魔法少女リリカルなのはties 作:ハルハルharuharu
――ビーッ! ビーッ!!
「これは……!?」
一ヶ月ぶりに感じる、緊迫した空気。
周囲でくつろいでいた局員達が、一斉に駆け出していく。
「緊急警報!?」
まさか…………まさか!
「ああ、くそっ。こんな時に……!」
彼らの後を追う形で、私もその場から駆け出した。
「リンディさん!」
ブリッジの扉を開け、入る。
リンディさんは、すっかり戦闘モードになった表情で、私を見据えた。
「なのはさん。あなたには、医務室での安静を命じていたはずです」
開口一番、そう切り出した。
「…………」
ぎりっ……と、一瞬だけカッとなり、歯を食いしばる。
なんとか理性で爆発を防ぎ……心を落ち着けた。
「即刻、ブリッジから出て行きなさい。ここは、戦えない者がいる場所ではありません」
厳しい……時空管理局の責任を、認識した目。
リンディさんだって、何も私を邪魔者扱いしているわけじゃない。私の体調と……これ以上、非日常へと関わらせまいとする、優しさからの対応だろう。
でも、だからこそ……
「回復し、戦線に復帰した時のことを考えてください。守護騎士達の戦闘を見ておくことは、後の戦闘を有利に運ぶことに繋がる筈です」
「戦線に復帰って…………本気なの?」
「はい」
……非日常、上等。
最初から最後まで……しっかりと関わり抜くつもりで、ここにいるんだから。
「…………それは、秀人君に止められてでも、曲げないつもり?」
……確かに、秀人さんなら渋るだろう。過保護なあの人のことだ。自分ひとりで、勝手に背負い込んで片をつけようとするに違いない。
でも、私がやると言えば……
「秀人さんなら、止めません」
最後には納得して、一緒に戦ってくれる。
「…………わかりました。許可しましょう」
リンディさんは、そう言って許可を出した。
「ありがとうございます」
さて…………現地の様子はどうなんだろうか。
前回の戦闘では、何もできないまま終わっちゃったから……今回は、しっかりと目に焼き付けておこう。
「映像、出ます!」
オペレーターの一人が声を張り上げる。
――ブンッ……
ブリッジ内に巨大なモニターが表示され、現地の様子が映し出された。
クロノが率いる、アースラ武装隊。
彼らに円状に囲まれ……全く怯む気配さえ見せない、二人の人物。
一人は、片刃剣を佩いた紫色の鎧を着込んだ……多分、男性。
もう一人は、群青色の鎧越しだが、柔軟な曲線を描く……こちらは、女性。
二人は背中を合わせ、包囲の輪を観察している。
「……あれが、守護騎士」
画面越しにも、びりびりと威圧感を感じる。
私が相手にしていた雑魚騎士なんて、比較するのもおこがましい程だ。
「あれが……!」
思わず、握る手に力が加わる。
秀人さんが引き分けたのとは、違う個体らしいけど……それでもあいつらは、憎い仇だ。
「……くそっ」
こんな時に、見ていることしかできないなんて……!
でも、見ていることしか出来ないなら……思う存分、目に焼き付けてやる。
何か、掴むことができるはずだ。
『時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。君たちには、傷害および、殺人未遂の容疑が掛けられている。武器を捨てて、投降すれば……』
その、言葉の途中に……
『ぐあっ……!』
群青の守護騎士が、かなりの速度で局員の一人に接近し、拳を振るった。
ただの拳。魔法陣の展開も無かったはずのソレは、局員が咄嗟に張った防御を易々と貫き、沈めた。
『攻撃、開始!』
クロノの号令の元、大量の射撃魔法が守護騎士たちに襲い掛かる。
――バッ!!
青騎士が、両腕を広げる。
展開するのは…………三角形の魔法陣。
「何、あの術式……」
魔法文字も、私達が使うものとは全く違う。
『…………』
そして、動こうとしていなかった紫騎士が剣を抜く。
『……!』
それを、クロノに振るう!
