魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第十三話

 

 私は、モニターに映る人物に目を奪われていた。

 

 くすんだように光沢の無い銀髪。

退廃した雰囲気の漂う、左右非対称の黒い装束。

 色彩が抜け落ちたような全身像の中……毒々しい、血のような紅い瞳と、同色のアクセント。

「あいつが……」

闇の書の、主。

 何て、禍々しい魔力……

「……リアルタイム映像を、無限書庫のユーノ司書の元へ」

「了解」

 知らず知らず、冷や汗をかいていた。

「なのはさん、」

 プレシアのように、気が振れているわけじゃない。

 ごく自然に、呼吸をするように……殺気を振りまいているんだ。

 モニターから、あの紅い瞳から、目が離せない。

身体の感覚がおかしくなり、五感のうち視覚だけが鋭敏に研ぎ澄まされ、瞬きもせず、じっと、じっと……

 

「なのはさんっ!」

 

 ……ッ!?

「あ……」

 私、今……?

 夢から覚めたように、身体の感覚が戻ってきた。

「呑まれたらダメよ」

「は、はい……」

 しまった……無意識のうちに、引き込まれそうになっていた。

 

――ぱんっ!

 

 自分の頬を張り、痛みで気合を入れる。

……ちゃんと、しっかりと見るんだ。動きのクセや、特徴……弱点を。あの膨大な魔力を持つ敵を切り崩すには、真正面から無策に挑むのは馬鹿のすることだ。

 ただ……その弱点があるのかどうかは、疑わしい。

 一見、バリアジャケットに見える装束。

 だけど、さっき秀人さんにノーモーション砲撃を放った際、あの黒い装束から滲み出すように、魔法文字がちょろっと見えた。

 つまりあれは、魔法そのものが服の形をしているのだろう。それも、文字で真っ黒に染まるほどの、膨大な術式の塊。

 私が真似をしたら、一分も持たずにガス欠を起こす。

 規格外の魔力と、それを完璧に御する能力。

以前クロノのやつが、私たちのことを『化け物』呼ばわりしたことがあったけど……あいつは、正真正銘の怪物だ。

「秀人さん……」

 ……疑っているわけじゃない。でも、心配で、心配で…………思わず、口をついてしまった。

 でも、私には心配する資格は無い。あんな馬鹿な真似さえしなければ……今頃、秀人さんと一緒に戦えていたんだから……

「ちくしょう……」

 魔力を失った今の私は、ただの無力な子供に過ぎない。

モニター越しの戦場が、いやに遠かった。

 

……力が欲しい。

 

 心の底から、そう思った。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「……で、その王様が何の用だ?」

 軽口を叩いて、探りを入れる。

「……」

 ギロリと、殺気を湛えた瞳で睨み返された。

 がつん、と、網膜を通じて脳を揺さぶられる。

「くっ……!」

 ……唇を噛んで、それに耐えた。

 横を見れば、クロノもまた、S2Uを握る手が強張っている。

「敵討ち、って、言わなかった……?」

 そういえば、テッツイがどうのこうの、言っていたような気が……

 テッツイ……鉄鎚? 

鎚って、ハンマー………………あ!

 チビ騎士のことか!

「思い出したみたいね」

「……ああ」

居心地が悪い。敵だったとはいえ、あの状況では間違いなく……

「返り討ちにしてやったぜ?」

 あえて、軽口で返してみた。

 

――ギュドンッ!!

 

「うおっ!!」

 一抱えほどもある魔力弾が、飛び退った俺達の足元に着弾した!

 いちいち威力にビビッてる暇は無い!

 とにかく、攻撃だ!

 足元をインパクトで弾き飛ばし、『王』に肉薄!!

 

――ガキイイインッ!!

 

 青騎士の張ったシールドがソレを阻む。

「……リアクティブ・アーマー!!」

 

――バゴオオォンッ!!

 

 バリアごと、青騎士を吹っ飛ばす!

「……」

 紫騎士は無感動に、剣を俺の首に振り下ろしてきた。

 

――パンッ!!

 

 前面にインパクトを発生させ、回避。

「死ねッ!!」

 同時、『王』のノーモーション砲撃。

 クロノがバインドで俺の腕を絡め取り、射線上から引きずり上げた。

「フランメ・シュラークッ!!」

 ゴウッ!! と、黒い炎を纏った拳が迫る。

「インパクトッ!!」

 それを、同じくインパクトを纏った拳で迎撃。

 じりじりと拮抗し……にやぁ、と『王』が笑う。

「ひゃはっ……死ねェッ!!」

 その黒い装束から、紅い短剣が無数に出現した!

 ヤバい、この至近距離じゃ……!

 咄嗟にインパクトを解除し、身体を丸める!

 

――ドドドドドッ!!

 

 ……!

 一発、二発、三発……!!

