魔法少女リリカルなのはties 作:ハルハルharuharu
数分間の空の旅は、あっという間に終着した。
ばんっ! と秀人さんがドアを開ける。
「ユーノ! アルフ! ちょっと手ェ貸せ!!」
保護した女の子を小脇に抱え、室内に飛び込んだ。
ユーノくんとアルフは、治療魔法を使うことができる。とりあえず、アースラ医療班に連絡するまでの応急処置はできるだろう。
さて、こっちは……
「八代さん、大丈夫?」
「ぜー、ぜー……!! 全然、大丈夫じゃないわよ……! お、おえ……!」
全力で飛ばしたとはいえ、たったの数分……本気の空戦訓練に比べたら朝飯前……じゃなくて、昼飯前だ。
……でも、風を切り裂いて飛ぶ感覚を知らない八代さんは、疲労困憊だった。
「……ちゃ、ちゃんと、説明……ゲホッ!! しなさいよ……!?」
「あ……」
そうだなぁ……ノリで連れて来ちゃったけど、面倒くさい。
いっそのこと、抱えたまま空戦機動に持ち込んで、意識をブラックアウトさせてしまう手もあるよね……って、駄目だ。飛ぶだけの魔力が無い。
「高町っ! 黙ってないで……」
説明するか、すっとぼけるかの二択。
「やだ」
後者に決定。
「んがっ……!! さっき、説明するって言ったじゃない! こんな……」
さっきは情にほだされて、あやうく口を滑らせるところだった。
「気が変わったの。お願いだから、もう帰ってよ……」
……何で、わかってくれないんだろう。
「私は、」
ひくっ……と、のどが詰まるような錯覚を覚える。
……これから言おうとしているのは、八代さんの気持ちを、踏み躙る言葉。こんな私を、『友達』と言ってくれた彼女の気持ちを傷つける、最低の行為。
でも……でも……八代さんの身の安全には、代えられない。
私一人が嫌われる程度の代償で、彼女が平穏無事に暮らせるなら……安いものだ。
「私は、あなたみたいな人……!」
ばくばくと、罪悪感に早鐘を打つ心臓を押さえつけ、決定的な一言を……!!
「なのは、どこ行ってたんだよー!?」
さっき秀人さんが駆け込んだドアが、内側から、どばん! と開いた。
「起きたのに隣にいないから、ボク……」
と、その目が私の隣にいた八代さんに向き……
「……………………ひッ!!!」
――ばんっ!!
……ドアの向こうに、引っ込んだ。
「………………え、ええと……? ごめん、よく聞こえなかったんだけど……」
「……………………なんでもない」
コレは……フェイトに助けられた、と考えてもいいのだろうか。
……冷静に考えたら、事情も話さず納得しろ、というのも理不尽かもしれない。
「八代さん」
口調を正し、告げる。
「あなたには、ちゃんと事情を説明する。信じて……とは言えないけど、最後まで、ちゃんと聞いてくれる……?」
八代さんは、私の本気を悟ったのか、重々しく頷いた。
「……わかった」
そして、私は彼女を家に招き入れた。
「お邪魔します」
八代さんは躊躇無く、私達の家に足を踏み入れる。これで、八畳一間に合計七人…………パンク寸前だ。
診察を受ける少女を見ていた秀人さんが、私達を振り返った。
「おお、さっきの子。悪かったな、つい勢いで……」
困ったときの癖……頭を掻いて、ぺこりと軽く頭を下げた。
「あ、いえ…………」
八代さんも、毒気を抜かれたように軽く応じた。
その、秀人さんの背中から。
じーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ……と、顔半分だけを出して、八代さんを伺う赤い瞳があった。言わずもがな、フェイトだ。
「あなた、さっきの………………この家に住んでるの?」
八代さんが声をかける。すると、ぱっと秀人さんの背中に隠れてしまう。
「え……?」
困惑し、言葉が途切れる。
また、フェイトが顔を出して、じーーーーーーーーーーーーっと八代さんを観察し出す。
「あー……気にしないでやってくれ」
秀人さんが、フェイトの頭をぼすぼすと乱暴に撫でる。
「あの、あの子は……?」
