魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第十二話

 

――嫌な予感がした。

 

「……!?」

 いや、予感なんて、漠然としたものじゃない。

 はっきりと……嫌な感触が、私の体をぬるりと撫でた。

「姐さん? どうしたの?」

 私の膝の上に頭を乗せ、ごろごろと寝そべっていた美香が顔を上げる。

「ごめん、ちょっと待って……」

 これは……守護騎士からのフィードバック?

 今日、狩りに向かわせたのは、『鉄槌』と、『湖』だったっけ。

「ん……!」

 意識を集中し、二人の視界情報を覗き見る。

『湖』は、無事だ。超至近距離からの攻撃を喰らい、完全にノックアウトされている。

 闇の中に回収……完了。

 じゃあ、『鉄槌』は……?

「…………嘘」

 ……反応が、無い。

「嘘……嘘よ」

 守護騎士と私は、強固な契約の鎖で結ばれている。

『湖』のように、たとえ戦闘不能になっても、ある程度の操作は可能だ。

 だけど、『鉄槌』からの反応が、これっぽっちも無い。それは、つまり……戦闘不能以上の要因で、私とのリンクが断ち切られたということだ。

闇の呪縛は、一般的な解呪の魔法如きでは軋みもしない。

 だけど、一番簡単な方法がある。それは……

「……っ!」

「うきゃっ……! あ、姐さん!? どうしたの!?」

 美香をベッドに投げ、窓の外へ飛び出した。

 そう、それは……

 

――守護騎士が、殺されるということ。

 

「無い……そんなこと、絶対に無い!!」

 スレイプニルにありったけの魔力を注ぎ込み、空を翔る。

 私の魔力を分け与えた、私の分身が……そんな簡単に、やられるもんか!

 

 そして、しばらく飛んで……結界があった地点へ、到着した。

 周辺に、戦闘痕は無い……って、当然か。結界の中で戦ったんだ。

「……よし」

 ……うん、まだ残ってる。

「結界、修復」

――……。

 了解。その声と共に、周囲に薄い帳が下りる。

 そして現れたのは、ボロボロに荒廃した住宅街だった。

「……」

 ざくざくと砂利を踏みしめ、最後に『鉄槌』の反応があった地点に向かう。

 確か、最後に見た光景は…………

「何だったのよ、あのでっかいトリは……」

 青く燃え盛る、巨大な怪鳥。

あんな巨大な魔力の塊、私でも作り出して、操作できるかどうか……

 それに、使用者の男の意思とは違う、独自の意思を持ち合わせているようにも見えた。

――……、…………。

「わかってるよ」

 考察は後回し、だよね。

 

 そして、その地点に到着した。

「…………いない」

 何も無かった。

 抉り取られ、高熱でガラス状に溶かされていて、道路も、家も…………『鉄槌』の反応も、何も。

「…………いない」

 ずしゃっ……と、砂利に膝をついた。

現実的に考えて……その可能性は大いにあったけど……本心では、認めたくなかった。

でも……もう、認めるしかない。

 

「『鉄槌』、死んじゃったんだ……」

 

 完膚なきまでに敗北し。

再生も不可能なレベルにまで、消滅してしまったんだ。

 

 言葉にした瞬間、

「う……!」

 ぼろぼろと、自分でも戸惑う程の涙が、両目から溢れてきた。

「ううぅ……!!」

 ぎゅうっと目を閉じ、歯を食いしばっても、止まらなかった。

 わけがわからない。

 私にとっての守護騎士は、ただの道具。

 最強の殲滅魔法を完成させるための、ただの駒。

 それだけのはずだったのに。

 

「――――………………!!」

 

 ……言葉にならない絶叫が、響き渡った。

 

 

「……」

 散々泣き喚いて……泣き疲れて眠って……いつの間にか、日が変わっていた。

「………………」

 直接地面に寝転び、ぼうっと薄紫の空を見上げる。 

……自分でも、驚いた。

 まだ私に、誰かの死を悲しむだけの良心が残っていたなんて。

「認めるしかない、か……」

 私にとっての守護騎士は、道具で、駒で…………大事な、、だったのだろう

 

 歪んだ感情だということは、自分でもわかる。

 当の本人達の意思を無視した、勝手な思い込みに過ぎない。

 もしも守護騎士達に感情が残っていたら、『はぁ?』と呆れ返るに違いない。

でも、知ったことじゃない。私がそうと決めたのなら、そうだ。

「はあああぁ…………」

津波の前兆のように、すーーーーっと心が穏やかになっていく。そして……

 

 

「…………があああああああああああああああああああッ!!!」

 

 

――バゴオオォォンッ……!!