 致命傷を避けつつ、魔力で補強したジャケットで受ける。

さすがは管理局の訓練服だ。もともと、頑丈な繊維を格子状に編みこんでいるおかげで、軽量かつ強靭。少し魔力を通しただけで、かなりの防御力になってくれた。

「ってぇぇ……!」

 ……それでも、衝撃までは殺せなかった。ついでに何本か、腕に刺さったままだ。

「……そういや、初めてかもな。敵が連携して襲ってくるのは」

「確かにそうだな」

 いつもいつも、単独か、烏合の衆かの両極端しか無かった。

「くひひひひっ……! 楽しい楽しい…………こんなに遊んでも壊れない玩具、初めてだ!!」

 嗜虐的な笑みを浮かべ、ぎゅっぱぎゅっぱと両手を開いたり閉じたりと、抑えきれない喜悦が漏れ出している。

「……言ってろ」

 タイプ的には、『王』はオールラウンダー。ほぼ全距離に対応できる万能型。

「…………」

 紫騎士は近接特化型。遠距離攻撃もできるのだろうが、使おうとしている様子は無い。

「……、」

 青騎士は防御・拘束の支援をメインに、肉弾戦が主な戦い方。要は、アルフとユーノを足して二で割ったような奴。

 攻撃・防御を紫騎士・青騎士で分担し、どうしても出来てしまう隙を『王』が埋める。

 単純だが、隙の無い布陣。

 さすがに、三対二じゃ分が悪い。

「さぁ、次はどうするのかな……!?」

『王』の瞳が妖しく輝くのと同時、

 

――ゾゾゾゾゾゾッ……!!

 

 ……どういう理屈かは知らんが、奴の周囲にあった平面の影が、Z軸を与えられたかのように立体的に浮かび上がり、刃を象った。

「な、何だありゃ……!?」

 魔法……と呼ぶには、あまりにも異質な力だ。

「……恐らくは、魔法なのだろう。あんな怪奇な術式、見たことも聞いたことも無いがな」

「……せめて、ユーノがいてくれたらなぁ」

 何か、的確なアドバイスなり対処なり、対策を立ててくれただろうに。 

 

 さぁ……互いに、様子見は終わった。

いよいよ、第二ラウンドだ。

 

――……ガキュンッ。

 

……紫騎士の剣。その峰に据え付けられた、カートリッジが消費される。

 

――ゴウッ!!

 

 そして、爆発的に増大する魔力!

「……! 来たぞ」

 俺を屠った、チビ騎士のハンマー。あれと同じ原理なら、これまでとは比べ物にならない程の威力が、あの剣に宿ったことになる。

 剣の腹を叩いて、剣筋を逸らす…………普通の剣には有効な戦法も、通じないと思ったほうがいいな、これは。

「……青騎士の方は、デバイスの類は所持していないようだな。おそらく、攻撃の要は紫騎士で、『王』と青騎士はあくまで後衛なのだろう」

「どう叩く?」

 ここは、クロノの指示に従おう。

「……正直、数の差もあって厳しいな。君の『結合』で、僕とリンカーコアを同期させても、確実な勝利は無い。だから今、艦長とエイミィが増援を要請している。それが到着すれば……」

「おお、数の差は埋まるな!!」

 

――ブオッ……!!

 

 紫騎士の剣が、俺達がいた空間を激しくなぎ払った。

「「せーの!!」」

 振りぬいた姿勢のままでいる紫騎士に、ブレイズキャノンをお見舞いする!

「……」

 

――ガドォンッ!!

 

「あーもう! またアイツかよ!!」

 青騎士のシールド。とにかく頑丈で、始末に終えない!

『Stinger Snipe !』

一面のみのシールド。それを迂回し誘導弾を放つ。

「はいはい、おつかれー」

 ……その攻撃は、『王』の装束に吸収されてしまった。

「これじゃ、うかつに魔法で攻撃できねぇ! 直接攻撃で……!」

「……紫騎士相手に、それは無謀だ!」

 近づけば紫騎士の剣。離れれば青騎士と『王』の攻撃魔法。こちらからの魔法攻撃は無力化され、数の差もある。

「やってられっか!!」

 俺は早々に、正面衝突を放棄した。

「回避に専念!!」

「あいよー!」

 とにかく、避けて避けてく時間を稼ぐ!!

 

――――。

 

「で……その増援っての、いつ来るんだ!?」

 

――ガギッ! ゴギッ、ガギィンッ!!

 

 絶え間無く続く攻撃を迎撃・回避し続ける。

「おかしい……! そろそろ来てもいい筈なんだが!!」

『王』のばら撒く、滅茶苦茶な数の魔力弾を回避しつつ念話を繋ぎ、どこかと通話を始めた。

「そちらに何か異常があったのか!? こちらも長くは……は!? 何だって!?」

 聞き返し……

「…………………………ふー……」

 額に青筋を浮かべながら、大きく大きく深呼吸し……

 

「馬鹿言ってないで、さっさと来いッ!!!!」

 

 クロノにしては珍しく、声を荒げて叫んだ。

「……ったく! 面倒な……!」

 律儀に敵の攻撃を迎撃しながら、毒づく。

「おい、クロノ……? 何かあったのか?」

 クロノは、呆れ半分、怒り半分といった感じで説明した。

「……『とことんピンチになったところに、颯爽と登場するのがカッコイイ』らしい」

「……………………大丈夫か?」

「…………」

 返事は無かった。

 

 

「はーっはっはっは!!」

 

 と…………緊迫した戦場の空気をぶち壊す、高笑いが響き渡った。

 

「天が呼ぶ! 地が呼ぶ! 人が呼ぶ!」

 

 そして、どこかで…………一昔前の特撮番組で聞いた口上を、ノリノリで名乗り上げる。

 

「悪を倒せと、ボクを呼ぶ!!」

 

 ああ…………この、思わず脱力するほどに阿呆っぽい声は、間違いない。

 がばっ、とビルの給水塔の天辺に仁王立ちする影が一つ。

 

