魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第十九話

 

 なのはと望を置いて、家に戻ってきた俺を出迎えたのは、緊迫感だった。

 

 それを発しているのは……というか、他に誰がいようか。

「…………! てめぇ……」

 拾ってきた、紅髪だ。

 普通にしていれば可愛いつり目も、今や単に刺々しいプレッシャーを放つだけ。

「よっ。ただいま」

 まぁ、相手は子供だし……理由を聞き出すまでは、余計な刺激を与えないようにするか。

 

――パンッ!!

 

「お」

 意外なほどに熟練した身のこなしで、俺の顔面を殴ろうしてきた。

 ただ、それがあまりにも真正面からの攻撃だったのと、事前に警戒していたということもあって、平手で受けることができた。

「よいしょっと」

 

――ドンッ!

 

 背中から、床に投げ落とす。

「うあっ!?」

 そのまま関節を固め、怪我をしないように軽く押さえつけた。

「ストップだ」

「……」

 真っ先に懐のバルディッシュに手を伸ばそうとしていたフェイトを、空いた手で制する。

 ユーノとアルフも、それに倣って手出しをしなかった。

「……くそっ!」

 組み敷かれた紅髪が、汚く毒づいた。

「無茶するなよ。また倒れるぞ」

 もう俺が倒しちゃったけど……などと、冗談を交えて呟いてみる。

「上等だテメェ! 二分でブッ潰してやる!!」

が、ぎゃいぎゃい騒ぐだけで、実行には移せそうになかった。

 今はこうして制圧できたとしても、魔力が回復してしまったら、それも難しいだろう。

「……ねぇ、」

 ……フェイトが、紅髪の目の前にしゃがみ、視線を合わせた。

「あのね、ひでとには、キミをいじめようとか、そういうつもりは無いんだよ。もちろん、ボクだってね?」

 穏やかな言葉。

 一言一言を言い含めるような……それでいて、氷のような意思を込めた口調。

 フェイトがこうして、流暢に言葉を出せる相手は、二種類だ。

まずは、なのは、アルフのような、心を許した相手。

そして二つ目は…………フェイトが、『敵』と認識した相手だ。

 さっきの行動で、この紅髪は後者に認識されてしまったらしい。

「でも、キミが何の理由も無く、ひでとを傷つけるっていうなら…………」

 つぅ……と、フェイトの手が、紅髪の首筋をなぞり……

 

――――ころすよ?

 

 ……と、極めて不穏な口調と表情で、告げた。

俺は……

「こら!」

 ごっちん! と、割と本気で拳骨を落とした。

「いったぁ!?」

 途端、フェイトの纏っていた冷酷な気配が霧散した。

「女の子がそんな汚い言葉を使うな!」

「だって……! だってこの子が……!」

 涙目で、あせあせと弁明する。

 全く……本当はちゃんと分かってるくせに、気持ちが暴走して口走ってしまうんだから。

「すまん、気を悪くしないでやってくれ。口はちょっと悪いけど、根は良い子だから」

 空いた手で、フェイトの頭を下げさせる。

「ぎゅっ……! ひ、ひでとぉ……!」

「ちゃんと謝りなさい」

 フェイトは、頭を押し潰されながら、同じく目の前に這い蹲る紅髪を恨めしそうににらみつけた。

「放してぇ……! そいつ、ころせないいぃ……!!」

「まだ言うか」

 むぎゅぅううううううううううううううううっ…………!

「めり込むめり込む! っていうかもう額がタタミに埋まりかけてるってばー!」

 ぴーぴー泣き言を言うフェイト。

「秀人……あんまりフェイトを怒らないでやってくれよぅ……かわいそうだよ……」

 俺の手を、アルフがちょこんと摘まんで懇願してきた。

「こういう時にしっかり言っておかないと、定着しちまうだろ。お前はフェイトを甘やかしすぎだ」

 聞けば、保護した当初は虫歯だらけだったらしいじゃないか。自分で歯磨きもさせないだなんて、過保護が過ぎる。

 まぁその後、延々と続いた虫歯治療で泣きを見たのか、今ではしっかりと歯磨きをするようになったそうだ。

 言えば分かる子なんだから、言ってあげるのが本当のやさしさ……だと思うぞ、俺は。

「ご、ごめんなさいいいいいいっ!!」

 フェイトはようやく謝った。

 ぴょんっ、と飛びのき、アルフの背中に隠れる。

 

 俺は、すっかりおとなしくなった紅髪を解放した。

(ユーノ、手出し無用で頼む。あと……)

(ああ、クロノに中継しておくよ)

 さすがにユーノは察しが良い。

 魔力を持った、異世界からの漂流者。一応は俺も管理局員の端くれだけど、こういうイレギュラーはクロノの仕事だ。

 この場に更に人が増えたら、逆に言い辛くなってしまうだろうから、通信で状況を報せることにする。

(秀人。もどき。僕だ)

(とうとうフェレットでさえなくなったな!?)

