魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第十一話

――ビーッ! ビーッ!!

 

「これは……!?」

 一ヶ月ぶりに感じる、緊迫した空気。

 周囲でくつろいでいた局員達が、一斉に駆け出していく。

「緊急警報!?」

 まさか…………まさか!

「ああ、くそっ。こんな時に……!」

 彼らの後を追う形で、私もその場から駆け出した。

 

「リンディさん!」

 ブリッジの扉を開け、入る。

 リンディさんは、すっかり戦闘モードになった表情で、私を見据えた。

「なのはさん。あなたには、医務室での安静を命じていたはずです」

 開口一番、そう切り出した。 

「…………」

 ぎりっ……と、一瞬だけカッとなり、歯を食いしばる。

 なんとか理性で爆発を防ぎ……心を落ち着けた。

「即刻、ブリッジから出て行きなさい。ここは、戦えない者がいる場所ではありません」

 厳しい……時空管理局の責任を、認識した目。

 リンディさんだって、何も私を邪魔者扱いしているわけじゃない。私の体調と……これ以上、非日常へと関わらせまいとする、優しさからの対応だろう。

 でも、だからこそ……

 

「回復し、戦線に復帰した時のことを考えてください。守護騎士達の戦闘を見ておくことは、後の戦闘を有利に運ぶことに繋がる筈です」

「戦線に復帰って…………本気なの?」

「はい」

……非日常、上等。

 最初から最後まで……しっかりと関わり抜くつもりで、ここにいるんだから。

「…………それは、秀人君に止められてでも、曲げないつもり?」

 ……確かに、秀人さんなら渋るだろう。過保護なあの人のことだ。自分ひとりで、勝手に背負い込んで片をつけようとするに違いない。

 でも、私がやると言えば……

 

「秀人さんなら、止めません」

 

 最後には納得して、一緒に戦ってくれる。

「…………わかりました。許可しましょう」

 リンディさんは、そう言って許可を出した。

「ありがとうございます」

 さて…………現地の様子はどうなんだろうか。

 前回の戦闘では、何もできないまま終わっちゃったから……今回は、しっかりと目に焼き付けておこう。

「映像、出ます!」

 オペレーターの一人が声を張り上げる。

 

――ブンッ……

 

 ブリッジ内に巨大なモニターが表示され、現地の様子が映し出された。

 

 クロノが率いる、アースラ武装隊。

 彼らに円状に囲まれ……全く怯む気配さえ見せない、二人の人物。

 一人は、片刃剣を佩いた紫色の鎧を着込んだ……多分、男性。

 もう一人は、群青色の鎧越しだが、柔軟な曲線を描く……こちらは、女性。

 二人は背中を合わせ、包囲の輪を観察している。

「……あれが、守護騎士」

画面越しにも、びりびりと威圧感を感じる。

私が相手にしていた雑魚騎士なんて、比較するのもおこがましい程だ。

「あれが……!」

 思わず、握る手に力が加わる。

 秀人さんが引き分けたのとは、違う個体らしいけど……それでもあいつらは、憎い仇だ。

「……くそっ」

 こんな時に、見ていることしかできないなんて……!

 でも、見ていることしか出来ないなら……思う存分、目に焼き付けてやる。

何か、掴むことができるはずだ。

『時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。君たちには、傷害および、殺人未遂の容疑が掛けられている。武器を捨てて、投降すれば……』

 その、言葉の途中に……

『ぐあっ……!』

 群青の守護騎士が、かなりの速度で局員の一人に接近し、拳を振るった。

 ただの拳。魔法陣の展開も無かったはずのソレは、局員が咄嗟に張った防御を易々と貫き、沈めた。

『攻撃、開始!』

 クロノの号令の元、大量の射撃魔法が守護騎士たちに襲い掛かる。

 

――バッ!!

 

青騎士が、両腕を広げる。

 展開するのは…………三角形の魔法陣。

「何、あの術式……」

 魔法文字も、私達が使うものとは全く違う。

『…………』

 そして、動こうとしていなかった紫騎士が剣を抜く。

『……!』

 それを、クロノに振るう!