「聞け、悪人ども! ボクの名は…………!!」

 

 そして、ノリノリ最高潮。口上を格好良く締め括ろうとした瞬間、『王』が腕を振るい、

 

――どかーん。

 

「ぎゃーーーー!?」

 

 ……無防備に高い場所に立ち、腕まで組んでいた人影の足元を吹き飛ばした。

 命中こそしなかったものの、足場を崩された所為で数メートル下まで落下した。

「あいててて…………おいこらぁぁ!」

 よじよじ、と再び給水塔の残骸の上に立ち、『王』をビシィッ!!と指差す。

 

「名乗りの最中と、変身中は攻撃しちゃいけないって暗黙のルールを知らないのか!!」

 

 うがー、と髪を逆立たせて怒る、その姿……

 

「……フェイト!?」

 ……だった。

完全な不意打ちに近い攻撃を喰らっておいて、命中の直前に飛び退るなんて素早い反応、出来る奴は限られている。

 でも、アレは…………

「……クロノ、『増援』ってまさか……アレか?」

「………………………………………ああ、アレだ」

 クロノは、苦虫を噛み潰したような声で、肯定した。

「…………どうしてああなった」

「…………艦長に聞いてくれ」

 

「……は?」

『王』も、ぽかんと放心している。そりゃそうだ。

 

 すたっ、と俺の隣に着地したのは……おお、お前も久しぶりだな。

「アルフ」

「…………や。久しぶり」

 とっても気まずそうに、目をそらした。

 ……相変わらず、フリーダムな主に振り回されっぱなしのようだった。

 

「ボク、参上!!」

 

 びしィッ!! と、無駄に洗練された無駄の無い無駄な動きで、ポーズを決めた。

 

―――ヒュウウゥゥッ……

 

 ……悲壮感を含んだ風が、戦場に吹き抜けていった。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「……フェイト」

 私は、ふらふらとモニターに歩み寄った。

 綺麗に整った顔立ちに……底抜けにバカっぽい、自信満々の表情。

「フェイトだ」

 三ヶ月ぶりに見る……友達の顔だった。

『ひでとー! ひっさしぶりー!』

 スピーカーを通じて、フェイトとアルフの声が聞こえてくる。

「でも、何で……? しばらくは、会えないんじゃ……」

 数年単位は、覚悟してたのに。

「司法取引と言ってね。プレシアが技術を供与することで、刑期を減らすように……フェイトさんとアルフさんは、あなた達の護衛をすることで、刑期の短縮をする、ということになったのよ」

 そっか……フェイトはフェイトなりに、ちゃんと考えてたんだ。

 

「ところで」

 

――ビキィッ……!!

 ブリッジ内の空気が、戦闘とは別の意味で凍りついた。

「リンディさん。エイミィ」

「え、ええ……」「何……でしょう、か?」

 あれ……何でそんなに怯えてるのかな?

 

「私、頼んだよね? フェイトのこと、お願いしますって…………?」

 

 私はただ、ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ、聞きたいことがあるだけなんだけどなぁ……?

 

「なんですかアレは」

 

 さぁ……元凶は、一体誰かな……?

 

 リンディさんとエイミィはだらだらと冷や汗を流し、

「え、エイミィ! どういうこと!?」

「ウエ!? デッキとテレビ、部屋に用意したの艦長じゃないですか!!」

「作品をチョイスしたのはエイミィよね!」

「しょーがないじゃないっすか!! ディズニーとジブリの隣に並んでて、間違えて注文しちゃったんですから! それにオッケー出したのは……!」

「エイミィも反対しなかったじゃ……!!」

 

「わかりましたから、黙ってください」

 醜く責任転嫁をする二人の元凶を、黙らせる。

 あの二人が加勢に加われば、こちらから細々と指示を出す必要は無いだろうし……

 

「……双方向通信を、切ってもらえる?」

 

ちょっと、秀人さんには聞かれたくないかなぁ……って。

 

 エイミィが戻ってきたことで、席を交代したオペレーターの女性に優しく微笑みかけた。

「い、いえ、でも……!」

「切れって言ってるのが、わからないのかな?」

「は、はいいいいっ!!」

 ……気弱なオペレーターは涙目で、パネルを操作した。さぁ、これで心配する必要は無くなった。

 

「…………さて、お二人とも。釈明があれば、お聞きしましょうか?」

 

 リンディさんとエイミィは、責任の所在を投げ合っていた。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「……ふん、何かと思えば」

 四人になった俺達を見て、『王』が吐き捨てるように言う。

「塵芥が一つ二つ増えたところで、」

 バサッ……!!

「何が変わるものか……!!」

 羽ばたく翼。その両翼に、膨大な魔力が集まり、今にも射出されそうに……

 

「そうでもないよ」

 

 ――――――。あ?

 俺の隣にいたはずのフェイト……が、対角線上、『王』の背後数メートルにいた。 

「なっ…………ぐあッ!!」

 驚いて振り返った『王』。そのバリアジャケットの右肩が、思い出したかのように弾けた。

 フェイトの手にするバルディッシュ。その刃に、闇色の残滓がこびりついていた。

 

――斬った、のだろう。

 

 俺はおろか、クロノも、守護騎士さえ気付かない程の速度で。

「それでさぁ………………」

 ダルそうにバルディッシュをひゅんひゅん手元で弄び、

 

「なのはをいじめたの、おまえ?」

 

――バギュッ……!!

