魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第二十二話

 

 私は、何度目か数えるのもバカバカしく、リーゼの膝枕で傷の治療を受けていた。

「ううぅ……痛い……超痛い……」

 今日も今日とて、実戦訓練。

 魔剣を振るい続け、鉄球をよけ続け、斬り続け……最後の最後には、またしても顔面レシーブだった。

「はぁ……当たり前ですよ、主。すぐに熱くなって、考え無しに突貫するから……もっと状況を冷静に判断してからですね……」

 くどくどと小言を言ってくる。

 おっかしいなぁ。

もっと従順な人格を設定したつもりなんだけど……

「そんなことでは、一生掛かっても彼らには勝てませんよ」

 むかっ。

「うっせーこの野郎!」

 

――むにゅっ。

 

 柔らかい胸を、鷲摑みにしてやった。

「にゃああああああああああああああああああっ!!」

 リーゼが飛び退り、同時、頭が地面に落ちて「ごん」と音を立てた。

「あ、あ、主! 私の胸を揉むのはお止め下さいと、何度も……!」

「ふん、そんなモンぶら下げてるお前が悪いんだよ……」

 おー、痛い……でも、もう起きられる。よっこいしょっと。

「…………はぁ」

 リーゼが、諦めたようにため息をついた。

「確かに、そういった弱点はあるものの……技量としては、なかなかの上達振りです」

 ちらっと目を遣った先には、スイカのように真っ二つになった鉄球の残骸が、いくつか転がっていた。

「あなたには、優れた剣の才が有るようです」

「ふーん……」

 剣道なんて、習ったこと無かったからよく分からないけど……才能が有るのは、いいことだ。

 

――ぴぴぴっ。

 

 と、今日だけは傍らに置いていた目覚まし時計が鳴った。

 おっと、時間時間……

「主?」

 首をかしげるリーゼ。あ、そういえば……言ったことなかったっけ。

「どこへ行かれるのですか?」

「美香に会いに行く。お前も付いてきて」

「美香……?」

 面倒だから、歩きながら説明しようっと。

 

………………

 

「なるほど…………」

 道中、リーゼはあごに手を当て、何か考えていた。

 ちなみに、リーゼの容姿は色々な意味で目立つから、服を量販店で買って行った。

 別にパクってもよかったんだけど、リーゼの「あなたは『王』であって、夜盗では無いはずです」の一声によって却下された。

 耳をハンチング帽、尻尾をカーゴパンツに仕舞いこみ、伊達眼鏡を掛けた姿は、まぁ割と街中に溶け込んでいるようにも思える。Tシャツが猫柄の染め抜きなのは、ちょっとしたシャレだ。

「つまりその方は、主と師弟の契約を結んだのですね?」

「うん。とはいっても、一方的なものだけど」

「…………」

 リーゼはまたしても、何かを考えこんでいる。

 

美香のやつ、元気にしてるかな。

 久しぶりに……しかも、夜じゃなくて昼に会いに行ったら…………多分、すっごい驚くだろうな。それに、リーゼのことも……

「ふふ…………」

 目を真ん丸くして、ほけーっと驚く姿が目に浮かぶ。

 

「主は、彼女をとても好いているのですね」

 

 と、リーゼが突然、そんなことを言い出した。

「…………はァ!?」

 突拍子も無い発言に、思わず声が裏返ってしまった。

「ち、ちがうし!」

 否定しても、リーゼはただ微笑むだけだった。

「主のそんな優しげな顔、初めて見ました」

「だから、誰が、誰を好いているって!? テキトーなこと言うな!」

 何人かが、くすくすと笑いをかみ殺しながら通り過ぎて行く。

「あーもう! さっさと行くよ!!」

「はい、主」

 リーゼの手を引き、ぐいぐいと通りを進んで行く。

 

 商店街を抜け、住宅街を抜け……段々と、人気が無くなっていく。

 草が生えっぱなしになっている、なだらかな丘を登り……

「へー、こんな建物だったんだ」

 到着したのは、妙な存在感のある、白い建物。

 ここが、美香が入院している病院。

 

 何食わぬ顔で、自動ドアをくぐる。若干弱めの冷房が、私達を出迎えた。

 ぱたぱたと、ナース服や白衣を着た人が忙しそうに走っている姿を見ると、やはりここは病院なんだなー、と、当たり前の感想を持ってしまう。 

腐ったミカン的な院長はサクッと殺しておいたから、多少は雰囲気が明るい。

「すみません、見舞いに来たんですけど」

「はい、どなたでしょう?」

「えーっと……柳瀬美香って子の」

「え……?」

 と、その名前を聞いた看護婦の顔が、明らかに引きつった。

「……失礼ですが、柳瀬さんとの続柄は?」

 最近の病院は、セキュリティが厳しいらしい。

「あー…………友人です」

「……少々、お待ちください」

 あ、信じてないなコイツ。

「……」

 意識を集中して……魔力発動。

「主」「わかってるってば」

 うるさいリーゼを制し、魔法による暗示を行使する。

 後遺症は残らない。あくまで、この場を凌ぐための……

「『私は、柳瀬美香の友人です。部屋の番号を教えてください』」

 言霊をかけられた看護婦は、とろんとした目になる。

「……はい、柳瀬美香さんは、503号室です」

 よっしゃ。

「どーも。行くよ、リーゼ」

 効果が切れる前に、スタコラサッサだ。

 

――チン…… 

 

 エレベーターが五階で止まる。

 と、廊下に足を踏み入れた途端……

 

「もう、放っておいてよ!!」

 

 実に聞き覚えのある声が、えらい剣幕で張り上げられていた。

 あーあ、タイミング悪い時に来ちゃったかなぁ……

 病室のドアの横に立ち、聞き耳を立てる。

「美香……お願いだから、話を聞いて……」

「うるさい! 帰って!!」

 そして、がちゃん、と何かが割れる音。

「……また、来るからね」

 

 とぼとぼ、という表現がぴったりと合う様子で、一人の女性が病室から出てきた。

 気配を消しているから、私達には気付いていない。

 コイツが美香の姉貴か…………って、えええ!?