『くっ!!』

 

――ガギイイインッ!!

 

 クロノは、プロテクションを展開して……え、受け止めた?

「何で……?」

 どう考えたって、あそこは回避する場面だ。

 続いて、青騎士も三角形の魔法陣を展開し……

 

――ズババババババババッ!!

 

 杭状の魔力弾を、大量に射出した。

 確かに、凄い弾幕だけど……速度は、私のアクセルシューター以上、フェイトのフォトンランサー以下……くらいかな。

 クロノなら、余裕で……

『……!』

 あ、あれ……?

 どうして、また防御魔法を展開するの……?

『おおおおおっ!』

 そして、そのまま弾幕に向かって、真正面から突っ込んでいった!

『ク、クロノ執務官!?』

 回避を選んだ局員が、愕然としている。

「、馬鹿!」

 わざわざ、敵の弾幕に突っ込んでいくなんて……!

 私や、秀人さんくらいの魔力があれば無理じゃないけど……クロノの魔力じゃ、自殺行為にしかならない!

 

――バキンッ、バゴッ……!!

 

 クロノのバリアジャケットを、容赦なく削っていく。

 

――ビシュッ!

 

 防御を突き抜けた一発が、クロノの額を掠める。危ない……あと少しで、目を潰されていた。

『はああっ!!』

 失明のリスクを払ってまで詰めた距離。

「馬鹿、あの馬鹿……! 何してるのよ……!」

 あんな、接近戦の鬼みたいな敵に、ダメージを負ってまで接近するなんて……!

『おおおおっ!』

 決死の突貫も、ブレイクインパルスも……

『……』

 

――バキイイイイインッ!!

 

 青騎士の防御に、呆気なく吹き散らされる。

『……!』

 青騎士が、防御を解除して拳を振るう。

近距離バインドをするには、絶好の好機。けど……

『っ、おおおおっ!』

 クロノは、魔力で強化した自分の拳を撃ち合わせた。

『っく!』

 だが、青騎士の方が威力で勝り、クロノは拳から出血する。

 

『……』

 

――ブォンッ!!

 

 紫騎士の剣。

『ああああっ!!』

 それを、武器としての強度に欠けるS2Uで、わざわざ受け止めた。

 

「どうしちゃったの、クロノ……?」

 クロノは、冷静な戦闘が出来ていない。

あれだけ口を酸っぱくして、私達の戦い方に口出ししていたクロノが……まるで、当の私達のような戦い方をしている。

 得意のバインドも、誘導射撃魔法もまともに使わず……不得意な体術と、ダメージ無視の突貫戦法。

「クロノ……!」

 ダメだ、このままじゃ……!

 守護騎士達の攻撃は、緻密に計算されたロボットのように正確で、隙が無い。

 更に……

『ア……』

『オオオ……』

『アアアアア……』

 わらわらと……雑魚騎士まで沸いてきた。

かなりの数だ。私が潰した時の、数倍の数は確認できる。

『な、何だこいつら……!』

『くそっ、どけ!! クロノ執務官が……!』

 ……局員達は雑魚騎士の数に押され、クロノの救援に向かえない。

 指揮官が冷静さを欠いている現状、戦列は意味を成していない……ただの烏合の衆に成り下がっている。

「まずいわね……」

「……このままじゃ」

 全滅。

 そんな、不吉な言葉がよぎり……いてもたっても、いられなくなった。

 

――ガンッ!

 

 椅子の背を蹴飛ばす。

「な、何ですかぁ……!?」

 座っていた、エイミィの代理を務めるオペレーターに命令する。

「通信繋いで!」

「は、はぁ……?」

 ぽかん、とボケた返事を返すオペレーターの胸倉を掴み上げ、至近距離で睨みつける!

 

「早くしろォ!」

 

「ヒィッ……! は、はいいいっ!!」

 ……よほど凄い顔をしていたらしい。恐怖に顔を引きつらせながら、命令に従った。

「つ、繋がりましたぁッ……!!」

 涙目で報告してきた。

「ご苦労!」

「ひいっ!」

インカムをむしり取る!