 

 ……今度は、辛うじて見えた。

 バルディッシュの横っ面で、『王』の顔面をすれ違い様にブッ叩いた。

「ブッ……!」

 鼻血こそ流さないものの、顔面を押さえる『王』。

「……!」「……」

 ようやく反応を見せた守護騎士達が、主を害するフェイトに照準を合わせる。

 

――ギュイイイイッ!!

 

 青騎士の、全方位から捕獲するバインドが、

 

――ゴゥッ!!

 

 紫騎士の、膨大な破壊力を宿した剣が、それぞれフェイトに迫る。

 足の遅い魔導師だったら、バインドに捕まった挙句、バッサリと切り捨てられてしまうに違いない。だが……

「おまえ? それとも、おまえ?」

 

――ガギンッ!! バギンッ!!

 

 全方位から迫るバインドはフェイトを捉えることはできず、剣は空振りし……共に、両肩の鎧を失う結果になった。  

「ねー、ひでと?」

 あくまで平然と……だがしかし、確かに怒りを含んだ声で、俺の名を呼ぶ。

「……守護騎士のうち、一人だ。今ここにはいない」

「ふぅん……まぁいいや。全員連帯責任だ。苦痛をもって償ってもらうよ」

『Size form』

 

――バシュンッ!!

 

 バルディッシュが、鎌に変形。バチバチと帯電するソレは、フェイトの怒りを写したように、激しい。

「フェイト、アルフはクロノと協力して守護騎士を押さえておいてくれ」

 まだまだブランクもあって、思うようには動けないだろう。雑魚騎士を武装局員が、守護騎士をクロノ達が抑えておいてくれれば……

 

「『王』は、俺が叩きのめす」

 

 あのガキを、ボッコボコにしてやれる。

「ああ、任せた」

 クロノはあっさりと承諾。フェイトとアルフもまた、守護騎士に狙いを定めたようだ。

 

「クソガキがあぁッ……!!」

 顔面に痛打を食らった『王』が、憎しみに満ちた声を出す。

「ハッ……こんなもん、痛覚を遮断すればいいんだよッ!!」

 ……便利なもんだ。

「……ひでと、あんまりやりすぎないでね。ボクの分が、なくなっちゃうから」

「……」

 フェイトは、紫騎士と真正面からにらみ合う。

「鈍った身体には、丁度いい運動かもねぇ……」

 アルフは、指をポキポキ鳴らしながら青騎士を見据える。

「勝てよ」

「互いにな」

 

――ぱんっ。

 

 クロノとハイタッチを交わし、それぞれのターゲットへ向かう。

「今生の別れは済んだ?」

「火葬か土葬か、好きな方を選ばせてやるよ」

「オトモダチが一緒じゃなきゃ、何も出来ないんじゃなかったっけ?」

「守護騎士がいなけりゃ、戦力は半減だな」

互いに浮遊しながら、挑発の応酬。

「ハッ……!」

『王』は嘲笑……そして、憎しみを浮かべる。

「私を舐めるなよ……!! 守護騎士がいようと、いまいと……!」

――バサァッ!!

 

 漆黒の翼が、はためく。

「お前は、私に触れることも出来ないんだからなッ!!」

 

――ギュオォンッッ……!!!

 

「うおぉっ!?」

 慌てて回避。

「はっえぇ……!!」

 目にも留まらぬ速度……フェイトが瞬発力でそれを作り出しているのだとすれば、『王』のそれは最高速度。

 すれ違い様に俺の急所を狙ってくる『王』に、カウンターで攻撃を加えようとするが、悉く回避され、逆に裂傷を負ってしまう。

 

――バババババッ!!

 

 翼で空気を捕え、器用に旋回しながら、俺の周囲を多角的に飛び回る。

 くっそ、ダメだ、このままじゃ……! 速度が違いすぎる!

 

――ヴォンッ! ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオン…………!!

 

 地上へ戻り、停めてあったバイクに跨りエンジンを始動。タイムラグを置かず、速攻で走り出し、一気にフルスロットル!

「制空権って知ってるー!?」

 上空から、魔力弾の豪雨が降り注ぐ!

「地べたを這いずり回る虫けら……一息に、踏み潰してやるよっ!!」

 スピードメーターが200km近くを指しているのにも関わらず、『王』は悠々と俺を追い抜き、攻撃魔法の雨を降らせる。

 下から攻撃されることは無くなったけど……!!

「ひゃははっ……そんなドン亀じゃ、私には追いつけない!!」

 ……悔しいが、その通りだった。『王』の最高速度は、俺のバイクを大きく上回っていた。

「それに……!」

 

――ドンッ!! ドドドドドドドッ!!

 

 砲撃、誘導弾があちこちから迫る。

「くっ!!」

 ハンドルを操作し、回避!

「旋回が、遅いッ!!」

 

――ゴウッ!!

 

 強化魔法を纏った蹴りが飛んでくる。

「くっそ!」

それに、バイクに跨ったまま蹴りを合わせ相殺。

 その勢いに押し負け、タイヤが一瞬、路面を離れてしまう。

 慌てて接地させ、アクセルを開けるものの、『王』の速度にはまだ追いつけない。 

(くそっ……もっとパワーがあれば……!!)

