魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第十六話

 

「ふあぁああ……」

 あーーーーー……眠い。

「……もう朝、か」

「……そうだね」

「……うん」

 自宅へ向かう道。空はすっかりと白み、早朝の空気を漂わせていた。

戦闘直後は、その高揚感で眠気を感じないけど…………事後処理をしているうちに、ドカンと眠気がやってくる。

 でも、久しぶりだなぁ、この感覚。

 微妙に湿気た空気の中を、疲れた身体を引きずって歩く、この感覚。

 ちょっと違うのは、背中にのしかかる微妙な重さと温かさ。それと、両隣を歩く足音。

「すー……すー……」

「くー……くー……」

 足音に混ざるように、二つの寝息が聞こえてくる。俺の背中……それと、隣を歩くアルフの背中から。

「秀人、代わろうか?」

「いーよ。お前だって疲れてるだろ」

 ユーノも、何だか足取りが怪しい。それとなく進路を修正してやっているが、右へフラフラ、左へフラフラ……正直、危なっかしくて見ていられない。

 ジョギングをする人、犬の散歩をする人、新聞配達のカブ。

徐々に街が朝に向けて動き出す中、俺達はようやく、俺の家に到着した。

 転送ポートから、ほんの数百メートル。だけど、体感ではもっと長く感じた。それだけ疲れていたんだろう、きっと。

 ポケットから鍵を取り出し、開錠。

 まず、なのはとフェイトをベッドに寝かせて……押入れから、予備の布団を出して……

――どさっ。

 そのまま、布団に倒れこんだ。

――どさっ。ばたんっ。

 多分、アルフとユーノも同じように……ま、いいや。

「おやすみ……なさーい……」

 今は、ゆっくりと寝て………………ぐぅ。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「はあぁぁぁ…………」

 マリエルは、深い深いため息をつき、椅子に座ったまま大きく身体を逸らす。

「リンディさんも無茶振りするよ……」

 机の上に足を投げ出す。その際に発生した風で、積み上げられていた紙の山の数枚がヒラヒラと落ちる。

 それを、空中で器用にキャッチし、自身のアイデアに目を通す。

「……やっぱ、こうなっちまうんだよなぁ」

 指先で紙片を弄び、ぐしゃっと丸め、放った。既に丸められた紙で一杯になっていたゴミ箱は、それをぽすんと弾く。

「ま、これで行くっきゃないよね」

 パネルを操作し、3Dの図形を立体的に出現させる。

 その立体は、かなり無骨な形状をしていた。立方体を乱雑に積み上げたような形状に、思い出したように曲線が加わり……かと思えば、また直線になる。

洗練されていない……それどころか、内部機構すら煮詰まっていない、未完成の試作品……更に、その草案。未完成の未完成。

とはいえ、全くノウハウの無かった技術を組み込み、必要な機能を開発、一応の成果に仕上げたのは、メカニックマイスターたる彼女の技量の高さを示していた。

 

――ピピピッ、ピピピッ。

 

 と、コンピューターの動作する音のみがあった部屋に、通信を報せる電子音が無味乾燥に響く。

「……ったく、少しは休ませろっての」

 鬱陶しそうに、その通信を受ける。

目の前に、囚人服の上に白衣を羽織るという、なんとも奇抜かつミスマッチな格好をした女性が映し出される。

「お…………珍しいじゃないか。許可が下りたのか? …………プレシア」

 プレシアを目にしたマリエルは、ほんの僅かだが……挑戦的に口角を吊り上げた。

 皮肉とも取れる挨拶をスルーし、切り出す。

「バルディッシュの構成素材のサンプル、助かったよ」

 振り返った先に鎮座していたのは、秀人のバイク……最近、『スレイプニル』という愛称を得た。その構成素材の多くは、バルディッシュの刃の素材と、ほぼ同質のものが使用されていた。

 初陣を経た後に回収した。

どの箇所に、どの程度の負荷が加わったのかを解析する予定だ。

『それは何より……で、そちらは進んでいて?』

「……あんまり。めぼしい成果は上がっていない」

 この、恐らくは管理局が保有する中ではトップクラスに優秀な技術者をして悩ませているのは、他でもない。

 

 極めて特殊な魔力資質を持つ、秀人の専用デバイスの開発である。

 