「さっきからアルフとユーノが…………っていうかフェイト、ちょっと離れてくれ。歩きにくいっつーの」
「……………………やだ」
「ったく……人見知りは良くないぞ?」
コバンザメのようにくっつくフェイトに苦笑しながら、八代さんを招く。
例の女の子は、ベッドの上に寝かされていた。
アルフが体の状態を調べ、ユーノくんが細かな外傷を塞いでいく。
「どんな状態だ?」
ユーノくんとアルフは、なんとも言えない顔で振り向き……
「 「 ……はぁ 」 」
と、ため息をついた。
「お、おい……? 何だ? ちゃんと説明してくれよ」
二人で顔を見合わせ、ユーノくんが頷いた。そして、病状を告げる。
「……空腹による貧血」
「…………………………………………………………はい?」
秀人さんも私も八代さんも、きっと同じような表情を浮かべていたことだろう。
「単に、ハラが減ってただけ……?」
「は、ははは……何それ……」
べしゃっ、と思わずへたり込んでしまった。
全く、人騒がせな…………でも、大事にならなくてよかった。
そうと決まれば……
「…………よっし! ご飯作ろうか!」
遠回りしちゃったけど、結局必要なのは食事だ。
「高町、これ……」
と、八代さんが手に持っていたビニール袋を差し出してきた。あー……そういえば、置きっ放しにしてきちゃったんだ。それを、わざわざ拾ってきてくれていたらしい。
「ありがと」
多めに買っておいたから、冷蔵庫の中身も総動員すればたっぷり作れそうだ。
包丁とまな板を準備して、野菜を水洗いして、準備完了。
「なのは、手伝うよ」
と、コバンザメを引っぺがしてきた秀人さんが、腕まくりをして台所にやってきた。
「フェイトは?」
「置いてきた」
くいっと指差した先では……
「……………………」
漫画を広げ顔を隠し、コミュニケーションを完全拒否したフェイトと。
「私、八代望っていうの。高町のクラスメイトで…………」
懸命にコミュニケーションを図る八代さん。
「…………」
フェイトは、頑なに目を合わせようとしない。
まぁ、育ってきた環境が環境で、まともに他人と接したことが無いから、仕方ないのかも……。
「ごめん八代さん、その子、人見知りが激しくて…………フェイト、返事くらいしてあげなさい!」
「……………………ううぅ」
助けを求めるように、アルフを見つめる。が、アルフはユーノくんと共に、少女の看病に掛かりきりで、救援は望めない。
「…………これ読んでるから無理」
結局また、漫画本を取り出してしまう。
「あ、それ……仮面ライダーSPIRITS?」
ぴくん、とフェイトが反応した。
「…………うん」
おお……フェイトが返事をした。
「私の幼馴染がそういう漫画たくさん持ってて、よく読むんだけど……」
「…………何巻?」
漫画本で顔を隠したまま、ぼそっと聞いた。
「え?」
「何巻、が、好き……?」
顔を隠しているのは変わりないが、目はしっかりと八代さんを見つめていた。
…………大丈夫、かな。
「……はぁ」
でも、何だか寂しい気もする……。
「大丈夫」
ぽん、と秀人さんの手が、私の頭を軽く撫でた。
「…………」
無言で、人差し指を口の前に立てる。
「へぇ……あなた、高町の友達なんだ」
「うん。なのはは、ボクの初めてのともだち」
「どういう理由で知り合ったの?」
「おかーさんに言われて探し物してたら、なのはも同じもの探してて」
「へぇ……それで?」
「ぶっとばしたら、ぶっとばされた」
「……………………………………」
「……でも、今は一番の友達なんだ」
「…………」
……一番。
「フェイトに、なのは以外に友達が出来たって、なのはが一番だよ」
「……うん!」
照れくさくもあるけど……それ以上に、嬉しい。
「……よし!」
包丁を手に、食材を刻む。
フライパンに油を敷き、鍋と共に火を掛ける。
秀人さんのサポートが追いつかないくらいのスピードで、料理を仕上げていく。
うん……今日は記念日だ! 思いっきり豪華な昼食を、用意しよう!
