法取引を続ければ、いずれは……だが、まだ断言は出来ない」

 主犯であり、次元犯罪者であるプレシアとの接触は、執務官以上の階級にある者にしか認められていない。

 それ以外の者には、音声通信どころか、アナログな手紙での交流、執務官を通じての伝言さえ禁じられている。次元犯罪者とは、そこまでしなければならないほどの重罪人なのだ。

「………………そっか」

 目に見えて落ち込むフェイト。

「だが、いい報せもある」

「え……?」

「実は、…………」

 クロノが説明を続けるにつれ、きょとんとしていたフェイトの表情が、徐々に輝いていく。

「マジで!? いいの!?」

「ああ」

 クロノは、珍しく笑みを浮かべ、それをフェイトに向けた。

「その許可申請も、すでに提出してある。まぁ、問題なく受理されるだろう」

「ひゃっほう!!」

 ぐっとガッツポーズを取った。

「……まぁ、とにかく楽しみにして……」

 

――――ビーッ!!

 

 と、部屋のブザーが、先ほどより強めに鳴った。

『クロノ執務官、緊急事態です。すぐにアースラへ帰還するよう、リンディ・ハラオウン提督より連絡がありました』

「了解だ」

 思考を切り替え、席を立つ。

「すまない、フェイト。少し早めに切り上げる」

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 俺は現在、時空管理局、その地球支部のような場所に連れて来られていた。

 アースラの連中と同じような制服を着た局員達からじろじろと注目を浴びつつ、エイミィに教えられた通りのルートを歩く。

 そのエイミィ本人はと言うと、今日俺が対面する、マリエルとかいう人物を呼びに先に行ってしまった。

「うわー……超気まずいんだけど……」

 さすがに、Tシャツにジーパンという格好は浮きすぎているけど……それだけでは無いらしい。ひそひそと、悪意は感じないものの噂話をしているのが、何組かいた。

「……」

 何の気無しに、そちらを見る。すると……

「……ひっ!」

 明らかに怯えて、そそくさと足早に立ち去っていってしまう。

 うーん……何でだろう。俺、そんなに目つきも態度も悪くないと思うんだけど……

「おお、ここだな」

そうこうしている間に、到着した。扉の前に設置されたブザーを押す。

 ドアが開き、先に来ていたらしいエイミィが顔を出した。

「あ、秀人君。ごめんね、一人で来させて」

「めっちゃ注目された……」

「あー……」

『やっぱりか』とでも言いたげな表情で苦笑する。何か理由でもあるのだろうか。

「後で説明するよ。さ、入って」

 

 部屋の中は、思っていたよりも整頓されていた。用途がわからない機材がいくつかあるものの、椅子やテーブルなど、普通に生活している痕跡が見受けられる。

「んで、どういう人なんだ? マリエルさんって」

 メカニックマイスター……とにかくすごい技術者、ということだけは聞いているものの、その性格や嗜好は全く聞いていない。

 まぁ、部屋を見た感じ、そんなヤバい人じゃなさそうだけど。

「……説明は、難しいかな? とにかく、会えば分かるよ。…………嫌でも」

「? そうか」

「それじゃ、行こうか」

 そして、おもむろに席を立った。

「ここじゃないのか?」

 てっきり、ここがその人の部屋だとばっかり……

「ここは、ただの休憩室だよ。マリエルが、人間が入れるくらいに部屋を片付けるから、って」

 …………うん、めちゃ不安だ。

 

 歩くこと数分。どんどん人通りが無くなり、薄暗く、かび臭くなっていく。

「到着ーー」

 …………ここ?

 この、どっからどう見ても物置というか、ゴミ屋敷的な場所が?

「マリー、入るよ」

 その扉を、エイミィは躊躇無く開け放つ。

 

「………………」

 まず見えたのは、薄汚れた白衣。薬品でも溢したのだろうか、変な色に変色し、ところどころに穴が空いている。

 それが、もぞもぞと動いている。

「………………」

 もそもそと、聞き取れないほどの小さな声で何かをつぶやきながら、手元のメモに何かを書き込んだり、かちゃかちゃと黄ばんだキーボードを打鍵していたり……あからさまに、マッドサイエンティストだった。

「すまんエイミィ。用事を思い出した」

 くるっとUターン。

 さーて、帰って飯食って寝るかー。

「待って待ってちょっと待って!」

 エイミィが、俺のベルトを掴んで必死に引き止める。

「マリー! マリーってば!」

 そして、残った左手で白衣の背中をべしべし叩いた。

「……んー? ああ、エイミィか……」

 綺麗な中性的な声を出しつつ、のっそりと白衣の背中が振り返った。

「……ソレが、例の坊や?」

 厚ぼったく、顔の大部分を隠すような眼鏡……その奥で、瞳が怪しく輝いている。

「うん、そうそう! ……ほら秀人君、挨拶挨拶!」

「……いらないよ。調査済みだから」

 積み上げられていた山から、一冊のファイルを器用に抜き出した。

「…………読もうか?」

 調査済み……つまり、俺の過去のこともしっかり記入されているらしい。

「……勘弁してくれ」

「そう」

 ぽいっ……と、片隅に置かれていた箱にファイルを丸ごと投げ捨てる。

 

――ジュウッ……!

