魔法少女リリカルなのはties   作:ハルハルharuharu

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A's編 第二十三話

 

――――また、いつもの夢か……?

 

 意識はハッキリしているのに、身体が無くなったように、見ていることしか出来ない、もどかしい状況。

『………………うるさい』

 ……いや、違う。いつもの夢じゃない。

 俯瞰するのは、いつもとは別の病室だ。ベッドシーツを頭から被り、外界をシャットダウンしようとしているのは、声からして小さな女の子だろう。

 

――ドンドンドン!!

 

 鍵を掛けた病室。そのドアが、激しくノックされる。

『××さん! ××さん!』

 ここが病院だと配慮している雰囲気は欠片もない。

『事故の状況を説明してください! ××さん!』

 下賎な好奇心を満たさんとする、下衆の所業だった。

『唯一の生存者であるあなたには、それを語る義務があるんですよ!』

 ただ一方的に自分の要求を叩きつける、不快極まりない声だった。

『うるさい……うるさいうるさいうるさい!!』

 少女は、泣いていた。

『たすけて……!』

 か細い声。

 

――ドンドンドン!!

 

 それは、ドアを叩く音に容易く掻き消され、誰にも届かない。

『誰か、たすけてよぉ……!!』

 

――ドンドンドンドンドンドンドンドンドン『思い出せ思い出せ思い出せ』ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン『思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ』ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!

 

 いつしか、壊れたテープレコーダーのように、延々とそれをリピートする。

 いつドアを破られるかも分からない。

 その恐怖に怯え、シーツを被り、がたがたと震える。

『パパ……ママ……!!』

 シーツの中で呼ぶのは、両親。

 だが、両親はいつまで経っても現れない。

 

――――『思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ』ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!

 

『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!』

 

――悪夢。

 

 見ているだけで、吐き気を催すほどの、悪夢だった。

 

 この少女が誰なのかは知らない。実在するのかも……もしかしたら、ただの俺の妄想なのかもしれない。けど、それでも……

「や、めろ……!!」

 意識だけの自分。

 何も手出しが出来ない自分。

 夢でもなんでも……それが腹立たしくて。

「やめろ……!!」

 気体のような身体に力を込めて、拳を握り……!

 

――そこで、唐突に目が覚めた。

 

「…………くっそ」

 跳ね起きる。

 五体の感覚。寝起きでぼやける視界を擦り、乱暴に眠気の残滓を振り払う。

「ん……」

 隣で、なのはが寝ている。ユーノとアルフが動物形態になり、丸まっている。

 フェイトがタオルケットを蹴飛ばし、クロノを足蹴にして寝ている。

 ……俺の家だ。

「…………」

「…………ヴィータ?」

 ヴィータだけは、起きていた。

 壁に背を預け、じっと宙を見据えている。

「……………………」

 ずっと起きていた……わけでは、無さそうだ。

 特徴的な紅髪に、寝癖が混じっている。

「……なんだ、早起きだな」

 ヴィータは軽口には応じず、俺と目を合わせた。

「なぁ、秀人。お前……」

 ……何だ?

 何かを言いかけて、思いとどまったように、口を閉ざしてしまった。

「……なんでもない」

 もしかしたらこいつも、悪夢を見たのかもしれない。

「そっか。んじゃ、起きようぜ。もう朝だ」

 悪夢を見て目が覚めるなんて、ガキっぽいにも程がある。

 さて、もう起きるとしよう。

 窓の外からは、太陽が顔を覗かせていた。

 

 

「ヴィータ、クロノ。それじゃ、留守番を頼んだぞ」

 俺、なのは、ユーノ、フェイト、アルフの五人は、玄関先から部屋の中に声を掛けた。

「ああ、行ってくるといい」

 部屋の中には、クロノと、

「……いってらっしゃい」

 まだ少しぎこちない、ヴィータが見送ってくれる。

 