そして、一時間後。
「できたぞー。机の上片付けろー」
台所を、シンクまで一杯にするほど大量の料理が埋め尽くしていた。
「ごはんだっ!!」
フェイトが、ぱっと顔を輝かせる。
隣では、八代さんがびっくりした様子でそれを見ていた。
「あ……」
我に返ったフェイトが、恥じ入るように俯いた。
「ユーノ、アルフ、その子はどうだ?」
「うん、血糖値も安定したから、そろそろ目を覚ますはずだよ」
「やれやれ…………ごめんよフェイト、お待たせ」
集中していた二人が、やや疲れた様子で立ち上がった。
「初めまして。僕はユーノ・スクライア。この家の同居人をやってるよ」
「アタシはアルフ。フェイトと遊んでくれてありがとうね…………ええと、ヤシロ?」
「はい、八代望です。初めまして」
自己紹介も済んだところで、食事の時間だ。
予備の座卓も引っ張り出して、料理を並べていく。
「う、う……?」
食事の匂いに釣られて、例の子がようやく目を覚ました。
髪の毛の紅色に反して、瞳は綺麗なブルー。
「おはよう。ご飯、食べるよね?」
「………………んー」
フラフラとした足取りで、ちゃぶ台の脇にちょこんと座る。
頭が半分くらい寝ている状態でも、しっかりとフォークを掴んでいる。
よし、それじゃあ……
「 「 「 「 「 「 いただきまーす! 」 」 」 」 」 」
作りたての料理が、次々に各人の胃に消えて行く。
「うわ……うまー! 何コレ何コレ! 拘置所のご飯よりずっとおいしい!!」
「こ、拘置所!?」
一番喜んでいるのは、やはりフェイトだ。フォークでハンバーグを、スパゲッティを、次々に口に詰め込む。ハンバーグが食べたいって言ってたの、覚えておいてよかった。
「これ……高町が作ったの?」
「うん。……そういえば、八代さんも料理するんだっけ?」
以前、葉山君にお弁当を作っていた気がする。
「…………負けたわ。でも、どうしてこんなに上手なの?」
「訳あって、二年くらい自分で家事やってたから」
「……そっか」
それ以上は、聞いてこなかった。
見れば、例の子の持つフォークは、ちゃぶ台や皿の端っこをかつん、かつん、と突っつくだけで、全く料理を口に出来ていない。
「しゃーねーな、もう……」
秀人さんが、少女の手から取ったフォークでハンバーグを切り分け、女の子の口元に持って行く。女の子は、ふんふんと匂いを嗅ぐや否や、ぱくっと食いついた。
「…………はぐっ」
もぐもぐ、ごくん。
二口目、三口目と続け……
「…………んぁ?」
ここにきて、ようやく完全に目が覚めたらしい。
吊り目気味のブルーの瞳が、秀人さんの顔を間近で捉えた。
「よっ。おはよう」
爽やかに挨拶する秀人さん。フォークを返却して、自分の食事に戻る。
その秀人さんの顔を、じーっと、じーーーーーーーーっと、無言無表情で見つめ、そして……
「あぎゃああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!?」
「うおおぉぉッ!?」
思わず秀人さんが仰け反るほどの悲鳴を上げた!
――どんどん!!
――がんっ!
――どすんっ!
二回三回とでんぐり返しを繰り返し、ようやく安定。
「お、おま、おまえはッ!!」
女の子は、フォーク片手にワナワナと震え、秀人さんを睨みつけた。
「……悪い、何かしたっけ?」
「ざけんなっ! 忘れたとは言わせねぇぞっ!!」
が、ガラ悪ッ!!