 

 僅かに焦げ臭い匂いをさせて、ファイルは完全に焼失した。シュレッダーみたいなものだったらしい。

「いいのか?」

「覚えたから」

 ぷいっと、また背中を向けてしまう。

「…………専用デバイスの開発。バイタルデータが必要だからちょっと来い」

 横柄に自分の隣を指差す。

「ご、ごめんね、秀人君……変な子だけど、根はいい子だし、腕も確かだから……」

「……らしいな」

 じゃなかったら、わざわざ俺のプロフィールを読み上げるかどうかなんて確認しないだろうし、捨てもしないはずだ。

 マリエルの隣に行く。

「……腕出せ」

 言われるままに、腕を差し出す。

「ん」

 意外と柔らかな手で、俺の腕を引き寄せ……

 

 ぶすっ。

 

 注射器を、思いっきりブッ刺した。

「痛ってええええええええ!!」

 せめて一声掛けろ!

「……よし」

 針を刺した箇所が再生する前に、注射器を引き抜いた。

「あー……痛かった」

「…………次、これ握って」

 お構い無しに、変な筒を渡される。

「はいはい……」

 

 その後も、健康診断っぽい検査やら、意味不明な検査をいくつか繰り返し……

「……おしまい」

 どこか満足げなマリエルの声と共に、終わった。

「……できたら呼ぶから、また来い」

 この短い時間で、分かったようなことを言うのも変かもしれないけど……、気付いた。

 マリエルは、クロノとほぼ同種の人間だ。

 言葉は横柄。態度は無愛想。でも、根はいい奴。

 道理で、エイミィと仲がいいわけだ。

「あ…………忘れてた」

 がたん、とマリエルが慌てた様子で立ち上がり、ぱたぱたと部屋の隅にあったシャッターへと駆けていく。

 途中、くるっと立ち上がり……

「……何してるの? 来なよ」

 …………クロノと違うところは、『相手は必ず自分の話を理解している』と思い込んでしまう癖がることだな、うん。

 

 がらがら……と、シャッターを開ける。

「え……?」

 そして、あるはずの無いソレが、俺を出迎えた。

「……お前、プレシアの庭園に捨てていっただろ」

 何種類かの機械油と、ガソリンの匂い。

「ガソリンエンジン……前々から興味があったから、勝手に回収させてもらった」

 既に型遅れの、古臭い車体。

「……なかなか、興味深い研究材料だった」

 度重なる酷使によりやつれた、漆黒のフルカウル。

 イグニッションに刺さったままのキーには、見覚えのあるキーホルダー。

 間違いない。

 

「……俺のバイク」

 

 虚数空間に消えたと思っていたけど……拾っていてくれたのか。

「もう調べつくしたから、返す」

「……さんきゅー。マリー」

 親しみを込めて、エイミィと同じ愛称で呼ぶ。

「ん」

 拒否は、されなかった。

 ふいっと踵を返し席に戻り、かちゃかちゃかちゃかちゃ……と、猛烈な勢いで打鍵していく。

「……こうなったら、三日は動かないんだよね。帰ろうか?」

「ああ。…………マリー」

 どうせ聞いてはいないだろうが、それでも言っておこう。

「バイク、ありがとな。それと……俺のデバイス、よろしく頼む」

「………………ん」

 ひらひらと、『さっさと帰れ』とばかりに手を振る。

 苦笑しつつ、ガレージからバイクを引っ張り出した。

 

……さーて、帰るとしますか。

「………………」

 ヤバい。

 来た時の数十倍、注目されてる。

「……ぷくくくっ」

「笑うな」

 俺は…………バイクをがらごろ押しながら、支部の廊下を歩くという前代未聞の行動を取っていた。

「……しょうがないだろ。トランスポートまで、道はここしか無いんだから」

「ふふ、でも、すっごい目立ってるし……! また一つ伝説が増えちゃった」

 ん? 今、なんつった? 笑い声で、聞き取れなかった。

「エイミィ、今なんて……?」

 

――――ビーッ、ビーッ!!

 

 響き渡る警報。アースラと同じく、これは……

「 「 緊急事態!? 」 」

『第九十七管理外世界において、守護騎士を観測! 現地担当局員、直ちに出撃! 繰り返します! 第九十七管理外世界において……!』

 一気に緊迫した空気に包まれ、持ち場へと走り出す周囲の局員達。

「エイミィ、急ぐぞ!」

「え?」

 バイクに跨り、キーを捻る。そして……

「せいやっ!」

「え?」

 エイミィの襟首を掴んで一本釣りして、タンデムシートに乗っける。

転送装置まで、一気に!

 

――ヴァオオォンッ!!!

 

セルを回した瞬間に、力強い息吹を吐き出す。

アクセルを開けて、開けて、開けて……!

「いっけええええええええええええええええええ!!」

 

――ガオオオオオオオオオオォォオン!!

 

「うにゃああああああああああああああああああ!?」

 エイミィを振り落とさんばかりの勢いで、疾走を開始する!

「秀人君! 廊下! 屋内!! また伝説がぁ!」

「伝説は塗り替えるものなんだよォ!」

 滑りやすい床をタイヤがグリップし、一気に走り抜けていく。

 

 

待ってろよ守護騎士! 今度こそ、リベンジだあああああああああああ!!

 

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