『くっ!!』
――ガギイイインッ!!
クロノは、プロテクションを展開して……え、受け止めた?
「何で……?」
どう考えたって、あそこは回避する場面だ。
続いて、青騎士も三角形の魔法陣を展開し……
――ズババババババババッ!!
杭状の魔力弾を、大量に射出した。
確かに、凄い弾幕だけど……速度は、私のアクセルシューター以上、フェイトのフォトンランサー以下……くらいかな。
クロノなら、余裕で……
『……!』
あ、あれ……?
どうして、また防御魔法を展開するの……?
『おおおおおっ!』
そして、そのまま弾幕に向かって、真正面から突っ込んでいった!
『ク、クロノ執務官!?』
回避を選んだ局員が、愕然としている。
「、馬鹿!」
わざわざ、敵の弾幕に突っ込んでいくなんて……!
私や、秀人さんくらいの魔力があれば無理じゃないけど……クロノの魔力じゃ、自殺行為にしかならない!
――バキンッ、バゴッ……!!
クロノのバリアジャケットを、容赦なく削っていく。
――ビシュッ!
防御を突き抜けた一発が、クロノの額を掠める。危ない……あと少しで、目を潰されていた。
『はああっ!!』
失明のリスクを払ってまで詰めた距離。
「馬鹿、あの馬鹿……! 何してるのよ……!」
あんな、接近戦の鬼みたいな敵に、ダメージを負ってまで接近するなんて……!
『おおおおっ!』
決死の突貫も、ブレイクインパルスも……
『……』
――バキイイイイインッ!!
青騎士の防御に、呆気なく吹き散らされる。
『……!』
青騎士が、防御を解除して拳を振るう。
近距離バインドをするには、絶好の好機。けど……
『っ、おおおおっ!』
クロノは、魔力で強化した自分の拳を撃ち合わせた。
『っく!』
だが、青騎士の方が威力で勝り、クロノは拳から出血する。
『……』
――ブォンッ!!
紫騎士の剣。
『ああああっ!!』
それを、武器としての強度に欠けるS2Uで、わざわざ受け止めた。
「どうしちゃったの、クロノ……?」
クロノは、冷静な戦闘が出来ていない。
あれだけ口を酸っぱくして、私達の戦い方に口出ししていたクロノが……まるで、当の私達のような戦い方をしている。
得意のバインドも、誘導射撃魔法もまともに使わず……不得意な体術と、ダメージ無視の突貫戦法。
「クロノ……!」
ダメだ、このままじゃ……!
守護騎士達の攻撃は、緻密に計算されたロボットのように正確で、隙が無い。
更に……
『ア……』
『オオオ……』
『アアアアア……』
わらわらと……雑魚騎士まで沸いてきた。
かなりの数だ。私が潰した時の、数倍の数は確認できる。
『な、何だこいつら……!』
『くそっ、どけ!! クロノ執務官が……!』
……局員達は雑魚騎士の数に押され、クロノの救援に向かえない。
指揮官が冷静さを欠いている現状、戦列は意味を成していない……ただの烏合の衆に成り下がっている。
「まずいわね……」
「……このままじゃ」
全滅。
そんな、不吉な言葉がよぎり……いてもたっても、いられなくなった。
――ガンッ!
椅子の背を蹴飛ばす。
「な、何ですかぁ……!?」
座っていた、エイミィの代理を務めるオペレーターに命令する。
「通信繋いで!」
「は、はぁ……?」
ぽかん、とボケた返事を返すオペレーターの胸倉を掴み上げ、至近距離で睨みつける!
「早くしろォ!」
「ヒィッ……! は、はいいいっ!!」
……よほど凄い顔をしていたらしい。恐怖に顔を引きつらせながら、命令に従った。
「つ、繋がりましたぁッ……!!」
涙目で報告してきた。
「ご苦労!」
「ひいっ!」
インカムをむしり取る!