「既存のデバイス設計じゃ、どう小細工したところで強度が足りない。カートリッジシステムの出力に、耐えられないんだ」

かといって、十分な強度を持たせたら、巨大かつ鈍重になってしまう。

『そこへ更に、リンカーコア結合の負荷も想定すると……』

 ぽん、と再び3Dモデルを出現させる。

「これが、小型化の限界」

『確かに、これでは駄目ね』

 秀人は、膂力にこそ目を見張るものがあるものの、体格的には平均的な男性である。

 これをそのまま装着するとなれば、上半身の動きが制約されてしまう。

 それでは本末転倒だ。

 一般的な杖型にしてしまえば、いざとなれば棍棒代わりに使えるか……という考えもあったのだが、マリエルの美学に反したこともあり、没になった。

「そもそも、秀人の希望じゃないからな」

 秀人が求めたのは、手持ちの武装ではなく……

『『甲冑』、だったかしら?』

「そ。正確には、『腕の一本や二本が無くなろうと、問題なく魔法の発動補助をしてくれる形状』。腕が無くなる時点で、問題大アリだっての……あのバカ」

『確かにあの子、遠距離は得意じゃないみたいよね』

 秀人が使える魔法は、近接戦闘系の魔法に偏っている。一応、射撃や砲撃も可能なのだが、命中率は低く、ゼロ距離から叩き込むようにして使うのが常だ。

『と思って、新たな素材を鍛造してみたわ』

 研究者時代は、動力炉の開発に携わっていたプレシアだ。軽量かつ堅牢な素材の開発は、お手の物だろう。

「助かるよ。これで小型化が進む」

 転送されたデータを、嬉しそうに眺めるマリエル。

 プレシアもまた、マリエルの草案を受け取り、目を通す。

『システムは?』

 人格AIはプログラム、カートリッジシステムはドライブ、それらの式は出来ているのだが、肝心のもの……それを走らせる大元になるOSが、未定となっていた。

 プレシアの疑問に、マリエルはあっさりと答える。

 

「ベルカ式」

 

 ……プレシアは、息を呑むと同時に、納得した。

『……ああ、確かに』

 秀人の戦い方は、汎用性と範囲攻撃に重きを置いたミッドチルダの魔導師のものではなく……近接戦闘による一撃の破壊力・突破力に重きを置いた、ベルカの騎士のものだった。

 ならば、ベルカ式を選択したのは当然といえる。

「…………と、言いたいところだけど」

 感心した様子のプレシアに、マリエルは肩をすくめ、おどけた調子で言う。

「全然、データが足りていなくてね。聖王教会の石頭どもには、困ったもんだ。

無限書庫の中から必要なデータが全て見つかるのは、まだずっと先だろうから、取り急ぎ、見つかったデータを活用する」

 そう、時間が無いのだ。

 三ヶ月から四ヶ月……それは、世間一般からすれば、十分な期間に思えるだろう。

 だが、今だ研究段階のカートリッジシステムを搭載するという暴挙に加え、秀人の魔力資質による負荷に耐え、更には武器としての強度まで求められるのだ。

 本来なら、数年のスパンで取り組むべき大仕事。

「ベルカの術式を、ミッドの術式でエミュレートする、擬似ベルカ式。……まぁ、『擬似』じゃあ聞こえが悪いから、

 

――『近代ベルカ式』とでも呼ぼう」

 

