魔法少女リリカルなのはties 作:ハルハルharuharu
私は、モニターに映る人物に目を奪われていた。
くすんだように光沢の無い銀髪。
退廃した雰囲気の漂う、左右非対称の黒い装束。
色彩が抜け落ちたような全身像の中……毒々しい、血のような紅い瞳と、同色のアクセント。
「あいつが……」
闇の書の、主。
何て、禍々しい魔力……
「……リアルタイム映像を、無限書庫のユーノ司書の元へ」
「了解」
知らず知らず、冷や汗をかいていた。
「なのはさん、」
プレシアのように、気が振れているわけじゃない。
ごく自然に、呼吸をするように……殺気を振りまいているんだ。
モニターから、あの紅い瞳から、目が離せない。
身体の感覚がおかしくなり、五感のうち視覚だけが鋭敏に研ぎ澄まされ、瞬きもせず、じっと、じっと……
「なのはさんっ!」
……ッ!?
「あ……」
私、今……?
夢から覚めたように、身体の感覚が戻ってきた。
「呑まれたらダメよ」
「は、はい……」
しまった……無意識のうちに、引き込まれそうになっていた。
――ぱんっ!
自分の頬を張り、痛みで気合を入れる。
……ちゃんと、しっかりと見るんだ。動きのクセや、特徴……弱点を。あの膨大な魔力を持つ敵を切り崩すには、真正面から無策に挑むのは馬鹿のすることだ。
ただ……その弱点があるのかどうかは、疑わしい。
一見、バリアジャケットに見える装束。
だけど、さっき秀人さんにノーモーション砲撃を放った際、あの黒い装束から滲み出すように、魔法文字がちょろっと見えた。
つまりあれは、魔法そのものが服の形をしているのだろう。それも、文字で真っ黒に染まるほどの、膨大な術式の塊。
私が真似をしたら、一分も持たずにガス欠を起こす。
規格外の魔力と、それを完璧に御する能力。
以前クロノのやつが、私たちのことを『化け物』呼ばわりしたことがあったけど……あいつは、正真正銘の怪物だ。
「秀人さん……」
……疑っているわけじゃない。でも、心配で、心配で…………思わず、口をついてしまった。
でも、私には心配する資格は無い。あんな馬鹿な真似さえしなければ……今頃、秀人さんと一緒に戦えていたんだから……
「ちくしょう……」
魔力を失った今の私は、ただの無力な子供に過ぎない。
モニター越しの戦場が、いやに遠かった。
……力が欲しい。
心の底から、そう思った。
◆ ◆ ◆ ◆
「……で、その王様が何の用だ?」
軽口を叩いて、探りを入れる。
「……」
ギロリと、殺気を湛えた瞳で睨み返された。
がつん、と、網膜を通じて脳を揺さぶられる。
「くっ……!」
……唇を噛んで、それに耐えた。
横を見れば、クロノもまた、S2Uを握る手が強張っている。
「敵討ち、って、言わなかった……?」
そういえば、テッツイがどうのこうの、言っていたような気が……
テッツイ……鉄鎚?
鎚って、ハンマー………………あ!
チビ騎士のことか!
「思い出したみたいね」
「……ああ」
居心地が悪い。敵だったとはいえ、あの状況では間違いなく……
「返り討ちにしてやったぜ?」
あえて、軽口で返してみた。
――ギュドンッ!!
「うおっ!!」
一抱えほどもある魔力弾が、飛び退った俺達の足元に着弾した!
いちいち威力にビビッてる暇は無い!
とにかく、攻撃だ!
足元をインパクトで弾き飛ばし、『王』に肉薄!!
――ガキイイインッ!!
青騎士の張ったシールドがソレを阻む。
「……リアクティブ・アーマー!!」
――バゴオオォンッ!!
バリアごと、青騎士を吹っ飛ばす!
「……」
紫騎士は無感動に、剣を俺の首に振り下ろしてきた。
――パンッ!!
前面にインパクトを発生させ、回避。
「死ねッ!!」
同時、『王』のノーモーション砲撃。
クロノがバインドで俺の腕を絡め取り、射線上から引きずり上げた。
「フランメ・シュラークッ!!」
ゴウッ!! と、黒い炎を纏った拳が迫る。
「インパクトッ!!」
それを、同じくインパクトを纏った拳で迎撃。
じりじりと拮抗し……にやぁ、と『王』が笑う。
「ひゃはっ……死ねェッ!!」
その黒い装束から、紅い短剣が無数に出現した!
ヤバい、この至近距離じゃ……!
咄嗟にインパクトを解除し、身体を丸める!
――ドドドドドッ!!
……!
一発、二発、三発……!!
