魔法少女リリカルなのはties 作:ハルハルharuharu
「……にしても、よく生きてたな、お前」
周囲一帯ごと焦土と化したと思ったんだが……
「ざっけんな! マジで死に掛けたんだぞ!」
ころころと、よく表情の動く奴だ。本当に、プログラムなのかどうか疑いたくなる。
「それはお互い様。俺だって、お前に殺されかけたんだからな」
あの、魔法かどうかも怪しい不死鳥が発動されなければ、とっくに殺されていた。
「おかげで、相棒は今も入院中だ」
レイジングハートの修理は難航しているらしく、いっそフレームを新品に換装する、という案も出てきている。
「はっ……だから何だって言うんだよ」
ふてぶてしい。
完全に、没交渉だ。
それじゃあ、仕方ない……
「交渉役を、呼ぶからな」
あまり、脅迫じみた手は使いたくなかったが……。
「ふん、呼びたいだけ呼べば良い。あたしは、絶対に口を割らないからな!」
自信満々。
「……いいんだな?」
ずい……っと、顔を近づけて凄む。
「なにが……だよ」
意地でも引かず、ぎろっと睨み返された。
「もう一度、聞く。いいんだな?」
「呼びたきゃ呼べっつってんだろ!」
「よしわかった」
冥福を祈るような気持ちで、メールを送った。
にらみ合うこと、十分。
フェイトがあくびをしてアルフに窘められ、ユーノは緊張したまま。
そして。
――ガタガタガタガタガタ……バキッバキッ!!
ドアが、不穏な音を立てて、軋みだした。
って、おいおいまさか……
「な何だ誰だ敵襲か!?」
チビ騎士は懐に手をやり……ハッ、と、デバイスが俺の手にあることを思い出した。
ドアはいよいよ持って、耐久力を使い果たし……
――どかーん! と、吹っ飛んだ。
「守護騎士の現物サンプルはどこだあああああああああああああああああッ!!」
ドアを蹴破り、白衣姿の小柄な人影が踏み込んできた。
吹き飛んだドアがくるくると回転し、本棚に命中。中身を盛大にぶちまけた。
「……よう、マリー。早かったな」
「どこだぁ……!? サンプルはどこだぁぁ……!?」
ぎょろぎょろと部屋の中をサーチする、その狂気じみた迫力に、俺たちは……そいつを呼び出した俺ですら、完全に硬直していた。
……っていうか、メール出してからまだ十分も経ってないぞ……マリー。
さては、リンディさんかクロノを脅したな。
『おいクロノ、生きてるか』
『……ま、りー……! きん、しかんざい、は、やめろ、と、いった……だろう……』
ぷつんっ……と、念話(+クロノの命)が途切れた。
……注射一本でKOかよ。
『アイツも苦労が絶えないな……周囲が変人ばっかりで。なぁユーノ』
『その筆頭が言うなよ』
ん? 姿が見えないが、どこ行った……?