今の私に出来るのは……この程度!
「なのはさん、あなた何を……」
リンディさんを無視して、思いっきり息を吸い込み……!
「クロノオオオオオオオオオオオッ!!」
大声で、現場に怒声を送る!
◆ ◆ ◆ ◆
『クロノオオオオオオオオオオオッ!!』
唐突な声に、クロノは、今しがた打ち込もうとしていたS2Uを取り落としかけた。
「な、何だ!? 君か、なのは!?」
慌てて後退し、魔力弾をやり過ごす。
『何やってるの!? そんな、らしくない戦い方して!』
「……!」
クロノはその言葉に、ぐっと歯を食いしばった。
『クロノの戦い方は、そんなのじゃないでしょ!? さっきから、何を……!?』
そんなの。
彼女が言う、『そんなの』とは……
――力には力。敵に真正面から挑んでいく戦い方。
――出力に乏しい自分には、致命的に合わない戦い方。
――吾妻秀人、高町なのはのような、恵まれた人間にしか出来ない戦い方。
「うるさい!」
クロノは思わず、そう叫んでいた。
『な……!』
通信の向こうで、なのはが息を呑む。
「……口出しを、するな!」
(僕はやれる! 低い出力でも、平均以下の体格でも……!)
それは、不安。
AAA+認定を受けてはいるものの、運用技術によるものが大きいクロノにとって……絶対的な出力の低さというのは、後ろ暗いものがあった。
(彼らと、共に戦える!)
周囲にいる仲間は、誰も彼も、才能に溢れ、努力が成果として結実し、今も尚成長を続ける、真の一流。今、自分に怒声を送るなのはと……幾度と無く共闘した秀人は、その最もたるものだった。
――自分は、彼らと肩を並べるに値するのだろうか?
それが、クロノが抱く不安の正体だった。
自分には、高町なのはのような、圧倒的威力の砲撃魔法は放てない。
自分には、吾妻秀人の身体のような、強力な資質は備わっていない。
自分には、フェイト・テスタロッサのような、見失いそうになるほどの機動力は無い。
自分には。
自分には。
――自分には、何があるというのだろうか。
それは、劣等感、と言い換えてもいいかもしれない。
(僕は、やれる……! なのは、秀人と同じように……力で、敵を打ち倒せる!)
だから、このような暴挙に走った。
周囲に……そして、自らに認めさせるために。
「戦闘は、問題なく続行できている! 君は、引っ込んでいろ!」
『ちゃんと目の前を見て! クロノの目の前で、何が起こっているのか、ちゃんと見て!!』
なのはの、必死の説得。
だがそれも、頭に血が上ったクロノには届かない。
「目の前……? そんなの、守護騎士が二体だ! それ以外に、何が……!」
ビキッ……と、通信に奇妙なノイズが走った。それが、なのはがインカムを握り潰し掛けた音だとは、クロノに気付く由は無かったが……彼女の怒りが頂点に達したということだけは、理解できた。
『クロノ…………あなたの敵は、守護騎士だけ……?』
静かな……氷のように、静かな声。
『あなたの仲間は、今どうなっているの……?』
「あ…………」
それが、文字通り、クロノに冷や水をぶっ掛けた。
「……!」
クロノは、今になってようやく、自身の置かれた状況を振り返った。
見ることさえ忘れていた、オペレーターからの現状報告を、目の前に表示させる。
――敵勢力、増大。いずれも、C~Bランク。
――武装隊、三割が戦闘不能。
「僕は……!」
自分の馬鹿さ加減に、ようやく思い至った。
そしてそのツケが、今頃、このタイミングで回ってきた。
――バキィンッ……!!