致命傷を避けつつ、魔力で補強したジャケットで受ける。
さすがは管理局の訓練服だ。もともと、頑丈な繊維を格子状に編みこんでいるおかげで、軽量かつ強靭。少し魔力を通しただけで、かなりの防御力になってくれた。
「ってぇぇ……!」
……それでも、衝撃までは殺せなかった。ついでに何本か、腕に刺さったままだ。
「……そういや、初めてかもな。敵が連携して襲ってくるのは」
「確かにそうだな」
いつもいつも、単独か、烏合の衆かの両極端しか無かった。
「くひひひひっ……! 楽しい楽しい…………こんなに遊んでも壊れない玩具、初めてだ!!」
嗜虐的な笑みを浮かべ、ぎゅっぱぎゅっぱと両手を開いたり閉じたりと、抑えきれない喜悦が漏れ出している。
「……言ってろ」
タイプ的には、『王』はオールラウンダー。ほぼ全距離に対応できる万能型。
「…………」
紫騎士は近接特化型。遠距離攻撃もできるのだろうが、使おうとしている様子は無い。
「……、」
青騎士は防御・拘束の支援をメインに、肉弾戦が主な戦い方。要は、アルフとユーノを足して二で割ったような奴。
攻撃・防御を紫騎士・青騎士で分担し、どうしても出来てしまう隙を『王』が埋める。
単純だが、隙の無い布陣。
さすがに、三対二じゃ分が悪い。
「さぁ、次はどうするのかな……!?」
『王』の瞳が妖しく輝くのと同時、
――ゾゾゾゾゾゾッ……!!
……どういう理屈かは知らんが、奴の周囲にあった平面の影が、Z軸を与えられたかのように立体的に浮かび上がり、刃を象った。
「な、何だありゃ……!?」
魔法……と呼ぶには、あまりにも異質な力だ。
「……恐らくは、魔法なのだろう。あんな怪奇な術式、見たことも聞いたことも無いがな」
「……せめて、ユーノがいてくれたらなぁ」
何か、的確なアドバイスなり対処なり、対策を立ててくれただろうに。
さぁ……互いに、様子見は終わった。
いよいよ、第二ラウンドだ。
――……ガキュンッ。
……紫騎士の剣。その峰に据え付けられた、カートリッジが消費される。
――ゴウッ!!
そして、爆発的に増大する魔力!
「……! 来たぞ」
俺を屠った、チビ騎士のハンマー。あれと同じ原理なら、これまでとは比べ物にならない程の威力が、あの剣に宿ったことになる。
剣の腹を叩いて、剣筋を逸らす…………普通の剣には有効な戦法も、通じないと思ったほうがいいな、これは。
「……青騎士の方は、デバイスの類は所持していないようだな。おそらく、攻撃の要は紫騎士で、『王』と青騎士はあくまで後衛なのだろう」
「どう叩く?」
ここは、クロノの指示に従おう。
「……正直、数の差もあって厳しいな。君の『結合』で、僕とリンカーコアを同期させても、確実な勝利は無い。だから今、艦長とエイミィが増援を要請している。それが到着すれば……」
「おお、数の差は埋まるな!!」
――ブオッ……!!
紫騎士の剣が、俺達がいた空間を激しくなぎ払った。
「「せーの!!」」
振りぬいた姿勢のままでいる紫騎士に、ブレイズキャノンをお見舞いする!
「……」
――ガドォンッ!!
「あーもう! またアイツかよ!!」
青騎士のシールド。とにかく頑丈で、始末に終えない!
『Stinger Snipe !』
一面のみのシールド。それを迂回し誘導弾を放つ。
「はいはい、おつかれー」
……その攻撃は、『王』の装束に吸収されてしまった。
「これじゃ、うかつに魔法で攻撃できねぇ! 直接攻撃で……!」
「……紫騎士相手に、それは無謀だ!」
近づけば紫騎士の剣。離れれば青騎士と『王』の攻撃魔法。こちらからの魔法攻撃は無力化され、数の差もある。
「やってられっか!!」
俺は早々に、正面衝突を放棄した。
「回避に専念!!」
「あいよー!」
とにかく、避けて避けてく時間を稼ぐ!!
――――。
「で……その増援っての、いつ来るんだ!?」
――ガギッ! ゴギッ、ガギィンッ!!