 

『おいアガツマ。聞こえているか』

 

 ……っと。

「な、何だ……?」

 いきなり通信に割り込みがかかり、挙動が一瞬乱れた。

『おい。聞こえているなら返事をしろ』

中性的な声。それに、このぶっきらぼうで無愛想な口調は……

「マリー、お前か?」

『それ以外に誰がいる』

 ……ああ、マリーだ。間違いない。

「悪いけど今忙しい、……ッとォ!?」

 

――ギャギャギャッ!!

 

 リアブレーキを踏み込みロックさせ、テールスライドで敵の砲撃を回避。

『戦闘中か? なら、都合が良い』

「何がだよ!」

 戦闘音にかき消されないように、大声で応対する。

『おまえのバイクな、バラしたついでに色々と…………まぁ、説明は順次で良いか』

「あ!? 何だって!?」

 今何か、サラッととんでもないことを言わなかったか!?

『とにかく、キーをもう一つ、右に回してみろ』

「戦闘中にエンジン止めてどーすんだよ! アホか!」

 今は、とにかくエンジンを全開に回さなきゃ間に合わないってのに!

『アホはお前だ。この私が、その程度のことに気が回らないと思ったか』

 いや、でも……ううん……

「……! ああもう、知らんぞ!」

 どうせこのままじゃ、追いつけないんだ。なら少しだけ、マリーを信じてやろうじゃねぇか!

 

――……………………カキンッ。

 

 ……回した。マリーが言ったとおり、エンジンが止まることは無い。だが……

 

――カキンッ、カキキッ……ギキンッ!!

 

「お、おいマリー……!? なんか、明らかにヤバそうな音が……!」

 エンジンの内部どころか、バイクの全体から、軋むような悲鳴が……!

 それでいて、全く走行に異常をきたしていないことが、また俺の不安感を加速させる。

『おまえの過去の戦闘記録を見るに、そろそろ、そのバイクのパワー・強度では追いつかないだろ?』

 ……まぁ正直、元が普段乗り用の、何の変哲も無い600ccのバイクだからな。

 実は、初っ端に紫騎士に突撃した時点で、フレームがガタガタになっている。

『そこで、デバイス技術の応用だ。普段の状態は、スタンバイモード。魔力は一切食わず、通常のモーターサイクルと何ら変わりは無い。だが、起動させれば……』

 

――バキョンッ!!

 

「カ、カウルがああああああ!?」

 パージされて、ポイ捨てられたああああああああああっ!?

――ガキョン、グキグキグキ……!!

「フレームがあああああ!?」

丸見えになった内部機構が、何か動いてるうううううっ!?

『フレームや構成素材は、とあるデバイスの構成素材と同じ、高硬度軽量魔導合金に変換され、新たなエンジンのパワーに耐えられる構造に組み替えられ』

 

――ジュウウウウウウッ……!!

 

 周辺の魔力が収束・物質化され、新たな物質へと構築されていく。

 以前の外装が、丸みを帯びたラインだとすると……新たな外装は、直線。徹底的に空気抵抗を抑え、突き抜けんとする鋭いライン。

 ハンドルの切れ角は極端に小さくなり、挙動の操作の大半は、体重移動で行う形に移行する。

『わたしスペシャル、CαHβX-Magicaハイブリット・V型8気筒エンジン搭載・両輪駆動二輪型陸戦用特殊戦闘装備………………『スレイプニル』に変形を果たす』

 

――ガ…………ギンッ!!

 

 変形を終えたバイク。

 

――ヴァオンッ、ヴァオンッ…………

 

 枷から解き放たれる寸前の猛獣のように、エンジンが低く唸り、解放の瞬間を今か今かと待ちわびている。

なんか……開けるのが怖くなってきたんだが。

「最大出力は…………?」

 念のために聞いておこう。ちなみに、ホンダのレース用マシンRC211Vの最大出力は、オーバー240|PS。市販車の出力が最大でも200PSというのだから、その出力は押して知るべき、である。

 だが、バカに技術を与えると、ロクな真似をしないというのがこの世の常であり……

 

「最大出力は……753ps!」

 

「お前やっぱ正真正銘のアホだろおおおおおおおおおおおおおおお!!?」

 

 超自慢げに、無表情でサムズアップをしている姿が何故か脳裏に浮かんだ。

『王』が旋回し、数多の攻撃魔法と共に突っ込んできた!

 ええい、もういいや! 開けちまええええええええっ!!

 

――――――――ヴァガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァンッ!!!

 

雷鳴のようなエキゾーストを絶叫し……景色が消えた!!

 

 咄嗟に展開した体表の魔力に、もはや質量さえ伴った風が叩きつけられていく!

「ぬぐあああああああああああああ!!!」

 暴れだしそうになる前輪を、上から魔力を噴射することで路面に押さえつける!!

 

――バゴッ、バゴッ……!!

 

 断続的に聞こえてくる破砕音は、進行方向にあった民家やら何やら、障害物をシールドがなぎ払い、突き抜ける音。

 どちらにせよ……地上にいては、『王』に一撃を加えることはできない。

 なら、どうする……?

 

「使ってみるか……魔力資質ってやつを!!」

 

 これまでの俺の戦い方は、ただ魔力を振り回しているだけだった。

 大した知能の無い暴走体や傀儡兵、雑魚騎士にはそこそこ戦えた。だけど、この守護騎士どもには通じない。チビ騎士にやられた時のように、あっさりと破られてしまう。

 ……今こそ俺の魔法を、一つ上のステージに、進める!