 今の私に出来るのは……この程度!

「なのはさん、あなた何を……」

 リンディさんを無視して、思いっきり息を吸い込み……!

 

「クロノオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 大声で、現場に怒声を送る!

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

『クロノオオオオオオオオオオオッ!!』

 

 唐突な声に、クロノは、今しがた打ち込もうとしていたS2Uを取り落としかけた。

「な、何だ!? 君か、なのは!?」

 慌てて後退し、魔力弾をやり過ごす。

『何やってるの!? そんな、らしくない戦い方して!』

「……!」

 クロノはその言葉に、ぐっと歯を食いしばった。

『クロノの戦い方は、そんなのじゃないでしょ!? さっきから、何を……!?』

 そんなの。

 彼女が言う、『そんなの』とは……

 

――力には力。敵に真正面から挑んでいく戦い方。

 

――出力に乏しい自分には、致命的に合わない戦い方。 

 

――吾妻秀人、高町なのはのような、恵まれた人間にしか出来ない戦い方。

 

「うるさい!」

 

 クロノは思わず、そう叫んでいた。

『な……!』

 通信の向こうで、なのはが息を呑む。

「……口出しを、するな!」

(僕はやれる! 低い出力でも、平均以下の体格でも……!)

 それは、不安。

 AAA+認定を受けてはいるものの、運用技術によるものが大きいクロノにとって……絶対的な出力の低さというのは、後ろ暗いものがあった。

(彼らと、共に戦える!)

 周囲にいる仲間は、誰も彼も、才能に溢れ、努力が成果として結実し、今も尚成長を続ける、真の一流。今、自分に怒声を送るなのはと……幾度と無く共闘した秀人は、その最もたるものだった。 

 

――自分は、彼らと肩を並べるに値するのだろうか?

 

 それが、クロノが抱く不安の正体だった。

 

自分には、高町なのはのような、圧倒的威力の砲撃魔法は放てない。

 

自分には、吾妻秀人の身体のような、強力な資質は備わっていない。

 

 自分には、フェイト・テスタロッサのような、見失いそうになるほどの機動力は無い。

 

 自分には。

 

自分には。

 

――自分には、何があるというのだろうか。

 

 それは、劣等感、と言い換えてもいいかもしれない。

(僕は、やれる……! なのは、秀人と同じように……力で、敵を打ち倒せる!)

 だから、このような暴挙に走った。

 周囲に……そして、自らに認めさせるために。

「戦闘は、問題なく続行できている! 君は、引っ込んでいろ!」

『ちゃんと目の前を見て! クロノの目の前で、何が起こっているのか、ちゃんと見て!!』

 なのはの、必死の説得。

だがそれも、頭に血が上ったクロノには届かない。

「目の前……? そんなの、守護騎士が二体だ! それ以外に、何が……!」

ビキッ……と、通信に奇妙なノイズが走った。それが、なのはがインカムを握り潰し掛けた音だとは、クロノに気付く由は無かったが……彼女の怒りが頂点に達したということだけは、理解できた。

 

『クロノ…………あなたの敵は、守護騎士だけ……?』

 

 静かな……氷のように、静かな声。

『あなたの仲間は、今どうなっているの……?』

「あ…………」

それが、文字通り、クロノに冷や水をぶっ掛けた。

「……!」

 クロノは、今になってようやく、自身の置かれた状況を振り返った。

 見ることさえ忘れていた、オペレーターからの現状報告を、目の前に表示させる。

 

――敵勢力、増大。いずれも、C~Bランク。

 

――武装隊、三割が戦闘不能。

 

「僕は……!」

 

 自分の馬鹿さ加減に、ようやく思い至った。

 そしてそのツケが、今頃、このタイミングで回ってきた。

 

――バキィンッ……!!