絶え間無く続く攻撃を迎撃・回避し続ける。
「おかしい……! そろそろ来てもいい筈なんだが!!」
『王』のばら撒く、滅茶苦茶な数の魔力弾を回避しつつ念話を繋ぎ、どこかと通話を始めた。
「そちらに何か異常があったのか!? こちらも長くは……は!? 何だって!?」
聞き返し……
「…………………………ふー……」
額に青筋を浮かべながら、大きく大きく深呼吸し……
「馬鹿言ってないで、さっさと来いッ!!!!」
クロノにしては珍しく、声を荒げて叫んだ。
「……ったく! 面倒な……!」
律儀に敵の攻撃を迎撃しながら、毒づく。
「おい、クロノ……? 何かあったのか?」
クロノは、呆れ半分、怒り半分といった感じで説明した。
「……『とことんピンチになったところに、颯爽と登場するのがカッコイイ』らしい」
「……………………大丈夫か?」
「…………」
返事は無かった。
「はーっはっはっは!!」
と…………緊迫した戦場の空気をぶち壊す、高笑いが響き渡った。
「天が呼ぶ! 地が呼ぶ! 人が呼ぶ!」
そして、どこかで…………一昔前の特撮番組で聞いた口上を、ノリノリで名乗り上げる。
「悪を倒せと、ボクを呼ぶ!!」
ああ…………この、思わず脱力するほどに阿呆っぽい声は、間違いない。
がばっ、とビルの給水塔の天辺に仁王立ちする影が一つ。
「聞け、悪人ども! ボクの名は…………!!」
そして、ノリノリ最高潮。口上を格好良く締め括ろうとした瞬間、『王』が腕を振るい、
――どかーん。
「ぎゃーーーー!?」
……無防備に高い場所に立ち、腕まで組んでいた人影の足元を吹き飛ばした。
命中こそしなかったものの、足場を崩された所為で数メートル下まで落下した。
「あいててて…………おいこらぁぁ!」
よじよじ、と再び給水塔の残骸の上に立ち、『王』をビシィッ!!と指差す。
「名乗りの最中と、変身中は攻撃しちゃいけないって暗黙のルールを知らないのか!!」
うがー、と髪を逆立たせて怒る、その姿……
「……フェイト!?」
……だった。
完全な不意打ちに近い攻撃を喰らっておいて、命中の直前に飛び退るなんて素早い反応、出来る奴は限られている。
でも、アレは…………
「……クロノ、『増援』ってまさか……アレか?」
「………………………………………ああ、アレだ」
クロノは、苦虫を噛み潰したような声で、肯定した。
「…………どうしてああなった」
「…………艦長に聞いてくれ」
「……は?」
『王』も、ぽかんと放心している。そりゃそうだ。
すたっ、と俺の隣に着地したのは……おお、お前も久しぶりだな。
「アルフ」
「…………や。久しぶり」
とっても気まずそうに、目をそらした。
……相変わらず、フリーダムな主に振り回されっぱなしのようだった。
「ボク、参上!!」
びしィッ!! と、無駄に洗練された無駄の無い無駄な動きで、ポーズを決めた。
―――ヒュウウゥゥッ……
……悲壮感を含んだ風が、戦場に吹き抜けていった。
◆ ◆ ◆ ◆
「……フェイト」
私は、ふらふらとモニターに歩み寄った。
綺麗に整った顔立ちに……底抜けにバカっぽい、自信満々の表情。
「フェイトだ」
三ヶ月ぶりに見る……友達の顔だった。
『ひでとー! ひっさしぶりー!』
スピーカーを通じて、フェイトとアルフの声が聞こえてくる。
「でも、何で……? しばらくは、会えないんじゃ……」
数年単位は、覚悟してたのに。
「司法取引と言ってね。プレシアが技術を供与することで、刑期を減らすように……フェイトさんとアルフさんは、あなた達の護衛をすることで、刑期の短縮をする、ということになったのよ」
そっか……フェイトはフェイトなりに、ちゃんと考えてたんだ。
「ところで」
――ビキィッ……!!
ブリッジ内の空気が、戦闘とは別の意味で凍りついた。
「リンディさん。エイミィ」
「え、ええ……」「何……でしょう、か?」
あれ……何でそんなに怯えてるのかな?
「私、頼んだよね? フェイトのこと、お願いしますって…………?」
私はただ、ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ、聞きたいことがあるだけなんだけどなぁ……?
「なんですかアレは」
さぁ……元凶は、一体誰かな……?
リンディさんとエイミィはだらだらと冷や汗を流し、
「え、エイミィ! どういうこと!?」
「ウエ!? デッキとテレビ、部屋に用意したの艦長じゃないですか!!」
「作品をチョイスしたのはエイミィよね!」
「しょーがないじゃないっすか!! ディズニーとジブリの隣に並んでて、間違えて注文しちゃったんですから! それにオッケー出したのは……!」
「エイミィも反対しなかったじゃ……!!」
「わかりましたから、黙ってください」
醜く責任転嫁をする二人の元凶を、黙らせる。
あの二人が加勢に加われば、こちらから細々と指示を出す必要は無いだろうし……
「……双方向通信を、切ってもらえる?」
ちょっと、秀人さんには聞かれたくないかなぁ……って。
エイミィが戻ってきたことで、席を交代したオペレーターの女性に優しく微笑みかけた。
「い、いえ、でも……!」
「切れって言ってるのが、わからないのかな?」
「は、はいいいいっ!!」
……気弱なオペレーターは涙目で、パネルを操作した。さぁ、これで心配する必要は無くなった。
「…………さて、お二人とも。釈明があれば、お聞きしましょうか?」
リンディさんとエイミィは、責任の所在を投げ合っていた。
◆ ◆ ◆ ◆
「……ふん、何かと思えば」
四人になった俺達を見て、『王』が吐き捨てるように言う。
「塵芥が一つ二つ増えたところで、」
バサッ……!!
「何が変わるものか……!!」
羽ばたく翼。その両翼に、膨大な魔力が集まり、今にも射出されそうに……
「そうでもないよ」
――――――。あ?
俺の隣にいたはずのフェイト……が、対角線上、『王』の背後数メートルにいた。
「なっ…………ぐあッ!!」
驚いて振り返った『王』。そのバリアジャケットの右肩が、思い出したかのように弾けた。
フェイトの手にするバルディッシュ。その刃に、闇色の残滓がこびりついていた。
――斬った、のだろう。
俺はおろか、クロノも、守護騎士さえ気付かない程の速度で。
「それでさぁ………………」
ダルそうにバルディッシュをひゅんひゅん手元で弄び、
「なのはをいじめたの、おまえ?」
――バギュッ……!!
