魔法少女リリカルなのはties 作:ハルハルharuharu
私は、何度目か数えるのもバカバカしく、リーゼの膝枕で傷の治療を受けていた。
「ううぅ……痛い……超痛い……」
今日も今日とて、実戦訓練。
魔剣を振るい続け、鉄球をよけ続け、斬り続け……最後の最後には、またしても顔面レシーブだった。
「はぁ……当たり前ですよ、主。すぐに熱くなって、考え無しに突貫するから……もっと状況を冷静に判断してからですね……」
くどくどと小言を言ってくる。
おっかしいなぁ。
もっと従順な人格を設定したつもりなんだけど……
「そんなことでは、一生掛かっても彼らには勝てませんよ」
むかっ。
「うっせーこの野郎!」
――むにゅっ。
柔らかい胸を、鷲摑みにしてやった。
「にゃああああああああああああああああああっ!!」
リーゼが飛び退り、同時、頭が地面に落ちて「ごん」と音を立てた。
「あ、あ、主! 私の胸を揉むのはお止め下さいと、何度も……!」
「ふん、そんなモンぶら下げてるお前が悪いんだよ……」
おー、痛い……でも、もう起きられる。よっこいしょっと。
「…………はぁ」
リーゼが、諦めたようにため息をついた。
「確かに、そういった弱点はあるものの……技量としては、なかなかの上達振りです」
ちらっと目を遣った先には、スイカのように真っ二つになった鉄球の残骸が、いくつか転がっていた。
「あなたには、優れた剣の才が有るようです」
「ふーん……」
剣道なんて、習ったこと無かったからよく分からないけど……才能が有るのは、いいことだ。
――ぴぴぴっ。
と、今日だけは傍らに置いていた目覚まし時計が鳴った。
おっと、時間時間……
「主?」
首をかしげるリーゼ。あ、そういえば……言ったことなかったっけ。
「どこへ行かれるのですか?」
「美香に会いに行く。お前も付いてきて」
「美香……?」
面倒だから、歩きながら説明しようっと。
………………
「なるほど…………」
道中、リーゼはあごに手を当て、何か考えていた。
ちなみに、リーゼの容姿は色々な意味で目立つから、服を量販店で買って行った。
別にパクってもよかったんだけど、リーゼの「あなたは『王』であって、夜盗では無いはずです」の一声によって却下された。
耳をハンチング帽、尻尾をカーゴパンツに仕舞いこみ、伊達眼鏡を掛けた姿は、まぁ割と街中に溶け込んでいるようにも思える。Tシャツが猫柄の染め抜きなのは、ちょっとしたシャレだ。
「つまりその方は、主と師弟の契約を結んだのですね?」
「うん。とはいっても、一方的なものだけど」
「…………」
リーゼはまたしても、何かを考えこんでいる。
美香のやつ、元気にしてるかな。
久しぶりに……しかも、夜じゃなくて昼に会いに行ったら…………多分、すっごい驚くだろうな。それに、リーゼのことも……
「ふふ…………」
目を真ん丸くして、ほけーっと驚く姿が目に浮かぶ。
「主は、彼女をとても好いているのですね」
と、リーゼが突然、そんなことを言い出した。
「…………はァ!?」
突拍子も無い発言に、思わず声が裏返ってしまった。
「ち、ちがうし!」
否定しても、リーゼはただ微笑むだけだった。
「主のそんな優しげな顔、初めて見ました」
「だから、誰が、誰を好いているって!? テキトーなこと言うな!」
何人かが、くすくすと笑いをかみ殺しながら通り過ぎて行く。
「あーもう! さっさと行くよ!!」
「はい、主」
リーゼの手を引き、ぐいぐいと通りを進んで行く。
商店街を抜け、住宅街を抜け……段々と、人気が無くなっていく。
草が生えっぱなしになっている、なだらかな丘を登り……
「へー、こんな建物だったんだ」
到着したのは、妙な存在感のある、白い建物。
ここが、美香が入院している病院。
何食わぬ顔で、自動ドアをくぐる。若干弱めの冷房が、私達を出迎えた。
ぱたぱたと、ナース服や白衣を着た人が忙しそうに走っている姿を見ると、やはりここは病院なんだなー、と、当たり前の感想を持ってしまう。
腐ったミカン的な院長はサクッと殺しておいたから、多少は雰囲気が明るい。
「すみません、見舞いに来たんですけど」
「はい、どなたでしょう?」
「えーっと……柳瀬美香って子の」
「え……?」
と、その名前を聞いた看護婦の顔が、明らかに引きつった。
「……失礼ですが、柳瀬さんとの続柄は?」
最近の病院は、セキュリティが厳しいらしい。
「あー…………友人です」
「……少々、お待ちください」
あ、信じてないなコイツ。
「……」
意識を集中して……魔力発動。
「主」「わかってるってば」
うるさいリーゼを制し、魔法による暗示を行使する。
後遺症は残らない。あくまで、この場を凌ぐための……
「『私は、柳瀬美香の友人です。部屋の番号を教えてください』」
言霊をかけられた看護婦は、とろんとした目になる。
「……はい、柳瀬美香さんは、503号室です」
よっしゃ。
「どーも。行くよ、リーゼ」
効果が切れる前に、スタコラサッサだ。
――チン……
エレベーターが五階で止まる。
と、廊下に足を踏み入れた途端……
「もう、放っておいてよ!!」
実に聞き覚えのある声が、えらい剣幕で張り上げられていた。
あーあ、タイミング悪い時に来ちゃったかなぁ……
病室のドアの横に立ち、聞き耳を立てる。
「美香……お願いだから、話を聞いて……」
「うるさい! 帰って!!」
そして、がちゃん、と何かが割れる音。
「……また、来るからね」
とぼとぼ、という表現がぴったりと合う様子で、一人の女性が病室から出てきた。
気配を消しているから、私達には気付いていない。
コイツが美香の姉貴か…………って、えええ!?