「……」

 スロットルを操作し、『王』の攻撃を回避しながら意識を集中する。

 

 これから行うのは、スターライトの応用だ。

(周囲の魔力を集めて……………………)

 

――ギュウウウウウッ……!!

 

 右手の魔力結晶に、魔力が集まってくる。『王』が馬鹿みたいに魔法をばら撒いて、一帯の魔力濃度が異常な濃さになっていたこともあり、ひどくスムーズだ。

「ひゃはははっ! 涙ぐましいねぇ……! 残飯をかき集めて、威力の足しにしようって!?」

「ふんっ…………」

 逆にそれを、嘲笑で否定してやった。

 

集めた魔力を、右手を通じてバイクに伝播させる。

 カウルからフレーム、フレームからタイヤ、タイヤから地面へ…………

 

「大ハズレだ、バーカ!!」 

 

『結合』、させる!!

 ふわっ……と、バイクのフロントが空を向く。

 ウイリーじゃない。ただ単純に…………目の前に『道』が出来ただけだ。

 

空へと繋がる、魔力の道が!!

 

「ウイング…………!! ローーーーーーーーーーード!!」

 

 駆け上がれええええええええええええええっ!!

 

――――ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!

 

 傾斜40度を越えるスロープを、お構い無しに『スレイプニル』が駆け上がる!

 

目の前だけにウイングロードを展開していたんじゃ間に合わない!! 

先へ、先へ…………!!

――……ギュウウウウウン!!

「なっ……!?」

 圧倒的な速度で俺をリードしていた『王』が、驚愕と共に振り返り……あっという間に、視界の後方へ消えていった。

「ぐ……おおおおお!!」

 リアブレーキと魔力放出と気合と根性で180度転回!!

 真正面から、『王』に向けてスロットルを開ける!

――ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!

 

 テレポートでもしたように、あっという間に距離が縮まる。『王』ご自慢の速度が、そのまま回避不能の状況へと追い詰めた。

「くっそおおおおおおおおっ!!」

 

――ビュインッ!!

 

 決死の思いで左手をハンドルから放し、魔力刃を展開。

 狙いは……!

 

「その翼! 貰ったぁぁ!!」

 

――斬ッ!!

 

「――、あ」

 ばさっ……と、羽根を撒き散らしながら地上へ堕ちていく、『王』の両翼。

 信じられない……そんな表情で、呆然とソレを見つめる『王』。そして……

「……あああああああああああっ!!」

 数秒後、コントロールを失った『王』が地上の重力に捕まり、墜落していった。

 

――ガキンッ……

 

 バイクを通常形態に戻し、ウイングロードで地上へ……『王』の墜落地点へ降下する。

「ぜー……ぜー……!!」

 なんてバイクだ…………マリーの奴滅茶苦茶しやがって……!

『ふむ。最高時速毎時530kmか…………出力を抑えてしまえば、こんなもんか』

 今、なんつった……?

「ふ、ふざけんな…………こんなバケモン、これ以上パワー増やしてどうする!? 最大値いくつなんだよ!?」

『913psが理論最大値だが? すぐに作業に取り掛かってもいい』

「…………遠慮しとく」

 マリーに冗談は通じない。

 会って一日で、それを痛感した。

 

『王』は……ああ、いたいた。民家に墜落したらしい。運のいい奴め。

 

「よう、王様…………ご機嫌麗しゅう?」

 ウイングロードの上から、見下しながら言ってやった。

「……てめええええええええっ!!」

 プライドを打ち砕かれた『王』は、そこいらのチンピラのように、力任せに拳を振るってきた。

「……」

 ぱしんっ、と左手で軌道を逸らし………………

 

――ドゴッ!!

 

「ぐっ……!」

ボディブロー一閃。

「おりゃあっ!!」

 続けて、腹部を思いっきり蹴り飛ばし、叩き落す!!

 

――ドガンッ!!

 

 再び地面に背を叩きつける。

(……やっぱりな)

 ウイングロードを解除し、バイクから降りた。

「がぁッ……! このォっ!!」

 やけくぞに放たれた、残心も何も考えないハイキック。

 スウェーバックで回避し、軸足を払う。宙に踊り、全くの無防備になった背中に、膝を叩き込む。

「ああああああああああああああ!!」

 

――ズババババババババッ!!

 

 装束から全方位に向けて、砲撃魔法・射撃魔法がバラ撒かれる。

 俺に当たりそうな弾だけを撃墜。

「何で、何で、何で……!! 練習したのに! いっぱいいっぱい、たくさんたくさん殺したのにいいいいいいいっ!!」

 がむしゃらに振るわれた、ただ威力が大きいだけの拳を、魔力を収束させた左掌で受け止める。

「……確かに、一撃一撃の威力なら、俺はお前には勝てないさ」

 

――ビュンッ!!

 

 駄々っ子のように暴れ、残った右手で捌く。

 

――ボバッ!!