……今度は、辛うじて見えた。
バルディッシュの横っ面で、『王』の顔面をすれ違い様にブッ叩いた。
「ブッ……!」
鼻血こそ流さないものの、顔面を押さえる『王』。
「……!」「……」
ようやく反応を見せた守護騎士達が、主を害するフェイトに照準を合わせる。
――ギュイイイイッ!!
青騎士の、全方位から捕獲するバインドが、
――ゴゥッ!!
紫騎士の、膨大な破壊力を宿した剣が、それぞれフェイトに迫る。
足の遅い魔導師だったら、バインドに捕まった挙句、バッサリと切り捨てられてしまうに違いない。だが……
「おまえ? それとも、おまえ?」
――ガギンッ!! バギンッ!!
全方位から迫るバインドはフェイトを捉えることはできず、剣は空振りし……共に、両肩の鎧を失う結果になった。
「ねー、ひでと?」
あくまで平然と……だがしかし、確かに怒りを含んだ声で、俺の名を呼ぶ。
「……守護騎士のうち、一人だ。今ここにはいない」
「ふぅん……まぁいいや。全員連帯責任だ。苦痛をもって償ってもらうよ」
『Size form』
――バシュンッ!!
バルディッシュが、鎌に変形。バチバチと帯電するソレは、フェイトの怒りを写したように、激しい。
「フェイト、アルフはクロノと協力して守護騎士を押さえておいてくれ」
まだまだブランクもあって、思うようには動けないだろう。雑魚騎士を武装局員が、守護騎士をクロノ達が抑えておいてくれれば……
「『王』は、俺が叩きのめす」
あのガキを、ボッコボコにしてやれる。
「ああ、任せた」
クロノはあっさりと承諾。フェイトとアルフもまた、守護騎士に狙いを定めたようだ。
「クソガキがあぁッ……!!」
顔面に痛打を食らった『王』が、憎しみに満ちた声を出す。
「ハッ……こんなもん、痛覚を遮断すればいいんだよッ!!」
……便利なもんだ。
「……ひでと、あんまりやりすぎないでね。ボクの分が、なくなっちゃうから」
「……」
フェイトは、紫騎士と真正面からにらみ合う。
「鈍った身体には、丁度いい運動かもねぇ……」
アルフは、指をポキポキ鳴らしながら青騎士を見据える。
「勝てよ」
「互いにな」
――ぱんっ。
クロノとハイタッチを交わし、それぞれのターゲットへ向かう。
「今生の別れは済んだ?」
「火葬か土葬か、好きな方を選ばせてやるよ」
「オトモダチが一緒じゃなきゃ、何も出来ないんじゃなかったっけ?」
「守護騎士がいなけりゃ、戦力は半減だな」
互いに浮遊しながら、挑発の応酬。
「ハッ……!」
『王』は嘲笑……そして、憎しみを浮かべる。
「私を舐めるなよ……!! 守護騎士がいようと、いまいと……!」
――バサァッ!!
漆黒の翼が、はためく。
「お前は、私に触れることも出来ないんだからなッ!!」
――ギュオォンッッ……!!!
「うおぉっ!?」
慌てて回避。
「はっえぇ……!!」
目にも留まらぬ速度……フェイトが瞬発力でそれを作り出しているのだとすれば、『王』のそれは最高速度。
すれ違い様に俺の急所を狙ってくる『王』に、カウンターで攻撃を加えようとするが、悉く回避され、逆に裂傷を負ってしまう。
――バババババッ!!
翼で空気を捕え、器用に旋回しながら、俺の周囲を多角的に飛び回る。
くっそ、ダメだ、このままじゃ……! 速度が違いすぎる!
――ヴォンッ! ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオン…………!!
地上へ戻り、停めてあったバイクに跨りエンジンを始動。タイムラグを置かず、速攻で走り出し、一気にフルスロットル!
「制空権って知ってるー!?」
上空から、魔力弾の豪雨が降り注ぐ!
「地べたを這いずり回る虫けら……一息に、踏み潰してやるよっ!!」
スピードメーターが200km近くを指しているのにも関わらず、『王』は悠々と俺を追い抜き、攻撃魔法の雨を降らせる。
下から攻撃されることは無くなったけど……!!
「ひゃははっ……そんなドン亀じゃ、私には追いつけない!!」
……悔しいが、その通りだった。『王』の最高速度は、俺のバイクを大きく上回っていた。
「それに……!」
――ドンッ!! ドドドドドドドッ!!
砲撃、誘導弾があちこちから迫る。
「くっ!!」
ハンドルを操作し、回避!
「旋回が、遅いッ!!」
――ゴウッ!!
強化魔法を纏った蹴りが飛んでくる。
「くっそ!」
それに、バイクに跨ったまま蹴りを合わせ相殺。
その勢いに押し負け、タイヤが一瞬、路面を離れてしまう。
慌てて接地させ、アクセルを開けるものの、『王』の速度にはまだ追いつけない。
(くそっ……もっとパワーがあれば……!!)