「……! し、しまった!」
両腕を拘束する、青白いバインド。
見れば、青騎士が魔法陣を展開していた。
そんな初歩的な見落としをするほど、我を失っていた。
「……!」
そして、紫騎士が迫る。
――解除は、間に合わない。
「……」
そう悟った瞬間、クロノの内心は、驚くほどに冷静……いや、諦めで満ちていた。
(……駄目だった)
圧倒的な諦観の念が、クロノの全身から抵抗する気力を奪い去る。
(僕は、秀人のようには戦えなかった)
自分の力は、ここ止まりだった。
秀人と肩を並べて戦うなど……土台、無理な話だったのだ……と。
(執務官……魔導師としても、僕はこの程度だった)
オペーレーターからの情報を見逃し、増援にも気付かず、ただ不利な状況だけを、作り出してしまった。
自分の無意味な意地で、指揮すべき、守るべき仲間を危険に晒してしまった。
ゆっくりと、スローモーションのように映る景色の中、凶悪なまでに鋭い刃が、真っ直ぐに振り上げられていた。
あの剣を頭に受ければ、死ぬだろう。
「……ははっ」
その事実とは裏腹に、自虐的な笑みが零れた。
(…………受け入れよう)
この愚か者を断罪してくれるのなら、何でもいいと。
目を閉じようとさえ、考えていた。
『結界前方に、転送ポート開きます! これは……地球支部からの……』
オペレーターのそんな報告も、もはや耳を素通りする。
――…………オオオオオオォォ……!!
「……? これは……」
特徴的な、何度も耳にした音。
「まさか……!」
――オオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォン!!
内燃機関の、爆発音!
「うおりゃあああああああああああああああああっ!!!!」
黒塗りの二輪に跨り、凄まじい速度で突っ込んでくる!!
――ドガッ、ガギャッ……!
「ア……!!」「アギャッ……!!」
局員達に迫る雑魚騎士たちを、猛烈な勢いで跳ね飛ばしながら!
鎧袖一触という言葉を具現化したように、一直線に障害物を跳ね除けるその姿。
窮地に立たされ、生傷を増やし続けていた局員達の表情が一変。
「うおおお! 増援だ!」
「しかも、よりにもよってお前かよ!」
「執務官を頼んだぞ!」
驚きと、喜びが入り混じった声援を受けつつ、秀人のバイクが疾走する。
『秀人さん!?』
アースラから、なのはが驚く声が聞こえた。
「……!」
紫騎士が驚き、身を引こうとするより早く……
――ズガシャアンッ!!
「…………!!」
真正面から、微塵も減速せずに衝突した!
バイクの外装の欠片を撒き散らしながら、紫騎士が投石器で放られたように吹き飛ぶ!
がりがりと、鎧と地面が火花を散らす。体勢を立て直そうとするところに、更に……
――ベギッ、ゴギャッ……!!
追撃の、轢殺攻撃!
「……! ……、!!」
更に激しく転がり、
――ドゴォンッ……!!
電柱に背中から激突し、海老反りになり止まった。
右腕にありえない関節が追加されて尚、剣を手放さないその戦意は敬意に値するが……
「ふんッ!!」
急制動によるジャックナイフで後輪を浮かし……
――ドズンッ!!
操縦者含め、300kg近い重量のほぼ全てを乗せた後輪で、紫騎士の兜を踏み潰した。
「…………!」
ビクンッ! と痙攣し……動かなくなる。
兜が大きく罅割れ、手足が変な軌道を描き……見た目は轢殺死体そのものだった。
「え、えげつねぇ……!」
「うえ……!」
「……かわいそう」
局員が言った通り……もはや、哀れにさえ思えるほどだった。
「……」
まとわり付く闇が、紫騎士の傷を修復し始める。
一体きりとなった青騎士は、それを一顧だにせず構えを取った。
「……、今だ、掛かれ!!」
それを攻め時と見た局員達が、一気呵成に攻撃に転じる。
「……」
戦闘音をよそにバイクを降りた秀人が、険しい顔でクロノに歩み寄ってくる。
「……」
クロノはそれを、死んだ魚のような目でぼうっと見ていた。
「クロノ……」
労わるように、両肩に手が乗せられる。そして……
「歯ァ食いしばれッッ!!」
――ゴギィンッ!!