『近代、ベルカ式…………』

 ゆっくりと呟くプレシア。

『……教会が、黙っていないでしょうね』

 もし、それが実用化されたとしたら…………資質が無くとも、ベルカ式の魔法が使えるようになる。

 聖王教会……厳正な宗教集団である彼らの中には、ベルカ式に適正があるということを、一種のステータスのように感じている輩も少なくない。

 その希少価値を無くしてしまう研究が明るみに出れば……どのような目に遭うか、想像に難くない。

「『データを取りたいのに、あなた達が騎士も資料も貸してくれないから、自分で自己流で作っちゃいましたー』……って、ことで」

 違法性は無いのだから、問題は無い。

あくまで、そう言い張るつもりのようだ。

「ま、コイツはデータ収集のための試作機だからね。一般の局員に出回るのは、まだ当分先の話さ。十分にデータを集めて、危険がないように改良して、それから公に発表する」

『秀人は実験台、ということ……?』

 プレシアの声に、僅かに険が混じる。

 カートリッジシステムだけなら、何とかなる自信があった。だがそれは、ミッドチルダ式による運用を前提としていたわけで……未知のOSとの相性は、全くの不明。

 影響はゼロかもしれない、もしくは、誤作動で命を削るかもしれない。

 それを、秀人で試そうと言うのだ。実験台以外の、どのような言葉が当てはまろうか。

「でも、そのくらいの理由が無けりゃ、嘱託局員一人のために専用デバイスを建造したりはできないんだよ」

 秀人に専用デバイスを……という話をリンディが打診した際、上層部からは猛烈に反対された。

『階級すら無い嘱託魔導師のために、管理局の資金を費やすとは何事か』、と。

 だが、カートリッジシステム搭載型デバイスのデータ収集のための実験機、という話になった途端、掌を返したようにあっさりと承諾された。

 未完成のカートリッジシステム。もし実用化に漕ぎつければ、管理局の戦力は飛躍的に上昇する。だが、現状では不安定で、場合によっては使用者の命を脅かす機能でもある。

 公募したところで、協力者など現れるはずも無い。

 だが、秀人は自ら進んで志願していて、異様な耐久力もあり、何より。

 

「秀人は、『嘱託魔導師』だから」

 

いざとなれば…………使い捨てることが、できるわけで……

「……我が組織ながら、悪辣だよねぇ」

 じっとその話を聞いていたプレシアが、重い口を開く。

『気が変わったわ、マリエル。先ほどの素材は、提供を取り止める』

「……そうかい」

 ふぅ、と息をつく。

 これで、振り出しか……そう考えたマリエルだったが、続くプレシアの言葉を聞き、放心することになった。

 

『より強靭で、秀人に負担を強いない素材を改めて開発する』

 

「…………は、」

 ぽかん、と放心していたマリエル。

「は、ははははははははははははははは!! そ、そうか、そうかぁ……! そりゃいいや!! ははっ!!」

 珍しく爆笑し、童女のように手足をバタつかせる。

「あははははは……!! はははははっ……!!    …………んで?」

 それが、ピタリと止まる。

 

「どの程度の強度を想定している? 言っておくけど、強度の問題さえクリアすれば何の問題も無くなるわけだが」 

 

冗談でもなんでもなく、マリエルはプレシアに詰め寄る。撤回は許さない、と。

 やるといった以上、しっかりやれるんだろうな……と。

 その、挑戦とも取れるマリエルの言葉に、プレシアは傲然と答える。

『好きに設計しなさいな。

 

どんな形状・どんなシステムを組み込もうが……非常識な強度を保証してやるわ』

 

「上等ォ……!」

 にやぁっ……と、獰猛な笑みでそれに応じた。

「やってやろうじゃん!!」

 机の上にあった、強度の問題で妥協していた案を全て叩き捨て、それまでのデータを躊躇い無く全消去する。

 そして、猛然とキーを叩き始めた。

 プレシアの姿も、既に無い。彼女もまた、自信の研究に没頭するのだろう。

 

 データ量がテラバイトに達するまで、そう時間は掛からなかった。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

「……ん」

 僅かに覚醒した意識。

 まだ身体は付いてこなくて、思考だけが緩やかに回転を始めた。

 ええと……フェイトと暮らせることになってくユーノくんを迎えに行って……帰り道、秀人さんに背負われて……ああ、そうだった。それで、寝ちゃったんだ。

「んー……!」

 眩しさを我慢して、目を開ける。すると……

 

「すぅ……すぅ……」

 

 目の前で……文字通り、ほぼゼロ距離で眠るフェイトの顔が目に入ってきた。

 朝日を浴びて輝く金髪。白磁の肌。長い睫。

「……おぉ」

 不覚にも、ドキッとした。忘れがちになるけど、フェイトって美少女なんだ………………って、いかんいかん。早く起きなきゃ。

 ベッドから身を起こすと、床で雑魚寝する三人……秀人さん、ユーノくん、アルフ、が

眼に飛び込んできた。

 もう…………私が床でも良かったのに。

 皆を起こさないように、足音を殺しつつ抜き足差し足、台所に向かう。

 ちらっと時計を見上げる。午前十一時。完全に寝坊だ。

「……ま、いいか」

 今日は、自主休校ってことで。

「別に、会いたい友達もいないし……」

――。

苦い思い出が、僅かに蘇る。

結局あの子とは、友達になれず終いだったなぁ…………

 全部、終わったことだ。今更、悔やんだところでどうにもならない。

 