『おいアガツマ。聞こえているか』
……っと。
「な、何だ……?」
いきなり通信に割り込みがかかり、挙動が一瞬乱れた。
『おい。聞こえているなら返事をしろ』
中性的な声。それに、このぶっきらぼうで無愛想な口調は……
「マリー、お前か?」
『それ以外に誰がいる』
……ああ、マリーだ。間違いない。
「悪いけど今忙しい、……ッとォ!?」
――ギャギャギャッ!!
リアブレーキを踏み込みロックさせ、テールスライドで敵の砲撃を回避。
『戦闘中か? なら、都合が良い』
「何がだよ!」
戦闘音にかき消されないように、大声で応対する。
『おまえのバイクな、バラしたついでに色々と…………まぁ、説明は順次で良いか』
「あ!? 何だって!?」
今何か、サラッととんでもないことを言わなかったか!?
『とにかく、キーをもう一つ、右に回してみろ』
「戦闘中にエンジン止めてどーすんだよ! アホか!」
今は、とにかくエンジンを全開に回さなきゃ間に合わないってのに!
『アホはお前だ。この私が、その程度のことに気が回らないと思ったか』
いや、でも……ううん……
「……! ああもう、知らんぞ!」
どうせこのままじゃ、追いつけないんだ。なら少しだけ、マリーを信じてやろうじゃねぇか!
――……………………カキンッ。
……回した。マリーが言ったとおり、エンジンが止まることは無い。だが……
――カキンッ、カキキッ……ギキンッ!!
「お、おいマリー……!? なんか、明らかにヤバそうな音が……!」
エンジンの内部どころか、バイクの全体から、軋むような悲鳴が……!
それでいて、全く走行に異常をきたしていないことが、また俺の不安感を加速させる。
『おまえの過去の戦闘記録を見るに、そろそろ、そのバイクのパワー・強度では追いつかないだろ?』
……まぁ正直、元が普段乗り用の、何の変哲も無い600ccのバイクだからな。
実は、初っ端に紫騎士に突撃した時点で、フレームがガタガタになっている。
『そこで、デバイス技術の応用だ。普段の状態は、スタンバイモード。魔力は一切食わず、通常のモーターサイクルと何ら変わりは無い。だが、起動させれば……』
――バキョンッ!!
「カ、カウルがああああああ!?」
パージされて、ポイ捨てられたああああああああああっ!?
――ガキョン、グキグキグキ……!!
「フレームがあああああ!?」
丸見えになった内部機構が、何か動いてるうううううっ!?
『フレームや構成素材は、とあるデバイスの構成素材と同じ、高硬度軽量魔導合金に変換され、新たなエンジンのパワーに耐えられる構造に組み替えられ』
――ジュウウウウウウッ……!!
周辺の魔力が収束・物質化され、新たな物質へと構築されていく。
以前の外装が、丸みを帯びたラインだとすると……新たな外装は、直線。徹底的に空気抵抗を抑え、突き抜けんとする鋭いライン。
ハンドルの切れ角は極端に小さくなり、挙動の操作の大半は、体重移動で行う形に移行する。
『わたしスペシャル、CαHβX-Magicaハイブリット・V型8気筒エンジン搭載・両輪駆動二輪型陸戦用特殊戦闘装備………………『スレイプニル』に変形を果たす』
――ガ…………ギンッ!!
変形を終えたバイク。
――ヴァオンッ、ヴァオンッ…………
枷から解き放たれる寸前の猛獣のように、エンジンが低く唸り、解放の瞬間を今か今かと待ちわびている。
なんか……開けるのが怖くなってきたんだが。
「最大出力は…………?」
念のために聞いておこう。ちなみに、ホンダのレース用マシンRC211Vの最大出力は、オーバー240|PS。市販車の出力が最大でも200PSというのだから、その出力は押して知るべき、である。
だが、バカに技術を与えると、ロクな真似をしないというのがこの世の常であり……
「最大出力は……753ps!」
「お前やっぱ正真正銘のアホだろおおおおおおおおおおおおおおお!!?」
超自慢げに、無表情でサムズアップをしている姿が何故か脳裏に浮かんだ。
『王』が旋回し、数多の攻撃魔法と共に突っ込んできた!
ええい、もういいや! 開けちまええええええええっ!!
――――――――ヴァガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァンッ!!!
雷鳴のようなエキゾーストを絶叫し……景色が消えた!!
咄嗟に展開した体表の魔力に、もはや質量さえ伴った風が叩きつけられていく!
「ぬぐあああああああああああああ!!!」
暴れだしそうになる前輪を、上から魔力を噴射することで路面に押さえつける!!
――バゴッ、バゴッ……!!
断続的に聞こえてくる破砕音は、進行方向にあった民家やら何やら、障害物をシールドがなぎ払い、突き抜ける音。
どちらにせよ……地上にいては、『王』に一撃を加えることはできない。
なら、どうする……?
「使ってみるか……魔力資質ってやつを!!」
これまでの俺の戦い方は、ただ魔力を振り回しているだけだった。
大した知能の無い暴走体や傀儡兵、雑魚騎士にはそこそこ戦えた。だけど、この守護騎士どもには通じない。チビ騎士にやられた時のように、あっさりと破られてしまう。
……今こそ俺の魔法を、一つ上のステージに、進める!