「いや……マジで身に覚えが無いんだが……」
困惑する秀人さんに、今にも飛び掛って行きそうな剣幕。
アルフとユーノくんが、僅かに身構える。
「え? え?」
緊迫した空気に、八代さんが戸惑ったように左右を見渡す。
「……!」
女の子が、フォークを逆手に構え……
――ぐぎゅ~……
……腹から、盛大なコーラスが鳴った。
「 「 「 「 「 ………… 」 」 」 」 」
暴れだしたら拘束しようと身構えていたユーノくんとアルフ。状況についていけず、固まっていた八代さん。フライドチキンに手を伸ばしていたフェイト。全員が、どう反応すればいいやらわからず、固まった。
「な、何だよ!? 何が言いたいんだよ!? ……腹が減ってて悪いかチクショー!!」
何も言っていないのに、勝手に逆ギレして涙目になっていた。
確かに、これは恥ずかしい。
「あー、おなかへってるとイライラするんだよねー。 ……たべる?」
フェイトが、フライドポテトを載せた皿を差し出した。
少女は同じようにフェイトを睨むが、
「おいしいよ?」
にへら、という言葉がぴったりの、締まりの無い笑みを見せられ……
「…………………………………………食べる」
すっかり、気勢を削がれてしまった。
どすん、と乱暴に腰を下ろし、ガツガツと料理を平らげていく。
やはり、空腹には勝てないか。
どういう理由かは分からないけど、とにかくこの子は、秀人さんに並々ならぬ敵意を抱いているらしい。それがどうしてなのか、ちゃんと聞き出さないと。
「あ、ちょっと待て! そのソーセージ、ボクがマークしてたんだぞ!」
「ふん、知るか! 取られるのが嫌だったら、口の中に入れておけ!」
「このっ……! そりゃ」
「ぬあぁ!! てめぇ! その肉はアタシが……!」
「もぐもぐもぐ…………へへーん、口の中に入れちゃったもんねー!」
「このやろー!」
……食後にね。
「 「 「 「 「 「 ごちそうさまでした! 」 」 」 」 」 」
「……でした」
六人+αの挨拶に、ふて腐れたような小声が追従する。
さーて、洗い物するかー…………じゃなくて!
「高町……説明」
何やら怖い顔で、とんとん、とちゃぶ台を叩く八代さん。
「……洗い物、やっておくから」
ユーノくんが、入れ替わるように台所に入って行った。
「……でもさ、何でウチに来る気になったの?」
学校に行けば、教室で会えるのに。
「さっちゃん先生が、『高町さん、多分一週間くらい学校サボるから』って」
「…………」
……厄介なことに、着々と成長しているらしかった。
「それで、『いい機会だから』って、プリント持たされたの」
大きなお世話……本当に。
「ねぇ、教えて……? 何で高町は、私と絶交したの」
でも、約束は約束だ。
「秀人さん……」
「ああ。あの高台でいいな?」
「うん」
ここじゃなくて……いつも、魔法の練習に使っている、あの高台で話そう。
「あの……もしかして、また……?」
「うん。飛んでいく」
ひくっ、と顔が引きつった。
「どうする? やめる? それでもいいけど」
「……上等! ドンと来なさい!」
開き直った人間は、意外と動じないものだ。
本日二回目となる飛行に、八代さんは悲鳴一つ上げずに耐え切った。
……唇が紫色だけど。
秀人さんは、軽く人払いの結界を展開して、歩いていってしまった。
私の好きなように……そういうことだろう。
「あのね…………――」
――そして、話せる限りのことを話した。
――ユーノくん、秀人さんとの出会い。
――魔法の力。
――ジュエルシードの力と、それがもたらした結果。
「あの地震……私が……?」
無言で頷き、肯定。
「…………もう、あんな危険な目に遭わせるわけにはいかない」
だから遠ざけたのだと、告げた。
魔法の力は、災厄を呼び寄せてしまうものだと。
「………………じゃないわよ」
俯いていた八代さんが、ぼそりと呟いた。
「……そういうことだから。もう私に、」
関わらないで。
そう言おうとした瞬間、伸びてきた手が、私の胸倉を思いっきり掴み、引き寄せた。
「ふざけんじゃないわよ!!」
「…………え?」
目をぱちくりさせて、目の前いっぱいに広がる八代さんの顔を見つめる。
「魔法だとか、災厄だとか言って…………! 私の気持ちなんて、欠片も考えてないじゃない!」