さてと……五人分の昼食でも、作りますか。

 冷蔵庫の中を確認。

「あ……足りない」

 食材は、三人分が限界だ。どうやっても、五人分には足りそうに無い。

「……買いに行くか」

 寝癖を整え、家計用の共用の財布をポーチに入れる。服は、このままでいいや。

(行ってきます)

 心の中で言い、ゆっくりと部屋を出た。

 

 すたすたと住宅街を歩き、スーパーを目指す。

 片道十分……いつもだったら、レイジングハートと話でもしながら歩くんだけど、今日はそれが無い。十分がこんなに長いなんて知らなかったなー……

 

 スーパーで買い物を済ませ、店を出る。

 五人分にもなれば、やはりずっしりと重い。

 フローターを使って運ぼうとして……クロノの忠告を思い出した。

『君は日常生活の中で、結構な割合で魔法を使用しているな』

 そりゃあ、便利だもの。魔法陣や魔力光を発生させないレベルなら、何の問題も無い筈だった。

『当面の間、そういった用途での魔法の使用を控えるように。魔力を察知され、追跡される可能性がある』

 ……はいはい。頑張って手で運びますよー、っと。

 ビニール袋を担いで、えっちらおっちら。

 荷物が多いときは、秀人さんとバイクで来たり、魔法で飛んだりしていたから、忘れがちになる。

「自分のバイク、欲しいなぁ」

 まぁ、あと七年は我慢しないと無理なんだけど。年齢的にも、背丈的にも。

 

「あ……た、高町!!」

 

 ……と、つらつらと考え事をしながら歩いていたら、誰かに呼び止められた。

 声で、何となく誰かは分かった。 

 

「…………八代さん」

 

 件の、八代望その人だった。

 ランドセルを背負ったまま。学校帰りに、こっちに来たらしい。

「あ、あのさ……」

「学校はどうしたの? まだ、お昼休みの時間じゃない」

「半日授業だったから…………これ、今日のプリント」

 私と彼女は、友達じゃない。

 だから……言葉に親しみなんて、込めるべきじゃないんだ。

「ありがとう。用は済んだ?」

意図的に無表情の仮面を被り、突き放す。

「何で今日、学校休んでたの……?」

「あなたには関係ない」

「……!」

 言葉の棘に突き刺され、びくっと強張る。

 傷ついた表情。握り締められる手。それを見て、胸が痛まないと言えば、嘘になる。でも、仕方ないんだ。

 ……以前、八代さんはジュエルシードに憑かれ、とても危険な目に遭った。

 その原因こそジュエルシードだけど、暴走の切っ掛けは……私だった。迂闊に仲良くなって、下手に八代さんの気持ちに触れてしまって……

だから、今度こそ。今度こそ、私は失敗しない。絶対に、クラスメイトを魔法関係のイザコザには、巻き込まない。そう決めたんだ。

 もし、魔法に関することに少しでも触れたら……例え、これ以上に嫌われても、突き放すと。

「……ごめん、でも、本当に何でもないから」

 顔を伏せ、踵を返す。

「待って……」

 呼び止める声を無視して、歩き出す。

 もうこれ以上、彼女と関わってはいけない。私は、彼女にとって……疫病神みたいなものなんだから。

「待って!!」

 意外と強い力で手を引かれ、引き止められた。

「放して」

 少しだけ険を強めた言葉を突きつける。

 でも、私の手を握る手は、緩まない。

 怒っているわけでも、泣いている訳でもない。ただ、悲しさだけを浮かべ、私の目を見つめる。

 

「…………もう、やめようよ」

 

「――。え?」

 

――一瞬、耳を疑った。

 

「絶交とか、そういうの……もう嫌なんだ」

 それは、静かな言葉だった。

「学校で知らんぷりしたり、避けたり…………そういうの、全部やめようよ!」

 でも、その言葉は…………確かに、私の無表情の仮面を剥がしていく。

「え……あ、あの……」

 しどろもどろに、身を引く。でも、しっかりと掴まれた手が、私を引き止める。

「前みたいに……あの日の、前みたいに……」

 いつしか私は、逃げようとするのを止めていた。 

 

「……友達に、戻ろうよ」

 

 ……………………やっぱり、駄目だ。

 私は、非情になり切れない甘ちゃんで…………どうしようもない、寂しがり屋だ。

 だから、こんな風に真っ直ぐに言われたら……何も、言えなくなってしまう。

「高町は、私のこと……そんなに嫌い?」

「そ、」

 そんなこと、無い。

「私は………………ッ!?」

 大事な事を伝えようとして…………いきなり、押し黙ってしまった。

……今、何かが……引っかかった。

 身体に染み付いた、一種の第六感。

 

――魔力察知能力に。

 

 ほんの微量だけど、これは……魔力だ。

発生源は……向こうの、雑木林?