 

 

爆ぜる程の魔力と…………極大の憎悪と殺意が、全身を支配した。

 

「あンの…………クソガキがあああああああああああああああ!!!」

 

 最後に映っていた、若い男。顔は覚えた。

 アイツだ。アイツが『鉄槌』を殺した!

 

――バサァッ……

 

 スレイプニルが、半ば無意識に羽ばたく。

 憎い仇を、探し当てろと。

 五体を引き裂いて、地獄の釜に放り込めと。

 

「……ブチッ殺してやるッ!! 細胞単位までバラバラにして……酸で永遠に溶かし続けてやるッ!!」

 

 ……言われるまでもない。

 あの男だけは……、この手で直々に!!

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「ふんぬっ!!」

 

――ガキイインッ!!

 

 紫騎士の片刃剣と、俺の魔力刃が衝突し、甲高い音を立てる。

「ぬぐぐぐぐっ……!!」

膂力は、ほぼ互角。だが、得物の差は埋まらず……パキパキと、魔力刃がひび割れていく。

『Blaze Cannon !』

 

――ガオンッ!!

 

 すかさず、クロノのカットが入った。

「……っし!!」

 

――パァンッ!!

 

 足元にインパクトを発動し、跳ぶ!

「……!」

 なぜか、紫騎士もそれに合わせて後退した。

 こりゃ、またあの攻撃が来る!

「避けろ!」

「言われなくても!!」 

 

――ズババババババッ!!

 

 杭状魔力弾の掃射を、バック転で回避する!

 今度は、クロノも回避を選んだ。

 だが、逃げた先には……!!

「アアア……!!」

 雑魚騎士の集団!

「ああもう、邪魔くせぇ!!」

 インパクトウォール!!

 

――ゴバババババッ!!

 

 纏めて薙ぎ払って一掃……!

「……!」

 

――ブオンッ!!

 

「うおおっ!!」

 頭スレスレを、片刃剣が切り裂いた!

 ちゅいんっ、と髪の毛が一房、宙に舞う。

「この歳でハゲたらどうしてくれんだオラァ!」

 インパクト!!

 

――ドパァンッ!!

 

 紫騎士の体勢を崩し、

「おりゃああっ!!」

 

――ガスッ!!

 

 飛び蹴りで蹴り飛ばす!!

「……!」

 青騎士の突貫!

「はァッ!!」

 

――バチィンッ!!

 

 左掌に魔力を収束し、横っ面をひっぱたく!

『Stinger Snipe !』

 

――ズドドドドッ!!

 

「クロノ! 今、どんな感じだ!?」

 間合いを取り、現状を確認する。

「……局員側の損害は、三割に収まっている。敵の雑兵は、数は多いがそれほど脅威ではない」

 三割……微妙な数字だ。それでも、損害がさっきから増えていないといいうことは、この指揮官が機能し始めたということだろう。

「引き続き雑兵は武装隊に任せて、僕たちは守護騎士を……」

「ああ、了……」

解。そう言い終わる、直前のことだった。

 

 

「……死にさらせえええええええええええええええええええええええッ!!」

 

 

 結界を突破し進入した何者かが、一直線に俺に向かって突っ込んできた!

尋常な速度じゃない。まるで、隕石が降ってきたんじゃないかと思うほどの、豪速!

「うおおおおっ!?」

 防御魔法……間に合わない! 両腕を体の前で交差して、衝撃に備える!

 

――――ごぎゅっ……!!

 

「ぐああっ……!」

 交差させた腕が、纏めてヘシ折れ……いや、砕けた。完全に感覚が消失し、防御する能力が失われる。

「ぐっ…………がっ…………!!」

 勢いのまま、景色が凄まじい勢いでスクロールしていく。

 そして、相対速度が無くなったことで、ようやく俺は侵入者の全容を見ることが出来た。

 漆黒の翼。漆黒の装束。そして……白銀に輝く長髪。

「誰だ、てめぇッ……!!」

 俺の問いに、侵入者の女は……にィ、と、邪悪に笑った。

 再び、女は拳を振り上げ……って、マズい! 両腕、使えね……!