 今日は、ヴィータを我が家に迎えた翌日。

 ついでに、なのはが桃子たちと過ごす日でもある。

 この後ヴィータは、クロノの護衛のもと、マリーのラボへと向かう予定になっている。

 ……一人で向かわせるのは、色々とデンジャラスだからな。

 猫に鰹節というか……飢えた肉食獣の巣穴に、ウサギを放り込むようなもんだ。

「クロノ……今度は一撃死するなよ……?」

「…………うるさい」

 隙を突かれ、薬物注射でKOという無様な敗北を喫したクロノは、弱弱しく目をそらした。

「大体、お前がマリーにあんなメール送るからこうなったんだろうが!」

 おう……よっぽど恥ずかしかったのか、クロノの口調が崩れている。

「いやぁ…………スマンかった」

 まさか、クロノを制圧してまで飛んでくるとは思わなかったんだ。

「だいたい、お前はだな……!」

 うへ、小言が始まった。

「行ってきまーす!」

 なのはの手を引き、ダッシュした。

「あ、おいコラ待て! まだ話は……!」

 

 とりあえず徒歩だ。

 転移魔法を使いたいところだけど、口うるさい執務官がすぐそこにいるからな。

「クロノってば、やっぱり口うるさいなー」

 頭の後ろで手を組み、てくてくと歩くフェイトが愚痴る。

「もっと女の子らしくしろー、とか、スカートであぐらをかくなー、とか、ピーマンのこすなー、とか…………まったく、キミはボクの兄貴かっつうの!」

 思い出してはぷりぷりと怒り、歩調が荒くなる。

「三日に一回はきてたよー。ね、アルフ」

「いや、あたしのほうは週に一回くらいだったけど」

「え、なんでー!? ずるい!」

 ……あいつがそんな足しげく面会に行っていたことのほうが驚きだわ。

 そういえば、クロノは一人っ子だとか言ってたな。つい年下に世話を焼いてしまう性分なんだろうか。兄弟がいない分、他人の世話を焼くとか…………無いな。

 年下というか、むしろ……

「フェイトだからなぁ」

「フェイトだから」

「フェイトだもんねぇ」

「フェイトだし」

 俺、なのは、アルフ、ユーノの異口同音な感想に、フェイトが叫ぶ。

「りふじんだー!?」

 

「フェイト、ピーマン食べられないの?」

 なのはがふと思いついたように、何気なく聞いた。

「う……だって苦いんだもん……」

「他には?」

「えーっと……にんじん、なす、きゃべつ、れたす、とまと、かぼちゃ……」

「野菜、殆ど全部駄目じゃない……」

 超お子様の味覚だった。

「じゃあ、好きな食べ物は?」

「甘いもの!

 ……けどリンディさんが『また虫歯になるから』って、あんまり食べさせてくれない」

「そうなんだ……」

 ちらっと、なのはと目が合う。

 念話で、以心伝心。

 

――今夜、野菜尽くしで。

 

――OK。

 

 野菜嫌い、なんとかしよう。

 

 今日はまず、全員で食事をして……その後、なのはの父親の見舞いへ行く予定だ。

 望に言われたから、久しぶりに様子を見に行くことにしたらしい。

「……病院、か」

 つい口をつき、出てしまった。

 今朝の夢は、一体何だったんだろう。

 似たような夢は、何度も見た。けど、それは俺自身の体験であって、あんな異常なものではなかった。

 あの女の子も、多分知らない子だ。

 それに、あの目の覚め方…………俺があの子を助けようとしたら、急に現実に引き戻された。夢なんてそんなものかもしれないが、少しタイミングが不自然だった。

 うーん……考えても考えても、答えが出ない。

歩きながら考えていたら、ぐいっと手を引かれた。

「みゆき、げんきにしてるかな?」

「ああ、多分……というか、アイツが元気じゃなかった事なんて無いだろう」

「あはははは! みゆきのやつ、いっつも走ってるしな~!」

 けらけらと、面白そうに笑う。

 どうせなら、ということで、フェイトがいることは高町家の面々には秘密にしている。

 主に、美由希へのサプライズだ。

 妙にウマが合うらしい二人は、年の差を感じさせないほど仲が良い。フェイトの精神年齢は、そんなに高くないと思うから多分、美由希の精神年齢が……

「秀人さん、姉さんにそれ言ったら駄目だからね」

 ……おおう。バレバレだったか。

「もう、すぐ悪ノリするんだから…………」

「悪い悪い……」

 わざとらしくぷいっとそっぽを向くなのはに、これまたわざとらしくヘコヘコ謝る俺。

そんな心地よいじゃれ合いを続けながら、桃子達が待つ高町家へ向かった。

 