「……違う!」
聞き捨てのならない言葉に、私の頭に血が上った。
「ちゃんとあなたのことを、考えた結果だ!!」
八代さんの胸倉を掴む。
「あなたには、もう傷ついて欲しくないから……だから……!」
「それが、考えてないって言ってんのよ!」
もう、完全に頭に血が上って、冷静な言葉が出てこない。
がくがくと互いを揺さぶり、思いの丈をぶつけあう。
「私にさえ関わらなかったら、あなたはジュエルシードに取り込まれずに済んだんだ!」
「だからって、どうして絶交になるのよ! もう、終わったことじゃない!」
「私の近くにいたら、また巻き込まれるかもしれないからだよ!!」
「そんな確証の無い考えで、私を避けてたっていうの……!?」
「そうだよ! なのに、何でまた私に近づいてきたのよ! クラスで孤立していた私に対するお情け!? 馬鹿にすんな!!」
どんっ、と八代さんを突き飛ばす。
尻餅をついた八代さんは、すぐに立ち上がり……私に掴みかかってきた。
「私は……お情けとか、関係無しに!!」
ぐるんっ、と視界がひっくり返る。
地面に背中がぶつかり、一瞬だけ息が詰まる。
見上げた先……空を背景に、八代さんの顔がアップで映った。
「高町と、友達になりたかったの!!」
……………………一瞬、思考が固まった。
「……最初は、いつも無愛想で、お高くとまってる嫌な奴だと思ってた。
付き合い悪いし、サボり魔だし、根暗だし……でも、気付いたら目で追ってた。『いつも、何の本読んでるんだろう』『どんな性格の人なのかな』…………『お話、したいなぁ』って。
授業参観の日、初めて自分から話しかけて……内心、すごくドキドキしてたんだよ?」
……思えば、悪意以外で、意識して築いていた壁を乗り越えて、声を掛けてきてくれたのは……八代さんが初めてだった。不躾で無神経だったけど……確かに、私の心に触れた。
「一緒に、肝試ししたよね。夜に学校に忍び込んで……本物のお化けが出ちゃって、大変だった」
ジュエルシードの捜索の際、運悪く二人が巻き込まれてしまった。でも、翌日にはけろっとした顔で、『おはよう』って言ってくれたっけ。
「健太のサッカーの試合、応援しに行ったよね。高町、柄にも無く熱心に応援して」
「でも…………その帰りに」
「…………うん、少しだけど、覚えてる」
あの日。葉山君の気持ちを知ってしまった……いや、前から薄々感づいていたんだろうけど、目の前で聞いてしまった八代さんは、ジュエルシードを発動してしまった。
「あの時は、高町を許せないって気持ちが一杯になって……人をたくさん巻き込んじゃった」
「…………」
「確かに、高町の言うこともわかるよ。二度も、ジュエルシードっていう危険物の騒動に巻き込まれたんだから」
でも、と前置きして、私の手を引っ張って立ち上がらせ、言った。
「絶交したまま途切れるなんて…………そんなの、絶対に哀しいよ」
ぱきん、と、頑なに我を押し込めていた堰に、罅が入った。
「さっき、私の気持ちのことしか話さなかったけど………………高町は、どうなの?」
「どう…………って?」
ひび割れは、堰をあっという間に侵食し、結界寸前にまで追い込む。
「……私のこと、嫌い?」
こんなにも一生懸命に、気持ちを伝えてくれている。
それが、照れくさくて……胸の奥がぽかぽかして……嬉しい。
「……そんなこと、無い」
――堰は、完全に決壊した。
鉄砲水のように、押し込めていた感情があふれ出してくる。
「わ、私は、八代さんと仲良くなりたい。
いつかまた絶交することになるかもしれない、けど、喧嘩別れするかもしれない、けど…………私は、」
緊張で、言葉にどもりが出てしまう。
「あなたの、友達になりたい」
――それが、私の本心だった。
「つまらないことで、喧嘩になるかもしれない」
「何度でも、仲直りすればいい!」
「学校を休んで、会えない日が続くかもしれない」
「だったら、私から会いに行く!」
一陣の風のように、私の不安を悉く吹き飛ばす。
「それでも望は、私の友達でいてくれる……?」
望は、一瞬だけ驚いたような顔をして……いっそう強く、手を握った。
「あったり前でしょ、なのは!」
………………深かった溝が、すれ違っていた気持ちが……ようやく、結びついた。