「司書のお姉さん……?」
「え?」
やべっ……! 気付かれた!
「あなた……八神さん?」
美香の姉は、私がよく足を運ぶ図書館の司書……美穂さんだった。
…………
待合室のベンチに、三人で腰を下ろす。
「まさか、八神さんがいるなんて、思いもしなかったわ」
「お互い様」
姉と、兄がいるとは聞いていたけど……まさかこの人とは。
「……でも、いつ美香と知り合ったの? あの子、ずっと入院してるのに」
夜に窓から忍び込んで…………駄目だ言えない。
「私も一時期、足が不自由だったからその縁で」
「ああ、そうだったわね」
車椅子で図書館に通っていたからか、すんなりと信じてもらえた。
「そちらは?」
すっと、リーゼを示す。
「……親戚」
「初めまして。リーゼと言います」
私の家族構成なんて知らないだろうから、これでいい。
「それで……今日は、美香のお見舞いに来てくれたの?」
「うん」
「……今日は、無理かもしれないわ」
「あー……」
やたらと癇癪おこしてたけっけ。
「…………はぁ」
ずーん……と、やっぱりダウナーな雰囲気。
「入院生活が長くて、鬱憤が溜まるのも分かるんだけど……最近、特に不機嫌で」
……げ。
まさか……私か? 私が最近、顔を見せないからなのか?
だとしたら、美穂さんはとばっちりだ。
「ちょっと、顔だけでも見ていく」
心配そうにする美穂さんを残し、美香の病室へ向かう。
リーゼを部屋の外に待機させ、病室のドアを開ける。
「帰れって言ったでしょ!」
ぶんっ! と、いきなり文庫本が顔面めがけて投げつけられた。
それをキャッチして、ベッドの上に放り返す。
「せっかく来てやったっていうのに、随分な言い草だね」
「…………え?」
そこで、私の顔に気付いたのか、美香が呆ける。
「…………姐、さん?」
「久しぶり、美香。元気してた?」
ベッドの脇まで行って、ぽんぽん、と頭を撫でる。
じわー……っと、美香の目が潤んでいく。そして。
「姐さんの……バカー!!」
「おおおっ……?」
どん、と思いっきり抱きつかれた。
「ううううぅぅ~……!!」
ぐいぐいと、遠慮の無い全力で抱きしめられて、正直言えば、ちょっと苦しい。
でも、しばらく放置してしまった罪滅ぼしだ。好きなだけ、甘えさせてやろう。
そして、十分くらいの後、ようやく美香が離れた。
「…………ごめんね、美香。ちょっと、忙しくて」
魔法を教えてやる、そういう約束だったのに……ゴタゴタと忙しくて、おざなりにしていた。
「でもね、美香。せっかく見舞いに来てくれた姉ちゃんに、あんまりひどいこと言うもんじゃないよ」
本当に、見舞いに来てくれる人がいるってことが、どれだけ幸せかわかってるのかな?
「でも……」
「でも、じゃない。後でちゃんと、謝っておきなさい」
「……はぁい」
「お、うまそうじゃんコレ」
小さなテーブルの上に置いてあったフルーツの盛り合わせの中から、桃を取り出してかじりつく。
「姐さん……」
呆れるような視線から逃げ、もしゃもしゃと果物を頬張る。
そのとき、廊下から数人の騒がしい足音が聞こえてきた。
うるさいなぁ……病院なんだから、少しは遠慮しろっつうの。
「あ……このフロアは、四部屋しか無くて、二つしか使ってないよ」
うっわ……贅沢。
私が言いそうになっていた言葉を、美香が肯定した。
「私は別に、大部屋でも良いって言ってるのに、お兄ちゃんとお姉ちゃんは……」
ぶつぶつ、と愚痴る。
個室の病室がいくらするかは知らないけど、かなり高額なはずだ。美香に余計なストレスを与えないよう、かなり無理しているに違いない。
「やさしいお姉ちゃんだね」
「……でも、私のために変な我慢とか、しないでほしい」
「喧嘩の原因はそれ?」
「うん。お姉ちゃん、『欲しいものは無い?』って、いつもそればっかり」
……うーん、難しいなぁ。
どっちの気持ちも、よく分かるんだけど……
――…………、……!?
と、隣室が、またにわかに騒がしくなり始めた。
(……うっさいなぁ、もう!)
さっきから、人が考え事してるのにがやがやと……いい加減、我慢の限界だ。
怒鳴り込んでやろう。
「美香、ちょっと待ってて……」
「ちょっと! 静かにしてよ!!」
病室の中にいた大勢が、ビクッと振り向いて…………