 

 爆炎が迸る……寸前に、腕を上に跳ね上げる。爆炎は、空しく空を焼いた。

「お前の攻撃は、ロクに俺に命中しない。何でだろうな?」

「知るかああああああああああっ!!」

 

――ギュッ……パスッ…………

 

 攻撃魔法を発動しようとした瞬間に、ストラグルバインドを発動する。

「ぐっ……は、放せ!!」

 装束が明滅し、片っ端から無効化されていく。

「発動タイミングも、攻撃範囲も考えない。ただデカい魔力を、威力にだけ重点を置いた術式に乗せて、闇雲にばら撒くだけ」

 確かに、初見では驚いた。狼狽して、対処に遅れたけど……メッキが剥げればこんなもんだ。

 

「下手なんだよ、お前は。戦い方が」

 

 傲然と、言ってやった。

「抵抗しないサンドバッグを殴って、いい気になってたか?」

 

――ドズッ、ドズッ、ドズッ!!!

 

 三度、腹部に膝蹴りを叩き込む。

「はッ、あぁッ…………!! な、何で……?」

 がくがくと膝が震え、顔色が青白くなっていく。

「……痛みは無くても、呼吸をして、酸素を供給することができなければ、肉体は機能を低下させる」

 

 ……こいつは、油断と慢心の塊だ。

 

 自分には強大な魔力がある。だから負けない。

 

 自分は痛みを感じない。だからいくら攻撃を喰らっても平気。

 

 自分には守護騎士がいる。だから力を磨かなくても大丈夫。

 

 ……下手に初期能力値が高かったからこそ、それが仇になった。

 もしこれで、俺と同じように絶え間ない鍛錬を重ねていたら……きっと、俺は勝てなかったに違いない。

「……終わりだ」

 左手の魔力刃にストラグルバインドを。右拳に封印魔法を、それぞれ纏わせる。

 

――ザンッ!!

 

 漆黒の装束を切り裂き、無防備な地肌を露出させる。

「あああああ!!放せってんだよおおおおおおおお!!」

 影を刃に変える。だがそれは、さっきまでの鋭さも大きさも無く、脆弱なシロモノだった。俺の身体を貫くことには成功するが、致命傷にはなり得ない。

 魔力刃を一閃。ぱりん……と、刃は儚く砕け散った。

「…………ひっ!?」

 いよいよ身を守る術が無くなった『王』に、拳を振り下ろす!!

 

「シーリング・インパクトッ!!」

 

――ゴゴンッ……!!

 

 とても肉体を殴ったとは思えない感触。だが確かに、俺の右拳は……それに付随する封印魔法は、『闇の書』を確かに捕えた。

「あああああ……!!」

 力の源泉を塞がれ、苦しむ『王』……いや、そこにいるのは既に、ただの無力な女に過ぎなかった。

「嘘だ……こんなの、嘘だ……!!」

 見る見るうちに萎んでいく、凶悪な魔力。

「私が、『闇統べる王』である私が、負けるなんて……そんなこと、あるわけがッ……」

 

――ザッ。

 

 と、足音。

「……魔力の供給が途切れたからだろうな。守護騎士達は、溶けるように消えた」

 バリアジャケットに無数の切り傷が刻まれたクロノ。

「あいててて……けっこー強かったな~……アルフ、だいじょぶ?」

 髪留めが吹っ飛び、ボサボサ髪になったフェイト。

「折れちゃいないよ。フェイトこそ……」

 打ち身で青あざを作ったアルフ。

 それぞれ三者三様に、満身創痍だった。

 中でも、一番傷が多いんじゃないかと思うクロノは、それをおくびにも出さず、苦しむ『王』の目の前で足を止め、言った。

 

「闇の書の主。殺人・民間人襲撃・時空法違反・公務執行妨害の罪により、あなたを逮捕する」

 

 ……何はともあれ、これで解決か……?

 いや、待てよ……? 何か、忘れているような……? 何かを忘れている。何か、何か…………――!! そうだ!!

「……なのはっ!!」

『は、はい……!?』

「リンカーコアは、どんな様子だ!?」

『え……? 相変わらず、反応あんまり無いけど……』

 そうだ……『王』を倒したなら、なのはのリンカーコアが再生するはずだ!

 それで、再生してないってことは……!

「まだだ!!」

 まだ一人、守護騎士が……!結界魔法の使い手が、残っている!! 残った魔力で維持しているんだ! もう一撃、封印を……!!

 

――……キュゴンッ!!

 

「うあっ!!」

 そして……突如として発生した加速感に、身体を真横に吹き飛ばされた。

「秀人! ……ぐあっ!!」

 クロノも不意打ちで蹴り飛ばしたのは……

 

あの日、結界をあっさりと破って進入してきた仮面の男だった。

 

「……てめぇ!! 邪魔するな!!」

 拳を振り上げ、振り下ろす!

「邪魔をしているのは、そちらの方だ」

 

――パシッ……

 

 それは、あっさりと受け止められてしまった。

 ぎちぎちと拮抗。

「何すんだよっ!」「この野郎!」

 フェイトがバルディッシュを振るい、アルフが射撃を放つ。

 それを、流れるような動きで回避し、間合いから脱出した。

「…………守護騎士は四人。鉄槌の騎士は欠員。剣の騎士、盾の守護獣は敗北……さて、残りは何人かな?」

「……!!」

 そいつは、まさか……!

 

「湖の騎士。高町なのはのリンカーコアを奪った」

 あの時も、今も、ここにはいない。まさか……!

「……こいつが保険にしていたのだろう。『湖』は現在、結界の外で待機している」

「! エイミィ!」

『了解!』

 早速、サーチを任せる。だが、奴ら守護騎士には気配というものが戦闘中以外はほとんど無い。本気で隠れられたら、アースラのレーダーでも見つけられるかどうか……!