……渾身のヘッドバットが、クロノの前頭部に直撃した。
「くあああぁッ…………!!」
頭を押さえ悶絶するクロノ。
「な、何をする!」
若干、目に光が戻ったクロノが秀人を睨みつける。
「目、覚めたかよ」
「……! ああ、不本意ながらな!」
少なくとも、活力は戻ったらしい。
だがすぐに、肩を落としてしまう。
「……僕には、無理だった。君のように戦うのは」
「…………は?」
呆気に取られる秀人を無視し、続ける。
「君たちのように、才能が無い僕には……」
ぐずぐすと、拭えぬ劣等感が口をつく。
秀人は、ぽりぽりと頭を掻き、うーん、と悩ましく唸り、言う。
「そんなことで、悩んでたのか」
かっと頭に血が上る。
「ああ、そうさ! 君にとっては、そんなことだろう! 才能の有無なんてことは!」
クロノは、自分の言葉に反吐が出る思いだった。
醜い劣等感を言葉にして、妬む相手に八つ当たりするなど……人間として、恥ずべき行為だ。
だが、止められない。
「才能の有無が、本当に力の全てなのか?」
「……全てではないにせよ、かなりの要素だろう!」
聞き分けの無い弟を諭す兄のように、諭す。
「エイミィが言ってた。低い出力、乏しい才能を努力で補って、AAA+認定を受けたって」
「あ、ああ……」
劣等感が疼き口ごもるクロノに、秀人が言った。
「才能の差っていうハンデがあって、資質が乏しいってことも分かって…………でも、お前は努力を怠らなかった。諦めなかった。それは、何のためだ?」
「………………」
クロノは、あの夜のことを思い出す。
あの夜……父が殉職した日の夜。
常に笑顔を絶やさない母が、誇りある時空管理局の提督が、背中を丸めて泣いていた。
いつも自分を背負ってくれる大きな背中が、妙に小さく見えて。
その涙を止められない自分の無力が、本当に悔しくて。
その涙を止めたいと……止められるだけの力が欲しいと、確かに願った。
それが、クロノ・ハラオウンという魔導師の原点。
今の生き方を決めた、始まり。
「でも、まだ僕は……弱いままだ」
「…………なぁ、クロノ」
そこまで聞いた秀人が、半笑いで言う。
「お前、結構バカだろ?」
本気の本気で、バカを見るような目だった。
「な……何だと!?」
怒るクロノに、秀人はやれやれ、と首を横に振る。
「母親の悲しむ顔が見たくないなんて理由で、才能が無い分野に飛び込んで……それで、執務官にまでなっちまうんだもんなぁ……苔の一念、岩をも通す、と言うか……」
でも、と前置きし、言った。
「努力だけで執務官にまでなれたなら……それは、立派な『才能』じゃないか」
はっと、雷に打たれたように我に帰り、秀人と目を合わせる。
「実際、俺となのはは、何度かお前に模擬戦で負けてるんだぜ?」
それもまた、事実だった。
二人の能力検定試験の際、秀人とは引き分け。なのはに至っては、絡め手に引っかかりノックアウトされていた。
「お前に才能が無いなんて言われたら、俺らは立つ瀬がねーよ」
からからと快活に笑い、ぽん、と軽く、しかし力強く、クロノの肩に手を置く。
「胸を張れ、クロノ!
お前は強い!
俺が、なのはが……アースラの皆が、保証してやる!」
クロノは、ぽつんと立ち尽くし、秀人の言葉を反芻する。
――お前は強い!