 ユーノが素でツッコみを返した。

(……では、聴取に関しては秀人に一任しよう)

(スルーすんな!!)

(おいユーノ、大事な話してるんだから騒がないでくれよ)

(え、これ僕が悪いの……? なにそれ理不尽……)

「……」

 紅髪は、ただ黙って俺たち……じゃなくて、俺の顔を睨み続けている。

「……」

 だんまりを決め込んだまま、一言も発しない。

 いきなり情報を晒したりはしないか。なら、まずは……

 

「お前、俺の記憶にも残らないほど弱かったんじゃないのか?」

 

 とりあえず、何でも良いから揺さぶりをかけてみよう。

「あァ!?」

 ちゃりっ……!

 効果は、劇的だった。

 紅髪は、ワンピースのポケットから十字架……みたいな、変わったアクセサリーを取り出した。

 っていうか、ソレ、まさか……!

「……起動!」

『An……fan……g……』

 濁った電子音声と共に、十字架(?)が赤く輝く!

「!」

 やっぱり、デバイス!

 

 身構える俺たち。だが……?

「……あ?」

 魔力光は、すぐに電池切れを起こしてしまったかのように弱弱しくなり……消えた。

「あ……!? き、起動! 起動!」

『……』

 ……駄目っぽかった。

 多分、起動に必要な分の魔力が足りていないんだろう。

「起動しろってんだろこのポンコツううううううううううう!!」

 癇癪を起こして、ぶんぶんと十字架っぽいデバイスのチェーン振り回す紅髪。

「そりゃー」

 その手から、フェイトがデバイスを掠め取った。

「あっ……! 返せテメェ!」

「やーだよー」

 ひょいひょい、と持ち前の素早さで回避する。

「返せー!」

「ひでと、パス」

「おう」

 放り投げられたデバイスをキャッチ。

「うがー! 返しやがれー!!」

「はいはい、ちょっと待ってろ」

 突っかかってくる紅髪の頭を掴み、押し留めながらデバイスを観察する。

 十字架かと思っていたけど、実際にはちょっと違うみたいだ。

 なんというか……剣玉みたいな……まぁいい。試しに、起動してみるか。

 何でかは知らんが、プロテクトが外れているみたいだ。

 セットアップ……じゃなくて。

 

「起動」

 

 で、合ってるよな?

 

――ギンッ!!

 

 正解だったみたいだ。待機状態だったデバイスが発光して、戦闘形態に変形する。

「………………え?」

 手に感じる、ずっしりとした重み。

 その形状は……長い柄と、先端に装着された……ハンマーヘッド。

(ちょ……秀人、それ!)

(えー……)

 見覚え……どころじゃない。

 その機能も、破壊力も……この身をもって体験している。

 それを持っているということは、この少女は……

「おい……おいおいおい……マジかよ」

 思わず、目の前にいる少女を凝視する。

 フェイトの肩までしかないような、小さな身体。

 確かに、あいつもこのくらいの背丈だった。

「お前……あの時の……」

 それに、コイツの髪。着込んでいた鎧と、殆ど同じ色。

 オマケとばかりに、俺に恨みを持っているとすれば……

「……ふん、やっと思い出しやがったか」

 目の前で傲然と腕を組む……ただし、相変わらず頭を俺に掴まれたままでいる……この少女は。

「チビ騎士?」

 

「誰がチビだっ!!」

 

ぷすん、と。

 残りカスみたいな魔力が、溶けて消えた。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 望と手を繋ぎながら、家路に着く。

 反対方向なのだから、途中で分かれてもいいんだけど……何となく、望を家まで送って行くことにした。

「……そっか、お父さんが」

「うん。だから、母さん達がちょっと忙しくなっちゃって」

 道中、色々な話をした。

 不幸自慢は大きらいだけど、望にはサクっと話せた。

 アリサ、すずかにも話せたし…………私の性格みたいなものだろうか?