「…………きゅー」
いた。
ちゃぶ台の下へ、フェレットの姿で潜んでいた。
ピキーン、と、マリーがチビ騎士をロックオン。
「見ィつけたああああァァ…………!!」
「……ひィッ!」
守護騎士の見る影も無く狼狽し、内股で後ずさる。
その華奢な腕を、マリーが猛禽のような所作で捕獲する。
「さぁ来い! ひん剥いて、隅から隅までじっくりねっとり分析してやる! ふふふふふ……まさかの生きた標本! 与えたもうたモルモット、髪の毛一本まで美味しくしゃぶらせてもらおうか……!」
本気で舌なめずりまでするその姿、まさに捕食者。
または変質者。
「ひでと……なに、コレ」
「コレとか言うんじゃありません」
ひっし……と俺にしがみつくフェイトに至っては、人扱いしていない。
アルフが、耳をぺたんと伏せながら、フェイトの頭を撫でる。
「よしよし、大丈夫だよフェイト。アレは、こっちから手を出さなければ害は少ないからね……」
崇り神か。……まぁ、あながち間違ってもいない。
抵抗も空しく、ずり、ずり、と出口まで引きずられて行く守護騎士。
目に恐怖で涙が浮かび、助けを求めて左右に揺れる。
「た、すけて……!」
よほど、マリーが恐ろしいらしい。
……それでいいのか守護騎士。
「なのはとレイジングハートに謝るって約束するなら、助けてやってもいいぞ」
仕方ないから、助け舟だ。
俺が殺されかけた程度のことは、多目に見てやろう。
……なのはと、レイジングハートの分は、後でしっかりと侘びを入れさせるけどな。
「あ、あたしは悪くねー! 誰が謝るか!」
よし、もう止めない。
「マリー、持ってけ」
「解剖だ!! 歴史的解剖をしてやるぞ!! DNAの一片まで、調べ尽くしてやる!!」
「かい……!?」
猟奇的な単語に、臨界が近づく。
「さぁ……! 一緒に来てもらおうか……!」
そしてとうとう……
「いやああああああああああああああああっ!! ごめんなさいいいいいいいいいいいいいいっ!!」
……結果。泣き喚くチビ騎士から、四人がかりでなんとかマリーを引き剥がす頃には、皆ぐったりとしていた。
「どうだ、渾身の演技だっただろう」
マリーが、額の汗を拭うような仕草をして、相変わらずの無表情でそんなことをのたまった。
「 「 「 「 …………………… 」 」 」 」
四人が、異口同音にこう感じた。
『百パー本気だっただろ』、と。
「ぐすっ………」
チビ騎士は、返してやったデバイスをがっちり握り、部屋の隅に座り込んでいる。
倍増した警戒心は、マリー一人に向けられていた。
……結果として、俺たちへの警戒を解くことには成功したわけだが。
「ただいまー……って、何これぇ!? ドアが!!」
ばたばたばた、と、なのはが風通しの良くなった部屋に駆け込んできた。
「秀人さん秀人さん秀人さん! ドアが………………あれ?」
そして、部屋の中心に居座るマリーに気付いた。
「……どなた?」
「マリエル・アテンザ」
実に簡潔な回答だった。
「いや、そうじゃなくて」
「レイジングハートの修理を担当している」
「え!? あ、これは失礼を……」
相棒の主治医、と聞き、態度を軟化させる。
「そして、ドアを破壊したのは私だ」
「さらっとカミングアウトしないで下さい!」
「ついでに、本棚も中身ごと壊した」
「帰れ!」
飛び掛ろうとするなのはを、ユーノが羽交い絞めにして止めた。
「止めないでユーノくん! こいつのメガネ、ばっきばきに砕いてやらないと気が済まない!」
「まぁとにかく、」
マリーは悪びれもせず、部屋に居座った。
「ソイツを連れて行く、というのは本当だ」
「……!!」
ビクッ! と、チビ騎士が背後で強張るのをはっきりと感じつつ、マリーに言い募る。
「拘束の後に事情聴取、で済む話じゃないんだろ?」
「ああ」
まぁ隠すことも無いか、と、マリーは話してくれた。
「正直に言えば、守護騎士を構成する真性古代ベルカの術式と、アームドデバイスのデータが欲しい」
カートリッジシステム搭載デバイスはともかく、術式……?
そんなもの、一体何に使うっていうんだ?
「おまえ、本気か?」
マリーが、怪訝そうに俺を見る。
「お前の専用デバイスは、ベルカ式対応だと言っただろう?」
「聞いてねーよ!!」
初耳だぞ、そんなこと!