「そんな、ただの気休めが……」
だがクロノは、自分の中から、劣等感が拭われていくのを確かに感じ取っていた。
「気休め、が…………!」
ぽたぽたと、地面に水滴が落ちる。
「っく、う、ううう……!!」
自分は、なんと些細な事で悩んでいたのだろうか。
秀人は何も言わず、ただクロノを見つめる。
――お前は強い!
その、たった一言が、無責任な一言が…………今までの実った努力も、実らなかった努力も……『力が欲しい』という想いの全てを、肯定してくれた。
自分が力を求めたのは、何の為か。
誰かに認めてもらうためか?
地位を築くためか?
いいや、違った筈だ。
「僕は……」
誰かの涙を止めたくて……その『誰か』の対象が、徐々に広がって……彼らを、この手で守りたかったのだ。
それを守れるならば……自分の才能なんて、些細なことではないか。
それらはあくまで手段の一つであり……目標では、無いのだから。
――胸を張れ!
「ふん………………」
ぐいっと、目元を袖で乱暴に拭う。
僅かに充血した目。
だが、吹っ切れたような猛々しい笑顔と……
「わざわざ、言われるまでも無い!!」
取り戻した男の顔が、そこにあった。
「ハッ……上等!」
秀人もまた、笑みを浮かべる。
「…………!!」
ようやく修復を完了した紫騎士が立ち上がり、
――ガギュンッ!!
……峰に備え付けられた、カートリッジシステムが火を噴く。
途端、膨れ上がる破壊力と殺気。
「!!」
一気に至近距離。振り下ろされる刃。
秀人とクロノは、同時に振り向き……
『Blaze Cannon ! / Divine Smasher !』
「 「 はああああああああああああああああっ!! 」 」
――――ズッガアアアアアアアアアアアアアアン!!
紫騎士を、遥か遠方まで吹き飛ばした!
「行くぞ、クロノ!」
「ああ、秀人!」
二人の魔導師は肩を並べ……敵の懐へ、飛び込んでいった。
「……なかなか、骨が折れそうだ」
感じる圧力は、あの時……秀人を死の寸前まで痛めつけた、赤騎士と同等。
更に今回は、青騎士のオマケつき。
局員達は、雑魚騎士の相手で手一杯……となれば、
「2対2でのタッグ戦」
「僕がサポートする。全力で、いつも通り……考え無しに突っ込め」
秀人の支援……いわば、サブ的な役目を買って出るクロノ。
「おう」
秀人は短く応じ、体表の魔力を纏った。
「……!」
開戦の祝砲は、青騎士が放つ、青い魔力攻撃。
「ディバイン……!」
「ブレイズ……!」
秀人、クロノもまたミッド式魔法陣を展開。
「スマッシャーーーーーーーーーーーーー!!」
「キャノンッ!!」
――ズバアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
広範囲への、波状攻撃!
――ズガアアアアアンッ!!
二つの魔法が衝突し……。
――ボッ!!
「……!」
その余波を吹き飛ばしながら、剣を振り上げ、紫騎士が迫る。
『Stinger Snipe !』
――ズガガガガガガガガガガガッ!!
その突進を、上下左右から迫るクロノの誘導弾が食い止め、タイミングをずらす。
――ヴォンッ!
「ヒュウッ! あっぶね!」
薄皮一枚で回避に成功した秀人が、すれ違いざまに膝蹴りを紫騎士の腹部に放つ。
――ガシンッ!!
紫騎士はそれを、刀の柄尻で受け止める。
互いに決定打を打てない距離でつかみ合い……
「ブッ飛べ!」
――ドパァンッ!!
「!」
――ガゴォンッ!!
超至近距離でのリアクティブ・アーマーと、紫騎士の爆破魔法で互いを間合いの外に押し出す。
「!!」「……!」
今度は青騎士との二体!
「 「 うおおおおおおおおおおおおおおっ!! 」 」
咆哮と共に、衝突!!