魔法少女リリカルなのはties 作:ハルハルharuharu
ドアを開け放った先……待ち受けていた面子に、その驚愕に、動きを固められてしまった。
「すまん……少し、はしゃぎすぎた」
目の前で頭を下げるのは、憎たらしい仇の代表格…………不死身の怪力野郎。
私の顔をブッたたいてくれたアホっぽい金髪赤眼や、ジェノザウラーみたいにビームをぶっ放す砲撃バカ。嫌らしい魔法でちくちく手間を取らせたガキに、犬女。砲撃バカの血縁者らしい奴らも、顔を揃えていた。
「…………」
私の素顔は、幸いにもこいつらにはバレていない。
速攻でリンカーコアを起動させ、ブラッディダガーでもゼロ距離でブチ込んでやれば、今の弱体化した私でも、一人くらいは仕留められる。
――殺るか? ここで……
狙うなら、リンカーコアを抜き、弱体化した砲撃バカだ。
『おやめください、主』
……リーゼか。ずっと念話を通じて、こちらの様子を伺っていたらしい。
『一人仕留めたとしても、残りの人数に押しつぶされてしまいます』
…………そう、だね。
何も、いまこの場でドンパチしてたら、美香に危険が及んでしまう。
だから、今は。
『リーゼ。一人残らず、顔を記録しろ』
『了解』
一人でも多く、敵の姿を記録して…………独りになったところを、個別に狩ってやる。
「……?」
怪力野郎が、怪訝な顔をする。
ここで怪しまれたらアウトだ。アクシデントとはいえ、私の顔も、相手方にばれてしまっている。なるべく自然を装って……
『主。全員の顔を記録しました』
よし。
「……それだけ。もう騒ぐんじゃないよ」
撤退だ。
去り際にもう一度振り返り…………
「……」
怪力野郎の顔を、目に焼き付けた。
――ぱたん
扉を閉める。
「高町……ね」
多くは無いけど、珍しくも無い苗字だった。
「主」
ネームプレートを見上げていたら、廊下の向こうからリーゼが歩いてきた。
「いったん戻るよ」
「はい」
行動は、夜からだ。
病室に戻ったんだけど……
「…………」「…………」
美香が窓の外に目を遣って、頑なに口を閉ざしている。
美穂さんはどう声を掛けるべきか、おろおろと狼狽していた。
……はぁ、言ったそばからこれか。
「美香」
「私、悪くないもん」
「美香」
「…………」
むすっと、より頑なに口を閉ざす。
「そう、話してくれないんだ。じゃ、バイバイ」
さくっと踵を返し、出口へすたすたと歩を進める。
「えっ…………」
後ろで、美香が振り返る気配がしたけど……聞き分けの無い子供のことなんて、知ったことじゃない。
「…………」
引き止めるような視線を無視して、いよいよドアに手を掛けた時……
「ごめんなさい! 謝るから帰らないでー!!」
「…………」
ベッドに歩いていき、
――ゴンッ!
「いぃったぁ……!!」
お仕置きの拳骨を、美香の頭にお見舞いした。
「ごめんなさい……」
涙目になる美香。
「謝る相手が違うだろ」
「うぅ……」
そして、バツが悪そうな顔で、美穂さんの方を向いた。
「……お姉ちゃん、ごめんなさい」
「……いいのよ。私も少し、言葉がきつかったわ」
……はぁ、全く、手がかかる。
「ほら、これでも食べな」
ぽいっと、ポケットの中からチョコ菓子を取り出して、美香に放る。
「ありがとー!」
「ちゃんと歯磨きするのよ?」
「はぁーい」
その後、リーゼを紹介したり、雑談に興じたり、差し入れ代わりの漫画をまわし読みしている間に、夕方になってしまった。
そろそろお暇することにしよう。
もう少しいてもよかったんだけど……
「すぅ……」
美香、寝ちゃったし。
美穂さんが玄関まで見送りに来てくれた。
「今日は、いろいろとありがとうね。八神さん」
「別に……大したことはしてませんよ」
単に、遊びに来ただけだし。
「それにしても、美香があんなに素直に話を聞くなんて……少し、妬けてしまうわ」
ふぅ……と、疲れたため息をつく。
でも、それは……
「逆じゃないかな?」
「え?」
「私は、美香のオトモダチ……突き詰めれば、ただの他人。他人には良いところだけを見せようとするし、無理してでも笑顔を作る。…………誰だって、友達には嫌われたく無いからね」
最近、友達がいたことの無い私に断言は出来ないけど、推測はできる。
「でも、美穂さんは『お姉ちゃん』でしょ? 好きだから……本当に嫌われることは無いってわかってるから、つい我侭を言っちゃうんだよ」
好きな人には、つい我侭を言って、甘えたくなってしまう。
私も両親に対してしたことがあるから、よくわかる。
「だから、本当の意味で信頼されて、慕われているのは美穂さん。これは間違いないから安心していいよ」
「…………八神さん」
「『はやて』でいい」
「はやてちゃん、本当に、ありがとうね……」
「…………」
そして、美穂さんは病院の中へ戻っていった。
「…………」
美穂さんの、去り際の笑顔が頭から離れない。
他意の無い、純粋な感謝を表す笑顔。
……世界を滅ぼす。
それが、私の最終的な目的。それに対して、躊躇いは無い。
美香は私の身内だから、生かす。
でも……美穂さんは? 美香のお兄さんは?
