魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第二十一話

 

 鉄鎚の騎士は、困惑していた。

「ウチに来いって……本気か?」

「ああ、マジだ。お前さえ良ければ……だけどな」

 今、自分を抱き上げているのは…………

「アタシはお前を、殺そうとしたんだぞ」

 そう。操られていたとはいえ、自分が死の寸前にまで追い込んだ、一般人の少年だ。

 恨まれて当然……いや、確かに恨まれてはいる。だが、それにしては軽すぎる。

「ああ……俺はいいよ、別に」

 何だろう、この少年は。自分の命というものを、あまりに無造作に扱っている。

 

「どうせ、放っておけば治るし」

 

 不貞腐れているわけでも、自暴自棄になっているわけでもない。

 ただ単に、自分というものに、少しも頓着していない。

「また、そういうこと言う……!」

 傍らで、栗毛の少女が眉を吊り上げ、少年を睨んでいた。

「…………ひでと、」

 金髪の少女が、悲しげに少年を見つめる。

「で、どうする?」

 意図的にそれを聞き流し、鉄鎚の騎士に聞いてくる。

「待て」

 成り行きを傍観していたマリーが、口を挟む。

「それは、お前の一存で決定できることではない」

 少年は、そこまで高い立場にいるわけでは無い様だった。

「何より、私はそいつのデータを持って帰りたいんだ」

 ……珍しい研究素材を逃がしたくない、という一心だろうが。

 面倒くさそうにマリーを見やり、ため息をつく。

「わかった。データがあればいいんだな」

 くるっと鉄鎚の騎士を振り返ったのと同時、少年の魔力が発動した。

 足元に、ミッド式魔法陣が展開。

 身体の周囲の魔力が、一本のラインとなり、そして……

「ちょっとくすぐったいぞ」

「え……?」

 

――バシュッ!

 

「うあっ!?」

 鉄鎚の騎士の身体に、突き刺さった。

「……!!」

 目を瞑り、やってくるであろう痛みを覚悟し……

「……?」

 が、痛みは無い。むしろ……

「魔力が……回復した?」

 干からびていたリンカーコアに、魔力が補充されていた。

「ほう……これが、例の」

 白衣の女は、それはそれで興味深そうに観察していた。

「マリー、それこっちに渡せ。あと、お前のストレージも」

 少年が、白衣の女に言った。

「……チッ」

 舌打ちを一つ、懐へ仕舞おうとしていたハンマー状のデバイスと、カード状の機器を差し出す。

「油断も隙もねーな、お前は……」

 両手にデバイスを持ち、それにもラインを繋げる。

 魔力のラインが、鉄鎚の騎士と二機のデバイスを、少年を中継するようにして繋がる。

そして次の瞬間、見えない手で、身体をまさぐられているような感覚が走った。

「ひゃんッ!?」

 鉄鎚の騎士は、意外と可愛らしい悲鳴を上げた。

「ちょっと我慢な」

「ちょっとって……ひゃうっ! ど、どれくらい……!?」 

「んーっと」

 腕を組み、焦らすようにゆっくりと、時間を算出する。

「五分くらい、いってみようか?」

「ふ、ふざけんな…………ひゃああぁっ!?」

 

 そして、きっかり五分後。

 

ぷつん……とラインが途切れるのと同時、奇妙な感触は消え去った。

「はひー……はひー……!」

 息も絶え絶えにぐったりとする。

「よーし、これで許してやろう」

 ……いっそ、一発殴ってくれたほうがマシに思える制裁だった。

 

「マリー、これでいいな」

 差し出されたのは、カード状の機器のみ。

「……確かに」

 口惜しそうに、ハンマー型デバイスに目を遣りながら、返された機器を操作する。

「おい、何だったんだ、今の……?」

 何故か魔力が回復して……全身がむずがゆくなった、

 