 

「……! し、しまった!」

 両腕を拘束する、青白いバインド。

 見れば、青騎士が魔法陣を展開していた。

 そんな初歩的な見落としをするほど、我を失っていた。

「……!」

 そして、紫騎士が迫る。

 

――解除は、間に合わない。

 

「……」

 そう悟った瞬間、クロノの内心は、驚くほどに冷静……いや、諦めで満ちていた。

(……駄目だった)

 圧倒的な諦観の念が、クロノの全身から抵抗する気力を奪い去る。

 

(僕は、秀人のようには戦えなかった)

 

 自分の力は、ここ止まりだった。

 秀人と肩を並べて戦うなど……土台、無理な話だったのだ……と。

 

(執務官……魔導師としても、僕はこの程度だった)

 

 オペーレーターからの情報を見逃し、増援にも気付かず、ただ不利な状況だけを、作り出してしまった。

 自分の無意味な意地で、指揮すべき、守るべき仲間を危険に晒してしまった。

 

 ゆっくりと、スローモーションのように映る景色の中、凶悪なまでに鋭い刃が、真っ直ぐに振り上げられていた。

 あの剣を頭に受ければ、死ぬだろう。

「……ははっ」

 その事実とは裏腹に、自虐的な笑みが零れた。

 

(…………受け入れよう)

 

 この愚か者を断罪してくれるのなら、何でもいいと。

 目を閉じようとさえ、考えていた。

『結界前方に、転送ポート開きます! これは……地球支部からの……』

 オペレーターのそんな報告も、もはや耳を素通りする。

 

――…………オオオオオオォォ……!!

 

「……? これは……」

 特徴的な、何度も耳にした音。

「まさか……!」

 

――オオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォン!!

 

 内燃機関の、爆発音!

 

「うおりゃあああああああああああああああああっ!!!!」

 

 黒塗りの二輪に跨り、凄まじい速度で突っ込んでくる!!

 

――ドガッ、ガギャッ……!

 

「ア……!!」「アギャッ……!!」

 局員達に迫る雑魚騎士たちを、猛烈な勢いで跳ね飛ばしながら!

 鎧袖一触という言葉を具現化したように、一直線に障害物を跳ね除けるその姿。

 窮地に立たされ、生傷を増やし続けていた局員達の表情が一変。

「うおおお! 増援だ!」

「しかも、よりにもよってお前かよ!」

「執務官を頼んだぞ!」

驚きと、喜びが入り混じった声援を受けつつ、秀人のバイクが疾走する。

 

『秀人さん!?』

 アースラから、なのはが驚く声が聞こえた。

「……!」

 紫騎士が驚き、身を引こうとするより早く……

 

――ズガシャアンッ!!

 

「…………!!」

 真正面から、微塵も減速せずに衝突した!

 バイクの外装の欠片を撒き散らしながら、紫騎士が投石器で放られたように吹き飛ぶ!

 がりがりと、鎧と地面が火花を散らす。体勢を立て直そうとするところに、更に……

 

――ベギッ、ゴギャッ……!!

 

 追撃の、轢殺攻撃!

「……! ……、!!」

 更に激しく転がり、

 

――ドゴォンッ……!!

 

 電柱に背中から激突し、海老反りになり止まった。

 右腕にありえない関節が追加されて尚、剣を手放さないその戦意は敬意に値するが……

「ふんッ!!」

 急制動によるジャックナイフで後輪を浮かし……

 

――ドズンッ!!

 

 操縦者含め、300kg近い重量のほぼ全てを乗せた後輪で、紫騎士の兜を踏み潰した。

「…………!」

 ビクンッ! と痙攣し……動かなくなる。

 兜が大きく罅割れ、手足が変な軌道を描き……見た目は轢殺死体そのものだった。

 

「え、えげつねぇ……!」

「うえ……!」

「……かわいそう」

 局員が言った通り……もはや、哀れにさえ思えるほどだった。

「……」

 まとわり付く闇が、紫騎士の傷を修復し始める。

 一体きりとなった青騎士は、それを一顧だにせず構えを取った。

「……、今だ、掛かれ!!」

 それを攻め時と見た局員達が、一気呵成に攻撃に転じる。

 

「……」

 戦闘音をよそにバイクを降りた秀人が、険しい顔でクロノに歩み寄ってくる。

「……」

 クロノはそれを、死んだ魚のような目でぼうっと見ていた。

「クロノ……」

 労わるように、両肩に手が乗せられる。そして……

 

「歯ァ食いしばれッッ!!」

 

――ゴギィンッ!!