「……」
スロットルを操作し、『王』の攻撃を回避しながら意識を集中する。
これから行うのは、スターライトの応用だ。
(周囲の魔力を集めて……………………)
――ギュウウウウウッ……!!
右手の魔力結晶に、魔力が集まってくる。『王』が馬鹿みたいに魔法をばら撒いて、一帯の魔力濃度が異常な濃さになっていたこともあり、ひどくスムーズだ。
「ひゃはははっ! 涙ぐましいねぇ……! 残飯をかき集めて、威力の足しにしようって!?」
「ふんっ…………」
逆にそれを、嘲笑で否定してやった。
集めた魔力を、右手を通じてバイクに伝播させる。
カウルからフレーム、フレームからタイヤ、タイヤから地面へ…………
「大ハズレだ、バーカ!!」
『結合』、させる!!
ふわっ……と、バイクのフロントが空を向く。
ウイリーじゃない。ただ単純に…………目の前に『道』が出来ただけだ。
空へと繋がる、魔力の道が!!
「ウイング…………!! ローーーーーーーーーーード!!」
駆け上がれええええええええええええええっ!!
――――ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!
傾斜40度を越えるスロープを、お構い無しに『スレイプニル』が駆け上がる!
目の前だけにウイングロードを展開していたんじゃ間に合わない!!
先へ、先へ…………!!
――……ギュウウウウウン!!
「なっ……!?」
圧倒的な速度で俺をリードしていた『王』が、驚愕と共に振り返り……あっという間に、視界の後方へ消えていった。
「ぐ……おおおおお!!」
リアブレーキと魔力放出と気合と根性で180度転回!!
真正面から、『王』に向けてスロットルを開ける!
――ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!
テレポートでもしたように、あっという間に距離が縮まる。『王』ご自慢の速度が、そのまま回避不能の状況へと追い詰めた。
「くっそおおおおおおおおっ!!」
――ビュインッ!!
決死の思いで左手をハンドルから放し、魔力刃を展開。
狙いは……!
「その翼! 貰ったぁぁ!!」
――斬ッ!!
「――、あ」
ばさっ……と、羽根を撒き散らしながら地上へ堕ちていく、『王』の両翼。
信じられない……そんな表情で、呆然とソレを見つめる『王』。そして……
「……あああああああああああっ!!」
数秒後、コントロールを失った『王』が地上の重力に捕まり、墜落していった。
――ガキンッ……
バイクを通常形態に戻し、ウイングロードで地上へ……『王』の墜落地点へ降下する。
「ぜー……ぜー……!!」
なんてバイクだ…………マリーの奴滅茶苦茶しやがって……!
『ふむ。最高時速毎時530kmか…………出力を抑えてしまえば、こんなもんか』
今、なんつった……?
「ふ、ふざけんな…………こんなバケモン、これ以上パワー増やしてどうする!? 最大値いくつなんだよ!?」
『913psが理論最大値だが? すぐに作業に取り掛かってもいい』
「…………遠慮しとく」
マリーに冗談は通じない。
会って一日で、それを痛感した。
『王』は……ああ、いたいた。民家に墜落したらしい。運のいい奴め。
「よう、王様…………ご機嫌麗しゅう?」
ウイングロードの上から、見下しながら言ってやった。
「……てめええええええええっ!!」
プライドを打ち砕かれた『王』は、そこいらのチンピラのように、力任せに拳を振るってきた。
「……」
ぱしんっ、と左手で軌道を逸らし………………
――ドゴッ!!
「ぐっ……!」
ボディブロー一閃。
「おりゃあっ!!」
続けて、腹部を思いっきり蹴り飛ばし、叩き落す!!
――ドガンッ!!
再び地面に背を叩きつける。
(……やっぱりな)
ウイングロードを解除し、バイクから降りた。
「がぁッ……! このォっ!!」
やけくぞに放たれた、残心も何も考えないハイキック。
スウェーバックで回避し、軸足を払う。宙に踊り、全くの無防備になった背中に、膝を叩き込む。
「ああああああああああああああ!!」
――ズババババババババッ!!
装束から全方位に向けて、砲撃魔法・射撃魔法がバラ撒かれる。
俺に当たりそうな弾だけを撃墜。
「何で、何で、何で……!! 練習したのに! いっぱいいっぱい、たくさんたくさん殺したのにいいいいいいいっ!!」
がむしゃらに振るわれた、ただ威力が大きいだけの拳を、魔力を収束させた左掌で受け止める。
「……確かに、一撃一撃の威力なら、俺はお前には勝てないさ」
――ビュンッ!!
駄々っ子のように暴れ、残った右手で捌く。
――ボバッ!!