 インターホンを押し、玄関を開ける。

「あ、来た来た! いらっしゃーい!」

 ばたばたばた……と、美由希がフローリングをスリッパで疾走してきた。

「ぶフッ……!!」

 まさに、フェイトが言っていた通りだ。

「さぁさぁ、上がって上がって!」

「あー、ちょっと待った。……おーい、」

 ドアの影に隠れていたフェイトを、ちょいちょい、と手招き。

「?」

 首を傾げる美由希。

「みゆきー! ひさしぶりー!」

 びしっとポーズで決めたフェイトに、美由希は……

「…………」

 完全に、フリーズしていた。

「……え、あれ? どしたの、みゆき? ジェノサイダーがフリーズベントくらったみたいな顔になってるよ?」

 一般人に分かりづらい例えをするな。

っていうか、どんな顔だ。

「みゆき? おーい……」

「…………フェ、」

ふぇ?

「フェイトだああああああああああああああああああああああああっ!!」

 どごーん! と、全体重を乗せたタックルで飛び掛っていった。

「ぎゃー!」

 咄嗟にバック転で、タックルを回避。

 ずざざざざ……! と、庭の芝をスライディングする。

「……うわぁ」

 痛そう……

「……フェイトッ!!」

 すぐさま復活。ずれた眼鏡を直し、

「フェイトーーーーーーーーーーーーー!」

 再び、タックルを敢行。

「うわああああああああ!!」

 どしーん、と、今度こそ命中した。

「フェイトフェイトフェイトー! 戻ってきてたなら何で連絡よこさないんだよこいつめー!」

 力いっぱいハグし、くるくると回転する。

「ごめーん! あやまるから、あやまるからー!!」

「ゆるさーん!!」

 楽しそうだ。

「美由希―? どうしたのー……って、あらあら」

 奥から様子を見に来た桃子が、その様子を見て苦笑した。

「母さん、こんにちは」

「お帰りなさい、なのは」

 毎晩メールか電話で話をしているから、よそよそしさは皆無だ。

 かくいう俺も、ちょくちょく近況を報告していたりする。

「悪いな、桃子。あと二人分、追加よろしく」

「はいはい、任せてくださいな」

 さーて。

「おい、美由希、フェイト。先に食べちまうぞ」

「 「 はーい! 」 」

 体中に草の切れ端をくっつけた二人が、元気よく返事をした。

 

「よう、元気そうだな恭也」

「秀人も変わり無いようで何よりだ」

「少し日に焼けたか?」

 少し、褐色が混じっている。

「ああ、鍛錬を再開し始めたんだ」

 ……ほほう。

「俺とフェイトに負けたのが、そんなにショックだったか。そうかそうか」

「…………まぁ、そういうことが理由にならなくも無い」

 素直じゃないなぁ……ま、それでも負ける気はしないけど。

「今度、また組み手しようぜ」

「ああ、望むところだ」

 襲撃が無い間は、恭也を相手に実戦訓練をしてもいいかもしれない。

「ちょっと、秀人、恭也……料理を運ぶの、手伝って欲しいんだけど……」

 両手で器用に大皿三枚を持ったユーノが、恨みがましく言ってきた。

「おお、悪い悪い……」「手伝おう」

 こういうことは、男衆の仕事と相場が決まっている。

 

 そして、三人で料理を並べ終え……ついでに、急遽必要になった追加分の料理を手伝ったりしながら、時間が過ぎて……

「準備できたよー!」

「「「「はーい!」」」」

 食事の時間になった。

 

メインは、野菜の天麩羅。細麺のパスタや冷製トマトスープなどと、夏らしいさっぱりした料理が食卓を埋めていた。

「 「 「 「 「 「 「 いただきまーす!」 」 」 」 」 」 」

 めいめいに箸を伸ばし、天麩羅を、白身魚のフライを、パスタを小皿に取り分け、口にする。

「おお……この天麩羅、衣に味がある」

「あ、ほんとだ。……母さん、どうやったの?」

「食べ終わったら、レシピを教えてあげるわ。今度からは、なのはも作れるわよ」

 