「はあああああっ!!」

 防御、間に合えッ!!

 

――バキイイイインンッ……!!

 

 ……防御も何も、あったもんじゃない。

 殴り飛ばされた挙句、ビルを三つも四つもぶち抜き、地面に背中から叩きつけられた。 

「…………いっ……てぇ」

 主に、地面で摩り下ろされた背中がずきずき痛む。

「ドラゴンボールじゃあるまいし……」

 軽口が出せる程度には、重症では無いらしい。

 

「チッ…………これで死なないとか……どんな身体してんのよ」

 未だ膨大な魔力を秘めたままの手をぷらぷらとスナップさせ、しかめっつらを作る。

「まぁいいわ……これで死なれちゃ、面白みが無いし」

 傲然と言い放ち、歯をむき出して獰猛に笑う。

 

「アンタに殺られた『鉄槌』の痛み…………一億倍にして返してやるッ!!」

 

「ナイトメア……!」

 その黒装束から、何の前兆も無しに、ディバインバスター並の砲撃が迸る!

「うおおおおっ!!」

 死ぬ気で体を動かし、インパクトで自分の身体を弾き飛ばす!

 

――ズゴオオオンッ!!!

 

 着弾地点を、容赦なく消し飛ばした。

 一切のタイムラグ無しで、あれだけの威力を……なんて滅茶苦茶な……!

 

 飛行魔法を行使。上空の女に肉薄し、拳を……!

 

――バスッ……!

 

俺の拳は、女が軽く差し出した掌に、あっさりと受け止められた。

何だ、今の感触……!?

ただのパンチじゃない。インパクトとバレットを付与した、破壊力の塊だぞ!?その纏わせた魔法が、あっさりと散らされた!

それに……

「くっ……!」

何て握力!抜け出せない!

「……」

俺の抵抗を嘲笑うかのように、急激に温度が上昇していく!

 

「はい、右手もーらい」

 

そしてそんな、軽い調子の言葉を合図に、

 

――ボンッ……!

 

「……!」

……右手が、爆ぜた。

五指が炭化し、ボロッ……と落ちる。

「があ……!」

痛みで飛びそうになる意識を、根性でつなぎ止める。

……何せ、右手首が吹っ飛ぶのは二回目だからな。

 

「秀人!」

 

クロノが、誘導弾をいくつも放ちながら追いついてきた。

槍のように構えたS2Uに、ブレイクインパルスを纏わせながら……!

「駄目だ、来るな!!」

そのまま突っ込んだら、コイツの思うツボだ!

 

――バスバスバスバス……!!

 

やはりと言うべきか。

誘導弾は、女の体表に触れた瞬間に四散してしまった。

「離れろと……!」

S2Uを、女に繰り出す!

 

――バシュンッ……!

 

やはり、四散。

S2Uを繰り出すも弾かれ、あのノーモーション砲撃が放たれる!

『Protection!』

 

――バチィィィインッ!!

 

俺とクロノ、二枚重ねの防御魔法が軋み、たわみ……

 

――バキンッ……!

 

砕けた。

二人揃って地面にたたき付けられる。

 

「ひゃはははは……どうした? 本気出せよ」

 

上空から俺達を見下ろす女が、余裕の嘲笑を浮かべ、言う。

本気?

「そんなもん、さっきから思う存分出しとるわ!」

女は、つまらなさそうに鼻を鳴らした。

 

「焔の鳥」

 

…………あ。

 

「……忘れたとは言わせないよ。あんたが、私の『鉄槌』を殺したんだ……!」

 

あの不死鳥のことは、クロノにも話していない。知っているのは、俺と、あのチビ騎士くらい……

「お前、まさか……!?」

俺の問い掛けに、女は再び残忍な笑いを浮かべた。

ざっ。

ざっ。

その両脇に、紫騎士と青騎士が侍る。

「……我こそが、守護騎士を束ねる主にして、闇の書の主……」

 

傲岸不遜な、名乗りを上げる。

 

「『闇統べる王』である」

 

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