 

 ……渾身のヘッドバットが、クロノの前頭部に直撃した。

「くあああぁッ…………!!」

 頭を押さえ悶絶するクロノ。

「な、何をする!」

 若干、目に光が戻ったクロノが秀人を睨みつける。

「目、覚めたかよ」

「……! ああ、不本意ながらな!」

 少なくとも、活力は戻ったらしい。

 だがすぐに、肩を落としてしまう。

「……僕には、無理だった。君のように戦うのは」

「…………は?」

 呆気に取られる秀人を無視し、続ける。

「君たちのように、才能が無い僕には……」

 ぐずぐすと、拭えぬ劣等感が口をつく。

 秀人は、ぽりぽりと頭を掻き、うーん、と悩ましく唸り、言う。

「そんなことで、悩んでたのか」

 かっと頭に血が上る。

「ああ、そうさ! 君にとっては、そんなことだろう! 才能の有無なんてことは!」

 クロノは、自分の言葉に反吐が出る思いだった。

 醜い劣等感を言葉にして、妬む相手に八つ当たりするなど……人間として、恥ずべき行為だ。

 だが、止められない。

「才能の有無が、本当に力の全てなのか?」

「……全てではないにせよ、かなりの要素だろう!」

 聞き分けの無い弟を諭す兄のように、諭す。

「エイミィが言ってた。低い出力、乏しい才能を努力で補って、AAA+認定を受けたって」

「あ、ああ……」

 劣等感が疼き口ごもるクロノに、秀人が言った。

「才能の差っていうハンデがあって、資質が乏しいってことも分かって…………でも、お前は努力を怠らなかった。諦めなかった。それは、何のためだ?」

 

「………………」

 クロノは、あの夜のことを思い出す。

 あの夜……父が殉職した日の夜。

 常に笑顔を絶やさない母が、誇りある時空管理局の提督が、背中を丸めて泣いていた。

 いつも自分を背負ってくれる大きな背中が、妙に小さく見えて。

その涙を止められない自分の無力が、本当に悔しくて。

 

 その涙を止めたいと……止められるだけの力が欲しいと、確かに願った。

 

 それが、クロノ・ハラオウンという魔導師の原点。

 

今の生き方を決めた、始まり。

 

「でも、まだ僕は……弱いままだ」

「…………なぁ、クロノ」

 そこまで聞いた秀人が、半笑いで言う。

 

「お前、結構バカだろ?」

 

 本気の本気で、バカを見るような目だった。

「な……何だと!?」

 怒るクロノに、秀人はやれやれ、と首を横に振る。

「母親の悲しむ顔が見たくないなんて理由で、才能が無い分野に飛び込んで……それで、執務官にまでなっちまうんだもんなぁ……苔の一念、岩をも通す、と言うか……」

 でも、と前置きし、言った。

 

「努力だけで執務官にまでなれたなら……それは、立派な『才能』じゃないか」

 

はっと、雷に打たれたように我に帰り、秀人と目を合わせる。

「実際、俺となのはは、何度かお前に模擬戦で負けてるんだぜ?」

 それもまた、事実だった。

 二人の能力検定試験の際、秀人とは引き分け。なのはに至っては、絡め手に引っかかりノックアウトされていた。

「お前に才能が無いなんて言われたら、俺らは立つ瀬がねーよ」

 からからと快活に笑い、ぽん、と軽く、しかし力強く、クロノの肩に手を置く。

 

「胸を張れ、クロノ!

 

お前は強い!

 

俺が、なのはが……アースラの皆が、保証してやる!」

 

 クロノは、ぽつんと立ち尽くし、秀人の言葉を反芻する。

 

――お前は強い!