「恭ちゃん恭ちゃん、ケチャップ取って」

「自分で取れ。……というか、何に付ける気だ」

「え? パスタ」

「却下だ味音痴め。というか、お前も妹を見習え。嫁の貰い手が無くなるぞ」

「う、うっさいわぼけー! 自分こそ、忍ちゃんとギクシャクしてるくせに!!」

「ぐっ……大きなお世話だ!」

 

「ユーノ、この箸っていうの、使いづらいよ…………口で直接食べていい?」

「駄目。使い方、教えてあげるから。ほら、人差し指と中指を……」

「うあー……指が攣りそうだ……そうだ、ユーノが食べさせてくれよ」

「え!?」

「その魚がいいな。あーん」

「いや、その……」

「(あーん)」

「フォークじゃ、駄目かな……?」

「(あーん)」

「…………はい、あーん」

「あぐあぐ…………うん、うまいじゃないか」

 

 全員、概ね好評のようだった。

「ううう……やさいがいっぱい……」

 約一名を除いて。

「あら、フェイトは野菜が苦手なの?」

「うん……だって、苦いし、エグいし……」

 桃子はにっこりと、優しいようでいて……実は厳しい笑みを浮かべた。

 箸でかぼちゃの天麩羅を持ち、フェイトの口元に持って行く。

「はい、あーん……一口で良いから、食べてみて」

「かぼちゃって、なんかデロっとしてる……」

「一口食べて、駄目だったら無理しないでいいから」

「……はーい」

 …………やんわりと諭され、しぶしぶ口にした。

 口に入れるときは、ぎゅっと目を瞑り……

「もぐもぐ…………あれ? デロっとしてない」

 不思議そうに、一つ食べきった。

「煮物にすると粘りが出ちゃうから、それが苦手だったのね。どう?」

「きらいじゃない……というか、おいしいかも」

「じゃあ、次はナスをいってみましょうか?」

「うえ……汁がえぐいんだよ……」

「かぼちゃは食べられたでしょう? なら、きっとナスも食べられるわよ」

「……わかった、食べてみる」

 さすが、このへんは三児の母の面目躍如。

 俺だったら、無理矢理にでも食べさせていたかもしれないところを、自分から食べるようにうまく誘導した。

「フェイトが野菜食べてる……」

 アルフが、信じられない、といった様子でそれを見ていた。

 フェイトが、野菜をぱくぱくと食べる。

「食べられたじゃない。偉いわフェイト」

 頭を撫でられたフェイトは、一瞬何かを考え、桃子の服の裾を引いた。

「……ねー、ももこ」

「なぁに?」

「料理って、ボクにもできるかな?」

 …………そうきたか。

「…………」

 なのはも、じっと耳を澄ましている。

「それはもちろん、練習すれば出来るけど……どうしたの? なのは達に、作ってあげるの?」

「うん、それもあるけど」

 次にフェイトが口にした言葉は、沈黙をもたらした。

 

「おかーさんに、作ってあげたい」

 

…………プレシア。

 彼女は、今もまだ獄中にいる。直接に言葉を交わすことが出来るのは、管理局の中でもかなり上の地位にいる者に限られていて……料理を覚えたとしても、作ってやれるかどうかは……

「……フェイト」

 多少の事情を知っている桃子は、フェイトを抱き寄せた。

「わ…………なに?」

「今度……なのはも一緒に、翠屋へいらっしゃい。時間を見て、教えてあげる」

 

「え? 母さん、私は別に……」

 料理の腕に不自由が無いなのはは、遠慮しようとしていた。

「なのは、行って来いよ」

 週に一回の家族の時間。それを増やすチャンスを、わざわざ見逃す手は無い。

「……まぁ、秀人さんがそう言うなら」

 しぶしぶ言っているような振りをして、微妙に口角が上がっている。

 どんなに大人びていたとしても、なのははまだ9才の女の子だ。母親との時間が嬉しいのは、当然のことだろう。

「…………早く、プレシアさんに会えるといいわね」

「……うん」

 それからしばらく、桃子はフェイトを胸に抱いていた。

 