なんだろう。胸が、モヤモヤする。
「……ねぇ、リーゼ」
「はい、主。何でしょうか」
「…………」
「主?」
でも、そのモヤモヤを言葉にすることができなくて、黙り込む。
「……なんでもない」
……私は、どうしたいんだろう。
深夜。
「……」
私とリーゼは、また病院の中にいた。
病院とは言っても、病室ではなく、総合受付のカウンターの中だ。
理由は簡単。あの、高町とかいう男の住所を調べるため。
ぶぅん……と、パソコンが立ち上がる。
魔法は必要最小限…………監視カメラと警報システムに、リーゼが細工を施すのみ。
物理的に何かが無くなるわけでも、データが破損するわけでもない。ただ見て、もとに戻すだけ。これなら、誰にも気付かれない。
「んーっと……」
パソコンには疎い私だけど、フォルダからデータを閲覧する程度のことは可能だ。
こういう個人情報には、普通、パスワードが設定されているのが普通なんだけど……担当の職員がボンクラだったのか、面倒くさがっていたのか、自動でログインできた。
馬鹿は、身内以外に多ければ多いほど良い。
『入院患者』という、そのままなフォルダ名のフォルダを開く。
「あった」
あっさりと見つかった。
「それほど、離れていないな……」
住所をメモに取り、パソコンの電源を落とす。
魔法は便利だけど……こうした、アナログなやりかたを忘れさせられてしまうのが、欠点といえば欠点だ。個人情報はゲットしたことだし……帰るか。
さーて、帰ってから戦闘訓練だ。
「ほい、ほいっと……!」
スウェーで鉄球を回避し、すれ違い様に刃を入れる。
――カキンッ……!!
力でねじ込むのではなく、刃を、滑り込ませるように…………斬る!!
「せいやッ!!」
――キンッ!!
うん……この魔剣の扱いにも、大分慣れてきた。
今現在、私の魔力は、リーゼの言うランクにするとA。闇の書によるブースト抜きの常態がAAAだから、まずまずの回復だ。ダメージが抜けてきている。
最初のうちは避けるだけで精一杯だったこの訓練も、仕上げの段階に入っている。
「はい、ラスト!」
――キ、キィンッ!!
最後の鉄球が、上下左右に斬り裂かれた。
「見事です」
「ふん……ざっとこんなもんよ」
かしん……と、魔剣を鞘に収める。
「では、訓練を次のステップへ移しましょう」
「次って……?」
「…………主、御手を」
「? ……はい」
言われるままに、手を差し出す。それをリーゼが握り……
――ヴゥンッ……!!
展開する魔法陣。記述された術式は…………転移!?
「え、え!? ちょっと、リーゼ!?」
「お達者で」
文句を言うよりも早く、光が私を包み込み……
――バシュンッ!!
「う、わあああああああああああああああ!!?」
……ここではないどこかへ、転送された。
光の渦を抜けて、一瞬の停滞。そして。砂利の地面が、目の前に迫ってきていた。
「うおっとォ!?」
――ザンッ!!