 

「そんな、ただの気休めが……」

だがクロノは、自分の中から、劣等感が拭われていくのを確かに感じ取っていた。

「気休め、が…………!」

 ぽたぽたと、地面に水滴が落ちる。

「っく、う、ううう……!!」

自分は、なんと些細な事で悩んでいたのだろうか。

 秀人は何も言わず、ただクロノを見つめる。

 

――お前は強い!

 

 その、たった一言が、無責任な一言が…………今までの実った努力も、実らなかった努力も……『力が欲しい』という想いの全てを、肯定してくれた。

 

 自分が力を求めたのは、何の為か。

 誰かに認めてもらうためか?

 地位を築くためか?

 

 いいや、違った筈だ。

「僕は……」

 誰かの涙を止めたくて……その『誰か』の対象が、徐々に広がって……彼らを、この手で守りたかったのだ。

それを守れるならば……自分の才能なんて、些細なことではないか。

 

 それらはあくまで手段の一つであり……目標では、無いのだから。

 

――胸を張れ!

 

「ふん………………」

 ぐいっと、目元を袖で乱暴に拭う。

 僅かに充血した目。

 だが、吹っ切れたような猛々しい笑顔と……

 

「わざわざ、言われるまでも無い!!」

 

 取り戻した男の顔が、そこにあった。

「ハッ……上等!」

 秀人もまた、笑みを浮かべる。

 

「…………!!」

 ようやく修復を完了した紫騎士が立ち上がり、

 

――ガギュンッ!!

 

 ……峰に備え付けられた、カートリッジシステムが火を噴く。

 途端、膨れ上がる破壊力と殺気。

 

「!!」

 

 一気に至近距離。振り下ろされる刃。

 

 

 秀人とクロノは、同時に振り向き……

『Blaze Cannon ! / Divine Smasher !』

 

「 「 はああああああああああああああああっ!! 」 」

 

 

――――ズッガアアアアアアアアアアアアアアン!!

 

 

 紫騎士を、遥か遠方まで吹き飛ばした!

 

「行くぞ、クロノ!」

 

「ああ、秀人!」

 

 二人の魔導師は肩を並べ……敵の懐へ、飛び込んでいった。

 

 

 

「……なかなか、骨が折れそうだ」

 感じる圧力は、あの時……秀人を死の寸前まで痛めつけた、赤騎士と同等。

 更に今回は、青騎士のオマケつき。

 局員達は、雑魚騎士の相手で手一杯……となれば、

「2対2でのタッグ戦」

「僕がサポートする。全力で、いつも通り……考え無しに突っ込め」

 秀人の支援……いわば、サブ的な役目を買って出るクロノ。

「おう」

 秀人は短く応じ、体表の魔力を纏った。

 

「……!」

 開戦の祝砲は、青騎士が放つ、青い魔力攻撃。

「ディバイン……!」

「ブレイズ……!」

 秀人、クロノもまたミッド式魔法陣を展開。

「スマッシャーーーーーーーーーーーーー!!」

「キャノンッ!!」

 

――ズバアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

 

 広範囲への、波状攻撃!

 

――ズガアアアアアンッ!!

 

 二つの魔法が衝突し……。

 

 

 

――ボッ!!

「……!」

 その余波を吹き飛ばしながら、剣を振り上げ、紫騎士が迫る。

 

『Stinger Snipe !』

 

――ズガガガガガガガガガガガッ!!

 

 その突進を、上下左右から迫るクロノの誘導弾が食い止め、タイミングをずらす。

――ヴォンッ!

「ヒュウッ! あっぶね!」

 薄皮一枚で回避に成功した秀人が、すれ違いざまに膝蹴りを紫騎士の腹部に放つ。

――ガシンッ!!

 紫騎士はそれを、刀の柄尻で受け止める。

互いに決定打を打てない距離でつかみ合い……

「ブッ飛べ!」

――ドパァンッ!!

「!」

――ガゴォンッ!!

 超至近距離でのリアクティブ・アーマーと、紫騎士の爆破魔法で互いを間合いの外に押し出す。

「!!」「……!」

 今度は青騎士との二体!

 

「 「 うおおおおおおおおおおおおおおっ!! 」 」

 

 咆哮と共に、衝突!!

 

 

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