「お前のデバイスとリンカーコアのプログラムを、丸ごとコピーしてマリーのデバイスに記録した」

「…………はぁ!?」

 さらっと告げられた衝撃の真実に、素っ頓狂な声を上げる。

「でもやっぱり、ベルカ式ってのは難しいな。何が何やら、さっぱりわからなかったから、丸ごとコピーする羽目になっちまった」

「いやいやいや、そうじゃなくて!」

 少年に詰め寄り、がっくんがっくんと前後に揺さぶる。

「何でお前が、『蒐集行使』を使えるんだよ!?」

「えぇ……?」

 今度は、少年が呆ける番だった。

「蒐集って、何が?」

「すっとぼけんな! 今、お前が使ったアレだよ、アレ!」

「リンカーコア結合のことか?」

「そう、多分それ!」

「いや、今のは単に、リンカーコアを接続して、情報を片っ端からコピーしただけだぞ」

「全然『だけ』じゃねーよ!」

 守護騎士の身体は、プログラム……つまり、文字列の情報で出来ている。

 それを片っ端からコピーした……ということは、全身を隈なく探られたのと同義で……あのむずがゆさも頷ける。

 

「あー……確かに、ちょっと似てるかもね」

 栗毛の少女が、こくこくと頷いた。

「カットペーストか、コピーペーストかの違いくらいかな」

 中性的な少年が、それを補足。

「闇の書の蒐集能力っていうのは、元は秀人がやったのと同じように、術式などをコピーするだけの安全な機能だったらしいよ」

「…………ああ、そうだよ」

 闇の書の生き証人である彼女は、ごく僅かながら、それを覚えていた。

「アタシたち守護騎士も最初は、その知識を狙う輩から、主を、知識を守るための存在だった」

 それが、何代目かの悪意ある主により、改悪され……

「……今じゃ、自分の名前も思い出せないけどな」

 ははっ……と、自虐的な笑みを浮かべる。

 と、少年が口を開いた。

 

 

「『ヴィータ』」

 

 

 全員の注目が、少年に集まる。

「文字列の中に、それだけ読める文字があった。多分、お前の名前なんじゃないか?」

「……アタシの、名前?」

 確かめるように、「ヴィータ……」と、小さく呟く。

「そう、だ…………」

 バラバラだった記憶のピースが、その名前を基点として、かちかちと次々に繋ぎ合わされていく。

 

「アタシは、鉄鎚の騎士…………ヴィータ」

 

――――ガシュン!

 

「うお」

 少年の手の中で、ハンマー型デバイスが突然暴れだした。

 そのまま手を離れ……鉄鎚の騎士、改め、ヴィータの手の中に納まる。

「そして、そのデバイスの名は……」

「思い出したよ」

 僅かな微笑みを浮かべ、相棒の名を呼ぶ。

 

 

「起きろ、グラーフアイゼン」

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 チビ騎士……改め、ヴィータとグラーフアイゼンが、紅い魔力を輝かせた。

「よかったな……ヴィータ」

 俺のほうを向いたヴィータは、やや気恥ずかしそうに唇を尖らせた。

「ふん。うっせーバーカ……」

 きんっ……と、グラーフアイゼンが金属音を鳴らす。

『………………貴公、名は』

 まだ少し寝起きのような声で、そう尋ねた。

「秀人。吾妻秀人だ」

『よくぞ、我が使い手を救ってくれた。貴公には、いくら感謝しても足りぬ』

 礼儀正しいを通り越して、堅苦しいなこいつ。

「それで、どうする? ウチに来るか?」

 わき道に逸れてしまったが、まずは返事を聞かないと。

「条件は、何だ?」

「いや、別に条件とかは……」

 何も、従属させようとかそういうつもりじゃないし。

「違う」

 が、否定された。

「アンタは、敵であるアタシのために、力を尽くしてくれた。

 アタシはベルカの騎士として、その恩に報いなければならない」

 ちょっとばかし寝かせて、飯を食わせて、魔力を回復させて、名前を教えてあげただけなんだけどな……

「……それが、アタシの誇りだ」

 ……ほんっと、主もデバイスも、堅苦しいことだ。

「わかったよ、ヴィータ。条件は二つ」

 本人が望むなら、いいよな。

「一つ。定期的にマリーの所に通い、データ提供をすること」

 さっきの一回だけでは、必要最低限のものしか得られなかった。

 俺の専用デバイス製造のためにも、細かなデータが必ず必要になるだろうから、それを戴くとしよう。

「ここまでは、いいか?」

「ああ」

 ヴィータは、一切のタイムラグを置かずに頷いた。

「二つ目」

まぁこれは、条件というか、家事の分担に近いかもしれんが……

 

「お前を、我が家の『お買い物係』に任命する!」

 

――――――――時が、数秒間停止した。

 