「司書のお姉さん……?」

「え?」

 やべっ……! 気付かれた!

「あなた……八神さん?」

 

美香の姉は、私がよく足を運ぶ図書館の司書……美穂さんだった。

 

…………

 

 待合室のベンチに、三人で腰を下ろす。

「まさか、八神さんがいるなんて、思いもしなかったわ」

「お互い様」

 姉と、兄がいるとは聞いていたけど……まさかこの人とは。

「……でも、いつ美香と知り合ったの? あの子、ずっと入院してるのに」

 夜に窓から忍び込んで…………駄目だ言えない。

「私も一時期、足が不自由だったからその縁で」

「ああ、そうだったわね」

 車椅子で図書館に通っていたからか、すんなりと信じてもらえた。

 

「そちらは?」

 すっと、リーゼを示す。

「……親戚」

「初めまして。リーゼと言います」

 私の家族構成なんて知らないだろうから、これでいい。

「それで……今日は、美香のお見舞いに来てくれたの?」

「うん」

「……今日は、無理かもしれないわ」

「あー……」

 やたらと癇癪おこしてたけっけ。

「…………はぁ」

 ずーん……と、やっぱりダウナーな雰囲気。

「入院生活が長くて、鬱憤が溜まるのも分かるんだけど……最近、特に不機嫌で」

……げ。

まさか……私か? 私が最近、顔を見せないからなのか?

 だとしたら、美穂さんはとばっちりだ。

「ちょっと、顔だけでも見ていく」

 心配そうにする美穂さんを残し、美香の病室へ向かう。

 

 リーゼを部屋の外に待機させ、病室のドアを開ける。

「帰れって言ったでしょ!」

 ぶんっ! と、いきなり文庫本が顔面めがけて投げつけられた。

 それをキャッチして、ベッドの上に放り返す。

「せっかく来てやったっていうのに、随分な言い草だね」

「…………え?」

 そこで、私の顔に気付いたのか、美香が呆ける。

「…………姐、さん?」

「久しぶり、美香。元気してた?」

 ベッドの脇まで行って、ぽんぽん、と頭を撫でる。

 じわー……っと、美香の目が潤んでいく。そして。

「姐さんの……バカー!!」

「おおおっ……?」

 どん、と思いっきり抱きつかれた。

「ううううぅぅ~……!!」

 ぐいぐいと、遠慮の無い全力で抱きしめられて、正直言えば、ちょっと苦しい。

 でも、しばらく放置してしまった罪滅ぼしだ。好きなだけ、甘えさせてやろう。

 

 そして、十分くらいの後、ようやく美香が離れた。

「…………ごめんね、美香。ちょっと、忙しくて」

 魔法を教えてやる、そういう約束だったのに……ゴタゴタと忙しくて、おざなりにしていた。

「でもね、美香。せっかく見舞いに来てくれた姉ちゃんに、あんまりひどいこと言うもんじゃないよ」

 本当に、見舞いに来てくれる人がいるってことが、どれだけ幸せかわかってるのかな?

「でも……」

「でも、じゃない。後でちゃんと、謝っておきなさい」

「……はぁい」

 

「お、うまそうじゃんコレ」

小さなテーブルの上に置いてあったフルーツの盛り合わせの中から、桃を取り出してかじりつく。

「姐さん……」

 呆れるような視線から逃げ、もしゃもしゃと果物を頬張る。

 そのとき、廊下から数人の騒がしい足音が聞こえてきた。

 うるさいなぁ……病院なんだから、少しは遠慮しろっつうの。

「あ……このフロアは、四部屋しか無くて、二つしか使ってないよ」

 うっわ……贅沢。

 私が言いそうになっていた言葉を、美香が肯定した。

「私は別に、大部屋でも良いって言ってるのに、お兄ちゃんとお姉ちゃんは……」

 ぶつぶつ、と愚痴る。

 個室の病室がいくらするかは知らないけど、かなり高額なはずだ。美香に余計なストレスを与えないよう、かなり無理しているに違いない。

「やさしいお姉ちゃんだね」

「……でも、私のために変な我慢とか、しないでほしい」

「喧嘩の原因はそれ?」

「うん。お姉ちゃん、『欲しいものは無い?』って、いつもそればっかり」

 ……うーん、難しいなぁ。

 どっちの気持ちも、よく分かるんだけど……

 

――…………、……!?

 

 と、隣室が、またにわかに騒がしくなり始めた。 

(……うっさいなぁ、もう!)

さっきから、人が考え事してるのにがやがやと……いい加減、我慢の限界だ。

怒鳴り込んでやろう。

「美香、ちょっと待ってて……」

 

「ちょっと! 静かにしてよ!!」

 

 病室の中にいた大勢が、ビクッと振り向いて…………

 

 

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