「そうそう、『湖』は、直接的な戦闘力こそ低いが、ある技能があってな」

「おりゃああああああっ!!」

 フェイトとアルフの射撃魔法を難なく回避しながら、言った。

 

「闇の書に記された魔法と蓄えられた魔力を、ある程度まで使用する権限があるんだよ」

 

――――ガッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!

 

「!! な、何だ……!?」

 超巨大な雷が、強装結界の一箇所にピンポイントで降り注ぎ……車の強化ガラスをエマージェンシーハンマーで叩いたように、砕き破った!!

「……、状況を報告!!」

 一番先に復帰したクロノが、アースラに要請する。

『……強装結界、術者の半数が戦闘不能!! 維持は、できて数分!! どうしよう……逃げられちゃう!!』

 くっそ……! 最悪だ!!

 クロノたち三人も守護騎士との戦闘で消耗している今、まともに戦えるのは俺だけだ。

 こんな状態じゃ、クロノと俺のリンカーコアを『結合』させても大した意味はない。

 

 だが仮面の男は、俺に対しては一切の戦意を見せず、『王』の身体を無造作に抱え上げた。

「……彼女は今日、敗北を知った」

 そして、俺達はその意図を知る。

「自身の弱点も痛感したことだろう」

「まさか、お前……」

「下らぬプライドを捨てた彼女は、真に強くなる。……お前達のおかげでな」

 仮面の向こうで、はっきりと……嘲笑を浮かべた。

「……ッ!!」

 俺とクロノが駆け寄った瞬間、透明な檻のようなものが俺達を包み込んだ。

「クリスタルケージ……こんな高等魔法を、一瞬で!?」

 技巧に優れるクロノがかなり驚いていることから、それがいかにデタラメな技量なのか、よくわかった。でも、こんなもん!!

「だぁりゃああああああああああああああっ!!」

 

――――バギィンッ!!

 

 正拳突きで、叩き壊す!!

「こんなガラス一枚……!! って、うおおっ!!」

 

――ぎゅるるるるるるっ……!!

 

 破壊をトリガーに、更に別の拘束魔法が仕掛けられてやがった!!

「くっそおおおお!!  卑怯だぞてめぇ!!」

「そうだそうだー! 正々堂々たたかえー!」

 見れば、隣ではフェイトとアルフが同じように転がされていた。

「…………とはいえ、闇の書の封印とは厄介だな。下手に手を加えれば、癒着しているリンカーコアそのものが破損してしまう」

 無視すんな!!

「……お前ほど偏った能力も珍しいな」

 魔力操作と、強化魔法……それから、リンカーコア結合。その三つにだけ突き抜けた三角形が、俺の能力グラフだ。

「…………生憎、取り柄が少なくてな」

 暴走体相手に、死ぬような思いで磨いてきた封印魔法だ。そう簡単に破られてたまるかっての。

「…………短く見積もって、三ヶ月といったところか」

 三ヶ月。……俺の封印魔法が、効力を失うまでの期間だ。長いやら、短いやら……でもとにかく、向こう三ヶ月は、敵の襲撃は無い。それだけが、不幸中の幸いだろう。

「では……」

「待てッ!!」

 去っていこうとする仮面の男を、呼び止める。

「お前は、誰だ!? 何の目的があって、闇の書に手を貸している!?」

 ぴたりと足を止めた仮面の男は、少しだけ考えたようなそぶりを見せる。

 

「主による闇の書の完成を目指す。それこそが、我が目的」

 

 意味を問いただすより先に、転移魔法で『王』ごと逃げられてしまった。

「くっそ! なんだよアイツ!!」

 同時にバインドが消滅し、身体の自由が戻ってくる。

『強装結界、解除…………通常の隔離結界へ移行しました』

 オペレーターの悔しげな声。試合に勝って……勝負に負けた。そんなとこだろう。

 

 くいくい、と服の裾を引っ張られる。フェイトだった。

「ひでと、戻ろ?」

 ……そうだな。ここにいたって、仕方ない。

「そうだな。なのはといろいろ、話もしたいだろ」

「うんっ!!」

ボサボサになってしまった髪を整えながら、快活に笑う。

「アルフ、どうしたの?」

 フェイトの問いに、挙動不審に辺りを伺っていたアルフがびくっとなった。

「え? ああ、いや…………ユーノはどこだろう、って……」

 もじもじと、消え入りそうな声量で言った。

「……諸々の説明は、アースラに戻って、休息を取ってからにしよう」

 クロノが場を収め、全員でぞろぞろと転送ポートに向けて歩いていく。

 

(三ヶ月…………か)

 

言うなれば、嵐の前の静けさ。

 

 最短で三ヶ月。それで、俺が施した闇の書の封印は解ける。不審者が言ったとおり、『王』は、更なる強敵となって俺達の前に再び立ちふさがることだろう。 

 だけど、恐れることは無い。

「うゅ?」

「ん?」

 歩きながら、フェイトとアルフの肩に手を置く。

「頼りにしてるぞ」

 最初、ぽかんとしていた二人は……

「うんっ!」

「おうっ!」

 サムズアップと共に、頷いた。 

 

――俺には、こんなにも大勢の仲間がいるのだから。

 

闇の書。

王。

守護騎士。

追跡者。

 

それぞれの思惑を胸に。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

このバッドエンド確定の物語は序章を終えた。

 

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