「…………はぁ!? おか……!?」

「うむ。お買い物係だ」

 なたしても、ヴィータは慌てふためいた。

「あ、アホかお前は! そこはほら、もっと……重要な条件を出すところだろう!?」

「あ、それいいかも」

 なのはが、ぽんと手を打った。

「私そろそろ学校に復帰するし、夕食の買い物、してくれるならかなり助かる」

 今までは、俺かなのは、もしくはユーノが時間を見つけては買いに行っていた。

 けど、俺は仕事で帰りが遅れることがあったり、なのはは学校帰りに友達と遊びたいだろうし、ユーノは何やら研究に没頭していることがある。

 誰かが、決まった日時に行ってきてくれるなら、なのはの負担も少なくなる筈だ。

「お買い物……おかいもの……アタシが……?」

 悩ましげにぶつぶつ考え込むヴィータ。

「頼めるか?」

「…………えぇい、お買い物係でも何でもやってやるよコンチクショー!」

 ……やけっぱちだった。

 

 さて……事後承諾になるけど、話を通すとしようか。

『クロノ。おーい、クロノ。生きてるか』

「誰が、死ぬか……!」

 返事は、玄関からあった。

 ぜーぜー言いながらも、しっかり二本足で立っていた。

「マリー! 勝手な行動をするなと、言っておいたはずだろう!」

「ふん。ワタシはお前の部下ではない」

 守護騎士を独自に確保しようとしていたことを、今更ながら怒られていた。

「まぁ座れよ。説明すっから」

 ちゃぶ台が用を成さなくなったので撤去し、ぐるっと適当に陣取る。

 

「ってわけで、こいつウチで引き取ろうと思うんだけど」

「……………………はぁ」

 何かを諦めたようなため息をつく。

「……それが、どういうことかわかっているのか?」

「ああ。闇の書の主は、守護騎士の一体を取り戻しに来るだろうな」

 これだけの力。生きていると分かれば、四分の一とはいえ、そう簡単に諦めたりはしないだろう。

「逆に言えば、常に俺たちに闇の書を引き付けておくことが出来る」

 一般人への被害は、少なくすることが出来る。

 

「第一、」

 ぐるっと、部屋に揃った面子を見渡す。

 俺、なのは、フェイトはAAAランク相当。ユーノ、アルフはAAランク相当。

 合計5人の高ランク魔導師が揃っている。

 更に、ヴィータを戦力に数えることが出来れば、体制は万全だ。

「管理局は、これ以上のメンバーを、この事件のためだけに用意できるのか?」

 確かに、管理局にも俺たち以上の実力者はゴロゴロいるに違いない。が、人材不足が常態化している管理局で、この事件のためだけに、トップメンバーを贅沢に投入することなんてできないだろう。

 

「……君は、高町なのはを危険に晒すことを良しとしなかったのでは?」

「フェイトとアルフが護衛についてる。心配する理由が無いな」

 ぱぁっ……と、フェイトの目が輝いた。

「アルフ、アルフ! 聞いた!?」

「うん、よかったねフェイト」

「いやっほー!」

 どーん、とアルフにタックル。

 ごろごろと床を転がり、俺の膝の上に着地した。

 

「…………」

 黙りこみ、考え込んでしまうクロノ。

 多分、アースラからの対応の遅れが心配なんだろう。

 

「お前もこっちに拠点持ったらどうだ?」

「なに……?」

「前線基地みたいな感じで。そうすれば、現地に常駐できる上に、守護騎士の監視も、闇の書への対処もスピーディにできるんじゃないか?」

「ふむ…………確かに、名案だな。よし、それで行こう。

艦長やエイミィにも、話を通しておく」

 と、話を聞いていたマリーが「早速、準備に取り掛かる」とだけ言い残し、開け放しのドアへすたすたと歩いていく。途中、足を踏まれたフェイトが「ぎゃーす!」と悲鳴を上げたが、お構い無しだった。

 

「何だ、アイツ……?」

「…………マリーの突飛な行動に、理由を求めるだけ無駄だ」

 ふぅ、と、仕事に疲れたサラリーマンみたいなため息をつく。

 

 まぁとにかく。

 

「よろしくな、ヴィータ」

 何やら、奇妙な縁だが…………

 

「ようこそ、我が家へ」

 

 

 

 

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