……なんとか、足から着地に成功した。
「……なんだ、ここ」
見渡す限り、草原と荒野を半々にしたような、静かな風景が続いている。上空に浮かんだ二つの月が、その静けさに拍車を掛けていた。
時折吹く風が、草をさらさらと鳴らし……
――ガサッ
いや、違う。風じゃない!
「……」
魔剣を鞘から抜き放ち、正眼に構える。
――ガサガサガサッ……!!
二、三、四……まだ増える。
集中しろ。狙うのは……出足だ!
「グアアアアアアッッ!!」
「はぁッ!!」
身体を回転させ、背後に一閃!!
――ザンッ!!
「ギャフッ……!」
どうっ……と、目の前に墜落する。その姿は……
「犬……いや、狼?」
とにかく、イヌ科の肉食獣に酷似した姿だった。
「グルル……」「フウウウウ……」「グルゥ……」「ガルルルル……!」
草の影から、虎視眈々と、私を狙う。
そうか……訓練の次のステップは……!
「 「 ガアアアアアアアアアアアッ!!! 」 」
敵との、実戦!
「ぜあああッ!!」
――ザンッ、ザシュッ……!!
生きた肉を切り裂く、久々の感触。
だけど、殆ど自前の筋力だけでその行為を行うのは初めてだ。
鉄球と違って、繊維が複雑に絡み合った肉はゴムのように柔軟で、刃を通しづらいことこの上ない。
「ガウッ!!」
飛び掛ってきた二頭。うち一匹は、首を切断したが、もう一体はしとめ損ねた。
右前足を失いながらも、私の二の腕に喰らいついてきた!
――グチュッ……!
強化した握力で、その頭を握り潰す。
「ガアアアアアッ!!」
「っ……!」
ったく、リーゼの奴……!
「アアアアッ……ガヘッ……!」
――ボキッ……!
頚椎をヘシ折り、絶命させる。
まぁ……いっか。これはこれで、いい訓練だ!
――ズシン……!
と、岩場の影から、ひときわ大きな……体高3メートルに届こうかという程の、巨大な狼のような四足獣が姿を表した。
「グォルルルルル……!!」
いよいよ、親玉のお出ましか!
「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
「あははははっ……!!」
ああ、楽しい。ゾクゾクする!
「オオオオオオオオオオオオオオッ!!」
巨大な体躯からは想像もできないほどの俊敏さで、跳ぶ!
「うォああああああああああああああああッ!!!!」
魔剣に漆黒の魔力を纏わせ、突貫!!
――ッガギイイイインッ!!
魔剣と、巨大な乱杭歯が激突し、苛烈な戦闘音を響かせる!!
ぎり、ぎり、と。
巨体の質量が、徐々に私の魔剣を押し返して行く。
「ガウ……ガルルルルルル……ッ!!」
魔剣が軋みをあげる。ああ、良い。素晴らしい。
コイツ相手になら、解禁してもいいだろう!
「くひっ……! ひゃははははは……!!」
さぁ……お披露目と行こうか!!
「ロードカートリッジ!!」
魔剣の峰に据え付けられたスリットが開き、
――――ガキュンッ……!!
内蔵されていた機能を、解放した。
内部のカートリッジに充填されていた私の魔力が、魔剣の威力を倍増する!!
――ゴオオオオッ……!!
魔力は黒炎となり、魔剣に絡みつき……!
――バギイィンッ!!
「ウゴアアアアアアアアアアッ!!」
野獣の乱杭歯を、下顎と纏めて根こそぎ破壊した!
「オッ……ゴホッ……!!」
戦闘力を失った野獣が、背を向けて逃走を図る。
逃がすものか!
「死ねえエエエエエエエエエエエエッ!!」
斬撃波を発射し、敵の群れと、野獣の四足を切断する。
これで……とどめだ!
カートリッジに残った全魔力を乗せた、渾身の一撃!
「紫電……一閃ッ!!!」
――――……ガゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!
攻撃の余波で、草原が炎上する。
生き残った敵は、いない。
「はははははっ! どうだ、リーゼ!!」
リーゼからの返事は無い。
つまり、まだ終わっていない。
「……とりあえず、」
ぐるりと見渡す。
草原と、荒野の世界。さっきみたいな獣達が、弱肉強食の掟に従う世界。
「ここの頂点に、なってみるか」
本当、練習には丁度良い。
私は魔剣と、空になったカートリッジを手に、荒野を歩き始めた。