爆炎が迸る……寸前に、腕を上に跳ね上げる。爆炎は、空しく空を焼いた。
「お前の攻撃は、ロクに俺に命中しない。何でだろうな?」
「知るかああああああああああっ!!」
――ギュッ……パスッ…………
攻撃魔法を発動しようとした瞬間に、ストラグルバインドを発動する。
「ぐっ……は、放せ!!」
装束が明滅し、片っ端から無効化されていく。
「発動タイミングも、攻撃範囲も考えない。ただデカい魔力を、威力にだけ重点を置いた術式に乗せて、闇雲にばら撒くだけ」
確かに、初見では驚いた。狼狽して、対処に遅れたけど……メッキが剥げればこんなもんだ。
「下手なんだよ、お前は。戦い方が」
傲然と、言ってやった。
「抵抗しないサンドバッグを殴って、いい気になってたか?」
――ドズッ、ドズッ、ドズッ!!!
三度、腹部に膝蹴りを叩き込む。
「はッ、あぁッ…………!! な、何で……?」
がくがくと膝が震え、顔色が青白くなっていく。
「……痛みは無くても、呼吸をして、酸素を供給することができなければ、肉体は機能を低下させる」
……こいつは、油断と慢心の塊だ。
自分には強大な魔力がある。だから負けない。
自分は痛みを感じない。だからいくら攻撃を喰らっても平気。
自分には守護騎士がいる。だから力を磨かなくても大丈夫。
……下手に初期能力値が高かったからこそ、それが仇になった。
もしこれで、俺と同じように絶え間ない鍛錬を重ねていたら……きっと、俺は勝てなかったに違いない。
「……終わりだ」
左手の魔力刃にストラグルバインドを。右拳に封印魔法を、それぞれ纏わせる。
――ザンッ!!
漆黒の装束を切り裂き、無防備な地肌を露出させる。
「あああああ!!放せってんだよおおおおおおおお!!」
影を刃に変える。だがそれは、さっきまでの鋭さも大きさも無く、脆弱なシロモノだった。俺の身体を貫くことには成功するが、致命傷にはなり得ない。
魔力刃を一閃。ぱりん……と、刃は儚く砕け散った。
「…………ひっ!?」
いよいよ身を守る術が無くなった『王』に、拳を振り下ろす!!
「シーリング・インパクトッ!!」
――ゴゴンッ……!!
とても肉体を殴ったとは思えない感触。だが確かに、俺の右拳は……それに付随する封印魔法は、『闇の書』を確かに捕えた。
「あああああ……!!」
力の源泉を塞がれ、苦しむ『王』……いや、そこにいるのは既に、ただの無力な女に過ぎなかった。
「嘘だ……こんなの、嘘だ……!!」
見る見るうちに萎んでいく、凶悪な魔力。
「私が、『闇統べる王』である私が、負けるなんて……そんなこと、あるわけがッ……」
――ザッ。
と、足音。
「……魔力の供給が途切れたからだろうな。守護騎士達は、溶けるように消えた」
バリアジャケットに無数の切り傷が刻まれたクロノ。
「あいててて……けっこー強かったな~……アルフ、だいじょぶ?」
髪留めが吹っ飛び、ボサボサ髪になったフェイト。
「折れちゃいないよ。フェイトこそ……」
打ち身で青あざを作ったアルフ。
それぞれ三者三様に、満身創痍だった。
中でも、一番傷が多いんじゃないかと思うクロノは、それをおくびにも出さず、苦しむ『王』の目の前で足を止め、言った。
「闇の書の主。殺人・民間人襲撃・時空法違反・公務執行妨害の罪により、あなたを逮捕する」
……何はともあれ、これで解決か……?
いや、待てよ……? 何か、忘れているような……? 何かを忘れている。何か、何か…………――!! そうだ!!
「……なのはっ!!」
『は、はい……!?』
「リンカーコアは、どんな様子だ!?」
『え……? 相変わらず、反応あんまり無いけど……』
そうだ……『王』を倒したなら、なのはのリンカーコアが再生するはずだ!
それで、再生してないってことは……!
「まだだ!!」
まだ一人、守護騎士が……!結界魔法の使い手が、残っている!! 残った魔力で維持しているんだ! もう一撃、封印を……!!
――……キュゴンッ!!
「うあっ!!」
そして……突如として発生した加速感に、身体を真横に吹き飛ばされた。
「秀人! ……ぐあっ!!」
クロノも不意打ちで蹴り飛ばしたのは……
あの日、結界をあっさりと破って進入してきた仮面の男だった。
「……てめぇ!! 邪魔するな!!」
拳を振り上げ、振り下ろす!
「邪魔をしているのは、そちらの方だ」
――パシッ……
それは、あっさりと受け止められてしまった。
ぎちぎちと拮抗。
「何すんだよっ!」「この野郎!」
フェイトがバルディッシュを振るい、アルフが射撃を放つ。
それを、流れるような動きで回避し、間合いから脱出した。
「…………守護騎士は四人。鉄槌の騎士は欠員。剣の騎士、盾の守護獣は敗北……さて、残りは何人かな?」
「……!!」
そいつは、まさか……!
「湖の騎士。高町なのはのリンカーコアを奪った」
あの時も、今も、ここにはいない。まさか……!
「……こいつが保険にしていたのだろう。『湖』は現在、結界の外で待機している」
「! エイミィ!」
『了解!』
早速、サーチを任せる。だが、奴ら守護騎士には気配というものが戦闘中以外はほとんど無い。本気で隠れられたら、アースラのレーダーでも見つけられるかどうか……!