「……そうだったか? まぁ、とにかく必要なんだ」
「でも、なんでベルカ式? ミッド式じゃだめなのか?」
「駄目というわけではない。単に、ミッド式の魔法というのは、どうしても遠距離がメインになりがちで、近接先頭の術式は少ない」
確かに、そうかもしれない。インパクトは、そろそろ威力的に厳しい。ブレイズセイバーと、フラッシュムーブ、ソリッド……そのくらい。あとは、砲撃魔法を至近距離でぶっ放すくらいだ。
「そいつの構成術式の中には、失われた古代ベルカの魔法や、カートリッジシステムについての記述があるはずだ。それを解析し、使用可能にすれば、守護騎士とも互角に渡り合えるようになる」
それは、なかなかに魅力的な提案だった。
カートリッジシステムは自分で言い出したことだが、ベルカ式の魔法は考えたこともなかった。
「遠隔・広範囲に特化したミッド式と、近接・単騎に特化したベルカ式。どう考えたって、おまえはベルカ式の方が馴染む」
だが、話を聞いていたなのはは、難色を示した。
「そんな、敵と同じ力なんて……」
抵抗が無いわけじゃない。それでも、これから先、強力な敵を相手にすることを考えたら、使えるものは何でも使っていかなければならない。
……今度こそ、なのはを……レイジングハートを、守るためにも。
「なのは」
意外にも、それを諌めたのはフェイトだった。
「力は、どこまでいってもただの『力』で、それを活かすか、ころすかは、使う人の気持ち次第なんだよ」
それは、以前俺がフェイトに伝えた言葉だった。
ちゃんと覚えててくれたのか。
「ひでとは、力の使い方を間違えるようなひと?」
「………………違う、けど」
「なら、いいんじゃないかな?」
「………………………………」
じっと、考え込むなのは。
理屈では分かっていても、感情は割り切れないらしい。
「それにさー!」
ぱっ、と、フェイトが口調がいきなり軽くした。
「『敵と同質の力で戦う』って、ライダーみたいでちょーカッコいいじゃん!」
「ぷっ……!」
なのはも、思わず吹いてしまっていた。
「そうだよね……ありがと、フェイト」
よしよし、とフェイトの頭を撫でる。
「ごめん、秀人さん」
「いや、気にしないでいい」
壁際のチビ騎士に、歩み寄る。
チビ騎士は、一瞬ビクッと強張ったものの、襲い掛かっては来なかった。
「……何だよ」
「聞いての通りだ。お前の身柄は、時空管理局が預かる」
「…………ああ、もう好きにしろよ」
既に、諦めているらしい。
でも、このまま引き渡したとしたら……待っているのは、尋問だけだ。
「その前に、一つ聞かせろ。リンカーコアの蒐集、あれは、やりたくてやっていた事か?」
それが、聞きたかった。
俺は最初、守護騎士達は、自ら進んで蒐集を行っているのだと思っていた。
だけど、こうして接して、言葉を交わしてみて……疑念を感じた。
確かに、蒐集を行っているのはこいつらだ。それは間違いない。けど……それを、主が無理矢理やらせているのだとしたら、話は別だ。
「どうなんだ?」
「……アタシは、闇の書の守護騎士だ。主の願いを叶えるのが、アタシ達の存在意義。
殺せと言われたら……女子供でも、殺してきた」
「…………」
「でも」
持ち上がった視線が、俺とぶつかる。
「アタシ達は、殺したくて殺したことなんて、一度も無い」
そこには、確かな意思と……誇りがあった。
「そうじゃなきゃ…………誰が…………」
俯き、肩を震わせる。
その姿は、冷酷な敵でも、残忍な殺人者でも無く…………ただの、哀れな子供だった。
「よし…………わかった!」
ぱんっ、と膝を叩き、立ち上がる。
「なんか、すっごいデジャブを感じるよ…………」
「うん……もう馴れたけど」
なのはとユーノが、顔を見合わせて生暖かい笑みを浮かべていた。
「? ねーねー、なんの話?」
「フェイト、いいから……」
アルフにやんわりと止められるフェイト。
「……リンディさんから聞いていた通り、か……」
成り行きを傍観するマリエル。
「お前、ウチに来ればいい!」