 とはいっても、変な負担を強いないように、極力軽く。

「ちょっと脳波が弱いだけで、身体は健康そのもの……なんだって」

 別に、私が自分で確かめたわけじゃない。

 あくまで、母さん達からの受け売りだ。

「え……お見舞いとかは?」

「…………そういえば、あんまり行ってないかも」

 ……一時期。ほんの一時期だけど、私は父さんに恨みを抱いていたことがあった。

 

――父さんさえ、倒れなかったら。

 

 一過性のものだったけど、そのあまりにも自分勝手な考えが後ろめたくて……足が遠のいてしまっていた。

 最後にお見舞いに行ったのは、いつだったか。

 

「行かなきゃ駄目だよ」

 

 望が、真剣な表情で言った。

「意識が無くったって……全部じゃないかもしれないけど、言葉は聞こえてることだって、あるんだよ」

 …………

「なのに、何も言ってあげなかったら……お父さん、きっと寂しいよ」

「そう……なのかな?」

 そんなの、フィクションの世界だけだと思うんだけど……

「私のお父さん、医者だからたまに話してくれるけど……実際に、昏睡から回復した患者さんが、覚えてたっていう例もあるんだから」

「え……望のお父さん、お医者さんなんだ」

「うん。最近、勤め先の病院で何かあったらしくて、忙しそうだけど……って、それはいいから」

 ちっ…………うまく話が逸れたと思ったのに。

「ちゃんと、お見舞いに行くこと。わかった?」

「うん……そうする」

 父親の顔くらい見に行かなくちゃ、だよね。

「ありがと、望」

 

――すっ……

 

 と、もうすっかり慣れたことだけど、私達の真横に、音も無く黒塗りの自動車が停車した。

 窓が開き、派手な金髪がひょいっと身を乗り出した。

「ハーイ、なのは。奇遇ね」

「アリサ。一週間ぶり」

 そこで、アリサと望は、互いの存在に気がついた。

「初めまして、八代望です」

「ご丁寧にどうも。私はアリサ・バニングス」

 予想外の邂逅……でも、なかなか友好的だ。

 対人コミュニケーション能力が高い人って、得だよね…………うらやましい。

「……ところで、なのはとはどういう関係?」

 アリサがそう切り出して、望は若干、声を硬くして答えた。

「……『友達』、ですけど?」

「奇遇ね。私も、なのはの『友達』よ」

 バチィッ……! と、何故か火花が散ったように見えた。

 何だろう、あれ。

「……ああ、あなたが。さっき、なのはから聞きましたよ」

「へぇ……何て?」

「『前』の学校の、『元』クラスメイトさんですよね?」

 ビキッ……と、アリサの額にうっすらと青筋が浮いた。

「なのは、言ってたわよ?

『今の学校に、友達らしい友達はいない』って。何ヶ月か前に。……現クラスメイトのあなたはいつ、なのはと友達になったのかしら?」

「ついさっきですけど、何か?」

 にこり、とアリサが微笑む。

「ああ、それじゃあこれから、どんどん知らない一面が見えてきて面白いわよ? ……私は、とっくに知ってるけどね」

 望もまた、にっこりと綺麗な笑顔で返した。

「付き合い始めて数ヶ月って……ちょうど倦怠期が始まる頃ですよね?」

 バチバチバチッ……!

 仮想の火花が、一層激しくなった。

「ついさっき……って、言ってたわよね。どんな切っ掛けがあったのかしら? 

 ちなみに私は、交際を申し込んだら、快く受け入れてくれたけど」

 ふん、と、望が鼻で笑うような変な声を出した。

「さっき、言ってくれたんですよ。『望と友達になりたい』……って。自分から」

 ……ぶるっ。

 あれ? 何だか、寒い……もう夏なのに。

「うふふふふふふふふふ」

「あははははははははは」

 何でだろう。半袖じゃなくて、七部袖にしておけばよかったかなぁ。

「うふふふふふふふふふふふふふふ」

「あはははははははははははははは」

 二人は妙に平坦な笑い声で、愉快そうに笑っていた。

 うーん、よく分からないけど。

 

「二人とも、仲良くなれてよかったね」

 

 二人は、仲良くずっこけた。

「「あのねぇ!!」」

 わー息ぴったり。

「「…………」」

 二人は、気まずそうに顔を逸らした。

 アリサが、それを取り繕うように明るい声で、私に言う。

「なのは、今から私の家に来ない? 新作のRPGが入ったんだけど……お茶とお菓子でも食べながら、遊ぼうよ」

 タイトルは、ゲームに疎い私でも知っているような、大作RPGだった。

「あ、そのゲーム私も持ってる。なのは、私んち来ない? 今日、お父さんもお母さんもいないから」

 右からアリサが、左から望が、互いを押し合いながら、迫ってきた。

「なのは、お菓子好きよね? ウチのメイドも、あんたに会いたいって言ってたし」

「なのは、あんまり広い家じゃ落ち着かないし、人が多くて疲れるでしょ? 私の部屋で、二人水入らずで遊ぼうよ」

 んー……よくわからないけど。

「ゲームはアリサの家でみんなで遊んで、セーブデータを望のメモリーカードに残せば良いんじゃないかな?」

 そうすれば、また集まった時に遊べる。なかなかの名案だ。

 でも、二人はお気に召さなかったようだ。

 顔を見合わせ、ふうぅ~…………と、長いため息をつく。

 

「「……鈍感」」

 

 正直、心外だった。

 

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