「……ああもう、湿っぽいのは無し! な―し!」

 ぶんぶん、と、大きく腕を振り、『湿っぽい空気』とやらをリセットする美由希。

 桃子の腕から離れたフェイト。その目は、微妙に赤くなっていた。

「へへへ…………ごめんごめん! なんでもなーい!」

 明るく振舞い、残った料理を平らげていった。

 

「それじゃ、食事も終わったし……そろそろ行くか」

 食べ終わった料理の皿を、流し台で手分けして洗った。

 次は……病院へ、なのはの父親の見舞いだ。

「そういや、病院までどうやって行くんだ?」

「車で行きましょう。9人乗りだから、ギリギリ乗れるわ」

「おっけ。なのは、荷物持ったか?」

「うん……」

 気の無い返事。どうやら、緊張して堅くなっているらしい。

 

 車庫から出てきたワゴン車に乗り込む。

 俺となのは、フェイトの三人は、真ん中のシートに並んで腰掛けた。

「でっけー車だな……」

「それはもう、うちの業務車両も兼ねてるから」

 キャラバン・スーパーロングを、慣れた手つきで操りながら、桃子が答えた。

俺も、18になったら取らないとな~……運転免許。あと、だいたい五ヶ月。

「…………」

 五ヵ月後に、免許だとか何とか、言っていられる状況であれば万々歳なんだけど。

 

 いつも、魔法の練習に使っていた高台とは、町を挟んで反対側。

 開発の手も殆ど入っていない、自然豊かと言えば聞こえは良いが、要は雑草が生えっぱなしの空き地が延々と続く、寂れた地域。

 その真ん中に、ヘリポートまでを備えた巨大な病院がデーンと居を構えているのは、滑稽でもある。

「はい、到着」

 ぞろぞろと、八人で車から降り、病院のロビーへ向かった。

「はい…………あら、高町さん」

 受付にいた看護師とは、顔見知りらしい。

「夫の見舞いに参りました」

「はい、それでは……」

 渡されたのは、病室の鍵。501と、刻印されている。

 エレベーターで5階まで移動し、501を目指す。間取り図を見た感じ、どうやらこのフロアは四部屋で贅沢にスペースを使っているようだ。

 

 途中、通りがかった502のドアの前に、今時の若者っぽい格好をしたねーちゃんが直立不動で立っていたので、全員で会釈をしながら歩いた。

 

 ベッドでは、人工呼吸器や、何に使うのかも分からないような管を通した男性が眠るように瞼を閉じていた。

「うわー……きょうやにそっくりだな、このひと」

「そりゃ、父親だからな」

「? ちちおやだと、似るの? ボク、おかーさんとあんまり見た目似てないけど」

「多分、フェイトは父親に似てるんじゃないか?」

「ふーん……」

 あまり普通じゃない産まれ方をしたフェイトには、理解し辛い内容だったらしい。

 

 

「じゃあ、ボクとひでとのあいだに子供ができたら、どっちに似るの?」

 

 

「ブッ……! ゲホッ、ゲホッ……!」

 いきなり、何を言い出すんだこいつは……!

「フェイト、変なこと言わないで!」

 なのはが、顔を羞恥で赤くして怒鳴った。

「え、ええ!? ボク、なにかへんなこと言った?」

 やっぱり、わかっていなかったらしい。

「言った! そんな、秀人さんとの……子供だなんて……!」

 ちらっ。

 目が合った。

「……!! と、とにかく!」

 あ、逸らした。

「そういう話、禁止! 禁止――――!!!!」

「なのは、ちょっと声大きいって……!」

 このフロアには、少なくとももう一組、見舞い客が……

 

――ぱたぱたぱた……!!

 

 ほーら、やっぱり……

 スリッパを鳴らして、501に足音が近づいてきていた。

しゃーない、とにかく、謝らないと。

 

――ばんっ!

 

「ちょっと! 静かにしてよ!!」

扉が開いて、さっきのねーちゃんが……………………あ?

「他の人も入院してるって言うのに…………非常識……だと………………………………………………」

 さーー…………っと、見る見るうちに血の気が引いて行く。

 

 その子は、散切りの髪をした……なのはと同い年くらいの、小さな女の子だった。

 

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