「八代さん、ごめん。本当に、ごめんなさい…………でも、お願い。ちゃんと、返事するから、今日は……」

 ほんの微弱な魔力は、徐々に小さくなっていく。

 もしかしたら、何かが起きているのかもしれない。ここで八代さんと一緒にいたら、以前の二の舞になってしまう。

「……ごめんッ! 明日、ちゃんと返事するから!!」 

 手を、やさしく振り解く。

「高町! ちょっと……!」

 ごめん、ともう一度呟きながら、荷物を放り、走り出した。

 

 

 雑木林の中は、昼間だというのに薄暗く、圧迫感を感じさせた。

「……」

 ごくりと、怯んで生唾を飲んだ。

「ええい……行くぞ!!」

 魔力が弱くなったとはいえ、成人男性一人を叩き伏せるくらいの力は残っている。

 自らを鼓舞し、土の地面に歩を進める。

 

 僅かな魔力を頼りに、雑木林の中を探索していく。

 

――ガサッ

 

「!」

 今、何かが動く音がした。

 茂みの影から、紅い何かがちらちらと見え隠れしている。

「…………」

 警戒しながら近寄り……その正体を知った。

「女の子……?」

 簡素なワンピース……それ以外に、何も身に着けていない。明らかに訳ありな風体の、紅い頭髪が目を引く少女だった。赤毛を通り越して、完全に紅色の頭髪は、この世界の人間ではないということを明確に示していた。多分何かに巻き込まれて、ユーノくんみたいに、ここに漂着したんだ。

「ちょっと、どうしたの!? 大丈夫!?」

 背中に手を添え、上体を起こす。

 ……顔色が悪い。それに、妙に冷たい。呼吸は…………ある!

『秀人さん、秀人さん!!』

 緊急コール。

『な……何だ、どうした!?』

 飛び起きたらしい秀人さんが、すぐに応じた。

 手短に状況を説明して、位置情報を送信。

『わかった、すぐ行く!』

 あとは……この子を!

 

「高町!」

 

――――――は!?

 

「八代さん、どうして……!?」

 何で……!? ちゃんと、置いてきた筈なのに!!

「あんな逃げ方したら、『何かあります』って隠してるのバレバレよ! その子、けがでもしてるの!?」

 ズボンが汚れるのも構わず、膝を地面につき、倒れた少女の状態を確認する。

「目立った外傷は無し。脈はあるけど……体温が低い」

 妙に慣れた手つきで、てきぱきと各部をチェックしていく。

 ハッと気付き、八代さんの肩を掴む。

「駄目……! 八代さんは、『こっち』に関わったら……!」

 …………また、何かに巻き込まれてしまう!

 

「今は、そんな事情は後回し!」

 

 でも、八代さんは逆に私を叱り付けた。

「近くに病院……は、無いか。……高町、ケータイ持ってる?」

「あ、ご、ごめんなさい……家に」

 財布以外、持ってくるのを忘れてしまった。

「で、でも、人呼んだから……!」

 

――……ダンッ!!

 

「なのはッ!!」

飛行してショートカットしてきたのだろう。秀人さんが、唐突に目の前に着地した。

「うぉあッ!? そ、空から人が……!?」

 ……しまった、見られた!

「高町……今、その人……?」

 ああ、どうしよう、どうしよう……

 

「……ああ、もういいや! 両方とも来い!」

 

 秀人さんは秀人さんで焦っていたらしい。

 紅髪の少女と、私と…………何故か八代さんを抱えて……えええええええっ!?

「行くぞ!」

 

――飛行魔法を、行使した!!

 

 途端、すっ飛んで行く風景!

「え、えええええええええええええええええっ!?」

 八代さんは、混乱の極みだ。

 

「ごめん、後でちゃんと、説明するからあああああああああああ………………!!」

「意味わかんないいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい………………!!」

 

声に掛かるドップラー効果を聞きながら、私達は、住宅街の上空を飛び続けた。

 

 

 

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