「そうそう、『湖』は、直接的な戦闘力こそ低いが、ある技能があってな」
「おりゃああああああっ!!」
フェイトとアルフの射撃魔法を難なく回避しながら、言った。
「闇の書に記された魔法と蓄えられた魔力を、ある程度まで使用する権限があるんだよ」
――――ガッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!
「!! な、何だ……!?」
超巨大な雷が、強装結界の一箇所にピンポイントで降り注ぎ……車の強化ガラスをエマージェンシーハンマーで叩いたように、砕き破った!!
「……、状況を報告!!」
一番先に復帰したクロノが、アースラに要請する。
『……強装結界、術者の半数が戦闘不能!! 維持は、できて数分!! どうしよう……逃げられちゃう!!』
くっそ……! 最悪だ!!
クロノたち三人も守護騎士との戦闘で消耗している今、まともに戦えるのは俺だけだ。
こんな状態じゃ、クロノと俺のリンカーコアを『結合』させても大した意味はない。
だが仮面の男は、俺に対しては一切の戦意を見せず、『王』の身体を無造作に抱え上げた。
「……彼女は今日、敗北を知った」
そして、俺達はその意図を知る。
「自身の弱点も痛感したことだろう」
「まさか、お前……」
「下らぬプライドを捨てた彼女は、真に強くなる。……お前達のおかげでな」
仮面の向こうで、はっきりと……嘲笑を浮かべた。
「……ッ!!」
俺とクロノが駆け寄った瞬間、透明な檻のようなものが俺達を包み込んだ。
「クリスタルケージ……こんな高等魔法を、一瞬で!?」
技巧に優れるクロノがかなり驚いていることから、それがいかにデタラメな技量なのか、よくわかった。でも、こんなもん!!
「だぁりゃああああああああああああああっ!!」
――――バギィンッ!!
正拳突きで、叩き壊す!!
「こんなガラス一枚……!! って、うおおっ!!」
――ぎゅるるるるるるっ……!!
破壊をトリガーに、更に別の拘束魔法が仕掛けられてやがった!!
「くっそおおおお!! 卑怯だぞてめぇ!!」
「そうだそうだー! 正々堂々たたかえー!」
見れば、隣ではフェイトとアルフが同じように転がされていた。
「…………とはいえ、闇の書の封印とは厄介だな。下手に手を加えれば、癒着しているリンカーコアそのものが破損してしまう」
無視すんな!!
「……お前ほど偏った能力も珍しいな」
魔力操作と、強化魔法……それから、リンカーコア結合。その三つにだけ突き抜けた三角形が、俺の能力グラフだ。
「…………生憎、取り柄が少なくてな」
暴走体相手に、死ぬような思いで磨いてきた封印魔法だ。そう簡単に破られてたまるかっての。
「…………短く見積もって、三ヶ月といったところか」
三ヶ月。……俺の封印魔法が、効力を失うまでの期間だ。長いやら、短いやら……でもとにかく、向こう三ヶ月は、敵の襲撃は無い。それだけが、不幸中の幸いだろう。
「では……」
「待てッ!!」
去っていこうとする仮面の男を、呼び止める。
「お前は、誰だ!? 何の目的があって、闇の書に手を貸している!?」
ぴたりと足を止めた仮面の男は、少しだけ考えたようなそぶりを見せる。
「主による闇の書の完成を目指す。それこそが、我が目的」
意味を問いただすより先に、転移魔法で『王』ごと逃げられてしまった。
「くっそ! なんだよアイツ!!」
同時にバインドが消滅し、身体の自由が戻ってくる。
『強装結界、解除…………通常の隔離結界へ移行しました』
オペレーターの悔しげな声。試合に勝って……勝負に負けた。そんなとこだろう。
くいくい、と服の裾を引っ張られる。フェイトだった。
「ひでと、戻ろ?」
……そうだな。ここにいたって、仕方ない。
「そうだな。なのはといろいろ、話もしたいだろ」
「うんっ!!」
ボサボサになってしまった髪を整えながら、快活に笑う。
「アルフ、どうしたの?」
フェイトの問いに、挙動不審に辺りを伺っていたアルフがびくっとなった。
「え? ああ、いや…………ユーノはどこだろう、って……」
もじもじと、消え入りそうな声量で言った。
「……諸々の説明は、アースラに戻って、休息を取ってからにしよう」
クロノが場を収め、全員でぞろぞろと転送ポートに向けて歩いていく。
(三ヶ月…………か)
言うなれば、嵐の前の静けさ。
最短で三ヶ月。それで、俺が施した闇の書の封印は解ける。不審者が言ったとおり、『王』は、更なる強敵となって俺達の前に再び立ちふさがることだろう。
だけど、恐れることは無い。
「うゅ?」
「ん?」
歩きながら、フェイトとアルフの肩に手を置く。
「頼りにしてるぞ」
最初、ぽかんとしていた二人は……
「うんっ!」
「おうっ!」
サムズアップと共に、頷いた。
――俺には、こんなにも大勢の仲間がいるのだから。
闇の書。
王。
守護騎士。
追跡者。
それぞれの思惑を胸に。
◆ ◆ ◆ ◆
このバッドエンド確定の物語は序章を終えた。